変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。 作:バウム
GW特別企画として前日譚を投稿します!
もしこの小説をこれから読み始める人がいましたらまずは本編の第01話をご覧になってから読むことをお勧めします。
第一話『新学期の出会い』
「『対象の型を明確に魔力でコピーしてその座標を複数に――』うーん……?」
あの変身ヒロインの姿を見てから1週間、すでに冬休みの宿題を片づけていた俺は机に張り付いて魔術書の解読を進めていた。
その結果、魔術を使うには魔力と触媒、あと場合によっては使うタイミングというか……条件がいるという事は分かった。
そして俺は適当にめくって一番触媒の用意が楽な『くらましの影』という魔術を使おうとしているのだが――
「……だめだ、全然分からん」
熱を出してきた脳を休ませようと、顔ごと魔術書から逸らして思考を強制的にシャットアウトする。
心機一転して改めて真面目にこの本を読もうとしたのはいいものの、心を入れ替えたからっていきなり頭がよくなったりはしない、よく分からない計算式はよく分からない計算式のままだった。
「明日から学校だし、どうすっかなぁ……」
ただでさえ独学では遅々として進まない魔術の勉強、そこに学校まで始まってしまっては、一体いつになれば魔術を取得できるのか皆目見当もつかない。
魔術を使う時の魔力の感覚とやらも全く掴めず、早くも限界を感じ始める。
「いっそ学校で魔術を習えればいいのになぁ……」
土台無理な話だと分かっていても、そう思わずにはいられない。
この魔術書を書いた奴が学校の先生だったらいいのに、なんて呟きながら明日に備えて布団に入るのだった。
☽~~~☽
「そういう事なら、ちょうどいい所があるよ」
「えっ!? あるんですか!?」
新学期当日、この日は集会と校長のあいさつ、そして一部の宿題の提出のみといった軽いスケジュールで終了し、俺は職員室で冗談っぽく担任の『
すると先生は掛けていた眼鏡を一度直すと、デスクから一つのファイルを取り出して中のプリントを一枚一枚捲っていった。
「えーっと、どれだったかな……確か部員を求めてて……あった、これだよ」
「どれどれ……」
棟方先生が差し出してきた一枚のプリントに目を通す、俺はてっきりどこかの大学とか図書館とか、大穴で怪しい新興宗教団体のチラシか何かだと思っていたのだが、そこに書かれていたのはもっと近所の――言ってしまえばこの学校の一部の事が書かれていた。
「『オカルト研究部』? ……こんな所ありましたっけ?」
「正確には、まだ『オカルト同好会』だね、部員足りてないから」
棟方先生の訂正を聞きつつ顔を上げると、彼はどこか疲れたような顔をしてオカルト研究部について語り始めた。
「君の同学年の子が設立しようとしてる部活なんだけどね……その子、成績はすごくいいんだけど学校には殆ど来ない……謂わば『不登校児』って奴でね、どうにかできないかと思ってたんだ」
「はぁ……それがこの部活とどんな関係が?」
部活の設立理由が見えない彼の語り口に俺はつい話の途中だというのに口を挟んでしまう。
しかし、棟方先生は特に気にした様子もなしに俺の疑問に答える形で引き続き喋った。
「学校に来る意思はあるが、なるべく教室やそこに続く廊下には行きたくないって話になってね……そこで、普段の生徒たちから離れた場所を部室とした部活の入部を提案したんだ、彼女なら『特例部活制度』を上手く使いこなせるだろうからね」
「『特例部活制度』ぉ? 何ですかそれ?」
今までの学校生活で聞いたことのない単語が出てきたため俺が再び疑問の声を上げると、棟方先生は一度俺を何故だかビックリしたような様子で見てきたが、次の瞬間には納得した面持ちで首を振った。
「そうか、処沢くんは帰宅部だったね……簡単に言うと、『部活と成績の両方で一定以上の結果を出す事』を条件に授業の大半の出席を免除できるって制度だよ」
「免っ……!?」
棟方先生の口から語られるその余りにも夢のような制度に、俺は言葉を詰まらせて唯々驚愕に慄くことしかできない。
しかし、そんなすごい制度の割には今まで名前を聞いた事が無かったのは何故だろう?
