アニメでは、月光に感動して涙する綺麗なドエムが見れずに残念でした。
ケビンも漫画版の、しつこいくらいの「ケビン……ッ!」の呼びかけが好きだったのに……! まあ姿自体まるで違ったから仕方ないか。
その日、男の一撃にて男どもはお空の星と化した。
それはある日の出来事だった。……なんて言い出したら、全ての日ってのはある日なんだからわざわざ言うまでもねーべョとか言われそうだけど、まあともかく草木も眠るウシミツ・アワーな時間だったと思う。
「貴様ァ……何者だ!!」
「漬物だ。美味いぞ」
「つけ……? なにを訳の分からんことを!!」
「バカヤロー! 今分からないからってすぐに考えることを放棄するんじゃねー! お前なら出来るよっ……諦めるなよ! 思い出せよ! あの情熱に満ちた、ギラギラした目をしてた頃のお前を!」
「お前は俺の何を知ってんだ!?」
そう、時は夜中。
なにやら赤黒く脈動する肉塊に成り始めている銀髪少女を輸送している数人の男どもを発見、襲撃したのが僕とキミとの出会いだった。や、結局名前も、性格さえも知らんままに永久にお別れしたような間柄だけど。
「で!? 寄って
「だからなにを言っている!? すーぱー……!? なに!?」
「どう見たってお医者様には見えない貴様らが、おなごを連れ去ることに疑問を抱いとんのですよこっちは! なにか言い訳があるなら言うだけ言ってみればいいんじゃないですか!? だがなー! 貴様らどうせ私利私欲しかない悪党でしかないんだろーーーっ!! えーーーっ!? あたしにゃちゃーんと分かってんだよ!」
「……チッ、どの道目撃者は始末するのみだ! 悪く思うなよ、余計な正義感なんざ働か───」
「悪いわ!!」
「《ズパァン!!》げひゅんっ!?」
なんか悪く思うなとか言い出したおっさんに一瞬で接近、チョッピングライト式ビンタ一閃、そしてターン制バトルゲームが如く元居た位置へと戻る。
こういう場面で殺そうとしてくるヤツって、どの口で悪く思うなとか言ってくるんだろうね。悪いに決まってるのに。
それからはもう脳内で大暴れ将軍の始末用BGMが流れるかのような大立ち回り(?)。
どっから湧いて出てくるのか、ぞろぞろと出てくる男どもをギガティックサイクロン*1で全員等しく吸い込みボコボコにし、ボロ雑巾のようにドシャグチャと落下し力尽きる者どもを悲しい目で見送り、赤黒いデコボコが出まくっているおなごを救出した。
「もし……もし! しっかりおし! 意識はあるかね!? もし!」
声をかけてみる……も、赤黒いコブみたいなものは口周りさえ覆うように出ており、喋ることさえ既に許しておらなんだ。
「なんてひどい……! 誰がこんなことをッツ……!」
何が原因で、誰がこげなことを、なんて分かりません。ので、八つ当たりとして落下して苦しがっているおっさんどもに、口からシャドウフレアを放ってトドメを刺しておいた。そして僕の口もズタズタになった*2。だが、痛みを知らん者に相手を傷つける資格無し……! 戦の世のなんと悲しいことでしょう……!
と、あまりの激痛に涙をこぼしつつ、口をさっさと癒してボコボコと赤黒い血管のようなものが浮き出たコブが生えているおなごを抱える。世に言うお米様抱っこである。うそです、お姫様抱っこです。横抱き───とも言えるね。
「安心をし───この博光、決して貴様を見捨てたりなどせん……!!」
僕を害する敵には容赦しないけどね。
にこりと笑って、僕は夜の闇へと飛び去った。
……え? 空飛べるのかって? ……あのね? 武器にね? フロート*3っていう浮くスキルがあってね? それを使いながら風を発生させるとね? こう……ね?
……ええはい、武具が無ければなにも出来ない最弱を自称する、四天王最弱の博光が夜を飛翔します。
ちなみに着地は失敗して、脇腹から落下して血反吐を吐き、のたうち回りました。
こんなところが所詮博光です。
陰の縁の下の力持ちになりたい……いやなる。なるからね、絶対。(タイトル)
この世界には『悪魔憑き』、と呼ばれる謎の病気? 呪い? がある。
なんか急に発症して、絶対に治らないって言われている上、発症したお子はほぼ例外無く家族友人知人、知らん人に到るそのほぼ全てから忌み嫌われ、存在を恥じるかの如く家系図からさえ抹消される例もあるのだという。
けれども例外もあって、発症しようと可愛い娘だ───! と仰り、命懸けで守ろうとする親も居る。命懸け~っていうのも、忌み嫌われると言った通り、命さえ狙われるようになってしまう。やばいねこの世界。
発症したら死んで当然、みたいに思われてるって……ひどい話だよねぇ。ええ、可愛い娘だ~とか例に挙げたように、おなごしか発症しないっぽいです。
「ミィ、調子はどう?」
「はい、もうすっかり良好です。って、これ訊くの何度目ですか、クゥ様」
「おっほっほっほ、何度目だろうねぇ」
朝の挨拶もそこそこに、ミィ……ミリアという『悪魔憑き』であった少女の状態を【調べる】で見る。……ンン、良好。分析で状態の確認も出来た上、本人からも答えてもらえりゃ十分ってもんでしょう。
あの夜に連れ帰ったお子を分析、魔力の流れがおかしくなっていることを知って、治療法を確立、治してみれば、赤黒い筋が脈動するコブだらけだった少女は普通の少女に戻り、銀髪ストレートの、リボンを頭の上でキャワイく結んだお子として、今は目の前に立っている。
現在15歳で、えーと……ミドゥガルマケンスィガクイェ~ンヌ? とかいうところに通ってたんですって。でも程無くして悪魔憑きが発症。父親はなんとかしようと頑張ってくれてたらしいんだけど、結局はキョーカイ……教会? とかいうところに回収されることになって……その途中で僕に助けられたんだとか。
教会? に有料(!?)で引き取られた悪魔憑きのお子は、その先で処分されるのが常識、みたいになってるそうで……聞いた時は耳を疑ったもんですわ。こうして治せるってのに、有料で引き取った上に殺処分とか……頭おかしい。ので、キョーカイとやらは敵認定した。
「私は幸運でした。クゥ様のように悪魔憑きを治せるお方と出会うことが出来て」
「家族のもとに帰りたい~とかは思わない?」
「はい。結局はお金を支払い、引き取られたわけですし。私はもう……お父様の、家族なんかじゃ……」
言いつつロケットペンダントを取り出してパクリと開き、中にある写真を眺めては寂しそうな顔をするミリア。関係ないけど、“『出会うこと』が出来て”より“『出会えること』が出来て”のほうが希少性高そうな気がするよね。
人間が発症するのは珍しいらしい悪魔憑きに珍しくもかかってしまった彼女は、どうすることも出来ずに無力を噛み締めた父親によって、教会に差し出されたらしい。散々と“そのままそうしていても苦しめるだけだぞ!”だの“娘さんのためにならんぞ!”だのと教会から言われた果てに、らしいから、よっぽど悩んでくれたっぽいけどね。でも……結局は教会の手に落ちてしまったのなら……と、そんな事実を知っていれば、もはや家族のもとに、なんてとてもとても思えないんだそうな。
うん、お父様ってば最後まで諦めようとはしなかったらしいけどね。半ば引きはがすような感じで、無理矢理納得させたっぽいらしい。だからたぶん、親のほうは彼女が
「ミィはそれでよかったの? 事情を話せば家族のもとに戻れるかもだけど」
「現状は……変わらないのだと思います。“私”の記録は消されているでしょうし、たとえお父様が記録を消していなかったとしても……一度悪魔憑きとなった存在を、周囲は許しも認めもしません」
「嫌な世の中だよねぇ。ん、わかった。じゃあ行くところとか行きたいところ、やりたいこと欲しいものも定まらない内は、俺と一緒に居たらいいよ。この博光、てめぇ勝手に救った相手をハイソレジャー、と放り投げたりはしねー猛者。自分から好き勝手に関わったくせに、やりたいことやったらハイサヨナラとか嫌いなんだよね。ふざけてやる分なら全然するけど」
「はい、ミィはそれで構いません。やりたいこと欲しいものは既に定まっていて、永住の地は決まっていますから」
「……イイネ!」
「はい♪」
にこりと微笑み、こてりと笑顔のままに軽く首を傾げるようにするミィさん。傾げたっていうよりは、たぶん頷いた感じに近いんでしょうな。
永住の地が決まってるなら、いずれこの博光からも離れるのでしょう……そんな独り立ちを、陰ながら支えてやりとうござる……こんにちは、中井出博光です。
「あの、ところでクゥ様?」
「え? なに?」
「何故偽名をその……クゥ・シナンヤ、などという不思議な名前に……?」
「名実ともに唯一無二の指南役っぽくてよいじゃあないですか。ドールニェール侯爵家四男、ヒロミトゥ・ドールニェールは四男だからますます四天王最弱を謳えると歓喜した矢先、親や兄がなんか死んだ所為でいきなり家督継ぐことになって、それでもケナーゲに生きてる凡人を自負する博光です。貴族の腹黒い争いとかって気持ち悪いよねぇ。俺これでもさ? 家督とかそげな権力とかイリマセーンって言いながら生きて来たんだよ? なのに親や兄が争いの果てに死ぬとかさぁ」
料理に毒を盛ったり、賊を雇って殺しにかかったり、まあなんかいろいろ企んだ日がたまたま一緒の日になって、両親と兄3人が同じ日に死にました。そして生きてるの僕だけ。疑われぬ筈もなく……ッツ!*4
というわけで過去の栄光で、ド・オルニエールを統治していた侯爵位を持っていた僕は、この世界にてドールニェール、なんて名前の侯爵家の四男として産まれました。
相変わらず繋げて読むと、人形が煮えてそうな名前でありんす。*5
というわけで、僕は僕の事情だけで【シナンヤ男爵家】を捏造創造、その家の一代貴族*6としてクゥ・シナンヤ男爵を世に生み出したのです。クー・フーリンにはどう足掻いても届かなそうなところとか最高だよね。
「あの。以前お教えいただいたように、正式なお名前は───」
「うん僕博光。ていうかミィ~? あんまりかしこまらんでもいいって言ってるでしょ? 無理矢理押し付けられた爵位はあっても、べつに偉くなんかないんだから」
「そ、そんなとんでもありません! ヒロミツ様は侯爵としての仕事を完璧にこなし、今もドールニェール領を統治していらして……!」
「親やキョーダイがどれだけ醜くお亡くなりになろうが、領地にお住いの皆様に罪はないからねぇ……。暗殺に協力した輩には慈悲は無いけど、悪人以外には清い心で向き合いたい……こんにちは、中井出博光です」
「……!」
いつものノリで、服を
べつに減るもんじゃなし、堂々と見てもえーのよ?
「まあ、そんなわけなんで自分が任されてる領地だけでものんびり豊かにしていきとうございます。なんてったって芸術の国オリアナ! 人々が芸術に目を開き愛を唱える国の侯爵!*7 僕はこの国が民を愛し芸術を愛する限り、愛し通したいと思う……いや、愛す。愛すからね、絶対」
「ヒロミツ様……!」
何故だか口から鼻までを両手で覆うようにして涙する、感激した人がするアレをするミィはとっても純粋だと思う。良いお子よね、ほんと。彼女が目的の大地へと旅立つまでの間、せめて不都合のないように彼女の幸せを守護らねば……! でも感極まると、所構わずヒロミツ呼びするのはなんとかしてもらおう。場面に応じて呼び方変える~とか大変かもだけどね。
そんなこんなで、僕のこの世界での歩き方は、家族が死んだ途端になんとなーく定められてしまったのだと思います。
願わくば、この国が【芸術はまあ好きだけどそれはそれとして邪魔者は始末する……!】みたいな国ではありませぬよう……───!*8
…………なお、この数年後。
一人のドMと王妃によって、国がハチャメチャになるのだが。
それはまああとの話ということで。
───愛。
それはこの世で最も美しいもの。その中でも家族の愛はさらに美しい……ってエロイカ兄さんが言ってた。あれ? ジュドー様だっけ? あ、ジュドー様か。
ともかくヴァイオリンを人器100%*9で持ち、エロイカ兄さんの例のBGMを弾く僕は現在、涙と涎をこぼしながら拍手しまくるミィとともに領地運営を北から南へ東から西へ、民の皆様にヒロミトゥ様万歳ー! と呼ばれるくらいには善性統治をしてみせておりました。
芸術の国とはいうけど、王族ばっかりが私腹を肥やすのが大半な貴族社会って、どんな世界でも似たような感じです。ので、僕は辺境を任される貴族の名に恥じぬ益良雄として*10、人々の暮らしを豊かに保ってきましたさ。むしろ親の代なぞ糞だったといろんなところでヒッソォと囁かれるくらいには、人々に慕われております。俺に直接囁かれてるわけじゃないけどね。
爵位だってさぁ、親が侯爵だからって継がせることないじゃないのさねぇ? 確かに以前の最高爵位として侯爵を得たことあったけど、この世界じゃ関係ないもの。
侯爵の息子でろくに手柄もたててないなら騎士より下でしょーにもう。まあ上がガバガバだから、勝手に男爵家作って、演奏しながら旅したり指南役なんぞやってるんですけどね? 芸術の腕が高ければ身分など考えないっていうのがこの国だしね。仕方ないね。
あ、うん。僕人器100%解放しないと、楽器も満足に奏でられないほどに才能のないゴミカスです。*11
で、夜には別の国や領地から現れる盗人盗賊蛮族山賊等々、あらゆる賊の排除に東奔西走南船北馬。
人攫いなぞを見つけようものなら、グワバババ許せーん!! と美味しんぼのキャラのように殴りかかり、盗人猛々しい猛者どもを殴り倒してきました。
───さて。この世界のことですが。
芸術の国ではあまり広まってないし、むしろ野蛮だとも思われてるっぽいけど、魔力を使って身体強化をし、剣を振るう
魔力で身体能力強化くらいはオリアナでも普通に行使する技術だけど、野蛮なのは美しくないと、暴力的な行動は慎まれていてサンダージョワジョワ。
そんな芸術の国にあって、侯爵という爵位を冠している僕はといえば───
「バイオレンすわ~~~っ!!」
「へっ!? はっ!? ひぎゃあああおべぇっぐ!?」
ヴァイオリンを手に殴りかかり、賊をブチノメしておりました。芸術……なんというゲイジツ!! そう、これは
あ、大丈夫大丈夫! ヴァイオリンには氣や魔力といったものに加え、様々な鍛冶や加工の技術においてエーテルコーティングまでされているスグレモノだから、何を殴ろうが隕石をガードしようが傷ひとつ付きません!! これで殴った証拠など出ようはずもございません! 故に死ね!!
「おい小僧ォオオ……! この芸術の国において、美しくねぇ行為をした事実……どう責任取ってくれんのだ……!?」
「う、うるせぇ! こんな芸術ばっかに傾倒した国で、暴力で金儲けすること考えねぇなんざ馬鹿のすることだろうが! つ、つーかてめぇ! 妙な被りものしてるようだがアレだろう! 侯爵家のヒロなんとかっつー四男だろ!」
「そっかー♪ 暴力肯定してくれてアリガトウ♪ いかにも───わたしがヒロミツでございますよ。───でも死ね」
シャーマンキングの例に応じ、名乗ってから背後に瞬間移動。そして始末する。シャモンのあの名乗り口上好きなんだよね。
まあやることは結局殴殺で
そう、まるで……ハーメルンのバイオリン弾きにて、ハーメルが平和の象徴ハトをバイオリンでブン殴るが如くバイオレンスに……!!
まずは頭部を横殴りして、倒れた相手にハーメル式ハト殴りコンボを決め、トドメにモンハン式スタンプコンボでフィニッシュです♪
「おーぅぃ、ミィ~? そっちはどうだーい?」
「はいっ、始末完了しましたヒロミツ様っ!」
声をかけてみれば、ぴうと飛んできて目を爛々に輝かせて報告してくるミリアさん。
なんでも僕の役に立つことに至高の喜びを感じるとかで……あ、あれぇ……? なんでこんなことになってしまったのやら……? あと殲滅作戦中にヒロミツ様はやめようね?
や、確かに弱り切ってた身体に、『い、いかーん!』ってターちゃんみたいに叫びつつ魔力を注いだよ? 僕の人生において、珍しくも魔力を強化できる身体で産まれたから喜び勇んで強化しまくった魔力を、た~っぷり注いだよ? したっけなんかやたらと懐いてくるじゃない?
いや……うん、肉塊になっていく身体と、信頼してた知人友人からの裏切り、見知らぬ人からのひっどい罵倒なんか一身に受け続けてたら、心がひどく寂しくなってしまうのも分かるんだけどね。
そんな絶望と赤黒いコブに覆われた世界から救ってくれた暖かさに、もう泣いてしまうくらい心が救われたとかで……うん。そういう非道なる地域に居させたくなかったから、こうしてオリアナまで引っ張ってきたんだけどね?
しっかし……頭の上でピンと立っているリボンがなんか感情を表現するかのようにぱたぱた動いたりするのは、感情で魔力が揺れたりするからなのだろうか。なんでいっつもそげにリボンがピンと立ってるの? って訊いたら、魔力制御の一環として、常に纏わせてるからだ~とか。*12
一見して武器をなにも持っていないように見えても、闇に溶ける黒を基準とした漆黒のスライムエプロンドレス自体が槍にも剣にもなるから、ミィはエプロンドレス自体を魔力操作と武具としての鍛錬アイテムとして愛用している。
暗殺なんかは、綺麗なお辞儀で頭を下げるのと同時に、スコップちゃんリボンが刃となって襲ってくるから非常に怖い。いやそれ暗殺チガウ。
「俺、ミィが俺に懐いた獣人でしたって言われたら信じる自信あるわ」
「ヒロッ……クゥ様が一族の長になるのなら、私は子供の五人や十人、産んでみせます!」
「うん、やめようね? 好意を向けてくれるのは嬉しいけど」
なんて眩しい笑顔言うのアータ。こげな娘がついこないだまで、悪魔憑きで世に人にと絶望してたって信じられます?
まあうん、元気なのは善きことだけどもさ。
そんなわけで、次なる拠点を暴くためにも数人は残しておいた謎組織(悪魔憑きを攫い隊)ににこりと笑ってみせる。びくりと震えはするものの、ギャースカ言ってくるのは流石の度胸。
「……元気ですね、この人達。自分の立場を分かっているのでしょうか」
「これも小者っぽくていいよね。僕も捕まったりした時は、常にこうありたいと思っているものさ……!」
「クゥ様はもっとも~っと堂々としててくださればいいのです!」
「えー……? 俺ザコムーブとか好きだから、それはどうかなぁ」
異世界に産まれて落ちて早何年か。
こんな剣と魔法(身体能力強化くらいしか出来ないらしい)の世界に降りて、ついに僕が魔力を持つ日がやってきて、思いっきり燥ぐことが出来たのだとしても……思うことはひとつ。
この世界もどーせ、異なる世界のくせに日本で聞いたような話とか出てくるんだろうなぁ、ってこと。ほれあのー……七つの大罪? とか、北欧神話? とか。
なんで日本で聞くような話を異なる世界に渡ってまで聞かなアカンのだって我らが猛者どもの中にもツッコんでたヤツが居たなぁ。
そんな僕は、異世界で装備するなら断然グレートソード。
せっかく異なる世界に来たのに、日本刀を武器にしちゃあもったいないと思いませんか?
むしろ日本から異なる世界に降りるとして、そこで是非日本刀を使ってほしいって世界があるとしたら、ダイの大冒険しかあるまい!
