変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第08話「事態は止まる暇もなく」

 「なぁるほど~~、世界を救うためにエスキュートを……」

 『おねがいっプイ! このままじゃ地球もワルジャーン帝国に侵略されちゃうっプイ!』

 

 スイーツ店『パテランド』の奥、日の差さず、壁に囲まれたこの席は広いけど確かに人目にはつかない場所だった。

 一つ手前のカウンター席に一人、ひとみ先輩と同じ高校の制服を着たお兄さんがいるけど、彼は大きな本とにらめっこしておりこっちの話が聞こえそうにない。

 注文したイチゴティーを飲みながら、のぞみ先輩――店員さん、なんと同じ中学校の先輩!――の様子を窺う。

 

 「うぅ~~~ん……ごめんなさい、できないです~」

 『プイイィ~~~~!? な、なんでっプイ!?』

 

 のぞみ先輩はゆっくりと、しかし深々とプイプイに向かって頭を下げ、プイプイは仰天してその場から更に浮かび上がる。

 一方わたしは――いや、少なくともわたしとすいなちゃんはのぞみ先輩が断るのを聞いてちょっと安心している、エスキュートの戦いはやっぱり危ないのだ。

 

 「ワタシ、将来パティシエになりたくて、今このお店で勉強させてもらってるんです~、ですので、エスキュートとして戦うのって厳しいと思うんですよ~」

 『うっ!?』

 

 のぞみ先輩の言葉が矢となったかのように鋭くプイプイの胸に突き刺さる。

 望んでなったわたしやすいなちゃんと違って流石に他にやりたい事がある人を勧誘するというのは心が痛むのだろう、プイプイはがっくりと肩を落とした。

 

 「それに、ワタシってどんくさいので、きっとみなさんの足を引っ張っちゃいます~……変身ヒロインみたいで、なってみたいんですけどね、えへへ~」

 『むむ……っ! むう~……!』

 

 しかし、続くのぞみ先輩の言葉に今度は顔を上げるとなにやら難しい顔をして頭を抱えてしまう。

 多分、エスキュート自体がダメって訳じゃないからどうにかして勧誘したいのだと思う、だけどいい言葉が思い浮かばない、といったところだろうか。

 

 「……私は、あなたに無理にエスキュートになって欲しいとは思わないわ」

 『ひ、ひとみ!? 何を言ってるっプイ!?』

 「元々は地球には関係なかった問題だもの……でも、私たちだけじゃワルジャーンに勝つのが難しいのも事実なの」

 

 ひとみ先輩はそこで一旦言葉を区切ると、一瞬下を向いてその銀色の瞳を揺らがせる。

 しかし次にはいつもの凛々しい表情に戻って改めてのぞみ先輩に向かい合っていた。

 

 「地球のみんなの夢のためにも、あなた自身の夢のためにも……今の話、もう一度考えておいてくれないかしら」

 「えっ~……と、わ、わかりました~」

 

 真剣に見つめてくるひとみ先輩の言葉に、さっきまでのほほんとしていたのぞみ先輩も流石に背筋を伸ばして頷いた。

 一方でわたし……いや、わたしとすいなちゃんは複雑な気持ちを抱いていた、だからついこんな口をはさんでしまう。

 

 「のぞみ先輩! ほんっとによ~く考えてくださいね! エスキュートの戦いって危なくて大変なんですから!」

 「そうです! とっても怖~い人だっているんですから!」

 「え、えぇ~?」

 

 すいなちゃんもわたしと一緒にのぞみ先輩にエスキュートで経験した怖さを伝えていた。

 たぶん、コルウスの事を言っているんだろうなと思う、わたしも彼が怖いというのは大賛成だ。

 のぞみ先輩はわたしたちにたじたじな様子で困惑していたが、エスキュートについては本当にそれだけ真剣に考えてほしい。

 

 「きゃああ~~っ!?」

 

 その時、わたしたちより手前の席から悲鳴が聞こえてくる。

 それと同時に、ずしんと体に響くような振動も加わってきた。

 

 「っ!! 行くわよ、プイプイ! 二人とも!」

 「うん!」

 「はいっ!」

 『プイっ!』

 

 尋常ではない事態に嫌な予感がしたわたしたちはひとみ先輩の掛け声と共に走り出す。

 すると店の中にはかつて出会ったUFOに乗る蛇男のスカムと、店の人々を襲う無数の黒いオーラが人の形になったような怪物が店で暴れまくっていた。

 

