マグサリオンの殺戮劇場 大長編 作:ヘル・レーベンシュタイン
「しょおがねェなァ〜」
瓦礫の山を分けながら、ホルマジオが現れる。そう、無慙とホルマジオの力関係に変化がないことが証明されただけに過ぎず状況が好転したわけではない。
無慙は未だ小人のように小さいまま、単純にそのパワーを届かせるには通常の倍以上に距離をどうにか詰めなければならないのだ。ならば、より効率的に殺すためにはホル・ホースとの協力が不可欠であり……
「来るぜ、無慙の旦那。俺が協力するから、上手く距離を詰めて……」
「いや、違うな。」
「……あん?」
「お前はあいつの気を引け、少しの間一人で精々頑張れ。」
「ハァ!?」
そう言いながら無慙は、その小さな体を活かすかのように建物の間へと身を潜めた。そんな素っ気ない態度にホル・ホースは驚愕の声を上げる。
ただでさえ相性の悪い、ましてや殺し合いが常のギャングが相手なのだ。正面切手の戦闘は避けたというのに。
「チッ、だがやるしかねェよなァッ!」
やむを得ない、そう判断して銃口をホルマジオに向けて発砲。弾丸が彼の胴体ど真ん中へと吸い込まれるように。
だが、ホルマジオはそれを前にして額の血を払う冷静さを見せながら嘯く。
「それ、弾丸も“スタンド”なんだよなァ?」
「ッ!」
「俺のリトル・フィートに切られたものは小さくなる、スタンドの負傷は基本的に本体に返ってくるものだとすれば、どうなるか分かってるよなァッ!?」
そう言い放ちながら、リトル・フィートの爪が迫る弾丸に向かって振り下ろされようとしていた。彼のスタンドはトップクラス級という訳ではないが、皇帝の弾丸とはほぼ同速である。
故に迎撃くらいは難なく実行できる訳だが……
「舐めてんじゃあねェぞ、弾丸だってスタンドなんだ。こういうことだってできんだよォ!」
だが、弾丸に爪が直撃する前に軌道がまるで宙を舞う羽虫のように逸れた。通常の射撃ならば実現不可能な現象だが、弾丸も含めてスタンドという異能だからこそ可能な芸当だろう。
弾丸が曲線を描き、ホルマジオの背中へと迫ろうとした時だった。素敵な笑み浮かべながら、ホル・ホースへと言い放つ。
「へっ、そのセリフを返してやるぜ。」
瞬間、ホルマジオの身体が一気に小さくなった。当然、弾丸はホルマジオの背中を穿つことなくあらぬ方向へと向かっていった。
「な、テメェ!?ふざけたまねを……」
「おっと、連射なんて真似はやめろよ?確かにそれで俺の逃げ道を防げるかもしれねェがよ〜、一発でもこの爪で切られたら小さくなってしまうぜェ?そうなっちまったら、弾丸にも反映して豆鉄砲になっちまうぜ?」
「チッ……」
そう釘を刺されたように言われると、ホル・ホースは硬直したように動けなくなってしまった。そんな圧倒的な優位を露わにしながら車のちょうど真横まで迫った時だった。
先程あらぬ方向へと飛んでいった弾丸が、再びホルマジオへと迫って来ていた。
「オイオイオイオイ、懲りねェなお前も。俺が小さくなっても、爪で切られればお前に返って……」
「馬鹿が。」
「ッ!テメェは!?」
「ヒヒヒ、そうさ……」
だが、先ほどとは違う。その弾丸には、小さくなっている無慙が乗っていたのだ。そして無慙は弾丸から飛び出し、そして弾丸よりも早くホルマジオへと迫り来る。
「俺の真の狙いは、無慙の旦那をテメェに直接ぶつける事だぜェ!」
「オォォォッ!」
死が迫る刹那に、ホルマジオは咆哮を猛りながら体を咄嗟に元のサイズへと戻した。結果、無慙の突撃は脇腹ギリギリの位置に直撃し、服が車に縫い付くようなこととなった。
つまりは肉体へと被弾とならず、彼はどうにか延命を成したのだ。
「へ、へへへ……残念だったな、ちと面食らったがこれで」
「作戦失敗、とでも思ったか?」
「な、なにィ?」
「狙いはこっちだ。」
よく見れば、無慙の剣は……否、それだけではない。剣と皇帝の弾丸が車体の中に入っているのだ。
「これの中には火薬が入っている、ならば強い衝撃を与えればどうなるかは、想像に難しくないだろう?」
「な、テメェ!!」
「遅い」
「ああァァァッ!」
刹那、ガソリンが衝撃によって引火し車体から閃光が爆ぜた。無慙は直前に引いたが、ホルマジオは逃げるのが遅れて爆発に巻き込まれる。
直後、リトル・フィートの能力が解除されて無慙の体の大きさが元に戻った。
「や、やったぜ!無慙の旦那の勝利だァッ!」
「………」
勝利の喜びの声を上げるホル・ホース。だが、その反面に無慙の表情はまだ険しいままだった。
その様子を見て、ホル・ホースは奇妙に感じる。
「お、おい旦那……どうしたよ?」
「……アイツはまだ死んでない。」
「はァ?おいおい、冗談やめてくれよ。あんな爆発に巻き込まれて、再起不能にならない人間なんていねェぜ?」
「なら、なんで彼処に血溜まりが出来ている?」
「な、何ィ!?」
