狼さん@がんばりたい 作:葬炎
さらに数十年が経った。
彼の体はかなりの巨体になっている。恐らく人間の時の身長の倍くらいの大きさにはなっているだろう。
「……ないわー」
ずっと通っていて姿形の変わらない川を鏡に見た自分の体躯の大きさに彼は呟く。こんなでかい狼見たことないし、いたら怖すぎる。
さすがにここまで時間が経つと彼は人間のころのことなんて心底どうでもよくなっていた。すでに人間だったころより長く生きてるし、性格ものんびりした生活だったせいかかなり能天気なものとなっていた。
話す相手はいないが、今は自分の周りに動物たちがいる。中には本物の狼など肉食も混じってはいるがこの山にいる限り必要以上の過ぎた横暴は許さない。と睨んでいたらあっさりこちらに服従してきたので問題ない。その時あまりのあっさりさに少し間抜けな顔を晒してしまったのは彼の秘密である。
それと彼は運動とついでに体を鍛えるために森、これはぐるっと一周してみると山だとわかった。山を駆けていると、一つ大きな発見をした。
―――人間がいたのだ。
おそらく今まで自分の住処としていた巨大樹から反対側の斜面で見つけたあたり、そっちの麓に人がいっぱいいる町があるのだろうと一瞬歓喜したのだが、一つ妙なことに気づく。
服装が……古いな。
見つからないように彼は心の中で呟く。
みつけた人間は小さい女性、つまり少女だと思うのだが、獣の皮のような物を着ており現代人の布や科学繊維からは遠くかけ離れているものだった。
武器や護身用具などがないのは最近までこの山が草食の動物ばかりだったからだろうが、特に警戒もなく草を選んで毟っている様子はあまりにも不用心で、なんの関係もないこちらが心配になってくるほどだ。
久しぶりに人間が見れたことにより少し感動してしまったのかぼーっと立っていたら、少女が何気無くこちらにふいっと振り向き、
目が、合った。
「…………〜〜〜っ!?」
少女は慌ててたためか声にならない悲鳴を上げ、手に持った草を投げ捨て必死に山を下っていく。そしてその先には―――巨大なムカデ。
「〜〜〜〜〜!?!?」
そう、これもけっこう最近なのだが突然変異のような姿の凶暴な動物やら虫やらが増えてきたのだ。今目の前にいる大きな虫やら牙とか角とかが突出したり手足が多かったり色々と。
それを見かけると獣になってから敏感になった本能がサーチアンドデストロイと信号を出すのでそれに従い潰す。
女性の前に飛び出た彼の前足が勢いよくムカデの頭に当たる。すると大した抵抗もなかっとでも言うように足は振り抜かれ、その後に残ったのは巨大な前足の跡が残ったムカデの下半身だけだった。上半身はどこかに消し飛んでしまったようだ。ビクンビクンとまだ少し動いてる体の断面から緑色の体液が溢れ出る。もう彼は何度か同じようなことをしてるので巨大な生物やらを殺したりするのには慣れている。
しかし少女はそのようなスプラッターな場面に耐性がないのか、一瞬目を見張り硬直した後白目を剥きフラっと倒れてしまった。
流石に今は突然変異やら引っ越してきた肉食動物やらで危ない山中に昔の自分の同族を置いていけるわけもないので、彼は仕方なく服を噛み背中に放り投げて乗せ、落ちないように速度に気をつけながら麓に向かって走り出す。
目指すは山を降りきったその先ににあるだろう村。できれば原住民に気づかれないようにこっそり置いておきたいと思いつつもこの銀色で無駄にでかい目立つ体じゃ無理だろうなと確信していた。
ある村人が一言つぶやいた。
「なんだありゃあ」
遠目に見える自分たちが肉や草を調達しにいくための山から、銀色の玉のようなものが左右に揺れながら山を下っているのが見えた。
あそこは草食動物ばっかで安全に狩りや薬になる植物などが取れる場所としてこの村が代々ありがたやありがたや、と感謝されながら使っていた山だ。そこにその日は薬を作らせたら右に出る者はいないと言われるほどの少女が新しい薬の材料を探すために出て行ったはず。
一人村人のつぶやきを何人か反応したのか少しずつ人が集まっていく。
「あらなんじゃあ」
「綺麗じゃのう」
「いやしかし―――こっちに向かってきてないかえ?」
じーっと様子を見ているとついに銀色の楕円形に見える玉は山を下り切り、徐々に大きくなってくる。
そして銀色の玉がなんなのかと顔が詳しく見えてくるほど近づいた時―――村人たちは数秒硬直し、すぐに駆け出した。
「うわあああ! 化け物じゃー! 化け物がこっちにくるぞー!」
「村が壊されるー!」
「おらぁこんな村嫌だー!」
その言葉に誘われ残りの村人も全員顔を出し、皆逃げ始めた。
それはそうだろう。遠目に見ても巨大な体を持った、明らかに凶暴そうな顔をした獣がこっちに向かって猛然とした勢いで走ってきているのだから。
