凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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 お次はワンパンマンです。
 キングは好きだけどミスターサタンは苦手な凍傷。
 何故かと考えたけど……
 ヒーロー辞めたいって言って、一時甘い汁をすすったことを後悔してるキングさんと、手柄はとことん、嘘をついてでも自分のものにするくせに、危険からは逃げて甘い汁だけすすり続けるサタン。
 泣いて漏らして懺悔するキングさんと、世界中を騙しても罪悪感とかよりも自分の見栄が大事なサタン。
 ……うん。
 …………まあ……うん……。ねぇ……?

 いやワカルよ? セル編のさぁ、16号の頭を持って『やかましい! 名前も知らないやつらが闘っているんだ! チャンピオンがこのままにげたんじゃいい笑いもんだぜ!』は正直熱かった。
 近くに行って投げてくれればいいってところで『そ、そう?』ってちょっぴりカッコつかないのも人間味があってよかった。
 ブウ編で犬を撃たれて激怒したあたりも、ブウと仲良くなっていくところも好きだけど、頼まれたわけでもないのに世界の危機を救ったってそのー……手柄? 名誉? を自分のものにするのはどうかなぁって。

 セル編でつい『セルは私がたおしちゃったかなー』って言っちゃって、それで罪悪感と戦いながら過ごしてきた……! とかなら分かるったって、ふんぞり返って、鍛錬するわけでもなく怠惰生活ですよ。
 ブウ編ラストでその名誉が地球の皆様の説得に役立ったわけだけど、手柄横取りで罪悪感もなく努力もなく、私腹を肥やすっていうのはもう犯罪者の思考では……?

 いや、ほんと『罪悪感と戦いながら努力を積み重ねてきた、Z戦士でもない一般世界チャンピオン!』とかだったらほんと絶対に好きになってたんですよ! 
 でも出る試合は全部八百長だし、ブウに頼み込んでまで世界チャンピオンに固執する有様……その座を目指して努力してる武闘家が可哀想だし、普通に鍛えたんじゃブウに勝てるわけないし、その勝てなかったブウがサタンに八百長で負けて、本人は努力も無し。
 いや………………無理ですって。
 ブウや犬とのエピソードやカッコイイ描写がどれだけあろうと、最終的な在り方にドン引きです。
 身長伸ばしたいがために様々な人を犠牲にドラゴンボールを求めたレッドリボン軍のあの人と、完全体になるために様々な人が犠牲になったセルを倒した手柄は我にありを主張する彼……そう差があるように思えないんよ……。




キングさん、実際結構スゲー人だと思うよ?

 格好良さよりも強さに憧れるって、あるよな。俺もそんな人生を歩んだよ。いや、歩んだっつーか……妄想? 妄想。OK妄想だ。

 強い自分を思い描いて、筋トレとかしてみたけど自分に負けた。あ、筋肉痛に負けたって意味ね? 自分にも勝てないヤツが最強目指すとか失笑モンだ。自分のことだろ笑うなよって時に、我慢出来ずに笑ってしまったのだ、まさしく失笑だ。

 そんなわけで俺は、自分に強くなれる機会があるならそりゃ頑張るよ、うん頑張る、なんて言い訳ば~っかり立てて、自分が怖くて逃げてたわけだ。自分から発生する痛みにすら怯えるとか、今考えるとダッセェェェェよな。言い訳を許してもらえるなら、人間ってのは下痢腹抱えた腹痛にさえ負けるように出来ているのだ、勘弁してください。

 ……でも正直言うと、決壊寸前の腹痛事情に比べりゃあ筋肉痛なんて……って思うよな。なぁ? だからそれは頑張らなかった俺が悪い。

 今偶然にもこんな俺の頭ン中を覗いている誰かよ。筋肉痛から逃げるな。キミは強くなれるよ、その痛みはキミが強くなるためのステップだ。もう嫌だとかあんま効果ねーじゃんとか、筋肉って発達するまで苦労が多すぎンだよコンチク(ショウ)! とか考えてるキミよ! ……実は筋肉裏切るよ。筋肉さんがこむら返った時なんて、おのれ筋肉! これまで付き合ってきた俺を裏切るのかァァァァ! って溺れ死にそうになったし。あ、うそ、死んだ。

 まあそんなわけで、一気に鍛えすぎるのはナシな。あと早くマッチョになりたいからって、筋肉さんに無茶させすぎるのもダメ。準備運動はしっかりやろうな、動的に。

 

「ふむ……」

 

 というわけで新たなる体で目覚めてから幾年か。以前の自分なんぞ比べものにならんほどに鍛えて鍛えて鍛えまくって、それでもまだ鍛錬中。

 売られた喧嘩は買うものの、売りにはいかない自分で居たい。こんにちは、ボロスです。……ボロスなんです。

 ある日気づいたら一つ目の人型生物でした。再生能力がすごい。そんな一族に産まれて、単眼で、再生能力すごくて、ボロス。一発で理解ったね、ここ、ワンパンマンの世界だ。

 やべぇ、怪人だよ、俺殺されるじゃんって恐怖したけど、単純に考えたら悪事働かなきゃいいだけだった。

 それよりなによりせっかくのボロスです。強くならなきゃお前……ウソだぞ?

 

「原作内のボロスが鍛錬していたかどうかは分からない。ただ単純にバトルに明け暮れる日々で、自然と強くなっていっただけかもしれない。だったら? 全力で体鍛えて再生していけば、原作ボロスよりも強くなれるんじゃないか?」

 

 そう思ったので、その日から鍛錬に次ぐ鍛錬。わざと自分を攻撃して弱ってから、自己再生能力を集中解放すればあっという間に元通り。しかも治った部分はより強度を増しているとくるのだから、野菜星人とまではいかないまでも、こうして肉体を作り変えていくことは出来るわけだ。空手家が貫手鍛えるために、束ねた竹に貫手ェかますのと同じだ同じ。痛いのは変わらないから、貫手ェかますのに結構覚悟が要ったりするんだけどね? ほら、冷たいプールに入る前のあの、無駄にハァフゥ呼吸しちゃう瞬間みたいな。で、痛くてアモギェエエとかヘンテコな悲鳴が喉の奥から放たれるのです。強さがあるとするならその先の話なので、藤巻くん! ガンバだ! 俺ボロスだよ。

 あと、メテオリックバーストの維持時間も伸ばすために、出来る限り発動させているようにしている。目指せ常中バースト。

 そして目標は───

 

「サイタマ先生の顔色くらい、変えてあげたいと思いませんか?」

 

 俺は変えてやりたい。阿修羅カブトみたいな意味じゃなく、純粋な力で。主に、VS地底王(夢)くらいに胸高鳴るバトルを感じさせてやりたいのだ。

 だから最終目標は、本気のパンチの風圧で遥か彼方の雲さえ斬り裂けるほどに……! そのためにはお願いマッソー! 破壊して治して破壊して治して破壊して治してェエエエッ!!