無慙の刺す方向を見れば、そこにホルマジオの姿は無い。代わりに血溜まりができており、蒸発したような白い煙が空へと流れていた。
「これは一体!?」
「血で引火した炎を消した様だな。」
「血、血でだとォッ!?そんな馬鹿な……」
「当然、手首からの出血とかその程度では不可能だ……“等身大”の人間ならな。」
「ッ!そうか……流血直後に敢えて体を小さくして、血を全身に浴びて火を鎮火させたのなら!」
「そういうことだ。」
「冷静に話してる場合かよ旦那!このままだとアイツに逃げられて、あの嬢ちゃんが」
「あんな屑なんぞどうでもいい、だが……」
直後、ホル・ホースの感覚を置き去りにして紫苑の彗星が駆け抜けた。否、それはこの場から戦線離脱しようとしたホルマジオすらもだ。
気がついた時にはもう遅い、剣先に引火していた火を纏わせ、ホルマジオが乗ろうとしていた大型車両へと刺突を放つ。当然、ガソリンに引火して大爆発を引き起こす。ホルマジオと無慙が、その爆風と火炎に巻き込まれる。
「ぐおぉぉぉっ!?」
「だ、旦那ァ!?おい、あんた何やってるんだ正気かよ!?」
「阿呆か、正気のまま修羅場を駆け抜けれるものかよ。ああ、逃げていいと誰が言った?貴様ら屑が俺の目から逃れられるなどと、甘い現実なんぞ無いと知れ。」
(に、人間じゃねぇ……俺は、何という怪物と手を組んでしまったんだ。)
無慙の全身に火が纏わりつくが、その最中でも歩みを止めない。瞳も閉じず、剣も手放さない。己の身の破滅よりも、敵を一秒でも早く殺さんとする。そんな狂気しか感じられない景色は、誰の目から見ても人として終わっていると感じさせる。
その景色をより近く、より直接的に感じているのはホル・ホース。それを前にして連想したのは、かつてホル・ホースはDIOという人から逸脱した魔性の存在と対面した。だが、目の前の男はそれと匹敵……否、殺意という点ではその魔性すら凌駕するとこの瞬間に確信した。怨嗟が違う、憎悪が違う、もはやそれは人の成せる所業では無いと。だが……
「キレ、てんのか……正気かテメェ、このクソ新入りィィッッ!!」
「……フン、小さいままではそのまま火炙りになるからな。元に戻らざるを得んよな?」
無慙の目の前に、元の大きさに戻ったホルマジオが姿を現した。その姿は、全身大火傷を負っており、特に顔面は膨れ上がっててまるで別人のようだった。だが、それでも戦意は途切れてない。殺意は寧ろ研ぎ澄まされてるかのようだった。
ホル・ホースが銃口を向けようとした瞬間、無慙が止まれと言わんばかりに剣を差し出す。そして直後、無慙はホルマジオへと剣先を突き付ける。その最中、周囲に広がる業火がまるで地獄の業火のように揺らめいている。
「来いよ屑、決着を付けるぞ。」
「……生意気だぞ、新入り。」
「知ったことか、俺に屑共の縦社会に当て嵌めるな。」
「テメェ……ろくな死に方死ねぇぞ。」
「仮にそれが真実だとしても、俺が止まる理由にはならん。もっとも、鼻から止まる気はないがな。」
「ケッ……上等だ。」
ホルマジオは呆れたような笑みを浮かべながら、リトル・フィートを背後へと出現させる。
最早問答は不要、ホルマジオの命の灯火が潰えるのはもう僅か。故に、最期に一矢報いらんとこの決闘へと身を投じる。この新入りには勝てない、そう分かっていながらも暗殺者としての矜持に殉ずると決意しているのだ。そして、合図のように側の火の手が爆発した。
「ウオォォォォォッ!リトル・フィートォォォォッ!」
火焔が渦巻く中、閃く死神の鎌の如く鋭利な爪。それが無慙の首を刎ねんと熱く咆哮を猛りながら迫り来る。
対して無慙は一貫して静寂。絶対零度の如く冷たく冷徹な、しかして灼熱のように燃えたぎる殺意を露わにしながら……
「死ね。」
そう呟き爪を潜り抜け、ホルマジオとすれ違いと同時に剣閃が彼の身体を通り抜けた。ホルマジオから見て、その剣筋は認識できなかった。否、それどころか剣が体を切り裂いたという認識すら。まさに神業の如き一閃であり、自身の血飛沫を見て初めて決着がついたのだと認識した。
流血に溺れながら、ホルマジオの視線が無慙とホル・ホースへと向けられ……
「しょおおがねーなあァ~~……たかが“買い物”来んのもよォォー、楽じゃあ…なかっただろ?え?無慙……これからはもっと……しんどくなるぜ……てめーらは……」
そう、まるで呪詛でも刻むかの様に二人へ向けて言い放ちホルマジオは絶命した。
周囲が燃え盛る中、ホル・ホースの膝が地面へと着いた。
「はぁ、ひとまず生き残れたが……買い物の任務は失敗だなァこりゃ。」
「……また買って戻って来い。」
「ヘイヘイ……」
「お前の利用価値は認める、今後も俺の滅尽の為に尽くせよ。」
無慙はそう言い残して何処かへと立ち去り、残ったホル・ホースは再び同じ物の買い物へと向ったのであった。