変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第34話「思いがけない邂逅」

 「ひぃいー……っ! も、もうダメです刑二くん……!」

 「美音さん! あとちょっと、あと1mもありませんよ!」

 

 翌日、太陽の光が照り付ける快晴の中、俺の眼下には玉のような汗をびっしりと顔に浮かべた美音さんが顔を真っ赤にしながら壁にしがみついていた。

 まず運動をこなしてからオペレーターのテストを行うという事で方針が一致し、こうしてロッククライミングに挑戦した俺たちだったのだが、十数メートルという高い壁は、普段討伐に従事している俺はともかく、デスクワークが主な美音さんには非常に高い壁と化してしまっているようだ。

 

 「そ、その数十cmが辛いのですが……!?」

 「『身体強化』は? たしか使ってましたよね?」

 「もうとっくに切れてます……! こんなヒィヒィしてる状態で魔力コントロールなんてできませぇん……!!」

 

 何とか身体を持ち上げようとしても、その場でぷるぷると震える事しかできずに美音さんはそう言った。

 助けてあげたいが、基本後方にいる『祈祷師』だって現場で動くケースがあるし、その時に何者かに襲われないし、いつでも俺が助けに行けるという保証もない……いや、そんな事は起こさせないつもりだが、だからと言ってもしもの備えを怠っていい理由にもならない。

 

 「美音さん、呼吸を整えて……血流に乗せるようにゆっくりと魔力を回してみてください」

 「そ、そんなこと……いわれてもぉ……」

 

 魔力切れでない以上、これぐらい自力でやり遂げられるだけの事はしてもらわなければならない、俺は心を鬼にすると美音さんに向かって手を差し伸べるのではなく、思いつく限り声援を掛ける事にした。

 

 「美音さん! あなたならできます! 努力家で! 優しくて! 苦手を克服しようと一生懸命ですから!」

 「け、刑二くん……!」

 

 俺の声援に美音さんは僅かばかりに気力を吹き返したようで、少しずつ魔力の循環を始め、『身体強化』を発動させることができた。

 よし、この調子でどんどん彼女を元気づけられれば行けるぞ!

 

 「毎日美容に気を遣える人、努力を続けられる人だからこれもきっとできます! その証拠に美音さんはめっちゃかわいいと思いますよ俺は! あと、たまに作ってくれるおやつも美味しいですし! 確かお菓子作りは科学とかって言いますから、そういう知識を豊富に蓄えようという姿勢も素敵だと思います!」

 「け、刑二くん……!?」

 

 あっ、身体が持ち上がって来た! あと一息で美音さんも昇り切れる!

 顔の赤みはさらに増しているからかなりいっぱいいっぱいな状態だが……本当にあと少しなんだ、頑張れ美音さん!

 

 「それから、夜とか冷えて来るとカフェオレ持ってきてくれて一枚しかない毛布を一緒に使わせてくれましたよね! 砂糖と牛乳の量も俺好みに調整してくれたりして、ああいう細かい気遣いできる素敵な人ならこれくらいの壁なんて――」

 「わあああーー!! も、もういいですから! やめてください……!」

 

 遂に己の限界を超えて力を発揮したのか、耳まで真っ赤にした美音さんは飛び上がるように壁を昇り切り、その勢いのまま俺を押し倒して両手で口を封じて来た。

 その元気さを窺うに、もうちょっとキツいコースを昇っても良かったかもしれないが……今は一先ずやり遂げた美音さんを讃えよう。

 

 「んぐっ……やりましたね美音さん! おめでとうございます!」

 「ななな、なにがおめでとうなんですか……! 自分が何を言っているのか分かっているんですか……!?」

 

 美音さんの手を退けて賞賛の言葉を贈ると、彼女は喜ぶどころか何故か俺を責めるような目を向けてくる。

 俺には彼女の言っている事の意味が分からず、自分の発言を振り返りつつもやはりおかしなところは無いように感じた。

 

 「何って……美音さんを褒める事くらいいつも通りじゃないですか」

 「こっ……ここ、外ですよ……っ!? 誰かが聞いていたらどうするんですか……!?」

 

 そう言われて周りを見てみるが、今のところ声が聞こえそうな周りには俺たち二人以外は誰もいない。

 というのも、『身体強化』を使わないと普段鍛えてない人はまず登れないようなコースを選んで上ったのだから誰も来られないという方が正しいか。

 そもそも、事実を述べただけなのに恥ずかしがる必要は無いと思うし、もっと言うなら美音さんは俺以上に恥ずかしい事をしていたのだ。

 

