マグサリオンの殺戮劇場 大長編 作:ヘル・レーベンシュタイン
二人がポンペイ遺跡へ到着し、周囲を散策しているとホル・ホースが鏡を見つけた。すると、鏡に映る柱から男性が一人現れた。
ホル・ホースは即座に皇帝を出しながら言い放つ。
「旦那、気を付けろ。もう追っ手が来てたようだ。」
「何処だ?」
「背後の石柱だ、こちらの様子を伺ってやがる。」
「………居ないが?」
「えッ?」
無慙の返答に、ホル・ホースは間の抜けた声色を出して振り返ってしまう。無慙の言う通り、石柱の箇所には誰も居なかった。
だが、即座に振り返って鏡を見直せば、男が石柱から全身を出して、ホル・ホースの方へと近づいてくる。それに恐怖したホル・ホースは弾丸を発射させ、石柱近くの場所へと飛ばす。しかし男にダメージを与えた様子はなく、石柱に穴を開けるだけで終わった。
「ど、どうなってるんだこりゃ!?だ、旦那。俺は嘘をついてるわけじゃあねェ!本当に鏡に……」
「……俺は車に乗ってる時も、そして遺跡に来る時も周囲の音や気配に意識を向けていた。だが、スタンド使いらしき気配は皆無だったぞ。」
(嘘だろッ!?ま……まさか、旦那が俺を殺す為に騙してるのか?い……いや、そんな筈はねェ。この人が俺を役立たずとして切り捨てるなら、自らの手で殺す筈だ。俺と違って他力本願なんぞあり得ねェ。なら、これは嘘偽りのない本音だ。な、ならよォ……)
「こ、こいつは一体何なんだァー!?」
混乱の果てに慟哭を吐くホル・ホース。当然、鏡に映る男はその様子を構うことなく。迫り来る。
そして十分距離を詰めれば、背後からスタンドを出してホル・ホースへと襲うその時だった。
「なるほど、大体わかった。つまりは鏡の中に敵が居るわけか。」
「ッ!?だ、旦那!」
「なッ……」
無慙がそう指摘すると同時に、その鏡へと手を叩きつけた。すると、まるで水面に手を忍ばせるように沈んでいき、見えるはずのない本体の男の胸ぐらを掴んだ。
「ば、馬鹿な!?俺以外に鏡の世界に干渉できる奴なんて居るはずが……」
「察するに、鏡の世界を作り上げるスタンドか。その世界の中に入れるのは本体と、本体の許可した存在のみ。最初はコイツを狙っていたから、俺には見れなかったわけか。」
鏡の世界を作り上げるスタンド“マン・インザ・ミラー”その使い手である“イルーゾォ”が無慙の手によって鏡から引き摺り出された。
彼の過去を振り返っても、こんな破天荒なやり方で攻略されたことはないだろう。
「何だ……何なんだお前は!?何故、俺の許可なく鏡の世界に手を突っ込めたんだ!?」
(正直俺も知りてェ……だけどツッコんだら殺されるんだろうな……)
「これから死ぬ屑に、いちいち教えてやる義務が俺にあるのでも?まぁ、実際のところ種を知ることができなければ、かなり凶悪なスタンドだったのも確かに実感したがな。だが、内実が解れば始末するのもそう難しくない。」
そう言い放ちながら、無慙はイルーゾォの首を掴んで壁面へと押し付ける。逃さない、必ず殺すと言わんばかりに。
「グェ!?」
「お前達屑は必ず殺す、俺はそう決めてるのだよ。」
「や、やめろ……やめろォ!ウオォォォォォ、マン・インザ・ミラーァ!」
割れた鏡の破片から、彼のスタンドが手を伸ばして無慙の振るう腕を止めようとする。だが……
「鈍い、その程度では俺は止まらん。」
その腕ごと力尽くで振り払い、そしてイルーゾォの首が刎ねられた。溢れる血飛沫、スタンドの消失と同時に遺跡の地面が朱色に染まっていく。
無慙は即死を確認すれば、神剣についた血糊を振り払って歩み始める。
「行くぞ、ほかにも刺客がいるかもしれん。盗られる前に俺らが確保するぞ。」
「お、おぉ……」
動揺しながらも、ホル・ホースは無慙の後をついて遺跡の奥へと進んでいった。その最中だった。
ふと、空に一条の雲が線を描いていた。
「お、飛行機雲じゃねぇか。」
「……違う。」
「あん?違って何がだい、旦那。」
「あれは雲ではない、生物だ。」
「せ、生物だァ?おいおい旦那、アンタが冗談を言うなんて……」
「海に落ちるぞ。」
「いやだから、生き物が空から落ちてくるなんて撃ち殺された鳥じゃああるまい……」
直後、まるで爆弾でも落ちたかのような爆音が鳴り響く。そして二人から見える海原には鯨の潮吹きを凌駕する水柱が発生していた。
明らかな異常事態、ホル・ホースの顔全体から冷や汗が垂れる。同時に、無慙がその方向へと身を乗り出そうとしていた?
