変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第13話「アンブッシュ・アンジャッシュ」

 最近、ギリギリセーフな場面が多いと内心で冷や汗を拭いながら剣に少しこびり付いてる闇っぽいオーラを払う。

 お隣の中学校に着いた頃には初めて見るエスキュート二人といつぞやボコった鞭女が向かい合っているところで、その後ろにはなんか今にもヤバそうなものが生まれそうな闇の繭が蠢いていたのだ。

 

 幸い、スイーツ店の時よりも格段に小さい繭だったためすぐに切り裂くことができたが、中からカラスが出て来たのはちょっと予想外だった。

 

 「あっ……あれが……」

 「ボガスカン……ですか~?」

 

 ふーむ、あの繭はどうやらエネルギー以外のものも取り込める――というより、何か存在の核となるものが必要だから取り込んでいるのか?

 いやでも、最初に戦ったアイツは純粋にエネルギーだけで生成されていたしな、例外はあるのだろう。

 ……そういえば、間違ってカラス斬ってないよな? ……うん、死体はないし、大丈夫だろ、多分。

 

 「……なっ、あ、あんたは……!」

 

 と、つい考えに耽っているとこっちを見た鞭女が青ざめた顔で俺を睨みつけていた。

 その手が震えているのは、きっと怒りだけが理由ではないことは想像がつく、そりゃあ俺だって顔が変形するまでぶん殴ってくる奴いたら怖いし。

 

 「くっ……!?」

 

 すぐに奴が攻撃を仕掛けてこないのは前をエスキュート、後ろの俺というこの状況で迂闊に動けばがら空きの方にやられると理解しているからだろう、方や人数不利、方や一度負けた相手だ。

 ……でも正直、もう一回やってそう簡単に勝てるとは思えないんだよな、あの不意打ちがもう一度できるとは思えんし、どうにかエスキュート達とこっそり連携取れないだろうか。

 

 「……やい! そこのボガスカン!」

 

 そんな事を考えていると、鞭女の後ろから快活そうな声がこの薄気味悪い空に響き渡った。

 まだ敵がいたのかと、顔をずらして鞭女の背後を見やると、緑のドレスに身を包んだエスキュートが俺を指差していた。

 ――もしや、後ろかっ!?

 

 「もう一回やっつけて、今度こそカラスたちを助けてやるからな! 強くなったとしても、お前には負けない! 覚悟しろ!」

 「あの~、ワタシにはあんまりボガスカンっぽく見えないんですが~……」

 

 慌てて後ろを向くが、そこには学校の塀が聳え立っているだけで何もいない、上や下に視線を向けてもそれらしきものは何一つ見当たらなかった。

 じゃあ一体何を指差していたのかと疑問を感じ、顔を前に戻すと――

 

 「やぁぁああああ!!」

 「――ッ!?」

 

 視界いっぱいに緑の靴底が迫り来ていた。

 慌てて頭を後ろに倒すと、蹴りがペストマスクの先を掠めて通り過ぎていく、そのまま緑のエスキュートが俺の身体のすぐ上を流れて行って、遅れて風圧がコートを引っ張る。

 

 「はぁっ! だだだだだっ!!」

 「なっ!? くぅっ!」

 

 そのまま地面に着地した彼女はすぐさま反転すると息もつかせぬ連撃をその足で繰り出してきた。

 躱しきれないと判断した俺はすぐさま枝を折って盾でガードするが、盾越しに伝わってくる衝撃が腕を痺れさせ、スタミナを奪う。

 

 「カラスたちを、返せっ!」

 

 ここに来てようやく俺は事態を飲み込む――ボガスカンって、俺のことか!

 思えば彼女は初めて見るエスキュート、俺の見ていない所で戦ってない限りボガスカンと怪しいペストマスク男の見分けがつかないのも無理はない。

 ていうか彼女のセリフからして今日の怪物の触媒というか、核に使われたのはカラスだ、なんて間の悪い!

 

 「ぐっ……はぁっ!」

 「うわぁ!?」

 

 敵を前にしてこんなことをしている場合ではない、すぐに誤解を解かなくては。

 そう思った俺は一先ず腕に力を入れて盾を振るって無理やり緑のエスキュートを飛ばして距離を取った。

 そして俺が口を開こうとしたその時、後ろから高笑いが響いてくる。

 

 「オーッホッホッホ! さあ、ニュー・カラスボガスカンよ! エスキュート達を倒してしまいなさい!」

 「はっ?」

 

 その言葉の方に目を向けると、いつの間にか俺たちの横に回り込んで距離を取っていた鞭女がまるで俺に命令するように手を向けると、そのまま立ち去ってしまった。

 

 あ、あの女……! すぐさま状況を理解して最悪な展開にしやがった……!