……だってあれ、剣で戦うくせに流派がアバン流“刀殺法”って、大人になった今でこそ気にならない? 学生の頃は気にもしなかったけど、今思えばアバンストラッシュとかって居合い抜きで放てば一層に強いのでは? 刀殺法だし。
あ。この世界に日本知識が通用するか否かを知るのに手っ取り早い方法、あるかも。こういう暗躍せし者に訊ねてみりゃいいのだ。
【素晴らしい七人】とか【円卓の騎士】とか【七英雄】とか【四魔貴族】とか【七つの大罪】とか知ってますか? みたいに。あ、でも……こういう世界だと馬鹿正直に七英雄~とか円卓の騎士~とかじゃなくて、英語とかドイツ語とかの読みになってたりするのかな? じゃあ円卓の騎士とかだと~……ナイツオブザラウンドテーブル? 略してナイツ~とか言っても通じないだろうし……ラウンド? いや、“数”として通じるように言うならラウンズの方がいいのか。
「さてうぬら。円卓の……いや。ラウンズの皆様は元気かな?」
「……!? 貴様! どこでその情報を!」
「───」
ほーれみろやっぱりあったよ円卓の騎士。異世界ファンタジーものだとな~んでかあるんだよ、現代日本で広く知られる神話系のものとか七つの大罪とか。
そのうちエ~クスキャ~リビャ~ォとかも出てくるのかな。ゲイボルグとか? あ、ゲイボルグはロマサガか。でも僕ゲイボルクって名前よりもゲイボルグの方が好きなんだよね。下り飛龍*13は浪漫です。
「ナイツオブザラウンドテーブル。円卓の騎士とされる12人の選ばれし者の話……知らないとでも思ったか?(マジで)」
「ッ……フン、ハッタリだ。適当な言葉を並べた程度で───」
「モードレッド卿は元気かな?」
「…………ッッ!!」
作品によっちゃあモードレットやモルドレットだったりするから、最後のドの部分はちょっぴりモゴモゴした。でもビンゴ。居るわ。これもう居るわ。もしや転生者=サン? いや、でもなぁ、わざわざそういう名前名乗るかなぁ、転生者が。いくら○○になりたい~なんて願望があろうと、名前から入るタイプって大体名前負けするし……アッ、親がおイタイお方だったとか……!?
「フンッ……拷問にかけようと無駄だ……! 情報を渡すくらいならっ───!!」
「なんとっ!?」
瞬間! 残したヤツらの中でもなんかちょっと偉そうなヤツが、歯の奥をカキッとわざと鳴らした! 途端、男の口がコァアッと光を放ち、爆発を起こした───!!
「………」
「………」
「さ、吐こうか?」
「おげぇええぁあああっ?」
光ったから時を止めて*14、爆発しかけていた“仕込み爆弾”を歯ごとブブッチャアと抜き取り、空中に遠投したあと時を戻した。
なので目の前に居るのは急に歯を抜かれてオギャアアアと叫ぶ男だけ。
「大丈夫! たとえ貴様が死んでも無理矢理蘇らせて、喋るまで拷問続けるから! さあ、次の拠点は何処だい!?」
「っ……だ、誰が喋───ぁ、あ……? な、なん……なにを、した……?」
「ちょっと貴様の神経組織を操って、感覚の鋭さを全部鼻に移しました」
「は、鼻……? はっ……はははっ!? 馬鹿が! そんなことをしてなにに───」
「───ここに毛抜き様がございます」
「───」
瞬間! 毛抜きを知らぬ男にもその形状で何をするのかを察することが出来たっぽい! さ、ソッと……鼻毛を一本摘まみまして……?
「……さ、喋る気になったかな?」
「ふ、ふんっ……なにを調子に乗っているのか知らないが《ブブチャア!!》ぎぇぎゃぁああああっ!? あぁがっ! あぁああっ! ぎぃいいやぁああああっ!!」
抜いた。途端、男は転げまわり、涙を零し、叫び続けた。麻酔も無しに歯を強引に抜かれる……そんな痛さが鼻に集中しているのを想像してみてください。モノを噛む、などで鍛えられている歯や歯茎らと違い、こげなヤワヤワな場所に神経という名の痛覚が密集している……そんなところの、ただでさえ痛い鼻毛抜き……地獄です。
そんな彼の神経が鼻に行っていることをいいことに、キュッと縛って動けないようにして、と。
「さ、次は右か? 左か?」
「───………………」
「…………ややっ!?」
声をかけてみれば、なんか顔色が悪くなってチーン……って感じでお亡くなりになっていた。
「こ、こやつめ毒まで口に含んでおったわ! じゃあ解毒、んでもって蘇生」
「《パアアア……》…………ハッ!? え、え……え? えぇっ……!?」
「大丈夫か!? 馬鹿野郎なんで毒なんかっ……! お前っ……死ぬところだったんだぞ!?」
「死ぬつもりだったんだが!?」
「大丈夫だからな!? もう二度とさっきの毒で死なないように、お前の体に抗体作っといたから! 馬鹿野郎ォ……もう死ぬだなんて考えるんじゃねぇぞ!?」
「だから死ぬつもりだったんだが!?」
「あと抗体はあっても毒であることは変わらないから、神経が集中してる鼻部にはめっちゃくちゃ刺激的かもしれんけどお前がいきなり出したのが悪いんだからそのまま拷問続行な? 大丈夫だ安心しろ! 鼻毛が無くなったら生やしてやるから!」
「安心与える場所そこじゃねぇだろ!? ってまままま待てっ! 待ってくれぇえっ!! 分かった話す! 知っていることは全て! だから勘弁してくれぇええええっ!!」
涙と鼻水と涎を撒き散らしながら叫ばれた。
一部始終を黙って見てくれているミィは、クゥ様の手を煩わせて……何様のつもりですかと凍てつくような目で彼を見ていた。
「え……いいのか? ありがとう! ありがとう! 教えてくれた情報がもし嘘だったら、怖いくらい伸ばした鼻毛を三つ編みにしてネチネチ引っ張るからな!?」
「てめぇには情ってものがねぇのか!?」
「自分に対する悪党にかける情はないかなぁ。じゃ、情報収集しようか」
そうして、今日も今日とてこの世界の闇の情報を手に入れる。日常茶飯事ですよもう。あ、ちなみにこやつらの組織はディアボロス教団とかいうらしいです。ディアブロスじゃないらしい。残念。てっきり地面から回転しながら飛び出してくる角竜を崇める教団だと思ってたのに。
で、こういうことやってると、たまぁになんか錠剤を噛み砕いて、筋肉ゴリモリ、髪を逆立たせて『覚醒者3rd……!』とか言い出すやつが居るんだけど、そういう奴らとは真正面からぶつかって、心と自信を叩き折りにいってる。どぉ~したぁ~! カカロットォーッ! とか言って。覚醒? するとなんでか錠剤をビンごと落として襲い掛かってくるから、いつの間にか回収した錠剤の数も結構なものになっている。覚醒剤かぁ……怖いなぁ異世界。
まあそんなわけで、日々は平穏。こんな闇のことなぞ知ることもなく、人々は忙しく生きています。
……。
さて、そんな僕ですが、昼間は貴族様の家に訪問して、剣を教える仕事をしていたりします。クゥ・シナンヤはそういった仕事を生業とした一代貴族として存在する、っていうことにしといたので。ちなみに後ろにはドールニェール侯爵家が存在するので、一代貴族的男爵家だろうと、如何に他国だろうと、結構影響力はございます。
何故こげなことをするのかって? 夜は闇の世界を、昼は表の貴族世界を調べておきたいじゃあないですか。
そんなこんなで気づいたことがあるんだけど……一応この世界にも流派ってものが存在するものの、剣の技術は大したことはない。
剣に魔力を込めてぶちかます、みたいな感じで大体終わるし。
それでも型ってものはあるから、それを積み重ねるのと剣に魔力を上手く通すのが大体の課題だ。
しかし? そんなもんをするよりも、その人にあった身振り手振りってもんがあるってもんです。だから、数年前に訪れたカゲノー男爵家にて───
「ンンッ! ノン、ミス・クレア! それではダメ! ダメデェス!」
「……、なんで、ですか?」
「魔力の操り方が雑すぎます。それでは本当に力任せの攻撃しか出来ません。力任せの攻撃しか出来なくては、相手が手練れの受け技師の時にはあなたが先に疲労してしまいます」
「だったら疲労する前に倒せば───!」
「敵が一人であること前提で考えるのはやめなさい。あなた方が戦うことになるものの大半は賊です。賊が一人で盗みを働きますか? 殺人を犯しますか?」
「……!」
「故に。魔力は最小限に、動きは小さく。なんなら魔力なぞなくとも……どうぞ、全力でかかってきてください」
「っ……後悔してもっ───!!」
「おうとも知りません」
カゲノー男爵家長女、クレア・カゲノー。彼女の魔力はお子にしてはとても素晴らしい。けど、この世界の剣士様の標準の域を出られない剣の型。型ってのは大事だけど、型にハマるとそれ以外を認めようとしないのは、イッツアヨクナーイ。
なので、振るわれる暴力的なまでの剣の全てを、剣速よりも速い手の動きで横に逸らし縦に逸らし斜めに逸らし、自分は一歩も動かずに全てを捌いていく。
「……!? そんなっ! 魔力も使わないで……!」
だってこの世界に来るまでそれが当然だったんだもの、ヒロミティック技術(力技*15)で“美麗なる技術”に見せかけて捌くのなんてよゆーよゆー!
「ほらほら、クレアちゃん、集中集中。せんせーが生徒より弱いなんてのよりはいいでしょう?」
「くっ……クレアちゃんとか言わないでください!!」
「勝てたらそーしてさしあげますことよ? 勝てたらね。だから勝てるように真面目に取り組みましょうね」
「くっ……く、くぅううう……!! だぁあああああああっ!!」
「はいはいやっすい挑発に乗って集中を乱さない。踏み込む足に魔力込めすぎ。突き出す剣に魔力込めすぎ。魔力を込めすぎるから次への切り替えが遅くなるんだ。遅くなれば慌てて戻そうと余計に魔力を爆発させる。そんなんじゃダメなの。はいやり直し」
「《べちぃっ!》あうっ!? ~~……ったぁああ……!! なにをっ───」
「デコピン。さ、弟くんの前で立派で真面目なお姉ちゃんを“魅せたい”なら、真面目にやりましょうね」
「~…………わかったわよっ!!」
雇われ剣術指南役という仕事を始めて何度目かのお仕事。
カゲノー男爵家には元気なお子と自信なさげなのに能天気なお子、二人の子供が居た。姉はブラコンで、弟にいいところを見せようと張り切っては空回り、弟は……ありゃあやべぇですね。潜在する魔力が既に桁外れだ。あれ絶対裏でいろいろやってらっしゃるよ……!
なので散々と姉の相手をしたのち、クレア嬢が体を折ってぜーはーぜーはーしている内に、弟くんに向き直って……日本人じゃないと分からないハンドサインをしてみた。
すると───にっこりと笑って、広げた左手を胸に、サムズアップした右手は肩までクイッと外に曲げて見せた。*16
その素晴らしく完成されたポーズに思わず拍手を送りたくなったものの、今はクレア嬢の鍛錬の続きだ。
一言断ってからレィディの御手を取り、その場に座って魔力操作の練習を開始する。
これ、こやつが動けないくらい疲れてからじゃないと真面目にやらんのよ。意地でも弟にいいとこ見せようとして動き回るからね。
「はい息吸って~……吐いて~……。よし。じゃあ魔力操作の練習を開始しませう」
「~……こんなことに、なんの意味が……」
「今のきみが、弟くんより魔力操作がへたっぴだからだ。美麗なる姉を見せたいならちゃんとやる」
「やるわ。さっさと教えて。……ください」
「……この問答何回目だったかなぁ……」
いちいち弟を駆け引きに出す~みたいなことをしないとちっとも真面目じゃない。
無駄に才能とかあると、心がヘンな方向に成長しちゃって博光辛い。
でも教えることは真面目にこなす。仕事ってそういうことさ。
「そうそう、疲れ切ってる身体だからこそ、繊細に動かそうと意識出来る。あ、魔力を体力回復には使わないでね。今は、その疲れてる身体を魔力で動かすことが重要なんだから」
「本当にできるようになるの? そんなこと、聞いたこともないけれど」
「出来る出来る。なんならこうして魔力も大して乗ってない右肘から先だけで、」
魔力と氣と呼吸でブースト。肘から先だけで“パァンッ!”と音速拳をやってみせると、クレア嬢は目を見開いて固まった。軽くショックウェーブが出たけど大丈夫、今さらそげな速度程度で砕ける身体してませんので。
「魔力。籠ってたように見えた?」
「……、……」
首をふるふると振るわれた。うんうん、やっぱりこういうお子には言うよりも見せた方が早い。
そんなわけでじっくり教える。魔力効率の重要さと、力任せの持続力の無さと。
そうして魔力操作のコツなどを教えてから今日のレッスンは終わりを告げ───
「やあ、ようこそカゲノー家へ。確か……前に盗賊狩りの時に会ったよね? あれ? その時とは雰囲気が違うような……まあいいや、もしかしなくても、きみも転生者さん?」
庭の鍛錬場の、屋敷からは軽く離れた場所にて、鍛錬で砕けた岩に腰掛けつつ、彼───シド・カゲノーは言った。ちなみに嬢は疲れ果てたのか、授業が終わった途端に力尽きるように寝た。それをハゲな父親、オトン・カゲノーに任せて僕とシドくんはこちらへ。
「ああいやいや、確かにそうなんだけど、俺の場合は特殊なのだよ」
「特殊?」
「これが初めてじゃないってこと。もうず~っとこんな感じで、いろんな世界を旅してる。今は主に人間関係を楽しむのが趣味な旅人です」
「へぇえ……そういうパターンか。そういえばあったね、異世界は二度目です、とかそういうの。やっぱり回数が多いと感情とか死んでいっちゃうものなの?」
「そうでもないよ。楽しめるものがあるのはいつまで経っても変わらないし、無駄に歳を取ったから~って、漫画とかであるようなお爺さん言葉とか話すようになるわけでも、言葉に威厳を持たせたい~なんて思うワケでもない」
「ああうん、あれは僕でも不思議だと思う。どこから来るんだろうね~、ワシとか、なんとかかんとかじゃよ~とかって」
「だよねー。……ところで。感じるに、きみって余計なもんを削ぎ落して目的までの最短を突っ走る感じの猛者?」
「ああうん、そうそうそんな感じそんな感じ」
「実力があるのにそれをひた隠す……男爵家を継ぎたくないから、とか武術に興味がないから、って感じでもない。幼いなりに大分鍛えてそうだし」
「おー、よく見てるね~。───じゃあ聞こうか。僕の目指す道は……なにに見える?」
「ずばり。“影”の最高実力者*17」
「……! そう───僕は表ではモブを演じ、“陰”においては最強といえる実力者になりたいと思っているんだ。いや、思うんじゃない、なると決めている。───……普段なら自分の目標は語らないけど、当てられちゃったんなら仕方ないよね」
「ポォーウ……」
どうやら正解だったらしい。当てられた彼はよっぽど嬉しかったのか、ちょっと中二チックなカッコ・Eポーズをすると同時に強い魔力を放ち出した。ポーズが終わるとすぐに隠したけど。
「ちなみに俺は陰の縁の下の力持ちになりたいって思ってる」
「ふーん……ん? 縁の下の力持ちは分かるけど、陰の?」
「そうそう。教え子を何人も排出して、な、なんだあいつのあの強さは……! とか言われる中、凄まじい師匠感を出しながら腕を組みつつそれを耳にしたい。そしていつかは教え子同士が戦うのを見て、フッ……強くなったな……とか」
「───いいね」
「だろう?」
ニヤリと笑い合い、ガッシィと
そして名乗り合うと、たまぁに情報交換とかしようって話になった。いいともいいとも。
「ちなみにさ、異世界ってここ以外にもあるの? 単純にここに転生するのが二度目ってこと?」
「ここ以外にもた~っくさんあるよー? ちなみに100や200じゃ足りない。御年57億を越えてます故」
「(……という設定なのかな?)」
「あ、ちなみに設定とかじゃなくマジでね? ある日に不老不死に近い力を手に入れて、地球で“弥勒菩薩見てぇ!”って長生きしてみたら、なんかそれが地球の真意っていうの? なにかに触れることだったらしくてね? 地球ってものから弾かれちゃって。それ以降はず~っと異世界を転々と」
「なにそれすごい。で? 弥勒菩薩には会えたの?」
「それがさぁ、56億年生きても会えなかったんだ。大体にしていつから56億年後かも分からない時点でなんか怪しいとは思ってたんだけどさぁ」
「あ、たしかに。ていうか僕にそれ話してよかったの?」
「いいのいいの、どうせここ地球じゃないし。地球じゃ出来なかったことをやりながら生きなきゃもったいないでしょ」
「きみ、実にいい性格してるねぇ。あ、僕もうちょっとしたら自分のやりたいことリストを埋めていくつもりなんだけど、縁の下の力持ちポジが狙いなら、僕の下で力持ちしてみない?」
「いいよ? 影の最高実力者を願うなら、バックには影の組織が必要になるだろうし」
「陰の組織……いいね」
「今の内に組織名とか考えといてね。……ちなみに。俺は普段からオリアナ王国はドールニェール侯爵家四男、現当主のヒロミトゥ・ドールニェール侯爵の顔と、一代貴族男爵たる剣の指南役、クゥ・シナンヤの顔を持って既に暗躍しておる故」
「なにそれすっごくいいじゃない」
「いいと思ってるのに感情乏しいねぇキミ」
「余計なものは削ぎ落してったからね。常に冷静沈着、いろんな事柄に対してフッ……って流せる僕で居たいんだ」
「ナルホロ」
ちなみにミドガルでの本拠地は地下通路のなんか光が差す教会っぽいところだって言ったらめっちゃ羨ましがってた。おい冷静沈着。今日一番に感情を露わにしたんじゃないかしら。まあ秘密基地は男の子の憧れの象徴と言っても過言じゃないしね。
まあちゃんと王国に話を通して、ちゃんと購入した場所だから、マナと癒しの樹とか植えて、めっちゃ大自然作ったりと好き勝手してるけど。秘密基地っぽくて最高だ。って言ったら余計に羨ましがってた。今度招待しちゃろう。
アホなほど広くて迷宮みたいになってる所為で、どうしようもないから売ってもいいって話だったから買ったのだ。結構なお値段だったけど、いざって時に王族も通っていいという条件で売ってもらった。
なので僕が許可した者、もしくはミドガル王族以外は立ち入り禁止となってます。
というのも元々が王族がいざって時に逃げるための秘密の通路だったらしいんだけど、地図無くしちゃったとかでさぁ……もはやただの迷宮でしかないそうなのだ。
……馬鹿でしょ?
