変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第29話「空の王子様」

 「な、なぁ……もう帰ろうぜ……!」

 「ダメです! 刑二お兄さんもひとみお姉さんも田中くんのために頑張ったんじゃないですか!」

 

 しせつに急いで向かう途中、そんな事を言う田中くんをしかってあやめは彼の手を引っ張って走っていました。

 田中くんの様子からただ事ではないと感じたあやめたちは、ひとみお姉さんが刑二お兄さんを探しに、あやめが田中くんを連れてこの事をみんなに知らせる事にしました。

 

 「ぜぇ、ぜぇ……!」

 「はぁ、はぁ……!」

 

 もとよりつかれていた田中くんはもちろん、それほど運動できないあやめも中々しせつにたどり着けません。

 ですが少しでも早く大人の人たちに知らせて刑二お兄さんたちを助けてもらおうと、必死に足を動かしていました。

 

 「――ぁぁぁぁああああ!?」

 

 その時です、お空の上から人の声が聞こえたと思ったら、ドーーン! と大きな音が目の前でしました。

 続いて、地面がぐらぐらと揺れて、ぶわっと膨れた黒いなにかがあやめたちをおおいます。

 

 「うわっ!? ゴホッ! ゴホッ!」

 「きゃあ!? けほっ! けほっ!」

 

 目を瞑ってせき込んでいると、その内ゆれがだんだんと収まってきて、そこであやめたちは目を開きました。

 すると――すぐ目の前に大きな大きな黒い鳥が、その光る眼でじっとあやめを見ていました。

 

 「うわっ! うぁぁーー!!」

 「――――」

 

 その顔を見て、どんどん大きくなる怖さですぐに分かりました、田中くんをおそったのはこの鳥です。

 食べられちゃう、そう思ったらすぐそばで悲鳴を上げている田中くんの声が何だか段々と遠くなって、あやめはそこから何も分からなくなってしまいました。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 「あ、危なかった……!」

 

 俺の下敷きになって胴体が潰れ千切れたボガスカンからまだふらつく足で降り立ち、未だにうるさく鳴り続けている心臓を鎮めようと手を胸に当てる。

 一応再生しないか振り返ると、『浄火』に炙り続けられた奴はその形を保てなくなり、その身体に青い炎が広がり始めていた。

 

 「……あと少し火加減が強けりゃ道連れだったな」

 

 こいつが鳥の形をしていてよかったと心底思う。

 あの後少しでも減速するために『浄火』で奴の再生と抵抗を防ぎながら翼の角度を調整して空気抵抗を最大限受けられるようにした後、接地前に全ての羽根を使って込められるだけの魔力を全て注ぎ込んで『くらましの影』を発動したのだ。

 その甲斐あってこうして俺は無事に地上に帰ってこれたというわけだ……うん、人間やっぱり地に足のついた生活が一番である、二度と空なんて飛びたくない。

 

 「うーーん……」

 

 周囲にばら撒かれた柔らかい羽根の上で息を整えていると、すぐ近くで誰かの呻き声が耳に入る。

 落下に巻き込んでしまったかと慌てて周りを見回すと、羽根の絨毯から二つの塊がこんもりとできていた。

 急いでその塊から羽根を退けると、気を失った田中と花咲ちゃんが青ざめた様子で魘されていた。

 

 「怪我は……っ!? ない、脈も……よし、正常だ」

 

 二人の身を起こして一通り身体の状態を確認するも、特に目立った負傷は見当たらなかったようでホッとする。

 一先ず戦いに巻き込んで死傷させてしまうという最悪の事態を回避できたことに一息つくと、丁度そのタイミングで腕の中の花咲ちゃんが動き始めた。

 

 「うぅん……う、ここは……あなたは……?」

 「よかった、花――ンン゛ッ! ……痛いところはないかい?」

 「あ、はい……?」

 

 目を覚ました花咲ちゃんに一瞬素で話しかけそうになるが、今の自分が『魔術師(コルウス)』であることを思い出して咳払いで誤魔化す。

 そして普段より低い声で、しかし威圧感を感じさせないように極力優しい口調で問いかけた。

 花咲ちゃんはそれに対しまだぼんやりとした様子で頷いたが、次第に意識がはっきりし始めると、ばっと身体を起こして辺りを見た。

 

 「あ、あの鳥さんは!? おっきくて、黒いあの怖いのは!?」

 「……大丈夫、そんな奴もういないさ」

 

 彼女が言っているのはさっきまで俺とシルバーが戦っていたボガスカンの事だろう、そう思って俺はチラリと今も尚燃えている奴の残骸に視線をやる。

 すると、俺の視線に気づいた花咲ちゃんが身体から顔を出してそれを覗いてしまった――視線を戻した俺がそれに気づいた時には既にがっつり残骸を見ている。

 しまった、また子供にショッキングな場面を見せてしまったか、とあの怯えたエスキュート達の様子を思い出しながら焦っていると、火に照らされた彼女の瞳がキラキラと輝いて俺に向けられた。