 『シャーッハッハッハ! 奪え奪え~! エネルギーを奪うのでス!』

 『『ワールルー!!』』

 「うわあああ!!」

 

 地の底から鳴り響くような声を上げながら、影がお客さんにとびかかっていく。

 逃げ遅れたおじさんは影に覆いかぶさられると、そのまま影に包まれて繭のような形になって宙に吊り上げられる。

 するすると上がる繭を追って上を見てみれば店の天井に同じようなものがいくつもあった。

 

 「これっ……全部、人……!?」

 「ひっ、ひどい……!!」

 「なんてこと……!」

 

 すいなちゃんはその光景に口に手を覆って後ずさりし、ひとみ先輩が拳を握りしめながら繭を睨みつけている。

 同時にスカムがこちらに気づいたようで、口角を上げながら振り返った。

 

 『おや、思ったよりも早いご到着でスね、エスキュート……それとも、最初からいたのでしょうか? シャッハッハッハ!』

 「スカム! 今度は何を企んでるの!」

 『いつも通り、実験でス……今度のは中々に画期的なアイデアでスよぉ!』

 

 ひとみ先輩がスカムに鋭く問いかけると、彼はとても愉快そうにUFOの中で両手を上げ、天井付近を浮遊する。

 

 『件のイレギュラー……コルウスから知ったのですが、どうやら人間には我々も関知していなかったエネルギーがあるようなのでス!』

 

 コルウスから知った……? ……まさか、あの人はワルジャーンの味方だったの!?

 いや、でも、それだと彼ら同士で戦っていたのはなんで?

 

 「た、助けて~~!?」

 

 と、混乱しながらもまだ逃げている人たちの声を聞き、わたしはエスパッションを掲げる。

 ひとみ先輩とすいなちゃんも同時にエスパッションを掲げ、変身のための言葉を叫ぶ。

 

 「『エスキュート・メークアーップ』!」

 

 

  ☽~~~☽

 

 

 「どっせい!」

 「ワルゥ!?」

 

 さっきまで座っていた椅子を強化して振り下ろし、薄気味悪い影の化け物を霧散させる。

 勢いあまって地面に衝突した椅子の足がバキバキに折れてしまった……まあ、後で魔術協会が弁償してくれるから組織に属する身というのはその点、楽だ。*1

 

 「はぁ……昨日の今日だぞ、ゴキブリだってもうちょっと出んの自重するわ」

 

 唐突な襲撃につい出てくる愚痴を溜息と共に吐き出し、遠距離にいた影に向かって椅子の残骸を投げつける。

 特に腕がヤバい、昨日の鞭打を防いだ衝撃による疲労がまだ抜けていないのだ。

 この見たことあるオーラからして恐らくワルジャーンだと思われるが、こうして連日で襲撃をかけて来た理由はなんだ?

 

 「あ、あのぉ~? 何事でしょうか~?」

 「……ッ!?」

 

 そんな事を考えていると、俺の座っていたカウンター席よりも更に奥の席からのんびりとした響きの女性の声が聞こえてくる。

 まずい、逃げ遅れた一般人かと思って振り返ると――心が奪われた。

 

 砂金のような輝きを放つ長髪、汚れなく潤っている卵肌、そして何よりグラマラスなボン! キュッ! ボン! なスタイル!

 今までの人生で初めて見たレベルの美人に、俺は思わず声を返すのも忘れて唾を飲んだ。

 

 「……えっと、どうしましたか~?」

 「!! ああ、いや、すみません……」

 

 眉を八の字にして再度尋ねてくるこの人に対し、我に返った俺は情けないくらいしどろもどろな対応をしてしまう。

 

 ダメだ、今は緊急事態だ、気持ちを切り替えなければ……!

 と、浮ついた心を引き締めようとネクタイに手をかけようとして、今日が休日で私服であったことを思い出した……気持ちが全く切り替わってない。

 

 「おほんっ! ……信じられないかもしれませんが、影のような怪物がこの店をうろついています」

 「え、ええっ?」

 

 誤魔化すように現状を説明した俺の言葉にも、この人は戸惑うばかりだった。

 当然だ、いきなりこんな事言われたって信じられるわけがない、どうしたものかと悩んでいると、どうやら彼女は周囲の散乱とした状況からここが危険だというのは分かってくれたのか、鞄の紐をかけると靴を履いて立ち上がった――あっ、揺れ……ってそんな事考えている場合か!

