凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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 はいはいお次は……寄り道北郷です。
 しかも性転換アリです。でもべつに男に惚れたりしない。


このすばっ!

 たとえばとても長い時を生きて、長いというか永いと書きたいくらいの時を生きたのち、気づけば見知らぬ場所に居たとする。

 そんな時、あなたならどうするだろうか、なんて頭に思い浮かべてみる。

 俺? 俺だったら───

 

(なんかもう今さらだ……)

 

 今さらだった。だって何度世界渡ったか覚えてないし。

 長く生きたからって、口調がとってつけた老人みたいなものになったりするわけでもない。や、そもそも美羽みたいにのじゃのじゃ言う老人って俺見たことないよ? そりゃ、渡った世界のどこかでなら見たことあるけどさ。

 というわけで。

 

「初めまして北郷一刀さん。私の名はアクア。日本において、若くして死んだ人を導く女神です」

 

 目の前に女神がおる。なんか縦に長い椅子に座ってる。

 ……しかし、ふむ? 日本において? 若くして死んだ?

 俺、最後は日本で死ねたのか? どこで死んだかさっぱりわからん上に、そもそも死んだのかもわからない。

 

「あなたには二つの選択肢があります。一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。もう一つは、天国的な場所に行って、おじいちゃんみたいな日々を過ごすか」

「生まれ変わりに記憶は引き継げますか?」

「それはダメです。記憶は消えて、まったく違う人間として生まれ変わります」

「……天国的な場所っていうのは?」

「死んだから体のない意思のみの状態になって、ずうっと日向ぼっこをしているような世界です」

「……あの。俺このままでいいんでほっといてもらえないでしょうか」

「そのままがいいのねっ!? 話が早いわっ!」

「………………え?」

 

 わぁい、嫌な予感が走った。馬鹿丁寧だった雰囲気が裸足で駆けてったよ。待ってサザエさん。愉快に走ってる場合じゃないよ?

 

「実はね? 日本とは違った~……ええっといわゆる異世界が、今魔王の進行の所為で大変なことになってるのよ。それをどうにかしようって、日本で亡くなった人をこうして導いては、姿も記憶もそのままで異世界に飛ばしたりしてるんだけど───」

「あ、じゃあそれで」

「え? いいの? ……あなた本当に話が早いじゃない! あ、でも飛ばしてすぐに死なれても困るから、送る人には特典をあげてるのよ。素晴らしい武器でも防具でも、能力でもなんでもいいわ。あげられるものをあげるから、どれかひとつ。言ってみて? あとが閊えてるからほらっ、早く言ってみて!」

 

 すごいなこの女神。女神のくせに自分の都合を優先しまくってるぞ。いや、女神のくせにって考え方がそもそもおかしいんだと思うけど。でもツッコみたくなるよね? こんな女神が居たら、誰だってツッコみたくなるよね?

 

「じゃあ“変換”で。俺が持つ能力とか物とか、そうじゃなくてもともかく物を別の何かに変換する能力」

「変換? 武器じゃなくていいの? 悪いこと言わないからこの聖剣とかにしときなさいよ。すぐ死なれても困るから鎧でもいいわよ?」

「変換で」

「そう? ……それでは北郷一刀さん。あなたをこれから、異世界へと送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として。魔王を倒した暁には、神々からの贈り物を授けましょう」

「……贈り物?」

「そうです。世界を救った偉業に見合った贈り物を。厳密に言うと、たとえどんな願いでも、たった一つだけ必ず叶える、というものです」

「エッ!?」

 

 どんな願いでも?

 ……たとえ、どんな願いでも?

 たとえば元の世界……みんなが待っている世界に帰りたい、とかはアリなのでは───!? ………………そうか、俺の到達点は、ここか───!

 そんなことを考えている内に俺の体は光の柱に飲み込まれてゆき───

 

 

  ───このすばっ!

 

 

 ……気づけば、見たこともない村? 町? に居た。

 目の前を馬車が通り過ぎていく音で、ハッと正気に戻る。

 

「っ……」

 

 おのぼりさんのように辺りを見渡しまくってしまう。しょうがない。まさか本当に、人を転生させる女神様、なんて存在が居たのだから。

 皆様、俺はひとつ賢くなりました。神、居ました。

 

「さて、それはそれとして」

 

 こういう世界に来たら、なにをすればいいんだろう。

 魔王討伐は最終目標として、まず自分になにが出来るかを考えるべきか。

 

「にしたってまずは衣食住か……ん?」

 

 ハテ? ……ああまあいいか、突然やってきた異世界だもんな、そういうこともあるある。

 んんっ、と喉を鳴らしつつ、まずは周囲を見渡す。で、自分の格好が違和感満点であることを知る。

 この異世界にて、フランチェスカの制服は目立ち過ぎだ。けれどもこれももう、長い年月を経て氣脈が完成している二つとない逸品なわけで。

 って木刀! ……あるな。なんかもう握ってるのが自然になりすぎてて気づかなかった。やばいな俺。

 

「あ、そうだ。変換」

 

 はた、と特典を思い出して、意識してみる。

 氣脈をそのままに、服の構造を変えて───窮屈になっていたそれが形を変えると、この世界の雰囲気にあった衣服へと変貌を遂げた。

 やっぱり窮屈だったので調整を加えると、原因になっているものを見ないフリして行動開始。

 軽く歩きながらおのぼりさんから卒業するべく、周囲の人をじ~っくりと観察するのだ。たとえば───自己紹介の練習とか。この世界ではどういったものが必要なのか。

 たまたま言った“こんにちは”が、ここでは“野郎ぶっ殺してやる!”って意味だったら死ねます。

 もうね、俺、卒業したいの。あのさ、毎度毎度世界を渡るたびにさ? なにかに巻き込まれて頭抱えて、口からついつい出る言葉といえばあれですよ。わかります? “タスケテ……”って。

 もうそんな俺からは卒業するんだっ……そしてこの世界で魔王を倒して、神の力で元の世界へ返してもらう!

 さあ行こう! この世界での常識を覚え、どこに出ても恥ずかしくない自分になるんだ!

 というわけで、とにもかくにも歩くことにした。……直後、目の前に緑ジャージを着た男性と、先ほどまで溌剌(はつらつ)と異世界のことを語っていた女神様が、ビジュンッ……という音とともに現れたわけですが。……その。絶望顔で。

 

「……異世界だ。……おいおい、本気で異世界だ」

 

 そして、視線の先の男性は表情を綻ばせながらそんなことを言いだしたのだった。

 ああはい、同じ日本人さんであったか。そして隣の女神は何事ですか?

 声を掛けるのも躊躇が先立つほどの絶望顔だったために、ひとまずここにただ立っている通行人を装って様子を見た。

 

「………」

 

 様子見……のはずだったんだけど。なんだろう、女神が不憫すぎて泣けてくる。聞こえた声から予測を立てるに、どうやら転生特典を“女神”にされたらしく、そこに居る少年の“特典”、つまり“モノ”として一緒に飛ばされてきた、と。

 

  どうしよう

 

   女神泣いてる

 

    メチャ泣いてる

 

 いや川柳風に状況を組み立ててる場合じゃなくて。

 ただまあ、少年の言うことにゃ、こういう時はまず酒場に行くものらしい。ロールプレイングゲームでは……あ、なるほど、ド〇クエのルイーダさん。

 少年が通りすがりのおばさんから情報を得ている横を通り過ぎて、一足先に酒場を目指した。

 ……女神に声をかけないのかって? いや、だってさ……なんだろう、関わったら様々な不幸が降りかかるような、どこぞで遭遇してしまった地雷系生命体の香りがプンプンする。女性に限らず、そういった人は様々な世界にも居たので、もう関わり合いたくないです。

 そんなわけなので気配を殺して、ゴシャーアーと急ぎ足で酒場へGOだった……のだが。

 走っていった先にて、緑ジャージくんを発見した時に走っていった馬車が止まっていて、中から降りてきた少女を確認。

 黒い服、黒いマント、トンガリ帽子……どっからどう見ても魔法使いですって感じの魔女っぽい出で立ちの、背の低いおなごと、隣にはフラフラした少女が一人。

 彼女はこの町の空を胸を張るように見上げ、けだるげに、けれど突如として腕を横に振るっては名乗りを上げた。

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の天才にして、爆裂魔法を操る者!」

「───」

 

 おい今なんつった?

 え? あれがこの世界の普通なの? レベル高いんですけど。

 散々生きてきて、いまさら中学生の心を取り戻せとか物凄ーくレベル高い。

 いやしかし? 今日まで様々な世界に順応してきた北郷です。やれと言われればやりましょう。だって面倒ごとに巻き込まれたくないし。

 お前は自己紹介すら出来ないのか、なんて言われた日には、この世界での立ち位置も決められてしまいそうだ。

 ……な、なるほどなるほど、よし、うん。

 まず自分の名前……愛称かな? めぐみん、とか言ってたもんな、きっと本名は別にあるんだ。

 ていうか魔族とか言ってなかった? こーまぞく……高位の魔族?

 まあいい。倣う相手が魔族だろーがなんだろーが、学べることは学ぶ。これが俺の、様々な世界で長々と生きて得た知恵にございます。

 ならば俺はどうするべきか。……当然、彼女の前で堂々たる名乗りを上げるべきである。

 ていうかあの娘、なんか物凄くフラフラしてるけど大丈夫か? 一緒に降りて来た娘も、なんか目をこすってフラフラしてるし。

 

「…………」

 

 しかし、それが自己紹介をしない理由にはならないのである。

 さあいざ、なんだかムフーンとドヤ顔をしている少女の前に立って。

 

「我が名はかずピー! 闇と死線に生きる者の末裔にして、数多なる達人技を操る者!!」

 

 闇=忍者。

 死線=死ぬことと見つけたり。

 そんな感じで、とりあえず名乗ってみました。

 するとどうでしょう。名乗られた少女は……あ、なんか眼帯してる。え? もしかして……これって……? い、いやいやいや、まさかこんな、異世界でヤマイとか、ないよ絶対ない! ……ないよね?

 

「ぉおお……! 里の外ではこの挨拶は好まれていない、などと言われたことがありましたが、まさか! やはりこの名乗りは愛されるべき、いいえ当然と言うべきものだったのですね!? 感謝しますよ、ええっと、かずぴい! その素敵な名とともに、あなたという存在は私の心の奥深くに刻み込まれることでしょう!」

 

 ぁうんなんか帰りたくなってきた。帰りたい。あと死にたい。

 里って何処? 里って誰?

 そもそも“好まれていない”? はい、たぶんその通りだと思います。

 前略華琳様。早速やっちまったんですが、僕はどうしたらいいんでしょうか。

 ケレドモ? 僕ももうとっくにこんな事態にも慣れ親しんだエンタートゥェィヌァーォゥ。これしきの動揺を表情に出す? ノン。それは紳士ではありません。思い出すのです北郷一刀。蓮華の前でやった、執事としての自分を。

 そして、様々な世界で会ってきた紳士たる執事の皆様を。

 

「アイサツは大事。我が故郷に伝わる古事記にも書いてあるものなんです。その人その人、故郷にある風習はとても、とっても大事だと。こちらの挨拶はこう。ドーモ、はじめましてメグミン=サン。かずぴいです」

 

 両手を合わせ、相手を見つめながらオジギをする。口調も出来るだけ丁寧に。

 するとメグミン=サンはぱああと表情を明るくし、両手を合わせてオジギを返してくれるではないか。なんと奥ゆかしい。

 

「ドーモ、はじめましてかずぴい=さん。めぐみんです」

「うん、実際素晴らしいアイサツだ素晴らしい。アイサツは、されたならば返すのが絶対の礼儀。返さぬ者はスゴク・シツレイな者として、我が故郷では“攻撃をされても仕方がない”とされているのです」

 

 本当はもっといろいろあるけど、ここで全部語っても仕方がないし、実は嘘ですとか言えないもんなぁ。ノリで突っ走ると後悔するいい例にございます、気を付けましょう。

 

「なるほど、確かにそれは失礼ですね。覚えておきます。……あ、ところでなんですけど。先ほど宿を紹介されたんですけど、この街の宿がどこにあるかを訊かせてもらえないでしょうか。何分、今……はい、走っていってしまいましたが、あの馬車でこの街に来たばかりなのです」

「………」

 

 おお、なんということ! 謎の少女はこの街? 町? に来たばかりであった!

 ここで嘘はいけません。なので事情を話し、一緒に探すことにした。

 

 

  ───このすばぁっ!