 

 「……あれ、あの鳥さんですか?」

 「……? あ、ああ」

 「あなたが、やっつけてくれたんですか?」

 「えぇ……? ……まぁ、うん」

 

 思っていたのと違う様子に戸惑いながらも、花咲ちゃんの問いかけに答えていくと、次に彼女の口元がめいいっぱいの笑顔に変わり、頬に朱を差して俺にしがみついてきた。

 ひたすら困惑する俺を他所に、彼女はぐりぐりとコートに頭を擦りつけて来る。

 

 「すごい……! 助けてくれて、ありがとうございます!」

 「……? ??? え、ああ、どういたしまして?」

 

 あれ、結構平気そうだぞこの子? ……よく考えたら、今回の相手は単なる影の塊みたいなもんだし、倒し方も血……というより、液体化したエネルギーを飛び散らせない焼却だったから、あんまりグロくないのかも?

 

 「えへへ、素敵なカラスさん……お名前を聞いてもいいですか?」

 「ああ、俺の名前は『コルウス』……っ!!」

 

 そう思っていると、ふと誰かが猛スピードでこちらに迫ってきている気配を感じる――多分、シルバーがここに向かっている。

 まだ言い訳が思いついてない以上、再び姿を見られるのは不味い……俺は急いで記憶の処理だけでもしようと、花咲ちゃんをちょっと強引に身体から引き剝がすと懐から睡眠薬の瓶を取り出した。

 

 「いきなりですまないが、ちょっとコレ飲んでくれ……!」

 「んむっ? ……んぐっ、んぐっ」

 

 瓶のコルクを抜いて花咲ちゃんの唇に付けると、彼女は少し驚いた顔をしたが、次の瞬間には素直に口を開けて流し込む液体を飲み込んでくれる。

 ……味付けにハチミツを使っているから、多分すぐ飲み込めるはずだ。

 

 「ふわぁ……ジュースですか……? ありがとう、ございます……」

 「……いいかい? 今までの事は、全部タダの悪い夢さ、君は怪物になんか襲われなかった、いいね?」

 

 飲み込んですぐに瞼が降り始めた花咲ちゃんに、俺はそんな事を言う……どうせ消えてしまう記憶だから意味なんてないのだけれど、少しでも彼女の今日の記憶が良いものであると願うとつい口から出て来たのだ。

 すると彼女は閉じる寸前の目で俺を見返すと、最後にゆるりと微笑む。

 

 「わるいゆめなんかじゃありません……こるうすさんが、たすけてくれた……すてきな、ゆめ……」

 「……………」

 

 その言葉にちょっと鼻の奥がツンとする感覚が走るが、今は感動に浸っている場合ではない。

 俺は花咲ちゃんと田中の二人を並べると、忘却の呪符を額に貼ってその上に勿忘草の粉末を乗せる。

 

 「『ンワバウ・ヲリキノクオキガジンナ・ノモムゾノヲクャキウボ・レワ・ノモシリツヤアヲマ・レワ』……」

 

 人生二度目となる『忘却』の呪文を詠唱し始める、今度は前よりスムーズに詠唱できたため、この分ならシルバーが到着する前に処理が完了するだろう。

 そんな事をふと考えながら、白い煙を上げる粉末を前に最後の魔術名を告げた。

 

 「『忘却』――あっ!?」

 

 しかし、ここで思わぬハプニングが起こる。

 魔術を完成させた直後、唐突に吹いた一陣の風が花咲ちゃんに乗せていた勿忘草の粉末を僅かに飛ばしてしまったのだ。

 一応残りの粉末は全て煙に変わったし、呪符も崩れ去ったから不発という事は無いだろう、そしてこの術は様々な実験を通して不用意な効果をもたらしてしまう事は無いと魔導師から聞いている。

 なのでこのハプニングで花咲ちゃんが傷つくことは無いと思うが――

 

 「大丈夫だよな、記憶、消せたよな……?」

 

 そんな不安が頭を過る、しかしいよいよシルバーの気配が近づいてきた今、改めて術を掛け直すわけにもいかない。

 俺はコートと帽子、それからマスクを変化術で枝に変えると、手の中の物を全て制服の内ポケットに突っ込んで、その場で倒れているふりをした。




【使い捨て触媒】

触媒のうち、一度魔術を発動させたら消滅・使用不可になるものを指す。
『メイクシフト型』とも呼ばれるこの分類は、紙や木の葉などの手に入りやすいが簡単な魔術の負荷にも耐えられない素材が該当しやすい。
魔力そのものを触媒とした場合も、一応この分類に入る。

その特性から、非常に手に入りやすい上に用済みとなった触媒を自動的に破棄して証拠隠滅・軽量化が図れるという理由で現場で働く魔術師、特に退魔師からの人気が高い。
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