変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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本編
第01話「ヒーロー誕生!? その名はコルウス」


 この俺、『処沢刑二(ところざわ けいじ)』が転生したこの世界に抱いた感想は『拍子抜け』だった。

 なんせ、前世と変わったところなんてなーんにも無かったのだ、時代も同じ、生まれた国も文化も同じ、新鮮味なんてあったもんじゃなかった。

 これでは肉体を変えただけのタイムスリップだと嘆くも、身の危険がなく、馴染んだ場所に生まれられたのはそれはそれでいいことだと思い直し、今世では勉強にスポーツでも前世よりはちょっと頑張ろうかなと切り替えた。

 その結果、地元じゃそこそこ名の知れた高校に進学し、前世よりもまあまあ頑張った結果成績は上位30名に入ったり入らなかったりと、平均以上な成果を二学期通して残しそれなりの満足感を覚え始めていた頃。

 

 「『エスキュート・シルバー・スラッシュ』!」

 「グワアアアア!!」

 

 俺は、ようやく望んだ非日常と出会った。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 「マジやっべマジやっべマジやっべぇよ!」

 

 先程の学校からの帰り道で見た光景が忘れられない、銀色のドレスのような衣装を着た中学生程の女の子が黒くて手が大きく、爪の鋭い魔物みたいなやつをこれまたカッコいい細身の剣で切り裂いたのだ。

 これまでの現実ではありえない現象、大きな物音に釣られて寄り道してよかったと心から思う、あの光景はかつて転生したてだった俺の期待に満ちた冒険心を再燃させるのに十分だった。

 

 「今日からは、今回こそは……真面目に、やってみるか……!!」

 

 なんせ、望んだものは手に入ると分かったのだ、もうダラダラ生きている理由なんてない、きっと俺の人生これからなのだ。

 強大な力を手に入れ、それで心行くまで好奇心を満たして、美少女たちとのロマンスだって俺の努力次第で手に入るに違いない。

 心機一転、人生で今一番情熱を燃やしながら俺は飽きて本棚の肥やしにしていたある一つの本を取り出す。

 

 「勉強を!」

 

 それは、超常現象を起こす際に必要な素材や刻むべき刻印や魔法陣、唱えるべき呪文の数々が記され、何故かよく分からない数式まで記載している奇妙な『魔術の教科書』と記された辞書のような厚さの本だった。

 最初にこの本を読んだときはまた勉強かとうんざりして早々に放り投げてしまったが、今の情熱なら解読できるはず。

 

 そうだ、身体ももっともっと鍛えなくては、とこの日から俺は習慣でやってるフィットネスゲームの難易度を最高に引き上げた。

 それから、装備を作ったり買ったり事件に巻き込まれたりして色々やっている内にあっという間に3ヶ月後――。

 

 

 ☀~~☀

 

 

 わたし、『赤沢(あかざわ)すもも』! 元気が取り柄の中学1年生!

 新しい学校生活にドキドキしていると空からやってきた妖精の『プイプイ』に出会って『エスキュート・フラム』になっちゃった!

 そこで高校の先輩で、『エスキュート・シルバー』の『宙銀(そらがね)ひとみ』さんから『ワルジャーン帝国』がプイプイの妖精界を侵略して次は地球が狙われてるのを聞いちゃった!

 わたしは中学生としての生活を送りつつ、二人目のエスキュートとして世界を守るための闘いに身を投じるのであった!

 

 「はひぃ~……」

 『フラム、だいじょうぶっプイ?』

 「ううん、チョット疲れちゃっただけだから、ヘーキヘーキ!」

 

 ……とは言っても、実際にエスキュートとしての生活はとっても大変だった。

 ワルジャーン達はいつでもどこでもお構いなしにやって来る、今だって大好きな体育の時間なのにサッカーボールにダークエナジーを注入されて『ボガスカン』にして大暴れさせたせいで授業が台無しだ。

 必殺技で何とか倒したものの、グラウンドも体育館の壁もひび割れてボロボロ……燃えている芝生はわたしのせいだけど。

 

 「フラム!? 無事!?」

 「あっ! ひと――シルバー先輩!」

 『シルバー、遅いっプイ!』

 

 膝に手をついて呼吸を整えていると、既に白銀のドレスに身を包み、つばの長い帽子で目元を隠しているシルバー先輩――変身中に本名を言うのはタブーみたい――がこっちに駆け寄って来る。