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 母星の外れにて、膨大なエネルギーの放出をしてみた。これ、雑魚には効くだろうけど使うだけもったいない気がする。そのエネルギーをパワーに変えるのがメテオリックバーストなんだし、その分のエネルギーがほんともったいない。ボロスさん絶対メテオリックバーストで近接戦闘重ねたほうが強いだろうし。

 あ、崩星咆哮砲は死亡フラグだからやめましょう。そもそも星壊す気なんてないです。俺ただサイタマ先生に、きっちりと“強い……!”って感じさせたいだけです。最強の敵が夢の中の地底人だけとかひどすぎるじゃないか。

 だから地道な鍛錬を続けるのだ。もちろん、サイタマ式トレーニングもやってみてる。回数調整や重りももちろんつけてのことだけど。

 

「待っていろサイタマァ……! いつの日か必ず、お前に戦いの興奮を思い出させてやる……!」

 

 シヴい森川さんボイスが自在に出せるってなんか感動。例のポーズを取って「メテオリックバーストォ……!!」ももちろん試した。ていうかやってる。「ィヤッハッハッハッハ!!」とアニメ版エネルの真似だって出来るしニンジャスレイヤー=サンの真似だって出来る。

 まあうん。よし、頑張ろう。もっともっと鍛えて、もっともっと強く───なんて思っていたら、遠くの空に黒い物体。

 何事かと同じ種族らが集まる場へと駆けてみれば、同じく黒い物体の来訪に困惑している同胞たち。

 

「んん……? なんだあれは……」

「船? まさかこの星に攻め入ろうってんじゃ───」

 

 そんな言葉に、あちゃー……とか思うのと同時にこれで食料と移動のための船が手に入る、なんて考えていた。

 この種族、べつに戦闘狂というわけでもない。ただこの星の環境が苛酷すぎるのと、種族的に再生能力が高いのと、戦えばそれなりに強いから、結構喧嘩を売られる種族だったりする。生存競争のために強く在らねばならなかっただけであり、他の星から食料だのなんだのを持ってくれば、比較的に皆様落ち着いたものだった。

 星から星への移動は俺にはまだ無理だ。サイタマみたいにジャンプだけで月から星にとか無茶言うなって話だ。38万kmをジャンプでだよ? どうなってんの。地球一周とかメじゃなさすぎて笑う。一歩で地球十周くらいしちゃうよあの人。重力関係とかありそうだけど、なんかもうあの人にそういう常識通じなさそう。

 あ、星から星への移動の話だったな。うん。だからこうして他の星から船がやってきた時に無傷で強奪、食料もあったら寄越せとばかりに奪うのです。

 話し合い? 聞いてもらえなかったよ。そもそも言葉が通じなかった。出会った瞬間に『アヮラハルジャスノォゥ!?』とかよくわからん言葉とともに光線銃とか撃たれたもん。

 なので───

 

「メテオリック───普通の移動&パンチ」

 

 メテオリックバーストを発動させたまま、普通に移動して船員をボコっていく。勢い余って殺したりはしない。彼らは貴重な労働源なんだから。

 でも思うのだ。もしかしてだけど、暗黒盗賊団ダークマターってこんな感じで作られていったのかなぁって。そう考えると、このままじゃあ原作ボロスと同じ強さにまでしか到れないのでは? と怖くなる。

 しかしながらそれでも強者であったのなら、こんな焦燥感……っていうのか? は抱かなかったに違いない。俺みたいに未来に不安を覚えることもなく、強い子はいねがー! ってだけの鍛錬をしない強者になっていたに違いない。

 だから鍛える。さらにさらに。怯える船長っぽいやつとなんとかボディランゲージで会話を成立させて、別の星に……あれ? このタコみたいなやつ、ゲリュガンシュプじゃね?

 ……そんなわけで星々への移動が楽になった。超能力で船の速度を自在に操れるゲリュガンシュプは、小さな宇宙船を用いれば一日かからず星から星へと移動出来る素晴らしいナイスガイだった。

 そうしてこうして星々を旅していると、メルザルガルドやグロリバースとも出会った。出会って……いやなんでダークマターフラグ立ててんの俺! やらないから盗賊団なんて!

 お前らも様とか呼ぶな! やめろ! 俺はボロスでいいんだよ! 孤高でいいの! 孤独でいいの! ……ぼっちとか言うなよやめろお前! それ共通言語なのかよ! 必死に言葉の勉強した俺に謝れ!

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 フハハハハハ……!! ついに! ついにィ! 遠くの彼方まで雲を斬り裂くことに成功したぞォ!!

 ……でも崩星咆哮砲を真っ向から破壊して、その上で斬り裂けるのかっていったら……うーん。

 よ、よし、鍛錬だ鍛錬。知ってる知識、思いつく限りの鍛錬で、とにかく鍛えるのだ……!

 

「やれやれ、ボロス様は今日も鍛錬か」

「あの方の強さへの執着には」

「ああ、頭が下がるな」

「だが素晴らしいことだ」

「凄まじいことだ」

「いいと思うよ」

「己の能力を過信しない在り方……なるほど。オレ様もアシッドブレス以外を鍛えてみるか」

「えっ、お前鍛えられるの?」

「ていうか」

「どこらへんが筋肉なんだお前」

「全身にそんな口ばっか生やして」

「いいと思うよ」

「いいのか悪いのかどっちだよ!!」

 

 なんか外野がうるさいけど気にしない! いやいーから! 俺のことはほうっておいてくれていいから! 盗賊団!? ならないってば! えっ……その場合俺が最強の脅威になるから頭目になってほしい? ならないから! 俺ただ別の目的があって鍛えてるだけだから、お前ら滅ぼす理由とかないから! 邪魔しなければなにもしないし、邪魔だったら言うから! ね!?