……。
そんなわけで───
「おぅれぇぃはアイアァーン! マーベルッヒィロォーぅ!!」
「ジャイアンじゃないの?」
「うん違う。ところでジャイアンってなんでジャイアンなんだろね。ジャイアンの意味が分からん」
「たぶん一生分からないと思うなぁ」
時にはシドと夜のみの旅をしてみたり、
「おお、なんと勿体の無い! あなたの剣は素晴らしいのに、魔力操作がまるでなっちゃいない!」
「……面と向かってそこまで言われたの、初めてだわ」
「おおこれは失礼。わたくし、オリアナ王国は侯爵家より送り出された一代貴族の教導官、クゥ・シナンヤとお申します。どうでしょうアレクシア王女、あなたに剣といふものを伝える機会を、このシナンヤめに与えてはくださらぬか」
「いいわよそんなの。どうせあなたも凡人の剣って言って離れていくに決まってるわ。私なんかよりアイリス姉様に交渉したほうがいいんじゃない?」
「あー……お姉さんはダメだ、ありゃダメだ、剣に美しさのカケラもない。ザ・力任せとかそれはそれでいいけど、こういうもんだって悟っちゃってるから魔力が強くならない限りはずーっと強くなんかなれない、なろうともしない剣だ」
「………………え?」
「そんなわけだからおうにょっ……うお噛んだ恥ずかしい……!! アレクシア=サン? …………剣ってものを、学んでみませんか?」
「…………………」
「ということが過去にありまして」「いろいろやってるんだねぇ」と、時には人脈を広げてた過去を話してみたり、
「ヒャッハァーーーッ!!」
「
「ななななんだこいつらギャアアーーーッ!!」
「二人程度に怯んでんじゃねぇ! 囲め! 囲んでグッハァッ!?」
「相手の実力も分からないなんて、悲しいことですね……。あなたがたがするべきだったのは、立ち向かうことよりむしろ逃げる選択でした」
「なっ!? く、黒いメイドの服を着た……女!? いつの間に後ろにっ……! ままま待て! 待ってくれ! 何が目的だ!? 金か!?」
「っ……~……キミいいね! その反応! やっぱりやられるモブはそうでなくっちゃ! 尻餅をついてからのままま待ってくれと何が目的だ、からの金か!? すっごくいい! 参考になるなぁ~っ! それにしてもヒロさ、ミィちゃん演技派すぎない? メイドさんなのにあそこまで出来るなんて」
「そう出来るように日々鍛錬をしてるからね。盛り上げ上手だよね~」
「いいなぁ、僕も陰の実力者ムーブのための組織を立ち上げたとしたら、あんな子が欲しい……!」
「なに言ってんの、組織としてなら既に僕とミィが居るじゃない」
「ミィちゃんはヒロの腹心じゃないのさ。確かに僕のお願いも聞いてくれるけどさぁ*18」
「じゃあこの博光もより一層、うぬの組織の縁の下としての力を存分に発揮せねば……! ……ところで今度誰かが仲間に加わった時、僕縁の下のことを底辺だとか言って説明してみたいんだけど、どう思う?」
「相手がヒロのこと底辺とか言ったら、その相手がミィちゃんに殺されると思うよ?」
「グムー、否定できねー」
時には賊をシドと狩ってみたり、
「各馬一斉にスタートォッ!!」
「うわっ、なにこれすごい。剣の大きさもだけど、それが飛ぶとか……なるほど、剣に魔力を込めてそれを射出。射出の力が僕の体重を上回っていれば、飛ぶことは可能……と。スライムボディスーツで空を飛ぶのも夢じゃないね」
「おうおう出来る出来る。やりたいことは積極的にやっていかんとだよね」
「せっかく異世界に居るんだもんねぇ」
「だよねぇ」
時にはシドを後ろに乗せて各馬一斉にスタートして遠出したり*19、
「わお……本当に肉塊状態から人に戻れるんだねぇ」
「ミィもそうだったって言ったでしょうに。で、どうするの? この娘もう目覚めるよ?」
「あ、だったら前に言われたあれ、やってみたいかも。かもっていうか、やりたい」
「影の最高実力者ムーブ?(ギース・ハワード的な*20)」
「そうそう。あ、先に言っとくから必要な時は話合わせてね。僕は自分をシャドウって名乗るからヒロもなんかカッコよさげなのお願い」
「ほほう。ならばかねてより考えていた、侯爵と男爵以外の立場を今こそ……!」
商人を襲った賊を襲い返し、輸送されていたらしい悪魔憑きの子を助け、様々な設定を決定したり、
「ねぇヒロ」
「なんだいシド」
「僕さ、陰の実力者になりたいだけであって、教育とか育成には興味ないんだよね。だから面倒事とかは全部任せちゃっていい?」
「ふはは、やってやらぁな。なにせ俺ァ……陰の縁の下の力持ちじゃけぇのぉ!! ……ていうか結構飛びつくと思ったんだけどね。自分が教えた技術、剣技等で育てた影の組織~とか」
「ヒロでも出来るし、指南役って仕事までやってるじゃん」
「お前ほんっとやりたいことと“これはいいかなぁ……”って切り捨てる境目が極端すぎるね。俺居なきゃ絶対自分でやってたくせに」
「割り切りって大事だと思うんだ。むしろヒロがどんな指南役ムーブとか参謀ムーブしてくれるのか、その後の展開に僕が乗るのが楽しい」
「おーおー存分に楽しめ盟主コノヤロウ。舞台は俺達が用意してやるから、異世界生活満喫しやがれぃ」
「あはは、よろしく異世界先輩」
「ン任せなすゎい」
シド……シャドウに、助けた娘……アルファって名付けた娘のアレコレを任されたり、
「よっしゃあ次は何処に向かいたい? 調べものをしたいのならこのクーゲルにまぁあっかせなさーい!」
「ええ、よろしくね、クーゲル。……その、クーゲル?」
「うん僕クーゲル。なにかねアルファ」
「その……クーゲルが、私を悪魔憑きから救ってくれたのよね?」
「うん。*21シャドウが言ってたように、昔はちゃ~んと悪魔憑きの治療方法はあったんだ。でも時代とともに隠匿された。教団がそれを邪魔だからって、捻じ曲げていったんだ*22」
「その……ありがとう。まだちゃんとお礼を言えてなかったから」
「いいっていいって。こうして無事なんだから、無事な今を生きることで得られる喜びを知っていきましゃう。アルファはまず、ディアボロス教団が実在するかを確かめたいんだよね?」
「ええ。助けてくれたあなた達にしてみれば、面白くないことかもしれないけれど」
「構わん! だってちゃんと知れてない内から全てを信じてくれ~なんて無茶もいいところだし。一応俺のアジトに教団からかっぱらった書類とかはあるけど……そこでいい? それとも教団とか襲って、そこにある文献で調べる?」
「あなたが所持しているものでいいわ。あなたの拠点というのも知っておきたいから」
「OK、では───空間翔転移!」
「え───きゃあっ!?」
任されたアルファに早速この世界の裏のことを教えるために、我がアジトへ案内したり、
「はい、ここが僕とミィのアジト、大自然地下聖堂だ」
「え……ここは……!? 移動技術……魔法……? いえ、アーティファクト……!? こんなことができるなんて……!」
「魔法じゃないんだけどね。ただの転移転移。それでえぇ~っと……この世界の歴史とディアボロス教団についての本は……っと」
「建物の中……なのに綺麗な水が流れていて、この木々の数……。本棚にある無数の本も、まるで湿気負けを起こしていない……?」
「そういう風に出来てるからね。っと、はいこれ。あとはこれとこれと……あ、ここにある本は好きに読んでくれて構わないからね。そして改めて自己紹介。俺はクーゲル・シュライバー。キミらや、シャドウを影で支えるステキなおにーさんさ*23」
「あ……ありがとう、クーゲル」
「よかちゃいよかちゃい。俺は基本、シャドウガーデンを下から支える仕事をしてるから、分からないこととかやってみたいこととかあったらなんでもお言いなさい。出来る限りの助力や助言、相談役や指南役として行動します故」
「ええ。本当に、ありがとう、クーゲル」
アルファがとっても感謝していたので、望むままに感謝を受け取ったり、
「魔人ディアボロスに、英雄の子孫……悪魔憑きの真相に、消されて行った解呪方法……そんな、本当に……?」
「太陽~と~ク~ゥロはせぇ~いぎのしっるっし♪ 年中~無休でたったっかぁ~えまっすっか♪ リィ~ボルゥぅ・ケェ~ィン♪ わぁ~れらぁがウゥ~エポン♪ シャァドォ~ゥウムゥーンはわぁ~れらのアニキ♪ 正義ぃのぉたっめっなっらったったっかぁ~えまっすっか♪ ブラックサァ~~~ンッ! ブラックサァ~~~ンッ! 敵だぁ~ったら、怖すぎるゥーーーッ!!」
「素晴らしいですクゥ様! 迫力のある演奏に加え、なにやら胸が熱くなる言葉の歌……! 知らないことばかりで不安の多いアルファさんの心が心細さに傾倒しすぎないため、あえてすぐ傍で演奏なされたのですね!?」
「エッ……う、うん、そんな感じ」
「……! クーゲル……あなたという人は、本当に……」
(いや……なんか急に替え歌とか思いついたから歌ってみただけとか言えない……! やめて……! そんな尊敬と感謝を込めた目で僕を見ないで……!*24)
「……ありがとう、クーゲル。それと、教団と魔人と英雄の答えも受け取れたわ。クーゲル、一層の感謝をあなたに。救ってもらったあの場でも言ったけれど、あなたたちが望むなら、私はこの命を懸けましょう。そして、咎人には死の制裁を」
「ぬう。言葉通り、人を殺すことにもなりましょう。間に合わず、守りたかった者の血を見ることもありましょう。それでも……キミは立てるかい? 前を向いていられるかい?」
「分からない。けれど、立ってみせるわ。向いてみせるわ。だから───」
「……んむ、よろしい。ではこれよりキミは正式に、我らシャドウガーデンの一員だ。これからキミが、優雅に、そして力強く生きていくための戦い方や、身体能力、魔力強化等を教えていきます。辛く苦しい道のりになるけど、頑張ろうね」
「ええ、もちろん」
「アルファさん、本当に辛い道のりだから、頑張りましょうねっ」
「……そんなに?」
「個人差はありますけど、とりあえずミィは何度吐いたり気絶したりしたか分かりませんね。でも大丈夫です、辛い、苦しいなんて思考よりも、この先に役に立てる、並び立てる自分があるんだって思うことが出来れば、苦痛よりも喜びが先行しますからっ!」
「…………、……そう、ね。その通りだと思う。貴重な助言をありがとう、その───」
「ミィはミィです。ミリア、でも構いませんよ。既に消された名前でしょうけど」
「……! じゃあ、あなたも悪魔憑きの……!?」
「はい。わたしはシャドウガーデンに、というよりはクゥ様に連れ添っている感じなので、ガーデンのメンバーという意味ではあなたが一番最初、つまりアルファです。わたしは……元は子爵令嬢ってことになるんですけど、まあもうそんな立場もどうでもいいものですし───あ、人間ですよ? 人間の悪魔憑きは珍しいとか言われていますけど、その例の一人です」
「そう、なの……。シャドウガーデンではなく、クーゲルに……」
「仕方ないんですよ、だってガーデンが結成される前……クゥ様がシャドウ様と出会う前に、わたしは救われたんですから。そのあたりはシャドウ様も知っておられることですので、納得は得られています」
「ええ、わかったわ。その、なんと呼べばいいかしら」
「対等で構いません。ミィでもミリアでも。あなたはガーデンの第一、わたしはクゥ様の第一。立場は変わりません」
「……では、ミィと。これからよろしく、ミィ」
「はい♪ あ、最初に言っておきますけど、第一メンバーだからとなんでも一人で背負おうとしないこと、です。クゥ様から賜った、大事で素敵なお言葉ですので、忘れちゃだめですよ?」
「ええ、肝に銘じておくわ」
アルファが正式にメンバー入りを果たしたり、
「夜分に失礼、ここにディアボロス教団関係者が居るとの噂がキサマナニヤッテルカァアアーーーッ!!」
「ぬっく!? ……邪魔が入ったか! だが!」
「あぁっぐっ!? ぁ…………───」
「始末はつけた。追いたければ好きにするがいい、その場合、この女は助からんがな」
「あっ! これっ! お待ちなさい! ~……ぬううなんと狡猾な! もし! もし! しっかりおし! もっ……うう、こりゃひでぇ……! 手足の先端から内臓へ徐々に刺し続けて最後に心臓を刺さんことにはこんな惨たらしい状態にはならんぞ……!? というわけではい既に回復完了っと。こういう時の回復役ってさ、ベラベラ状況をくっちゃべってる暇あったらさっさと回復しろって毎回思うんだよね*25」
「痛っ……!! ……え、え……? 痛く……?」
「きっ……危機一髪でしたね! あなた、今まさに心臓を貫かれて死ぬところだったのですよ! ……一応緊迫感出してみたけどどうですか?」
「え……な、治って……? いいえそれよりルスランッ───……居ない……?」
「彼なら僕の訪問に驚いて逃走しました。何故か窓ガラスブチ破って。あなたが瀕死であるなら見捨てて追ってくる筈がないと、恐らく心臓を刺したのちに捻ることはせず」
「…………そう。その……あなたは? あんな傷をこんなに簡単に治すなんて、聞いたこともないけれど……」
「おおこれは失礼を。本日訪問のアポをとっていた、オリアナ王国が侯爵位、ヒロミトゥ・ドールニェールにございます」
「オリアナ王国……侯爵っ……!? そ、そんなお方が何故っ……!? アポは……ご、ごめんなさい、研究に没頭するあまり、気づかずに……!」
「よいのですよ。あなたを救えてよかった。……実はですね、ルスラン・バーネットというかつてのラウンズの痕跡を辿る内、この場に辿り着きまして。こうして今日、あなたを救えたのも偶然なのです」
「ラウンズ……?」
「ナイツオブザラウンドテーブル。通称ナイツ・オブ・ラウンズ。魔人ディアボロスの復活を目論むディアボロス教団の幹部連中の名です。全部で12人居るそうなのですが、ルスラン・バーネットはかつて、その教団の席に存在したのです」
「そんな……あの人が……?」
「しかし病に侵され力を無くし、すぐにその地位を失いました。その力を取り戻すべく、強欲の瞳というアーティファクトに望みを託したのです」
「……では。わたしに様々なアーティファクトの研究を……あのアーティファクトの解析を依頼したのは。援助をしてくれたのは───」
「もちろん、全部私利私欲のためです。強欲の瞳は───奪われてしまいましたか。まあ、彼だけでは解析、解読に時間がかかるでしょう」
「……………」
「ルクレイア女史。ここは既に危険だ。解読が進まないと判断した彼は、今度は実力を行使してでもアーティファクトの解放を望むでしょう。それこそ、あなたを拷問にかけてでも、はたまたあなたの大事なものを盾にしてでも」
「───! シェリー! シェリーは!? 無事ですかっ!?」
「大丈夫、盾にされないよう。案内してくれた時点で魔法障壁を何重にもかけておきました*26」
「……ぁ、ぁああ…………ありがとう、ございます……っ……!」
「べつにどうということもございませぬ。が……このままではあなたは教団に狙われることになります。何処に行こうとも、何処へ潜もうとも」
「…………それは」
「ですので、もういっそ敵対勢力に入っちゃいませんか?」
「え?」
「あ、申し遅れました、わたくし、表の顔はドールニェール侯爵。真ん中の顔は流浪の剣術男爵、指南役のクゥ・シナンヤ。そして裏の顔はシャドウガーデンが陰の支え役、クーゲル・シュライバー。よろしければ、あなたとそのお子さんを、我らが守護りましょう」
「え……えぇ……? しゅごり、とはいったい……?」
「守護する、の実行完成形になります。あなたも娘さんも、自由に研究してていいです。欲しいものはなんでも揃えましょう。ただ裏切りさえしなければ、僕らはあなた方を友として仲間として家族として迎え入れましょう」
「…………、シャドウ、ガーデン……あの。シャドウガーデンとは、いったい───」
「盟主シャドウを頂に据えた、陰に潜み陰を狩る者のお庭です。現在は魔人ディアボロスの復活を目論み、その過程で得る副産物で美味い汁をすすりまくっている肥えた豚どもの殲滅を目的としています。やつらは狡猾であり、己の目的のためならば平気で人を利用し殺める。あなたがそうされたのと同じように」
「……!!」
「我らの目的はそんな奴らの行動の阻止と、殲滅。そして、教団だけで終わるとも思えないこの世界の企みに大して、真っ向から牙を剥き爪を研ぐ。……あなたはどうしたい? 改めて問おう。もし今ここにルスラン・バーネットが、ディアボロス教団が攻めてきたら、君の役は……ひたすら逃げ惑う一般民衆か? それとも……?」
「っ……わたし、は───」
なんかひたすらディアボロス教団のこと追ってたら、ヘンなおっさんが女性を殺しかけていたので助けたり、
「……おかあさん?」
「! シェリー! ああよかったっ……! シェリーッ……!!」
「おかあさん……? どうしたの……? あれ……? ルスランさんは……?」
「いいのっ……もういいのっ……! ごめんねシェリー、ごめんねっ……ばかなおかあさんで、ごめんねっ……! っ───ヒロミトゥ侯爵様!」
「うおうっ!? あ、いや、感動の再会*27とか邪魔する気はそのー……ないから、もっと抱き合ってても……」
「わたしを、わたしとシェリーを、シャドウガーデンへ……! もう……わたしは、誰を信じればいいのか、誰が信じられるのか、わかりません……! でもシェリーは……シェリーにだけは、こんな黒い世界のことなんか知らずに……っ……!」
「……騙されて利用されたのはキミでしょーに。あのね、ルクレイアちゃん。お母さんでいるのも結構。でも、ちゃんと自分も大事になさい。そういうことが出来ない人間は、要りません。いーい?」
「ぇ……ぁ、でも」
「苦しかったよね、辛かったよねぇ。学会では除け者にされて、支援してくれた相手には殺されかけて。でも……大丈夫。この博光が、シャドウガーデンが、あなたの帰る場所に、拠り所になりましょう。どーんとぶつかってくればいい。どっかり凭れかかってくればいい。俺はその全てを受け入れるよ。だから───たーんとお泣き。“信頼を裏切られる”っていうのは、それだけ非道で悲しいことなんだから」
「っ……ぅ……ひっ……ぁっ、ぁああっ……!! ぁぁああぁぁぁあ……!!」
「おかあさん、だいじょうぶ……? どこかいたいの……?」
「大丈夫。お母さんはね、また一つ大人になったんだ。学会にも拠り所もなく、鼻つまみ者みたいに扱われて、努力したって馬鹿にされて、結果を出しても褒められることもない。そんなことを続けてると、大人にも子供にもなれない中途半端なお子になってしまうんだ。……でも、大人になっていくと泣けなくなる。だから、帰る場所と寄り掛かる場所が必要なんだよ」
「……おにいさん、森のひなたみたいな香りがするね。いーにおい」
「おう、ありがと。……お~よしよし、泣け泣け。た~んと泣いて甘えて、今まで知らずに我慢してきたもんぜ~んぶ吐き出しちまえ。そんでもって前を向けたら、きみは昨日よりほんのちょっぴり強くなれる。胸も貸しましょう。背中だって貸しましょう。だから……自分の感情に蓋をしてまで我慢なんかすることないんだよ」
「ぅぅぁああ……! ぁああああ……!!」
ひっどい裏切りを味わった女性を慰めたり勧誘したり、
「その時、紅ずきんは言いました。お婆ちゃんのお口はどうしてそんなに大きいの? 途端、お婆さんに扮していた狼は待ってましたとばかりに口を開け、紅ずきんに襲い掛かったのです───! それはお前を食べるためさぁああっ!!」
「……!!」
「その大声を聞いて、狼のお腹の中に居たお婆さんは意識を取り戻しました。紅ずきんちゃんの危機です。なんとかしなくちゃ、と、そういえば咄嗟に手に取っていた裁縫用の針があることを思い出します」
「…………ごくり」
「しかしそこは流石の狼。獲物を逃がさぬようにぎゅうっと胃袋をすぼめ、身動きできないようにしています。が、ここに勝機は揃ったのです。狼はおばあちゃんの他に、さらに紅ずきんを食べようとし、胃袋に込めていた力を緩めました。結果、おばあちゃんの体は動かせるに至ったのです」
「っ……!」
「お婆ちゃんは手に持った針を容赦なく胃壁に突き刺し、引き抜いては突き刺しを繰り返します。突然の痛みに苦しむ狼。痛みのあまり、無意識にも強く緊張し、萎縮する胃袋。当然お婆ちゃんは再び身動きを封じられますが、狼は胃の中のお婆ちゃんを意識するあまり、目の前の紅ずきんから意識を逸らしてしまったのです」
「ハッ……!」
「当然、大口を開き、自分を丸呑みしようとした存在を、未だにお婆ちゃんだなどと思えるはずもありません。紅ずきんは床を蹴り、逃げるでもなく狼との距離を詰め、苦しさからか涎を垂らしながら開けっ放しであったその口へと自分の腕を突っ込みます」
「!?」
「食べるでもなく急に喉に突っ込まれた異物の感触に狼はえずき、胃を刺され続けていたこともあり、お婆ちゃんを吐き出してしまいます」
「わあ……っ!」
