変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第26話「刑二、爆発する」

 「くそっ! くそっ! なんだよ、褒められるなんて噓っぱちじゃないか!」

 

 林間学校のイベントが一通り終わり、各々が休憩を取る中、田中は短髪の頭を掻きながらずんずんと自然の中を歩いていく。

 あの弱そうな眼鏡の口車に乗って、退屈なのを我慢してつまらない奴らに協力までしたのにお目当ての出来事は起こらなかった、というのが田中の認識であった。

 田中はこのままバックレて家に帰りたい気持ちでいっぱいであったが、せっかく来たからには何か持って帰りたいと、珍しい虫を探して森や茂みに目を光らせていた。

 

 「……ん?」

 

 そうして周囲に気を配っていたからこそ、木漏れ日を浴びて一瞬何かが光ったのを田中は目敏く発見する。

 何事かと思ってその場所に行ってみると、そこには土に半分埋もれたアクセサリのようなものがあった。

 しかも奇妙な事に、アクセサリの後ろの地面にはちょうどアクセサリと同じ太さで線を描くように土を引きずり、掘り起こしたような跡がある。

 

 「なんだこれ……」

 

 田中はその光景に自らの好奇心を刺激されると、その衝動のままにアクセサリを手に取り、地面から引き抜いてみる。

 そこには楕円形の金属板の上に、緑色の宝石が羽ばたく鳥のような形で取り付けられたキラキラと輝くアクセサリが田中の手の中にあった。

 その輝きに目を奪われた田中はそのアクセサリを自分のポケットに入れようとして――周囲の異変に気が付く。

 

 「うっ、うわっ!? 虫!?」

 

 自分の周囲から黒い点の群れのようなものがわらわらと集まり出したのだ。

 思わず手に持ったアクセサリを落として後ずさりすると、虫のような黒い点はアクセサリにどんどん集まり、次第に形を作っていく。

 

 「あ、ああ……」

 

 それは、アクセサリを中心に胴体、頭、足――そして翼を形成し、どんどんと大きくなっていく。

 田中に生物としての根源的な恐怖を掘り起こすのに十分な大きさにまで膨れ上がった影は、緑に光る眼を田中に向けると、周辺の草木を揺らす程のつんざくような咆哮を上げた。

 

 『クアアアーーー!!』

 「う、うわあああ!!」

 

 この時の田中にとって幸運だったのは、咆哮を前に足が竦むのではなく、逃走を選べたことだった。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 「! な、なんでしょうか、今の音は……!?」

 「生き物の声……?」

 

 休憩のはずがいつの間にか姿を消していた田中の捜索に切り替わってしまった昼食後、花咲ちゃんや宙銀さんみたいなごく一部を除けば、俺含めて皆だるそうに彼の捜索を続けていた。

 すると、突如として耳障りな大音響が森の方から響き渡り、幾羽もの鳥が飛び立っていく様子が見えた。

 加えて、耳に身体強化を集中していた俺は音響の中に、人間の叫びも含まれていた事に気が付く――田中が危ないかも知れない。

 

 「すみません、ここ頼みます!」

 「えっ? 刑二お兄さん――わぁっ!? 速い!?」

 「ちょっ、ちょっと処沢さん――!?」

 

 花咲ちゃんの驚く声や困惑する宙銀さんも無視して今俺の出せる全速力で森に向かう。

 今も尚聞こえる地響きの音を頼りに木の根を飛び越えて疾走すると、やがて視界の端の木が倒れるのを目にした。

 

 『クキェエエーー!!』

 「うわあああん!!」

 

 そこには今にも鳥の影の嘴を背中に刺されてしまいそうな田中の姿が俺の目に入った。

 俺は一瞬、いつものようにマスクとコートを着用しようと懐に手を伸ばしかけるが、それでは間に合わないと判断し手を止める。

 何も身につけないまま飛び込む事にほんの少しの抵抗感はあるものの、そんな事を考えている内に俺の身体は既に田中の元へと飛び込んでいた。

 

 「わあっ!?」

 「ぐぅぅ!?」

 

 田中を抱きかかえ、彼が身体を打ち付けないように俺の内側に抑え込みながら地面を転がる。

 やがて背中が樹にぶつかった事により、俺の肺の空気を押し出しながらもその勢いは止まった。

 

 「ゲホッ! 痛ぅ……大丈夫かっ」

 「う、うああ……」

 

 少ない空気を吐き出す苦しさを耐えつつ、腕の中の悪童に怪我の確認をするも、彼は呆然と俺を見上げるだけで何も言わない。

 仕方が無いので俺が一旦彼を離して頭からつま先までさっと見るが、どうやら強くどこか打ったりはしなかったようだ。

 

 『クエエエ!』

 

 一安心していると、少し離れたところにいる影の鳥がこっちを見て歩み寄って来る。

 時間がないと判断した俺は田中を無理やり立たせた後、その両肩をばしんと叩いて我に返らせた。

 

 「いいか、よく聞け! 今からあそこに向かって全力で走れ! そんでできるだけ施設のみんなに避難するよう言ってくれ!」

 「えっ? あっ……」

 「聞こえなかったか!? 施設まで走って、逃げるんだ!!」

 

 俺の声が聞こえてるだろうに、何時までも呆然としてる様子の田中に苛立ちつつも、いよいよ距離を詰めてきた影の鳥に立ちはだかり、後ろに田中がいるのを確認する。

 そんな俺の姿を見て田中はようやく動き出したようで、俺に声を掛けた。

 

 「お前、お前はどうすんだよ!?」

 「こいつ引き付ける!」

 「無理だよ! 弱虫眼鏡じゃやられちゃう!」

 

 うっさいわアホ~~! こちとら退魔師じゃボケ~~!