 

 

 あの後少女二人を発見した宿まで届けた。なんでも二人はつい先ほどまで大変な戦いを経験していたらしく、へとへともへとへと。けれど着いた矢先に俺と出会い、よいアイサツを見せてもらったことから、明日から早速本気を出すとかで張り切ってふらふらと宿に消えた。どう本気出すのかは知らんけど、なにかが変わった気がした。

 俺は俺で……酒場を探し、発見した。発見して……入って。案内板などを見て、冒険者ギルドを確認。

 冒険者になるには金が必要です。金、ありません。金を稼ぐにはお仕事。やってきて初日でいきなり仕事。なるほど、世知辛い。

 とりあえず千エリスを稼げばいいらしいので、さあいざ───いや待て?

 

「………」

 

 まず、人目につかないところに移動します。

 手に氣を集中させ、体外に出します。

 その際、見下ろす視界にやっぱりなにやら見えた気がしましたが気にしませんたら気にしません。

 貰った特典、変換を行使します。

 はい、エリスになりましたっ♪

 

「───やべぇ」

 

 詐欺で捕まるわこんな能力。でもたまにはちょっぴりはっちゃけたいお年頃。

 今までが真面目すぎたんだ。きっとそう。こんな異世界、女神様がモノ扱いされちゃうような異世界だもの、たまには馬鹿になってみませんか?

 はい、そんなわけなんで三千エリスである。三千エリスであるんだけど……氣、かなり使った……! 変換レート厳しすぎ……! やっぱり楽して儲けようとか無理っぽく設定されてるみたい……! そりゃそうだ……!

 でも今はそれでいい。多少無理してでも金を出しておいて、食事代……いや、宿代にするんだ……!

 

「「冒険者登録をしたいんですが。……え?」」

 

 隣から声がした。見れば、先程の緑ジャージくん。

 なにやら「おおぅ……」とか頬を染めておりますが気にしませんたら気にしません。

 

「あ、どうぞお先に」

 

 少年に先を譲る。どうすればいいかもわからなかった状況で、キミがするべき行動を教えてくれた。些細なことだけど、これは感謝でございます。

 

「……どうも」

 

 何故だか睫毛をメッチャ伸ばしてキメ顔で返す少年を前に、いよいよ現実から目を背けられなくなってきた。

 どうしよう、彼の後ろに居た女神が俺を見てくるめっちゃ見てくる。

 

「ねぇあなた。どこかで会ったことない? 私、あなたみたいな人をつい最近どっかで見た気がするのよ。……でもこの世界にある服着てるし……?」

 

 僕は知りません。転生者のモノとして選ばれる女神なんて知りません。

 なんて思っていると、受付さんの前でほがらかに会話を進めていた緑少年が、手数料云々でピシリと停止した。

 ああはい、そりゃお金ないよね、俺もだったもの。

 

「………」

 

 登録するなら、すぐに稼げるか。よし。

 

「あ、じゃあこれで。ここに居る三人、全員分で」

「え? い、いいのか?」

 

 緑ジャージ少年が言ってくる。

 その戸惑いの表情に笑みで返し、受付さんの前に三千エリスを置いた。

 その金がいくらくらいか、が分かるのも御遣いの力ならではといっていいのかどうか。ともかくこれで足りる筈。……足りるよね?

 

「はい確かに。ではそちらの方から順に、そちらの水晶に手を翳してください」

「……ありがとなっ! 恩に着るよぉっ!」

 

 緑ジャージ少年は嬉しさを隠しもせず、けれどハッとすると流し目で俺を見た。が、水晶を見る目が未来への期待に満ち溢れすぎていて、そんな流し目も長くは続かなかった。

 男に流し目なんて……とか思うじゃない? ……あのね? 変換をもらった影響なのかどうかは知らないんだけどね? ……なんでかさ、視線を下に向けると、大きな膨らみが二つあるんだよね。

 手を見下ろして氣を込めた時とか、見えちゃいけないものを見た気がしたけど、これもうアレだよね。

 

(女になってる───! もう早速やだこの世界───!!)

 

 今まで様々な世界を渡ってきた。

 子供の頃から成長したこともあれば、そのままの状態で変わらず、なんてことも何度もある。

 でも……性転換は初めてだよちくしょう。

 そうして軽く絶望を味わっている横で、サトウカズマというらしい緑ジャージ少年が、どれも普通のステータスだと受付嬢に公表されていた。

 ……え? それ言っちゃうの? カズマくん、滅茶苦茶悲しい顔しちゃってるけど? 冒険者になりにきたのに商売人をオススメするとか酷すぎやしませんか?

 

「え、ええとその……冒険者でお願いします」

 

 それでも冒険を望む彼の男意気に敬礼。

 商売人になって金を稼いで、冒険者を雇って魔王を仕留めるって方法もあるだろうに、彼はそれをしなかった。

 勇気ある行動だ。素晴らしい。

 次いで女神様が水晶に触れたわけだけど───受付嬢が様々が刻まれたカードを見て、再び個人情報を暴露。

 様々な職になれますよと騒ぐ中、俺は静かにソッと水晶に触れるのでした。

 さ、俺はどんな職になるのかな。魔王を倒さなきゃいけないから、まあどんな職だろうと根性で頑張るのみなわけだけど。

 どうせなら……ああなるほど、先程カズマくんがどこかソワソワした感じで水晶に触れていた理由はこれか。どうせなら、勇者とかになってみたい、とか。

 でも勇者ってのは職でなるもんじゃない。様々な行動で、周囲に“そう”と認められてなるものさ。

 だからこれから俺が選ぶ職がなんだろうと、“あれ”や“それ”にしかなれないのだとしても。俺はその職を誇ろう。あ、でも種馬だけは勘弁。

 

  水晶からこぼれた光がカードに文字を刻んだところで、変換の準備を始める。

 

 今着ているこの服を、選べる職に合わせたイメージ通りに変換しようと思うのだ。

 剣士なら剣士然としたもの、冒険者ならそれっぽいのに。

 さあ、俺は何になれる? なににしかなれない? 俺はその選べる権利を存分に行使して、その在り方に沿った衣服で旅に出ますよ? あ、でも名前は変えておきましょう。女の格好でホンゴウカズトはおかしいこれおかしい。

 なので……うん。めぐみんに倣い、ここは“かずぴい”で。

 

「あっ、終わりましたか?」

 

 目を閉じつつ、ソッと見ようとしていた俺の手からカードがひょいと抜き取られた。

 ややっ!? 馬鹿な! この北郷さんに気づかれずに近づき、我が手からカードを抜き取るなど! ……ぁはい、悪意がこれっぽっちもないからですね? ならせめて暴露はやめてほしいんだけど。

 あ、この人聞いてない。たぶんきっと周囲が賑やかに招き入れてくれるようにっていう配慮なんだろうけど、カズマさんのように冒険者一択の場合は同情しか買えないのでは!? それはそれで周囲も世話焼いてくれそうだけどさぁ!

 ……って、まあ。なれる職業暴露されたってどうってことないか。

 この体が女になっていようが、どうせよく聞くような職にしかなれないんだ。

 さ、それを聞いて、あっという間にこの服を変換してくれましょう!

 さあ! さあはよ! 俺に合う職業はなんですか!?

 

「……え? 職業がもう決まってる?」

 

 え? 決まってる? ……嫌な予感しかしない!

 これ絶対アレだろ! 魏の、のあとに続くあれだろ!

 そうじゃなかったらなんだと───……ぁ、鬼殺隊士とか? ……俺別に鬼殺隊入ってなかったよ。

 よよよよしわかった! 北郷わかった! 彼女が告げる職業の名前が“た”から始まるアレじゃなかったなら、それはもう凄まじい速度でその名に相応しい、俺がイメージする職業の服に変換しようじゃないか!

 もしかしたら農民とかそういった方向の能力者かもしれませんし!? ななななのでさあ来い出来れば来ないで! あ、でも女性で種馬はないだろうからもっと別ななにか!? ……変換の影響で女になってるなら多分男に戻れるよ俺! い、いやだ! 世界に認められた種馬とか嫌だ! 種馬以外! 種馬以外になれるなら、ほぼなんでもいいんでお願いします神様! ……あ、女神様あそこで騒いでらっしゃる。どうしてかなー、どれだけ祈っても拝んでも恩恵なさそうとか思えちゃうの。

 

「これは……初めて見る職業です! というか、こんな職業なんて冒険者の中で聞いたことが───!」

 

 言われた途端にヒィとか喉の奥で鳴りそうになった。だっ……だから何!? どんな職業!? もったいつけなくていいから早く! もう心の準備と変換の準備とか出来てるから早く! いざですよ受付嬢さん! ……あと胸、はだけ過ぎじゃございませんか?

 

「なになに? どんな職業よ。もったいぶらずに言ってごらんなさい? まあ女神たる私より素晴らしい職業なんて、そうそう───」

「聖女です!」

「───え?」

「聖女です!」

 

 ──────セージョ? せい……性女!? ……あ。あぁはいはい聖女ね? よく聞く職業じゃないか。なぁんだ良かった聖女かー。ねぇ知ってる? 聖女って職業ってね? 男版は聖男~とか言ってる人居るけど、元は聖人の女性バージョンが聖女なんだよ?(豆しば風)

 ああよかった、よく聞く職業でよかった。聖女なら他の世界で聞いたことあるよ。

 修道服の上位版みたいな服を着て、神聖オーラを出してて口調は丁寧。やさしくて、笑顔が素敵で、なんなら俺が見た聖女は天使の翼とか生やすことが出来て───なんてイメージを弾かせた。

 

「え? 待ってください今なんて?」

 

 言った時には既に変換を実行済み。なんか口調が丁寧だった。あと服もとっくに変わっていた。

 イメージした通り、白を基準とした手触りのいい、ウェディングドレスと牧師の服と修道服が融合したようなソレと、蒼と金の二色ある綺麗なベルト。

 頭には額当てのようなものが存在する、さらりとした手触りの布? が横に広がったベール。

 そして…………そして。ヴァサァ、と羽根を撒き散らしては広がる、真っ白な純白の翼。真っ白と純白って意味被ってない?

 わあすごい、肌の露出とかとことん無い。

 

「おぉあっ……!? なんだあの人!」

「えらい美人が居たもんだ……! えっ? 翼、生えてる……!?」

 

 首から下がったポンチョのような白の布地は肩から胸の先辺りまでを覆い、鎖骨から下、胸の盛り上がりは何故か“ここからが胸ですよ”とばかりに赤と青のベルトがポンチョっぽいそれの、脇あたりと胸の中心の布を潜るように走り、そのポンチョっぽい白い布も胸の先まである所為で胸の先で軽くカーテンを作っていやがりまして。

 覆う系統の大き目の衣服は、着ている者を太って見せがちだけど、そこにも配慮したのかポンチョ型布地の下、腰回りはさらりとした感触の割に案外厚手で、しかしコルセットのような腹当てが仕込まれていて、その上から腰を覆うようにさらに二重のスカート型の装飾がなされていた。

 氣が通っているためか、重力を軽く無視して横に広がっている。なんで?

 気にはなったので体を捻って見てみても、お尻のラインが出てしまうのもその白のスカートがしっかりガードしているっぽい。

 邪なる視線をしっかりガード出来るのはいいことだ。

 男に見られて喜ぶ余裕とか、さすがにないです。

 と、いうかだ。もしかして、ヤバくないか?

 

「天使様……」

「天使様だ……」

「いや、さすがに作りもんじゃね? てか魔物なんじゃ……」

「いや作りもんじゃねーだろ……! 見ろよあれ、わさわさ動いてるだろーが……!」

「てゆーか……」

「なぁ……?」

「…………サキュバスにお世話になりまくってるこの街で、今さら魔物の女性がどうとか……今さらじゃね?」

「「「「異議なし」」」」

 

 素直に変換やっちゃったけど、さすがに冒険者ギルドでこの格好は、それこそモンスター扱いで全員にボコられる、なんてことになるんじゃ……!?

 

「新人冒険者だってなぁ! よろしくなー姉ちゃん!」

「ハッ! ようこそ地獄の入口へ! 歓迎するぜ、命知らずどもがぁ!」

 

 あ、心配せんでもこの街の人たちとっても逞しいみたいです。

 こんな警戒心で大丈夫か? 大丈夫だ、問題ない。そんな風に即答できそうなくらいだ。

 わあわあと騒いで歓迎してくれる皆様には、もうちょい警戒心を……と思わないでもないけれど。

 いやそもそもこんな変換をあっさりしちゃった俺がアレなわけで。

 

「それでは。ようこそ冒険者ギルドへ。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています」

 

 ワッと一層に騒ぎ、歓迎してくれる周囲。

 そんな中、緑ジャージの……カズマ少年、……カズマさんでいいか。だけが、微妙な顔で女神様を見ていた。

 

「はぁ……普通こういうのは転生した俺に起こるイベントだろうに……。ま、いいか。これで、ここから、俺の冒険者生活が始まるんだ───!」

 

 カズマさんは何処か遠くを見るように、ギルドの天井の隅を眺めていた。……遠くを見る人って、ハタから見るとあんな感じだよなぁ……俺も気を付けよう。

 そんな俺達は軽く苦笑してから、適当な席に座って会話を始めた。

 

「というわけでえっと、まずは自己紹介からで。俺は佐藤和真。で、こっちの水色のがアクア」

「あ、自己紹介もしていませんでしたね。私はかずぴいといいます」

「へえかずぴい───今なんて?