「オイオイオイオイ、今度は何なんだよ一体……ってオイ。まさか旦那……」
「アレを殺してくる、お前は目的のブツをとって来い。」
「やっぱりかよ……ちなみに加勢は……」
「死にたいなら好きにしろ、間違いなくさっきの鏡使いより強いと思うぞ。」
「OK、二手に別れよう。旦那はアレを頼んだ。」
即座に決めて、ホル・ホースはUターンして宝探しへと向かった。そして無慙は、空中を蹴りながら水柱の方へと最短ルートで向かって行った。
海原へと墜落した“何か”は鉱物ような外郭を覆っていたが、それがヒビ割れて砕け散る。そしてその中に居たのは、人と同じ肉体をしているものの、芸術的な絢爛さを感じさせる生物がいた。それが海面をアメンボのように立ちつつ、空に浮かぶ太陽光を全身で受けながら言葉を紡ぐ。
「あぁ……ようやくだ。ようやく、地球に帰って来れた。フフ、フハハハハハハ!そうだ、帰ってきたぞおォォォッ!」
弾けるような笑い声、それが海原に響き渡る。その背後に、殺意を纏った闇黒の刃が首を跳ね飛ばそうと迫ってきた。
その直前、笑い声を止めれば煌めく刃が闇黒の刃を止めた。その衝撃で水面が弾け、両者の鋭い視線が鍔迫り合いをしつつ交差する。
「久々の目覚めを邪魔してくれたな、下等生物めが。ふむ、どうやら波紋使いのようではないが………何者だ?」
「屑に教える道理なんぞ無い。」
「名乗る脳も持たぬか、やはり人間は退化したようだ……否、違うな。お前は人間ではないな、その力と血肉の匂いが人のそれでは無い。まさか、貴様……このカーズとは別種の究極の生命に達したのか?」
「………だったら何だ?お仲間になれとでも?」
カーズの問いかけに対し、無慙は気色悪いと言わんばかりの吐き捨てたセリフを言い放つ。
だが、カーズは嘲笑の声を張り上げながら言い返す。
「フハハハ!下らん戯言をほざくなよ似非が!頂点に立つものは常に一人、ならばこの世界の頂点に至った
「ほざけ、貴様のような屑は必ず俺の手で始末すると決めてるのだ!」
ポンペイ遺跡から海原へと移動に、究極生命体カーズと無慙の聖戦が開幕した。
両者共に、海面を疾走しながら並走する。初撃を放ったのは、言うまでもなく無慙。邪悪なる存在は決して許さないと本人が発言した通り、何をもってしてもカーズを殺すと決めている。故に先手を許すという愚を晒すわけもなく、殺意を纏った剣戟がカーズの首へと迫ってくる。第一戒律によって常に一撃必殺の威力が帯び、加えて第二戒律によって不意を突き認識困難の一閃となっていた。
「我が
殺気を感じ取ったのか、カーズは腕から光り輝く刃が取り出される。この“輝彩滑刀”は単なる剣ではなく、その刃には細かい刃がチェンソーのように高速で滑るように回転しそれが乱反射によって光を発していたのだ。故にその性質によって目眩しにも成り、単純な威力としても弾丸や鋼鉄をも切り飛ばす切れ味がある。
が、かつて星を容易く滅ぼした無慙にとってはその程度の性能は目眩しにもならない。光を直に見てもカーズの姿を決して見逃さず、輝彩滑刀の切れ味をも凌駕した剣戟が腕諸共破壊を実現させた。土塊のように砕けたカーズの腕、究極生物もやはり無慙の齎す殺戮の前には無力。少なくともその現場を見ていた第三者ならば、そう確信するだろう。だが……
「“光”から“炎”へ変更、喰らってくたばれ“怪焔王”の流法!」
瞬間、カーズの砕けた腕から垂れていた血管が一人でに動いて無慙の剣へと絡まった。更に血管の先にある穴から、血液が噴出した。