 

「バースト状態を内側で維持したまま、外側はノーマルボロス……カッコイイ!! 鬼滅的呼吸法じゃないけどバースト常中も出来るようになったし、出来るようになってから能力の向上も目覚ましい……!」

 

 これって成長期ってやつ!? 苦労が報われるフィーバータイムって最高だよね!

 というわけで一分一秒も無駄にしないつもりで鍛錬鍛錬鍛錬ンン!!

 

……。

 

 ゲリュガンシュプ監視のもと、星から星への跳躍着地の完了を達成した。

 

「まっ、まさか本当に成功させるなんて! なんという脚力……! いや、体を凍てつかせる宇宙の冷たさも、体を燃やす大気圏の熱さえ貫いてみせるその強さこそが素晴らしいのか……!」

 

 到着予定だった星で先に待っていてくれたゲリュガンシュプは、それはそれは大層驚きなすった。

 はい、めっちゃ冷たくてめっちゃ熱かったです。サイタマ氏、なんであんな平気なの!? カーズ様さえ凍るほどの冷気だよ!? や、大気圏は江田島平八だって平気だったから……あ、それいったら宇宙空間もか。つくづく人間じゃないな、EDAJIMAは。

 

「………」

 

 そこまで考えて、頭を触ってみた。……クセの強いトンガリ髪がそこにある。

 二人の共通点としてハゲであることを意識してしまったが故の行動だが、俺の頭髪は無事であった。

 そうだった、サイタマ式鍛錬は続けてるけど、あれが成功するとハゲるんだった。

 

「ふぅううううう~……!!」

 

 膨大なエネルギーを体内に留めて、拘束具の意味合いを持つ例の鎧を身に着けなくても安定させることには成功している。

 鍛えれば鍛えるほど応えてくれる体って本当に嬉しい。鍛え甲斐がある。そして労いも超絶しっかりやってあげたくなる。

 そう……大事なのは奉仕の心。応えてくれるのならば、こちらも応えなければ!

 

「待っていろサイタマ氏ィ! じゃなかったサイタマぁ!!」

 

 いかんいかん、ついキングの呼び方が出てしまう。でも言い方良いよね、サイタマ氏。先生、よりもなんだかしっくりくるのだ。

 

 

───……。

 

……。

 

 何年経っただろうか。ある予言者が地球にヤベェヤツが居ると言った。

 なるほど! これから20年後か! 20年後にボロス襲来イベントが起こるのか! ボロス俺だよ!

 

「ゲリュガンシュプよ」

「はい、どうされましたかボロス様」

「俺はこれから地球という星へ向かう」

「チキュウ……ですか? あー……たしか随分と離れた場所にそんな名前の星があったような───」

「ではな」

「え? あ、はい……ってまさかご自分で飛んでもとい跳んでいくつもりですか!? どれほど離れていると───」

「いいか、追ってくるなよ? 絶対に追ってくるなよ? 俺盗賊団の頭目とか本当にやらないから」

「えぇぇっ!? まだ渋っていたんですか!? あーだこーだ言いくるめられて結局幽霊頭目みたいな状態でもなっていたではありませんか!」

「それお前らが勝手に言い出しただけだからね!? 俺やらないって言ったじゃん! ていうかそもそも言いくるめようとするなよ! やめろよ! 俺ただ強くなりたいだけだっつってんじゃん!」

「圧倒的支配者ボイスで駄々っ子みたいなこと言わないでください!」

「うるさいとにかく俺行くから! 追ってくるなよ!? フリとかじゃなくてほんと追ってくるなよ!? 用事終わったら戻ってくるから!」

「え、あ、ちょ、待っ……あ、あーーーっ!!」

 

 足に力を込めて、見えている星へ向かって大跳躍。

 こうして、このボロスのサイタマ氏を驚かせようキャンペーン(人生を懸けた)が始まったのだった。

 ……ところで、地球ってどっちだっけ? まあいいや、見えてる星に跳びまくってればいつかは辿り着くだろう。

 

……。

 

 ここにアホがおる。

 とりあえず月に辿り着ければ地球も簡単に見つかるんじゃね? なんてノリで、星から星へと跳んでいた正真正銘の阿呆である。

 たどり着いた先で呼吸が出来ることをまず確認して、出来れば住民を探してみたりなんかして、時には意気投合。さすがに瞬間移動を教えてくれるような種族は居なかったものの、仲良く酒とか飲んだりした。異星の酒は不思議な刺激があった。

 ここにアホがおる。

 そんなこんなを星々でしていたら、時間の感覚とか忘れた。むしろ道に迷うならぬ星に迷ったし、一時なんてまったく別の方向に向けて跳んでいたりした。さらに言えばいくら鍛えても跳躍では補え切れない距離ってものがあるもので、そんな星を見上げた時は、来た星を戻って別の星へまた跳んで、なんてことを繰り返して、跳ぶ星を間違えてまた遠くなったりと、とにかく本人にはその気はなくとも寄り道ばかりをしていた。

 

「い、いやこれアレだから。遠回りが近道だったっていうアレだから」

 

 身体に刺激を与えるような星に辿り着けばそこで鍛錬をしたり、重力が異常な星に辿り着けば、そこから星へと跳ぶのに苦労して、跳べるようになるまで散々と苦労したり。

 やがて───ようやく月に辿り着いて、青き星を見つけた時、知らず単眼から涙がこぼれておりました。

 

(待っていてくれサイタマ氏……俺、あれからもっと強くなったんだ……! きっと、キミをわくわくさせられると思うから───!!)