「かずぴいです」

「………」

「………」

「あっ、あだ名かぁっ! いや、のっけからそんなフレンドリィに接してくれるのは嬉しいけど、出来れば本名を───」

「かずぴいです」

 

 冒険者カードを見せる。

 ……見て、彼は息を飲んだ。

 

「私は陰の者が住まう、忍と侍の末裔の里で産まれました。といっても里はもう無いのですが。名はその里の風習で決まるもので、“カズハ”か“かずぴい”で揉めたらしいのですが───」

「なんでそこで揉められるんだよ! 迷う必要ないだろ! ていうか忍!? 侍!? なんでそれで聖女!? どうなってんだよこの世界! ていうかどんな時代から今まで何人送ってきたんだよお前!」

「し、知らないわよ私に訊かれたって。送った人のことなんてずっと見てるわけじゃないんだから」

「? 送るというのはよくわかりませんが、私達の歴史はそう長いものではありませんよ?」

「え……そうなのか?」

 

 カズマさんがきょとんとする。あまり難しい設定にしてもボロが出るだろうし、簡単でいてそれなりな話にしてみようか。

 

「詳しいことまではわかりませんが、サムライ、ニンジャと呼ばれるものに憧れた先祖が、そういったものを作り出せる存在に手伝ってもらった結果、産まれたのが私の先祖らしいです。氣、というものを主体に、接近戦を得意とする種族。それが我々です」

「接近戦かぁ……───待て。作り出せる存在っつったか今。……おいアクアちょっとこっちこい」

「え? なになにええっとカズマ。内緒の話? お金もうけの話とか?」

 

 カズマさんがアクアを連れて、席を離れる。

 その先で、ゴニョゴーニョと話し始めるわけだが───

 

「そうじゃねーよ……! 侍とか忍者を作り出すような能力者とか、明らかにお前が送り出した奴じゃねーか……! なにやってんだお前! 何やってんだよお前!」

「えぇ……!? 知らないわよそんなの……! 私が送り出した人にそんな能力者なんて居た記憶がないわ……! 精々でそのー……創造とか、そういった方向の能力よ……!?」

「だからその創造で、人体改造装置とか作りだしたんじゃねーのかよ!」

「…………あ」

「……しかも魔王討伐どころか既にかずぴい以外滅亡してるっぽい口ぶりじゃねーか……どうすんだよおい」

「だっ、大丈夫よ! なんてったってあなたにはこの女神アクア様がついているのよ? 魔王なんてちょちょいのちょいで片付くわよ!」

「ていうかそもそも本気で魔王倒したいなら、特典ひとつなんてケチらないで持てるだけ持たせればよかったんだ。なんでケチるんだよそこで」

「しょーがないじゃない、そういう決まりだったんだから。ていうか元引き篭もりの転生者なんかに特典いっぱいあげたら、どうにかして楽して堕落しようって考えるに決まってるじゃない。引き篭もりじゃなかったとしても、誰かがそうなら他もそうなるに決まってるでしょ? 真面目に生きたからこそ堕落したい、なんて思う人はそりゃあ居ると思うわ。あなたは、ええと、カズマはそうならない自信とかあるの?」

「スゥ───……ふぅ~……。よしその話はいったん置いておこう。そろそろ戻らないとかずぴいも不審がるだろうし」

 

 カズマさんがそそくさと戻ってくる。後ろでアクアがなにやら騒いでるけど、まあともかく戻ってきた。

 

「ええっと。それでなんだけどかずぴい。知っての通りこいつがアークプリーストでも俺は最弱職で、もしパーティーを組んでも足を引っ張るかもしれない。それでももしよかったら、一緒のパーティーにならないか?」

「はい、構いませんよ。最弱職がどうとかは冒険には関係ありません。人には人の、出来ることがきっとあります。見つからない場合は本人でさえ“出来ること”に気づいていない場合が大体ですから。ここで会ったのもなにかの縁です。それに───」

「それに?」

 

 ふふっと笑い、おどけるように言う。

 

「二千エリス。まだ返してもらってませんからね」

「ぁ……ははっ、そうだなっ。そりゃ、頑張って稼がないとっ!」

「じゃあ決まりね! 女神たるこの私を差し置いて、聖女なんて職業なのは引っかかるところはあるけど、まあ聖女っていうことは誰よりも神を敬う存在だろうし、許してあげるわよっ!」

「そうですね、アクア様」

「へ? ……いや、かずぴい? お前こいつが女神だって信じるのか?」

「はい。だって、存在としての在り方が人のそれとは明らかに違います。この方は女神ですよ、間違いなく」

「……!!」

 

 言った途端、女神がドヤ顔した。めっちゃした。何故かカズマの方を見ながら。

 

「やめんか鬱陶しい! ……かずぴい、悪いことは言わない。女神と見るのは勝手だけど、信仰するかはよーく考えるべきだ」

「? ええ。それはもちろんです。神だろうと女神だろうと、無条件で敬うかは別です。人だってそうでしょう?」

「あ、そっか、それもそうだ、おお、そりゃそうだ」

「なんでよー!!」

 

 ……ていうかこの女神様、よくお泣きなさる。

 女神たる自分に、聖女っていう直属の部下が出来たと思ったら偽物だった、みたいな心境だったとしても、泣きすぎである。

 

「女神様と一緒に居るカズマさんにはいろいろと事情があるんでしょう。そういうことも程よく気にしない間柄で居てくれると嬉しいです」

 

 主に実は俺が男であるとか、実は別世界で種馬とか呼ばれてましたとか。だって女神様なら他人の人生経歴とか覗けそうで怖いし! なのでそこらへんはきっちり声に出して届けましょう。

 

「なるほどな。俺達はここで出会ってここで仲間になった俺達だ。過去なんて気にしないし、なんならここからが俺達のパーティーの始まりってやつなんだからなっ」

 

 そして、そんな冒険者パーティーっていう砕けた雰囲気に、少年心とでもいうのか、憧れでも抱いていたのか、カズマさんはあっさり頷いてくれた。感謝。

 そんな感謝を届けるためにも、俺もそのー……田舎、というか、謎の里から出て来た存在、ということで、一応の注意をしておこう。

 

「はい。けれどひとつだけ。わたしも田舎のような場所から出て来たので戸惑いましたけど、持っていた常識通りにはいかないことには、上手く順応していってください。否定してばかりだと上手くいきませんから」

「常識かー……あ、ちなみにかずぴいはどんなことで戸惑ったんだ?」

 

 ふむ。どんな、と訊かれると。……ちょっと大げさにして冗談です、とか言った方がいいだろうか。その方が受け取りやすいかもだし。

 

「そうですね。魚……秋刀魚が畑で獲れたり」

「へえサンマ───おいちょっと待てなんつった?」

「サンマです。鱗がついて、ぴちぴちしているやつです」

「おいおいかずぴい? どんな場所にあるどんな里に住んでたのか知らないけど、さすがにそれは───」

「? なに言ってるのよカズマ、この世界のサンマは畑で獲れるわよ?」

 

 ───……エッ!?

 

「えっ……だ、だってサンマだぞ!? 水中泳ぐサンマがなんで畑で!」

「あっちの常識なんて通じないわよ。魔物が居て、ステータス~なんてものが目で見えたり魔法が使えたりする時点で、なんで全部一緒だ~なんて思えるのよ。なんだったらロブスターだって川に居るわよ? 異世界異世界言ってるくせに、まだ自分が居た世界こそが常識の定義だ~とか思ってるなんてカズマさんってばプークスクス!」

「舐めんなぁっ! いくら俺でもそこまで意固地になってぶつくさ言うつもりはねぇよ! けどいくらなんでも離れすぎだろ!」

 

 少し思い当たってメニューを開いてみれば、サンマの塩焼き定食があった。……これを、畑から獲ってくるというのか。冗談ですとか言える空気じゃなくなっちゃったじゃないか……!

 

「ていうかかずぴいも。田舎暮らしだろうと魚くらい見なかったのー? 田舎~なんて、住んでたら余計に見る機会もありそうじゃない」

「私が居た里の傍には魔物側の魚類しか居なかったので。畑でサンマを見る機会は……ええっと、普通にありませんでした」

「あー、そうなの、なるほどねー、そりゃ驚くわよね。あ、ねぇあなた、バナナって知ってる? 知らなかったらよく聞きなさい? バナナは川で採れるのよ」

「おい待て。さすがにそれはないだろ。川でどうやってバナナが採れるってんだよ」

「川で……ですか? バナナ自体は知ってますけど、どう採るかは知らなかったので、初耳です」

「……おい、マジなのか」

「こんなの常識よ常識。ここで生きてくなら、頭ん中柔らかくしとかないと苦労するんだから。ていうかちょっとは感謝くらいしなさいよ。赤っ恥掻く前に教えてあげたんだから。ほら、ちゃんと感謝して。正面真っ直ぐ感謝して」

「…………あ、あー……かずぴい? 俺もさー、ちょおっとばっかり田舎な場所から来たっていうか。だから結構当たり前なことで驚くかもだけど、ごめんな?」

「いえ、それはわたしもですから」

「あとアクア。アークプリーストなのに宴会芸スキルを真っ先に極めたお前に常識云々語られたくねーわ」

「あんですってぇ!?」

 

 危なかった……! ちょっとは勉強しておいたほうがいいかも、この世界のこと……! と、二人がギャースカ騒いでいる内に、少しだけ自分の中の意識改革に努めた。なんだったらこう……この世界の、こう……ええっと? 俺の誕生を軽ぅく捏造出来そうな人の歴史に軽ぅく干渉するような気持ちで、変換を実行してみた。例えるならそう、誰かの日記とかに俺が思い浮かべる侍と忍者の里、的なもののことを記しておく~とか、そんなとこ。

 …………途端、どうしたことだろう。俺の頭の中で、“里滅んだやっべぇええ! 滅んじゃったよ! やっべぇえぇぇえ!!”という声が響いた。……あれ? 俺、ちょっとマズいことしちゃったかも……?

 

「あ、ところでかずぴい。俺達こうして冒険者になったわけだけど……聖女、って……攻撃方面はどうなんだ? イメージだとサポートとか得意そうだけど」

「あ、はい。近接、遠距離、なんでも任せてください。伊達に忍と侍の極意を修めているわけではありませんよ」

「…………ちなみに。忍術とかって」

「使えますよ?」

「さ、侍だと技とか───」

「使えます」

「氣、とか言ってたけど、こう、突き出した両手から光を放つとか───」

「出来ます」

「是非仲間になってください」

「はい、それは構いませんが───あの。カズマさん、でしたよね? カズマさんはどういった武器をお使いに?」

「え? 武器?」

「はい、武器です」

「………」

「?」

 

 カズマさん、自分のジャージを見下ろすの巻。

 隣の女神はメニューを見てソワソワしてる。金ならないぞ。

 

「アクア」

「なに? 私今、そろそろ来るであろう空腹をどうするかを考えてるんだから邪魔しないで」

「お前ここ来る前にポテチ食ってただろうが人を笑いながら。……じゃなくて、武器とか持ってないのか? ここに来る前は聖剣だの伝説武器だのいっぱい用意できそうだっただろ」

「そんなのないわよ。あるわけないじゃない。あれはあそこじゃなきゃ用意できないんだから」

「(……この女神使(つっか)えねぇ)」

 

 カズマの心が漏れ出て聞こえそうなほどの、悲しみと寂しさと失望が詰まった分かりやすい表情だった。

 

「あ、あー……悪い、かずぴい。俺もアクアも、装備を整える金すらないみたいで……」

「大丈夫よカズマ。この娘、登録料さえPONと出してくれる娘よ? 装備品の費用だってPONとこの子が出してくれるわよっ」

「あはは、それはちょっと無理ですよ。今わたし、無一文ですから」

「全財産をこんな俺達のために使わせてしまってすいませんっしたぁあああああっ!!」

 

 テーブルにどごーんと頭をぶつけて謝る同郷がいらっしゃった。

 

「なんかもうごめんなさい! ほんともうごめんなさい! 先行投資にしたってパーティー組んでも最初っから役にも立たないとかやだもう恥ずかしい!!」

「気にしないでください。わたしが、ほうって、おけなかったんです」

「……ぐしゅっ……! やだ、なにこの人、天使……!? 天使なの……!? ……、…………」

「……? なによカズマ、こっち見て悲しい顔して」

「…………おい。ちょっとは見習えよ、自称なんとか。今俺この人が聖女であることになんの疑惑も抱かず頷けるのに、なんでお前、女神やれてんの? なに? 女神って実は天使より簡単になれるもんなの? お前でもなれるくらいだからもしや相当……」