通常であれば、血液による目潰しと考えるだろう。事実、無慙からすればかつて対決したDIOが最後にやった足掻き。ならばこそ既知の範疇であり、喰らったところで何の痛手も負わない……筈だった。
「ッ!?これは……熱だと?」
「ほう、肌が融解し爆ぜると思ったのだがな。不思議な身体をしているな、貴様。」
無慙の顔面に付着した血液から、なんと蒸気が発したのだ。まるで水が蒸発するかのように。
幸い、無慙の顔表面の肌が焦げる程度で収まっていたが、カーズの言葉通りであれば通常の人間であれば今頃は肌が溶けて爆発していてもおかしくなかったのだろう。
「お前達人間であれば血液の沸騰なんぞ不可能だが、この生物の頂点に到達したカーズであれば可能よ。我が友エシディシの熱を操る流法を再現すれば、その血液を500°まで上昇出来る。」
「500°か……通常であれば木や紙が燃える温度。タバコの火の温度より劣るが……」
無慙の問いかけに対し、カーズは不適な無言の笑みで答える。この理屈はその程度で収まるものではないと、無慙は確信を経て言葉を続けた。
「本質はそこでは無い。木や紙と比べて、血液は液体であるが故に重たい。そんなものが沸騰する程となれば、その熱量は血液のほうが圧倒的に多い、そういう訳だな?」
「ククク、そういう事だ……沸騰した油と同じよ。ましてや、液体伝導が容易い波紋を直接ぶつければどうなると思う?更に、波の波紋使いの数百倍以上の威力、即ち太陽光の領域へ到達したこのカーズの波紋を……」
「……波紋?」
聞きなれない言葉に疑問を抱く無慙。しかしそんな事をお構いなしと言わんばかりにカーズは、独特の構えをして“コオォォ……”と呼吸をした。直後、全身から極彩色の輝きが放たれる。
まさに太陽の如き煌めき、それを発しながら無慙の顔面に向けて手刀を放った。
「
「ッ!」
カーズから放たれる手刀、極彩の輝きを纏っている。一見すればそれだけだが、無慙は死線の直感で回避するも僅かにカーズの血液の付着した頬に掠った。
直後、風船が破裂したかのように皮膚が爆裂した。まるで直撃した熱量に耐えきれなかったかのように。もしもカーズのこの手刀を、生身の人間が真正面から顔面に直撃したのであれば、頭部が爆裂してしまってもおかしくなかったかだろう。頬から感じるエネルギーに、無慙は記憶の中から連想したのは太陽だった。
「この性質、太陽と同一だな……いや、同一ではない。狭い範囲ではあるが、太陽で直接殴られたに等しい。」
「その通り。このカーズの波紋はまさに最強、人間の波紋使いの規格に挟まるものでは無いわァッ!ましてや、波紋伝導率の高い液体を通して当てれば威力も増大と言うわけだ!」
無慙の言葉に対し、絶対の自負と自信を纏った言葉でカーズはそう返した。太陽、それは人の生活を構成する最古の光であり、苛烈な試練をもたらす自然現象。
それもさも、己の武器として扱う存在カーズは確かに人の規格を超えていると称して差し支えないのかもしれない。故に人であれば絶望的な対面、だがそれに臆する無慙では無い。
「なるほど、つまり貴様にとって波紋とやらは本来“弱点”だったと言うわけか。」
「ッ!?」
刹那、無慙から放たれた言葉にカーズは戦慄を覚えた。言葉の意味だけであれば、単に聞き流しても問題ない。何故なら究極生命体の座を掌握した時点で波紋、そして太陽光の弱点は克服されているのだから。