 「恋人繋ぎまでしてきたのに、今更じゃないですか?」

 「あ、あれは人込みではぐれないようにするためで……は、早く次行きますよ……! うう、恥ずかしい……!」

 

 俺がそれを指摘すると、美音さんはなにやらもごもごと反論の言葉を出そうとしたが、結局彼女はその場から急いで離れる方に舵を切ったようだ。

 

 

 ☀~~~☀

 

 

 「えいっ! とおっ! ……全然上手く跳べないよ~!」

 「が、がんばってすももちゃん!」

 「あなたならできるわ、すもも!」

 

 今、わたしは常にぐねぐねと揺れる足場の上でぴょんぴょんと跳ねている。

 やよいちゃんが言うには、わたしは空中での戦いに適性があるからまずはより高く跳べるように、適切な場所で跳躍できる事でより高く跳べるこの場所が特訓にいいって言ってたけど……本当にこれで強くなれるのかな?

 

 「沈むところに足を置いて、次に盛り上がる時に思いっきりジャンプすればきっと届くと思うよ!」

 「む、むつかしい……」

 

 横で休憩していたすいなちゃんのアドバイスを聞いても、中々うまく跳べない、目標は4mはありそうな高台のスイッチを押す事だけど……あんな高さ本当に跳べるのかな?

 そうやって揺れる地面に翻弄されていると、時間切れのブザーが鳴ってわたしの挑戦は失敗に終わってしまった。

 

 「ダメだぁ~……できる気がしな~いぃ……」

 「でも、最初の時より大分跳べるようになってたよ! あと一息だよすももちゃん!」

 「一先ず、お疲れ様……はいコレ」

 「ありがとう、すいなちゃん、ひとみ先輩……」

 

 がっくりと肩を落として柵の外に出ると、ひとみ先輩がスポドリのペットボトルとを持ってきてくれて、わたしは励ましてくれた二人にお礼を言いながらそれを受け取る。

 次の挑戦者の人が同じように失敗しているのを横目に、少し休憩していると何人目かの人が入口で軽く準備運動しているのが目に入った。

 

 「――はい、聞こえてます……大丈夫、見えてます」

 

 その人は誰かと話しているように口を動かしていたけど、彼の周りには誰もいない、それが妙に不思議に感じてその人の事を見ていると、挑戦開始のブザーが鳴り、その人が一歩踏み出した。

 そして、わたしは信じられないものを見る事となる。

 

 「えっ!?」

 「嘘っ……!?」

 

 彼は最初こそ慣れない足場で殆ど跳べていなかったが、少しその場に立ち止まった後、次々と高くジャンプしては台のスイッチを押していく。

 そして残りの制限時間が半分を切っていないのにも関わらず、最後の台まで危なげなくスイッチを押すとそのまま出口を通っていった。

 

 「ええ、完璧でしたよ、これなら実戦でも――」

 「……処沢さん?」

 

 そのまま何かを呟きながらわたしたちの傍を通り過ぎようとすると、彼の顔を見たひとみ先輩が不意に誰かの名前を呟く、すると彼が足を止めてこっちに振り返ってきたからどうやらこの人の名前が『処沢』さんみたい。

 

 「はい? ……んんんっ!? 宙銀さん!?」

 「奇遇ですね、あなたもここに来ていたなんて」

 

 ひとみ先輩を見るなり飛び上がって驚く処沢さんとは対照的に、ひとみ先輩はわたしが初めて見るくらい柔らかい笑顔を浮かべて話しかけていた。

 その雰囲気に後ろで様子を見ていたプイプイも目を見開いてひとみ先輩を見つめている。

 

 『あんなひとみ、初めて見たっプイ……』

 「そ、そうだねプイプイ……」

 

 今も尚、楽しそうに処沢さんと話し合っているひとみ先輩を見ていると、俄然二人がどういう関係なのか気になってくる。

 普段ミステリアスであんまり学校での出来事を話さないひとみ先輩の事となると尚更だった。

 

 「ひ、ひょっとしてひとみ先輩……あの人の事を?」

 「うーん……どうなんだろう?」

 

 すいなちゃんとひそひそ話ながら、二人の会話が一区切りするのを待つわたしたちなのだった。

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