変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。 作:バウム
「なるほど…………その魔術書とやらの解読を手伝ってほしいと」
「あっ……はいっ! その通りっす! この本の通りにすれば、魔法とか、使えるんじゃないかな~って!」
予想をいい意味で裏切られた俺は高揚した気持ちを抑えきれずについテンション高めで山彦さんに話しかける。
ちなみに、紹介を終えた棟方先生は早々にその場を去ってしまったが、こんな美少女と二人きりで話せるのならむしろナイスなのかもしれない。
「……フゥーッ」
しかし、俺の気持ちとは裏腹に山彦さんは一度眼鏡を外すとまるで頭痛を抑えるかのように数回眉間を指で解すと、再び眼鏡を掛けて目を細めて俺をじっとりと見つめてきた。
「あのですね、処沢くん……確かにここはオカルト研究部ですし、私の趣味もオカルトです……でも流石にこんなそれっぽくしただけの中二病じみた本を信じるなんて……どうかしてると思いますよ」
「うぇ……っ!? い、いや、でも! 本当にあるかもしれないじゃないですか!」
「……その魔術を、ここにある内の一つも使えないのに……どうやって証明するんですか?」
まさかの魔術書全否定に、俺は慌てて何とか説得を試みるものの、山彦さんからの一言に俺は完全に黙らされてしまう。
しかし、あの日見た変身ヒロインの存在がある以上、こういった魔術とか、超能力は確かにこの世にあるはずなのだ。
それさえあれば、きっとこの転生しても尚つまらない人生を変えられる、きっと楽しい事になる。
それを拾うチャンスがある以上、諦めるといった選択肢は俺にはなかった。
「お願いします! 一つだけ! 一つの術だけでもいいんです!」
「……はぁーっ……分かりましたよ」
必死に頭を下げ続ける俺を前に、山彦さんは一つ深いため息をつくと、渋々といった様子で了承の返事を返してくれた。
思わず喜色を浮かべて顔を上げると、心底うんざりといった様子で山彦さんは俺を見下ろしていた。
「このまま粘られても鬱陶しいですからね……手伝ってあげますよ」
「ありがとうございます!」
再度、頭を下げて礼を言う俺に対して山彦さんはただし、とつけて俺に人差し指を立てた。
「手伝うのはあくまで一つの術だけ、それも3日だけです……それで何にもなかったら協力はそこまで、ここにも二度と来ないでください」
「えぇっ!? 来るのも駄目なんすか!? オカ研
俺が驚愕の声を上げて抗議すると、途端に山彦さんはぎろりと振り返って俺を睨みつけてくる。
その余りの迫力にこれまで女の人を怒らせた経験のない俺は正しく蛙のように固まってしまった。
「棟方先生から説明は受けたはずです……私は一人でいるためにオカルト研究部を立ち上げました…………そこに人なんて、ましてやあなたみたいな鬱陶しい人なんて絶対嫌です」
「う、鬱陶しい……?」
確かにさっきまでの俺はテンション高すぎたかもしれないし、いきなりの事をお願いしている自覚はあるけど、それでもその言い草はあんまりじゃないだろうか……?
ショックのあまり俺が最早身じろぎも出来ずにいると、山彦さんは再びため息をついて、俺が脇に抱えていた魔術書をするりと抜き取ると、早速少し埃を立てながら机の上に広げ始めた。
「それで? どの魔術を使いたいんですか? ……ああ、しおりが付いてますね……『くらましの影』?」
「…………え、ええ、触媒も手軽に用意できましたし……ホラ、ここにカラスの羽根が」
いつまでも固まってても仕方ないと何とか心を切り替えた俺は、鞄の中からポリ袋に入れて保管している一枚の羽根を見せる。
ちょうど外出からの帰り道に偶然見つけたものをこれ幸いにと拾ったのだ。
一応、アルコールをつけたティッシュで一通り拭いたからめちゃくちゃ汚いって事はないだろうけど……念のための保管だ。
「……ふぅん? 何に使うかは分かりませんが、少なくとも本気で使う気ではあるようですね」
すると山彦さんは眉を左右で上下させるような怪訝な顔で振り返って俺を見る。
また何か言われないかと愛想笑いをしながら冷や汗を流していた俺だったが、何故だか心なしか雰囲気が柔らかくなったような……?
