葬送継のヒンメル   作:除外音

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捧げる想い


《祭りの終わり、何も変わらず》


 

半世紀(エーラ)流星を見終わり、またも祭りで賑わう

街を歩き出す。

 

「じゃ、予定通り今夜は宿に泊まって、明朝に出発だね」

僕は皆に問いかける。流石に深夜にお酒が入ったままお別れというのは危険すぎる。傍から見たら詩に出来そうだなとは思うが。…まあもう一日くらいは皆と駄弁りたいのが本音なんだけど。

 

「そうだね。私も明日は早めに出ないとだし」

「フリーレンが早めに?一体どんな用事が…!」

「それより朝起きられるかの方が疑問だぞ。」

「それはそうですね。あのフリーレンが早起きを頑張るとは…。たった10年でここまで成長するとは私にも驚きです。いや、10年もあったからかもしれませんね」

 

まるで誰もフリーレンが早起き出来るとは微塵も思ってないらしい。まあ僕もそう思ってるけど。ある意味信頼ってやつかもしれない。

 

「皆して馬鹿にして…私だって早起きくらいできるし」

フリーレンがムスッとする。いじけちゃったかな。こういう所も可愛い。意外と子供っぽいのも、フリーレンの良い所だ。

 

「僕はフリーレンがやりたい事が一番気になるんだ。やっぱり魔導書収集かい?」

 

「もう知らない。ふーんだ」

ここまで拗ねるとは。旅の中でも何回か見た程度の貴重なフリーレンだ。…流石に明日の朝までには機嫌を直してくれるだろうか。

「おや。勇者パーティーも最後は喧嘩別れですか?」

ハイター!こんな時に煽らないでくれ!

「まったくだ。フリーレンも10年で成長したと思ったが勘違いだったようだな」

アイゼン!君もそんなに変わってないだろ!やはりここは勇者であるこの僕が何とかしなければならない。

 

「まったく、こんな時まで皆は。フリーレンが困ってるだろ?ハイターだってもっと酒を飲みたい筈だ。アイゼンももっと食べたいだろ?さあ、屋台に行こう!」

 

多少無理矢理だが、話をずらした。強引でも喧嘩別れだけは避けたい。

ふと、フリーレンの顔を見る。さっきまでのムスッとした顔はどこへやら、静かに微笑んでいる。やっぱりフリーレンも成長しているのだ。僕は嬉しい。

 

「そうだね。じゃあ皆、あそこの輪投げの屋台で勝負しようよ?勝つ自信しかないけどね。負けたやつは変顔だよ」

…いや、そこまで成長してないかもしれない…

 


《宿屋にて、気持ちの整理》


 

「宿屋を選ぶのも困りましたね。やはり素直に王様が用意した部屋に泊まってれば良かったのでは?」

 

今、僕達は宿屋の人達に囲まれて身動きが取れなくなっている。

『勇者さん!ぜひ家の宿に泊まってってくれ!』

『ヒンメル様ぁ〜!ぜひ家らの宿に泊まっておくれぇ〜!』

僕がイケメンなばっかりにこの有り様だ。王様もこの事態は予測済みだったのだろう。今日の謁見の時、王様が一つ提案をしてくれたのだ。

 

『勇者達よ、今宵の祭りは民達も腕を上げての大祭となる。ぜひとも楽しむがよい。泊まる部屋はこちらで用意しても構わんがどうしたいか?空き部屋ならいくらでもあるのでな』

 

その時は断ってしまった。正直な話、宿泊場所が王家の関連施設なら監視は免れられない。そんな状態では祭りなんて楽しめないのだろう。

 

だが、今更やっぱり泊めてくださいなんて言ったらまた処刑されそうになりかねない。

 

「皆、選ぶしかなさそうだな。どこが良いとかはあるかい?」

 

「そうは言われてもですね…こちらとしては酒が飲めればどこでも構いませんよ」

 

「生臭坊主…と言いたい所だけど、私も同意見だよ。こういう時に深く考え過ぎると、結局無駄な時間を取ってしまうだけになっちゃうんだ。今までの経験からするとね」

大人のおねえさんぶっている所も可愛いな、フリーレン。

 

「俺も特に気にせんな。寝る時に邪魔さえされなければなんでもいい。ヒンメルも勇者なら、民衆の好意はありがたく受け取って置くんだな」

 

「別に受け取らないつもりはないよ。ただ僕に送られる愛が多すぎて返す事が出来ないのが問題で…」

 

「……すみません、はい、そこの宿屋さん。私達を泊めていただけませんか?4人、いや3人の宿泊としましょうか?」

ハイターが適当に決めた宿屋に泊まる事になった。危うく数に入れられなくなるかもしれない僕を置いて先に進もうとする。街の人達も仲の良さに乗っかって僕を無視していく。待て、待ってくれ!!

何とか追いついたら、振り向きざまに笑われた。この酔っぱらい達め!!

