変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第03話「その鉄を練り上げる者」

 俺、処沢刑二! 普通の転生者改め、現在魔術師を名乗っている。

 

 先日は準備と鍛錬、そして勉強の成果として相応しい華々しい戦果を挙げたのだが、女の子から怖がられたことと、到着してしまった町外れの金属加工工場を前にちょっと落ち込んでいた。

 そう、俺が戦闘で使用した数々の道具は決して俺が一人で準備できたわけではない、学生がナイフ作ったりできるわけないし。

 

 超常現象の介する界隈にも人の営みはあるようで、俺もその一員となる事で一端の魔術師として行動できるのである。

 つまり、その、溶かしたナイフの製造者にその事を伝えて代わりを受け取らなきゃいけないのだが……正直、気が重い。

 

 「はぁ!? 溶かしたァ!?」

 「はい……」

 「はいって、おまっ、作ったばっかだぞ!?」

 「はい……すみません」

 

 案の定、製造者である鉄仮面を被った筋骨隆々で白ひげを蓄えた親父――俺はおやっさんと呼んでいる――はわずかに見える額に青筋を立てながら俺に問い詰めた。

 そりゃそうだ、出来た時のおやっさんすごくいい笑顔で『なかなかいい出来だ!』って言ってたし、それをあっさり溶かしましたなんて伝えられたら俺だってびっくりする。

 

 「はぁ……で、今度は何相手したんだよ? 神殺しでもやったのか?」

 「いやぁ、あいつですよおやっさん、ホラ、最近『伝承不明』の怪物が出てたでしょう? その内の一つと」

 「あのよそ者か……そこまで強いたぁ、いよいよ厄介事の匂いがしてきたな……」

 

 因みに、『伝承不明』というのは文字通り元の神話や逸話がどれか分からないモンスター全般の事である。

 基本的に人間より格段に強い化け物*1たちに対抗するため、俺みたいな魔物退治をする奴らは相手の弱点を調べてそこを突いて殺るのだが、その伝承が分からない相手となると話が変わってくる。

 

 伝承不明の相手は大きく分けて3つ、1つ目は単純に生まれたばかりで伝承がないタイプ。

 こいつは普通にめっちゃ弱いので問題ない、そして2つ目は伝わっていた伝承が全て失われたタイプ。

 これもまあ、伝承が失われた影響で元の権能や能力を失うのでフィジカル面にだけ気をつければ対処が楽。

 

 「……忙しくなりそうだな」

 「あの『エスキュート』って娘が味方っぽいからずっとマシですよ、きっと」

 

 そして最後が外国や異界にしか伝承がないタイプ、これが一番厄介だ。

 こちらが情報を入手できないだけで奴らは普通に伝承通りの力を振るってくるので対処法が確立するまでどうしても人が犠牲になりやすい。

 

 しかもせっかく見つけた対処法も色んな理由で再現不可能だったりする場合もあるから最終的に隔離して放置なんてのもある、クソである。

 

 「分かってると思うが、気をつけろよ」

 「……もちろんですよ、おやっさん」

 

 俺がこの業界に身を置いている3ヶ月間の間にもこのタイプの怪物が来て4人が蘇生不可能なまでに死んだ。

 しかも、その内の2人はおやっさんの知り合いで、残りの内の1人はまだ業界に入って1ヶ月ちょっとの大学生だったらしい。

 

 そんな感じでポンポン人が死ぬから、俺みたいな高校生でもこの業界に関われたりするんだけど……やっぱり聞いていて気分のいいものではない。

 

 「えーっと、そうだ! メンテに出してた剣、どうですか?」

 「……ああ、それなら奥の56番だ」

 

 場の空気を変えようと俺はおやっさんに代わりの武器の場所を聞く、すると彼は目で工場の奥を指しながら番号札の付いた鍵を渡してきた。

 それを受け取り、奥の壁一面に並んでいる番号から自分のものを見つけると、鍵を開けて取っ手を引く。

 

 「さっすがおやっさん、自分じゃこうはできませんよ」

 「あったり前だ! お前にもできる程度の腕ならこれで食えるか」

 