 

 かつて読んだ世界で、ボロスに飛ばされた彼がそうしたように、月を蹴って地球へと向かった。

 もはや苦でもないこの行動。狙った位置へとブレることもなくメテオとなって落ちる俺は、「あ。そういやサイタマ氏の時と違って宇宙船がクッションにならねぇ」と遅ればせながら気が付いた。

 今までの星々の住民たちは、広い星に少数、って感じの暮らし方だったから、草原とか海とか目掛けて跳んだのだが───母星を見つけた嬉しさから、そんなことも忘れるくらいに逸って行動した結果がこれです。

 うわわヤバイヤバイ街中落ちるよこれ、っていうか人! 人居るちょっとどいてうわやばオワァアアーッ!?

 

  ちゅごどがーん、なんて普通なら聞かない音が、大音量で鳴った。

 

 全力で勢いを殺してやさしーく着地したつもりでも、大気圏突入して落下してきたものっていうのはなかなかどうして、いろいろヤベー物質とか引き連れちゃってたりするし、なにより熱を殺し切れてないからなんかもういろいろヤバイ。

 出来る限り、ほんと可能な限りそれらを殺してやさしく降りてもチュゴドガーンだった。やべぇ。

 だ、大丈夫か? 母星に来てそうそう人をミンチにしちゃうとか勘弁ノリスケ……あ。

 

「よ、よかった、なんか鼻血とか耳血とか出してるけど生きて───あ」

 

 ……やべぇ。この人キングさんじゃね。なんか面影がある。すげぇ若いけど。

 目のところの傷が既にある。もうサイタマ氏(有髪)と会ったようだ。ていうか全然若い。でも日本人離れしたこの深い彫り、間違い無いと思う。その人が耳血鼻血を出しながらぐったりと倒れている。俺の目の前で。

 ヤッベェエエエー!? キングさん殺しちゃったやっべぇええええっ!! ぁああいやいや死んでない! い、生きてる!? 生きてるよな!? 運の良さも最強級のキングさんが、まさかこんな程度で死ぬわけが───あ、びくんってした。でもなんか息がどんどん弱くなってる!

 アワワワワどうしようどうしよう! このままじゃキングさんが! なんかどんどん顔色が悪くなってきて……だ、誰かある! 救急車ァァァァ!! 救急車を呼べェェェェ!!

 

「おぉいやべぇよ! 隕石だ! 隕石が落ちてきた!」

「いやぁああっ! うそでしょう!? 今そこに誰か居たのに!」

「土煙でなにも見えねぇけどやべぇよ! 警察! いや、ヒーロー呼べ! 誰か居ないのかよ!!」

 

 周囲は騒然。そりゃそうだって状況だ。俺も全力で慌ててるし。

 どうする? このまま救急車とか待ってたらキングさんが……

 

「───」

 

 自業自得、自分で蒔いた種だ。

 再生能力や潜在能力に究極特価したこの身、この能力……活かす時が来たようだ。

 正直融合とか出来るのかも知らんけど、試さず殺しちゃうよりは全然いい。取り込む、っていうよりは俺がキングさんに溶け込もう。

 どうせ、地球に来てからどうしようかとか考えてたんだ。怪人の姿のままじゃ静かに暮らせないのは明らかだ。だったら……最強のヒーロー、やってみませんか?

 そんなわけで、メテオリックバーストを最大出力で解放して、自らを溶かすようにしてキングさんの血に混ざっていった。

 血に溶け込んだなら体内を駆け巡り、自然治癒力を爆発的に高めて、けれど細胞は壊さないように上手く溶け込みながら修復、融合。

 やがて、ガタイはいいのに筋肉はそれほどでもない彼の体がボロス様風にボンッ、キュッ、ボンッと発達すると、やがて彼の意識が目を覚ました。

 

「あ……あれ? 俺確か……新作のゲーム買うために……そうだ隕石! …………あれ?」

(あ、目ぇ覚めた? キングさん)

「エ? あ、あれ? なんか頭の中に直接声が……」

(あ、どうも。自分、別の宇宙からやってきたボロスという者です。この度、運が悪いことに着地地点に居たあなたを巻き込んでしまって、その傷を回復するために融合した者です)

「え……べ、別の宇宙? ゆうご……融合!? えっ……ラノベかなんか!? それともニチアサのヒーローもの!?」

(たぶん話しかけようって意識して考えれば伝わると思うから、口にしないで大丈夫。そろそろ土煙も晴れるし、ヘンな目で見られても困るでしょ)

(ええ……? えっと、聞こえる? えーと……)

(ボロスね。よろしく)

(ボロス氏)

(うん、よろしくキング氏)

 

 遥かなる別世界(紙面という意味で)の母星にて、現地人が仲間になりました。

 

……。

 

 で。

 隕石落下の騒ぎから逃げ出した現在。

 

「へー……じゃあボロス氏は元は地球人で、溺れ死んだら別の星で生まれ変わってたんだ」

(そうなんだよ。やっと地球を見つけた、とか思ったらいてもたってもいられなくて)

「いいよいいよ、こうして五体満足で生きてるんだし。しかもなんか筋肉がすごいことになってるし」

(あ、それね、細胞の方が結構悪くなってたから綺麗にしたり再生させたりと、あとは俺の影響ってところ)

「月から地球にジャンプで跳んでくるとか、普通じゃないよ」

(今のキング氏なら普通に出来るよ? 俺ベースになってるから)

「……コントローラーとか握り潰したりしちゃわないかな」

(それも大丈夫。俺ベースって言っただろ? ちゃんと加減も血とか体が記憶してるから)

「ふーん……ところでなんで俺がキングって呼ばれてるって知ってるの?」

(キング氏が気絶してる時に、周りがキングさんがーキングさんがーって)

「あ、なるほど」

 

 嘘である。

 晴れた煙から平然と現れたキング氏の姿に、様々な人が「えっ、キングさん!?」「嘘! キングさんだったの!?」「み、見ろ! あれだけ土煙が出てたのにクレーターの一つもないぞ!」「すげぇ! さっすがキングさんだ!」「隕石さえ消し炭に……いや、きっとさっきの土煙こそが隕石だったんだ!」「すっげぇえええっ!!」なんて騒ぐ中、ただフツーに逃げてきただけの俺達だからこそ、詳しいことなんてぼかしても問題ないのである。

 

「でもそっか。じゃあ俺が本当は強くなんかないってこと、体の構造とかでわかっちゃったわけか」

(いやいやなに言ってんの。キング氏やばいよ?)

