変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第30話「ある少女の問い」

 「! ボガスカン……!」

 

 最初に目に入ったのは、大量の羽根の中央部で既に原形をとどめていないボガスカンの姿だった。

 青い炎がその全身を焼き続けており、その炎の一部は羽根にも飛び火して燃え盛っている。

 

 「……! 3人とも! 大丈夫!?」

 

 次に、その羽根の範囲外で倒れている花咲さんと田中くん、そして処沢さん達3人を見た私は、最悪の事態を想像しながらも声を掛けて近寄っていく。

 その際にボガスカンがいなくなったことによる緊張感の弛みと、力を沢山使った事による体力の消耗、そして見知った人たちが倒れているのを見た事による気の動揺で変身が解けてしまうが、それよりも今はあの3人の安全確認だ。

 

 「ねえ、起きて、返事をして……!」

 「う、うぅ~~ん……」

 

 私が3人の身体を揺らして声を掛けると、真っ先に処沢さんが意識を取り戻し、ゆっくりとその目を開けた。

 私の顔を見た彼は、しばらくパチパチと瞬きすると、困惑した様子で話しかけて来る。

 

 「……えっ? あれ? 宙銀さん?」

 「はい、ひとみです……起きられますか?」

 「あぁ、はい……よいしょっと」

 

 処沢さんはゆっくりと上体を起こすと、制服の裾についた羽根をパンパンと払いのける。

 ……靴とズボンの裾の汚れは激しいが、それ以外に目立った箇所は無く特に怪我もしていなさそうだ。

 隣で眠っている二人も、スヤスヤと安らかな寝息を立てている事からその身に何か起こったわけではないらしい。

 

 「えぇーっと……どうしてここに? 確か、花咲ちゃんの事お願いしたような……?」

 「あっ、それは……! そ、そうです! 処沢さん、コルウスに何かされませんでしたか!?」

 

 処沢さんの問いから頼まれていた事を放棄していた事に気が付き、申し訳ない気持ちになるがすぐさまその後のコルウスとの会話を思い出す。

 コルウスは処沢さんと接触していて、何故かその事を隠そうとしていた、となると奴が処沢さんに何かをした可能性が高い……!

 そう思って問いかけてみるものの、彼の反応は芳しくなかった。

 

 「こっ、こ、コルウス? い、一体何を言ってるんですか?」

 「あっ、えーっと、その、コルウスっていうのは、カラスみたいなマスクを被った真っ黒な人で……」

 「……すみません、何のことかさっぱりです」

 

 そうだ、コルウスという名はあくまで私たちエスキュートとワルジャーンだけが掴んでいる情報、名前だけ出しても分かるはずもない。

 それに気づいた後はできるだけ奴の特徴を挙げてもう一度聞いてみるも、処沢さんは最初の時と同じく困惑した様子で首を傾げるだけだった。

 ……口止めをされている様には見えないし、本当に知らないようね。

 

 「あー……っと、そうだ! 確か田中くんを探しに来たんですよね! ……あれェ? 隣で寝てるゥ……」

 「……とりあえず、連れて帰りましょうか」

 

 走り回って疲れているであろう処沢さんには花咲ちゃんを任せて、私は田中くんを背負って元の道を引き返していく。

 結局コルウスは見失ってしまったし、起きた二人にそれとなくボガスカンの事を聞いてみるも何も覚えていなかった。

 けれども、今はみんなが無事だったことを喜ぼう……またしても何もできなかった悔しさに蓋をして、自分にそう言い聞かせた。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 「あ゛ぁ~~……うめぇ~~……」

 

 俺は風呂上がりに購入したフルーツ牛乳を片手に椅子に腰かけ、人気のないエントランスの窓から見える夜空を眺めていた。

 すぐ傍には普通の牛乳とコーヒー牛乳もある為、20分くらいここにスマホ片手にゆっくりと居座る所存である。

 

 「ごくっ、ごくっ、ごくっ……ふぃ~」

 

 あの後も大変だった、四人そろってどっか行ってしまったもんだから全員怒られてしまったし、昼休みギリギリだったから今後の予定が狂う事は無かったものの、昼の自由時間を潰された子供たちの田中への視線は冷たく、空気も最悪だったものだからフォローが本当にきつかった。

 

 『遅れてしんぱいかけてしまったのはあやめも一緒です……ごめんなさい!』

 

 花咲ちゃんがあの時あの言葉で頭を下げてくれなきゃどうしようもなかったかもしれない、本当に信じられないくらいいい子である。

 ……でもまあ、あの言葉に助けて貰っておいてなんだけど別に花咲ちゃんが謝る事なかったと思うけどなあ、元を正せば田中が悪いのは事実だし。

 

 「あの……お隣いいですか?」

 「ん? あぁ、どうぞ……ちょっと待ってくださいね」

 

 後ろから声を掛けられ、振り返ってみるとそこには俺と同じく風呂上りに学校のジャージに着替えた宙銀さんがそこに立っていた。

 特に断る理由もなかったため少し身を寄せて座りやすいように傍に在る牛乳瓶を退ける。

 すると宙銀さんの視線が移り行く牛乳と共に移動していたので、俺は恐る恐る尋ねてみた。

 

 「あー……よかったらコレ、どっちかいります?」

 「!! ……いいのですか?」

 

 一瞬ではあるが、確かに瞳を輝かせた宙銀さんを見て俺は片手に牛乳とコーヒー牛乳を持って彼女に差し出す。

 彼女は一度視線を交互に移すと、コーヒー牛乳をなんだか物珍しそうに見ていた。

 

 「この、コーヒー牛乳というのは……?」

 「えっ? 知らないんすか? コーヒー牛乳」

 「ええ……コーヒーは知っているのですけど……」

 

 マジか、コーヒー知ってるのにコーヒー牛乳知らないなんてあり得るのか? と驚いたが、宙銀さん、なんか振る舞いが普通の人とは違うっぽいし、どこか由緒正しかったりセレブの生まれなのかもしれない。

 それならまあ、知らなくてもおかしくないのか……?