それぞれ今やっていたことを放り出し銀の獣とは反対側に全力で逃げて行くのであった。
「ううん」
そんな村の様子を人間のころに比べるととんでもなくよくなった視力で彼は見ていた。
まぁ、そうなるよな。
そう思いながらも少し残念に思った彼はやはり人間だった頃の気持ちは捨て切れてないなと思い、別に捨てる必要があるわけじゃないしいっか。と自分の沈みかけてた気持ちを持ち直す。
「でもこのままじゃ、最悪この少女が……」
ふと彼は考える。
もしかしてこのまま少女を村に送ると少女が大変な目に会うんじゃないかと。
自分の姿は一見、というより普通に凶暴にしか見えず、それゆえに人間たちは怯え逃げていった。そんなとこにその凶暴な獣に乗せられた少女が無傷のまま村に帰ってきたら怪しまれるんじゃないかと。例えばその獣が化けた姿だーとかその化身だーとかなんて言われて、生きたまま括り付けて焼かれたり斬られたりするんじゃないかと(彼の中で昔の人の排他的行動のイメージ)。そんな懸念を彼は抱いていた。
それじゃどうすべきかと彼は一旦立ち止まり考える。
と、そこで丁度よく少女が起きてきた。
「ふぇっ……」
今の状況が理解できないのかキョロキョロと周囲の状況を確認するように目を向ける。
右
左
後ろ
前
―――下
「……☆△ー◯×>_/!?」
とりあえず錯乱しているのは傍目にも明らかだった。
少女は何事か叫ぶがピクリとも動かず―――訂正。ブルブル震えている状態で、それ以上は恐怖で動けない様子である。
彼はその姿に少し愉悦感を感じてしまったが断じてそんな趣味ではないので気を取り直して話しかけてみることにした。
『少女よ』
「っ!?」
『喚くな』
「……(ガタガタガタガタガタガタガタガタ)」
少しばかりさっきの叫び声が耳元でうるさかったことにイラっとしたので、彼は自分の中でできるだけ加減した威圧と共に言葉を発する。声は何時ぞやか見たジブ◯のあの大きな狼の声を真似た。つもりである。モ○かっこいい。
すると、声はピタッと止まったが震えは数倍強くなった。
それにも少しゾクっと感じてしまった彼は少しSの気質があるかもしれない。
『大人しくしろ。ぼk―――私はあの山を守る者。過度になにかしなければ私からもなにもしない』
「……」
少し少女の震えが治まった。僕ではかっこつかないので一人称は私としたようだ。
言葉が通じる相手だと思ったのか少女はまだ何か焦った様子ではあるものの、こちらが何を伝えようとしているのか考えているようである。せわしなく目線を右往左往させながらも気分を落ち着けるように胸に手を当て叫ぶのをこらえてるようだ。
『此度はあの山を荒らす者(大きなムカデ)の排除ついでに助けてやったが次はないと思え。ここから先は自分の足で帰るといい』
「…………◯×-:△?」
『……む』
適当にでっちあげた理由を言うとなにかを聞き返すように言葉を発しているのがわかる。しかし、何を言ってるか言葉が理解できない。
それもそうかと彼は考える。そもそも自分のような巨大な狼? がいたり、あのムカデやら他凶暴な獣なり虫なり他よくわかんないのがいたりするこの世界が自分がいた地球とは限らないのだ。むしろそんなもの聞いたことないし異世界と考えるほうが自然だろう。
さてどうやって自分の意思を伝えようかと彼は悩み、一時の静寂がその場を支配した。
私はこれからどうなるんだろうか。
少女は考えていた。いつもと変わらぬ1日の始まりに新しさを求め、今まで自分だけでは行ったことの無い(というかまだ幼いので村の外に一人で出たことがない)山に一人で入ったことが運の尽きだったのだろうか。今はなぜか銀色に輝く不思議な毛並みの獣(おそらく肉食)に乗っかっている状態なのである。もしかしたら住処に連れて帰られゆっくりいたぶられながら食われるかもしれないと思うと殊更震えが激しくなってくるのが少女は自分ではっきりとわかっていた。
少女が入った山は村人たちには神聖化されてると言っても過言ではない、今まで豊かな生活をしていく上での生命線で、凶暴な動植物のいない安全な山だ。最近は妖怪という物騒な生き物も付近で出てたが、かの山は変わらず草食しかいなく、それゆえに神が住む山と最近は噂されてたほどである。
だが、そんな安全のはずだった山は今日を持って危険、立ち入り禁止をやむえないほどの事態が起きた。大人の倍は大きさがありそうな凶暴な獣に、気持ち悪い、虫が巨大化したかのような妖怪まででてきたのだから。
終わった。そう思った。長い間あの安全な山にお世話になり、命の危険とはあまり関係ないようなのんびりしたいい村だったが、それゆえに妖怪や凶暴な生物と戦った者はあまりいなく、すぐさまこの山や少女のいや村は獣や妖怪たちに蹂躙されるだろう。
そう、思っていた。
『hq']kw』