だが、直後に一気に距離を詰めて畝りを上げる無慙の剣戟、それが首元に迫れば即座に羽を生やして空中へ離脱する。
(何故だ?何故俺は今離れてしまったのだ!?仮に奴が波紋を使えようとも、何の脅威にもならんと言うのに……)
精神内で困惑するカーズ、決して死ぬことは無い自分が逃げの選択をしたことに驚いている。何故逃げたのか、火力面で劣ってるから?それもあるかもしれない、だがそれだけだと考えにくい。それはまるで、かつての記憶を思い出す。
宿敵であるジョセフから受けた波紋、そして同じく彼の策によってマグマへと落とし込まれた時の感覚を連想させる。そう、即ち“死”の概念。宇宙空間に追放されようとも感じられなかったそれを、無慙の殺意によって全身に染み込まれたような感覚へと堕ちていったのだ。
「バカな、あり得ん……死を克服したこのカーズが……」
「どこを見ている、屑が。」
「ッ!?おのれ……」
再び背後から感じる死の恐怖、空を蹴りながら無慙はカーズの背後へと回り込んでいた。空中だから安全という考えは、この時点で無くなりそれがよりカーズの精神をかき乱す。
放たれる剣戟一閃、カーズは即座に両翼をアルマジロの甲羅の性質を反映させそれで全身を覆ったが……
「無駄だ」
「グガァァァッ!?」
まるで紙でも裂くように、カーズの翼は裁断される。第一戒律と第二戒律が、安易な防御による退避を決して許さない。
血を流しながらカーズは海へと墜落する。そのまま追撃でとどめを刺そうとするが、直前に海面に浮かび上がったものがある。それはカーズの姿とよく似ているが、全くの別物。ペラペラな物質、即ち皮だった。
「シュアアアアッ!!」
そして無慙の背後の海面から、カーズが刃に波紋を流し込みながら現れた。カーズは海中で蛇の様に脱皮し、傷を癒して全快したのだ。その直後に下半身をカジキのものに変化し、海において最速のスピードで突撃を繰り出す。加えて本人の言った通り、液体と波紋の相性は抜群である。故に直撃すれば、無慙といえど今の状態では致命になりかねない。
故に、音を頼りに振り返らずそのまま強引に腕だけを振り切ってカーズの攻撃を迎撃した。結果は相打ち、ではなく無慙の胴体が斬られるよりも早く、カーズの方が胴体を分離された。
「な、にィ!?」
「俺の隙をつけたと油断したな、攻撃は最大の防御というだろう?」
そう、火力面において無慙の方が有利なのは事実。故に刃同士でぶつかり合えば、こちらの進撃が優先になるのは当然の道理だろう。よって、カーズの攻撃は完遂することは敵わなかったのだ。
「ならば、そこを退け!風の
ならばと、カーズは刃を仕舞い込み両腕をまるで扇風機のように高速回転させた。両腕から生じる大暴風、そしてその間から発生する真空領域があらゆるものを削り取る。
だが……
「遅い、鈍い、欠伸が出るぞ。台風がそうであるように、風は性質上中心部は無風となる。そこを突けばどうとでもなる。ましてや、この技は別の使い手がいただろう?そいつであれば、もっと巧い使い方ができてたであろうに。」
無慙は正面からカーズの両腕に向けて刺突を放つ、風圧によって体が浮いているもののその程度で動揺しない。いや、そもそも宇宙空間を生身で駆け抜けてた彼にとって、暴風では足止めにもならないのだ。
「ク、ククク……まあ確かに、ワムウであればもっと巧みな戦術で補えただろうな?ましてや最終流法“渾鍥颯”なんぞ使えば、自傷を招かねん。だが、このカーズの狙い目はそれだけでは無いわァッ!」
