変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第十一話『魔術協会を歩こう』

 「う……」

 

 眩しい、そんな感覚と共に俺の意識が浮上する……重たい目を開くと、そこは殆どが真っ白い部屋だった。

 天井、ベッド、床のことごとくが清潔感を感じさせる白、そしてベッドの傍にはチューブが垂れていて、視線を辿らせると何かの液体が入っていたであろうポリ袋が目に入る。

 これらの視覚情報で得られた情報を元に考えると、今、俺がいるのは――

 

 「……病院?」

 「いや、実は教会なのですよ」

 

 横から声がしたので驚いて振り返ってみると、そこには先程まで居なかったハズの男が俺を見下ろしていた。

 男は神父服を纏っており、やや明るい茶髪と堀の深い顔立ちから日本人ではない事が伺える、本来なら整った顔立ちと評せるのだろうが、しかし無精髭が頬から顎にかけて薄く生えており、目には何の光も映していない。

 

 「えっ! ……え!?」

 「フゥーッ……うん、意識ははっきりしているかな」

 

 加えて、目の下にはこれまた深いクマが出来ていたし、口にはなんと神父の格好をしておきながら咥えタバコまでかましているのだ。

 そのあまりに不審者全開で、威圧感さえ感じさせる容姿に戸惑っていると、先に男が口を開いた。

 

 「おはようございます」

 「あぁ、ええっと……おはようございます?」

 

 男の挨拶に辛うじて返事が出来たのは、前世の社会人生活で毎朝行っていた挨拶の習慣が出来ていたからだった。

 身に付いた習慣は生まれ変わっても中々消えないものなのである。

 俺の返事を受けた神父は半分閉じられていた瞼を僅かに上げると、少し意外そうな声音で話しかけて来た。

 

 「おや、返してくれるとは珍しい……肝が据わっているのか、それともまだよく分かっていないのか……」

 「あー、多分、後者……なんじゃないでしょうか? あの、どちら様でしょう……?」

 

 俺が戸惑いつつも続けて質問をすると、神父はしばらく目を瞬かせると、ゆったりと俺のベッドの傍にある椅子に腰を降ろした。

 すると、先程まで感じていた威圧感ははたと消え失せ、そこにはただの草臥れた様子の神父が焦点の合わない目で俺を見つめていた。

 

 「そうですね、『ブランチ』と呼んでください……本名はそうそう名乗れないので」

 「はぁ……ブランチさんですか……?」

 

 気になる言葉はあるものの、俺は目の前の男が名乗ってくれた名前と顔を一致させようと疲れ切っている男の顔をまじまじと見る。

 そして次に、まだ俺が自分の名前を伝えていない事に気が付き、ブランチさんに名乗り返そうと口を開いた。

 

 「えっと、俺は処――」

 「ストップです、ここではそう簡単に本名を名乗らないでください」

 

 俺の自己紹介を、やや強い口調で遮るブランチさん。

 その顔は先程と比べるとかなり真剣な目つきをしており、少なくとも本気で俺が本名を名乗ることに難色を示しているようだった。

 

 「えっと、なんでですか……?」

 「……ふむ、そうだとは思っていましたが、本当に何も知らないようですね」

 「えっと、何のことでしょうか……?」

 

 理由がわからず、それを目の前のブランチさんに尋ねるも、彼は何やら一人合点してぶつぶつと何事かを呟いている。

 そのまま何も言えないで気まずい思いをしていると、不意に彼は俺に視線を合わせてきた。

 

 「せっかくです、この辺りを歩きながら説明した方が実感できるでしょう……もう傷は殆ど治っていると思いますが、立てますか?」

 「えっ? ……あっ、はい、大丈夫です」

 

 彼に促されるまま起き上がってみるが、意識を失う直前に負っていたあの傷や疲労は殆ど残っていない――まだ腹回りには違和感が残っているが、痛みは無いし歩く分には問題ないだろう。

 そのままベッド横にあったスリッパに足を通すと、薄緑の服のまま歩き始める。

 そして俺が部屋の扉に手を掛けたところでブランチさんは思い出したかのように俺を呼び留めた。

 

 「あっ、外に出る前にこれをつけてください、安全のためです」

 「……えっ、何ですかこれ」

 

 手渡されたものはお面だった、それも手作り感満載のニコちゃんマークの。

 思わず戸惑っていると、彼はこの仮面の必要性を説明し始めながら俺の顔に押し付けてきた。

 

 「ここは魔術師が集う場所です……魔術や魔術師についてはご自身でもうご存知でしょうし説明は省きますが、魔術の中には名前や素顔を把握してれば相手に危害を加える事もできるものもあります……ですので、その防止策です、絶対につけてもらいますよ」

