変身ヒロインのお助けヒーローですが、何故か怖がられています。   作:バウム

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第八話『決死の対抗策』

 『ケヒヒヒッ! どうしたどうした!?』

 

 戦いは一方的な展開になった。

 一方的に――悪魔が優勢だった。

 

 パワーも、スピードも、リーチも、何もかもが格上の相手ではまず攻撃するどころではない、体格差を活かして校舎内を駆けずり回ってパンチを回避していたが、その度に窓が大きくひしゃげ、教室の出入り口は瓦礫で封鎖されていく。

 例え体力が持ったとしても、このままでは逃げ場を無くして死ぬだろう。

 

 「くっ、おおおっ!」

 『威勢がいいのは口だけかぁ!?』

 

 そこで敢えて窓に姿を晒し、悪魔の大ぶりの一撃を誘発する。

 奴は俺の思惑通りに拳を思いっきり振りかぶると、そのまま俺を叩き潰さんとその腕ごと拳を深々と校舎に突き刺した。

 

 「ぐっ!」

 

 一方俺はその直前に思い切り跳躍し、蛍光灯を強化しつつしがみつく事で天井に張り付き、その一撃を回避した。

 激しい揺れが俺を天井から振り落とさんとしたが、俺はそれに耐えて奴の腕が完全に突き刺さったのを見届けると、今度は天井を床のように思い切り踏んづけて、今度は下へと跳躍する。

 

 「らあああ!!」

 

 重力の助けも得た事で叩き込む、渾身の一撃。

 悪魔の腕からゴツン、と鈍い音が響くと奴の腕は反射的に引っ込み、廊下と教室の壁に大穴が出来上がった。

 

 『イデッ!? クソッ、鼠がぁ!』

 

 しかし、俺の全力を乗せた一撃さえも悪魔にとっては苛立ちを募らせるだけでしかないらしい。

 やはり、あの体格の相手に闇雲に攻めても倒せそうにはない、どうにかして弱点を探り当てて、そこを叩かなければ。

 ここまでの戦いでチラリと見えた全身像を思い出しつつ、狙うべき箇所を考える。

 

 「目か? ……いや、ダメだ」

 

 パッと思いついたのは目だが、およそ高さ4mもある奴の身長からして直接そこを叩くのは現実的ではない。

 『身体強化』を加味してもそこまで高く跳べないし、出来たとしても身動きのできない空中では叩き落とされるのがオチだ。

 同様の理由で、高い階から上から襲うというのもダメだろう、どうにかして奴自身の動きを止めつつ、頭の高さを落とす必要がある。

 

 「……足か?」

 

 次に思いついたのが、足への攻撃。

 悪魔の体型は肥大した筋肉でできた上半身に対して、下半身がいささか細すぎるようにも思える、上から見ているからそう見えるだけなのかもしれないが、狙うとしても悪くない箇所だと思えた。

 しかし、ここはここで問題がある。

 

 『そらぁ!』

 「っ!!」

 

 そう考えていると、悪魔が次なる一撃を叩き込まんと、今度は廊下全体を払うように腕を振るって来た。

 俺は近場にあった階段に飛び込むと、後から降り注いでくる欠片から鉄塊で身を守りつつ、3階から2階へと降りていく。

 

 「ぐぅっ!」

 

 落下の衝撃に耐えてすぐさま走り出してまた姿を捉えられないようにあちこちに走り回る……そう、問題はこの攻撃の苛烈さであった。

 今でこそ学校を盾に逃げ回ることができているものの、足元を叩くとなるとどうしても身を晒す必要がある、こっちは一撃で有効な打撃を与えられるかも分からないのに、向こうの攻撃は一撃必殺だ。

 遮蔽物の無い場所で奴の足をひたすら攻撃し続けるなんて、今の俺にはとてもできそうになかった。

 というよりそもそも、細っこいと言ってもあんなでかい足で蹴り飛ばされたらその時点でお終いである。

 

 『どこだぁ! どこに隠れやがった!』

 「はぁ……はぁ……」

 

 俺を見失った悪魔の声を聞きながら、息を整えて無い知恵を必死に絞って打開策を考える。

 時間はかけていられない、こうしている間にもどんどん学校は壊されていっているし『身体強化』もいつまでも続けていられる訳じゃない。

 なにより奴の気が変わって向かい側の校舎にいる山彦部長を狙いだしたら最悪である。

 

 「……ここも崩れそうだな」

 

 悪魔が未だ3階を重点して攻撃しているせいか、俺が今いる実験室の天井がパラパラと埃と細かい瓦礫を落としてきている……早く移動しないと崩壊に巻き揉まれてしまうかもしれない。

 そしていよいよ天井に罅が入り始めた時、俺の脳裏にある考えが浮かんだ。

 奴の足を完全に止めて、頭を安全に攻撃できる作戦――これなら上手く行くかもしれない。

 

 「急ぐか……!」

 

 俺は実験室の戸締りを確認し、手早く『準備』を済ませて飛び出すと、再び別の階段から3階へと向かうのだった。

 

 

 ☽~~~☽

 

 

 『チッ! ここにはもういねえか……?』

 

 3階は既に外側の壁が殆ど消失してしまっており、身を屈めながらとは言え、悪魔はその大穴から悠々と校舎内に侵入していた。

 丁度俺に背を向けて辺りを探っている悪魔に向かって足元の石を一つ投げて、頭に当てる。

 

 「ここだぁ!」

 

 それと同時に声を張った俺の方へと悪魔はゆっくりと振り返る、石を投げられた事に加え、口元に無理やり笑みを浮かべている俺の姿を見た奴は、挑発されていると感じたのか悪魔の黒い皮膚には血管が浮いているように見えた。

