変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第21話「私のヒーロー」

 「あああああああ!」

 「ぐぅ、おおおお!」

 

 散々に打ちのめされ、盾に穴を空けてまで叩き込んだ一撃、ここに来てようやく奴は苦痛に満ちた悲鳴を上げて、炎に顔を焼かれていく。

 俺の魔力を燃料に燃え続ける炎が、奴のエネルギーを浄化するべき穢れとして熱と共に分解していく。

 それは奴の頭から首、首から胴体へとドンドン伝わり、遂には俺の盾と腕を貫いていた槍さえもドロドロに溶かしつくしてしまった。

 

 「あ、あああ、あああっ!!」

 「ぐっ! らあああああ!!」

 

 それでも尚、奴は腕を振り回して力の限り俺を殴りつけて脱出しようとする。

 そのあがきを封じるべく、俺は右手で奴を掴んだまま疾走し、そのまま壁に頭部を叩きつけた。

 そして、そのまま空いた左手で剣を引き抜き、痛みを無視して奴の右腕に突き立てる。

 刺さらずともこれで奴の右腕はもう使えない、後は気合と根性の問題だ。

 

 「ぎぃあああああ!!」

 「うおおおおおお!!」

 

 激しい炎は俺の魔力をあっという間に吸い尽くす。

 マスクの内側は汗がびっちりついているし、体温も全身が氷水に浸かったかのように低い、腕の力も最早ちゃんと押せているか怪しい。

 それでも俺は焼いた、奴の抵抗がマスクのレンズを片方叩き割っても、焼き続けた。

 

 「…………」

 

 そうして奴を焼き続けてどのくらい経っただろうか、恐らく1分にも満たない時間だろうが、俺には長い時間が過ぎたように感じた。

魔力が尽き、何も出なくなった右手を尚、俺は黒焦げの人型に押し当てた姿勢で動かなかった。

 否、動けなかったという方がただしいだろうか。

 

 「フゥー……ッ」

 

 左手から剣が落ち、地面にカランカランと音を立てるのと同時、俺も数歩下がってそのまま後ろに倒れるように尻もちをつく。

 そして、俺の手から自由になった奴の身体がぐらりと壁から前に倒れる。

 

 「ア……」

 

 その時、奴の纏う灰殻同然のドレスが取り込んだオーラと同じエネルギーに変わり、仮面が外れて地面を転がった後に空気中へ霧散していった。

 恐らく奴もエスキュート達と同じく、変身する事であの力を発揮していたのだろう、そして今それが無くなったわけだ。

 遂に露になった奴の顔を拝んでやろうと思ったが、奴の身体は全身黒こげになっており、どう見ても絶命している……おそらく、こいつもダークエナジーだけで構成されたエネルギー体とやらなんだろう。

 

 「……よし、行くか」

 

 やがて青く燃え盛る黒い塊から欠片が剥離しては空中で散っていくようになったのを見届けた俺は、俺を待ってくれているであろう人のもとへと歩を進めた。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 すっかりめちゃくちゃに荒れてしまったファミレスの中、人のいなくなった店内に靴の足音がコツコツと響き渡る。

 目当てのテーブルにたどり着いてその下を覗き込むと、目を瞑って羽根を握りしめている山彦部長の姿が目に入った。

 

 「部長」

 「……処沢くん?」

 

 山彦部長は目を空けてこちらにゆっくりと振り向く、未だ不安に揺れ動く彼女の瞳を見た俺はにっこりと笑って、マスク越しでも分かるように努めて明るい声で手を差し伸べた。

 

 「もう大丈夫です、帰りましょうか」

 「……うん」

 

 俺の言葉に今まで張り詰めていた不安と恐怖の糸がようやく解けたのか、またボロボロと涙をこぼしながら山彦部長は俺の手を取り、のそのそとテーブルから出て来た。

 そうして立ち上がった彼女の服と髪に付いた埃を落とし、手を引いて店を出ていった。

 

 

 ☀~~~☀

 

 

 「けほっ、けほっ! もうっ! さっきから何なのですか!?」

 『みもり、あとちょっとっプイ!』

 

 のぞみの様子を見に来たはずが、ショッピングモールに急に変な怪物が現れるし、電気は落ちてあちこち爆発は起きるしでわたくしの頭はもう限界に達しつつありましたわ。

 それでもこんな騒ぎの中、のぞみの安否を確認しなければと彷徨っていると、プイプイさんと名乗る珍妙な生き物と出会って今は一緒に行動しています。

 

 「う、うぅ……」

 「ん……?」

 