直後、無慙の足元から白い触手が伸びて拘束した。カーズは分離した下半身をダイオウイカに変化させて海中に忍ばせていた。そしてその足の長さは約6.5mに及び、それを使えば人間一人を拘束し圧殺することは容易いだろう。
「小賢しい……」
だが、無慙にとってこの程度か紙が纏わりついてる程度で脅威となり得ない。故に剣を一振り、それだけで斬り払えるはずだった。
しかし斬った手応えが皆無だった。よく見るとダイオウイカの足が、いつのまにか赤黒い粒に変換されていた。その正体は、蟻だった。蟻が無慙の全身に纏わりついていたのである。その様子をカーズは嘲笑いながら言い放つ。
「ただのアリでは無いぞ、肉食獣すらジワジワと食い殺す獰猛なグンタイアリよ!加えてこのカーズの性質も加えたことで、一匹でもいれば増殖し続けるぞ。神砂嵐はそのための囮、喰らっておけば飛ばされてこんな目に遭わずに済んだものを馬鹿な奴め!」
「……なるほど、究極生物というだけあって、手段は多彩なようだな。確かにこの纏わりつく屑どもは少々厄介だが、突破方法は有る。」
「なんだと?」
「よく見ておけ」
瞬間、無慙は跳躍した。数十mどころか、雲を突き破り成層圏を突破するほどに。カーズの視力は天体望遠鏡程の性能を持ち、その姿を捉えることはできる。だが、だからこそだろうか。避けられない恐怖が迫り来ることをジワジワと実感し始める。
「ッ!まさか彼奴……」
無慙がやろうとしていることを察し、危機を感じて再び脱皮を行い戦域の離脱を図ろうとする。
「遅い」
だが、無慙もまたカーズを逃す道理はない。空へ背を向けて蹴り上げる。
一歩、音を越える。
二歩、光を越える。
三歩、そして時間の楔を解き放つ。
速度の概念を振り切った超越疾走、最早瞬間移動の領域である。全身に纏わりついていたグンタイアリは圧倒的速度によって発生する空気摩擦によって燃焼、あるいは時空の裁断に耐えきれない。どちらにせよ全て絶命してしまった。
よって、残るはカーズのみ。脱皮による全快は果たしたものの、まだ同じ場所にいる。こちらのやろうとしていることは察してるものの、最早離脱は間に合わない。
「
「グガァァァァ!!?」
空より堕ちた漆黒の弾丸が、カーズと大海原へと大激突を果たした。それはまるで核弾頭が堕ちたような大衝撃となり、大津波を発生させるほどであった。
絶殺、滅殺、惨殺、必ずそれを成す無慙無愧。その意思は黒く、黒く、獄炎の様に渦を巻き、己の自壊すら顧みない殺戮の鬼神。直撃したカーズは五体が散り散りとなっていたが、それでもまだ生きていた。
「ぬ、おぉ……フフ、認めようではないか。殺し合いにおいてお前はこのカーズよりも強い。だが……」
「死なないが故に、俺に勝利は訪れないとでも?小さいな、考え方が実に小さい。ああ、ならばその死ねない身体が仇となる様にしてやろうか?」
「なん、だと?貴様、まさか魂ごと殺してやるとでも……」
「良いや、別の方法だとも。そうだな、究極の生物になろうとも、永遠という概念は身に余ると教えてやろう。何故なら……」
『お前は一度、永遠に生かされて地獄を見ただろう?』
無慙はそう言い放ち、カーズの頭を掴み上げ空中に放った。直後、連続して斬り続けて解体した。
肉片から細胞へ……否、それすらも振り切るほどに。人が想像する域を凌駕した激痛の中、カーズはそれでも生き続けるが……
「きさ、まァァァッ!?」
