変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第33話「ゴールデン・トレーニング!」

 「こ、これは……」

 

 世間がもうすぐ訪れるゴールデンウイークに浮かれている中、部室で触媒を補充し、切り傷のできたコートの修繕を行っていると、何やら美音さんが部屋の隅の方でぶつぶつと呟いているのが見えた。

 特に触媒などは手に持っていなかったので、魔術の詠唱ではないと思われるが……それにしたって、なんだか物々しい雰囲気である。

 

 「流石に、そろそろ不味いですね……」

 「美音さん? 不味いってなにがですか?」

 「ひゃあ!? けけけ刑二くん! なんでもありませんよ! なんでも!」

 

 不穏な単語が聞こえたため、流石に放置して道具の準備をするわけにもいかないだろうとコートの修繕を中止し顔を上げて美音さんの方に振り向く。

 すると彼女は慌てて立ち上がると、わたわたと手を振って俺からの注視を避けようとしているが、チラチラと足元を見ているのがバレバレであった。

 何かと思い、視線をそのまま下にやると、見覚えのある白いプラスチックの板が……と、それの正体を知ったところで視線を外した、必要もないのに乙女の秘密を探るのは野暮というものである。*1

 

 けれどまあ、気にしているというならそれはそれで丁度いい、と俺は懐にあるものの重さを僅かに感じながらやや緊張しながら美音さんに話しかける。

 

 「…………ああ~……その、美音さん?」

 「な、なんですか……?」

 

 後ろ足でこっそり例の板を物陰に隠そうとしている美音さんに対し、俺は懐から2枚のチケットを取り出して、彼女にもよく見えるように広げて見せる。

 美音さんはチケットの内容を見ようとトテテとこちらに歩み寄ると、その紙面をまじまじと眺めた。

 

 「これは……アトラクション施設、というやつですか……?」

 「今度のゴールデンウイーク……ここに遊びに行きません? 結構運動にもなるらしいですし、気分転換にもいいかな~って……」

 

 俺がこんなものを持っている理由は単純明快、普段お世話になっているスーパーでやっていたくじのイベントで見事、この1等のペアチケットが当選したからである。

 本当は2等の電動自転車とか、3等のお米引換券とかが欲しかったのだが……こういう時に限って無駄にいい結果が出るものだ。

 

 「……そうですね、籠りっきりも良くないですからね」

 「じゃあ、明日の朝迎えに行きますんで、持ってきてほしい物とかあったら帰るまでに言ってください」

 「わかりました」

 

 とりあえずスポドリは多めに持っていくとして、運動後の着替えとかも用意しておこう、あとはお昼用の弁当も用意して……美音さんの事だから昼はお茶が飲みたいとか言い出すかもな、これも持っていくか。

 こういう大荷物を持っていく時、『身体強化』は本当に便利である。

 

 「あ、でも替えの下着とかは流石に自分で持ってきて下さいね」

 「……あの、ひょっとして私、物凄く手のかかる人だと思っていませんか?」

 「……生活面は、まあ、はい」

 

 俺の一言にうぐぐと悔し気に呻き声を上げる美音さんだったが、少なくとも手のかからない人ならわざわざカレーを作り直させたりはしないと思う。

 いや、この間の宙銀さんの件と言い、逆に俺の方がうっかりしていてそれを助けて貰っている場面も多々あるから、美音さんがだらしないとかそういうことは……まあ、あんまり考えていない。

 そんな事を考えていると、彼女は何かを思い出したかのように自分の机の引き出しから長方形の紙――色々とボタンのようなものが描かれた、まるで紙のキーボードのような物を取り出した。

 

 「そういえば……この間オペレーターの試験、合格しました……これで今度から、刑二くんの戦いのサポートができますよ」

 「えっ、何時の間に……!? というか、大丈夫なんですか?」

 

 オペレーター――退魔師の戦闘状況や仕事内容を把握して、通信を介してサポートし、人によっては物資支援、火力支援なども兼業して行う『祈禱師』の仕事の一つである。

 直接戦闘に参加する事はないものの、退魔師の心強い味方であり大抵の退魔師はオペレーターとコンビを組むのだが、オペレーターも当然、誰でもいいわけじゃない。

 オペレーターの仕事を行うには今美音さんが持っているような、魔術情報を管理する『グレムリンキーボード』とそれを与えるための『オペレーター試験の合格証書』が必要なのである。

 

 「試験って、確かシュミレーションとはいえ、かなりリアルな戦況で実際に退魔師をサポートして勝たせるってやつでしたよね……? その、美音さんは……」

 「もう、怖いとか、言っていられる状況じゃありませんからね……あと、シュミレーションじゃなくてシミュレーションです」

 「あっ、間違えました……」

 

