変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第38話「重力下の戦い」

 『ボ、ガガッ、ガガガガッ……!』

 

 黒い金属のような出で立ちのボガスカンは、次に身体を震わせ、辺りの空間ごと大きな振動を生み出していく。

 そして地面からは紫色の光が亀裂のように迸り始め、小石程度のものなら宙に浮き始める程の力場が発生し始めた。

 

 『これは……!? 空間に強力な重力場を展開しようとしています! 指定の場に移動してください!』

 「マジか!? いきなり大技かよ……!?」

 

 ペルティカの焦った声と同時、俺の視界にナビゲーションが表示され、この力場の穴場が表示された。

 引き続き身を隠すのにも適した場所を示しているその場所を見て、改めて彼女の素早い分析能力と正確なナビゲーションに舌を巻く、もしも俺一人で戦っていたのならこの技から逃れる事は出来なかっただろう。

 

 『ボガスカァァァァァァン!!』

 「きゃあああ!?」

 「うわーーっ!」

 

 俺が指定の場所に飛び込んだと同時、ボガスカンから大気を震わせる咆哮が響き渡り、次の瞬間には地響きの音と共に俺の立っている場所を含めたいくつかの地面が柱として盛り上がり始めた。

 ――そして、同じく地面の柱に立っていたのは赤沢ちゃんことエスキュート・フラムと彼女の傍にいた妖精の……プイプイだっけ? とにかく一人と一匹だけだった。

 残りの5人は重力波に巻き込まれて地面に伏せており、立ち上がることができないようだ。

 

 「ぐっ、ぐぅぅぅっ!」

 「お、重い~!」

 

 並みの魔術師より体がずっと頑丈な彼女たちでさえ額に脂汗を浮かべて力んでも頭を上げる事で精一杯、もしあれを俺が食らっていたならば、重力に耐え切れず内臓が破裂して……気分が悪くなってきたのでこれ以上考えるのをやめた。

 

 「みんな!」

 「フラムっ! 私たちはいいから、今は戦いに集中して……!」

 

 重力場に巻き込まれた5人を心配したフラムは柱の端から顔を覗かせて声を掛けるが、下の地面から仲間の一人――声からして宙銀さん、いやシルバーだろうか――が彼女に喝を入れ、フラムも少し後ろ髪を引かれるような様子ではあったものの、すぐに立ち上がってボガスカンに向き合う。

 

 「……で、どうする? 俺も迂闊に身動きが取れない状況だが、どう戦えばいい?」

 『幸い、一定以上の高度なら重力場の影響を受けないようです……柱から落ちないように立ち回れば、高重力に捕まる事はありません……今、視界に高度限界を表示します』

 「おお、こりゃ便利だ……いや視界に具体的に表示されるとちょっと怖いな……」

 

 ペルティカが示す高度限界の一面には半透明の赤い警告ゾーンが表示され、ここに爪先でも触れようものなら即アウトであることをありありと示していた。

 いや、見えてなくてもこのゾーンに触れたら終わりなのは理解しているし、そうならないためのナビゲートなのだろうが……自分の視界にこうもゲームみたいに情報が表示されるというのは中々新鮮な気分だった。

 

 『以前聞いた鳥のボガスカンと同じタイプだと思われます……あのアクセサリーを核とした怪物、それならアクセサリーを抜き取るか破壊すれば無力化できるはずです』

 

 ペルティカの言葉を聞きながらチラリと顔を出してボガスカンを見る、奴の金属でできていそうな身体は、今持っている剣では以前のように切り裂くのはとても難しいだろう、一応鈍器も持っているので打つ手が無いわけではないが……慣れない武器で何処か分からない急所を狙うなんて芸当、俺には無理だ。

 

 「そうは言っても、あんな硬そうなやつの中から引っこ抜けってのは中々骨が折れる、というかどこにあるんだ?」

 『ちょっと待っててください、たしかあのアクセサリーにはダークエナジーと相反するエネルギーがあったはず、それを検知できれば……しばらくボガスカンを見ていてください、それでデータを収集します』

 

 そう言って通信機越しにペルティカはカタカタとタイピング音を響かせ始める。

 グレムリンキーボードって紙でできているのにタイピング音鳴るんだ……とどうでもいい事を想いながらフラムと戦闘を行うボガスカンの姿を見つめ続けた。

 戦いは正直、フラムだけでは厳しいといったところだろうか、あのボガスカン、動きは鈍いのでフラムは今のところ一撃も食らっていないものの、彼女からの攻撃もまた殆ど効いていないのでこのままではフラムの体力が尽きるのが先だというジリ貧状態だった。

 

 「くううっ……! 『エスキュート――!」

 『おっと! 火気厳禁でスよぉ!』

 「わわっ!?」

 

 時折、炎でボガスカンを攻撃しようとしてもそのタイミングでスカムが的確に妨害を行い、熱による攻撃を行わせない。

 その行動はあのボガスカンの弱点を教えているも同然なのだが、今戦っているのがフラムだけでは妨害をくぐり抜けて炎を当てる手段がなかった。

 