 よっぽど急いで来てくれたのだろう、顎先には汗が伝っては地面に落ちて土の色を濃くさせていた。

 

 「……ごめんなさい、あなた一人に任せてしまったみたいね」

 「だいじょーブイっ! ですよ先輩! これぐらいでへばっちゃったりしませんから!」

 『でもフラム、もうへとへとっプイ、はやく休むっプイ!』

 「そうね、ここの修復は私がやっておくわ、フラムは早く戻って――」

 

 そんな会話をしていると突如、何かが私たちのすぐ傍に何かが落下してきて派手な音と共に土煙が立ち込める。

 思わず腕で目を庇いせき込んでいると、風の音に混じって誰かの声が聞こえてきた。

 

 『シャーッハッハッハ! そうは問屋が卸さないでスよ!』

 「この声は……!!」

 

 次に、重低音が辺りに響いてそれが頭上に上がってくる。

 それに合わせて顔を上げてみると、UFOのような乗り物に乗った……ヘビ? なのかな? そんな頭をしてモノクルをかけた人物が変な笑い声を上げていた。

 

 「厄介なエスキュートが二人揃っているんでス……ここで倒させてもらうでスよー!」

 『プイィ~~~!? スカムっプイ~~!?』

 「くっ……!」

 

 プイプイとシルバー先輩は彼を知っているらしく、プイプイは驚きと恐怖に名前を叫び、シルバー先輩は歯嚙みして目の前のヘビ人間を睨みつける。

 訳が分からなかったわたしは、とりあえず話が出来そうなシルバー先輩に尋ねてみた。

 

 「あの人、誰なんです!? スカムって言ってましたけど!?」

 「ワルジャーン帝国の幹部の一人よ! 帝国随一の科学者で『ボガスカン』を作ったのも彼!」

 「えええ~~~!?」

 

 ボガスカン、ダークエナジーが取りつくことで生まれるとんでもない怪物、そんなものを作った敵が目の前にいるなんて……!

 わたしにもようやくこの状況のヤバさが分かったところでスカムは何やら試験管のようなものを取り出した……って!?

 

 「ダークエナジー!?」

 『正解! でもただのダークエナジーじゃないでスよ! さっき君が戦ったボガスカンに入れたエナジーの特濃版……3倍くらいには濃縮されてるでス!』

 「3倍~~!?」

 『プイィ~~!?』

 

 わたしとプイプイが同時に驚きの声を上げる。

 だってさっきの敵だって頑張ってようやく倒せたのだ、それの3倍なんて想像もつかない!

 

 「させない!」

 

 すぐさまシルバー先輩が抜剣してスカムのUFOに飛びかかる……だけど、先輩のレイピアはUFOが展開したバリアに弾かれ、そのまま吹き飛ばしてしまった。

 

 「ああっ!」

 「先輩っ!!」

 

 地面に叩きつけられた先輩に堪らず駆け寄り、彼女の身体を起こす。

 幸い大きなケガはしてないみたいだけど、先輩は深刻な顔で前を見ていた。

 

 「フラム、構えて……来るわ!」

 

 立ち上がった先輩と一緒に拳を構えるのと、土煙を吹き飛ばす程の声で叫ぶ炎の怪人――『上級ボガスカン』が姿を現すのはほぼ同時だった。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 今年入って来た後輩の中でも一番カワイイ白髪の娘が何やらただ事ではない様子でお隣の中学校に向かっていくのを見て、オカルト絡みかと後を追ってみて正解だった。

 

 「うおっ、すっげ……」

 

 俺はイフリートもかくやというような迫力で少女たちと戦う炎の魔人を見て思わず震えていた。

 恐怖? いいや違う、これはきっと武者震いだ。

 

 「やーっと転生主人公みたいな活躍ができるぜ……!」

 

 なんせ、せっかく装備を整えて魔術を習得できてもこの3ヶ月間でやったことは最初の事件を除けば雑魚狩りとか、山とか森、祠に術式書きに行ったりとか地味ーっな仕事ばっかりだったからだ。

 増えた関わりも男連中ばっかりだし、ハーレムどころかヒロインのヒの字も……いやまぁ、ないことはないが……だが、そんな日々も今日でお終いだ。

 

 「さて、いっちょうやったりますか!」

 

 見たところ彼女たちはあの魔人に有効打を与えられていない、早く助けに行かないと不味いだろう。

 俺はあの戦いに乱入するため、予め術を仕込んでおいた木の枝の一つを折った。

 