「狼のくせに人一人を丸呑みにして窒息さえしない、コモドドラゴンもびっくりのお喉様をしている狼さまですが、お婆さんに刺された胃壁の穴からの胃液に、想像を絶する痛みを覚えて即座に行動が出来ません。さあ、こうなればあとは狼をなんとかするだけ! 紅ずきんちゃんは考えます。ここからどうやって狼をやり過ごすか。お婆ちゃんを連れて逃げる? いいえだめです。お婆ちゃんは飲み込まれてた影響で、体がとても弱ってしまっています。では戦う? 狼相手では到底敵いっこありません。紅ずきんは多少は度胸があるだけの、ただの村娘なのです。もちろんお婆ちゃんを抱えて走る、なんてことが出来る筈もありません」
「……!!」
「胃を刺されたこともあり、せっかく飲み込んだ獲物を吐き出させられたこともあり、狼の怒りは相当です。ハルルルル……と低い唸り声を上げ、ジリ……と紅ずきんとお婆ちゃんに近寄ります。絶体絶命のピンチ……! その時です!」
「!」
「お婆ちゃんの家の扉を開き、中に入って来た者が! ……そう、紅ずきんちゃんがお婆ちゃんの家を目指す道中で出会った猟師のオジサマ、ヨーキニ・ヨーデルさんです!」
「あ……わああっ……!!」
「オジサマは銃を構え、狼に指示します。動くな! 動けば怪我では済まなくなるぞ!」
「……!」
「ですが狼は動きました。床を蹴り、猟師のもとへと駆けたのです!」
「!?」
「馬鹿が! 猟師が狙いを定めてライフル銃を放ちます! その弾丸は構えられた狼の腕に突き刺さり、貫通───するより先に腕を振るわれ、あさっての方向へと逸らされます」
「!? えっ……えっ……!?」
「馬鹿なっ!? 腕一本を犠牲に弾丸の軌道を逸らした!? 猟師は驚愕しますが即座に弾丸を装填、次を放とうとしますが───残念、俺の方が速い───! 狼は既に猟師に肉薄しており、その鋭い爪が猟師の腕を切り裂きました! ぐわああっ! 馬鹿な! 弾丸が怖くないのか!」
「……! ……~!」
「覚えておけ……我ら狼族は本能に従う。恐怖なんぞで獲物から逃げるんじゃあ、それはもう狼族の本能とは呼べねぇのさ───!! そして、その筒からは恐怖なんざこれっぽっちも感じねぇ! 何故かって!? 撃つのがてめぇだからさ! 撃つと分かってる相手が目の前に居て、人間が狼を捉えられるものかよ! 猟師は愕然とします。確かにそうです。それが武器だと知っていて、人間に狙われていると知っていて、じっとしている狼が何処におりましょう。納得すると同時に自分ではダメだと猟師は悟ってしまったのです」
「っ……!」
「ならば。漁師は───肉薄し、すぐに殺さず己を馬鹿にする狼を見やり、飛びかかると同時に猟銃を床に滑らせます。弾丸は既に込められているそれは紅ずきんのもとへと辿り着き、猟師は……つい猟銃に目をやってしまった狼を力一杯抱き締め、紅ずきんへと叫ぶのです。やれ! 紅ずきん! 私ごとで構わん!」
「!?」
「馬鹿なっ! なにをっ……離せ人間がぁっ! ……狼は人外の力を以ってして、その拘束を解こうとします。が、猟師は信じられないほどの力でそれに抵抗。力を込め、食い縛りすぎた歯茎からは血がこぼれます。紅ずきん……! 早く……! 私にも家族が居る……! いずれこいつの牙が家族に……! そんなことなど、私は許せない……! 頼む……私の力が緩まぬうちに……ッ!」
「───!! ~~っ……!!」
「紅ずきんは震える思考、震える手で猟銃を手に、それを持ち上げます。っ……馬鹿な! やめろっ! い、いいのか!? 俺を撃てば、後ろの猟師とて無事ではすまんぞ!! 狼は叫びます。紅ずきんは喉を震わせ、涙がこぼれそうになります。けれど、そんな紅ずきんに猟師は言います。……紅ずきん、よぉく覚えておきなさい。この世に悪があるとすれば、それは人の心だ。人だけではない……誰かが何かを考える心こそが善を生み悪を生む。そして……この狼は人の味を知ってしまった。人を喰らうという思考を働かせてしまった。そしてそれを実行してしまった時点で……もう彼は人にとっての悪でしかない。───なにをべらべらとっ! おい紅ずきん! その銃を置け! 交渉といこうじゃあないか! その銃を置けば、俺はこのままここを立ち去ろう! ばばあも無事! お前も無事! 猟師も無事だ! いい考えだろう!? ……狼は叫びます。紅ずきんは恐怖と混乱の所為で、上手く思考を働かせることが出来ません。強く言われたことを、思わず実行してしまうような状態だったのです。猟銃を手に立ち上がったことだって、きっと己の意志だけで出来たことではありません」
「………」
「思わず、銃を床に置いてしまいそうになった時、猟師は言いました。……だが。お前は俺の家族を食うだろう」
「───!!」
「お前は、“ここでの約束”を守るのかもしれない。だが、ここを出れば、私たちを見逃せば、お前は別の誰かを食うだろう。狼は図星をつかれたのか、慌てて言います。い、いやっ、食わない! 誓おう! だから───そう言った時です。猟師を見て、お婆ちゃんを見て、唇をきゅっ……と噛んだ紅ずきんは、音もなく静かに……猟師をなんとかしようともがく狼に近づき、いい加減に───と苛立ちとともに大きく口を開けた狼のその口に、銃口を突っ込みました」
「!」
「途端、恐怖の塊を口に突っ込まれた狼は硬直。あ……と声を漏らした瞬間、紅ずきんは涙とともに一言……うそつき、と言葉をこぼし、引き金を引いたのでした。そう……既に狼は紅ずきんの家族を襲っています。紅ずきんにも襲い掛かりましたし、猟師にも。そんな存在がどうして、人を襲わずにいられるのでしょう。どう、と倒れる狼の姿を横目に、紅ずきんは倒れ、気を失ってしまいます。初めて命を殺めたことで、幼い心は耐えられなかったのです」
「あ…………」
「紅ずきんはすぐには立ち直れませんでした。一日、二日、三日、一週間、一ヶ月……時は少しずつ彼女の心を癒しますが、けれど時折夢に出てくるのです。自分が殺した狼が、痛い痛いと夢に出て、紅ずきんに訴えかけてくるのです。紅ずきんはお婆ちゃんに苦しい、と助けを乞います。するとお婆ちゃんは、猟師さんの奥さんが、つい先日子供を産んだのだと教えてくれました。そして言うのです。紅ずきんや。あんたは理不尽に命を奪う者よりも、命を育めるなにかになりなさい。私利私欲のために大多数に迷惑をかける者よりも、大義名分でもなんでもない、自分の意思で救いたいもののために、刃を振るえるなにかになりなさい」
「……!」
「この世界は残酷だよ。あたしたちだって、何かの命を食んで生きている。あの狼だってそうさ。……でもね、間違っちゃいけない。人の命が狙われてるなら、仲間を優先して何が悪いんだい。人が人を害そうというのなら、敵ではなく味方を守るのは当然だろう? だからきっと、命を狩ることで救える命があったと、そう納得するしかないんだ。さ、紅ずきんや。前をお向き。お前は何をしたい? 何が出来る? ずっとそうやって俯くことしか出来ないのかい? よくも殺したなと夢に出てくる相手に対して、怖がるだけしか出来ないのかい?」
「………」
「……そうじゃないだろう。お前はね、紅ずきん。ここに生きてるんだ。出来ることなんて沢山あるさ。なにも死んだ者の分までなんて考える必要なんてない。出来ることをやればいい。夢の死人が怖いなら、死人より強くなっちまえばいいのさ。よくもよくもと訴えかけてくるのなら、死んだお前らの分以上に守れた命があるんだぞって胸を張ってやればいい。いいかい、優先順位を間違っちゃあいけないよ、紅ずきん。お前の心が守りたいものは、お前の仲間を捕まえ、弄び、馬鹿にし、下に見て笑うものたちの懇願だというのかい?」
「違うっ! そんなことないっ!」
「───……ああ、違うとも。そうさ、違うんだよ、ベータ」
「あ……」
「お前が優先すべきなのは、殺してしまった人攫いや盗賊、教団の命じゃあないんだ。もちろん紅ずきんだってそうさ。どれだけ痛みを感じても、どれだけ心が苦しくても、どれだけ夢に魘されようとも。……お前が悪いんじゃあないよ、ベータ」
「……~……っ……ぅ……ひっ……」
新たに加わった悪魔憑き少女、ベータが、殺した人の夢を見て魘されてるらしいので即興物語を話して聞かせてみたり、
「……その。クーゲル?」
「うん僕クーゲル。なに? アルファ」
「最近その……ベータがいやにあなたにくっついてない?」
「うん。なんかね? 僕と一緒に寝ると悪夢を見ないらしくってね?」
「いったいなにをしたの、あなた……」
「毎晩寄り添って物語なんぞを語って聞かせました。心のケアってとっても大事。そうして語って聞かせてドチャクソ甘やかしまくってたら……なんかいつの間にか……」
「~♪ えへへへへクーゲル様ぁ~♪」
「はぁ……この娘のこんなに緩んだ顔、初めて見たわ」
「悪魔憑きになる前から知り合いだったんだっけ?」
「ええ。といっても本当にただ知っている、程度の認識だったのだけど。物静かで表情も大して変わらず、なんというか覇気のない娘、というイメージだったわ」
「…………あの。今めっちゃぽわぽわゆるゆる笑顔なんですけど」
「だから意外すぎるのよ……。まあ、確かにクーゲルはその、頼り甲斐があるっていうか、頼りにしたくなる、寄りかかりたくなる雰囲気があるけれど」
「アルファも遠慮なく頼ってくれていいのじゃぜ? なにせ俺は、この組織において縁の下の力持ちとして存在する猛者なのだから」
「……もう十分頼らせてもらっているわよ」
「え、そ、そう? なんかなんでも一人でやりたがってるようにしか見えないんだけど」
「代わりにアドバイスをたくさんくれるでしょう?」
「グ、グムー」
ある日から突如としてベータにめっちゃ甘えられるようになったり、
「ねぇヒロ。ヒロはさ、魔力のない異世界にも行ったことがあるんだよね?」
「おー、あるある。っていうか俺にそもそも才能がないから、魔力のある異世界に行っても魔力が扱えないゴミカスとしてしか存在出来なかった」
「うわー、そういうこともあるんだねぇ。あ、でもそこから主人公ムーブ出来る展開とかがあったり……!?」
「いや、俺自身がそもそもクソカス外道のモブだったから、無理に目立ちたいとかこれっぽっちも思わなかった」
「すごい……ヒロ、僕は今とても感動している。キミの在り方は実にモブだ。しかも自分の可能性を信じても可能性にこそ裏切られるというモブの鑑……! 口だけで努力しない系のモブじゃない、本気でやったのに実らなかった系のモブ……! こういうパターンは主人公の才能に嫉妬して足を引っ張るモブが多いっていうのに、キミは引っ張るどころか自分を踏み台にするが如く縁の下の力持ちに……!」
「だって自分が活躍するよりも誰かの活躍見てた方が面白いし。俺ねー、他人の笑顔とかめっちゃ好きなんよ。あ、でもドカスでチャラリーナな相手のゲッスぃ笑顔とか大嫌い。俺は俺が認める存在を持ち上げて笑顔にするのが好きなんだ。それで俺も笑顔になれるなら、過程や方法なんて割とどうでもいい、己で己がクズでカスな性格で外道であると認めているモブ……それがこの博光です」
「己の喜びを第一にしているのに、その喜びが他人の笑顔。最高じゃないかキミ」
「おうとも。だから精々この舞台でやりたいことリストを埋めていくがいいシド・カゲノー……! グフフブフヘヘハハハカカカカッカッカッカッカ……!!」
「おー、悪役がやりそうな笑い声。あ、ところでヒロはさ、別の異世界で修得した技能~とかってあったりする?」
「魔力が使えないし才能のない博光ですからね、俺は武具に走ったのさ」
「武具に?」
「うん。俺自身が役にも立たないカスなら、自分が手に取り身に纏うもので足すっきゃないでしょ? そこで、武具だ。武具に込められた様々なスキルやプラス要素があって初めて、俺は実力者に並び立てる力を得られる。ちなみに俺の強さは、武具がないと赤子に指を握られて力を込められただけでも折れるくらいモロいぞ」
「なにそれ怖い」
「武具があれば強い代わりに、そういうペナルティがあるのさ。武具があればドラゴンくらい麻婆豆腐用の豆腐をユパァンと斬るくらい、簡単に斬り殺せるよ?」
「ギャップがえぐいね」
「この身は武具とともにあり。それぐらい、武具ってものを愛してますから」
「へえ……じゃあ例えば、魔力無しでなにか出来る?」
「魔力無しで? そうさなぁ……ん~っ───ふっ! ……っと、こんな感じ」
「わお……巨岩が一太刀で真っ二つ……しかも断面図めっちゃくちゃ綺麗じゃない」
「氣と呼吸があればこれくらいはねぇ。あ、単純にレベルでやろうとするぶっ壊すだけになるから、今のは技術での御業って感じ」
「レベルってことは……そういう異世界にも行ったことがあると」
「あるある」
「へー、ちなみにレベルは?」
「11922960」
「ディ〇ガイアかな?」
シドと他愛ないお話をしたり、
「そうそう。ゆっくりでいいから反復して覚えるんだ。一歩。二歩。足の矯正は終わってるし、骨盤の調整も完了してる。あとは体重移動の問題だ。運動音痴の根本っていうのは言葉通りの音痴。普通なら人が覚えるリズムっていうのを正しく認知出来ていないことにある」
「音痴……ですがクーゲル様、それは治せるものなのでしょうか」
「ん? もちろん。リズムを覚える機会を逸してしまったなら、その機会を今に持ってくればいい。幸いにも哀れにも、ここにこの博光がおります。人知が科学で証明出来る位置にあるか、辿り着けるかも謎の能力まであるのなら、武具が無きゃなんも出来ない俺に存在する意味なんてあるのかどうか。答え───あるさ。人生を楽しめばいい。よく自分はなんのために産まれたのか~とか言う人いるけどね、感情あるなら楽しみゃいいよ。今の自分の状況でンなことできるかーって思えるなら、そんな自分を笑ってしまえ。思考を放棄するのは考えられなくなってからでいいんだ。わかるかな?」
「……私は、自分を嘆く必要はない、と……?」
「うんそう。ガンマ、音痴なんて個性の一つさ。この世界に生きる───生きとし生けるもの全てが、全員が全員同じなら、順位なんてものにはなんの価値もない。決めたがる意味もない。我らは全員違うから、違う意志を持ち違う何かに向かっている。克服できるものさえ克服せずに、自分は不幸だと嘆きたいならそれも個性。そうではなく自らの意志で個性を飲み込み強みにするのも……それもまた個性。さあ、ガンマ。呼吸を合わせて」
「……はい」
「体の中にある魔力回路を感じなさい。同時に、キミに足りないものを与えよう。氣も、呼吸も。……そう、そう。ガンマ、キミの魔力は大したもんだ。でも、扱い方を知らない。その上、流し、足すべき場所に魔力回路がない。それを継ぎ足す術を独学で学ぶには難しすぎた」
「……?」
「うん、分からないなら知っていけばいい。出来ないことに嘆くよりも、足せる何かで前を向ける。それはとっても大事なことだから、覚えておくといいよ。でも、足せる何かを別の誰かが持っているから補えるものもある。友達や仲間や家族っていうのは、そういうことを思う意味ではとっても近いものだと思うのだ」
「……はい」
「……足に魔力回路が足りない。それも、中途半端に。普通なら足により魔力を込めて、時間を懸けてでも魔力で補い歩こうとする部分。でも、中途半端な所為で運動音痴って方向にしか頭が働かなかった。魔力は血のように巡っているものだ。じゃあ、血が巡る血管を広げるにはどうすればいい?」
「わ、わかりません。私には、まだそういった知識は───」
「ん、よろしい。よっぽどのポカを為さない限り、知らないことは罪じゃないよ。まだ知っていないだけなんだもの、知ればいい。さ、意識を、魔力を、氣を呼吸を、全部足に集中させて」
「は、い……」
「流れる血液を感じて。滞っている場所を感じて。氣脈ってものにも淀み……流れを阻害する箇所があってね。通常、それを無理に開けると死ぬことだってあるんだけど───大丈夫。博光がおります」
「
「今、癒しと拡張とを繰り返しております。転んでしまう理由も、そうあってしまう原因も。全てを癒し、再生し、より強きに向かう。いいかいガンマ。人には人それぞれの立ち向かい方ってものがある。弱い者が弱いなりに努力し、工夫し、考え、進む。それはとっても素晴らしいことだ。だって……強いだけで進めるなら、考える必要なんて無いんだ。たとえお前が自分を卑下しても、別の誰かに負けることで落ち込んだとしても。最弱、なんて呼ばれて嘆いても。一番弱いならそこから始めりゃいい。上に興味がないなら、最弱のまま自分に出来ることで───」
「───……人生を、楽しめば、いい……?」
「……うん。良く出来ました。───刮目せよ」
加わってからというもの、落ち込んでばかりだったガンマを励ましてみたり、
「シュシュシュシュシュシュシューーーッ!!」
「……シド。あとで滅・昇竜拳な」
「えぇええ……!? いや、だってあれはしょーがなくない? 僕だって真面目に教えたつもりなのに、ガンマのあれは……ねぇ?」
「教え方が雑」
「うっ……」
「なんだよ魔力込めてブッ叩けばいいとかシュシュシュシュ言いながら攻撃すれば強そうとか」
「悪かったよ。でも……調子良さそうだねぇガンマ。足になにか細工した? って、うわ、すっごい魔力量」
「嫌でも足に意識が行くようにした。氣脈も魔力回路も子供の内に育てられる分は大体集中させたね。お陰で転ぶこともなくなったよ」
「でも、格闘センスはからっきし、と」
「必殺技のいくつかはあるけどね」
「たとえば?」
「剣を真っ直ぐ構えて、歩法奥義で敵に向かって真っすぐ飛び出し、突き刺すだけ。その際、狙うのは相手の胸のみ、とか」
「うん、怖いよ? 効果的かもしれないけど、怖いよ?」
「お前の言うシュシュシュの剣よりよっぽどマシだろ……あれ、周囲への被害とか半端じゃないんだから」
「ところでなにあれ。ガンマ、前に思いっきり進む時、雷みたいなの出てない?」
「あー……まあ静電気の強化版みたいなもんだよ。氣と呼吸と魔力の賜物、魔氣の呼吸。そういったものが強く合わさって振動するとね、なんか出てくるみたいなの。まあ魔力引っ込めれば静電気も散るから、どうせならそのまま相手に静電気ごと叩き込みなさいって教えた」
「うわー……静電気の所為で髪がぶわって浮かび上がって……え? あれかっこよくない? 謎オーラで衣服とか髪が浮かび上がるって、僕もやってみたかったアレなのに」
「お前も魔力で散々やってたじゃん」
「魔力も感じさせない状態でやってみたかったんだってば。たとえば魔力に敏感なヤツの前で、“遊びは終わりだ……!”とか言いながら衣服とか髪がぶわぁって……かっこいいじゃない。相手が“馬鹿な……! 魔力は感じられないぞ!? いったいなにが……!”とか言ってたら余計にさぁ」
「……いいな」
「でしょ?」
「“魔氣常中”! ───あびゃっ!? あばばばばばばばっ!?」
「……ねぇヒロ? 突進した先で結局コケたみたいけど」
「うん、歩いたり走ったりでコケることはなくなったんだよ。あとはセンスの問題。頭で考えすぎて、そっちに思考を持っていかれすぎてるんだ。だから戦いに集中すればするほど周囲に目が行かなくなるし、視界の外で起こることには弱すぎる」
「……歩くとか走る分には問題ないのにねぇ」
「戦闘になると途端にポンコツ化するから、どう改善させようか悩んでるところ」
「ふーん……あ、ところでさ、ヒロ。前にガンマの前でやってたあの……刮目せよっていうの、なに?」
「一部の能力解放のルーティーンってやつ」
「なるほど、いいね」
「ま、ガンマが突っ込むとコケるなら、相手から来てもらえばいいだけか。もしくは───あ」
「ん? どったの?」
「武器を銃にするとか、どうかな」
「あー……でも弾無くなったらまずいよね? 弾丸を弾に……っていってもこの世界、魔力を切り離すとすぐ不安定になるじゃない」
「そこは工夫次第ってことで。んー……っと。ほれ、ショット」
「おお。へー……真っ直ぐ飛んだね。しかも途中で軌道を変えるとか」
「撃った魔力に氣を込めてるんだ。氣なら魔力よりも霧散しにくい。おまけに身体と繋げて放つことも出来るから、ほら、操氣弾」
「わお、ヤム●ャさんの時代が来た」
「常々思ってたんだよねー。元気玉を操氣弾レベルで操作出来たら、めっちゃ強いんじゃないかーって」
「元気玉は相手に当たると破裂しちゃうけどね」
「そう。つまり、固形じゃなくて流動型の操氣弾が開発出来れば……!」
「…………なるほど!」
シャドウとあーでもないこーでもないと操氣弾談義をしてみたり。
「あるじー! あるじあるじあるじー! 狩り行こ!? ね!? 狩り行こ!」
「デルター? 俺は主じゃなくて補佐役だってばさぁ。もしくは指南役。はい復唱」
「あるじ!」
「違うからね?」
「だってボスはシャドウ様! でもあるじはボスと同等! だからあるじ! それともボス?」
「そのどちらでもなく───……博光です」