 「今からでも加勢するか……?」

 『駄目です、コルウスくんだとUFOに手出しできませんし、ボガスカンに対して今は何もできません』

 「『浄火』ならアイツを――無理だな、現実的じゃない」

 『ええ、抵抗するであろうあのボガスカンに触れ続けるのは難しいですし、そもそも魔力が持つ保証がありません……』

 

 そう、『浄火』は本来、毒を消し去るための治療魔術*1、あくまで敵のエネルギーを焼いて攻撃するのは応用の一つに過ぎないが故に、瞬間的に敵を無力化する事には向いてない。

 そのため、ダークエナジーを完全に消し去るには奴に触れて『浄火』を発動させ続ける必要があるのだが……振り回した腕が柱の一部を粉々にしているのを見るに、『身体強化』した程度の俺じゃワンパンされるのが関の山である。

 

 「もう少しだけ持ってくれよ、エスキュート……!」

 

 だから、仕掛けるなら急所、致命的な一撃を正確に叩き込む必要がある、そしてそれを行うにはペルティカの分析が必須だ。

 徐々に息が上がって動きに精彩を欠いてきたフラムを、俺は冷や汗を流しながら見守っていた。

 

 

 ☀~~~☀

 

 

 「あっ!?」

 

 限界は、あっけない形で現れる事になった。

 ボガスカンの攻撃を躱し次の柱の上に着地したと同時に、不意にわたしの膝から力が抜けてガクンと大きく姿勢を崩してしまう。

 

 『隙ありでス!』

 「きゃあっ!?」

 

 当然、その隙をスカムが見逃すはずもなく、UFOから伸びたアームに手足を掴まれ、ピンと伸ばされる。

 身を捩って必死に抵抗するも、疲労しきった今の身体じゃ多少アームを引っ張る事は出来ても完全に振り払う事は出来なかった。

 

 「は、離して……!」

 『ぐぬぬ、なんて馬鹿力……! しかし、今でス! やれいっ!』

 『ボガスカァァァン!!』

 

 スカムの掛け声に合わせてボガスカンの鉄の拳がわたし目掛けて迫って来る。

 避けられないと悟ったわたしは身体に力を入れて、少しでも受けるダメージを減らそうと身を固めた。

 

 「くううう!!」

 

 しかし、その時下の方からみもり先輩の苦し気な声が響き、次にエスパッションにエネルギーを充填する、あの音が響いてきた。

 

 「うああああっ! 『エスキュート・シエル・クラウド』!」

 

 みもり先輩の声と共にわたしに影がかかる。

 目を開いて確認してみると、そこにはキラキラと輝く薄紫色の雲が出来ており、それがぐぐぐと引っ張られながらもボガスカンの拳を受け止めてくれていた。

 

 『ボ、ボボボ……ボ・ガ・ス・カァァァァァァン!!』

 

 だけど、それが破られたのもすぐだった。

 ボガスカンが掛け声のようなものを発すると、雲を突き抜けてわたしに拳を無理やり当てて来る。

 アームに拘束されていたわたしはそれをもろに受け止める事となった。

 

 「きゃああああっ!?」

 

 身体が弾き飛ばされ、柱の外へ突き飛ばされる。

 幸い、みもり先輩の雲のおかげで大したダメージは受けなかったけど、このままだと地面に落ちてしまう。

 そうは分かっていても、無防備に宙を舞うわたしの身体は思った通りに動いてくれなかった。

 

 『フラムーーー!!』

 

 プイプイが焦った様子でわたしを受け止めようと飛んでくるけど、彼女のちいさな身体じゃわたしを受け止められない。

 この高さから落ちるとどうなってしまうのだろう、そんな考えが頭を過り、目を瞑って備える。

 

 「――『引き寄せ』!」

 

 その時、私の耳に響く男の人の声、その聞き覚えのある声がしたと同時に、わたしの手が掴まれてぐっと力強く引き寄せられた。

 ぼすんっ、と空気の音が抜ける音と同時にわたしを引き寄せた誰かはそのままわたしを抱きとめる。

 

 『プギュっ!?』

 「あっ、ごめん」

 

 抱きとめられたと同時、感触的にわたしのお腹に挟まれたプイプイがなんとも苦し気な声を上げる。

 それを聞いた彼は慌てた様子で謝るとわたしの身体を今度は肩を掴んで引き離した。

 そうしてわたしを掴んだ誰かを確認するために目を開けると――何度も見た、カラスのようなマスクが目に入った。

 

 「……コルウス?」

 「ンン゛ッ! ……その通りだ」

 

 疲れと衝撃でぼんやりしたまま問いかけると、彼は一つ咳ばらいをして、いつも聞いていた低い声で頷いた。

 

*1
その割には凄まじい苦痛を伴うが……

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