「わああああああああっ!! カズマが! カズマが言っちゃいけないこと言ったぁああああああっ!!」

「うるさい鬱陶しいしがみつくな揺するな揺らすな泣きつくな!!」

「わああああああああっ!!」

「とーにーかーく!! 当分は資金繰りのためにバイトみたいなのやらなきゃ今日の宿すら怪しいんだ! 衣食住すら安定しないで冒険者なんか出来るかー!!」

 

 うん、そりゃそうだ。だから俺は俺でさっさと依頼を受けて、金を稼がないといけない。

 

「あ、そういえば……かずぴいは武器はどんなの使うんだ?」

「わたしですか? これです」

 

 言って、ひょいと腰に備えていた木刀を持ち上げてみせる。

 カズマもアクアも、ぴたりと動きを止めたのちに「いやいやいや」と手を横に振った。

 

「木刀、っていうか刀ってものがあること自体驚きだけど、木刀なんかで冒険は無理なんじゃないか? かずぴいさえよければ、俺達と一緒にバイトを───」

「いえ、これは神剣ミストルテインです。ちょっとした伝説の武器だったりしますよ」

「いやいやいやっ、ど~見てもただの黒塗りの木刀じゃないか!」

「……違うわカズマ。あれ、本当にただの木刀じゃないわ。ていうかかずぴいが身に付けてる服も木刀も、ものすんごい量の生命力で編まれたもの、みたいなのよ」

「マジか。どうなってんだよこの世界の武器。ていうかあれ、お前が誰かにあげた特典、ってオチはないのか?」

「あんなの初めて見るわよ。まるでとんでもなく長い時間をかけて、ただの木刀を伝説の武器に昇華させたみたいな歴史を感じるわ……!」

 

 そりゃ千年以上も相棒やってる木刀様ですから。

 

「かずぴい、その木刀ってただ相手を殴るだけか?」

「いえ、氣を込めると光の剣になったりします」

 

 言って、気を込めるとゴシャーと輝く黒檀木刀。それを見ては、「うおおお!? すげー!!」と大興奮のカズマさん。

 そして「もしかしてこれって、光ってる内は殴るんじゃなくて切れるとか!?」と訊いてくるので、正直に「斬れますよ」と答える。

 ええ、難癖つけて人のことボコりに来た左慈とかいう存在を斬ることも出来ました。

 

「見た目、ただの木刀なのに……」

「持ってみますか?」

「いいのかっ!? 是非頼むよっ!」

 

 伝説の武器、という言葉を受け取ったからか、ソワソワした様相で木刀を受け取るカズマさん。

 ……だったのだが、ずしりと重いそれに驚くや、「これが伝説の重み……!」と興奮してらっしゃった。

 

「これって俺でも光を出せたりするのか?」

「素質があれば、おそらくは。けれど……たぶんですが、わたしと同じ種族(氣で全身を動かすような野郎ども)の方でないと難しいと思います」

「あー、やっぱりかー。いいよなぁ専用装備って。憧れるよー」

 

 言いつつも、興奮冷めやらぬ様相のままに木刀を返してくれて───女神様がそれを名残り惜しそうに見ていた。……もしや奪って売ろうとでもしてたんだろうか。

 

「では、一度ここで解散ですね。今日の宿代くらいは稼ぐつもりでいますから、準備が出来ましたらこの街の宿に来てください」

「そうだな。その時は改めて頼むよ」

「はい」

「ていうか。ねぇカズマ? バイトっていったいなにをするつもりなの? 嫌なんですけど。私、泥臭い仕事とか嫌なんですけど」

「じゃあお前はそこで何もせず空腹で苦しんでろ、この駄女神」

「誰に向かってそんな言葉口にしてんのよヒキニート! 私がせっかく巧みな話術で周囲からお布施を集めようとし───」

「言っておくがな。俺はなにもしないヤツにまで恵んでやるほどお人よしじゃないぞ。お前がどれだけ仲間だどうだと叫ぼうが絶対に奢らんし金もやらん。周囲を味方にして俺を糾弾しようが、いいか? 絶対にだ! 絶対にやらんからな!」

「えっ…………な、なに言ってるの? なに言っちゃってるのよカズマさん。あんた仮にも私をこの世界に引きずり込んだのよ? なのに呼んだら呼んだで食事の都合もなにもかも放棄して、用意さえしないつもりなの?」

「うん。ていうかなんで俺がそんなことしなくちゃならないんだよ。しち面倒くさい」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……! わたしこんな世界に引きずり込まれて、帰る方法さえ知らないまま無一文で放り出されるの? せっ……責任取んなさいよ! 私べつに来たくなかったのに! 来たくて来たわけじゃないのにー! わああああああ!!」

「だー! うるさいうるさいうるさいうるさい! うるさーい! うるさぁあい!!」

 

 ……もはや何も言うまい。

 強く生きろよ、少年少女。

 

「あ、このクエストお願いします」

「ぇ……あの。いいんですか? あちらの二人は───」

「パーティーを組む約束はしましたけど、お金を稼ぐまでは別行動ということになりましたので」

「は、はあ……では、はい。ジャイアントトード5体の討伐ですね。ジャイアントトードはその特徴として、打撃が通じない他に、金属を嫌う習性を持ちます。剣や槍で斬りつけるか、魔法で蹴散らすことをお勧めします」

「そうなんですか。貴重な情報をありがとうございます」

「いえ。それでは───はい、これで受注完了となります。どうかお気をつけて」

 

 クエストの受注が完了すると、カードが光を発した。達成すればまたなにかあるのかしら。

 

 まあいい、ともかくこれで、俺の冒険者生活が始まるんだ───!!

 

 

   ───こ・の・す・ヴぁ!

 

 

 デッテー・デゲデー・デッテ・テーッテテーン♪

 ◆討伐クエスト:3日間で“ジャイアント・トード”を5匹討伐せよ!

 

 ジャイアントトード。

 平原に住まうデカいカエルで、人なぞ丸のみ出来る巨大さを誇る。

 現在、やってきた平原にてその巨大さに驚いているわけだが……座った状態でも4メートルはあるか? あれ……。

 まあでもやることは変わらないわけで。

 

「打撃は効かないっていいま……いうけど、たぶん額にあたる部位には通じます、よ、……通じるよ、な? 腹は絶対に無理として……ううん、口調が勝手に丁寧になりますね。聖女職の影響でしょうか」

 

 聖女って大変なのね。よく知らないけど。

 ともかくだ。あのデカいカエル相手に打撃で行くのなら、氣を込めて殴れば体内の水分に振動を与えることは出来るかもしれない。

 けれどもここは聖女スキルでいってみよう。

 カードに聖女として登録された瞬間から、どうにも聖女のスキルを習得できるようになったようなのだ。

 なので指でスキルを選んでは指でポンと圧して、ズズーと文字列をなぞるように横へと滑らせる。

 すると自分の中のなにかがカシャンと切り替わったような感覚とともに、なにをどうすればそれを使えるかが頭の中に入り込んでくる。おお、これはすごい。

 

「ええっと、じゃあまず……ト……ト? トア、タキ? ……トア・タキナ・オアテノ」

 

 謎の文字列を呟いてみると、体から真っ白な光の粒子がシャラァンと溢れるようにこぼれて、勝手に翼がバサァと横に開く。

 すると広がった翼の分だけ真円形に光が広がって、その円の内側の地面から光の粒子が生まれて空へと登っていく。

 ……これ、あれか? よくある聖域作成とかそんな?

 

「でも聖域っていったって……なんなんですか、このトアタ……なんとかって」

 

 英語でもないだろうし、他にこんな奇妙な文字列……───奇妙な文字列?

 

「……………」

 

 考えてみた。……分かった。頭イタイ。

 

「ホイ! 我が名はホンゴーカズト・マタノナヲ・カズピー! イクゾー!」

 

 ……。

 

「うん。わからなかったことにしよう」

 

 さ、次だ次。

 

「魔法があるのはいいことです。氣や全集中を覚えてから、まさかまさかの魔法です……! 興奮しますよね! しちゃいますよね!」

 

 でも意識しないと口調が戻ってくれないのです。なんでしょうねこの呪いめいた聖女伝説。

 

「ファンタジーには大体四大元素系の属性はあるものですよね?」

 

 地、水、火、風。鬼狩りの世界で言えば、柱の数だけあったわけで。

 ゲームだとそこに雷、光、闇、無などなど、いろいろ加わるわけで。日とか月があるのが珍しいんだと思う。

 

「……と、いいますか。何故か無駄にスキルポイントもありますし、覚えられるものは片っ端から覚えますか」

 

 項目に浮かぶ文字列をズズーっとなぞって、次から次へと習得していく。

 聖女というだけあって、回復、浄化、神聖魔法に長けているらしく、魔法以外で振り分けられるものといえば、そういった能力の向上系のものが多かった。

 

「浄化───チオテウケウキアナウエタ」

 

 浄化、ピュリフィケーション。使ってみると、最終段階まで強化され、詠唱も短縮された浄化魔法が、翼から漏れた粒子に混ざってあたりをゴシャーと浄化した。

 毒、麻痺などの状態異常を癒してくれるらしい。

 

「治癒───サユセウタコ」

 

 次に治癒。ヒーリングだな。翼から漏れる粒子が緑色に変わって、聖域内をほぼ透明な緑の光で輝かせた。

 込める魔力量で癒せるものも変わってくるっぽい。

 

「再生───メコイリテアナウエタ」

 

 再生、リジェネレーション。持続的に傷などが癒えます。

 

「光線───テアノ」

 

 光線、レイ。単純に光属性魔法。空中に光の球を作って、的に向かって発射する。

 ただし魔力を籠め続ければ光球ではなく光線状態で“ミ゙ー!”って感じで放ち続けられるようで。

 面白かったので、遠くに居たジャイアント・トード目掛けてレイを発射。砲門、というか発射する光珠の数は増やせるようで、それらを間隔を空けるように連続して撃っていく。

 光魔法が当たったことでこちらに気づいたジャイアント・トードに、これでもかというほど発射。近づいてこようとしたら、もう断続的に発射することなくレーザーとして放ち続けた……ら、グエエ、という切ない声とともに仰向けに転倒、動かなくなった。

 

「……うん」

 

 魔力消費、ものすごい。

 単発で撃つなら問題ないのに、光線状態でズビィイイムと放ち続けると、魔力がゴリンゴリン減っていく。

 まあでも、

 

「力場───ケエテゲケウイセク」

 

 力場、フォース・フィールド。魔力を地味~に回復させる回復力場を作る。範囲魔法なんだけど、そこから出ると回復は望めないため、戦闘時にはほぼ役に立たないかもしれない。

 自分が動かずに魔法を撃ちまくる、とかならいいかもだけど……回復速度、メチャ遅いです。これでも付けられるオプションスキルは全部つけたのに、これで最大速度とか……うん遅い。

 一回魔法を使ったら動けなくなる~とか、そういう人以外に効果あるのかこれ。そりゃあ、野営してさあいざ寝ようって時にはすごーく役に立つかもだけど。

 

「蘇生───メトオトキウナアナウエタ」

 

 蘇生、リサシテーション。死んだ存在を蘇らせる……んだけど、これまた消費が激しい。

 魔力があっさり尽きると、立っていられなくなってぽてりと尻餅をついてしまう。尻餅、というか……足が勝手にあの、女の子座りになった、というか。

 ちょっと聖女ジョブさん!? これはさすがに恥ずかしいというかっ……! 動けこのっ……動っ……ぁダメだわ、こうなったらどうしようもねーわ。大人しく力場に癒してもらうしかねーわぁ。

 

「でもでもなるほどです。わたしの魔力量の計算にもなりますし、この調子でモンスターを倒して……たぶんレベルアップで魔力も上昇するでしょうし、そうなったら…………あ」

 

 いや待ちましょう。魔力切れで筋力では体は動かせないけど、俺には氣がございます。

 こう、意識してみれば……ほぅら動く。立ち上がれる。

 むしろこの、呆れるほどの長い時間を氣の鍛錬とともに生きて、育てあげた氣の量を魔力に変換すれば───あ、回復する! すごい回復する!

 

「す、すごいです! 変換すご───ぃ? へぁっ!? あっ、あぁああああっ───きゅぷぅっ!?」

 

 変換の凄さに感激していたら、自分で蘇生してしまったカエルに舌で巻き取られ、ぱっくんちょされた。

 そのぬくもりはひどく生温く、それでいて、味わうように体を這うドゥェチョォリとした舌は、まるでこちらを窒息させんとするかのように粘液である唾液を塗りたくって来てギャアーッ!!