 怪物にトラウマのある美音さんには、かなりキツい試験なはずだと聞こうとしたら、彼女に英単語の誤りを指摘されてしまう。

 ああ、やっぱり英語苦手だなぁ、と恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻いて――って違う、そんな話をしていたんじゃなかったんだった。

 

 「じゃなくて! ええと、ほら、そのキーボードだって、グレムリンって悪魔が憑いてるんですよ? それに――」

 「大丈夫です……実は以前から、こっそり練習していたんです……ショッピングモールの時は、情けない姿をお見せしてしまいましたが……」

 

 俺の心配の言葉を遮って、美音さんは俺を安心させようとふっと微笑んで告げた。

 そう言われれば、触媒の用意や術書の解読以外にも何やら熱心に取り組んでいる時もあったかもしれない。

 あの時はてっきり術書の解読に必要な事をしている者だとばかり思っていたが、どうやらとんだ思い違いだったようだ。

 

 「そうだ、明日のアトラクションでオペレーターの練習をしましょう……きっと完璧に刑二くんをサポートしてみせますよ」

 「……そうですね、せっかくですし、ぜひお願いします」

 

 正直、また美音さんを怖がらせてしまうのではないかという懸念はあるが……それはそれとして、彼女の心意気を無得にするのは忍びないし、俺自身も一人でワルジャーンの相手をするのはしんどくなってきている節がある。

 魔術協会からの人材面での支援も当分目途が立っていない今、彼女のサポート範囲が拡がるのは本当にありがたい話なのも事実なのだ。

 

 「では、改めて明日よろしくお願いします……そろそろ持ってきてほしい物は思いつきましたか?」

 「はい……あっ、お昼ご飯は鮭おにぎりを入れてくれると嬉しいです」

 「……鮭フレークでもいいですか?」

 

 その後は地味に弁当にするには難易度の高い美音さんのリクエストを妥協させつつ、持っていくものの打ち合わせを行ったのだった。

 

 

 ☀~~~☀

 

 

 「え~っ!? 特訓って、アトラクション施設でやるんですか!?」

 「ええ、あそこにはあなたたちの力を活かせそうな場所が沢山あるわ」

 

 そう言ってひとみ先輩は7枚のチケット*2を取り出すと、それをみんなに配り始めた。

 ゴールデンウイークで特別な特訓というのだから、てっきり体力がなくなるまで走り込みとか、精神統一で滝に打たれたりとかするものとばかり思っていたわたしは、なんだか拍子抜けするような気分でチケットを受け取った。

 

 「う~ん、ここで本当に強くなれるのかなぁ……?」

 「まあまあ、楽しそうな特訓なんていいじゃないですか~」

 「のぞみ、またあなたはそんな呑気な事を――まぁ、たしかに少し予想外でしたわね」

 

 すいなちゃん、のぞみ先輩、みもり先輩がそれぞれ思い思いの考えを口にしながらチケットを受け取っている。

 だけど、そんな中でもやよいちゃんは腕を組んで何やら考えていた……やっぱり、普段運動部で頑張っているやよいちゃんにとってアトラクション施設で特訓って不満なのかな?

 

 「かぁーつっ!!」

 

 なんて考えていると、それまで沈黙を保っていたやよいちゃんが腕を解いてかっと目を見開くと、思わずみんなの動きが止まっちゃうような声を出した。

 何事かとやよいちゃんを見ていると、みんなの視線が集まっているのを確認した後にやよいちゃんはぐっと握りこぶしを作って掲げる。

 

 「みんな、そんな気持ちじゃだめだぞ! どんな練習だって、やる気がなきゃ成果は出ない! 逆に言えばキッチリ真剣に取り組めばどんな練習でもちゃんと身に付くんだ!」

 

 なんだか瞳が燃えているようにも見える程やる気が溢れているやよいちゃんに度肝を抜かれていると、彼女はそのままひとみ先輩にそのメラメラとした視線をぐるっと向けた。

 

 「ひとみ先輩!!」

 「な、何かしら?」

 「明日からの特訓! メニューをあたしが組ませてもらってもいいですか!? 絶対、すごい特訓にしますので!」

 

 結局、やよいちゃんの勢いに押し切られたひとみ先輩は首を縦に振り、急遽私たちの特訓はやよいちゃんが仕切ることになったんだけど……なんだか不安な気がしたのは、きっとわたしだけじゃないだろう。

*1
でも、一部を除いて細すぎるくらいだしもう少しあってもいいんじゃないかと思っている。

*2
きちんとプイプイの分まで入ってる!

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