「お前は空から隕石の様に堕ちてきた、察するに一度宇宙に飛ばされて放流していたのだろう?その果てに、考えることを放棄しなければならないほど何もできなかった。そうだ、何もできないまま永遠を過ごすのは、生物にとって死も同然。俺がお前に、それをもう一度与えてやるよ。」
「止め、ろ………やめろやめろ、やめろやめろヤメろヤメろヤメろ!ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロォォォォォォッ!!!」
絶叫するカーズ、しかしそのうち抵抗することも叫ぶことすらもできなくなる。細胞から原子に、そして原子から素粒子という物質界における最小の領域まで至った。
この領域に至ると、現代の時点において生物の力で再生するのは不可能である。手段を問わなければ決して理論上不可能なわけではないが、それは人の叡智によって可能性が開かれる範疇であり、生物の力しか操れないカーズには、その可能性の扉は開かれないのだ。
「………」
カーズはまだ生きている。しかして生物に認識されず、人と触れ合えず、手足を伸ばして行動することも敵わず、そしてモノを語ることすらもできない素粒子となった。最早何もできない彼に残された道はただ一つ。
「考えることをやめる、それだけだ。」
散り散りとなったカーズの姿を見届け、死刑宣告の如く無慙はそう言い放って海面から離脱したのだった。
そして……
「か、勝ったのかよ無慙の旦那?」
「俺がここにいる以上、それ以外に何の答えがある?」
「い、いやそうだけどよォ……」
信じられない、ホル・ホースはそう困惑な顔を浮かべながら返答する。しかしその様子に拘う様子もなく、無慙は言葉を続ける。
「それで、例のものは?」
「お、おう。この通りだ、これで任務達成だぜ。」
「その様だな……ッ!」
ホル・ホースの手には鍵がある。それで何ができるのか、今はまだわからない。だが少なくともボスからの指令はこれによって達成されたのは確実だろう。
その直後だった、無慙は突如空を見上げた。
「ど、どうした旦那?まさか、まださっきの奴が生きてたのか?」
「……いや、あれの始末はつけた。だが、どうやらまた一波乱ありそうな気がする。」
「オイオイ旦那、冗談キツいぜ。まだ追っ手がいたのかよ?」
「いや、この周辺にはいない。少なくとも直近では対面することはないだろうが……その内、俺が殺さねばならんだろう。」
「……OK、分かったぜ旦那。ひとまず戻ろうや、ボスの指示に従っていれば、そのうちソイツとも出会えるはずだ。」
「……そうだな。」
そして二人は車に乗り、トリッシュのいる隠れ家まで戻ったのだった。
無慙の中には、闘争の概念となった男が居た。故にそれは、無慙の歩く殺戮地平あるところに、闘争が必ずあるという意味に他ならない。
それは時空の概念を超えてでも成立する、果てなき戦場に暴窮飛蝗だったモノは常に混じり続ける。故に……
「………」
イタリアの路地に、邪竜が降り立った。それは英雄譚を賛美せし者、人の本気の可能性に魅入られた竜。体のほぼ全てが機械であり、人であって人から逸脱せんとする悪鬼だった。
それが、無慙の冥府魔道に魅入られてこのイタリアへと招かれたのだった。その内情を知るはずもないが、その者は歓喜の笑みを浮かべていた。
「良いねぇ、燃えてきたぜ。ならば見せてもらおうか、
邪竜ファヴニル・ダインスレイフ、ここに降り立つ。