変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第十二話『魔女裁判を覆せ』

 翌日、思い思いの仮面や覆面を付けた人たちの集まる裁判所のような場所で、俺は証人席の一つに座りながら辺りを見回していた。

 裁判所、と言ってもニュースなどでよく見る木製の柵とかが多い場所ではなく、部屋の正面奥には目隠しをした天使が天秤と剣を掲げている石像があったり、かと思えば左の壁奥には顔を真っ赤にした閻魔様の像が置かれていたり、右の壁奥にはこれまた知らない神様が罪人を裁いている宗教画? らしきものが飾ってあったりして文化がごちゃ混ぜになっているような場所だった。

 

 『静粛に』

 

 そんな部屋で傍聴席の魔術師達がざわついていると、静かに、しかし確かにここにいる全員の耳に厳かな声音が響き渡り、全員がしんと静まり返る。

 そしてこの部屋で一番高い場所にある裁判官の席にはこれまた文化圏の違う服装を身に纏った男女3人の魔術師が座っていた。

 彼らも当然仮面を被っているのだが、共通して人の顔を模した石造の仮面で、しかも目の部分は布を巻きつけて隠しているという奇妙な特徴があった。

 

 「彼らが、この魔術協会を取りまとめる実質的なトップ……『審問会』の方々です」

 「……」

 

 俺の隣に座っている、ブランチさんがこっちに顔や視線を向けないまま教えてくれる。

 因みに、ブランチさんはこの協会内で素顔を晒している数少ない人物であり、理由は様々な宗派の壁を超えて中立的立場で魔術師達を支援するという立場上、正体を隠すことは好ましくないのだそうだ。

 

 ……いつもの俺なら、裁判所にいる事やそんなお偉いさんが出て来たことで緊張の一つもしそうなものだが、今は別の事で胸がいっぱいで、そしてとても重たかった。

 何故ならこの裁判は――

 

 『それでは、現時刻を以て悪魔召喚による殺人未遂事件への裁判を開始します――被告人、前へ』

 「……部長……っ!」

 

 ――山彦部長を裁くための裁判だったからだ。

 開いた扉から歩み出る、黒いローブと目だけがくり抜かれたずた袋を被せられて、突き出した両手に何かしらの文字が書かれている手錠を掛けられている彼女の姿を見た俺は、暗澹たる思いで歯を食いしばった。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 「さ、裁判って……どうしてですか、ブランチさん!?」

 「悪魔を召喚して人を襲わせたからです、当たり前でしょう?」

 

 昨日、尋問室で交わされたブランチさんとの会話を思い出す。

 誰もいない部屋で二人きりになった俺は事情聴取もそこそこに思わず大声をあげてブランチさんに詰め寄っていた。

 それに対し、ブランチさんはあくまでも冷静さを保ったまま俺の質問に答えていく。

 

 「襲わせたって……き、きっとあれは不幸な事故で」

 「そうだったとしても、己の力量を弁えない魔術の行使でなんの罪もない人を危険に晒したのですから、やはり罪に問われるでしょう」

 

 俺の苦し紛れの反論にも、ブランチさんは淡々と俺の詭弁を切り捨てていく。

 俺はそれに対しまだ何か言えないかと口をしばらく開閉させていたが、やがて出て来る言葉が見つからないと分かると、力なく机に項垂れた。

 

 「……彼女は、どうなっちゃうんですか」

 「これまでも悪質な野良魔術師が裁判にかけられたケースはありました……が、殆どが記憶処理と封印措置で魔術を使えなくした上で、一般人に戻すなどの軽い処罰で済みました」

 

 ブランチさんのその言葉に、しかし俺は全く喜べない事に気が付く、何故ならその言葉を語るブランチさんの顔と声音は、まだ続きがある事を雄弁と物語っていたからだ。

 

 「しかし……今回、彼女は悪魔を召喚してしまった、対応を誤れば町一つが滅びかねない存在を誘致したのです、この罪はとても重い」

 

 悪魔、奴が行ったであろう3人の女子生徒の惨状を思い出して、胃の中が掻き回されるような錯覚を覚える。

 ここで改めて聞いた話によると、彼女たちはそれぞれ顔に大きな傷跡が残り、胸は削ぎ落され、永遠に子供ができない身体になってしまったらしい。

 

 「……くっ」

 

 あの凄惨な光景を、町一つに広めかねない存在……確かに、故意でも過失でも、そんな存在を呼び出して被害者を出してしまったのなら、罪を問われることには十分理解できる。

 

 「あなたの活躍もあって、恐らく死刑は免れるでしょう……しかし魔術師としての歴も浅いのに、悪魔召喚を成功させることができたほどの天才です、そんな相手に生温い処置はできない」

 

 これも理解できる……だが、俺の心にはずっとしこりのような物が残り続けていて、ブランチさんの言葉を素直に飲み込めずにいた。

 そんな複雑な胸中で話を聞いていると、遂にブランチさんは山彦部長に下されるであろう処罰に言及する。

 

 「最悪、封印措置で一生魔術を使えなくした上で地下施設に収容、死ぬまで監禁されるという事もあり得ます……有体に言えば、終身刑ですね」

 「…………終身、刑?」

 