「え? なにが?」

(なにが、って……)

 

 溶け込んでみて気づいたことがある。この人、動体視力っていうのか、ものを見てから全身に信号を行き渡らせて行動する速度が尋常じゃないほど速い。

 考えてみりゃこの人、音速のソニックの速度もフツーに目で追えるサイタマ氏を、様々なゲームで打ち負かしてみせてるんだよなぁ。格闘ゲームじゃ指二本で勝てるほど。やばいですね。

 全力メテオリックバースト状態のボロスの高速移動攻撃にも、腹パン一発を平然と当てたサイタマ氏だ。格闘ゲームって結構目で追って反射でガードしたり攻撃したりのゲームだよね? それを完封ですよ? やばいですね。

 つまり。……キングさんやべぇ。鍛え上げた俺の血肉にキングさんの動体視力が合わさり最強に見える。

 そんなキング氏は自宅へ戻るとゲームを始め……その日の内に俺の血肉ベースの動きを把握、買ったばかりのゲームにて塗り替えられることのないハイスコアを叩き出したのでした。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 キング氏は様々なゲームをやる。

 が、その資金は無限じゃあない。じゃあどこから来るのかといえば……ヒーロー活動であるわけで。

 

(ごめんねボロス氏、ヒーロー活動をやらせることになっちゃって)

「気にしなさんなキング氏、事故とはいえ死なせかけちゃった上に、今は体に住まわせてもらってる礼だ」

(お詫びと言ったらなんだけど、好きに動いていいからね。貧弱だったからどこまで動くのかはわからないけど)

「俺の細胞は特殊だから、能力値が上昇することはあっても低下することはないよ」

(すごいね、まるでチート特典じゃない)

「転生話ならよくあることじゃない?」

(あはは、かもね)

 

 キング氏とは今やオタク仲間みたいな状態だ。ただし仕事が入れば俺が動いてキング氏は意識の中で睡眠中。

 たまにこうして話すこともあれば、そのまま寝てしまうことも。

 けどまあ実際こうして体を動かせるのは嬉しい。招集をかけられて本部に集まった先で、調子に乗ってメテオリックバーストを発動しちゃった時は、慌ててキング流気功術ということで誤魔化した。気をつけないといろいろやばい。バングさんとかめっちゃこっち見てたし。

 え? その時の怪人? ワンパンでした。災害レベル:竜って言ってたのにワンパンでした。

 これならば……この強さならばあるいはサイタマ氏も喜んでくれるのでは……? とか思ったところで問題が発生した。

 ……この姿のまま、どうやってサイタマ氏を喜ばせるのよ。

 サイタマ氏ってあくまで強敵と戦うことを望んでたんだよね? ……あ、オワタ。

 

「それで、目標は何処に居るんだ?」

『キングさん。怪人はA市の境で暴れています。そこからでは距離があるので、すぐにヘリの用意を───』

「問題ない。すぐに駆け付ける」

『えっ……けど距離が───』

 

 おおよその場所だけを聞いて携帯端末の電源を落とす。

 そして足に力を籠めると、風を巻き込むような速度で現場へと急いだ。

 

 

 

-_-/───

 

 ブツッ、と小さな音とともに通話が切れた。

 

「キングさん!? キングさん!? あ、あぁ……」

「どうした?」

「あ、いえ……B級では手に余る案件で、手の空いているヒーローに呼びかけたんですが」

「キングさんが誰より先に返答して、向かってしまったと」

「はい……すごいですよね。キングエンジンが携帯端末越しにも聞こえてきました」

「……怪人相手になんだが、ご愁傷様ってやつだな。で。キングさんは例の如く?」

「はい。必要な受け答えだけをして向かったようです。鳴り響くキングエンジンとともに」

 

 地上最強の男、キング。ある日に突如現れて、ヒーロー名簿なんて制度が出る以前より活躍するヒーロー。そう、アゴーニ様がヒーロー協会というものを作り上げるよりも早く、巨大な悪を幾度も斃していたとされる最強ヒーロー。

 幾度も人々を救い、そのさなかに受けた目の三本傷以外は外傷らしい外傷は見えず、災害レベル:竜など一発で斃してみせるところから、傷をつけたのは恐らく災害レベル:神だったのでは、と言われている。それとも力が無い内から戦い続けたことで、最初の内に出会ってしまった強敵にやられたのでは、と。

 彼は誰よりもヒーロー然としていて、強く見返りを求めない。

 協会からの給料は貰っても、それ以外を要求したり受け取ったりはしない、気高い人だ。

 解決した事件は誰よりも多く、災害レベル:竜が相手でも瞬殺。

 キング流気功術という独自の能力を武器に、増幅させた身体能力で怪人を圧倒。

 小さな子供は誰もがその姿に憧れるものだ。いや、子供だけではなく、いい歳をした男性だって憧れる。

 活躍したくても日の目を見ないヒーローや、ちやほやされたくてチマチマとせこい英雄気取りをしていて、要求だけは一丁前の他のヒーローとは訳が違う。

 そんな彼に嫉妬して、キング流気功術なんて出まかせだ、なんて言ったC級が居たりもしたけれど、そんな彼の目の前で災害レベル竜の空飛ぶ怪人が、キング流気功術奥義・煉獄無双爆熱波動砲で消し炭となったのは、数年経った今でも伝説として語り継がれている事件だ。

 “キングさんには空も陸も無い。敵となったならば等しく地に伏せるのみなのだ”……そう言われるきっかけとなった事件だった。

 幾つか動画も存在していて、中でも動けなくなった老人を気功術で癒してみせた動画は女性からの人気もすごかった。

 ……もちろん私も尊敬している内の一人です。恐れ多くて“さん”を付けなければ名前も呼べない、天上の存在……それがキングさんだった。

 そんなキングさんだけど、趣味はゲームらしくて。世界ランキングのトップを飾っている“BRS”が彼であると言うゲーマーたちは、その存在を疑わない。

 

 

 

-_-/ボロス氏

 

 ……怪人を倒した帰り道。

 

(意識が俺に移ってても、心臓は元気に鳴り響くってすごいねキング氏)

(どれだけ強い体を手に入れたって、そうそう慣れるもんじゃないって証拠だよね。大体どれだけ体を鍛えたって、ホラー映画がダメな人はどうあってもダメなんだから、それでいいと思うんだ、俺)

(俺は平然としてるのにキングエンジンだけはやかましいとか、強敵と遭遇して隠れなきゃいけないって時は超絶不利だよね、これ)

(えー……? ボロス氏ほど強くても隠れなきゃいけない相手とか居るの?)