 

 ☀~~☀

 

 

 「きゃあああっ!?」

 「フラム!!」

 

 敵の炎に吹き飛ばされたフラムに私は声を上げて振り返る。

 変身によって纏った赤いドレスとピンク色の髪はすっかりボロボロになっていて、今も地面に横たわって苦しそうな呻き声を上げている。

 無理もない、元々彼女は先程の戦いで体力を消耗し切っていたのだ、それに加えてこの『上級ボガスカン』と言うべき強敵……私たちが劣勢に追い込まれるのはあっという間だった。

 

 『シャーッハッハッハ!! 赤い方は大したことないでスね! まぁ元々対シルバー用に用意したエナジー! 無理もないでス!』

 「スカムぅ……!」

 

 スカムの言葉に頭に血が上るのを感じたが、状況は一向に好転しない。

 ヤツが言っていた通りの力を持つ魔人は私の剣撃を受けてもほとんど効いておらず、逆に魔人の放つ炎は私にどんどんダメージを与えていった。

 

 「くぅっ!」

 『シャハッ! ここまででスね、シルバー!』

 

 そしてとうとう魔人の振るった爪が私のレイピアを弾き、手を離れた剣先が地面に深々と突き刺さる。

 痺れた腕を庇って蹲る私に魔人の影が覆いかぶさった。

 

 『安心スるでス! お前たちのカラダは我が研究に大いに役立ててあげまス! ……やれいっ!』

 「先、輩……っ!」

 

 スカムの声に呼応して、魔人が咆哮を上げながらその腕を大きく振りかぶる、フラムがこちらに手を伸ばすがその手が届くことも、もう私が掴んであげることもできない。

 不甲斐ない自分に申し訳なく思いながら、あの爪が私の身体を引き裂くところを想像して、目を瞑ってその時を待った。

 しかし、ドカカッと鋭く重い音が響いてもやってくるはずの痛みが一向に来ない。

 その事を不思議に思った私は目を開けると、魔人と私の間に複数の黒い棒のようなものが突き刺さって地面に罅を作っていた。

 

 『なっ……なっ……!?』

 「『くらましの影』」

 

 その様子に絶句するスカムの後ろから別の男の人の声がすると、突如として刺さった棒を中心に私たちの周りに大量の黒い羽根が舞い落ち、視界が塗りつぶされる。

 この羽根は……カラスの羽根だろうか?

 

 「『引き寄せ』」

 

 羽根が落ち切って視界が開けた頃、私は魔人の目の前ではなくフラムのすぐ傍に蹲っていた。

 そして、目の前には嘴のように鼻筋から顎先までが突き出た、不気味なマスクが私を見下ろしている。 

 

 「あなたは……?」

 「…………」

 

 私の問いかけにマスクの人物は答えず、ただ立ち上がって私に背を向けて魔人と対峙した。

 そこで初めて私はマスクの人の全身が目に入った。

 マスクの上にはシルクハットがかぶせられていて、肩にかけている布は背の半ばまで伸び、まるでマントのようにはためいている。

 その下に着ている、これまた真っ黒なトレンチコートにはいくつもの瓶や結晶、ポーチのようなものがついており、大量の小道具を持ち歩いている事が伺えた。

 

 「ぷ、プイプイ、あの人もエスキュートなの?」

 『い、いや……あんな人知らないっプイ』

 

 妖精であるプイプイも知らないとなると、少なくともワルジャーン帝国の手先ではなさそうだけど……それでも、あの人物から感じられる異様に暗いオーラは私の血を凍らせる錯覚さえ生み、僅かな恐怖を振り払えずにはいられなかった。

 

 『……お前、何者でスか!? 何しにきたんでスか!?』

 

 それをスカムも感じ取っていたのだろう、動揺を隠せない様子でマスクの人に指さすと唾を飛ばす勢いで捲し立てる。

 それに対してあの人はスカムを見上げて小さく、しかし確かにこの場にいる全員に聞こえる声で告げた。

 

 「……魔術師コルウス、人を襲う怪物を倒しに」

 




TIPS

【魔術師】

 ここでは現代の科学で説明・再現できない事象や奇跡を、その伝承を再現することによって扱う者を指す。
 そのため、地域では聖職者や呪術師と呼ばれる者も広義的にはこの魔術師に含まれる。
 基本的に魔術師の扱う魔術は条件さえ揃えばだれでも扱えるものが殆ど。
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