 

「サエセノカセアトナ!!」

 

 聖撃───ホーリーブラスト。体から光属性の衝撃波を範囲放出する。

 衝撃波を発生させて、中空にブッハァと吐き出された俺は、一緒に唾液も吹き飛んでいてくれたことに安堵しつつ……

 

「神罰です♪」

 

 にこりと笑い、衝撃にもめげずに俺目掛けて舌を伸ばそうとしているカエルを指差し、言った。

 途端、聖なる光が一本の巨大な剣となって空から降り注ぎ、ザコォンッとジャイアント・トードを背から腹へと貫いて、聖なる光の大爆発を起こして……カエル=サンは爆発四散。インガオホー。

 罰剣───パニッシュメントソード。チオタウトサヘイタナトヌエテクという長ったらしい名前なので、名前を“神罰です”に変換して放った。効果は抜群だ。

 ……って爆発四散させたらダメじゃない!? 達成報酬には肉の調達も含まれるとかなんとか「ぽきゅっ!?」……落ちた。腹からだった。

 

「いたたたた……!!」

 

 落下中に考え事なんてするもんじゃない。

 ともあれ一体は確実に仕留めたので、残りは4体。

 魔力も氣で全然補えるからどどんと来いですよカエルどもめ!

 さあ次は何処だ!? 何処から来る! どっからでもかかってきなさい! おいしいお肉にしてくれるわーっ!!

 とか思ったら、ボコリという音。ハテ、と足元を見ると、地面から顔だけ出してるカエルさん。

 

  ……結論。ぱっくんちょされた。ほうわーって変な声が出た。

 

 

 

 ストゥルティ・トゥルティトゥ・レントゥントゥンティン・トゥェルレェン……♪

 

 

 

 あれから見事にカエルを討伐した俺は、依頼達成を報告するとともに驚かれつつ、きちんと報酬を受け取ると……カズマさんらを探した、けど居ない。

 まあここ、アクセルの街から平原までの移動もあまり時間はかからなかったし、依頼自体もそんなにかからなかった。ということは、カズマさんと女神さんはまだバイト中か、バイトを探しているのかもしれない。

 レベルが上がったみたいだから、こっちはこっちでいろいろ試していればいいだろう。

 スキルポイントは有り余ってるくらいだし、もっと別のもの……聖女スキル以外に目を向けてみるのもいいかもしれない。

 自分で実行してみたからか、カードを見てみれば氣の行使に対する消耗を減少させる、なんて項目も増えている。

 これはいいとばかりにMAXまで使用してみれば、体がひどく軽くなったような。……調子に乗って氣の効果向上、錬氣速度、回復量、最大瞬間錬氣回数なんかも上げてみれば、なんかもう夢みたいなスキル構成が完成した。

 氣、変換できます。魔力、ほぼ使い放題です。なんなら相手に氣を流し込んで、それを魔力に変えてやれば魔力譲渡も可能です。やだなにこれ、俺自身が魔力タンクに早変わりだ!

 さ、これで今振れるポイントは全部振ったな。

 さて、報酬も貰ったことだし宿に───

 

「…………」

 

 宿に…………

 

「………」

 

 …………ちくしょう。

 

「魔法とかに興奮してアホやりました……! アホですかわたしアホでしたわたし……!」

 

 顔を真っ青にしながら悩み顔で頭を抱えました。例えるならばクロマティ高校の前田くんのように。(*注:アニメクロ高25話の6:45あたり)

 けれども一度振ってしまえば戻せません。

 なので俺は、ばさりと新たに広がった六翼と、頭の上に存在する天使の輪っか(なんかゴージャス)を見ないフリして歩きました。真剣に、なんでこんな要素にポイント振ったんだ俺。ていうかなんの役に立つんだよこれ。特に輪っか。

 

「ああぁぁぁ……もうぅう…………」

 

 掠れるような声をこぼすと、とぼとぼと歩いた。

 聖女力が上がった所為か、頭の中まで丁寧になりつつある気がして怖いです。

 

 

   ───このすばっ!

 

 

 翌日のギルドにて。

 

「………」

「………」

 

 朝も早よからテーブルに座り、ソワソワしている女性を発見した。

 なかなか露出度の高い黒っぽい服で、胸元がおーきく開いている。幼さが残りまくる顔からは考えられんくらいの発育であり、なにやらクエストボードをちらちらと見ては、顔を赤くしてソワソワしていた。

 ……ふむ?

 

「なにか一緒に行ってほしいクエストでもあるんでしょうか…………と」

 

 クエストボードの前まで歩いて、その内容を確認。

 依頼書は何枚か貼られていて、けれどそれとは別にパーティーメンバー募集の張り紙も確認。

 そのうちの一つになにやらやたらと心が抉られそうになる、悲痛な懇願が混ざったかのような募集書が……!

 

【パーティーメンバー募集してます。優しい人、つまらない話でも聞いてくれる人、名前が変わっていても笑わない人、クエストがない日でも一緒にいてくれる人。前衛職を求めています。できれば歳が近い方、当方、最近13歳に───】

 

 冗談だろオイ! 13!? 13であの発育!?

 思わずンバッとソワソワ乙女を振り返った。めっちゃくちゃソワソワなソワリーヌさんがこちらを見ていた。誰ですかソワリーヌ。

 ……けれど、まあ。こんな募集を書かれては、彼女の今後が心配です。

 エロォス目的のロリ目的なんかが居た日には、彼女の貞操がヤヴァイです。

 なので募集書をベリャアと剥がして「あっ……ぁあぁっ……!」やだ心痛い!! 違うんだよ!? 悪役ムーブみたいな意味で剥がしたわけじゃなくてね!? だからそんな、大事な想いが引き裂かれたみたいな悲痛な声とかやめて!?

 

「~……」

 

 けれど急ぎはしない。

 ゆっくりと自然な速度で歩いて、彼女が座るテーブルへ。

 

「募集の張り紙、読ませていただきました」

「ぇっ……あ、あの、なにか気に入らないことでも───っ」

「是非、パーティーを組んでください」

「………………」

「………………」

「え?」

「え?」

「え、えっ!? いいのっ!? ぁ、ゃ、いいんですかっ!? あのあの私、募集かけといて紅魔族なのに中級魔法しか使えなくて、そそそそれに上手く喋れるかも不安なのにえっとそのえっと……!」

「是非、わたしと、パーティーを、組んで、ください」

「───」

「………」

 

 きちんと届くように、しっかり、じっくりと言葉を口にする。

 と、言葉を受け取って、じわじわと処理していく過程、目の前の彼女の表情が、みるみると喜びに満ちていくのがわかった。

 

「わっ……我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、いずれは紅魔族の長となる者!」

「はい。では───ドーモ、はじめましてゆんゆん=サン。かずぴいです」

 

 ポーズをとっての名乗りに対して、合掌し、相手を見ながらのお辞儀。

 そう、アイサツは大事。古事記にも書いてある。

 

「この挨拶をされても普通に返してくれるなんて……! あ、あのっ! これからよろしくお願いしますっ!」

「こちらこそですよ、ゆんゆんさん。では早速クエストを受けに行きましょうか」

「はいっ! がががんばりますっ!」

 

 ちゃーらーらーらーらーらーらーらー・ちゃーらーらーらーらーらーらーらー・ちゃんちゃらららららちゃんちゃららららららら~ら~♪

 ……ゆんゆんが仲間になった!

 

「ところでかずぴい、って私達紅魔族に合わせてくれたあだ名かなにかですか?」

「本名です」

「!?」

 

 そして大変驚いたようです。

 

 

  デッテー・デゲデー・デッテ・テーッテテーン♪

 

 

 ◆討伐クエスト:食用にジャイアント・トードを可能な限り討伐せよ!

 

 早速クエストを受注。

 荒くれ者たちが蔓延る冒険者ギルドの主食は、ジャイアント・トードの肉のからあげと言っても過言ではないらしい。

 なのでその肉の調達を、ということで、現在は馬車に乗りながら平原を目指しているところだ。

 

「それで、ゆんゆんさんは中級魔法が使えるんですよね?」

「は、はい。あの。私頑張りますから、頑張って早く上級魔法を使えるようになりますから、がっかりして追放なんてことは……!」

「はい、ちょっと待ちましょうね。何故そうなるのかは分かりませんが、追放はしません」

「かずぴいさんが出てっちゃうんですか!?」

「出ていきません。そもそも中級しか使えない、初級しか使えない、なんて理由で別れたりはしません。パーティーを組む上でもっとも重要なこととはなんだと思いますか?」

「えっ……、……えっと……しっ、信頼関係じゃないかしらっ!」

「はい、その通りです。ついでに言うと連携が出来るかどうか、きちんと報告連絡相談が出来るかどうかです。そこに能力値が低いからとかそんなことは関係ありません。なにせ低いのなら高めればいいのですから」

「え、あの。じゃあ、その。ま、待っててくれるの? あっ、くれるんですか? その、私が、強くなるまで」

「もちろんですよ。だって、パーティーじゃないですか。仲間ですよ、わたしたち」

「仲間……! パーティー……!」

「ですので、ともに強くなりましょう。可能ならば今日中に上級魔法を会得する勢いで」

「えぇええっ!? きょ、今日ですか!?」

 

 ああ、実に賑やか。

 一人でやるのもいいけど、せっかく協力出来る場所なんだし、ね。

 

 

  ───このすばっ!

 

 

 さて、やってきましたWindows平原。今日は出来る可能な限りジャイアント・トードを仕留めて、追加報酬等で懐を温めるとしよう。

 

「それじゃあゆんゆんさん。魔力は気にせずジャイアント・トードを討伐しちゃってください」

「え、あの、連携のお話は───」

「ゆんゆんさんが上級魔法を習得してから考えましょう」

「えぇええ……い、いいのかな……!」

「一緒に頑張りましょう、ゆんゆんさん。低いレベルの内にお互いの出来ることを知って、連携を確かめるのはそれからで十分だと思いますから」

「あっ……! そ、そーですね! ではいきます! 『ブレード・オブ・ウィンド』!!」

 

 風の刃を発生させて、ゆんゆんが遠くに居るカエルに攻撃だ!

 クリティカル! ジャイアント・トードは倒れ伏した!

 

「すごいですゆんゆんさん! まさか一撃だなんて!」

「あっ、やっ、えっと、こ、このくらいの敵なら中級でもっ……」

「この調子でどんどんいきましょう! わたしとゆんゆんさんの、初めてのクエストですからねっ、大成功を目指しましょう!」

「……わ、私とかずぴいさんの初めての……! は、はいぃっ! 私、頑張ります! 『ブレード・オブ・ウィンド』! 『ファイアボール』! 『ライトニング』!」

「魔力の枯渇は気にしないでくださいね、わたしにいい考えがあります」

「えっ……で、でも使いすぎると動けなく───」

「大丈夫です。わたしを信じてください、ゆんゆんさん。信じて頼る……信頼という名の下に、あなたが動けなくなったならわたしが必ず力を貸します」

「信頼……! ま、任せてください! 全力で行きます!」

「あ、ケシズミだけはだめですよ? お肉の調達がメインですから」

「はいっ!」

 

 ゆんゆんは戦った! 魔法をそれはもう、これでもかというくらい発動させた! その果てに、ぽてりと倒れたわけですが、そんな彼女の傍に寄って、まずは聖域と力場を発動。

 そして、身動きひとつ取れない彼女を軽く起こして、背中からきゅむと抱き締めると、氣でもって包んで……じわりじわりと氣を馴染ませてから、一気にそれらを魔力に変換。

 

「ひゃわああっ!? ひやっ、あのっ、かずぴいさん!? きゅきゅきゅきゅうにだきちゅい、抱き着いて、ななななにをっ───あれ?」

「魔力を譲渡しました。ゆんゆんさん、動けますか? 魔法は、使えますか?」

「え? え、え……えっと。……『ライトニング』?」

 

 戸惑い状態のゆんゆんが、カエルを指差し魔法を発動。

 アワレ、ジャイアント・トード=サンは閃光めいた雷に打たれ、コントーした。ナムサン。

 

「……さ。ゆんゆんさん、今日中に上級魔法、習得しちゃいましょう?」

「ふわっ!? は、はいっ!」

「あと敬語はいりませんからね?」

「えっ!? いいの!?」

「もちろんです。わたしは……ごめんなさい、職業の特性の所為で敬語のようなものが自然と出てしまうもので、せっかくのパーティーなのに敬語しか使えないわけですが」

「大丈夫よ! だって事情は馬車の中で聞いたもの! わ、私はかずぴいさんを信じるわ! 信頼って、そういうことだと思うの! これがめぐみんだったら悪びれもせずに人を蹴落として自分だけ……って! でもかずぴいさんは、倒れた私に自分の魔力を……はっ! そ、そうだ! これは私だけの魔力じゃなくて、私とかずぴいさんの……! ふ、ふわー! ふうわー!!」

 

 ス、ステーイ! ステイゆんゆん! 目が! 目がサイクローン!!