 と、内心罵倒したがだからと言って人前で魔術師としての姿に変わるところを見せるのはいよいよヤバいという時まで温存すべきだろう、今はまだあいつの気はこっちに向いているから大丈夫だ。

 記憶処理の魔術だって完璧ではない以上、リスクはなるべく避けたいのだ、だから早く走れ!

 

 「いいから、早く!」

 「で、でも……!」

 「だぁ~~もうっ!」

 

 自分にできる事なんてあるわけないのに何をしているんだこのお子様は? どれだけ人に迷惑かければ気が済むんだこの野郎!

 そんな思いを最後に、とうとう堪忍袋の緒が切れた俺は子供相手だというのも忘れて振り返ってあらん限りの声を上げた。

 

 「早く行けェ! 俺を困らせたいのか!?」

 「うっ……うああああ!!」

 

 そうしてようやく田中は俺に背を向けて叫び声を上げながらその場を去った。

 ……一方で俺は思いっきり叫んだ事と、田中のくしゃくしゃの泣き顔を見たことで一気に冷静さが戻り、かなりブルーな気分になる。

 

 「はぁぁぁ……」

 

 子供相手にやってしまった……化け物に身体を貫かれたり食われかけた事に比べると些事なハズなのになんでこんなに苛ついてしまっているのだろう?

 ショッピングモールの件での怒りが尾を引いているのだろうか……ともかく、転生者という大人がやっていい事じゃないよな……。

 

 「……全部お前たちのせいだ」

 『クエエ……!』

 

 こうなったら、残りの苛立ちを全部こいつにぶつけてしまおう。

 やけくそ気味に指に挟んだ枝を一気にへし折ると、俺の身体にはいつものマスクとコート、両手には剣と盾が握られていた。

 

 

 ☀~~~☀

 

 

 「はぁ……! はぁ……!」

 「田中くん!」

 「大丈夫ですか!?」

 

 物凄いスピードで森に向かって走っていった先輩の処沢さんを追いかけていたら、その途中で小学生の一人である田中くんが汗をダラダラと流しながら、血相を変えてこちらに向かって走って来た。

 私たちの顔を見て力尽きるように倒れる田中くんの身体を咄嗟に支えながら、彼に何があったのかを尋ねる。

 

 「田中くん、どうしたの? 何があったの!?」

 「ぜぇ、ぜぇ、めがねの、めがねのにいちゃんが……」

 「……刑二お兄さんに、なにかあったんですか!?」

 

 息も絶え絶えに何とか言葉を紡ごうとしている田中くんを前に、処沢さんと思わしき特徴の人物について言及があったためか花咲さんが心配するような様子から一転して、目を見開いて田中くんに詰め寄るように声を上げる。

 私はそれを手で制しつつ、田中くんの背中をさすってゆっくりと呼吸を整えさせた。

 

 「森、歩いてたら……でっかい真っ黒な鳥が出て、襲われて……おれを逃がすって、にいちゃんが……」

 「黒い、鳥……?」

 

 この地球で襲われる黒い鳥なんて、カラスくらいしか思い浮かばないけれど……あんな大きな音を出すカラスなんて私の知る中にはいない。

 そうなると……まさか、ボガスカン!? そうだとしたら、ただの人間である処沢さんはただじゃすまない! 急がないと!

 

 「ごめんなさい、花咲さん! 田中くんをお願い!」

 「えっ、ひとみお姉さんまで――わぁ!? ひとみお姉さんも速い!?」

 

 遠くなっていく花咲さんの声を背に私もまた森の中に全力疾走し、その途中でエスパッションを開き、告げる。

 

 「『エスキュート・メークアップ』!」

 

 エスキュートとして、そして同じ学校の、同じ部活の後輩として彼の事は絶対に助ける。

 そんな決意と共に、私は自身を包む光を突き抜け、エスキュートのドレスを身に纏った。

 




【原始魔術】

狭義的には『呪術』に分類される魔術の事
主に紀元前から使われた魔術がこれに分類され、その多くは野性的な儀式を主とし、時に忌避感を抱かせるものも多く、魔力コントロールの難しさや費用対効果の面でも問題があり、大半の魔術師はこの魔術を使おうとはしない。

また、自然現象そのものを触媒として使う事も多い
しかし、生き物の本能こそが世界の真理に近づけると考える者たちは未だにこの術を重視している。
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