「あるじ! 簡単に腹を見せちゃだめなのです! あるじはデルタより強いのですから、腹を見せてはだめなのです!」
「そう言われてもなぁ……あの、とりあえず肩から下りない?」
「ヤ!」
「あと体にすりすりするのやめない?」
「ヤ!」
「はぁ……じゃあ狩りにでも行こうか。シャドウもここらに盗賊が居なくなってきたから、範囲広めたいとか言ってたし。ちと早いけど、不満はとっとと潰すに限るしね」
「狩り!? 行く! デルタも行く!」
「おうおう、それじゃあ早速行こうねー」
四番目の犬っ娘になにやらやたらと懐かれたり、
「ヒャッハァーーーッ!! 逃げる野郎は盗賊だぁっ! 逃げない野郎は訓練された盗賊だぁ!!」
「ぐわぁっ!? っ……目がっ……くそっ! 誰がっ!」
「我らは……あーうん。あいつが実力者モードじゃないなら別名の方がいいかなぁ。初めまして大狼族の男。俺は───」
「がうぅうっ! がぁうっ! 弱い! 弱い! お前らは弱いのです! ボスやクーゲルの足元にも及ばないのです!」
「───あー……はい。僕がクーゲルです」
「クーゲルっ……! おのれっ……! 貴様らも力ばかりを振るう強者のつもりか! 強者ならばなんでも奪っていいと! そう豪語する輩かっ!」
「俺は借り物の力と一緒に旅を謳う自分が大好きだから、豪語がどうとか知らん。強者っつったって俺自身はクソザコもいいところだから、そういう強者の理想とか思想も知らん。強い武具だけ手に入れて俺TSUEEEとかアホもいいとこだろ。そして俺は自称をするなら外道がいい。武具が強くて俺はザコ。最高じゃないですか。───でもね。そんな俺でもかなり不快だよ、お前。……力があったとしたなら守りたい存在まで斬り捨てておいて、なんだお前、その態度」
「黙れぇえっ! 俺はっ……俺にだって力があればっ!」
「へー。で? お前力つけようと努力したの? 守るための必死の努力は? 力くれ力~って、そんな錠剤に逃げて、お前なにか手に入れられたの?」
「っ……~~~~……!! キサマァアアアアアアアアアッ!!」
「盲目のまま血の涙でも流して、ずっとそうやって生きてきゃいいよ。あ、ちなみにお前が殺した獣人たち、ぜ~んぶ助けたから、お前ただの同族の裏切り者だ。よかったねー、お前の守りたかったもの、もうなんにもないや。で、訊きたいんだけど。お前、なんで力が欲しかったの?」
「は……は? はっ……みんなっ……え? 助け…………───ぁ」
「教団の連中ももう全滅したよ。助けるのもこの娘で最後。あーあ、可哀想に。守りたくて力を欲した大の男がさぁ、逃げる女性を背中からとかさぁ……。ほら、もう大丈夫。痛かったよなぁ辛かったよなぁ、信じてた相手に裏切られて、一族を八つ裂きにされて。体もこんなに刻まれて……可哀想にねぇ……」
「ぁ……ぅ……? か、らだ……が……? いたく……ない……?」
「ああ、もう大丈夫。全部終わったんだ。裏切り者が一人残されただけ。目も見えないままに力を欲し続けて、いつか潰れるんじゃないかな」
「………………あたたかい……」
「うむうむ……あんなゲスでクズな男のことなぞ忘れてしまいなさい。この博光がうぬの心が癒えるまで、傍で温めてしんぜよう」
「っ……待て……待て! それだけの力があるなら何故! 何故もっと早くに!」
「抗わずにとっとと決断して、ポックン仲間より力が欲しィ~ンウィ♪ って裏切ったのはお前だろう? 俺はな、裏切り者が心の底から嫌いなんだよ。友、仲間、家族……そういった様々を自分が、自分の意思で裏切っておいて、もっと早くもなにもねーだろ。お前がさ、表面上は味方を裏切り力を欲して、手に入れた力で味方を守る~なんて奴だったら、いくらでも手を伸ばしただろーさ。でもお前は友を、仲間を、家族を手にかけた。だから言ってやるよ。何故ももっと早くもねぇよ。守りたかったんなら、“もっと早くに”自分を強くする努力でもしてろボケ」
「くっ……ぐ……! クーゲル! クーゲルぅううっ!! 覚えたぞその名前! 忘れるものか! いつか貴様を! 俺はっ! 俺はぁああああっ!!」
狩りに出た先で、なんか教団と遭遇したので、そいつらが盗賊ってことにして狩りをしてみたり、
「感謝します、クーゲル殿。我ら妖狐族を救っていただいたこと……」
「あーいやいやそういう堅苦しいことは無しにして……! 助けられた、助かった、それでいーじゃない。ね?」
「しかし……わたしたちは明らかに殺されていました。それを、こうして蘇生までしていただいて……!」
「たまたまそういう力があっただけの話だから。それに……助けておいて、こちらに提供できる住まいとかがないのも問題というかなんというか。デルタ、狐さん族はどんなところに住んでるものなの?」
「? 知らないのです」
「(だめだ……デルタじゃ参考にならない……!)えーと……そんなに自然もないかもな場所でもよかったら、住む場所提供することくらいは出来るけど……」
「本当ですかっ!?」
「ウィ。俺とミィが住んでる地下聖堂に、まだまだ提供できる場所があるから。さすがに燃やされた場所を、っていうのも……辛いことが多すぎるだろうし、他の獣人に弱いキマリ……! みたいに目をつけられるかもだし」
「地下……」
「さあスタイリッシュ盗賊スレイヤー=サン、ここで迷える狐はんになにか一言」
「え? 僕? んー……あ、ドブ臭い汚らしい場所を想像してるんだったら、それは大きな間違いだからね? びっくりすると思うよ。僕も家のこととかないんだったら住みたいくらいには心擽られる場所だからねー」
「キミが離れるとクレア嬢がねー……」
「厄介だよねー……」
「あの、そちらの方は……?」
「フッ……僕のことはスタイリッシュ盗賊スレイヤー、とでも呼んでくれ」
「紙袋被った、見るからに怪しい存在だけど、こんなんでも僕らの盟主様です」
「!?」
「えー? この格好の時にその立場で紹介するのやめてよ、格好つかないじゃん」
「だったらとっとと着替えんさい」
「ちぇー、ヒロはこういう時の美学をもうちょっと学ぶべきだと思うよ。───さて、妖狐族諸君。僕がこの二人の主にして、陰に潜み陰を狩る者───シャドウだ」
「……! シャドウ……!」
「月丹とやらの裏切り、大部族の襲撃、それら全てを裏で操っていたのはディアボロス教団。我らシャドウガーデンはやつらを狩る者達だ」
「シャドウ、ガーデン……ディアボロス教団……」
「お前らが望むのなら力を与えよう。住処も、時も、食料も」
「(……! 確かに……今、わたしたちは他部族の獣人の襲撃に、月丹の裏切りに遭って……月丹とユキメの婚約は当然のこと、大狼族との同盟も破棄となり……力と呼べるものも、住む場所も頼る当てさえも失った。戦に負けた獣人に手を差し伸べる部族などない……力こそがと思うものばかりだからだ。そんなわたしたちに、住処も、考える時間も、食料も……!?)」
「望むものがあるのならば、クーゲルを頼れ。奴こそ我が相棒。望むことの大半を叶えてくれるだろう」
「(うわーいマジで丸投げしおったわこの影男。まあ縁の下の力持ちはこの程度で根を上げる*28ことなど───せんがね!)……紹介にあがったシャドウの相棒、クーゲルだ。盟主は彼だが、仲間の管理は俺が受け持っている。管理、なんて嫌な印象を受けるだろうが、そういう管轄と
「あの……本当に、わたしたちを……?」
「もちろん。あ、住処のことも、見てから決めてくれたって全然いいよ。そこでゆっくりと傷を癒していったらいいさ」
「え……いえ、もう、傷は───」
「心の傷。そういうものに、親も娘も関係ないよ。裏切られた事実ってのは、本当に辛いものだから」
「───!!」
大狼族との袂を分かった妖狐族を、僕らのマイホーム(地下迷路)で受け入れることになったり、
「すごい……地下にこんな……これだけの自然が……!?」
「まあ、水路もあるからって生やしまくったからねぇ……。ちなみに栄養は魔力とかなんで、大地からの栄養なんて必要ないから大丈夫。冷たい石床だった地面も、今では蔦と草葉のお陰で自然味溢るる地面になってるしね。作物だけは育てようがないのがあれだけど……まあそれもやりようやりよう」
「本当に、ありがとうございます……! こんな場所に住まわせてもらえるなんて……! ここなら他部族の襲撃に怯える必要もありません……!」
「いいっていいって。それより……ユキメちゃんだけど」
「ぁ……はい。突然の月丹の裏切り、背を、体もああまで斬られ、ショックでない筈がありません……。なんとかして励ましてあげられればいいのですが……」
「グウウ……ムムウ……! なんていうかこの世界の男子ってろくなのが居ない気が……!」
「え?」
「あいやなんでもござらん! でも……そうだねぇ、昔っから、ボンズィーンな俺に出来ることなんて、この身ひとつでぶつかっていくことだけだったしね。OK、ちょっと笑わせてくる」
「え? 笑っ───え?」
ユキメママンら妖狐族をマイホームへ案内して、住める環境を整えてみたり、
「え? 威厳を出すために、口調を変えてみたい?」
「はい……どんな感じがいいんでしょう……。わたしはまだまだ小娘です。力を与えられても、外見ばかりは……」
「うぬむ……じゃあ……初めて会った時、戦場娼婦になってでも復讐を、なんて言ってたくらいだし───」
「あ、あれは忘れてください……! まさか命を助けてもらった上に、母上やみんなまで生きていて、こうして面倒を見てくれるだなんて……やさしくしてくださるなんて思ってもみなかったのですから……!」
「助けたんなら最後まで、ですとも。で、言葉使いだけど……廓詞、って知ってる?」
「くるわことば……?」
「そう。俺の居た国じゃ、遊郭……まあその、ぶっちゃけちゃえば女性がそういうことをして稼ぐ、みたいな場所……かな? そこで働いてたおなごが使った言葉。ありんす~とか」
「……聞いたことがあります。けど……なんとも皮肉な話ですね」
「や、嫌ならほんとやめようね!? 別に強制したいわけじゃないからね!? マジで!」
「……いいえ。他でもない、救ってくれた、受け入れてくれたあなたが伝えてくれた知識なら……私は、わっちは、それを……受け入れたいと思いんす」
「使うたびに思い出すかもしれないよ?」
「復讐の心を忘れないのなら、それも構いんせん。もはや月丹には憎しみしかありんせんから」
「……そか」
「はい。それで……その、クーゲルはん。ぬしにお礼がしたいのでありんすが」
「お礼? ああ、じゃあ最高のを頼みとうございます」
「え……最高、の?」
「ほらほら~♪ スマァ~イル♪」
「はにゅっ? あ、あにょ、くーげうはん……?」
「ん、おっけ。お礼しっかり貰えたよ」
「ま、待ってくださいっ! あ……おくんなんしっ!」
「あっはは、いいのいいの。俺、誰かの幸せそうな笑顔とか楽しそうな笑顔が大好きなんさ。だからね、ユキメ。お前が心の底から笑ってくれたら、俺はそれがとっても嬉しい。それがお礼じゃダメ?」
「───…………~……」
「ああほらほら泣かないのっ、せっかく涙のあととか消えてきてたのにも~」
なにやら急に泣き出したユキメちゃんを、胸に抱き締めいいこいいこしまくったり、
「で……クーゲル?」
「いや……うん。俺もよく分からないんだ。あ、あのー……僕ね? 昔っから子供には好かれる性質だったというかそのー……」
「……そうなのでしょうね。出会う人出会う人、全員に抱き着かれるほど懐かれているものね」
「お、押忍。えーと……アルファ?」
「…………なに?」
「アルファも抱き着いてみる?」
「!? なっ、そのっ、わたっ……!」
「いっつもお姉ちゃんしてて偉いね。でも、甘えられる時は甘えること。言ったよね? 俺」
「~~…………」
「はいいらっしゃい。アルファもね、人が増えるたびに遠慮していくようになっちゃってね~。いくらでも甘えてくれていいんだって。それが、俺がここでしたいことなんだから」
「ん……ごめんなさい。その、頭、撫でてほしい」
「うんうん」
「髪も指で梳いて……」
「ほいほい」
「み、耳も……」
「ほいほい」
「~~~~っ」
なんか最近もやもやしてそうなアルファを発見、抱き締め、甘やかしたり、
「ねぇヒロ」
「ダメ」
知らんうちに悪魔憑きを癒し、スライム技術を教え込んでいたお子にキラッキラした目で見られてたシャドウの申し出を断ってみたり、
「イプシロン。彼女の名だ」
「そうか。俺はクーゲル・シュライバー。シャドウの相棒をやってる。よろしく」
「シャドウ様の相棒……!?」
「その通りだ。現在の仮アジトである地下聖堂も、食事も環境も全ては我が相棒、クーゲルが用意したものだ。イプシロンよ、お前も分からぬことがあればクーゲルに訊くといい」
「(おんどれ自分が救ったお子まで俺に押し付けよーってかコラ)」
「(えー、だってしょうがないじゃん、適当に向かった先で見つけちゃったんだもん。またヒロに全部任せればいーかなって思ったんだけど、僕もほら、ミィちゃんみたいな子が欲しいなーとか思ってたし、一人くらい~って思ったら)」
「(……我がめっちゃくちゃ強いお子だったと。でもよかったじゃん、純粋にキミのこと尊敬してるっぽいよ? 逆に俺、めっちゃ疑われてそう。キミなんかした? どうしたらちょっとここに居なかっただけであんなんなるの? 聖堂のピアノも気になるし)」
「(月明かりが降りてきてたんだ……腕がうずいてね。そしたら月明かりに照らされたピアノがあるじゃない。ここで月光を弾かないなんて……嘘だろう?)」
「(で、見事に聴かれて感動された、と。てかあのピアノどしたの? まさかかっぱらってきた?)」
「(………………落ちてたんだ)」
「(………………落ちてたんじゃ仕方ないか)」
「(ねぇヒロ)」
「(ダメ)」
新たに加わったイプシロンを押し付けられそうになったけど却下したり、
「クゥ様、朝です───んまっ!?」
「う、むむ……む、むおお…………お、お? やぁミィ、おはやう」
「おはやうございます……ではなくて! ななんななななな……! 何故人数が増えてらっしゃるのですか!? 先日までベータだけでしたよね!?」
「エ? …………オワッ!?」
なんか招いたお子やらなにやらがやたらと僕のベッドに潜り込んできたり、
「まったく! あの方たちは! まったく!」
「まあまあミィ、みんなきっと怖かったのよ。ルクレイア女史もユキメママンも、信じてた人に裏切られるってのはそういうことなんさ」
「でも! それにしたって! 子供を連れて一緒になんて、なんと羨ましい……!」
「おんぬ? ミィも一緒に寝る?」
「おひゃあ!? い、いえ今のはっ……というかこういう場合はなにか言ったか? とかとぼけるものでは!?」
「ああうん俺あれ大嫌いだから意地でも聞いて実行するって決めてるんだ」
「えぇえぇぇえ……!?」
「人は小声にこそ真実を込めるってね。じゃ、今夜忘れずに僕の寝床に来ること。おーけ?」
「お、おーけ、です……」
人が増えたことでのどたばたで、毎日ニコニコ笑ったり、まだまだ添い寝されてーなんて、オヒョヒョヒョヒョなんともお可愛いとミィを抱き締め寝かし付けたり、
「あの……クーゲルはん?」
「んお? なになに? どしたのユキメ。なにかお願いごと?」
「いえあの……ちょいと訊きたいことが。その……この地下聖堂では、クーゲルはんが主、ということでいいのでありんすよね?」
「え? ん、んー……まあ、提供してるのも、正式に購入したのも俺だし、そうだねぇ。アルファの悪魔憑き探しに毎回付き合って、悪魔憑きを治してるのも俺だし……うん、確かにそういう意味では俺はこの場の主で、盟主って意味ではあくまでシャドウがボスだね」
「………~」
「ややっ? ど、どうかした? なんか急にポムッて感じで顔が赤くなったけど!?」
「ななんでもありんせんっ、ええ、ありんせんっ……! ただ、その……強く、やさしいぬしさんが一族の、その、長、という、ことに……っ……!」
「オサ? オサ……
「…………」
「?」
質問に対して、何故か物言わず、ソッと腕に抱き着いてくるユキメをいいこいいこした……ら、「信じさせてくださいますか……? もう、裏切られるのは……嫌なんです……っ……」と言ったので、「裏切りませんとも、絶対に」と胸をノックして、覚悟完了を誓ったり、
「はい。私たち妖狐族は、クーゲル様を一族の長として受け入れます。どうぞこれからよろしくお願い致しますね」
「あ、お、おう、あ、み、みりん? じゃなくて、押忍! では今日からこのクーゲルが族長となり、あなた方を生涯
「ああっ……なんて頼もしい……!」
「あのー、ところでミィはなんでそんな頬を膨らませているので?」
「むうっ……そりゃあ、クゥ様が認められることはとってもとっても嬉しいんですけどっ。獣人族の長になることがどういう意味なのか、クゥ様は……ううん、聡明なクゥ様がそんなことも知らない筈が……ぁぁぁぁじゃあクゥ様は……!」
「(そういえば妖狐族って女性ばっかで、男性見かけないけど……まあきっとそういう種族なんだろうね。魔女とかも樹の根本から産まれるとかいうし、妖狐族は魔法とか妖術で産まれるんじゃないかなっ)」
暢気に考えてたら、ユキメママンに寝込みを襲われ、オサである意味や、どんな状況で僕に惚れたのかも熱烈ねっとりチックに教え込まれたり、*29
「自然が祝福しとる……違うのよドリアード=サン……。でもおなごの恋心を無碍にしたくない悲しきゲッシュ……! まあさ? まじないだから仕方なく~なんて気持ちで受け入れるなんて一層のゲスなことはしたくないから、向き合う際には全力で、だったけどさぁ……っと、おはやうミィ。今日もよい風車日和であるな」
「おはようございますクゥ様。あの、今日はなにやら地下聖堂に生え走る木々たちが、ものすごく彩を見せているような気がするのですが……───あの。クゥ様? 何故妖狐族の奥様が、裸でクゥ様のベッドに……?」
「───………………オサとしての務め、果たしましてござい……」
「…………はぁ。クゥ様? そんなこと言われたって、ミィは殴りませんからね?」
「うぬぅ」
「クゥ様が務め~なんてことを大真面目に受け取るわけないじゃないですか。クゥ様は、たとえ長になろうと相手の気持ちを優先されるお方です。相手がきちんと自分を好いていて、この人ならと決めた相手の気持ちこそを抱くお方だと認識しておりますが、違いますか?」
「……チガイマセェン」
「はい、分かってますよ、もう。相手の気持ちをきちんと受け止めた上でそうなったのなら、わたしにあーだこーだ言う資格なんてありません。だってそれがクゥ様ですし。でも最初からそれが目的で獣人を受け入れたのだとしたらァァァァ……!!」
「そんなつもりはこれっぽっちもないから、その握り締めた拳を下ろしなさい。まったく、不満があるなら真っ直ぐにお言いなさいといっつも言っとるでしょーに。不満があるのになにも言わず、あとになってからぶちぶち言うの、博光嫌いです」
「!? っ……きらっ……!!」
「なんでそこだけ拾って絶望顔してんのもう!!」
「じゃあぶちぶち言わなければ嫌わないでいてくださいますか!?」
「他の嫌いに当て嵌まらなきゃね!?」
「う~……! なんですかもう、幸せそうに眠っちゃって。いいですか~ユキメのママさん。わたしの方が先だったんですからね~? なのに長にしたからって当日になんて……! そりゃあっ……そりゃあわたしに勇気が足りなかっただけですけど! ですけどー!」
「(……ピアノでも弾きに行こう)」
「……そういえばクゥ様? この方のお名前、まさか抱いておいて知らないとかありませんよね?」
「タマモって呼んでくれってさ。一族の中じゃ唯一の三本尾を持つ、結構お強い狐様」
「三本…………三本? あのー、クゥ様? わたしにははみ出てる尾っぽの数が、四本に見えるんですが」
「アーなにもミエナイ! ナァアアンニモミエナァアアイ!!」
「いつか伝説の銀毛九尾になるんじゃないですかね。助ける時にクゥ様、ご自分の魔力を埋め込んでいましたし。我々シャドウガーデンのメンバーも、クゥ様の魔力を受け入れることで魔力量の限界なんて吹き飛んでますからね」
「えぇえ……? そういうもんなの……?」
なんか知らんけど族長(石仮面的な意味)じゃなくて一族の長(デルタの父は番を100人持っているらしい。子供は千人以上。やべぇ)という意味で盛大に受け取ってしまったらしい俺は、心から受け入れを喜び、頬を染め、涙まで流して微笑んでくれた皆様の期待を裏切れる筈もなく。こうして、少数ではあったけれどもほんの数人ではなかった妖狐族をオサとして娶ることとなり……うん。頭を抱えたあたりで、アルファに「? べつに責任が持てるのなら、妻がたくさん居て、なにか問題があるの? どのみち表では、名前も存在も消されているような子たちばかりなんだから」と首を傾げられてしまった。
……子供の純粋な眼差しがァ!! 俺の心に大・激・痛!!