「正直、馬鹿馬鹿しいですけど……いいですよ、冷やかしじゃなさそうですし、その熱心さに免じて真面目にやってあげます」
「えっ、適当にやるつもりだったんすか!?」
「うるさいですね……今は違うんだからいいじゃないですか」
俺の突っ込みに山彦さんはある種の開き直りを見せると、再び本に向き合ってそこに書かれている文章を目で追い始める。
これ以上話しても無駄だろうと諦めた俺は彼女の隣へと歩き、彼女が解読した結果の解釈を聞きながら魔術の発動を試してみるのだった。
しかし――
「ふむ、これは魔力を気体のエネルギー体だと仮定して、それで対象を包んで外観情報を取得した後にその情報を基にエネルギーを座標の固定化によってエネルギーを結合させ、固体化させることによって複製するみたいですね」
「????」
同じ日本語のハズなのに言っていることが全く分からなかったり。
「……そもそも魔力なんてエネルギー、どうやって意識的に操るんですか?」
「……さあ?」
そもそも魔力とは何なのかといったものの理解から躓いたり。
「『くらましの影』! ……やっぱダメか!」
「やぶれかぶれでやっても上手く行きませんよ……」
やけくそになって魔術名を詠唱してみても不発だったりと、全くの成果なしのまま初日を終えてしまった……。
「ふぅ……そろそろいい時間ですし、続きは明日にしましょう……しばらくはそれ程授業も無いのでしょう?」
「あっはい、何でも先生方も回収した宿題のチェックの時間が欲しいからって午前中だけみたいです」
「では、また明日のお昼に」
そろそろお開きの時間となり、俺は羽根を再びポリ袋にしまって帰り支度を始める。
ちなみに、魔術書は山彦さんが引き続き何かヒントがないか確認してくれるらしいので彼女に預けたままになった。
「あっ、折角ならお昼ここで食べていいですか? 解読の結果とか聞きながら食べたいです」
「…………匂いのきついものでなければ」
少し複雑そうな顔をしたものの、山彦さんからの許可も貰えたので明日の昼食はここで食べよう。
……もちろん、食べ屑とか出ないようなおにぎりとかだ、流石にそこは弁えている。
身支度も済んだ俺は立ち上がって準備室の扉を開く、そのまま一歩踏み出そうとしたが俺はふと振り返って彼女に一言告げた。
「……山彦さん! また明日!」
「…………ええ、また明日」
俺の挨拶に山彦さんは軽く顎だけ動かすような会釈をすると、こっちに背を向けて作業を再開する。
あった当初に比べると少しは仲良くなれたかな、と希望を抱きながら俺は準備室を後にした。
☽~~~☽
翌日、コンビニで購入したおにぎりを3つ程持参した俺は再び準備室に訪れていた。
そこで俺はてっきり互いに昼食を摂りながら話をするものだと思っていたのだが、なんと山彦さんの付近にはお昼時だというのに弁当一つ見当たらないのだった。
「あれ? 山彦さん、お昼は?」
「? ……ああ、そういえばご飯食べていませんでしたね、気が付きませんでした」
ややげっそりした表情で平然とそう言う山彦さんの姿に一瞬前世の修羅場残業を思い出してぞっとしたが、直後に彼女をここまでさせたのは自分が魔術書の解読をお願いしたからなのではと思い至る。
そうなると途端にすごい罪悪感が沸いてきて、おにぎりを彼女に押し付けて席を立つ。
「そりゃまずいっすよ! なんか……とりあえず、この中から一つ食べてください、今お茶持ってくるんで!」
「あっ、ちょっと! ……行ってしまいました」
山彦さんの声を背に、急いで近場の自販機まで走る。
一番近い場所でも走って5分はかかるあの準備室の僻地っぷりに少しうんざりしつつも小銭を突っ込んで暖かいお茶を購入し、また急いで戻る。
「……あ、おかえりなさい」
すると、おにぎりを咥えたままの山彦さんがどこか気まずそうな様子で俺を見ていた。
一体どうしたのかと彼女に近寄ると、ちょうど山彦さんの身体で見えなかった真っ白なコンビニ袋がちょこんと机の上に鎮座していた。
――そう、おにぎりの中身が一つもなくなって真っ白しかなくなった袋が。
「その、食べ始めたらお腹空いちゃいまして……つい、その、ごめんなさい」
「えぇぇーー……?」
そんな事ある? と内心で嘆きか突っ込みかも分からない呟きを入れつつ山彦さんにお茶を渡し、俺は再び購買部まで今度は歩いてちょっと贅沢な昼食を購入する。
……結局、俺が買ってきた食後のおやつの三色団子にチラチラ目線が行っていて話が聞けそうになかったので、それも譲る事にした。
「その、本当にすみません……」
「あーいや、お腹すいてたんなら仕方ないです、美味しく食べてくれたんならそれで……」
正直、ちょっと思うところが無きにしも非ずだが、こっちは彼女の望みを知ったうえでワガママを通している身、この程度で文句など言えようものではないのだ。