 

 「コーヒー牛乳……やはり苦いというか、コーヒーが入っているのでしょうか?」

 「んん……? いや、まあ安物ですし実際には風味がちょっとコーヒーっぽいだけだと思います、苦いよりむしろ甘い飲み物――」

 「ではこちらにします」

 「――早いっすね……」

 

 俺の説明を最後まで聞かずに宙銀さんはコーヒー牛乳を指差す、俺が呆れつつも差し出すと、彼女はすぐさま蓋を開けてゴクゴクと飲み始めた……喉、そんなに乾いてたのかな?

 

 「……! これ、とても美味しいですね」

 「ははっ、美味しかったなら何より……作ったの俺じゃないですけど」

 

 心なしかイキイキとした様子でそんな事を言う宙銀さんに、つい笑いが漏れてしまう、当初のクールさはどこへやら、こうして見ると結構愉快な少女だった。

 宙銀さんはそんな俺の様子を見て少し頬を赤らめると、何事も無かったかのようにすとんと隣に座る、一方俺はフルーツ牛乳が空になったので二本目の普通の牛乳を開けた。

 

 「すみません、はしゃぎすぎてしまいましたね……」

 「いえいえ、全然いいですよ、宙銀さんなんだか会った時から張り詰めてましたし」

 「張り詰めて……」

 

 牛乳をチビチビ飲みながらそう言うと、宙銀さんはどこかハッとしたような表情で下を見つめた。

 そうしてしばらく唇を口内に含む仕草をした後、下を見たまま話し始めた。

 

 「そうですね……私にはちょっと、やらなきゃいけない事が多くて……」

 「多いんですか……大変、なんでしょうね……」

 「ええ……」

 

 うーん……駄目だ、とりあえずオウム返しで相槌は打ったが何のことかさーっぱり分からん。

 あっ、でもこの林間学校に参加したって事は『特例部活制度』絡みか? という事は成績か、多分上位の成績取る事のプレッシャーとかそんなんかな?

 と、彼女の言葉の意味をアレコレ推察していると、不意に彼女はずいと俺に近寄りながら顔を上げて来る、どことなく潤んだ銀色の瞳に押されて、俺はちょっと後ずさった。

 

 「あの、今日は色々手伝ってくれたお礼と……聞きたいことがあるのです」

 「聞きたい事?」

 「はい」

 

 ……こんな改まった雰囲気で、一体何を聞こうというのだろう。

 俺がごくりと生唾を飲むと、彼女は重い口を開き始めた。

 

 「処沢さんは、危ないかも知れないのに、どうしてあの時田中くんを真っ先に助けに行けたのですか?」

 「えっ?」

 

 しかし、深刻な様子から放たれた問いは余りにも意外なものだった。

 何故なら、それは俺にとって当たり前すぎてまさか今更聞かれるだなんて微塵も思ってもみなかったからだ、そもそも質問の意図が分からない。

 

 「どうしてって……えーっと……?」

 「私は、故郷を助けるためにこの場所に来ました……でも、全然うまくいかなくて、助けなきゃいけないのに……」

 

 俺が一体なんて答えた者か迷っていると、宙銀さんは俺が何か言う前にまた別の事を話し始める、しかもその内容は、今度はとても口を挟めるようなものではない重たいものだったのだ。

 そんな固まっている俺を置いてけぼりに、彼女は言葉を紡ぎ続ける、その瞳は最早俺を映してはなく、どこか遠い場所を想っているようにも見えた。

 

 「みんなの前じゃ言えないけど、最近はもう、頑張っても無駄なんじゃないかって……そんなコトないっておもおうとしてもっ、イヤになっていく気持ちがどんどん大きくなっちゃって……」

 「…………」

 

 ついに潤んだ瞳からは涙が溜まり始め、宙銀さんは何かを堪えるように下唇を噛んでいる。

 その様子を見て、俺は今更ながらに理解した、この娘のクールな佇まいは、言わば仮面だ、追い詰められて、苦しみからどうしようもなく逃れられなくなった者が被る――

 

 「私、わたし……どうしたらいいの……?」

 

 悲鳴を押し殺すための、仮面なのだ。

 とうとう流れ出た一筋の涙を前に、俺はかつての美音の姿を思い出していた。




【回数制触媒】

使い捨てのように一度使った程度で壊れたりはしないが、何度か使うと効力を失う触媒を指す。
『リミテッド型』と呼ばれるこの分類は、主に脆い水晶や古びた魔道器具が該当する。

とにかく一度で壊れなければ該当するので、非常に幅広い触媒がここに分類される。
ある2つの試験をクリアすれば【半永続触媒】として認定されるが、必要な試験期間の長さから一時的な分類としてここに分けられる触媒も非常に多い。
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