ど、どうかっ……どうか間違わないでいただきたいっ!
俺っ……俺これでも世界から弾かれる前は本気の本気で一途な人間だったのよ!?
いやまあそんな妻は世界の辻褄合わせの所為で他の男と結婚したってことになって、結局俺独身になったわけだけど!
でもその後だって、一緒に居てくれたドリアード=サンと……いやまあ結婚がどうとか以前になんもかもがアレでソレでアレしてコレして整う前に世界に弾かれたわけだけど!
そんでようやくいろいろ終わって帰ってみればっ……! ア、アーッ! アアーーッ!!*30
───と、そんな調子で、
「あのー、イプシロン? なんで最近ベータの胸ばっか見てるの?」
「みっひ!? 見てってて見てません! 見てませんが!?」
「ほほう。絶対に?」
「
「ほんとに?」
「もちろんです!」
「シャドウに誓える?」
「見てましたごめんなさいっ……!!」
アレがこうなって───
「なるほどねー、一族が一族全員、ぺったんこな家系、と。あのね、イプシロン」
「なんでしょう、クーゲル様。その、いくらシャドウ様の盟友だからといっても、私が心から仕えているのは───」
「胸、大きくする方法、あるよ?」
「───なんなりとお申し付けくださいクーゲル様」
ソレがああなって───
「一説によると、女性の胸は幸福ホルモンが出ている状態でマッサージすると、膨らみやすいらしい」
「シアワセホルモン……!? そ、それはどうしたら出るんですか!?」
「まあそれはまず置いといて。イプシロン、シャドウのことは好き?」
「むぬっふ!? きゅきゅきゅ急になにを!?」
「幸せホルモンに必要なことだから」
「……~……尊敬や畏敬、敬のつくものなら大体の感情が混じった上で、その隣に立つ者が自分でありたいと思っています……!」
「OK、じゃあ氣と呼吸と魔力操作の時間だ」
「氣? 呼吸? 魔力はわかりますけど……」
「氣っていうのは魔力が無い存在にも内在しているもののことで、こぉ~んな感じのもの」
「!? これは……確かに、魔力はこれっぽっちも感じません……!」
「呼吸は、まあそのまんま呼吸。自在に操れるようになれば、体内の様々を操れるようになってくる」
「体内……!! つまり……!」
「そう、氣、呼吸、魔力、それらすべては自分の内側で操作するものだ。そして、幸福ホルモンも操れるようになれば、スタイルはある程度操れる。なにせイプシロンはこれからまだまだ成長するんだ、それに合わせた行動を取る人と取らない人とでは、雲泥の差が出る。“あの時ああしておけば”は成長において誰もが辿る道だ。だから、後悔なんか残しちゃいけない。……覚悟はいいかい、イプシロン」
「もちろんですクーゲル様っ……! この血に宿る
ソレがこうでアレがソウで……
「あっ……あ、あぁあああ……!! 一週間で……1cm……!? ぁあああああああっ!! ぁあああああああっ!! 越えられるっ……私は! そうだ、私はこの連鎖を……過去を、断ち切る!」
「(ただ単に成長期だからじゃないか? とか言ったら悲しませんるだろうから言わない博光です)」
「感謝を……! 心からの感謝を! クーゲル様っ!!」
「あ、ぁぅ、うん……(素直におめでとうと言えないッツ……!!)」
あーなって、こーなってー……
「理想を描いておく……?」
「そ。筋肉とかもそうなんだけど、人は完成形を頭に思い描いておくと、そこに辿り着きやすいんだ。筋肉を鍛えよう。でも実はひょろひょろのままでいい、なんてイメージを働かせていると、案外成長しないもんだ」
「でも、どうやって───」
「ほれ、そこにスライムがあるじゃろ? スライム技術は困難を極める。だが、極めることで理想像を作れるのだ。理想像を目に出来るのと出来ないのとでは、イメージとして、未来図として不安定なものを残すことになる。だから───イプシロン。ここからだ。ここからが本番だぞ……! 歪んだ理想なんて作ってしまったら、きみはそこを目指すハメになるのだから───!!」
「───!!」
そーなってー、ああなってー───
「完成した……! “私”の理想形……!! 私はただ“ここ”に向かい、邁進して行けば……!!」
「到着は困難を極めるだろう……食べるもの、日々の運動、そして大事な睡眠時間、睡眠の質……様々な壁が君の前へと立ちはだかる。だが───」
「ええ……全てを打ち砕き、乗り越えてみせますわ───! 私はイプシロン……“緻密”のイプシロン……! 氣と魔力と呼吸を得た私に、越せぬ壁など……!」
「そう……壁を越える、ということは、越えた分だけ自由を得るということなんだ。こんな言葉がある。“越せぬ壁など我が身に在らず、我が意志こそが無限の自由”。……かつて想像を創造し、武器とした存在が残した詩だ」
「想像を、創造……!」
「きみに送ろう。想像を創造する、というものが実際にあるのだという証明に」
「───!! こ、これっ……これはっ───!!」
頑張っているイプシロンに超リアル・スゴイカッコイイ・シャドウ様フィギュアをプレゼントしたりして───
「(私は到れる……己の理想に、想像に。想像を創造……なんと素晴らしい言葉だろう。今やスライムボディスーツでの
「イプシロン、任務よ。すぐに準備してちょうだい」
「───!? あるっ……アルファ様っ……? ちなみにその、今から、ということは、夜は───」
「? 野宿よ?」
「───……(質の……質の、良い…………)」
その結果、ああなって───
「おンのれディアボロス教団ンンンンン!! よくもよくも貴様らよくもぉおおおおおおっ!!」
「ギャアアーーーッ!!」
「おおっ! 今日のイプシロンはとってもやる気なのです! デルタもたくさん狩るのです!」
「シュシュシュシュシュシューーーッ!!」
「な、なんだこいつら! ガキのくせに強───ぐあああっ!」
「ガキ相手になにしてやがる! こうやって確実に殺していきゃあ───おらぁっ!」
「《ごいんっ!》っ……いったぁああっ!」
「…………へ? え……え? ごいんっ……って……俺の鉈が、ごいんって……あ、頭……頭だぞ!? ごいんってお前っ……! 痛いってお前っ……!」
「くっ……この私の後ろを取るとは、中々の腕前───!」
「いや俺の腕前とかそれ以前の問題でな!? ひるっ……昼に研いだばっかなんだぞこれ!? それをっ……がああっ!?」
「ガンマ、一人だけに集中せずに周囲に注意しろといつも言っているでしょう?」
「申し訳ありませんアルファ様、ですがこの男、中々の手練れだったようで……!」
「っへ……! 隙だらけだ馬鹿───がぁっ!?」
「ええ、あなたが、ですが」
「ぁ……が……」
「…………ああ、クーゲル様……! あなたが教え導いてくれた道に、ベータはもう恐怖など感じません……! 夢の恐怖、なにするものぞ……! 私はただ、クーゲル様が語ってくれた物語のように、私の道を歩むのみ……!! ……はぁ、それにしても夜に任務だなんて……! 今日こそはクーゲル様に新しい物語を聞かせてもらおうと思っていたのに……! 許すまじ、ディアボロス教団……!」
「みんなやる気だねぇ。まあ、その方が次の行動がしやすくて助かるけど。……ふんふん、ディアボロス教団……ではあるんだろうけど、末端も末端、余計なことは知らされないままに動いているだけの黒服、ってところか」
「ん……眠い……。ゼータぁ……もう終わりにしていい……?」
「だめだよイータ。一応まだ調査と解析が残ってるんだから。例の赤い錠剤があるのなら、調べてみたいって言ったのはイータじゃないか」
「……こんなに、なにもせず、終わるとは思ってなかった……七陰全員で来る意味あった……?」
「意味はといえば、この奥の遺跡にこそ、かな」
「ていうか錠剤が気になるなら俺に言ってくれればよかったのに。腐るほど拾ったから、ほいどうぞ」
「えっ───クーゲル!?」
「うん僕クーゲル。ちと遠出したって聞いたから、飛んできたよ」
「飛んで、って……はぁ。まあクーゲルに常識とか通用しないからね……」
「ほっほっほ、ゼータや? 俺に常識外れは───褒め言葉じゃい」
さらにはアレがそうなって、あそこに突撃してー……
「はい、というわけで。こちらが救助した肉塊になるわけだけど」
「あ、あの……クーゲル? 私とイプシロンが見た時には、生き残っているのは一人だけだったのだけど……」
「え? うん。蘇生させた」
「………………ええ、もうなにも言わないわ。シャドウが相棒と認めているのだもの、あなたにも相応の叡智があって当然なのよね……」
「侯爵で男爵で族長だからねー。いろいろ出来ることも多いよ? だから、困ったことがあったらもっと頼っていいのよ? ってわけで、イプシロン=サン」
「え? な、なんですかクーゲル様」
「日々の修行の成果……試してみる気はあるかい?」
「日々の…………まさかっ!?」
「そう。この悪魔憑きさんを治してあげて。俺とアルファは残りの子を治すから」
「そんなっ……初めてで、私一人でなんて……」
「相手に寄り添った魔力操作をすれば大丈夫。自分の魔力として操るんじゃない。相手の魔力の流れを正常に治してやるんだ。はいお手を拝借」
「え……あの」
「魔力変換……譲渡……安定、と。ほい、こんな感じ」
「ぇ、え……こんな、簡単に……!?」
「はぁ……! ~……イプシロン、軽く考えないで。これはクーゲルが相手に寄り添うのに慣れ過ぎているだけだから。いい? 慎重に、慎重によ……!?」
「は、はいアルファ様……。そう、です、よね……?」
「アルファも。そんなに難しく考えないの。氣と呼吸と魔力は教えたでしょ? まず相手の氣を感じるように包み込みます。次に呼吸を合わせて、魔力を繋げる。氣で、肌で、呼吸で、相手の魔力を知る。知れたら、ゆっくりと濁流なそれを清流に変えてやる。魔力ごと弱っているようなら、それを足してやればいい」
「……はぁ。本当に、簡単に言ってくれるわね……あなたも、シャドウも」
「……! シャドウ様の居る頂に辿り着くなら、こんなところで足踏みなんて……! アルファ様、クーゲル様っ、私、やります!」
「……ええ。元々そのつもりだったから、それはそれでいいのだけれど……クーゲル?」
「任せてください。なにせ俺は縁の下の力持ち。どんなサポートでも完璧にこなしてみせましょう、ぞ」
そうして悪魔憑きを癒して、メンバーが増えていって───
「私は……悪魔憑きになって……なのに……!」
「あなたには選択肢が2つある。ひとつは救われた命を大事に抱え、何も見ず、聞かず、応じず、静かに生きていくこと」
「んまあああなた片目が欠けてるじゃないですの! ちょっと見せなさい! ああもう辛かったろうね苦しかったろうねぇ!」
「な、なにをする!? 急にっ……こらっ! うわぁあっ!?」
「はい治った~♪ どう? よく見える? おかしなところとかない?」
「治っ……え? 見え…………なっ!? えぇっ!? なに、なにがっ……!?」
「……はぁ。もう一つは、我らとともに陰に潜み、この世の陰と戦うこと」
「あ、ちなみにここに居る全員が、俺以外全員悪魔憑きだったお子だから。キミと同じく、地位も名誉も、人への信頼も、様々を無くしたお子めら。だから、きみの過去がどうとかも訊かんし、誰かに伝えたくなったら言う、みたいな感じでいい」
「全員……全員!? ここに居る全員が!?」
「他にも居るけどね。さ、どうする? 我らの使命のとりあえずはディアボロス教団の殲滅。けど、それで終わらないかもしれない。教団以外にも同じような悪魔憑きでの人体実験をしている場所があるかもしれない。長い闘いになるだろう。長い旅路になるだろう。だが───だからこそ問おう。もしキミのもとに、キミにとっての脅威が訪れた時、キミの役はただ恐怖や理不尽を前に逃げ惑う一般民衆か? それとも……!?」
「───元々、もう自分にはなにもない、と思っていた。地位も名誉も信頼も失って、ただただ悪魔憑きだからと親しかった者からも恐怖と侮蔑の目を送られ。そこから救ってくれただけでなく、生きる意味を与えてくれるというのなら。もう一度、誰かを信じさせてくれるのなら。……この命、あなた方のために使い尽くしてくれよう」
「ええ。───ようこそ、シャドウガーデンへ。今からあなたの名前は『ラムダ』よ」
「ラムダ───!」
「あ、嫌なら僕が名前考えるけど───」
「ラムダ! ラムダだから! ラムダ、早く受け入れなさい! この人、本当にいろいろ出来るのにネーミングセンスだけは壊滅的だから!」
「ぇ、い、いや、もう受け入れているから問題はない……いえ、ありません」
「っ……ふぅ。クーゲル?」
「OK,よろしくラムダ。キミに今日を生き、明日を目指す力を与えましょう。さ、お手を拝借」
「手を? ……」
「ンー……氣の解放、肺の強化と、目はもう治ってるから~……OK、病気などはありんせん。血の巡りが……ああうん、何日もろくに食べてなかっただろうからね。月清力で血を綺麗にして、弱ってる魔力回路を癒して~……心臓の強化と、魔力の譲渡。ん、よし、ラムダ、身体の調子はどうだい?」
「……! さっきまで、立っているのも辛かったのに……!? しかも、この奥底に存在する心地良い暖かさは……」
「それがキミの生命エネルギー、氣だ。何日も悪魔憑きの呪いで肉塊になってた所為で栄養が足りてなかったみたいだから、今は氣と魔力で補ってる。外に出たら食事にしよう。弱ってた消化吸収能力も補ってあるから、美味しく食べられるはずだ」
「……はっ!」
「……軍人かな? あ、軍人か。見るからに」
「クーゲル様っ!」
「おわっと!? ど、どうかした? イプシロン」
「任務はそのっ……終了ですかっ!? あのっ……」
「? ……ああっ! ん、終了。そうだね、イプシロンは今回初めての悪魔憑き治療で疲れてるだろうし───あ、お腹とかは空いてない? 水分は足りてる?」
「空腹とかより、眠気が……」
「ヨロシ。じゃ、とっととここ出ようか。いきなり地下聖堂に連れてっても緊張するだろうし……ラムダ、今日の夜は森の中でのキャンプでいいかな?」
「え……ハッ! 私は構いませんッ!」
「順応が早い!」
新人さんの判断が早かったり───
「眠ってしまったわね……というか、べつに膝枕でなくてもよかったんじゃない?」
「いーのいーの、頑張ったお子にはご褒美をってね。こんなもんがご褒美になるかは知らんけど。私に重要な任務を~とか前にも焦ってたし、今日も初めての悪魔憑き解呪に疲れただろうし」
「……質のいい睡眠を、とか言っていたけど、膝枕でどうにかなるものなの?」
「この博光の膝枕だけで言えばね。片足あるし、アルファも寝てみる?」
「右足にイプシロン、背中にはデルタ、左腕にはベータで、右腕にはガンマ。大人気ね」
「俺の身体ってさ、なんか大自然のやさしさ~とか香り~とかが感じられるみたいで、エルフは近くに居るだけで落ち着けるんだってさ」
「それは……イータが喜びそうね」
「まあうん。時間も操れるから、質のいい睡眠がいっぱいしたいって言われた時はぐ~っすり寝かせてるよ。僅か数秒でぐっすり7時間睡眠!」
「……イプシロンにはしないのね」
「この娘の場合、夜に起きていること=体によろしくない、だからね。重要な任務の時は受け入れるだろうけど、休める時には休んでおきたいのよ」
「そう。……いつもありがとう、クーゲル」
「よせやい照れるぜぃ」
「言ってみたかっただけ? 照れているようには見えないけど」
「その通り。あ、ゼータ~? 俺が居る時くらい、周囲の警戒しなくていーよー?」
「っと。……獣の呼吸の練習中だよ。空間識覚の範囲を広げてるんだ」
「お疲れ様、ゼータ。敵の気配は?」
「今のところないよ。ああ、ラムダと他の子ももう眠ったんだね。無理もないか、肉塊になるとろくにものも食べられないし」
「……私は一ヶ月くらい平気だったけど」
「アルファ様の場合は主に魔力を注がれてたからでしょ」
「そういうものなのかしら」
「で、どうするのアルファ。膝使う? それとも起きてる?」
「え……と、それは」
「アルファ様が寝ないんだったら私が膝、使わせてもらうけど」
「そう。ならゼータが使ってちょうだい。私はまだいいわ」
「そう? んー……アルファ様、そうやって譲ってばっかだといつか後悔するかもしれないよ?」
「……? 後悔って?」
「本当に欲しかったものを取りこぼしちゃうかもしれないってこと。前にも言ったけど、アルファ様は真面目すぎるんだよ」
「ぅ……そ、そう、なのかしら」
「ア~ルファ。そういうふうに言ってくれる誰かの存在は貴重だよ? で、言ってくれるってことはそうするだけの理由がある。アルファは何かを我慢してないか? お姉ちゃんだから~とか、母親役なんだ~とか、どっかで我慢してない? この博光は、そんなお子めらの悩みや行動のひとつひとつを支えるためにイルノデス。だから、遠慮はナッスィン」
