変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第六話「悪魔は誰だ?」

 「うわっ、ホントに来たんだ」

 

 まだ寒風が吹き付ける夜、グラウンドに足を踏み入れると、既に3人はその真ん中で律儀に私を待っていました。

 そして私の姿を見るなり、濱小路さんは心底以外そうな顔をして驚いています。

 

 「ふ~ん? そんなに大事なカレなんだ? 天才様の事だからあんなやつキープかなんかだと――」

 「……聞いてもいいでしょうか」

 

 彼女の不愉快な発言を無視して私は問いかけます。

 今までの私では考えられない行動でしたが、腹を括った今、濱小路さんの不興を買う事なんて微塵も怖くありませんでした。

 ……それでも、これからするかもしれない事を考えると、手が震えてきます。

 

 「どうしてこんな事をするんですか? ……私とあなたは元々面識すらない筈ですが」

 「……はぁ~~っ?」

 

 もしかしたら、彼女の事を詳しく知れれば許せるかもしれない――まだ、引き返せるかもしれない。

 そんな懇願にも似た思いで問いかけたのですが、濱小路さんが私に返した言葉は、どれもこれも私の淡い期待を悉く裏切るものばかりでした。

 

 「んなもん! あんたがムカつくからに決まってんでしょ!? 顔が良くて、頭が良くて、いっつも澄まし顔で、あーしらを見下して! 自分のやる事全部が上手く行くと思ってやがる! その態度が鼻につくんだよぉ!!」

 「……被害妄想もいい加減にしてください……! あなたの事なんてどうとも思っていません……!」

 

 感情的な彼女に釣られて、私もまた己の内に蓄積し続けていた感情を発露させながら彼女の言葉を否定します。

 

 早く、早く私の発言を認めてほしい、そうなれば、今なら、何も起こらないで済むのだから。

 もう、私の事なんか忘れて放っておいて欲しかった。

 

 「!! あんたは……! もういい、あんたも、あんたのカレも! 何もかも滅茶苦茶にしてやる!」

 

 しかし、濱小路さんは私の中で定めていた最後の一線を越えました。

 どうあっても、彼女は私の全てを踏みにじらないと気が済まない様です。

 

 「……残念です、濱小路さん」

 

 だから、これは仕方のないこと。

 誰だって、自分を守る権利がある――『敵』を、排除する権利がある。

 

 ……ごめんなさい処沢くん、もう魔術の研究は……一緒にできないと思います。

 せめて……せめて、今から私のする事を、どうか知らないでいてください。

 

 「…………契約通り、『あの子たちを消してください』」

 

 私はその言葉と同時に、処沢くんが取り寄せていた触媒の一つである、赤黒い結晶を取り出して空高く放り投げます。

 やがて重力に従って地面に叩きつけられた結晶はまるで悲鳴のように甲高い音を出して砕け散ると、途端にこれまた赤黒い魔力の奔流が辺りに広がり、そして一つに収束していきます。

 

 『ケヒッ! いいぜぇ!』

 

 そうして収束した魔力は、徐々に大きな人型を形成していき、4Mはあるのではないのかという程の大きさになります。

 そこから不快なエコーのかかった男の声が笑い、呆然と見上げる濱小路さんたちを見下ろしていました。

 

 『さぁ、精々泣き喚け!』

 

 ――私の召喚した『悪魔』が身体の形成を終え、その大きな身体を地面に降り立たせました。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 「……部長?」

 

 目が覚めた時にはすっかり夜になってしまった事から、俺は相当疲れていたらしい。

 帰るなら戸締りを行い、明日カギを返すようにと保健室の先生の置手紙とキーの束をポケットに突っ込んだ俺は真っすぐ山彦部長がいるであろう部室を訪れていた。

 

 「部長ぉ~? どこですか~?」

 

 しかし、いつもだったらまだ起きている時間にも関わらず部室の明かり一切は付いていない、ベッド代わりに使っているソファにも彼女の姿はいないことから部屋に彼女はいないことがわかる。

 しかし、ただでさえ引きこもりの部長がこんな時間に部室にいないとは一体どこに行ったのだろう?