 俺の讃辞にもおやっさんは当然のように受け止め、腕を組んで顎でロッカーを指す、どうやらさっさと取れという事らしい。

 少し急いで武器の柄を掴むとロッカーから取り出し、鍵を閉めなおしておやっさんに返した。

 

 「おぉー……!」

 

 そして俺は自分の武器である幅の広い剣――ブロードソードと呼ばれるそれを掲げて眺める。

 磨きたての銀色の剣身はこちらの顔を反射し、切っ先は天井の明かりを反射して小さな輝きを放っていた。

 これならよく切れそうだと満足する反面、俺はこの剣のある一つの変化に気が付いた。

 

 「あれ? 形変わってません? 先が細いような……」

 「ああ、お前、剣先には付与魔術(エンチャント)を刻まねえだろ? だから根本は太く、剣先は細くで振りやすいようにしてある……質量は変わってねえから安心しろ」

 「なるほど、ありがとうございます」

 

 メンテナンスを頼んで武器の形を勝手に変えられるのは普通なら困り者だが、おやっさん程の人なら安心できるという確信が俺にはあった。

 というより、元々金に困っていた最初の時に買った量産品の中古だし、愛着はあれどダメにして極端に困る代物でもない。

 俺は剣に木の葉を乗せ変化術の詠唱を行う、すると剣はボフンと煙を出して手のひらに収まるほどの小さな枝になった。

 

 「相変わらず便利だな、それ」

 「でしょう?」

 

 そんなやり取りの後、再び受付に戻った俺たちは研磨剤や割った盾の注文に魔人の爪の加工依頼を行った後、代金を払って工場を立ち去っていく。

 この時、いつも最後に交わす挨拶は俺たちのような者にとってはとても大事なものとなっている。

 

 「またな、コルウス」

 「ええ、おやっさんも」

 

 この挨拶に魔術的な意味はない、本当にただの願掛けである。

 しかし危険に身を置く俺たちはこの挨拶が本当に叶う事を願って、今日もどこかで戦うのだ。

 

 「……ガキの死体なんぞ、見たくねぇからな、オレは」

 「ははは、マスク越しに何を言いますか」

 

 それが例え、互いに正体を知らぬ魔術師同士だったとしてもだ。

 ま! 俺はチートでハーレム築く予定だから心配無用だけどな! ……なんてね。

 ……そうだ、最近近くで水族館が開いたらしいし、将来のデートスポットの下見がてら行ってみようっと。

 ひょっとしたら、『彼女』も気に入るかも分らんし。

 

 

 ☀~~☀

 

 

 「す、すっごいねすももちゃん……! 綺麗……!」

 「うんっ! あっ! あそこにたくさんお魚いるよ、すいなちゃん!」

 

 わたし、赤沢すもも! 今日はパパとママ、そして幼馴染のすいなちゃんと一緒に水族館に遊びに来たの。

 おとといからここに来る約束をしてたから今日がすっごく楽しみ! イルカショーも見たいし、ペンギンさんも触りたい。

 普段は大人しいすいなちゃんも目をキラキラさせて周りを見ていた。

 

 『プイ~、地球のお魚もカラフルで綺麗だっプイ!』

 

 プイプイもわたしのカバンから顔を出して魚を見た感想をときめきがこもったような声で言う。

 最初はプイプイがついてきて騒ぎにならないか心配だったけど、彼女の言う通り普段は普通の人にはプイプイの声も姿も分からないみたい。

 これならプイプイも水族館を楽しめる……って思ってたら、すいなちゃんが途端にきょろきょろし始めた。

 

 「すいなちゃん、どうしたの?」

 「な、なにか今ヘンな声がしなかったかな? 下の方から……?」

 「えっ!?」

 『プイっ!?』

 「あっ! またしたよ! えーっと、すももちゃんの方かな?」

 

 そう言ってこっちを見ようとするすいなちゃんから慌ててプイプイを押し込めて姿を隠す。

 声が聞こえるという事は、プイプイの姿が見えるという事、すいなちゃんが大騒ぎするとは思えないけどプイプイをどう思うかが分からない……!