「…………~……膝、借りるわね、クーゲル」
「おうよ」
「うーん、素直で大変よろしい。っはは、いっつも心配してくれるのはありがたいけどさ、アルファ様。アルファ様はもっと誰かを頼っていいと思うよ? って、これ前にも言ったね、なんでも一人でやろうとしすぎてる~って」
「うぅう……!」
「おうおう顔を真っ赤にしちゃって。ええよええよ、真っ直ぐに甘えなせぇ。どんな感情でもこの博光、ばっちり受け止めてしんぜようとも。……いやまあ、今は両腕ともがっしり掴まれて、頭撫でることも出来んけど」
「~……いいわよ、もう……。おやすみ、クーゲル、ゼータ」
「おやすみなさいマウス」
「おやすみ、アルファ様。って、なにそのマウスって」
「太古の呪文だ。眠る前に子供に言わせると強きお子になるらしい」
「はは、なにそれ。あ、ところでイータは?」
「錠剤のこと調べたいって言うから、先に聖堂に転移させたよ」
「ブレないなぁ。せっかく久しぶりに全員揃ったのに」
さらにメンバーが増えて~───
「ラムダの調子はどう?」
「救ったばかりの頃はガーデンのために役に立ちたい、という意欲ばかりが先走っていた感じだったけど、今は落ち着いたものよ。構成員の訓練指導員として動いてもらっているけど……」
「? なにかあった?」
「ええ。ラムダが、というよりは、この地下聖堂拠点のことで。入り組んだ地下通路の地図も作ってもらったし、自然も、明かりもあって、慣れれば過ごしやすいのだけど……迷う子がどうしても出てくるのよね。空気もとても良いのはわかるけど、やっぱり陽の下に居たいという子も多いみたいで」
「まあ、森とはまた別の閉塞感みたいなの、あるもんなぁ。部屋は腐るほどあっても広いわけじゃない。全体で見ればそりゃあ広いけど、通路が多いだけ。そりゃあ不満も出るわな」
「ごめんなさい、あなたが用意してくれた場所なのに」
「あぁよかちゃいよかちゃい、元々俺とミィくらいしか使ってなかったし、良かったら~って気持ちで提供しただけだもの、もっといい場所があるならそっちにするべきだ」
「その……私は、これっぽっちも不満はないんだけど……ああいえ、これを言っていたら堂々巡りね。それで、相談があるのよ」
「ホ? 相談?」
「一方的にあなたに甘えることになると思う。でも……もしここよりも人を招き入れられて、かつ陰に潜める場所があるのなら───」
「あるよ?」
「ある……あるのっ!?」
「うん。前にゼータとデルタと散歩してて見つけた。二人に引っ張られて全速力で走られて、足が空を掻いた時は死ぬかと思ったね。顔面で地面をガリガリガリガリ抉った時は、思わずちぇるしーとか叫んじゃったくらいだ」
「そ、そう……(ちぇるしー……?*31)」
「あ、で、もう向かう? 行くならちょっとミストドラゴンをブチノメさなきゃだから、多少は準備しとく必要があるけど」
「ミスト……ドラゴン!? 竜が居るの!?」
「うん。古都アレクサンドリア。そこが今ホットでオススメの新提案な住居予定地。霧に覆われた森の向こうにあるから、通常手段じゃ森を抜けるしかない」
「え……でもあなたは空を飛べるから───」
「うん。さっき言った顔面削り散歩のお返しに、二人を脇に抱えて空の旅に出てね? その時に“あ、空からなら行けるんじゃない?”って行ってみたら、結構デカい場所だったよ。古都って言うだけはあるね、ありゃ1000人以上でも余裕で住める」
「1000……! あ、でも、ここは?」
「ここは変わらず、俺とミィと妖狐族で住むよ。自然もあるし田畑ももっさり。水も綺麗だから手放すのはもったいない」
「………」
「そんな寂しそうな顔しないの。別にそっちに行くことがないって言ってるわけじゃないし、なんなら転移門でも作っていつでも行き来出来るようにすればいい」
「え……そんなことが、可能なの……?」
「出来ますとも。陰の叡智の賜物だ*32」
「陰の叡智……どこまで底が知れないの……!?」
と、そんなこんながありまして───
『わしの眠りを妨げるのは誰か───』
「老人言葉だウヒョーーーッ!!」
『ぬおっ!?』
「ねぇねぇねぇなんでその口調してみようと思ったの!? なんでそんな口調になったの!? 自然となんてならないよね!? カッコぃ……かっこいいから!? ねぇねぇねぇったらねぇ!!」
『やかましいっ!! な、なんなんだ貴様は!』
「俺か! 俺はシャドウガーデンが期待の超新星! 剣道部の田中だ!!」
『シャド……なに!? チョーシン……なに!? ケンドッ……なに!?』
「この先にあるダリルシェイド……じゃなかった! アレクサンドリアって場所に住みたいので内見に来ました! 通して!?」
『通すわけがないだろう馬鹿なのか!?』
「よっしゃあ馬鹿だから通せ!!」
『通さんと言っとるんだ!!』
「………」
「アルファ様、アルファ様」
「ごめんなさいゼータ……! 龍……伝説の霧の龍を前に、なんであの人はこういつも通りに……!」
「霧の龍……栄華を極めし古都アレクサンドリアを荒らし、一夜にして滅ぼした、という伝説もあれば───」
「ええ。古都アレクサンドリア王と約定を交わした守護神であり、王都の約定を裏切り、都を毒の霧で吹き飛ばした、とも云われています……!」
「ぬ、ぬう……し、知っているのかベータ、ガンマ……!」
「あくまで伝説として、です。クーゲル様」
『そう、伝説だろう。そして事実の一端は担っているが、真実ではない』
「そうか。でも僕らにゃ関係ないから進んでいーい?」
『キサマほんとマイペースだな!? い、いやっ……伝説のっ……さぁ……! 龍がさぁ……! 目の前にっ……さぁっ……!』
「どーせ守られてることに慢心して傲慢に肥え太っていって、代を継ぐ毎に約定も忘れて、霧の龍のことも忘れ去ったからブチコロがした~とかでしょ?」
『ぃゃっ……そうじゃけど……な、なんか嫌なんじゃが、その言い方……』
「結局どうしてほしいのさ。我らも約定結べばいい?」
『うぬは自分に資格があるとでも思っておるのか!?』
「え? 無いよそんなの何言ってんだ、博光ですよあたしゃあ。資格自信栄華栄光! その輝かしきもの全てが俺にとっては身体はおろか手も届かぬ天の光! だから俺は地に潜るのだ! 空に輝くたった一つの月にも光にもなれぬのなら! 他者を温める暖かなる大地となろう! それが縁の下の力持ち! 盟主シャドウや、シャドウガーデンを支える大地よ!」
『ぬう……!』
「さあ古の霧の龍よ! 毒の霧を引き、我らを通せ! その道をゆく証として、我が力を示そうではないか!」
『ほう……! よくぞ言った小僧めが! ドワオーッ!!』
「クーゲル!」
「フッ……よぉ見とくんやでアルファ……! とうとうこの博光の、この大地に舞い降りてより隠していた真の力を見せる時が来たな……! さあ! お前の出番だジークフリード! 雑魚たる俺が強者たるキミを抜き去らん! さぁああてぇ! 後悔するなら今が旬! フゥウウルッ! ブラストォオオッ!!」
久しぶりに紅蓮蒼碧の巨大長剣を霊章から、鞘であるランドグリーズ*33ごと抜き出して───
『………』
「………」
『……ナマイキイッテスイマセンデシタ……!』
「なんで!? 剣抜いただけだよ僕! ほ、ほらほら、戦うんでしょ!? ね!? せっかくほら、ドワオー*34とか謎の咆哮やったんだからさっ!」
『アッ……約定……約定結びますのでどうか……! その強さがあれば、もう相手が強者に挑む側だと思うので十分デス……!』
「…………せっかくフルブラスト使ったのに……*35」
「く……クー……ゲル?」
「ハッ!? アルファはこれ大丈夫だと思う!? 実は僕らをアレクサンドリアに導いて、そのあと風向き変えて僕らを毒でブチコロがそうとかいう企みじゃないと思う!?」
「その。約定を結ぶ、と言っているのだから、それをしない条件を含めたらいいんじゃない……?」
「ハッ!? ナルホロ!」
べたー、っと腹から顎先まで地面に伏せをした霧の龍と約束を交わした。
僕らは停滞せぬと。必ず強くなり続け、ディアボロス教団を打ち倒し、さらなる敵が現れるようならその力を以って勝利する、と。
もし破ったら次こそ僕と君と一対一で勝負だ! って言ったら『勘弁してください』って言われた。あれ!? ジジイ言葉は!?
───……。
そんなわけで、現在この地下聖堂に居るのは、僕とミィと妖狐族、そしてルクレイア女史とシェリー=サンだ。
シャドウガーデンのメンバーは古都アレクサンドリアに住むことになって、構成員らもそこでラムダ指導のもと、日々の鍛錬を続けている。
俺はといえば───まあ、いろいろ。
相変わらずシャドウとは夜の旅に出たり、盗賊狩りをしていたりする。
盗賊狩りといえば───結構前、攫われたローズ・オリアナ嬢を発見した時なんかはまあ、張り切って賊を滅ぼしたもんです。
シドと初めて会ったのもここになるのか。ていうかスタイリッシュ盗賊スレイヤーってアータ。
あ、ちなみにローズちゃんには俺が侯爵だって一発でバレました。
うん、侯爵してる僕に懐いてくれてたもんね、そりゃバレるよ。侯爵と男爵以外に、秘密組織で働く僕としての立場を確立する必要があるッ……! クーゲルシュライバーもあるけど、そればっかり使ってるとあとあと面倒ごとになりそうな……ああまあ今はとりあえず、ローズ=サンに取り繕った言葉を投げかけねばと当時は思ったもので。
夜な夜な世直しのために悪を執行しているのデェスと大法螺を噴いて場を凌ぎました。正義ではないのですか? と可愛く首を傾げられたけど、どんな理由があるにせよ、こちらの都合で人を殺そうってんだから、正義なわけないでしょって言ったら……悲しい顔で頷かれた。
そしてシドの剣捌きを見て目を輝かせていたことから、なにやら嫌な予感が「クゥ・シナンヤ先生」……アー……。
俺を真っ直ぐに見上げ、目を輝かせるローズ=サンは、もう止まらなかった。それもこれもシドが面白がって俺のことを実は剣術の師匠がーとかふざけて言ったからだ。俺に教わった~とは意地でも言わないくせに、それを匂わせる発現、もとい発言……あいつぜってー陰での暗躍とか好きだろ、とか初対面ながら思ったもんです。
というわけで、生徒が一人増えましたとさ。
お陰でオリアナ行ったりミドガル行ったりと忙しないので、もう侯爵関連のことは完全にドッペル博光に任せることにした。
オリアナから離れないのは、侯爵の名もそうだけど、この国がまるっとディアボロス教団の息がかかってる地だから、ってのもある。
教会とかスゲーのよ? もはや隠す気とかないの。城の庭だって、上から見れば教団のマークになってたりするし、教会のステンドグラスとかさぁ、教団のマークがそのままあるし、中心には英雄オリヴィエの姿が描かれてるの。知ってる? オリヴィエって世の中じゃ男ってことになってるのに、ステンドグラスの絵ってば思い切り女性なの。隠す気ねーでしょこれ。オリアナでは当たり前だからそうなってるんじゃ? とか思ったら、もーやばいよこの国。
だから、ローズ嬢がそんな大人の汚さと教団の色に染め上げられる前に侯爵家でめっちゃサポート、15歳になったらミドガル魔剣士学園に通えるように、手続き等を済ませた。ちゃああんと王様からの許可ももぎ取ったしね!
「うーん、それにしても」
この世界、ろくな王族が居ない。
俺の中でまともと思えるのがオリアナ王くらいとかヤバくない?
しかも最近なんか甘ったるい香りとかするし、もしや毒とか盛られてる!? とか感じて、会えた時には解毒とかやってるけどさぁ……。
なんていったっけ、あの若者……ドゥエーム・オシリ・ハリヌンティウスだっけ? ……ああっ、ドエム・ケツハットか。やつが養子で来てからというもの、どーもこの国……陰でいろいろやることが加速してる気がするんだよなぁ。
まあ、王妃はともかく、王とローズちゃんは善き人だし、なにかあったら絶対なんとかしてみせるけどね。
「そうそう、魔力は最小限に、移動は素早く」
「っ……はああっ!!」
「呼吸は深くしっかりと」
「すうううっ……!!」
「はい、剣舞一分」
「はいっ! とあぁっ!!」
そんなわけで……生徒がまた増えた。
明日は久しぶりにおうにょ……アレクシア王女のところにも行く予定なんだけど……ガーデン外でなにやってんだろうねぇ俺。これも縁の下の力持ちの仕事? 何処の縁の下だよもう。
「はいしゅーりょー」
「はぁっ、はぁっ……はぁっ……!」
「うん、善き剣捌きだったよ。クオリティーナッシャーをどうぞ」
「ありがとう、ござい、ますっ……んっんっんっ……はっ……ふわはぁああ~……!! 美味しい……! な、なんですかこれ、とっても美味しいですヒロミトゥ侯爵……!」
「はいはい、今はクゥ・シナンヤ男爵ね。それは僕が独自に育ててる果実を絞った特別な飲み物です。美味しい上に、疲労回復などの効果がありますよ」
「……! 素晴らしい飲み物ですね……って、本当に体が楽になりました!」
「(素直……!)じゃあ、次のステップに行きませうか」
「え……もうですか? 教えてもらってそう経ってませんが……」
「大丈夫。剣を教えた型で持ってみて。はい、正眼」
「は、はい」
「呼吸を深く」
「はい…………すぅう……はぁあ……!」
「氣と、魔力と、呼吸を意識して……行動には?」
「螺旋」
「そう。強い力は要らない。自然を体に馴染ませるように───振り上げて、下ろす」
「……シッ」
練り上げられた氣と魔力が体内で螺旋の力を生み、呼吸がそれを血液のように運ぶ。
教えたものには“それをそうするルーティーン”が既に組み込まれていて、彼女が頑張っている内に“そう出来るように”調整はしておいた。
振り下ろした剣が空気を裂き、ヒィインッ……という音を立てた時、ローズ王女は目を見開いて、その音を耳に、ふるるっ……と体を震わせた。
「……合格。今の音が出せるなら、あとは精進あるのみ」
「す……すごい、です……! まるで楽器が音を奏でたような……!」
「ん~♪ ローズちゃんがちゃんと教えたとおりに動いてくれた結果だよ。良い子良い子~♪」
「わぷっ……! や、やめてくださいっ……! そんな、子供扱いはっ……!」
「人から褒められた時は素直に受け取っておくこと。大人になるとね~、褒められることなんて無くなってくるんだから」
「うぅ……」
「スタイリッシュ盗賊スレイヤーと同じ域に達したいならね、称賛の声は真っ直ぐに受け止めて、原動力にでもなんでもしていくこと。頑張れ~とか凄いぞ~とか言ってくれる人なんて、たぶんオリアナには居ないと思うから」
「ぁ…………はい、そう……ですね。オリアナにおいて、剣の技術など野蛮でしかありません。でも……私は、スタイリッシュ盗賊スレイヤーさんのあの剣を、美しいと感じました。今まで聞いてきたどの芸術よりも、今まで見て来たどの芸術よりも。だから───」
「そかそか。じゃあ……また次のステップ、行ってみよっか?」
「……え?」
ぽかんとしたローズ王女を翌日、僕はオリアナから一気にミドガルへと連れ去りました。と言ってもまあ───
……。
ミドガル王国が地下に存在する、我が地下聖堂の鍛錬場へ、ですが。
「久しぶりに来たと思ったら、模擬戦相手が居る、とか……なんなのよいったい」
「言葉通りでっせおうにょ。あれから鍛錬は続けてる?」
「ええ続けてるわよ。ブシン祭で見事にボロ負けして、凡人の剣~だなんて言われるくらいには」
「でも、捨てられなかった?」
「……見れば分かるでしょ」
「~……OK! それでこそおうにょ! ではキミのその凡人の剣! それをそのまま理想の剣へと進化させよう! そのためにぃいい───私が! 来た!!《ででーん!》」
「………」
そしておうにょに冷たい目で見られた。
「あの……ヒロミトゥ侯爵、ここは?」
「クゥ先生ね。ここは俺が買い取らせてもらった地下聖堂。前までボロボロだったけど、ちゃ~んと直した素敵な住処。で、この人がアレクシア・ミドガルおうにょ。で、アレクシア? この人がローズ・オリアナ王女」
「……ねぇ。あなたなんでいつも私にだけおうにょ、って噛むのよ」
「なんかそうしなきゃいけない気がして。では、二人には今から模擬戦をしてもらいます」
「模擬戦?」
「そう、模擬戦。で、ふたりには今日の内に実感できるレベルで二周りは強くなってもらいます」
「馬鹿なの?」
「辛辣!」
おうにょったら容赦ない! 仮にも先生なのに! いやほんと仮ですけどね!?
前回会ったのが相当前だもんなぁ……しかもその時は少ししか教えられなかったから、なんか拗ねてるっぽいし……!