「そ、それはすごい制度ですね……でもそれを利用している人の話って聞いたことないんですけど……」
「そりゃそうだろう、なんたってこの制度の適用条件は運動系の部活なら『最低でもどこかの大会のTOP6に入る実績』、文系なら『最低でも地方の発表で賞を取る実績』ってことだし、勉強の方は『その学年の成績上位50位以内』であることなんだから……できる? 処沢くん」
「…………勉強だけなら、なんとか」
棟方先生からの問いかけに、俺は冷や汗を流しながら辛うじて口を開く、通常この学校は1クラス40人が5つ、つまり1学年200人である。
そこから50位となると、この特例部活制度は実に生徒の4分の1しか恩恵を受けることができない選ばれし制度だったのだ。
「話が逸れたね、それで学校公認の上で最低限の出席だけでもと相談したんだけどね、なんでも既に人がいるだろう部活は嫌だという事になって……それで、彼女自身に新しい部活を設立してもらうことになったんだ」
「それがこのオカルト研究部って訳ですか」
「そういう事だよ、オカルトはその子の趣味らしいし、実績を出すのも問題ないだろうってね……それで、紹介する代わりと言っちゃあ何なんだが――」
「入ります」
少し言いづらそうにする棟方先生に対し俺が即答すると、棟方先生はぽかんと口と目を開いて俺を見る。
しかし、元より何も打ち込めるものがなかったから帰宅部をしていただけだったのだ、魔術を学ぼうとしている今、これほど俺に相応しい部活はないだろう。
「いいのかい? いや、助かるんだけれども」
「全然いいっすよ! それより案内をお願いしてもいいですか?」
「ああ、うん、行こうか」
まだどこか腑に落ちないような表情をしつつも、棟方先生は席を立ち扉に向かう。
俺もそれに続いてまだ冷える1月の冷気漂う廊下を歩いて行った。
☽~~~☽
「着いたよ、ここがオカルト同好会の部室予定の場所さ」
「なんか、それっぽいと言いますか……ちょっと暗いですね」
「元々は理科準備室だったからねぇ……最低限の小さい窓しかないのさ」
普段生徒が出入りしないような校舎に移り、歩き続ける事5分、3階の隅の方にあるこの部屋は棟方先生の言う通り、実験で使う道具や薬品を安全に保管するため直射日光が入らない構造となっていた。
人間がここで過ごすのは少々暗すぎるとは思うが、棟方先生曰くここで件の生徒は過ごしているらしい。
「それじゃ、ちょっと話してくるから待っててね」
「あっ、はい」
「――山彦さん? 入るよー?」
俺を扉の隣に待機させた後、棟方先生はノックをして声を掛けてからゆっくりと扉を開き、自身が入ったところでまた閉じていく。
途端に訪れた静寂に、中の会話が聞こえてこないかとその場で聞き耳を立ててみるも、当然何も聞こえない。
……そうなると俄然、これから会う人が気になるというか、不安が押し寄せてきた。
「うーん……引きこもりって話だし、ヤンキーみたいな人ではないと思うけど……ちゃんと会話できる人かな、どうかな……」
そんな風に不安を口にしてこの静寂感を少しでも誤魔化していると、唐突にがらりと再び扉が開いた。
考え事をしていた最中に響いたその音は予想以上に大きく聞こえ、びっくりして口を噤んで反射的に姿勢を正す。
棟方先生はそんな俺を怪訝そうに見つめたが、瞬き数回の後に口を開いた。
「話はつけたよ、入っていいって」
「お、お邪魔します……」
さて、鬼が出るか蛇が出るか……意を決して暗い準備室に足を入れ、奥の机の明かりを逆光に一人の生徒が立っているのが見える。
その人物はツカツカと足音を立てて俺に近づいていき、遂にその素顔を――
「あなたが入部希望の処沢くんですね……私は『
「…………」
少しぼさぼさとしているものの、艶やかな髪に白い肌、銀の丸眼鏡の奥から伺える少し眠たげな灰色の瞳を持った人生一番の美少女が、俺を見ていた。
【生徒手帳】
刑二の通う高校の生徒手帳、メモ欄には魔術に関する研究の跡がある。
未熟ながらも魔術への確かな確信を持って書かれた内容は、一般人が魔術を知るきっかけとするには十分だろう。
魔術の探求は、皆未知への知覚から始まる。