純愛のワルキューレ   作:筆先文十郎

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自分の最寄の映画館が4月11日まで映画を公開しているのでまだ見ていない方、もしくはもう一回見ようかなと思っている人が見に行ってくれる→貢献という名の感謝の恩返しがしたいという思いからこの作品を書きました。

この小説を読んで映画館に足を運んだり小説を買って下さる方がいれば幸いです。


純愛のワルキューレ

「……」

 核ミサイルにより灰色の焦土と化したファウンデーション王国に一人の女性が淡い青色の花束を持って訪れていた。

 

 アグネス・ギーベンラート

 

 シュラ・サーペンタインの誘いに乗り世界平和監視機構コンパスを裏切った過去を持つMSパイロットである。

「……」

 核の汚染濃度は限りなく0に近づいたとはいえ、未だ復興の兆しも見えないファウンデーション。灰色の焦土を見た後、かつて港があった場所にアグネスは足を向ける。地面は瓦礫(がれき)が未だに散乱しており歩きにくかったもののあと一歩前に出てしまえば海に落ちてしまう所まで来た。

「シュラ……」

 自分だけが聞こえる声でアグネスは呟くと持っていた花束を放した。風に流され花束は離れた所に落ち海面を漂う。

 

『ねぇ……私、綺麗じゃない? 魅力ない?』

 

 ラクス・クラインから恋人、キラ・ヤマトを奪おうと画策するも、キラから害虫を見るような目で拒絶され女としてのプライドをズタズタにされた後、港を彷徨(さまよ)っていた時に偶然冷たいナイフを思わせる切れ長の瞳を持つ男、シュラ・サーペンタインに泣いて(すが)りついた。そんなアグネスにシュラは答えた。

 

『きみは美しい。月光のワルキューレ』

 

 その言葉にさらに涙した。ぽっかりと空いた穴が癒されていった。そんなアグネスをシュラは優しく抱きしめた。

「シュラ……」

 アグネスは自分自身を優しく抱く。キラに拒絶され、ボロボロになった自尊心を癒してくれたシュラを思い出したくて。自分を守るように優しく抱きしめた感触とぬくもりを思い出し、アグネスの顔に笑みが浮かぶ。

 自分自身を抱いてからどれほどの時が経ったのか、アグネスはゆっくりと手を放す。彼女の瞳には涙が溜まっていた。

 夕日が沈んでいく海を見ながらアグネスは思い出す。

 

 ブラックナイトスコードによって孤立し、戦闘不能に陥ったライジングフリーダムガンダムもろともキラを殺害しようとしたこと。

 キラを助けるため駆け付けたアスラン・ザラの駆るズゴックに愛機のバッグパックを破壊され自力飛行が出来なくなった時、ブラックナイトスコードシヴァに乗るシュラに『来るかい?』と聞かれ『行くわ。あなたと』と答え戦線を離脱したこと。

 最終決戦でブラックナイトスコードと共に出撃し、インパルスガンダムSpecⅡを駆るルナマリア・ホークと会敵。自身が士官学校時代は落ちこぼれで山猿だと馬鹿にしたシン・アスカと妥協して付き合っていたと思っていたルナマリアが本気で好きだったことに愕然。ルナマリアが持っていて自分が持っていないものは何一つないという自信が揺らいだ所を彼女によって機体を行動不能に追い込まれ小惑星に不時着させられたこと。

 戦意喪失し泣き崩れて座り込んでいた所をシンとルナマリアに発見され、そのまま手を差し伸べられたこと。

 

 あれから時が経ったのにも関わらず、全てが昨日のことのように鮮明に思い出せた。

 あの戦いを通じてアグネスは変わった。気づかされた。

 自分の行動。他者のことを考えない自分勝手な行動が多くの人間を傷つけていたということに。

 

 ラクス・クラインから愛する男を奪った。

 

 その事実を欲するあまりラクスを傷つけ、士官学校時代にルナマリアと付き合っていた彼氏に手を出しルナマリアを傷つけた。

 

 自分は愛されて当たり前。だから何をやっても構わない。

 

 その考えでどれほどの人間を不幸にしてきたのか。それを考えるとアグネスの表情は暗く沈んだ。

 夕日は完全に沈み、満天の星空と満月の月光が暗闇を照らす。

「シュラ……」

 想い人の名を呟く。傷ついた自分を慰め……そんな自分に性欲のままに襲おうとせずプラトニックな愛を貫いた男。

 彼がいなければ自分は死んでいた。

 

『きみは美しい。月光のワルキューレ』

 

 あの言葉がなければ今まで自分の中にあった価値観、自分を支え続けていた心は壊れてどうなるかわからなかった。

 ファウンデーションの大地を照らす月に今は亡き想い人の顔を映し、アグネスはささやいた。

「……ありがとうシュラ」

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