 

「覚悟しなさいジャイアント・トード! 大いなる友情の力を得た私に、敵なんて居ないんだから! …………ちらっ」

 

 ? …………ああっ。

 真っ赤な顔で、けれどドキドキ緊張フェイスでこちらをちらりと見るゆんゆんに、にっこりと微笑みで返す。

 ジャイアント・トードを指差しっぱなしでなにをやっているのか、なんて思ったけれど、なんのことはなく……この娘、ぼっち気質なだけですね、はい。

 

「……!! 友! 情! パワァアアアアアアッ!!」

 

 今! ゆんゆんの瞳がかつてないほど輝き光る!!

 ……馬車でこちらをちらちら見る目がチラッチラッと時折輝いてたから、なして光るん? と訊いてみたのですが。どうやら興奮したりわくわくしたり、気分が向上すると目が輝くらしい。

 

「『ブレード・オブ・ウィンド』───ッッッ!!」

 

 腕に台風を纏わせたかのような風刃連撃!

 こちらに近づいてきていた個体も、土からぼこりと出て来た個体も問答無用で切り刻む!

 刻んで刻んで───ボテリと倒れた。

 そんな彼女を抱き締め「ふわわわわっ!?」氣を流して魔力に変換。「『ライトニング』! 『ライトニング』! 『ライトニング』───ッ! ……あう」抱き締めて「ひゃうー!?」変換「『ファイアボール』! 『ファイアボール』! 『ファイアボールボールボォオオル』!! ……あう」抱き締めて「ひゃあああ!!」変換「せっ……せぇええやあぁああっ!!」……と、ジャイアント・トードの大体が尽きるまで続けたわけで。

 そうして見える景色にバインコと跳ねるカエルが居なくなると、俺とゆんゆんは六枚の翼が作る癒しと力場の聖域に座って、のんびりと休憩していた。

 

「はぁ、はぁ、ふぅうう……! わ、私、一日だけでこんなに魔法使ったの、初めて……!」

「はい、お疲れ様ですゆんゆんさん」

「う、うん。かずぴいもありがとうね。かずぴいのお陰で一日で結構レベルも上がって───あ、でもさすがに上級魔法を覚えるまでは、スキルポイントが足りないから───」

「はい。じゃあ次に行きましょう」

「……え? つ、次?」

「はい。請け負った依頼、ジャイアント・トードだけではありませんよ?」

「えっ……えぇええええっ!?」

 

 デーテレッテットゥッテットゥー♪ デーテレッテットゥッテッティー♪ トゥルレルィッ♪

 ◆討伐クエスト:初心者殺しを2匹討伐せよ!

 

「しょっ……!? しょしっ……!?」

「あ、ちなみに一定時間が経ったらカエルを回収しに来てください、ってギルドには手配済みなので」

「うそっ、手際がすごい! ぇで、でもいきなり初心者殺しなんて……!」

「一緒ならなんでも出来ます。頑張りましょう」

「うん頑張るわ私! 二人だもの! 二人なんだから大丈夫よね!」

「はい。なんでも最近、ゴブリンの集団が発見されたらしく、それを狙った初心冒険者が初心者殺しに襲われる、といった件が多発しているそうなんです」

「あの。多発もなにも、私たちも紛れもない初心者じゃ……」

「ゆんゆんと私の魔力回復、あとその他もろもろがあれば大丈夫です」

「はうぅっ……信じたいけど、さすがに怖い……!」

「大丈夫ですよ、本当に。なんなら相手の攻撃なんてこれっぽっちも当たりませんから」

「……え?」

 

 なんで? と首を傾げるゆんゆんににこりと笑んで、話に聞くゴブリンの集まる場所を目指しました。

 あ、ついでにゴブリン討伐の依頼も受けてあるからなんにも問題ござんせん。

 

 

  ───……。え!? もう言っていいのっ!? ぁこ、このすばっ!

 

 

 ……で。

 

「……ほんとに一日で上級魔法覚えられちゃった……!」

 

 現在、とっぷりと夜。ギルドに戻ってきた俺とゆんゆんは、ゆんゆんからの提案もあって報酬で打ち上げをしていた。

 

「あの、ていうかかずぴいさん!」

「かずぴい、です」

「かっ、かかかずぴい!」

「はい」

「あなたのその翼、飾りとかじゃなかったの!? 飛べるなんて! まさか飛べるなんて!」

 

 はい。飛んで、空から初心者殺しとゴブリンどもを強襲いたしました。

 ゆんゆんを後ろから抱きしめながら翼で飛んで、空から無情なる魔法の連撃。相手は死ぬ。

 聖女スキルの天使翼のスキルレベルや天使の円環スキルをMAXにしてしまった時は、ついクロ高の前田くんみたいに頭を抱えたものだけど、ここにきてまさか役に立つとは。よもやよもやだ。ちなみに翼は空を飛べるのと、聖域や力場関連の能力向上、円環は全スキルの効果上昇ときた。能力はちゃんと把握しないとダメね。

 まあお陰で無傷で依頼達成。カエルの追加報酬も合わせて、急に小金持ちになってしまった。報酬は───ゆんゆんが譲らなかったので、半分ずつである。

 なんなら宿代と食事代だけでよかったのに、ゆんゆんは良い娘だなぁ。

 ていうか俺の方が無欲生活が染みつきすぎてるんだろうか。いやあの、はい、考えてもみれば、“畑でも耕してのんびり過ごそう”とか思ってる時点で相当ヤバイか。

 土地問題もあるかもなんだから、そこはしっかりしないと。

 

「ええ、飛べます。といいますか、聖域を行使している時ははためかせているので、気づいているものとばかり……」

「魔法で動かしてるって思ったの! し、しかも頭の上の輪っかまで本物だし……! あの、かずぴいは実は、空からやってきた天使様だったりするの!?」

「いいえ、あなたの友です」

「っ……! 友……!」

 

 畏まりそうになっていたゆんゆんが、大いに照れてデレた瞬間であった。

 

「と、友達ならどんな存在だって関係ないわよね! そうよ、私とかずぴいは友達だもの! 天使様だって関係ないわ!」

「はい。なので早速これからのことを考えていきましょう」

「えっ? これから? な、なんだろ……」

「連携のことですよ?」

「あっ……え、い、いいの? ほんとに? 連携のお話ってことは、あの、明日からも……」

「はい、是非パーティーを続けましょう」

「───」

 

 瞬間、彼女はなにを感じたのか。

 一瞬で表情を無くすと、その虚ろな目からじわりと涙が溢れ、ぽろりぽろりとこぼれるではござーませんの、って何事!?

 

「あ、あの。……いいんですか? 私、私ですよ? ゆんゆんですよ?」

「敬語」

「あっ………………いいの? 私、いいの?」

「駄目、って言って欲しいんですか?」

「そんなことないっ!」

「改めてよろしくお願いしますって言って欲しいんですか?」

「そんなことっ───え? ……そそそそれは言ってほしいかもだけど!」

「はい。それでは改めて、よろしくお願いしますね、ゆんゆん」

「……!! う、うん! わかったわ! 私、きっともっと役に立つから! 大丈夫よ任せて! 我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、上級魔法をも操れるようになった者! れれれ連携だって、頑張っちゃうんだから!」

「頼りにしていますね」

「~……っ!!」

 

 ゆんゆん氏、“大好きな主人の前で尻尾を振りまくりながら、ひゃんひゃん鳴く前の犬”のような様相をするの巻。

 

「ままままま任せて! 任せてかずぴい! 私、友達のためならどれだけでも頑張れる気がするの!」

「はい。では明日のわたしたちの冒険に幸あれです。乾杯」

「!! ……いいの?」

「ノリと勢いでいいんですよ。したいんです、わたしが」

「かっ……かんぱいっ!」

 

 言って、戸惑いがちながらも勢いよくシャワシャワの入ったジョッキを叩き合わせた。

 なお、シュワシュワがクリムゾンビアというアルコール入りであり、シャワシャワはノンアルコールでございますれば、ゆんゆんの年齢でも自由に飲める、子供のビール的なアレである。

 何故シャワシャワなのか? それは、後味がシャワシャワするからである。それ以上でもそれ以下でもない、でも炭酸ではない謎の飲み物なのだ。

 そんなシャワシャワを二人でゴッフゴッフと飲んで、プッハーする。それだけで、ゆんゆんはこの世の幸せを得たのだってくらいの幸福顔をしていた。

 ……純粋なんだろうなぁこの子。すっごいピュアだ。なんかもう望むこと全部やってやりたくなるレベルで。

 

「そうでした、ゆんゆん。わたしも無事に宿に泊まれるお金を稼げたので、同じ宿にお世話になろうと思うのですが」

「えっ? ほんと? あの宿に来るのっ? あ、で、でもその、ええっと、同じパーティーなんだし、せっかくなら……お、同じ部屋に、とか……」

「? けれどもゆんゆん? あなたは確か、めぐみんさんと同じ宿では───」

「そ、そうなんだけど! そうなんだけどね!? ……あれ? めぐみんのこと、知ってるの?」

「あなたがめぐみんと一緒に馬車から降りて来た時、声をかけましたよ?」

「………………あっ!」

 

 寝惚けていたようだったし、ピンとくるモノがなかったようで。

 そもそもあの時、聖女スタイルじゃなかったしなぁ……。

 

「ごごごごめんねかずぴい! あの時私寝惚けてて! ……あの。それで、めぐみんとは一緒の部屋を使わせてもらってるんだけど、このまま戻るとめぐみんに自慢みたいなことしちゃいそうで、怖くて」

「自慢、ですか」

「めぐみんとはその……私が上級魔法を覚えたら、って……そんな話があったんだけど、いざかずぴいと一緒に覚えてみたら、なんか……違うんじゃないかなって思うようになって」

「違う……ですか?」

「めぐみんに対して、勝負勝負って言ってた私だけど、これ……私だけじゃ無理だったじゃない、って思ったら、めぐみんに話すのも恥ずかしいって思えるようになってきて……。だ、だから、改めて二人部屋をそのー……か、かずぴいと借りられたらな~……って」

 

 言いながら照れ顔で、胸の前で人差し指同士をつんつんさせているゆんゆんの図。

 おお、なるほど。

 めぐみん=サンといろいろあったのだろう。そのいろいろの内容まではわからないけど、少しの間、距離を空けたいくらいには。

 いや、いいと思いますよ? 人の関係ってたまには距離を取らないと、いろいろ暴走しちゃいますし。なにがとは言いませんが。咄嗟に出る言葉が“助けてぇえええ!!”ばかりになっちゃあ手遅れってもんだろう。誰の咄嗟かは言わないけど。

 

「はい、わかりました。では食事が済んだら宿へ行って、二人部屋を借りましょうか」

「そうねっ! めぐみんの態度もたまに結構アレだったし、たまには離れてみなきゃ見えないものもあるかもしれないし!」

 

 この少女、ノリノリである。

 なにかあったのかなぁめぐみん氏と……。

 

 

  ───このスバルゥ!