「っ!?」
『$k]$_』
「……(ガタガタガタガタガタガタガタガタ)」
なんて言われたかはわからない。しかしその言葉には押し潰されそうなほどの重圧が伴い、それだけで頭の中がグチャグチャになりそうな暴力となって少女を襲う。
知らずのうちに口から出ていた叫び声を、次一言でも漏らしたら咬み殺されると思うほど強烈に刻みつけられた脳の命令に従い必死に抑える。しかし震えは一層増した。このままではこの化け物の機嫌を損ねて殺される―――そう思った時。
『______________________________』
「……」
まるでなにか語りかけてきているようだった。
しかし何言ってるかは相変わらずわからない。混乱している頭の中なら尚更。しかし、獣の言葉には一つの想いが乗せられていて、そのイメージが自分の、村人たちには天才、鬼才と持て囃された頭の中にすっ、と入ってくる。
―――かの山の中で様々な、今まで見たことないような生き物とも一緒に、穏やかな雰囲気で一緒に寝ているこの化け物の姿を。
こころなしか震えが少しずつ治まってきているのがわかる。この化け物、いや、獣はあの山を守っている……?
つまり、あの山に住むんじゃないかと言われてた神はもしかして……?
そこに思い至った時に少女は自分がとんだ勘違いをしていたことを思い知る。思い返せば、この獣を人に害する化け物と判断するにはおかしいことが多々ある。
最初に出会った山中では私を狙っていた。
―――今思うと見守るような目だった。
妖怪百足と私を取り合ってた。
―――純粋に妖怪から私を守ってくれた。
私を住処に運んで食べようとしている。
―――今いるのはどう見ても山中ではなく山から村に続く道の上。
どこをどう見ても私になにかするではなく、守ろうとしてる行動にしか見えない。そう思うと今までの恐怖していたのが申し訳なく思い、今までの恐怖からくる震えではなく、見た目からくる恐怖に惑わされ自分の浅はかな考えで危険だ、化け物だと思ってしまった悲しさからくる震えとなっていた。
『__________________________________________________』
「…………なんと?」
『……_』
相変わらず言葉がわからず、それに乗せられてこちらに直接語りかけてくるイメージに思わず聞き返してしまった。
妖怪を倒し、弱き者を助け、あるべき場所に帰らせる。広い山の中、それらを全て自分だけでやってる神の姿。
人知れず山を守ってきたその神様の姿はあまりにも孤独で、孤高だった。
はっと我に返る。
今神様は山を降りて村に向かう途中、山と村の中間あたりで立ち止まってる。なぜか。それは神様が山の神であるがゆえにこれ以上は山から離れられないんじゃないかと思い至ったのだ。
慌てて今までずっと座りっぱなしにしてしまった神様の背中から降りる。その背中はとても暖かく、心地よかったので少し残念と思ってしまったが、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
少女は背中から降りた後、なにも救ってくれたお礼が返せないと獣の目の前に立った時に気づく。それにあたふたしてると察したかのように、また一つのイメージが少女の中に流れ込んできた。
『____________』
「…………?」
思わず首を傾げてしまう。
そのイメージは、かの山をなにか黒いものが覆い隠す様相。これは、どういう意味なのだろうか。妖怪なんてこの神様からしたら一蹴できるだろうし……
少女がその意味に気づくのはもうしばらく先のこととなる。そしてすぐ気付けなかったことをすぐ後悔することになるとはこの時微塵も考えていなかった―――
相手が言葉わからないこといいことに調子に乗って
『お前にサ○が救えるか』
と言ったら
「…………?」
と意味がわからないとでも言うように首を傾げられ死にたくなるほど恥ずかしい思いをした獣がそこにいた。
謎の少女……一体何琳さんなんだ……。
太古からってなるとこの人はテンプレだと思います。本当は1話に入る程度ぐらいまで内容縮めてサラッと流すつもりでしたが、ちょっと書きたいことがあったので詳しく書き始めることにしました。
なんというか、起伏がないとでも言いましょうか、盛り上がりも盛り下がりもない文章というのが自分のイメージ。慣れてないせいなのか表現力が足りないのか。ううむ……
そういえば今回のあの永何さんとの会話(?)ってあれ勘違い系とか書いてみたいというところから書き始めて、落ちも決まってるのですが、あの程度で勘違いって言えますかね? それが少し心配。
※この時代にその動物はいないよとかそんなツッコミは無しでお願いします。あまり重要ではないのでこんな感じと伝わりやすいように書いてるつもりですので。