葬送継のヒンメル   作:除外音

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フリーレンと別れる直前まで、特に変わりなく。


冒険の終わり

〜フリーレンの死から10年前〜

《魔王を討伐、王都へ》


 

「王都が見えてきたね」

「私達勇者一行の凱旋です。盛り上がっているでしょうね」

 

屋根すらない、みすぼらしい馬車の荷台に乗っているのが勇者一行だ。乗り慣れているとは言え、皆は腰が限界を迎え始めている。ある程度舗装はされているが、小石を踏み越えた時の振動がお尻に響く。

 

「帰ったら仕事を探さないとな…」

ヒンメルがそう言う。魔王討伐を成したのだ。数年遊んで過ごせる報奨金は出るとは思うのだが、流石勇者(ヒンメル)。そういう所はちゃんとしている。

 

「もうそんなこと考えているんだ」

「大事な事さ。魔王を倒したからといって終わりじゃない。この先の人生の方が長いんだ」

人生か…人と私達エルフの寿命の差は大きいなんてものじゃない。エルフからしたら瞬きの間に、人間達は死んでいく。

 

「仕事か…」

アイゼンはこの先どうするんだろう。いまさら鉱夫になるとは思えないし、やっぱり戦士として生涯を過ごすんだろうな。

 

「酒が飲める仕事がいいですね」

ハイターは相変わらずの生臭坊主っぷりを見せてくる。酒がなければとても優秀な僧侶なんだけど。

「お前僧侶だろ」

ヒンメルの言葉に皆も笑う。こんな旅ももうすぐ終わり。

 

「それもそうか」

一息ついて、私も納得する。皆それぞれに生き方がある。誰も私の様に魔導書を探す旅には出ないだろう。後百年位は中央諸国を巡る旅を続ける予定だし…ヒンメルなら…やっぱり人助けに奔走するんだろうか。いや、そうするんだろうな。ヒンメルだし。

 

「フリーレン。君のこの先の人生は、僕たちに想像もできないほど、長いものになるんだろうね」

 

「…そうかもね」

 

 

 

 

そろそろ城門が近くなってきた。

…勇者一行の凱旋だ。

 

 

 

 

 


「勇者ヒンメル、戦士アイゼン、僧侶ハイター、魔法使いフリーレン。よくぞ魔王を打ち倒した。これで世界に平和が訪れよう」


 

 

王都は賑わっている。夜空には、星々と共に花火が煌めき、吟詠詩人は(うた)い、美味しい屋台が並び、子どもは笑って駆けていく。私も屋台で食べ物を買った。皆と一緒に食べる為に。

 

「王様が広場に僕達の彫像を作ってくれるそうだ。まあ、イケメンである僕の顔を忠実に再現できるかは甚だ疑問だがね」

ふーふん、と自慢の髪を払いながらヒンメルは笑う。相も変わらず自己陶酔的な奴だ。この明るさにどれだけ助けられた事か。

 

「現金なもんだ。旅立ちの時は銅貨10枚しかくれなかったくせに」

そう言いながら、口に食べ物を運ぶ。…美味し。

 

「まあまあフリーレン、こうしてタダ酒が飲めるんですし、それでいいじゃないですか」

大きなジョッキで酒を飲みながら、ハイターが言う。頬も既に赤く染まり始めているし。いつもの事ながら、よくそこまで一気に飲めるものだ。

 

「生臭坊主」

それを聞いて、ハイターは大きな声で笑った。

 


 

 

賑わう街を少し出て、城壁近くで夜空を見上げる。

 

「…終わってしまったな」

アイゼンがそう呟く。もう終わりか。

 

「そうだね。僕達の冒険はここで終わりだ」

「10年ですか…色々な事がありましたね」

 

色んな思い出が蘇ってくる。つい昨日起きた出来事かの様に。

 

「旅立ちの日にヒンメルとアイゼンが王様にタメ口聞いて処刑されかけたり」

「下手したらあそこで冒険終わってたよね」

あの時は私とハイターで王様を必死に説得したな。当人達は苦笑いしているが。

 

「ハイターが二日酔いで役に立たなかった事もあったな」

「週に一度はこうだったからな」

あの生臭坊主(ハイター)は何かと理由をつけては酒を飲みたがる。そして翌日は大体、アンデッドの様な顔色になる…

『目的地まで結構あります。少し休憩がてら、酒場にでも寄って行きませんか?幸い街が近くにあるようですし』

旅の道のりを計算にいれて、酒を飲むタイミングを伺っているのだ。

 

「その点私は優秀…」

私は魔法使いとして様々な鍛錬を続けて来たのだ。長く厳しい修行を乗り越えた私はまさしく大人のおねえさんで…

 

「ミミックに食われかけたときは置いていこうかと思ったぞ。」

しょうがないじゃないか。歴史に名を残した偉大な魔法使いが記した魔導書だという確率が1%でもあるなら、宝箱は開けるべき。

 

 

 

 

ああ、楽しいな。こんな時間を永遠に過ごせたらどれだけ幸せか。まあまだ、悲観的にならなくても大丈夫か。人間達の寿命が短いと言えど、ちょくちょく会いに行けば楽しい話が出来るのだから。旅の話を話せば、きっと盛り上がれるだろう。


 

「まったく、クソみたいな思い出しかないな。でも楽しかったよ。僕は君たちと冒険ができて本当によかった」

 

「そうですね」

異論はない。きっとそれは…皆と変わらない筈だ。

 

「短い間だったけどね。」

たった10年。本当はもっと一緒に冒険をしてみたいけど、私にもやりたい事がある。

 

「短い?何を言っているんだ?10年だぞ?ハイターを見てみろ、すっかりおっさんになってしまったぞ。かわいそうに」

 

「失礼ですよ」

「前からでしょ」

「…失礼ですよ」

楽しい。本当に。

 

 

残りの食べ物を口に入れていると、輝く夜空にも光る、流れ星が目に入ってきた。

 

「そろそろか」

半世紀(エーラ)流星でしたっけ」

 

「50年に一度の流星群。平和な時代の幕開けには丁度いいな」

 

 


 

 

「綺麗だな。」

「街中だと見えにくいね。」

「人が感動しているんだ。空気を読みたまえ。」

事実だ。もっと良い景色が見れる場所を知っている。…約束、取り付けておくか。

 

「じゃあ次。50年後。もっと綺麗に見える場所知ってるから、案内するよ」

 

「…ふふっ」

ヒンメルに笑われた。なんで笑うんだ。

 

「…いや、なんでもない。そうだな、皆で見よう」

 

次に会うのは50年後。意外とすぐに会える…ちゃんと約束を取り付けられて良かった。




たった1つの行動で、未来は変わる。
悪い方向へも、良い方向にだって。
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