 終身刑――つまり、彼女は裁判の結果次第ではこれからの人生を、一生地下で暮らすことになると、ブランチさんは言ったのだ。

 共に魔術の研究をして、楽しく過ごして、時には笑顔を見せてくれた彼女が、全ての自由を無くして日の差さぬ場所に追いやられる。

 

 その事を正しく理解した俺は、きっと顔を青ざめさせながら再び机に手をついて立ち上がり、ブランチさんに縋るように食いついた。

 

 「どうにか……どうにかならないんですか!?」

 「……どうにかする必要があるのですか?」

 「えっ……」

 

 震える声で質問する俺に対し、ブランチさんは目を細めて呆れた者を見るような目で俺を見ている。

 一方で、俺は言われたことの意味が理解できずに狼狽えていた。

 

 「な、何を、言って……」

 「話を聞いている限り、あなたはこの件に対して責任を感じているようですが……ハッキリ言って、的外れな考えと言えます」

 

 ブランチさんはまるで物分かりの悪い生徒に勉強を教える教師のように人差し指を立てると、順序立てて話し始めた。

 何処までも淡々と話すその姿は、俺に不気味さを抱かせるのに十分な雰囲気を伴っていた。

 

 「第一に、魔術の研究をする事自体は罪ではありませんし、他者に著しい損害を与えなければ魔術の行使も基本的には個人の自由です……つまり、この一件の責任は全て自由意志の元に悪魔召喚を行った魔術者にあります」

 「で、でも、彼女が魔術を学んだきっかけは、俺が魔術書を持ち込んだからで……」

 「……何故そこまでして彼女を助けたいのですか?」

 

 何とか山彦部長を擁護できないかと必死に口を動かしていると、唐突にブランチさんはそんな事を聞いてきた。

 

 ――こうして聞かれてみると、具体的な言葉が出てこなくなる。

 事件が起こる前の俺なら胸を張って彼女に希望を見せたいだとか、一緒に魔術を研究した仲間だとか言っていただろう。

 しかし、こうして彼女が人を傷つけてしまったという事態に直面した今、その一言が喉から出てこなかった。

 

 「それは――」

 「……いえ、今のは踏み込み過ぎました、忘れてください」

 

 答えに窮していると、ブランチさんは先程までの不気味な雰囲気を引っ込めて俺に手を出して何も言わなくてもいいとアピールする。

 そうして一旦場の空気が緩み、そこで身体中の疲労に気づいて椅子に座った俺を見て、彼は何かを考えるように顎に手を当てて軽く擦っていた。

 すると、ブランチさんの口から思いもよらぬ言葉が飛び出してくる。

 

 「…………実を言えば、彼女の罰を軽減する方法ならあります」

 「っ!! 本当ですか!?」

 「ただし」

 

 ブランチさんは俺の言葉を遮ると、その陰の差した瞳で俺を見据えてくる、どことなく感じる圧力にごくりと唾を飲むと、彼は強めな口調で確認を始めた。

 まず、と彼は一つ、人差し指を立てる。

 

 「この方法は、所謂茨の道です……やらなければいけない事の困難さだけではなく、ひょっとしたら不当な評価や扱いを受けるかもしれません……それでもやりますか?」

 「やります」

 

 困難なら悪魔を倒した時点で今更だし、扱いに関しても周囲から嫌われる事くらい、山彦部長を失う事に比べたら安いものである。

 そんな気持ちで即答すると、ブランチさんは人差し指に続いて中指を立てる。

 

 「……この一件に関して言えばあなたはむしろ英雄です、もし魔術師の道を歩むというなら、このまま黙っているだけで人も、物も、教えも、全てが多大な恩恵を受けることができるでしょう……それでもやりますか?」

 「やります!」

 

 確かにそれは魅力的に感じる、俺は魔術を求めた理由通りにもっと強くなれるかもしれないし、まだ見ぬ美少女と仲良くなれる未来だってあるかも知れない。

 だけど、そのために山彦部長を見捨てるなんて選択はまっぴらごめんだった。

 そんな気持ちで即答すると、ブランチさんは最後に薬指を立てた。

 

 「…………もし、これで彼女を助けられたとしても、それが良い結果だとは限りません、また同じ……いや、もっと取り返しのつかない過ちを犯して最悪の結末を迎えるかもしれません……それでもやるのですね?」

 「……やります!!」

 

 これは、少しだけ悩んだ。

 理由はまだ分からないが、山彦部長は悪魔を召喚したという前例が出来てしまった以上、ひょっとしたらまた何かしでかすかもしれない。

 けれど、俺と一緒に魔術の研究をしてくれていたあの時を思い出すと……あの人は、決して悪人なんかじゃないと、そう信じたい。

 

 「………………分かりました」

 

 長い沈黙の後、ブランチさんはため息をつくと俺から目を離した。

 そして持っていた鞄から一つのファイルを取り出すと、一枚の紙を取り出して机に広げる。

 

 「本来はかなりよろしくない事なのですが……未来の有望な人材のためです、少し、悪い事をしましょうか」

 

 そうしてブランチさんは、山彦部長を救い出すためのプランを話し始めた。

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