 

 

 そして、例の宿にて。

 

「なっ、なっ、なっ……ななななんですかかずぴい! そのっ……その紅魔族の琴線に触れてしまう姿は! あなたにいったいなにが……!? ああいえ考えるのはまた後です。まずはその翼を黒く塗りましょう!」

「落ち着きましょうねめぐみんさん。あと塗りません」

「何故ですかっ!? 黒い方が絶対に格好いいでしょう!」

「何故か? わたしは天使の翼というものは純白なのが好きだからです。黒は堕天使でなければいけません。堕ちてもいないのに黒であるのは闇に染まらんとする天使に対して失礼でしょう」

「ハッ!? た……たしかに! ……フフフ、なかなかやりますねかずぴい。この我を、黒に関しての話にて説き伏せてみせるとは……!」

 

 めぐみん氏は大変驚いてらっしゃった。……ベッドで倒れながら。

 しかも熱く熱く語ってくださった。……ベッドで倒れながら。

 

「めっ、めぐみん! あなたまた爆裂魔法使ったんでしょ! 使うと動けなくなるならやめたほうがいいって言ってるのに!」

「フッ……なにを愚かな。我が爆裂魔法は最強にして至高。今日も今日とて群がる栗ネズミを一網打尽にしてやりましたよ!」

「……それで、今朝パーティーを組んでた人たちにここまで運んで貰ったんでしょ」

「対価というものです。彼らは大いなる破壊の恩恵を賜り、依頼を達成。我は今日も今日とて爆裂魔法を放ち、依頼も達成できたと。これは明日はメンバー勧誘で引っ張りだこかもしれませんねぇ」

「今朝の人たち、さっき酒場で見たわよ。……頭のおかしい爆裂娘が、指示も無視して栗ネズミを消し炭にした、って。それはべつによかったけど、一発で終わる上に他の魔法が撃てないんじゃ、正直お荷物だ、って」

「………」

「………」

「………」

 

 彼女らの部屋に集ったこの三人。口をHにして停止するの巻。

 

「……ね、ねぇめぐみん。初日からこれだと、すぐに他の人にも話が回って、誰も受け入れてくれなくなるわよ? そ、そんなことになったら……!」

「問題ありません。爆裂魔法は最強です。ロマンなんです。それを笑うような……そんな輩と組むくらいならば、一人ででも───!」

「そしてジャイアント・トードに爆裂魔法を撃って、動けなくなったところを丸呑み。ゆっくり消化されていくんですね」

「───」

 

 めぐみん氏、口をHにして停止するの巻。

 

「……めめめめぐみん? ねぇ? わわ悪いこと言わないから、一人では絶対に───」

「フッ……ふ、ふふふふ……! その程度の言葉でこの私の爆裂道を止められると思うのですか! 明日にでも新たなる“大いなる破壊に魅入られし同志”を見つけ、一日一爆裂を成し遂げてみせましょう!」

「撃つと動けなくなる、とゆんゆんから聞いていますよ。その状態でどうやってクエスト達成を? 仲間が集まらず、一人でやるしかなかったらどうなりますか? 稼ぎがなければいずれ宿も追い出されますよ。食べることにも困ります。ええ、爆裂道に殉ずるのもまた爆裂道でしょう。……ですが、その殉じ方が爆裂ではなかったら?」

「……エ?」

「空腹で倒れ、魔力も満ちているのに声も発せず、ただ餓死するだけの最後だったなら、それは果たして爆裂道と呼べますか? なにより……格好いいと、胸を張れますか?」

「───ふぐぅっ!?」

「……ともに、歩みましょう、めぐみんさん。孤高とは、名だけ見ればとても格好いいものでしょう。けれどそこに無駄な意地と、ただの“聞かざる”を混ぜれば、それは子供の癇癪となにが違うというのですか」

「なっ……! あ、あなたは! 私のこれがただの子供の癇癪だと言うつもりですか!」

「ゆんゆんは、きちんと自分が行使出来るものと向き合い、悩み、歩み、上級魔法を一日で習得してみせましたよ?」

「───エ? ……ゆんゆん? あの、冗談でしょう? 一日ですよ? たった一日で───」

「ええ、倒した魔物の数、こなした依頼の数も、懐がちょっとした小金持ちになるくらいには頑張りました。……さて、めぐみんさん? パーティーを組んだというのに、そのパーティーの言葉も聞かずに、“私欲にて”、爆裂魔法を放っためぐみんさん?」

「ぁぅ……!」

 

 痛いところを突かれたのか、先程までの勝気な表情が弱っていく。

 この北郷、様々な女性や少女、子供らと向き合った猛者にて候。いい加減、話の運び方も身に染み入るといふものでございましゃう。

 

「あなたの目指す爆裂道とは。あなたが歩みたいと願う爆裂道とは。それを行使し、自らが褒められるべきを作るためのものなのですか? 違うでしょう。爆裂魔法を愛するというのなら、誰もに愛されるべきを目指す筈です。だというのに連携のれの字も考えず、自分が撃ちたいから、という理由で仲間の静止も振り切って発動。あまつさえそれを注意されれば爆裂道のなんたるかがわからないなどと……!」

「あ、あぅ、あぅあぅあぅ……!」

「……お説教です。道を究めんとしておいて、何故そうなるのかをまずお説教です。たった一発しか使えないからなんだというのです。使うべきをきちんと相談、味方が望む瞬間にこそを最良とし、その一発こそをさすがと言わせる最高のアークウィザード……何故それを目指さなかったのですか。ロマン結構。夢結構。けれど、自分だけが分かっていればいい、なんて言い出すことは許しません。何故ならあなたはパーティーを組んだのですから」

「はゎ、ひぅ……ぁぅぅうう……!!」

「たった一発。一日に、たったの一発です。……ですが、だからこそ切り札と成り得るのですよ、めぐみんさん。出会い頭に通常技のように爆裂魔法を放つ光景と、最果てのダンジョンの最奥にて、苦戦し傷つきそれでもなんとか立ち上がるあなたたちパーティーを嘲笑い、油断したダンジョンマスターに、“最後の最後で油断したな……! これが俺達の切り札だ!”と言って発動する爆裂魔法の光景……あなたはどちらの方が格好いいと思うのです」

「とっ……当然後者です! 言われるまでもありませんよ!」

「ならば」

 

 ぴす、と。転がっている彼女の傍に近寄り、屈んで、その鼻をつついた。

 

「あなたがやったことは、前者となります。その格好の悪さ、軽率さ、ロマン否定度、どれを取っても道に反した所業ですよ。猛省してください」

「ぐっはぁっ!?」

「めっ……めぐみーん!?」

 

 効果が抜群すぎたからだろうか。めぐみん=サンは心にとてつもないダメージを負ったかのように胸を押さえ、絶望顔でビクンビクンと痙攣し始めた。

 

「わ、我は……ぁぁあああ……わた、わたしはぁああ…………!!」

「めぐみん! ちょっとめぐみん! しっかりしてよ! めぐみーん!!」

「愛すべき……ロマンと豪語し絶対の自信と愛情を、いっそ紅魔の人生そのものを捧げんとした爆裂道に対し、なんという……なんという愚行を……」

「はい。後悔出来たなら立ちましょう。立って、一歩前の自分よりも強い自分となるのです」

「……あの。今私、相当、大変、落ち込んでいるわけデスが……」

「気づいて辛いのはそれだけ愛しているという証です。その証明をしたいのなら、落ち込んでいる暇がありますか? 気づけたなら好し。後悔出来たなら善し。改善の努力を目指せるなら良し。後悔を明日を生きるための経験として飲み込めたのなら文句なしの最良です。……めぐみんさん? あなたは、どの“よし”に治まるべき器の持ち主ですか?」

「…………まったく。後悔する時間すら十分にくれないのですね、かずぴいは」

「後悔する気持ちが残っている内に行動出来れば、その後の行動にまできっちりと影響が出るものですよ。後悔し続けて後悔に慣れてしまえば、ろくな糧になりません。後悔はきちんと経験に反映させなければです」

「いいでしょう……ええいいでしょう! ならば! 我は汝が伸ばすその手を取ろう! その先で過去の私を糧として、決意も新たに真の爆裂道を歩み切ってみせようじゃないですか! 一言で言うなら! 明日から本気出す!!」

「それはダメなパターンです。修正」

「はたっ!?」

 

 ぺしりとその額を軽く叩いて、その額から氣を贈って変換。魔力を満たしてやると、めぐみんはお目々ぱちくり、俺を見た。

 

「え? …………え? あ、あの、かずぴい? これは、いったい……? あなたはまさかマナタイトの化身かなにかなのですか……!?」

「面白いので天使ということにしておいてください。あ、一応職業は聖女です。めぐみんさんの魔力の量なら、7度以上は満たすことが出来ると思います」

「結婚してください」

「めぐみん!? ちょっとなに言ってるのよ!」

「だだだだって魔力が満たされたんですよ!? こんな一瞬に! いえさすがに今の私の発言がどれだけトチ狂っているのかは自覚しているので返事は結構なわけですが! ではなくてあのっ……か、かずぴい?」

「はい、なんでしょう」

「……強大が故に疎まれし我が力を欲するか?」

「…………ゆんゆん、行きましょうか」

「ぁああああ待って! 待ってくださいぃ! なにがっ、なにが望みですかっ!? お金ですか!? お金ならありませんよ1エリスたりとも! むしろ私が欲しいくらいですよ!」

 

 魔力が復活したとなるや、去ろうとする俺の腰にガッシィとタックルをキメてくるめぐみん=サン。

 おお、判断が早い。なのにその判断が間違ってるのが悲しい。

 

「お金は持っているので要りません」

「ならば最強の攻撃魔法、爆裂魔法はいかがですか!? 今なら私も付いてきますよ!」

「じゃあ魔法だけください」

「鬼ですか!? 鬼なんですかかずぴいは!」

「さあゆんゆんさん? 先程予定していた通り、新たに二人部屋を借りましょうか。人が散々説明したのに、強大だから故に疎まれた~なんて人の所為にする人なんて知りません」

 

 めぐみんタックルなぞ微塵も影響を受けない足取りでスタスタと歩く。

 やあ、軽いなぁこの娘。そんなタックルでは、武に長けた娘らや、鈴々や季衣にブルチャージされてきたこの北郷の足を止めるなぞ、とてもとても。

 

「ごめんなさい逃げないでくださいぃ! 言われた通り猛省していますのでぇえ!! ていうか涼しい顔でどれだけ軽く歩くんですか!? こっちはこれほど踏ん張っているというのに! ゆんゆん!? この人本当に何者ですか!?」

「天使様だよめぐみん! かずぴいはこの翼で空だって飛べちゃうんだから!」

「……あの。ゆんゆん? いくら私が今動揺しているからといって、こんな状況でそのような嘘を……」

「ほっ……本当だってばぁっ! 空飛んで、空中から魔法を使って、初心者殺しだって倒したんだからぁっ!」

「くっ!? く……空中から、魔法を……!? それが真実なら、対象を見下ろしながらの素晴らしき爆裂魔法が……! ───あ」

「………」

 

 言った先から爆裂優先。

 天誅です。

 

「送った魔力を没収します」

「あぁあああ待ってください! 紅魔族にとって格好いいか否かは存在としての死活問題なのです! それを放棄しては、そもそも種としていかがなものかと!」

「めぐみんさん。わたしはあなたと、種としてではなく個として話しています。今のあなたの問題に種は関係ありますか? ありませんね? ではお仕置きです」

「待ってください判断が速すぎます! ここはそう! ゆんゆんも交えてじっくりと私の正当性をですね!」

「めぐみん!? こんな時ばっかり私を巻き込もうとしないでよ!」

「ゆんゆん……私達は同じ紅魔の仲間でおぴょぉおおおおおおっ!?」

 

 吸った。仲間を想うやさしげな笑みが、ムンクの叫びめいた様相へと変貌を遂げた。ショッギョムッジョ。

 

 

  ───こ、の……すばぁ……

 

 

 翌日。

 

「朝食もいただき、準備運動も済ませ、大いなる仲間を得た私に、フフッ……もはや敵など!」

 

 冒険者ギルドにて、新たに仲間になっためぐみんは、目を輝かせて決めポーズを取っていた。

 

「かずぴいかずぴい! それで今日はどういった標的を爆裂しますか!? デカくて重くて硬いものなどどうでしょう!」

 

 かと思えば年相応の無邪気さで、目を輝かせながらわたしを……ん、んん゙ぅ! ……俺を見上げてくるわけで。

 

「そうですね。ゆんゆんも上級魔法を覚えたとはいえ、詠唱短縮、上級魔法威力向上などのスキルを取るならポイントも必要になります。なので飛行は出来ず、かつ苦戦しないようなモンスター討伐を目指しましょう」

「かずぴい、それなのですが、いっそ依頼を受けずともモンスターを見れば爆裂魔法を放つのはどうでしょう。レベルアップ目的ならばそれで済むと思うのですが」

「需要と供給の問題でそれは無しです。よっぽど困った状況でもなければ、討伐依頼を目的とした冒険者がくいっぱぐれます。それが明日のわたしたちではないと、何故言えましょう」

「むぅ……ちゃんと考えているのですね、かずぴいは。先ほどから会話へ潜り込むタイミングを見ては、足踏みをしているゆんゆんとは大違いです」

「気づいてるなら話題振ってよぉっ! どうしてめぐみんはそうなの!?」

 

 ゆんゆんが涙目で言う言葉に、まあまあと返して彼女を手招く。

 するとぱあっと涙を飛ばしながらの笑みとともに、ちょこちょこと近づいてきてはソワソワするゆんゆんの図。

 なんというか……まだまだ遠慮がちな犬、みたいなイメージ。

 

「かずぴい、本当にゆんゆんも連れて行くのですか? 頑張って会話をしようとしていつも大声になりがちでやかましいし、言葉の最初にほぼつまりますし、なにかと言えば勝負をふっかける迷惑極まりない存在ですよ?」

「ちょっとめぐみん!? かずぴいになんてこと吹き込んでるの!? やめてよ! やめっ……やめてぇ! やめてよぉ! こっちで初めて出来た友達なんだからヘンなこと吹き込まないでよぉ!」

「大丈夫ですよ、ゆんゆん。わたしは自分が見たものを主に信じますし、昨日一日一緒に居て、ゆんゆんがどういう娘なのかはきちんと知ったつもりです」

「あっ……かずぴい……!」

「ほう。ではかずぴいの中のゆんゆんがどういう印象なのかを訊いてみるとしましょう」

「めぐみん!?」

 

 コミュ障がいきすぎている気配がございますが、人と関わろうと必死になれるあたりは日本のプロヴォッチャーさんとは違います。

 孤独を愛する存在ではなく、関わろうと思えるならば、むしろ今まで理解者が居ないことの方が不思議なレベル。育った環境が悪かったんだろうなぁ……こんなに可愛いのに、一緒に居ようとする男どもが居なかったのも不思議である。

 まあ俺には関係ない。コミュ障だろうがなんだろうが、必要とあらば突っ込みます。一刀さんは遠慮なぞしませんよ? そんなことしてたら娘との交流なぞとてもとても。

 なので正直に告げた。告げた上で、だからどうしたとばかりに友として胸を張った。

 

「結婚してください……!」

「ゆんゆん!?」

 

 そしたら何故か胸の前で祈るように手指を絡め、涙しながらプロポーズされた。落ち着こう、俺は今は聖女でも、中身は男だ。……あれ? それならいいんじゃないですか?