(世界って広いからなぁ……)

(たとえば?)

(もし結婚したとして、鬼嫁とか?)

(あ~…………うん。それは逃げるかもね)

(だよね)

 

 野菜星人だって奥さんには敵わないのだ、恐ろしい。

 なんて会話をしながら歩いた。すっかり友達のノリだ。でもそれが心地良い。

 

(でもよかったの? ランキングネーム、俺の名前にして。KINGの方がカッコイイだろうに)

(いいのいいの。連徹してもちっとも疲れずゲーム出来るのはボロス氏のお陰だし、速読みたいなことしてもしっかりとキャラの言葉が頭に残るのもボロス氏のお陰なんだ、お礼にもならないけど、ボロス氏はちゃんとここに居るってことを残したかったんだ)

(覆せそうにないハイスコア叩き出しちゃったら、他のゲーマー泣くんじゃない?)

(甘いなぁボロス氏は。ゲーマーっていうのはそりゃあ基本は見栄っ張りでもあるけど、そもそもが負けず嫌いなんだよ? ハイスコアがあるなら燃えるに決まってるじゃない)

(すごいなぁゲーマー。あ、ところで今日晩御飯どうする?)

(うーん、今日は一人鍋の気分かなぁ。たしか、キムチ鍋の素がそろそろ賞味期限やばかったと思うし)

(おお、いいね)

(ボロス氏、辛いの好きだよね)

(激辛好きじゃなくて、辛くてもちゃんと美味しいって思える料理に尊敬を抱く瞬間がこう……)

(ああうん、それわかる。人気があって話題になってばかりのゲームよりも、一部しか知らなくても感情移入出来すぎて没入出来るゲームの方を推したいみたいな)

(そうそうそれそれ)

 

 一人鍋。となれば、と材料を買うためにスーパーへ向かう。

 確かB市の生鮮店が安売りのチラシ配ってたっけ。よし行こう。金はある。けど贅沢は敵だ。削れるところで削らなければ、いつ纏まったお金が必要になるかなんてわからないのが人生。

 迂闊に借金とかしたら後悔することなんてよくあることだ。

 ……などと暢気に動いていたところ、感覚をヒリつくなにかが襲う。

 咄嗟に動いて、その反応の出所が爆発的に存在感を増す瞬間に気功術的ななにかで抑え込んでみたけど───

 

『───!? なんだお前は! 邪魔をする気か!』

 

 ……なんかナメック星のお方が黒くなった、みたいな人がそこに居た。

 あれ? これってワクチンマンさんじゃ───

 

……。

 

 呆れるほどの速度の連続攻撃を、掌で受け止め勢いを殺していく。

 エネルギーボールが放たれれば即座に破壊して、街への被害は完全に殺して。

 あ、彼やっぱりワクチンマンさんみたいです。胸に手を当ててキレ気味に自己紹介されました。姿勢は紳士なのになんでいっつも怒ってるイメージなんだろう、ワクチンマンさん。

 

『地球の意志によって生まれた私は地球を守る義務がある! それを邪魔するというのならば殺すのみだ!』

「地球の意志? 神は関係ないのか」

『神!? 私は地球という一つの生命から生み出された存在だ! 神は関係ない!!』

「あー……」

 

 前世ではしょっちゅう話題になってたワクチンマンさん。神に力を分け与えられたホームレス帝であの強さなら、ワクチンマンはきっと───なんて言っていた同士たちはたくさん居た。

 でもそうだよなー……地球が生み出した、ってちゃんとワクチンマンさん言ってるじゃん。神関係ねーよ。

 

『お前は何を思って私の邪魔をする! 何を思って地球の使徒である私の行動を阻害する!』

「生まれたからには生きること。生きるからには楽しむこと。楽しむからには笑うこと。笑うからには───下種にはならないこと。そんな単純さの先で笑うために、あんたの行動を阻害させてもらう」

『私利私欲……! 恵まれた力を持っていながらそれを選択するなど───やはり人間!! 根絶やしにするほかないようだ!!』

「あ」

 

 メキメキと音を立てて変貌するワクチンマンさん───が、到着したヒーローにドッゴォオオンと殴られ四散した。

 

「あ。わるい。お前が相手にしてたのか? ヘンテコな音出してデカくなってるとこしか見てなかったから───っていうかまたワンパンで終わっちまったあぁああ!! くそったれぇえええええっ!!」

 

 ……主人公、サイタマの登場であった。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 ワクチンマンさんが爆散して、一人鍋にサイタマを誘ってから、その関係は続いている。

 

「サイタマ氏ー。またゲーム持って帰ったでしょ。訊いてくれればちゃんと貸すんだから、言ってって言ってるじゃない」

「わ、悪い、なんかお前電話で忙しそうだったし。あとごめんデータ消えた

「え? 今なんて」

「……データ消えた」

「サイタマ氏……」

 

 今では互いの家を行き来して、ゲーム貸したり飯食い合ったりする仲だ。

 何度か共闘して怪人を退治したこともあるけど……この人の身体能力、ほんとどうなってるんだろうね。この細い体にいったいどれほどの力が……

 

「いや違うんだって! ちょっとした不注意で落としちゃって、そしたら……!」

「サイタマ氏? 無断で借りたものを丁寧に扱うどころか毎度落としてデータ消すなんて、小学生でもしないよ?」

「ぬぐっふ……!! す、すまん……」

 