「でも嘘は申しておりませぬ。強くなれるよ大丈夫。まずはおうにょ」
「なによ」
「ちょっとお手を拝借。……んー……肺の強化、OK、身体全体の成長力も申し分なし。魔力も良し。でも使用効率微妙に悪し。氣は……少々成長。呼吸はまだまだ、と。あいった痛い痛い! 足踏んづけないで痛い!」
「人のっ! 目の前でっ! 随分な言い様じゃないの! ちょっと教えたと思ったら急に来なくなったくせにっ!!」
「フッ……こいつ寂しがってやがった《ベゴチャア!》痛い!」
キザ男風にキメてみたら頬を殴られました。だがおうにょの言うことももっともだ。
関わったくせに係わらんのは本当にいかん。関係、というものへのこれは侮辱である! だから内部の成長から調べたんだけどね、事情を知らん相手からすれば、握手したと思ったら人を侮辱しまくるクズ野郎です。
「じゃーじょーぶじゃーじょーぶ。えーっと……氣を引き出して、氣脈は癒しと強化で補強しながらちょっぴり強引に拡張、っと。血を月清力で浄化、魔力回路も強化しながら譲渡……安定」
「えっちょっ、なに!? なになになにっ!?」
「はいちょっと喉も失礼。はい吸ってー、吐いてー」
「~……なんなのよ……! すぅう……はぁあ……!」
「……よし。呼吸状態固定、氣脈と魔力回路の螺旋化も完了。あとは拡張した脈と回路に氣と魔力を変換して満たして~~~……」
「えっ……あっ……! く、ぅううぁあああっ……!?」
「はい完了っ! よしおうにょ! 剣を構えて振るってアバァゥオアッ!? ちょっ……! なにするのおうにょ! 説明してんのに人を斬ろうとしないの!」
「うるっさいわね! 急に手を握ったり喉摘まんだり抱き締めてきたり! とりあえずあなた───」
「はい構え!」
「っ!? ……───え?」
剣を振り被ろうとしたところへ、声をかける。
……と、自然な動きで、素早く、けれど美しく、彼女は王都ブシン流の構えを取った。
「んむ、綺麗で素早く美しい。今キミの身体に、理想の凡人の剣を刻み込みました。あとは実戦を積んで、磨いていけばよろしい」
「磨い、て……ってその前に! な、なに……? なんなのこの体の中で渦巻いてるなにか……!」
「前にもあげたじゃない。氣と、魔力と、それらを操るための呼吸だ。前は子供すぎたから出来なかったけど、肺の強度も増しておいたから、もっともっと強く呼吸が出来れば、もっともっと強くなれる筈だから」
「……!」
「あ、ちなみに俺は才能を引き出す能力があるだけで、それ以上のことは出来ないから、それが借り物の力、なんてことはない。本来は血反吐が地面に滲むような努力の果てに、君はその力を手に入れる。その手伝いをしただけだよ」
「これが…………私の……?」
「うむす。で、ローズ~? おいでおいで~。次はお前の番じゃて」
「は、はい」
同じように、律儀に待っててくれたローズにも、同じように施術を行使。
より強さを求めた先にしか得られないそれを現段階で植え付け、それを開花させるのはあなた次第だ! をする……ステキ! なんか縁の下の力持ちに頼り切らない強化っていいよね!
というわけで───軽い素振りと体捌きの練習のあと、おうにょとローズは木剣を手にぶつかり合った。
片や、王都ブシン流・凡人の剣。片や、スタイリッシュ盗賊スレイヤー式・首都武人流・凡人の剣。
呼吸とともに地を蹴り弾き、ぶつかり合い、互いを弾いたのちに……互いが剣舞を繰り出した。
ゴカカカカココガコッココギカカカゴカァンッ!! まるで連続で、軽い打楽器を鳴らしているような音。けれど彼女らは模擬戦だろうと本気で、勝ちを手に掴もうと挑んでいた。音を奏でたいのではなく、ただひたすらに勝利を、貪欲に。
「しっ!」
「はっ!」
弾かれれば加速して戻し、弾けば戻される前に即座に攻撃へ。
そうして、呼吸を早々に乱さぬように、体の動きは筋肉ではなく氣と魔力とで動かし、木剣から伝わる衝撃なども氣と魔力のクッションで軽減させる。
踏み込む一撃は剣の腹で逸らされ、今とばかりに剣を走らせても、その目はそれをしっかりと見て、加速させた剣───ではなく、魔力を込めて加速させ、氣で衝撃に備えた手で逸らされ、その驚愕の間隙を縫うように突きが放たれる。
が、見えている相手はそれを大げさに避けることはせず、頬に滑らせるように避け、剣から離していた左手に氣を込め掌底。
腹に受け、軽く宙に浮きはすれど、着地と同時に再び疾駆。ぶつかり合い、再び剣舞がぶつかり合う。
「…………」
子供がする剣稽古じゃないね、うん。
でも二人とも本当に真剣にござる。
段々と譲渡した氣も魔力も完全に馴染んできたのか、二人の攻防が苛烈さを増していく。
どうしようもなく滲み出てくる疲労に、互いに被弾が増えてくると、けれどそれでも互いに向かい合い、剣を振るい───……互いの意地の果てに、ふたりしてぽこりと頭に木剣の一撃をくらって、ドシャーアアアと倒れた。
「ん、お見事! 両者相打ち!」
きちんと見た通りの結果を伝え、二人を介抱するのでした。
……。
そうして───
「はぁっ……はぁっ、はぁっ……! はぁぁあ……!!」
「はぁ……っ……ふぅ、はぁっ……!!」
「はいお疲れ。どう? 二十戦やってみて」
あれから、どこぞの四天王のルビカンテさんのように回復させては戦わせを繰り返した結果、二人はまるでミックスアップをする幕ノ内くんと千堂さんのように強くなり続け、そこいらの魔剣士には楽勝出来るくらいの実力を得ていた。まあ、きっと二人に実感はないだろうけど。
「どうもこうも……相手が同じくらいの強さじゃ、分からないわよ。今までで一番いい動きが出来てる、って思ってるのにちっとも当たらないんだもの」
「それはこちらの台詞です……。あの美しい剣に近づいていると実感を得ているのに、悉くそれが防がれる。構えも攻撃も王都ブシン流の、丁寧な見本と言えるような動きなのに、打ち合う毎に隙が消えていく……」
「それはどーも……~……はぁっ……! ───すごいのね、呼吸って。もう疲れが治まったわ」
「きちんと体に合った呼吸が大事なんだ。さっきまではその調整のために俺が癒してたけどね」
「他人の魔力に簡単に干渉するとか……あなた、治療院でもやっていた方が似合ってるんじゃない?」
「その場合、キミはこうして凡人の剣の先に進むのに、どれだけかかったろうねぇ?」
「……ほんと、嫌味なヤツ。でも……ありがと。お陰で……自分の剣、好きになれそうだわ」
「そりゃよかった。ローズはどう?」
ふっ、と笑うおうにょのそれは、諦めにも似た貼り付けの笑顔ではない、綺麗なものだった。そんな表情のままに、ローズと背を預けへたり込んでいた状態から立ち上がると、「ほらローズ、もう一本いくわよっ」と次を催促する。
ローズも深く呼吸をひとつ、立ち上がるとクスリと笑って木剣を突き出す。
「はい。望むところです、アレクシア」
……そういえば、二人とも王女なのよね。
国際問題になったりしないかな。
んー……まあ、ここにお偉方が居るわけでもないし、へーきへーき。
あとは適当なところで今日はここまで~とか言って終わらせれば───
「っ~……やった勝ったぁあああっ!! あっははははっ、私の勝ちね、ローズ!」
「~……まっ、まだです! クゥ先生は模擬戦は基本、3本勝負と言っていました!」
「むっ……そうだったわね。じゃああと1本取れば……!」
……なんだろう、この嫌な予感。
もしやこれからまだまだラッシュが始まったり……い、いやいや、三本だもんね、どっちかが二本取ればいいわけだし───
「~……勝ちました…………やった、勝ちました! 私の勝利ですよアレクシア!」
「~ったぁあ……!! って、だから二本先取者の勝ちって話でしょうが! 次で決まりよ次で!」
「次……!」
「次……!!」
「「はぁああああああっ!!」」
そしてまた剣閃乱舞。
もう一般騎士様ごときじゃ出せないような剣戟がものすげぇ速度で展開されまくっており……二人ともが決して負けてなるものかと神経を尖らせ、互いにこそ究極に集中し、それがはじめの一歩的ミックスアップを引き起こし───
「そこっ!」
「ツッ───せいっ!」
やがては互いの攻撃を紙一重で避け、即座に攻撃を返すほどに成長し───
「はぁああああああっ!!」
「せやぁあああああっ!!」
躱す動作まで攻撃に繋げる技巧に発展し───
「───!!」
「───!!」
相手の攻撃を弾く動作でさえ攻撃に転換する域にまで到り、やがて疲労が限界を迎えて、バターンと倒れた。
「あのねぇキミたち……負けず嫌いにも程があるでしょ……」
筋肉も悲鳴を上げているようで、ひたすらに酷使した足と腕がビククビクビクと奇妙な痙攣を起こしている。普通ならほっとくと筋肉痛を起こしそうなものだけど、しっかりとマッサージしつつ癒しとマナを練り込むようにして注入。癒しの水で内側から疲労を回復させたのち、美味しく吸収力も無類の食べ物(にしたもの)をご馳走して、それぞれをお家に帰しました。
うん、実力は上がった。とっても。“対・お互い”って点に特化しまくりだけど。
「まあ、鍛錬の仕方も教えておいたし、あとはたまに見にいけばいいでしょ」
「クゥ様~? そろそろ夕飯の……あれ? もう王女様二人ともお帰りですか?」
「おおミィ、うんそう。時間教えてくれてありがと。地下聖堂の難点は時間が分かりづらいことだよなぁ」
「お疲れ様です。これから全員分の料理を作るとなると、大変ですよね……」
「こういう時は男料理です」
「オトコリョウリ?」
「オウイエス」
男の料理といえば? ……真っ先に出るの、大体の人がチャーハンだと思います。
そして───私もまったく同じ意見です。
……。
そんなわけで男料理。
今日はここ、古都アレクサンドリアにて、多くなったガーデンメンバーのための料理を作っていきます。
ちなみにチャーハン以外は、既に調理したことのあるものをコピー創造したものなどが並んでおります。
巨大中華鍋を熱して脂を引いて、伸ばして熱して卵を投入。
黄身を潰しつつ軽く火を通したらご飯を突っ込んで卵を混ぜます。
こちらも上手く脂を馴染ませたお玉の腹でザクザクとご飯を崩すようにして混ぜ、後は気合いと根性。具材を入れて、調味料を入れて、焼いて混ぜて焼いて混ぜて……!
思わず“出でよ鳳凰!”とかやっちゃいそうになるけど時間の無駄なのでやりません。チャーハンは火力と時間との勝負と思っておりますゆえ。
「よっしゃあ炒飯上がった! どんどん食いなさい! 熱々の内が旬ですぞ!」
「ヒロは料理の時になると人格ちょっぴり変わるよね」
「男はたとえ目玉焼きだろうと、なんか妙なプライドがついて回る生き物だと思うよ? 上手いこと出来なかったら途端にスクランブルエッグにしたくなっちゃうような、なけなしでちっぽけなプライド……あなたにも、ありませんか?」
「うんまあ……気持ちは分かるかも?」
「で、崩したスクランブルにもなんか急にプライドが伝搬する」
「あー、余計にわかるかも」
「ぱっさぱさになるとなんか腹立つんだよなぁアレ……。あ。あと炒飯作った時も、ちょっぴり大き目に焼けて残った玉子のかけらとかに、しっかり味とかついてると嬉しかったり」
「あー、あるねー」
男料理をもりもり食べるのはシド。しっかりシャドウスタイルだけど、美味しそうに食べている。唐揚げとかはコピー創造ものだけど、熱々のうちにコピーしといたから全然ウマい。
「あちゅちゅちゅ! おいしい! あちゅっ! うまいのですー! あちゅちゅっ!」
「はふっ! んんっ! あつっ! ~……クーゲル、ちょっとこれ熱すぎるよ……!」
「(猫舌かわゆい……)おうおうゼータ、こっちに多少冷めたのあるから」
「むう……それはそれで負けた気がするのはなんでかなぁ。……いいよ、こっちの食べるから。せっかく目の前で作ってくれたのに、それを食べないのもなんか嫌だし」
「んむんむ、ゼータは良いお子だねぇ」
「だっ! だからっ! なんですぐに撫でるのさっ!」
愛でたいからです。とは言わない。まだまだお子で、多感なお年頃にちがいねー。ここでやーのやーの心を乱すようなことを言うのはイッツア・ヨクナーイ。
なので、お気持ちが嬉しかったからだーと言った。感謝の心、大事デス。
「炒飯……私も試してみたけど、クーゲル様ほど上手くできないのよね……」
「イプシロンは忠実にやろうとするあまり、速さが足りてないのです!」
「速さ? ……そうなのかしら」
「そうね。途中途中でこのタイミングでこのタイミングでと動きを止めてしまっているわね」
「うぐっ……アルファ様まで……」
「燃え盛る炎を唸らせ熱された鍋を操るクーゲル様の手捌きはまるで神懸った演奏指揮者のようで、振られた鍋から飛び上がる具材はしかし弧を描いて鍋へと戻ってゆき火に炙られながらバラバラだったそれぞれを一つの完成へと導き───!!」
「ベータ~? メモはそのくらいにして、熱い内に食べておくれな~?」
「ハッ!? は、はいっ、クーゲル様っ! そうよベータ……せっかくクーゲル様が目の前で作ってくださった温かなお料理……! これを冷ますなんて愚の骨頂……! いただきます、クーゲル様っ! …………はむっ。…………~~~……!!」
「ベータは本当に分かりやすくも嬉しい反応くれるなぁ。感動に打ち震えるほどおいしかった? まだまだ俺の料理も捨てたもんじゃないねぇ」
「以前シャドウ様のリクエストで作ってらっしゃったカレエなるものも、このチャーハンも……食べやすくて美味しく、手が止まらない味……! こういったものを売るお店を作れば、資金作りに役立ちますでしょうか……」
「ほらほらガンマも。今は資金がどうとか考えなくていいから。あ、でもルーナ商会の方は上手くいってる?」
「あぁ、その……現在は資金繰りに奔走しているところでして……」
「あぁ、例の違約金とかの? なんぼ?」
「それが……」
ゴニョリ、と耳打ちされる。ほむ、なるほど。
「じゃあこれ持ってお行き。その金額の倍はあるから」
「ひょわいっ!? ばっ……倍っ!? そそそそんなクーゲル様のお金を受け取るなど恐れ多いっ!」
「……ほほう。では当てはあるんだね?」
「うぐっ……かなり、ギリギリではありますけど……」
「そか。じゃあギリギリにならない程度に渡しておく。ガンマ」
「は、はいっ!?」
「ん。……頑張れ」
「……はいっ!!」
不安ではあったのでしょう。断っておいてなんだけど、後ろ髪を鷲掴みにされたような不安な顔をしていたガンマに、けれど全額を渡すではなく少々を握らせた。
先に大きな額を提示しておいて、少なくすることでアレがアレするアレだ。
……まあ、イータの研究で出る出費を俺の金から出しておけばよゆーよゆー!
必要な部品は、なんだったら創造できるしね。
と、そんなイータは? と視線を動かしてみると、ここぞとばかりに栄養を貪るイータが。
このお子、絶対にカロリーメイツとかあったらそれしか食べないタイプだよなぁ……。ウィーダonゼルィーとかあげたら喜ぶかしら。
科学の素晴らしさに目を輝かせてから何年経ったのか、必要なものは創造して渡してみたりとかしてみたけど、以降は自力で製造、開発してみせるってんだから、ガーデンの元悪魔憑きサンたちの地力は尋常じゃない。
「………」
ちらりと視線を動かすと、ゼータがこんな集団お食事風景をどこか眩しそうに眺めている。
金豹族っていう獣人だった彼女の家族や仲間は皆殺しにされた。よくある例に倣い、ゼータ……リリムのことも悪魔憑きだから追い出す~みたいなことをしていれば生き残ることもできたろうに、彼女の一族はゼータを守ることを選び、皆殺しにされたのだ。
こんな大勢の元悪魔憑きの集まりの中、家族のことでも思い出しているんだろうか……いえまあ全員秘密裏に生き返らせましたけどね?
今ではどこぞの辺境領地で静かに暮らしておりますよ。なにせ辺境を領地に持つ侯爵がおりますゆえ。
地下聖堂にも誘ったんだけどね、大地の上で暮らしたいっていうから“戦い方”っていうのを叩き込んで、今ではフリーの反ディアボロス教団の一族として爪を研いでらっしゃるかと。
たぶんいつか、諜報活動の一環で出会ったりするんじゃないかしら。
その時に大層驚いた顔をしてくれれば、僕のドッキリ大作戦は成功したと……そう言えるのです。サプラァーイズ!
まあでも領地が領地な分、教団の目に入る確率も高いから、ちょっといじくってはあるわけですが。王族ぐるみでオリアナが教団の支配下にあるの、なんとかならんかなぁ……。
奴ら、ブチノメしてもブチノメしてもゴッキーが如く増えていくから困ったちゃんだ。
「クゥ様? ぼーっとしちゃって、どうかされたんですか?」
「オウ? っとと、ちょっと考え事をね。ミィは食べてる?」
「もちろんです! 身体の元気は食事が基本! とクゥ様に教わりましたから!」
「そかそか。あ、そうだ思い出した。───皆、聞いてほしい」
はた、と思い出し、お食事中の皆様を前にズチャ……と立ち上がって一息。
そうしてから、シンと静まり返った……ほんとマジでなんの音も鳴らないその場にて、少々言う事聞きすぎじゃありませんか? とシドに視線を流すと、『えー? 僕知らない』とばかりに視線を棒にして口の中の唐揚げの味を楽しむシド。
まあいいや、とにかく一言だ。丁度あそこにも悩んでおられるお子も居るようだし───
「今日の料理はどう食べても摂取できる栄養は一定になるように調整されている。だからどれだけ食おうが太らないからみんな、存分にお食事されませい!!」
───途端、炒飯の前でお代わりをするべきかとうろうろしていたナンバーズらは、我先にと炒飯を自分の皿へとよそってゆく───!!
そうして唐揚げも喰らい、野菜もドレッシングをたっぷりかけて喰らい、時には───
「ハッ……!? クッ……ククククーゲル様っ! そのっ……デザートもその内に入りますか!?」
「ンもォちろんさァ☆」
「「「「「 !? 」」」」」
デザート食い放題。そう聞いて、黙っていられる女性は、異世界においても居そうになかった。
まあ……美味しいもんねぇ、デザート。
でもチョコレートケーキとかショートケーキとか、ミルクレープとかどんだけ食ってもビタミン群やたんぱく質がきっちり摂れるって不思議だよね。そう調整したの俺だけどさ。
「うーん、これは女の子の敵要素」
「味方だととても心強い博光です」
「デザートには魔力も軽く込めてあるでしょ。やること極まってるねぇ」
「食えば食うほど健康に強く慣れる。ヤマザキなビスコにも負けぬ、美味しくて強くなれるを目指すヒロミトゥフーズをよろしくお願いします」
「やりすぎると他の飲食業に目をつけられそうだよねー」
「あー、あるある。その時はその店舗に合った裏技レシピでもお譲りして、ここでしか食べられない……! とか銘打ってもらえばなんとかなるんじゃない?」
「悪い顔してるねぇヒロ。あ、でも異世界なら結構そこらへん、やりようがあるかもだよね。銀行作ってお金の管理~とか。いつも金貨持ってるんじゃ重くて仕方ないだろうし」
「お? 信用創造の話?」
「そうそう」
「銀行なら、この前陰の叡智が~とかいってガンマがいろいろ煮詰めようとしてたけど。え? キミが教えたんじゃないの?」
「え?」
「え?」
「…………」
「………」
「あー……言ったかも。ああ言った言った。でも詳しく覚えてないMHK譲りのにわか知識の話だよ? さすがにそれを広めるのって難しくない?」
「…………あのお子めらに、出来ないと思う?」
「………」
「………」
僕らは黙った。
だって今日まででもシドが適当に言った前世の話をヒントに、様々を確立してきた彼女らだ。どうすればなにを為せるのか、を手繰り寄せて実行するのが上手すぎる彼女らには、“きっとこれは出来まい……!”なんて考えること自体が失礼になりつつある。
だから迂闊に余計なこととか教えられないんだよね。シドや俺が何気な~く話したことを陰の叡智って言って自分の中で盛大に誇張して記憶してから、誇張したそれらを実現させてみせるんだから、僕らもうなにも言えないのよ……。
……!)
なお、このシャドウガーデンではサンタは居るとされていて、毎年クリスマスには拠点に赤い服を着た何者かが現れ、勝手に拠点を移動してはプレゼントを置いていくため、ガーデンの構成員全てが排除しようと毎年挑んではボコボコにされている。
そして、毎年ランダムで誰かの用意した靴下の中に邪神モッコスが入っている。