宿泊の手続きを終え、大部屋に移動した。4人分のベッドに、大きな机が一つ。これ…家族連れ様とかじゃあないか…?まあでも、楽しい話が出来そうだ。

旅の振り返りも程々に、寝室で寝る準備も済ませた。

 

「じゃあ皆、明日は早いからもう寝るね。おやすみ」

フリーレンがもう寝ちゃった。もっと話したい事は沢山あったんだけど。

フリーレンにとってはこれまでの冒険は、人生の内のほんの少しの旅。また会えると分かってるからこそ、いつもと変わらないのだ。人間に例えるなら、数ヶ月後にまた会う約束をしている様なものかもしれないな。

 

「…ヒンメル、お前はそれでいいのか?」

僕の心が顔に出てたのか、アイゼンがそう問いかけてくる。何の話…なんて誤魔化しても無駄だろう。

 

「良いんだ。僕の気持ちに気づいてくれなくたって。そりゃあ出来れば僕の気持ちが伝わって…付き合って…二人で魔導書巡りをしたり…ゆくゆくは結婚…なんて夢も実現して欲しいと思ったりした事はあった。でもやっぱり僕は、フリーレンが自分らしく生きている姿を見ているのが一番好きなのかもしれない…」

フリーレンが好きな気持ちは変わらない。でも、自分一人の願望で彼女を縛り付けたくない。

 

「あなた達はお似合いだと思いますがね。良いんですか?ここで別れたら、彼女は本当に50年後にしか会いに来ませんよ?何かしら特別な理由が無ければですが…?」

そうだ。彼女はエルフ。時間の感覚も僕達とは大きく違う。フリーレンにとっては50年後は瞬きの間の様な物なんだろう。正直理解は難しい。けど、それが僕の好きなフリーレンなんだ。

 

「あなたももう少し正直になるべきです。あなたは勇者として世界を平和にしてきました、その位の我儘は許されて然るべきだと思いますよ」

 

我……儘……

 

「フリーレンを縛り付けたくないというその気持ち、分からなくはないです。気ままに旅する彼女が好きなんでしょう。だからこそ、自分一人だけの我儘の為にフリーレンを止めるなんて事はしたくない」

やっぱり流石だなハイターは…僧侶なだけはある。普段は生臭坊主らしさはどこへやらだ。

 

「でも良いんです。世の中は我儘で動いているんですよ。彼女も長い間そんな世界で生きて来ている。深く考え過ぎなくても大丈夫でしょう。…そして何より、これは私達の我儘でもあるんです」

ハイター達の我儘…?

 

「酒の勢いでぶっちゃけさせていただきます。早く付き合っちゃいなさいよ!」

ハ、ハイター!?急に早口で喋り出したと思ったら、とんでもない発言をかましてきた。

 

「この10年の間、眼前で繰り広げられる淡い恋模様!眼にも毒です!!ヒンメル、あなたは遠慮し過ぎなんです!恋というのはもっと全力でですね!!!それでいて!!」

この後も1時間以上は熱弁が続いた。アイゼンも途中で責めてくるし…酒で皆おかしくなってるんだ、そうに違いない。

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

本当は分かってる。僕の本当の願いは、《フリーレンと生涯を共に過ごす》という事だって。

でもそんな気持ちに蓋をしてきた。それが最善な事なんだと、自分に言い聞かせて。鏡蓮華(かがみれんげ)の指輪を彼女の指にはめた時。いや、彼女が指輪を選んだ時から、彼女の気持ちが僕に向かない事は分かりきってた。

少なくとも、僕が生きている間は。

生きてる世界が違うんだ。だったらせめて、フリーレン(最愛の人)には好きな人生を歩んでほしい。

それが一番なんだって。

だから告白はしないで、【久遠(くおん)の愛情】を指輪に託して捧げたんだ。彫像を各地に建ててるのだってそうだ。フリーレンを一人ぼっちにさせない為なんて言ったけど、僕を忘れて欲しくなかったんだ。でも、この気持ちは墓まで持って行くつもりだったのに。

 

 

 

 

 

やっぱり話したい、僕の気持ちを。

 

 

 

「ヒンメル…涙はこれで拭いてください。」

ハイターが懐からハンカチを取り出す。

僕は気付かぬ内に…泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「すまない、ハイター。僕らしくないな…」

涙どころか鼻水まで垂らした僕の顔を拭いてくれた。

 

「良いんですよ、さっきも言った通り、これは私達の我儘でもあります。あまり気負い過ぎないように、いいですね?」

「俺からも言わせてくれ。まあまあの期間お前達を見てきたが、お似合いだと思うぞ。

そしてそれをみすみす見過ごすというのも、俺達の心に大きなしこりが残りそうだった。つまりは俺達がおいおい嫌な気分になりたくないという我儘だ」

 

「うん…ありがとう」

皆の“我儘”がタマネギみたいに心に染みる。

 

「皆、ありがとう。君達はやっぱり、最高の勇者パーティーだ。明日、フリーレンと別れる前に、言うだけ言ってみる。」

 

僕…いや僕達の我儘を。

墓まで持って行くつもりだったこの気持ちを。

フリーレンにぶつける。どんな返答が返ってきても、後悔はない。




いつだって、君の事を。
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