変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第18話「トラブル・ブッキング」

 「……部長、いい加減腕を離してください、歩きづらいです、あと周囲の目が痛いです」

 「だだだ駄目ですっ……! こんな人混みの中で離すなんて無理ですっ……!」

 

 週末、俺と山彦部長は先日汚れが残ったままの服をクリーニングに出すためにショッピングモールに来ていた。

 最初は彼女が俺一人に行かそうとしていたのだが、ここ最近の山彦部長の出不精っぷりを思い出した俺はちょっとした運動も兼ねて、と彼女を半ば強制的に連れ出していたのだが……結果はご覧の通り、山彦部長は俺の腕を胸元に抱き寄せて俯いてしまった。

 

 「ううううう……恨みますよ処沢くん……!」

 「すみません、すみませんって……ほら、今日はあのファミレスの特製ハンバーグ奢りますから機嫌直してください」

 

 しかし、この事態は滅多に来ないとは言え週末のショッピングモールには人が集まるという事を失念していた俺のミスでもある。

 人見知りの激しい山彦部長には今日の外出は流石に過酷過ぎたと唸る彼女を見ていると罪悪感が湧き出て来る、腕が胸に当たる感触にも全く気分が上がらない程だ。

 

 「……三色パフェも一緒がいいです」

 「はいはい」

 

 あれ、コイツ意外と余裕あるな?

 しれっとお高いデザート*1を要求してきた山彦部長を見て先程まで背筋を這ってくるような罪悪感が一気に剥がれ落ちる。

 しかし、彼女の普段の生活を考えれば特製ハンバーグと三色パフェはちょっとカロリーが心配だな……サイクルエクサトラベル*2でもやらせるか、あれなら室内でもできるし、部室も広いから片付ければ問題ないだろう。

 

 「じゃあ、行きますよ……せめて手つなぎにしません? 真面目に歩きづらいので」

 「……むぅ、分かりましたよ」

 

 まだどこか不満げな山彦部長は、しぶしぶといった様子で腕を離すと、今度は俺の手を取って一本一本指の隙間を埋めるように手を繋いで――ってこれ、所謂恋人繋ぎってヤツじゃ……。

 

 「外れたりしたら、嫌なので……しっかり握っていて下さいね?」

 「……ハイ」

 

 なんとかそう返事だけして、こっ恥ずかしい気持ちを無理やり見ないふりをして彼女の歩幅に合わせつつ若干前を歩く。

 周囲の変なものを見る視線が、呆れたものを見る視線に変わったのを感じ、俺たちは足早にその場を去っていった。

 握った山彦部長の手はちょっと細くて、温かくて、すべすべしつつもどこかじっとりした感触をしており、それを感じている間ずっと俺の心はどこかドギマギしているのであった。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 ……なぁーんて、相当キモイ事を考えてちょっと幸せを感じていたのも束の間、ファミレスで昼食をとり、デザートを突きつつ他愛もない雑談を楽しんでいた時に、それは起こった。

 

 「それで? 皆さんはのぞみとどのような関係なのですか? ……高校の先輩まで交えて」

 「……あなたには関係の無い事よ」

 「わたくしはのぞみの友人ですわ、無関係ではありません……あなたこそ、中学生ののぞみと何の関係があるのですか?」

 「…………」

 

 なんかお隣のテーブルの空気が冷えっ冷えなんですけど!? なんでだよ、さっきまで買い物帰りの袋持ってさあ、なんかきゃいきゃい盛り上がってたじゃん! 山彦部長がちょっとウザそうにする位にはほのぼのしてたじゃん! 今は別の意味で気まずいよ!?

 ていうか、のぞみってあののぞみさん!? ……あののぞみさんだわ! 見覚えのある顔いるわ! えっ、あの見た目で中学生だったの!?

 

 「む、むぅ……」

 

 ほらもう山彦部長のスプーンが止まってお隣チラチラ見てるし! 俺もプリン食べる気分じゃなくなっちゃったよ……。

 ……しかもよく見たらあの白髪の女の子の服、ウチの制服じゃね? ていう事は魔人の時に追っかけた娘かアレ!