 

 とにかく誤解を解きたいが、眼前のエスキュートは完全にやる気だ、闘志の燃えた瞳を湛え、ぐっと腰を落として跳躍の姿勢に入っている。

 

 「え、えっと~ヴェントちゃん、とりあえず、お話合いにしませんか~? なんだか、大人しそうですし~……」

 「何を言ってるんですかテーレ先輩! さっきあの繭からコイツが出て来たのを先輩も見たでしょう!? あの女の人もボガスカンって言ってましたし間違いないです!」

 「そ、それは~……そうなんですけど~……」

 

 それまで状況を見ていたテーレと呼ばれた黄色い方のエスキュート――うおっ、よく見たら凄い美人!――がヴェントという緑のエスキュートを諫めようとしてくれるが、気炎を吐く彼女は聞く耳を持とうとしない、ていうか繭を切り捨てた時の俺ってそんな風に見えてたのか……。

 

 「さあ! 行くよっ!」

 「そ、その~……ごめんなさい~!」

 「ちょっ、待っ――!」

 

 ワルジャーンに立ち向かうにあたって、できればエスキュートとは協力関係を築きたい、そうなると傷つけずに無力化する必要がある。

 それを行うための魔術は無い事もないが、エスキュートが二人掛かりで襲い掛かってきては使う暇もないと蹴りの連撃を防ぎ、泡立て器の一撃を避けながらこの状況を打開すべく俺は二人の動きを観察し始めた。

 

 

 ☀~~~☀

 

 

 「こんっのお!」

 「ふっ……!」

 

 ヴェントちゃんがどんどんキックを繰り出しても、あのカラスの人は盾でずらして受け流してしまいます。

 最初こそあと少しでガードが崩れそうな時が何回かあったんですけど、今じゃ足をずらしてヴェントちゃんの身体の向きを変えて殆どキックが当たっていません。

 ヴェントちゃんは何とか攻撃を当てようと力いっぱいキックしていますが、ますます当たらなくなっているように見えます。

 

 「えいっ! やあ~!」

 「……」

 

 ……ワタシの泡立て器は、最早チラリとも見てないのに避けられちゃって、ちっとも当たる気がしないです~。

 う~ん、やっぱり本気で振るべきなんでしょうか……でも人だったとしたら当たると痛いですよね~……。

 そんな事を考えながら、それでも一生懸命振り回しているとガチャリと何かが泡立て器に引っかかりました。

 

 「ちょっ!? テーレ先輩ーっ!?」

 「あっ、あら~!?」

 

 何かと見れば、ヴェントちゃんの足が泡立て器に引っかかってしまってました~!

 慌てて外そうと持ち上げたのですが、その拍子にヴェントちゃんが宙吊りになってしまいます。

 咄嗟にスカートを抑えたヴェントちゃんをどうやって降ろそうかと考えている内に、あのカラスの人が何かが入った瓶を取り出していました。

 

 「……『黒煙』」

 

 彼が何かを呟くと、瓶の蓋を開けたそれをさっと振ってその中身を振りかけます。

 瓶から出て来たのは、なんと真っ暗でモヤモヤした何かでした。

 

 「『暗視』」

 「ちょっ、わあっ!?」

 「ヴェントちゃん!?」

 

 それはあっという間にワタシたちにまで向かってきて、すぐに何も見えなくなってしまいます。

 それでも何かが動いた音と、すぐ傍にいるヴェントちゃんのビックリした声はハッキリと聞こえました。

 手に持った泡立て器の感覚を頼りに、すぐにヴェントちゃんを降ろそうとしますが、何故かどこを触っても彼女の足が掴めません。

 

 「ヴェントちゃ~ん! どこですか~!?」

 

 不安になって声を掛けても、ヴェントちゃんからの返事がありません。

 いよいよ焦りが心を包んできたところで、ようやくモヤモヤが薄れて周囲の様子が見れるようになってきました。

 そこで、ワタシはヴェントちゃんの姿を発見しました……彼女の姿は、ワタシの泡立て器には既にいなくなってて――

 

 「……動くな」

 「んぐぐ……んぐーっ!」

 

 カラスの人に足で無理やり押さえつけられて、首筋に剣を突き付けられていました。




『黒煙』
詠唱:呪文名のみ
触媒:黒い石の欠片
条件:触媒が粉末状である事
説明:影の魔術の一つ、呪文と共に吹きつけられた粉末の一粒一粒が光を遮断するフィールドを生み、黒い煙幕のような幻術を見せる魔術。
多くの魔術師は己の術を秘匿としたが、影の魔術師は己の姿を最大の秘匿とした。

刑二からのコメント
「この術はマジで強い……いやまあ、無効化してくる奴も多いし実際無効化手段も多いんだけど、それを考慮してもできる事が多すぎる、特に『暗視』と組み合わせれば対策できてない魔術師相手だと一方的にボコれるし、捕縛も楽」
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