 感情が死んでる、と自称するサイタマ氏ではあるけど、バトル以外では結構普通だ。むしろ普通だ。

 

「大体怪人を瞬殺出来る速度を出せるのに、どうして落下するゲーム機程度を受け止められないの。前は焦って掴んで握り潰したとか言ってたし」

「両手が朝飯で塞がってた」

「…………そもそも朝ご飯食べる状況で、傍に借りてきたゲーム機置かないでね」

「ごめん」

 

 言われてみればそりゃそうだって顔で素直に謝ってくれる。

 おかしいなぁ、カニランテ様来襲の時は、まだ常識的だった筈なのに。何故こうなってしまったのか。

 

「うん、謝罪を受け取った。で、話は変わるけど……最近怪人増えたよね」

「そうなのか? 基本、ニュース見てから動くから気にならなかった。平和なもんだなーとか思ってたくらいだ。ニュース見てるとお前のことばっかだし」

「所属しているヒーローには最速で情報が届くようになってるんだよ。サイタマ氏はヒーロー名簿に登録はしてないんだっけ?」

「活躍したくてなるもんじゃないだろ、ヒーローなんて」

「その気持ちは分かるけどね。だから俺も事件が起きたら直行して、解決したら直帰、って出来るだけ人に会わないようにしてるし」

「顔見せて売り出してなんぼの人気ヒーローなのにか?」

「売りたくて売ってるんじゃないんだよ。解決してたらそうなってた。仕事だって在宅のがフツーにあるのに、気づけば名簿に名前載ってるし給料支払われてるし」

「……一番の敵が人間って、そういうやつあるよなー……」

「あるよねー……」

 

 今では安定した生活出来ると思う。

 たまにサイタマ氏と、奢りで鍋パーティーとか出来るくらいには存分に稼げてる。

 

「ところでキング。お前ってどんなトレーニングして強くなったんだ?」

「基本の筋トレ100回ずつと、ランニング10キロとかかな(重力付き)」

「だよな! やっぱそれだよな!」

「え? ひょっとしてサイタマ氏も?」

「そーなんだよ! やっぱトレーニングっていったらそうじゃなきゃなー!」

「そうそう、辛くても日々の積み重ねがね! 涙とか鼻水とか垂れ流しながら毎日やったなぁ」

「なんだよこんなところで同士に会えるなんて! よしキング、今日は俺のおごりだ! 肉食おう肉! ……ん? ところでキング? お前……」

「サイタマ氏?」

「……なんでハゲてねーの?」

「気功術のお陰だと思う」

「……お前やっぱもやしな。おごるよ、もやし」

「まったくサイタマ氏は……ちょっとこっち来て。気功術で生えるかどうか試してみる」

「出来るのか!? マジで!?」

「試しだってば」

 

 かつてないほどクワッとした気迫とともに歩み寄ってきたサイタマ氏の頭に手を翳す。

 そこから、ボロスとしての再生能力を放出、毛根やらなにやらを感知すると、それを癒して安定させて、再生させて戻していった。

 すると、カニランテ様襲来の際のフッサフサヘアーのサイタマ氏に大変身!

 

「わっ、なんだ、全然元気じゃない毛根!」

「へ? ……うおわっ!? 生えてる!? うそ! マジ!? すげーんだな気功術って!」

 

 サイタマ氏、かつてないほど感情を露わにして大喜びの図。ヒャッホー! とか言って跳ねたりしてる。

 次に洗面所までを駆けると、様々な角度から自分を見て、顎にピストルポーズの指を当ててニヒルに笑ってみせた。

 

「サイタマ氏ってキリッとしてるとすごい格好いいよね」

「え? そ、そう?」

「うん。いつもは死んだ目をして、世界のこといろいろなんでもどうでもいいやって感じだけど、キリっとしてるとすごい格好いいよ」

「そういやぁ……なんか急にいろんなものへの意欲っていうか、やる気が湧いてきたような。やっぱ髪って大事だな。キングお前すげーよ。これだけでいろんな人のヒーローになれるんじゃねーの?」

「いやサイタマ氏? 俺そういう育毛関係で食っていくつもりないからね?」

「そうなのか? もったいないな。っと」

 

 そんな会話をしていると、突然番組が切り替わってニュース速報が始まる。

 なんでもすぐ近くで怪人が出現。近くのヒーローはすぐに駆け付けられたし、とのことで───

 

「よし! 今の俺なら熱い心を持ったまま全力が出せる! 行こうぜキング! 正義執行だ!」

「う、うん。なんか変わったね、ほんと」

 

 サイタマ氏が駆ける。元気に駆ける。でも……

 

「あれ? なんか力が思うように入らないな」

「───」

 

 なんかオチが読めていた。

 

……。

 

 結果として、怪人と凄まじい攻防をして全力全開バトルを繰り広げて勝利を治めたサイタマ氏。

 血も流してるしボロボロだし、ぜぇぜぇと息も荒れている……のだが。

 最後に繰り出した超全力死力振り絞り殴りの際、髪の毛が死んだ。

 

「………」

「サイタマ氏……」

 

 髪の毛は再び死んだのだ。代わりに彼は最強の力を取り戻した。

 血沸き肉躍る戦いなど久しぶりだったのか、彼自身は相当満足してるっぽいけど、やっぱり自分の強さの原因が毛髪にあるかも、とか辛いどころの話じゃない。

 ていうかなんなの、毛が生えたら弱体化して感情が蘇るとか。どうなってんのサイタマ氏。

 

「キング、気功術頼む」

「い、いやサイタマ氏?」

「頼む! 今度はこう……! 永久歯ならぬ永久髪、みたいなので!」

「サイタマ氏? きっとキミの髪の毛は一本一本がパワーセーブ機能を備えていて───」

「確かにカニランテ様との闘いの時に、敵を一撃で斃せるようなヒーローになりたかったとか言ったよ!? でもべつに毛根に死んでほしいだなんてこれっぽっちも考えてなかったんだよ俺は! ていうか毛がパワーセーブってなんだよ! とにかく! 感情殺して最強でいるよりも、怪人倒して退屈感じるなんてヒーローでいるよりも、俺はちゃんとしたヒーローやりたいんだよ! おかしいだろ! 心ん中じゃヒーローの大前提を掲げてるくせに、怪人倒したって事件解決したって“つまんねぇ”とか“もっと楽しめると思ったのに”とか“期待してたのにな”とか! そんなの違うだろ! 考えてることと目指したものがこれっぽっちも合ってねぇ!」