 そうして土煙を吸わないように歩いていると、どこかから人の呻き声が聞こえてきました。

 もしやのぞみが怪我をしているのではないかと思ったわたくしが急いでその場に歩を進めると、わたくしと同じ制服を着た、黒髪の女子生徒が地面に倒れていましたわ。

 のぞみでなかったことに一瞬だけ安堵しましたが、それでも同じ中学の人が倒れている光景を前に、わたくしは生徒副会長としてすぐさま行動しました。

 

 「大丈夫ですか!? しっかりしてくださいまし!」

 「う、ああ……」

 

 肩を叩いて声を掛けても、その子は一向に目覚める気配がありません。

 近寄って分かったのですが、全身の至る所を大やけどしており、皮膚の一部は炭化しているのではないのかと思うほどに真っ黒でしたの。

 

 本来なら後から来る救急隊員に任せるべきなのかもしれません、しかしこんな危険な状況の中でこの子を見捨てるという選択肢はわたくしの中にはありませんでしたわ。

 

 「大丈夫っ、今っ、助けますので……っ!」

 『プっ、プイイ~~~~!!』

 

 しかし、普段竹刀や書類の束以上に重たいものを殆ど持ったことのないわたくしには人一人分の体重は中々厳しいものがあり、プイプイさんにも押すのを手伝ってもらっても尚その歩みはとても遅いものとなってしまいます。

 

 「プイプイ~~! 何処なの!? プイプイ~~!」

 「プイプイちゃ~ん! 返事をしてくださ~い!」

 「のぞみ……!?」

 

 その時、未だ煙でよく見えない向こう側から人の声が近づいてくるのが聞こえ、そこにはのぞみの声もありましたわ。

 助けに来たつもりでこんなことを言うのは気が引けますが、今はこの子を助けるために彼女にも運ぶのを手伝って貰おうと足を速めます。

 

 「あっ! プイプイちゃん! 迎えに来ま……した、よ~……」

 「……のぞみ?」

 

 しかし、煙の向こう側にいた人物はのぞみの声と顔をしていながらも、のぞみ以上に長く、輝く金髪をした黄色い派手なドレスに身を包んだ彼女そっくりの女の子――というより、衣装と髪型をまんま変えたのぞみが立っていました。

 

 『……あっ! テーレ! みもり、エスキュートっプイ!』

 「……ふええぇぇぇ~~~!?」

 

 彼女の姿を見て固まっていると、肩を貸している女の子の後ろから顔を出したプイプイさんがのぞみを違う名で呼び、その言葉の内容にのぞみがまた今日一番の驚いた声を上げていましたわ。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 「あの、その……」

 「どうしました、部長?」

 

 夕焼けに照らされた帰り道、落ち着きを取り戻した山彦部長がおずおずと話しかけて来る。

 足を止めて振り返ると、まだ若干泣いた影響で腫れぼったい顔を逸らした彼女は気まずそうに口を開く。

 

 「その、今回も……助けていただいて、すみません」

 「なーに言ってるんですか、んなもん当たり前でしょう?」

 「でも、私も、魔術師なのに……処沢くんに、迷惑かけてばっかりで……」

 

 ふーむ、魔術師って言っても大半が祈祷師だし、その人たちは別に戦闘が得意なわけじゃないから別に気にしなくてもいいのになぁ。

 というか、迷惑だなんてとんでもない、彼女には付与魔術(エンチャント)や触媒の用意、魔術書の解読などなど数えきれない程に助けられているし、なんだかんだ彼女のお世話をするのも楽しいと感じている節があるのだ。

 山彦部長がいなければ俺の魔術師生活は多分、もっと淡白なものになっていただろう、そう考えるとむしろ俺が頭を下げるべきだろうか?

 

 と、思考が逸れかけたのを押しとどめると、俺は出すべき言葉を考えながら彼女に向き合う。

 

 「部長……前にも言いましたけど、義務だからあなたを助けたんじゃないんです、笑顔でいて欲しいからあれこれするんです」

 「……でも、私」

 「はいそこまで! ……こういう時、謝るよりも感謝してくれる方が嬉しいんですよ?」

 

 まだ何か言おうとする山彦部長の口に人差し指を当てると、お茶目にウィンクをして彼女を見る……大丈夫かな、ウィンクとか気持ち悪いって思われないよね?

 

 「…………はい、はいっ……ありがとう、ございます」

 「へへへっ、どういたしまして」

 

 これで彼女の心に安らぎを与えられたかは分からない、それでも、こうして彼女が笑いかけてくれるのなら、俺はきっとまた何度だって頑張れるだろう。

 そんな事を考えながら、俺たちは再び夕焼けの道を歩き出した。




【シルクハット】

 魔術師コルウスが被るシルクハット
 特に魔術的効果はないが、本人は物の隠し場所として重宝しているようだ。

 帽子は、日や雨から頭を守り、自らの急所と素顔を隠すための最も身近な道具の一つである。
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