 「わっ、ちょっ、分かりました、つけます、つけますから――」

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 そこからは外を歩きながらこの場所――『魔術協会』について説明を受けていたが、俺の胸の内には感動が広がっていた。

 すれ違う人たちみんながブランチさんの言う通り各々の方法で顔を隠しており、辺りにはいかにもな怪しげな薬品、水晶、魔術書などが並んで売りに出されたりもしている。

 電気を使わない薄暗い雰囲気も相まって本当に秘密基地という感じがして初めて魔術を成功させた時の次くらいにはワクワクとした気持ちが渦巻いていた。

 

 「――ですので、我々は日々正体を隠して活動する必要が……って、聞いていますか?」

 「えっ、あっ! すみません、つい舞い上がって……! 聞き逃してました」

 「……ふむ、まあ、野良魔術師にとって集会所のような場所は確かに物珍しいですからね……」

 

 ブランチさんに向かって頭を下げると、彼は俺の態度に理解を示して寛大にも許してもらえた。

 いけないいけない……人がせっかく説明してくれているのに上の空では失礼だ。

 そう思って改めて、今度は話に集中できるようにブランチさんを見上げると、彼もまた極めて真剣な表情で俺に向かい合った。

 

 「いいでしょう、しかしこれから向かうのは尋問室です、そこではきちんと話を聞いていただきたい」

 「…………えっ、じ、尋問!?」

 

 しかし、彼の口から出た単語に思わずその場から後ずさってしまう。

 『尋問』、それは主に事件に対してアリバイとかの事情聴取などに使われる言葉だ。

 そして俺が尋問されるような事件はというと――

 

 「えーっと、尋問って、もしかして……」

 「お察しの通りです、あの悪魔の事ですよ」

 

 ブランチさんの肯定に俺はがっくりと肩を落とす。

 しかし、少し考えれば分かる事である、こうして『魔術協会』という形で魔術師同士で助け合って、社会を裏から支えていく組織ともなれば悪魔召喚なんてとんでもない事件だろう。

 実際、3人も犠牲者を出してしまっているのだ……あの時はひたすら気が動転していたが、改めてあれが自分の迂闊さが招いた結果だとすると、途端に全身が重たく感じる。

 ……あの3人の人生は、俺が奪ったも同然だ。

 

 「でもまあ、そこまで心配しないでください」

 「え?」

 

 そんな罪悪感に苛まれていると、ブランチさんは幾分か明るい声で俺に話しかけて来る。

 一体何故そこまで明るく振る舞えるのかと疑問を感じたが、その疑問は次の言葉で解消された。

 

 「あの悪魔による死傷者は0人、後遺症の残るけが人こそ出てしまいましたが……日常生活には支障は出ないでしょう、悪魔被害としては破格の低さです」

 「た、助かったんですか……!! よ、よかった……!」

 

 死んだわけではない。

 それは本当に文字通りの意味で、ひょっとしたらこれから生きていくにも辛い障害が残るかもしれない。

 それでも、俺はあの人たちを殺したわけではないのだと思うと、無責任にもほんの少し安堵の感情が生まれて来る。

 

 「そして、その状況はあなたの無謀……失礼、勇敢な行動によって成し遂げられたものです……間違ってもあなたが罪に問われることは無いでしょう」

 「そ、そうですか……」

 

 ちょっと棘のある一言だったが、ブランチさんは確かに俺を励まそうとしている。

 そう思うと、少しは前向きな気分になれる――

 

 「……いや、ちょっと待ってください」

 「何か」

 

 ブランチさんの言葉を反復し、その言葉に潜む違和感に気づいた俺はブランチさんの足を止める。

 彼は声音を平淡に戻して俺に振り返ると、その暗くて無機質な瞳をじっと向けて来た。

 そして、俺はその疑問を彼に向かって投げかける。

 

 「えっと、俺が罪に問われないって……それって、他に問われる誰かがいるんですか?」

 「…………」

 

 沈黙、しかしブランチさんは俺の質問に初めて一瞬だけ、しかし明確に渋い顔をして目を伏せる仕草をする。

 それだけで彼の質問に対する答えが分かった、分かってしまった。

 

 「そ、その人って、まさか……」

 「……やはり、お知り合いでしたか」

 

 だんだん震えて来る声でその人物を尋ねると、ブランチさんは一つ溜息を吐くと再び表情を無に戻して俺に告げた。

 

 「ええ、あなたと同じ学校の、もう一人の魔術師……彼女には、明日『召喚術による殺人未遂』で裁判にかけられます」

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