 

 「すももちゃん? カバンごそごそしてどうしたの?」

 「あえっ!? いやあ、ちょっとスマホしまおっかななんて……アハハ……」

 

 咄嗟に誤魔化したけどすいなちゃん、どう思ってるかな……うう、こっちをじっと見てきょとんとしてるけど……。

 そうしてすいなちゃんはしばらく瞬きをしてたけど、次ににっこり笑って自分のポケットからスマホを取り出し、持っていたバッグに入れた。

 

 「そっか、濡れちゃうと大変だもんね!」

 

 よかったああぁ~~……誤魔化せたぁ~……

 でも、どうしてだろう? 確かに他の人にはプイプイの声は聞こえてなかったはず……

 

 『……キュートっプイ』

 「へ……?」

 

 カバンの中のプイプイが震える声で何かを言う。

 それを上手く聞き取れなかったわたしがこっそりカバンに耳を寄せてもう一度聞き返そうとしたとき、プイプイがカバンからバッと飛び出して大声ですいなちゃんに告げた。

 

 『この娘、エスキュートっプイ~~!!』

 「「えええ~~~!?」」

 

 わたしはプイプイが言った内容に驚き、そしてすいなちゃんは突然飛び出てきたプイプイの存在に目が飛び出そうなくらいにビックリしていた。

 

 

 ☀~~☀

 

 

 あの後、大声出しちゃったこととエスキュートの事を説明するためにとりあえずすいなちゃんを人のいない場所まで連れて行った後、これまでのことを話した。

 

 プイプイはお隣の高校の先輩ことひとみ先輩と一緒に妖精界からワルジャーン帝国に追われて来た事、地球にいるはずの5人のエスキュートを探しに来た事。

 ……そして私がそのエスキュートの一人であること。

 

 「……そ、そうだったんだ……」

 「うん、ごめんね、今まで黙ってて……」

 

 どこかぼんやりとわたしの話を聞いていたすいなちゃんに手を合わせて頭を下げる。

 するとすいなちゃんは大慌てで両手を振って我に帰った。

 

 「い、いやいや! 確かに話せないよ、こんなこと……うん、すももちゃんは悪くない!」

 「す、すいなちゃん……!」

 「ほらっ、おじさんとおばさんも心配しちゃうし、イルカショー見に行こっ? もうすぐ始まるよ!」

 

 目の前の優しい、自慢の親友はそう言ってわたしの手を引いてイルカショーをやっているエリアまで引っ張ってくれる。

 いつもはわたしが引っ張るからちょっぴり新鮮だ。

 

 『エスキュートみつかったっプイ〜!』

 「えっへへ……そんな、アニメのヒロインみたいになれるかな……?」

 

 そう言って新しい仲間を見つけて無邪気に喜ぶプイプイとすいなちゃん。

 でも、わたしはその事を素直に喜べなかった。

 頭に浮かぶのは、全く敵わなかった上級ボガスカン……そして、それをぐちゃぐちゃにしてしまった、コルウスって言ってた男の人……。

 

 『すもも? どうしたっプイ?』

 「あっ!? ううん、なんでもない!」

 

 ワルジャーンに対抗するためにエスキュート全員の力が必要なのは分かってるけど……本当に、あんな敵に勝てるのかな……?

 

*1
ちなみに、基準は中堅どころの強さで大体でかくて俊敏なヒグマくらいの強さ、もちろん特殊能力も込みで評価されるため一概にこうとは言えない。




TIPS

『引き寄せ』
詠唱:呪文名のみ
触媒:引き寄せたい対象、術式が書かれた魔法陣、魔術の使用方向を定める杖や視線
条件:引き寄せるルートが具体的に想像できていること
説明:時空間魔術(算術)の一つ、引き寄せたい対象と自身の距離、それを移動するまでに必要な熱量を計算し、必要な熱量を魔力で補う事で唱えた物質を手元に呼び寄せる魔術である。
ただし、引き寄せ対象に自分の魔力がある場合、逆に自分がそこに飛ぶことができる。

刑二からのコメント
「瞬時にワープできる魔術が弱いわけないって思って苦労して取得したけど……結構魔力食うし、この術使ってる間は当然ほかの魔術使えないしで、意外と戦闘中で使いまくるってことはなかったかな、いや便利で強いんだけどね」
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