「……ダメだぁー、何一つ上手く行かない……」
――しかし、結局この日も昨日と比べて何も進展せず、やった事といえばこの部屋を気分転換に掃除して綺麗になったくらいで無情にも2日目の部活時間は終わりを迎えてしまったのである。
「その……魔術とは関係ない事、聞いてもいいですか?」
「ん? いいですけど、どうしました?」
色々試したけど上手くいかなかった事実を前に項垂れていると、何やらそわそわした様子の山彦さんが俺に話しかけてきた。
それにしても、まだ出会って2日の付き合いだが、彼女から魔術書関連以外で自主的に話しかけるとは珍しい。
「どうしてそこまで熱心に魔術を使いたいのですか? ……その、仮に上手くいったとしても、羽根を増やすだけの魔術なんか下らないと思うのですが……」
「下らなっ……」
手厳しい言葉である、まあ確かに冷静に考えたら羽根を増やすだけの魔術なんか触媒の用意しやすさが無ければ取得しようとは思わなかったかもしれない。
しかし、しかしである、俺が様々な魔術を手に入れられる切っ掛けとなるならば今はそんな魔術でも必死こいて取得する価値はあるのだ。
「そうですねぇ……使えることに意味があるというか……うーん」
それを上手く言葉にできればいいのだが、それを適切に表せるような言葉がなかなか出てこないのだ。
好奇心? ロマン? 野望? ……なんだかどれも違うような。
「あっ、そうだ! なんていうか、夢があるじゃないですか!」
「夢……ですか?」
ぱっと思いついた言葉を口にすれば、山彦さんにはいまいち伝わらなかったのか首を傾げて聞き返されてしまう。
しかし今の俺にはあの思いを表す言葉が脈と繋がり次々と溢れだしていた。
「だってカッコいいじゃないですか、魔法とか、魔術とか!」
「そ、そんな簡単な理由で?」
「簡単だからいいんですよ! 色々考えすぎて夢とか、やりたいことから顔背けちゃ人生つまらないでしょう?」
「…………」
一通り言葉の羅列を吐き出したところで俺は途中から黙って俯いてしまった山彦さんの反応を見る。
と言っても、もちろん人の迷惑にならない範囲で欲求は追いかけるべきだ……あれ、現状山彦さんにめちゃくちゃ迷惑かけてね?
そんな気づいてはいけないような事実が頭に思い浮かびそうになる直前、俯いたままの山彦さんがぼそりと言葉を溢し始めた。
「……うらやましいですね」
「え? ……何が?」
聞こえてきた単語の意味が分からず、山彦さんに聞き返してみると、彼女はさっきよりも大きな声で途切れ途切れに話し始めた。
「私は……小さい時から優秀で、体力のいること以外なら、何だって、何だってできるだろうって……言われたことあるんです……」
「はぇー……すっごいですね、それは」
唐突に始まった自慢話に困惑していると、山彦さんは俺の相槌なんか聞こえてないかのように続きを話始める。
しかし俺は――その声が震え始めている事に気が付いた。
「でも、みんなそれが面白くなくて……私、私はっ……嫌われたくなくて、それでっ」
「……」
……なるほど、なんとなく読めてきた。
要は山彦さんは昔から優秀だったけど、それに嫉妬した周囲に何かしらのいじめを受けてきたのだろう。
それで、嫌われないように周囲の反応を窺っている内に自分のしたいことを見失ってしまった、というところか……。
「オカルトしてたのもっ……なにか、変えたくてっ……」
転生しようと、胸糞悪い、嫌なことというのは起こってしまうようだ。
自分がまさかそれを目の前で目撃することになるとは……とにかく、この山彦さんをそのままにしておくっていうのは忍びない。
でもなぁ、今の俺が彼女に言える事なんてあるのか? 出会って二日目だぞ? 言える事、言える事――そうだっ!
「そーいう事なら、手伝いますよ山彦さん!」
「……え?」
これなら、きっと俺の言葉でも彼女に届く、なんせ現在進行形でやってみたいことを手伝ってもらっているのだ、その恩返しだと言えば山彦さんも俺の言葉を信じてくれるかもしれない。
「俺の夢を手伝ってくれたお礼です! やってみたいことがあるんなら何だって手伝いますよ!」
「……ふざけないでください」
「え?」
しかし、そんな俺の考えは甘く、そして浅いものなのだと気づかされる。
歯を食いしばって顔を上げた山彦さんの瞳には、流れるままの涙と共にむき出しの感情が溢れていた。
【オカルト研究部】
1年生『山彦美音』が設立した部活の一つ、同じ1年生の『処沢刑二』を迎えたことで部を設立させる条件を満たし、同好会から正式に部と認められた。
本来は、一人の少女の揺り籠としての部活になるはずだった。
しかし、それは一人の魔術の探求者によって破られた。
籠を壊されたものはどうするのか、今はまだ誰も知らない。