 

 「……あれ、あの服、ウチの制服じゃありませんか?」

 「多分……というか、確実にそうですね」

 

 どうやら山彦部長もそう思ったようで、これで単なる俺の勘違いという線も消えた。

 今はまだ周囲に俺たちしかいないからいいだろう、しかしあの雰囲気はどう考えてもヒートアップする、絶対する。

 そうなれば周囲のお客さんに迷惑かけた挙句、制服から高校を特定されてウチの生徒全員が出禁になる事態さえあり得る……それはダメだ、ここは山彦部長が外出に積極的になってくれる数少ないファミレスなのだ。

 

 「処沢くん? ……え? 行くんですか?」

 「ヤバくなりそうならって枕詞はつきますけどね」

 

 ぎょっと目を見開き、とりあえずパフェを再び食べ始めた山彦部長を横目にいつでも通路に立てるよう身を寄せる。

 半ば叶わぬ願いであると考えつつも、どうか何事もなく無事に終わって欲しいと心中で手を合わせるのだった。

 

 

 ☀~~~☀

 

 

 「とにかく、わたくしはのぞみの悩みが何なのか、それが知りたいのです」

 「……言えないわ」

 

 ……本当に困ったことになったわね、こういう時どうすればいいのかしら。

 あの後、一通りの買い物を終えてファミレスで昼食を食べようという話になって、そこで雑談しているみんなを眺めながらご飯を食べていたのだけど、のぞみがついエスキュートの事をうっかりこの場で話そうとしたからつい口を挟んでしまった。

 

 「何故ですか? わたくしは友人の悩みに寄り添いたいというだけなのですわ!」

 

 すると、そこに私たちを尾行していたのぞみの友人――みもりという少女が後ろの席からこちらへと歩み寄って私に問い詰めに来たのだ。

 恐らく、あと一歩でのぞみが何に悩んでいるのかを知ることができそうだったのを邪魔されたからだと思うけど……仕方ない、ここは私が嫌われ役を買って出よう。

 

 「彼女の悩みは私たちで共有しているし、解決に向かっている、あなたの入る余地は無い……ハッキリ言って、迷惑よ」

 「ほぇっ!? ひ、ひとみ先輩~!?」

 「っ! なんですって……!?」

 「ひ、ひぇぇぇ~……!」

 

 後輩たちが狼狽え、怯える様子には罪悪感が湧き出るものの、みもりが無用なトラブルに巻き込まれてしまう事を防ぐためにもここで一度強く拒絶しなければならないのだ。

 そうしてみもりに向かって口を開こうとし――

 

 「はい、そこまで」

 

 途中で割り込んできた男の人に、私含めてみんな視線を集めていた。

 その人はストライプのシャツにジーンズ、細めの眼鏡といった極めてシンプルな格好で、失礼だがこうして声を掛けられるまでそこにいると気づけなかった。

 

 「ここ、色んな人がいるんで……もうちょい静かにしてもらえますかね?」

 

 唇に人差し指を当てて申し訳なさそうに笑ってそう言う彼は周りを見渡す。

 見てみると、彼以外にも何人かのお客さんがこちらをチラチラと見ていた、確かに少し騒ぎ過ぎたのかもしれない。

 

 「……ごめんなさい、言い過ぎたわ」

 「……いえ、こちらこそ……」

 

 私が頭を下げると、みもりもバツが悪い様子で頭を下げて来る。

 次いでこの場を仲裁してくれた彼にもお礼を言おうと振り返れば、既に彼は自分の席へと歩き出し、女の人と何やら話していた。

 ただただ迷惑をかけてしまっただろうか、と心苦しさを覚えていると突如外から爆音が響き渡る。

 そして、明かりが全て落ちて真っ暗になってしまった。

 

 「えっ!? な、なんですか!? 地震!? 停電!?」

 「……部長! 机の下に!」

 

 周りの人達が驚いたりパニックになっている中、エスパッションからざわつくような感覚が広がる私には何が起こったのか一瞬で理解できた。

 ワルジャーンが襲撃してきたのだ。

 

 「……みんな! 行くわよ!」

 「! はい!」

 

 私の一言でみんなは理解してくれたようで、すぐに持っていたエスパッションを取り出しながら外へ向かって走り出した私についてきてくれている。

 ……本当に、この時ばかりは地球に来てよかったと思う、私一人のままだったらきっと戦い続けられなかったから。

 

 「えっ、ちょっ、どこに行くんですのぉ~~!?」

 

 置いてけぼりにしてしまったみもりには悪いと思いつつ、ファミレスの扉を開けて外に出ると、ちょうど下の階でワールル達とそれを引き連れる赤い風船のボガスカンが辺りで暴れ始めていた。

 一般の方に被害が出る前に、急がないと……!

 

 「『エスキュート・メークアップ』!」

 

 目の前の柵から空中にその身を踊らせた私は、腰に付けていたエスパッションを取り出すと、そのまま蓋を開いて変身のための言葉を紡ぎ出した。

*1
税込1,380円

*2
柔軟性に優れた円型の専用コントローラーを用いたフィットネスゲーム、刑二は今でも続けている。




【黒石】

 魔除けや陰に纏わる魔術の触媒。
 真っ黒である必要があったため、物流の活発になった現代ならともかく、一昔前はそれなりに集めるのが面倒な触媒だった。
 それ故に【影の魔術】を始めとした暗闇の魔術の研究が活発になったのはつい最近であり、未だにその魔術の使用者に対する偏見は存在する。
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