 

 「おっかしいなぁ……」

 

 ここに来る途中にある、部室から最寄りのトイレの電気も落ちていたし、何よりいつも机の上に置いてあるはずの魔術書が無い。

 そんな状況を前にああでもない、こうでもないと悩んでいると、直後グラウンドの方角からドンッという大きな音が響いてくる。

 

 「!? 何だ!?」

 

 地震か、と一瞬身構えたが来たのは最初の音だけで揺れは一切来ない。

 しかし何か爆発させるか、重たくて大きなものを地面に落とさないとここまで大きな音はならない。

 ……ここで俺は、こんな普段では遭遇しようもない現象を起こす物の存在に思い至った、魔術だ。

 

 「……部長!」

 

 不審な部長の不在と相まって猛烈に嫌な予感がした俺は、『身体強化』で軽くなった身体を飛ばし、作った剣擬きをひったくるように担いで部室を後にした。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 「ぎゃああぁぁ!?」

 

 悪魔の爪が、取り巻きの一人の顔を引き裂きました。

 学生がするとは思えないほどに手間暇かけて綺麗に整えた化粧をした顔が、悪魔によってぐちゃぐちゃに掻き回され、赤い血化粧に染まっていきます。

 

 『ケッヒヒヒヒ!』

 「ひっ、ひぃぃ……!!」

 

 その余りに凄惨な光景に腰を抜かしてしまったもう一人の取り巻きに、悪魔は視線をゆっくり向けると一歩一歩をゆっくりと近づけて行きます。

 それに対して彼女は必死に後ずさりしていましたが、いくらゆっくりとは言え遥かに体格に優れる悪魔の歩みの方が早く、あっという間に彼女の身体を掴んでしまいました。

 

 「あっ!」

 

 そしてそのまま彼女の身体は持ち上げられ、悪魔の下卑た視線――特に、その大きな胸部に注がれていました。

 当然、その間にも彼女は精一杯抵抗していますが、指一本動かすことすら叶いません。

 

 「やっ、やめて……離してぇ……!」

 『ケヒヒ……旨そうな肉じゃねぇか……!』

 

 そう言うと悪魔は彼女を掴んでいない手の親指と人差し指で『そこ』を掴むと、ぐぐぐっとひっぱり始めます。

 

 「痛い! やめて! ゆるして! いやああ!」

 

 その布を引き裂いたような悲鳴を前に、私は反射的にその光景から目を離しました。

 直後、それまでミチミチといった音が途端にブチッと一瞬だけ大きな音に変わった後に、途切れました。

 

 「あああぁぁーーーーっっ!!」

 『ムグッ、コリッ……ンンン~! 今回は当たりだなァ!』

 

 そして聞こえる、この世全ての苦痛をかき集めたような叫び声と、何かを咀嚼する悪魔の声。

 そうして目を逸らしていたのに、不意に何かが私の視界に滑り込んできました。

 

 それは、散々男を引っ掛けるのに困らない武器だ、と言っていた部位を失い、上半身を血まみれにして虫の息になっている彼女でした。

 

 「うっ……!?」

 

 最初の彼女に続いての、女としての尊厳を何もかも踏みにじるかのような惨劇。

 乱魔薬を飲んだ時とは比較にならない程の不快感に思わず私は口を塞いでその衝動に耐えました。

 幸いだったのは、お昼から今まで何も口にしていなかったことでしょうか。

 

 「あっ、ああっ……!」

 『さて、次はお前か?』

 

 私がそうして吐き気に耐えていると、悪魔はとうとう濱小路さんに狙いを定め、血まみれの口元を上げて笑いかけました。

 

 「うわあぁぁーーっ!?」

 

 濱小路さんはここでようやく弾かれるように足を動かして、一直線に校舎の扉に手を掛けます。

 恐らく、悪魔の巨体から逃れるには室内がいいと判断したのでしょう。

 しかし、今は夜、それも先生方も下校し、巡回の時間からも外れているので正真正銘誰もいない校舎には、鍵が掛かっていました。

 

 「開いて! 開いて、開いて開いて開いて!! 開いてよぉ!?」

 『ケヒッ、ケヒヒヒヒ……』

 

 必死にガチャガチャとドアノブを押し引きしようと、頑丈な扉はビクともしません。

 そして濱小路さんに悪魔の影が覆いかぶさりました。

 

 「あっ、あっ、ああっ……」

 