「サイタマ氏……」

「たのむキング! ……俺をヒーローでいさせてくれ……!」

「……うん。わかったよサイタマ氏。今度はちょっと強めに気功をかけてみるよ」

「おお頼む!」

 

 ……そうして、再びサイタマ氏の毛髪は復活した。目も楕円形の、力のない瞳からキリっとした切れ長の瞳に。

 力は落ちたけれど、それでもS級10位内で十分通じる力と、なにより1位であってもなんらおかしくないヒーローの心を持っていた。

 

「ねぇサイタマ氏」

「ん? なんだ? キング」

 

 なので、きっちりふさふさになってから場を離れた俺は、サイタマ氏に語り掛ける。

 ジェノス氏がまだ弟子になっていない状態だけど、早い方がいいかもしれないと思ったから。

 

「ヒーロー名簿に登録してみない? たぶんサイタマ氏や俺が抱くヒーロー像とは違った場所だろうけど、仕事すればお金がもらえる場所だから」

「ヒーローを仕事に? ……なるほどなー、そりゃ確かに俺とお前の意識とは違ったヒーロー像だよな」

 

 ちやほやされたいわけじゃない。お金だけが欲しいわけじゃない。金払いがいいやつを優先して助けたくてヒーローになるわけじゃない。

 理由なんて様々だ、けど、それじゃあ生活できない。

 サイタマ氏もそれがわかってるからか、はぁ、と溜め息を吐いて頷いた。たぶん、金の話が出なきゃ頷かなかったと思う。

 

「でね、筆記と実技の試験があるんだけど、サイタマ氏は筆記は最悪だと思う」

「いきなり真顔で失礼だなお前……。面接で落ちまくった経験はあるけど、べつにそんな馬鹿じゃねーぞ俺」

「前提の話だって。求められるヒーローのための知識が俺達と違うんだ。そんなので高得点とって嬉しい?」

「あー……なるほど、そういう意味か」

「だからちょっと反則だけど、実力を見せて向こうから勧誘させよう。俺とサイタマ氏が鍛錬って名目で戦って、それを見てもらう。場所は……採石場があったからそこを使おう」

「見てもらうって、どうすんだ?」

「こうするんだよ。えーっと」

 

 携帯端末を取り出して、ヒーロー協会に連絡。“ちょっと友人と採石場で割とガチめの稽古的なものをするね? 結構いろんなところがぶっ壊れるかもだけど、でも怪人が出た~とかじゃないから安心してね?”的なことを言って、はいOK。

 

「え? なに? そんなんでいーのか?」

「“キングの友人”ってだけでも気になるだろうし、さらにそんなキングとガチめでやれる人が居るなら、って偵察ロボでも出すんじゃないかな。さぁサイタマ氏? 同じトレーニングで強くなった者同士、ちょっと体を動かしてみようか。結構ストレスだったでしょ、今まで」

「───……それお前もじゃねーか」

「わかる?」

 

 二人で笑い合って、採石場までを全速力で駆けた。毛髪が復活した成果サイタマ氏は若干遅くなってたけど、それでも十分すぎるでしょこの人。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 さて。それからのことは───

 

「おぉおおおおおおおおおっ!!」

「あぁああああああぁぁぁっ!!」

 

 ほぼ全力のバトルだったと言えたりする。

 ジェノス氏と戦った時のサイタマ先生とは違い、血を流しながらのバトル。お前もうそれ鍛錬とか試合とかそういう次元越えてるだろって速度と力でぶつかり合って、そのたびに衝撃波が生じて岩や石が弾けて消し飛ぶ。

 メテオリックバーストを発動していないのに普通に戦えていることに感動を抱きつつ、でもそれってサイタマ氏が毛髪アリだから出来ることで、これがハゲだったらと思うと……いつ腹に風穴空くかって、結構ソワソワする。

 一方で、サイタマ氏は表情豊かに“強敵”と戦う状況に笑みと緊張感、焦りや……恐怖さえも抱きつつ、けれどこの戦いに目を輝かせながら拳を振るっているようだった。

 拳を振るっても一撃で終わらない相手に、最初はおそるおそる、次第に強く、やがて遠慮なしに攻撃をするようになったサイタマ氏は、“自分の力をぶつけられる相手”に目をギラギラさせて、けれどたまぁにハッとすると、お前が怪人だったらなー……とか死んだ瞳で見てきたり……ちょ、やめてサイタマ氏。これで満足しようよ。

 やめ……やめて!? なんか少しずつ髪の毛散っていってるから! このままだとまたハゲるよサイタマ氏! サイッ……サイタマ氏!? サぁイタマ氏ぃいいいいっ!?

 

「っ……キング流気功術・極意……!」

 

 相手のギアがマックスになる前に、こちらも予防線を張っておく。“あ、これあくまで気功術だから。怪人能力じゃないからね?”的なアレである。

 なので存分にメテオリックバーストを解放して、振るわれた拳に自分の拳をゴッツァアとぶつけ合わせた。

 ハゲサイタマ氏相手に手加減なんて、こっちが死ぬ。拳の振るいとともにハゲてしまったサイタマ氏相手にそうして拳を振るい、ぶつかり合った拳は耳を劈くような破裂音を立てて、それだけで舞っていた砂ぼこりを一層に塵にして、地面を砕き……あ、服は……なんか無事です。漫画世界の妙、で……ございますな。

 

 





 このルートだとA市壊滅の前にタツマキちゃんを連れて屋上へ跳んで、砲弾を止めてもらった上で、S級の人たちの前で煉獄無双爆熱(略)を発動、追ってくるなって指示を無視した船をワンパンで消し炭に。……と見せかけて、宇宙の外へと吹き飛ばした。
 アトミック侍にも実力を見せることになって、寿司屋でのいざこざは起こらない。
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