 そのまま奴の冷静さを削ぐために、思いつくままの悪口を吐いていく。

 

 「悪魔のくせしてたった一人に手こずるとは、力も頭も悪い、可哀想な奴なんだなァ!!」

 『貴様……!』

 

 ビキビキと、今度は気のせいではなく明確に皮膚に血管を浮かべると、奴の角が赤く、仄暗く光る。

 分かりやすいくらいに怒りを露わにする悪魔を前に、俺は背を向けてその場を走り去っていった。

 

 『逃がすかァァァ!!』

 「追っついてみろよ! バァァカ!!」

 

 必死こいた顔を見られないように顔を背けたまま更なる挑発を行うと、俺の後ろから世にも恐ろしい唸り声が響いてくる。

 きっと失敗したらただ死ぬよりもひどい目に遭うんじゃないかという不安が頭を過るが、成功させれば問題ないと自分に無理矢理言い聞かせる。

 

 『ぐぬぅ! ちょろちょろと!』

 

 体格差による歩幅こそ悪魔の方が圧倒的に優勢ではあるものの、精々高さが3mちょっとほどしかないこの教室では奴も非常に動きづらいようで、余裕を持って逃げることができている。

 そしてお目当ての教室に飛び込むと、また俺を見失わないように手に持った鉄塊をがらんとした教室の中央に叩きつけた。

 ギィンという不快な金属音が辺りに響き、俺は思わず顔を顰める。

 

 「っ!」

 『……追い詰めたぞ』

 

 そのまま教室で待っていると、やがて悪魔がボロボロの壁をひしゃげさせながら顔を覗かせてくる。

 その目には最早獲物をいたぶり楽しむ気は毛頭ないようで、ただただ怒りの炎が燃え盛っていた。

 

 『貴様は手足の先からじわじわと嬲り殺してやる……』

 「デカいのは身体だけにしておけ」

 

 俺に指さしてそういう悪魔に対し、すかさず俺はそう言って奴の決定的な怒りを誘う。

 ここまで露骨に挑発してはかえって怪しまれてしまうのではと少しだけ不安になったが、奴は俺が策を巡らせている等とは微塵も考えなかったようで、その足を屈めて飛びかかる体勢となる。

 

 『その減らず口を潰してやるゥゥーー!!』

 「……でぇいっ!」

 

 悪魔が教室に飛び込み、俺を引き潰さんと次の一歩を踏み出したと同時に、俺はもう一度教室の床に鉄塊を叩き込む。

 すると重い体重の悪魔の一歩と、俺が思い切り叩きつけた鉄塊の衝撃に耐えきれず、教室の床はガラガラと崩れ始めた。

 

 『なぁっ!?』

 「よっと!」

 

 驚愕の表情で崩壊に巻き込まれて落ちていく悪魔に対し、俺は予め開けておいた校庭側の窓に飛び移り、窓枠にしがみついて落ちないように踏ん張る。

 結果として奴の下半身が直下にある実験室に吸い込まれ、腰から上だけが教室の床部分から飛び出す事となった――またとないチャンスだ。

 

 「おおおおお!!」

 『なっ、なんだとぉ!?』

 

 慌てふためく悪魔に向かって全力で窓枠を蹴り、弾丸のようにその顔に向かって飛び込んでいく。

 そして鉄塊を思いっきり振りかぶって――

 

 「食らええええ!!」

 『ぎぃやああああ!!』

 

 ――その眼球に、思いっきり突き立てた。

 

 「う、おおおお!」

 

 眼球からそのまま脳味噌にまで抉れないかと必死に鉄塊を押し込むが、その刀身が半ばまで埋まってから先が進まない。

 そうこうしている内に悪魔の腕が俺を払いのけんと迫ってきたため、柄から手を離してその場から離れた。

 

 『グゥゥ……貴様! 貴様ぁ! 許さんぞォ!!』

 「そうかよ!」

 

 怒りに吠える奴の口に、実験室から持ち出した、なみなみと液体を入れて蓋をしたフラスコをひたすら投げ込む、奴は反射的に口を閉じたが、その勢いで口内のフラスコをいくつか飲んでしまったみたいだ。

 しかし、奴は特に慌てる事もなく告げる。

 

 『無駄だ! あの程度の人間の毒など悪魔には効かん――』

 「いいや、毒じゃない」

 

 未だに喋り続ける奴に、今度はチャッカマンを取り出し火を出し続けるように引き金を紐とテープで固定する。

 今度は警戒して口を閉じたが、さっきの投擲で悪魔の口内、そして唇にはフラスコの中身がたっぷりとぶちまけられていた。

 

 「エタノールだ」

 

 よって、このチャッカマンの投擲によって引きおこる引火には、無意味な行為だった。

 

 『っ!? !! オゴっ! ゲェ!?』

 「これで……燃え尽きろ!」

 

 俺は口から火を吐いてもがき苦しんでいる悪魔にとどめを刺すべく、奴が動くせいで今にも崩れそうな残りの教室の床を窓枠からの跳躍から全力で蹴りぬく。

 すると奴の身体を支えていた床が全て崩壊し、今度こそ悪魔の全身が実験室へと吸い込まれる。

 そして次の一呼吸で奴の口から炎が漏れた瞬間――

 

 『グオオオオオオオ!!』

 

 実験室全体が大爆発を起こした。




【悪魔について③】

一口で悪魔と言っても、人間のように派閥というものが存在し、中には人間との『共生』を考える個体も存在する。
もっとも、悪魔の求める人間の姿が今の文化・社会に適したものではないことが大半なので魔術師各位は安易に取り合わない事

※特にサキュバスやインキュバスを筆頭とした魅了の力を持つ輩の甘言には十分注意する事!!※
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