 ここからでは濱小路さんがどうなっているのか、全く分かりません、しかし今度はぷちゅんという音と共に悪魔の足の隙間から見える濱小路さんの足ががくがくと震え、流れてきた血液が靴下に染み込んでいく所までは見えてしまいました。

 

 「ひぎいいぃぃぃ!?」

 『ふん……生娘か、通りで今日の肉は臭くねえハズだ、ケヒヒヒヒッ!』

 

 悲惨、あまりにも悲惨。

 これが自分のやったことだと思うと、まともに息が出来なくなってしました。

 ここにいる、私以外の誰もかれもが倒れ伏し、その場を赤く染め始めています。

 

 「はあっ……! はあっ……!」

 『おっと、遊びすぎちゃいけねえや、さっさと仕事しねえとなあ……』

 

 そうして思考が半ば現実逃避に陥りかけた時、遂に決定的な出来事が始まりました。

 なんと悪魔がぐったりした濱小路さんを持ち上げると、その大きな口を開いて食べようとしているのです。

 殺される、そう思った私は反射的に悪魔を呼び止めました。

 

 「ま、待って!」

 『あ? どうしたよ?』

 「も、もう十分です! ここまですればもう十分です! だ、だから……やめて……」

 

 そうだ、もう十分だ、濱小路さん達は確かに私にとって嫌な人たちではあった。

 だけど、ここまでされるともう過剰なほどに報いは受けている、命まで取る必要はない。

 

 そんな私の自分勝手な訴えに、しかし悪魔は怒るでもなく、無視するでもなく、何故かどこか嬉しそうに口角を上げていました。

 嫌な予感を覚えつつ、彼の様子を見ます。

 

 『……うーん』

 

 そうしてわざとらしいまでに悩むそぶりを見せると、濱小路さんをぱっと離して悪魔は私に向き直りました。

 

 『つまりよ、お前は俺との契約を無かったことにしたいと、そういう事なんだな?』

 「は、はい……ですので、これからあなたを送り還して――」

 

 悪魔の確認に頷くと、私は予め用意しておいた『送還』に必要な触媒を取り出して、再び彼を元の世界に還そうとしました。

 しかし、直後に悪魔の爪が触媒を弾き、地面に叩き落としてしまいました。

 

 「…………え?」

 『そういう事なら、仕方ねえよなぁ?』

 

 悪魔は益々にやけながら徐々に私との距離を詰めていきます。

 私はそんな彼を前に、濱小路さんたちと同じように震える足で後ずさりながら何とか距離を取ろうとしました。

 

 「なっ、何を……!?」

 『けどまあ、ちょうどよかったぜ、魔術師は何十倍もいい飯になる……お前は才能にも溢れてそうだし、もっと旨そうだ!』

 

 その言葉を聞いて、私は何故先程の悪魔が嬉しそうだったのを理解しました。

 つまるところ、悪魔にとっては濱小路さん達3人よりも、私の方が恰好の餌だったのです。

 そして契約を破棄したことにより、私を襲えない理由が消えてしまった……。

 

 「う、うああ……」

 

 その事実を正しく認識した私は、次に先程まで繰り広げられていた惨劇を思い返します。

 引き裂かれ、引きちぎられ、食い殺される、あの光景を今度は自分に向けられる。

 そう思ったと同時、私は殆ど反射的に『身体強化』で限界まで速く、頑丈になった身体で近場の窓を突き破り、校舎内へと逃げ込みました。

 

 「うああああ!?」

 『ケヒヒヒヒ! そら、逃げろ、逃げろ!』

 

 ガラス片が皮膚を裂きましたが、そんな痛みが気にならなくなる位に私は全力でその場から逃げていきました。




【悪魔について①】

 地獄に住むという悪意に満ち、人間に執着する西洋発祥の怪物の総称

 人間の悪の心を起源として生まれた怪物だと考えられているが、一方で人類の誕生以前からいたとされる記述もあるため、真相は不明

 大半は常に人間や神に苦痛や堕落を齎す事を企んでおり、その強さは最下級の悪魔一匹でも中堅の退魔師が対処に当たらなければ犠牲者が必ず出る程の強さであり、その動向は全世界の魔術師が注視している。

 『契約』を用いればその力を借りることもできるが、彼らは契約の穴を狙って術者を陥れる機会をうかがっているため、油断は禁物。
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