 

 「えっと、とりあえずここを出ましょう~! ……あら? どうしました?」

 「いえ、何も! それより、割れた破片でケガをすると大変です、お気を付けて……おわっ!?」

 

 女の子の前でカッコつけてキャーキャー言われる妄想もしたことのある俺だが、いざ本物の美人を前にするとこうも何もできないとは……。

 理想と現実のギャップにやきもきしつつも、俺はその事を頭から追い出しつつ、一刻も早く魔術師として戦場に行くべく物陰に身を潜めようとする。

 

 しかし、その動きは彼女に手首を掴まれることで阻まれてしまい、つんのめってバランスを崩しかけるも踏みとどまった。

 

 「ダメですよ~! あなたも逃げないと!」

 「えっ!? あっ、いえ、後からすぐ行きますのでお構いなく!」

 「ダメです! 今逃げますよ~!」

 

 どうやら彼女、おっとりしているように見えても結構根が頑固なのか俺がどれだけ言っても一緒に逃げるのだと引こうとしない。

 ……少し気が引けるが、緊急事態が故に俺は少々強引な手段を取ることにした。

 

 「……『解除』っ」

 「きゃっ!?」

 

 手の中の枝を折り、掴まれている左腕に黒の手袋を、そして顔にペストマスクの装備を展開していく、変化術の解除時に体積が急激に変化する時の衝撃を利用し、無理やり手を離させたのだ。

 

 「はうう……っは! あ、あなたは――」

 「失礼っ」

 「はうっ」

 

 衝撃に目を回した彼女が正気に戻る前に当身で気絶させると、一度その場に横たえる。

 そして額に一枚の札を張ると、黒ずんだ粉末をその札に乗せて記憶処理のための簡易的な呪文を唱えていく。

 

 「『ンワバウ・ヲリキノクオキガジンナ・ノモムゾノヲクャキウボ・レワ・ノモシリツヤアヲマ・レワ』……」

 

 一字一句、その言葉とその意味を間違えないように唱えると、粉末の色が真っ白に変わっていき、次に白い煙がゆらゆらと立ち込めて来る。

 ここまでの過程にミスがない事を確認した俺は、最後に呪文の効果を冠する名を読んでその魔術を完成させた。

 

 「……『忘却』!」

 

 呪文を唱えきり、魔術が完成する。

 すると粉末がボンっと音を立てて全て煙に代わり、札がカスすら残さずに燃え尽きた。

 これで、直近の記憶なら全て消去されたはずだ……殆ど使ってないからわかんないけど。

 

 「……!」

 

 ほっと一息つく間もなく、影の化け物がぞろぞろと群がってくるのを感じる。

 軽く辺りを見渡しただけでもその数は10以上は確認できた、おそらく魔術の使用がトリガーとなって集まって来たのだ。

 

 「『解除』」

 

 今度こそ手の中の全ての枝を折り、いつものトレンチコートにペストマスクの黒ずくめの姿になる。

 手には使い慣れたブロードソードと、新調したヒーターシールド、前方の敵と、後方の守るべき人を意識した俺は――

 

 「……『くらましの影』っ!」

 

 すぐに羽根を取り出して撒き散らし、脇に彼女を抱えて逃走した。

 流石にこの数相手に気絶してる人を巻き込まないように戦うのはムリだったからだ。

 

 「ふおおおお!!」

 

 追ってくる気配を振り払うよう、全力で足を動かしながらぼんやり思う。

 チート転生者なら後ろにこの人庇って俺ツエーアピールチャンスなのになぁ、と。

*1
それはそれとして軽く注意はされる




TIPS

『忘却(簡易)』
詠唱:ンワバウ・ヲリキノクオキガジンナ・ノモムゾノヲクャキウボ・レワ・ノモシリツヤアヲマ・レワ
触媒:『破滅』の呪符、勿忘草の粉末
条件:なし
説明:極東魔術の一つで、まだ定着していない短期的な記憶の一部をすぐに思い出せなくする魔術。
現在でも一般人の記憶処理に使われている魔術で、日本に住む協会魔術師はみんな義務としてこれを習得している。
ただし、あくまで諸々の儀式をすっ飛ばして使う簡略的な魔術のため、魔術的素養を開花させた人間には全く効かない。

刑二からのコメント
「なんでも日本の学問の神様が国を守る魔術師にってわざわざ作ってくれたらしいありがたーい魔術なんだとか
協会に所属するなら義務で取らされるけど、魔術師は基本的に正体を隠したい人が殆どだからたまに放任されてる野良術師がこの魔術を習いに来るよ、いい収入源なんだって」
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