 ああいや外見的に相当危険ですが!? ……ああっ! これって紅魔族式のジョークってやつですね!? めぐみんも言ってたし!

 つい先日会ったばかりだというのに中々に濃いお二方。けれど大丈夫。北郷わかってる。北郷ね、乙女心以外だったら案外いろんなこと知ってるんだからね?

 

「結婚したいほど友情を感じていただけるのは嬉しいですね。でもゆんゆん? その場合、まずは親友からですよ」

「親友……!!」

「その先に大親友や義キョーダイなどの称号もあるのですから、結婚は判断が速いですよ」

「はぅ……! わ、忘れて! 今のは忘れてぇええっ!!」

「ゆんゆん……誰かが今の出来事を忘れたとしても、私はずうっと覚えていますよ。知り合いの紅魔族が聖女に愛の告白をした、と───」

「やめてよめぐみん! ていうかめぐみんだって魔力分けてもらった時に告白してたでしょ!? めぐみんがそのつもりなら、私だって覚えてるんだから!」

 

 そしてギャースカ騒ぎ出す二人。うん、善き。

 でもカウンター前で騒ぐのはやめましょうね。

 

 

  ───こ、このす「このすばぁっ!」めぐみん!? 今私が言おうとしたのにぃいっ!

 

 

 デッテー・デゲデー・デッテ・テーッテテーン♪

 ◆討伐クエスト:一撃ウサギの討伐

 ◆討伐クエスト:一撃熊の討伐

 ◆討伐クエスト:トロールの討伐

 ◆討伐クエスト:オーガーの討伐

 

「って、なんで全部討伐クエストなの!? かずぴい!? かずぴいー!!」

「わたしたちの長所を考えるに、どうあっても討伐クエストになりました」

「そ、そんなこときっとないと思うの! ほらっ、なにかのお手伝いクエストとか、遠くのものの採取クエストとか!」

「ゆんゆん、ゆんゆん」

「え? な、なぁに? めぐみん」

「お手伝いクエストが誰かとの会話だったとして、あなたは役に立ちますか?」

「はぐっく!? ……そ、そういうめぐみんだって、採取クエストとかで意味もなく爆裂魔法撃ちそうじゃない!」

「いえ。私はちゃあんと時と場合は弁えますよ。採取に爆裂魔法など、誰が───」

「山の高い位置に素材があるからー、って山を破壊しましょうとか言いそうじゃない!」

「なにおう!? わわわ我がそんなことをするとでも───」

「はい、討伐クエストを選んだ理由がわかったところで、頑張りましょう?」

「「はい……」」

 

 紅魔族二人は、粛々と頷いたのでした。

 

「しかしかずぴい。一撃熊などの森に棲むモンスター相手に我が爆裂魔法を使えば、森が灰燼と化すわけですが。撃っていいですか、撃っていいんですか」

「だめです。きちんと誘き出しますから」

「えぇっ!? でも森の中で出会って、逃げ切れるのかなっ……!」

「ええっと、言ってませんでしたっけ。わたし、魔法等よりも体術、剣術の方が得意ですよ? 走りにも自信があります」

「………」

「………」

「不安そうに見ないでください。では、えーと……そうですね。クエスト達成は当日でなければいけないわけでもありませんし、お互いの実力を知るためにも適当なモンスターと戦ってみましょうか」

「えっ…………ダメなのですか? 一撃熊に我が爆裂魔法を放つ機会が来たと喜びに打ち震えていたのですが……!」

「あんな物騒な名前の熊相手に打ち震えないでください」

 

 ともあれ、今日は気力充実のオフ日……ではなく、軽いモンスター討伐日和ということで。

 ワサワサゆさゆさと翼やアレを揺らしつつ、モンスターを探しては───

 

「では、行きます」

「はい。危険と見たならすぐに我が爆裂魔法を───!」

「あの、それわたしも巻き込まれますからね?」

「そ、そうよめぐみん! ここはわたしの上級魔法で!」

「ここらの魔物に上級なんて必要ありませんから!」

 

 結論。紅魔族怖い。ということを知った。

 しかし、ひとたび木刀を構えれば意識も切り替わるというもので。

 

「雷の呼吸、壱ノ型。霹靂一閃───!」

 

 朔雷を高鳴らし、コボルトの首を木刀で斬ってみせれば、めぐみんもゆんゆんも目を輝かせて驚いた。いや、ほんとに光ってる! 輝いてる! どうなってるの紅魔族! 目が赤く光るとかすごい! なにあれすごい!

 

「すごいです! すごいのですかずぴい! 今のが噂のサム・ラーイの技なのですね!? ででではニンジャーは! ニンジャーの技は!?」

「忍者です。ニンジャーではなくて」

「で、でもすごい! あんなに離れてたのに一歩であんなに速く動いて、気づいたらコボルトの首が……!」

「なにを言っているのですゆんゆん! あの、斬ったのち、あの武器を腰に納めてから血が噴き出すのが素晴らしいのではないですか!」

「それもそうだけど、じゃあ全部すごいってことで───あれ? いちのかた?」

「ハッ!? そうなのです! かずぴい!? 壱ノ型ということは、まさか!?」

「ええ、呼吸の数もさることながら、様々な型があります」

「見せてください!」

「み、見せてもらっていい!? いいかなぁっ!」

「………」

 

 ヘンテコ・ネーム・パーティー。結成初日。互い互いの能力測定に決定。

 とりあえずモンスターが居る場所を探して、見つければ一人ずつ出来ることを探る、みたいな感じで───

 

「『エクスプロージョン』───ッッッ!!」

 

 ───見つけたモンスターが、景色ごとチョゴドガァッファァアアアン!! って轟音とともに爆裂した。

 

「……ぁぅ」

 

 そして倒れるめぐみん。

 

「ふ、ふふふ……どーですか、かずぴい……これが、これこそが爆裂、デス……」

「んー……めぐみんさんの魔力から考えるに、もっと威力を上げられると思うのですけど」

「…………聞き捨てなりませんので詳しく」

 

 倒れた彼女にとりあえず氣を流して魔力に変換。

 すぐに撃たれても困るので、中途半端な量で。すると起きはしたけど爆裂魔法は撃てない量だと気づいたのか、なにやら悲しい目で見られた。知りません。

 

「『ライト・オブ・セイバー』───!!」

 

 そんな俺達の傍らで、コボルトの群れを一人で斬殺するはゆんゆん。

 どう!? どう!? と鼻息も荒く、きっと褒められるかすごいと言われるかを期待しているような様相であった。

 

「ゆんゆんも、ちょっとこっちへ」

「えっ!? だ、だめだったの!? あのコボルトたち、(たお)しちゃだめだったの!?」

「そういう意味ではありませんから、こちらへ」

「うう……?」

 

 てっきり拍手でもされるかと思っていたっぽいゆんゆん、しょんぼりしながらもてほてほと歩いてくる。

 で、まずは……うん。

 

「めぐみんさんもゆんゆんも、魔法を放つ時はどういった感じで放ってますか?」

「あ、かずぴい、私のことはめぐみん、と呼び捨てで。私達は……(魔力)を分け合った姉妹ではないですか」

「だ、だったら私もそうよね! 姉妹で、友達!」

「図々しいですよゆんゆん。相手の迷惑も考えてください」

「ななななんでそんなこと言うの!? わ、私の方が先に魔力分けてもらったもの! それなら私の方が家族で友達になったってことでしょ!?」

「はいはい、すぐに喧嘩をしないでください。……ゆんゆんやめぐみんに魔力を譲渡して気づいたことがありますけど、二人とも、こう……魔力の回路、というのでしょうか。あれがどうにも素直すぎますね」

「素直、ですか?」

「えっと……ねぇかずぴい? それってどういう意味なの?」

 

 ふむ、と顎に曲げた指を当てて思考。

 で、とりあえず実践。

 

「まず普通に魔法を放ちますね」

「ええ」

「うん」

光線(テアノ)

 

 普通にレイを放つと、遠くに居たコボルト目掛けて“ムビー!”と光線が放たれて、ヘッドショットが完成した。ドゴォン、と爆発を起こして倒れるコボルトは、なにが起きたのか分からないといった感じで存命である。

 

「なっ……なんっっですか今のは! 光線!? 光線魔法!? キラッと光って一直線!? しかも聞いたことのないような魔法名!? 詠唱!? ええいどっちでもいいのです! 今のはなんですかかずぴい!」

「ちょっ……めぐみん! 今は説明してくれてる最中なんだから……っ!」

「なにを言うのですゆんゆん! あんっっな! カッコE魔法を見せられ、興奮しないわけがないのです! あなたはそれでも紅魔族ですか!」

「ぇ……で、でも、ああいうのはライト・オブ・セイバーを上手く操作すれば、それっぽく出来るってば! そりゃ、思ってるのとちょっと違うかもだけど……」

「ふふっ、いいんですよゆんゆん。めぐみん、今のは“光線”という聖女職の魔法です」

「聖女魔法……! くっ……職業に寄る限定魔法ですか……! なんと眩しい響き……!」

「では、次は工夫をして同じ魔力量で放ちます」

「? ええ」

 

 身体の中の氣と魔力をイメージ。それらを一度足の先まで下ろし、そこから手の指の先まで螺旋を描かせ昇らせて、そのイメージごと魔法を解放。

 すると、大きさは同じでも速度と輝きが段違いなレイが、おんどりゃあとばかりに駆けてきていたコボルトの頭をジュッ……と消し飛ばした。

 

「へっ……!?」

「わあっ……!?」

「……と、こんな感じなのですが」

「え、ええ……感じていた魔力量は恐らく一緒だったと思いますが、工夫、なんてものでこんなにも変わるものですか……!?」

「はい。わたしの想像が正しければ、ゆんゆんの魔法はもちろん、めぐみんの……爆裂魔法も」

「そ、それはつまり……!?」

 

 え? つまり? え? なに? なんでごくりとか喉鳴らして俺のこと見るの?

 え? なんかノリっぽく言ってやらなきゃダメ系なアレなアレなわけ?

 

「……そう。あなたの爆裂魔法には、あなた自身が気づいていない秘められた可能性があるんです」

「おぉおおおおおおっ!! いい! いいですよかずぴい! なんという素晴らしい響きっ! かずぴいかずぴい! その話が嘘ではないのなら! 私にその在り方を是非! 友となり仲間となった者との絆で己の魔法が強化される───嫌いじゃないです! 嫌いじゃないですよそういうの!」

 

 “そういうの”言わない。

 でも教えることにした。今日はまだまだ長い。のんびり行くさー。

 あ、ほら、ゆんゆんもそこでわたわたしてないで。

 

 

  ───こ! の! す! ヴァアアアッ!!

 

 

 サワヤカ・サワデー。もとい、めぐみんが詠唱を始める。サワデーに意味はない。なんかそんな音頭が取れそうなBGMとか流れそうな雰囲気なものだから。

 そんな彼女を後ろから包むように抱き、氣を通して魔力の流れを知る。

 

「いえ、そこはこう、左肩の前まで伸ばした右手を大きく半円を描くように、一気に払って」

「むう、こう、ですか?」

「いえ……そうですね、少し見ていてください」

「はいっ! 爆裂魔法がより最強になるのなら、どれほどの時間だって待てますよ!」

「はい、では」

 

 流れる氣を魔力に変換。それを氣と混ぜてさらにぐるぐると回転させてゆく。

 それらを、言った通り氣を扱うのと同じように螺旋で行使。

 けれども普通に詠唱したところでめぐみんには響きそうにないし……いっそそれっぽく格好よくいってみよう。唸れ、我が中二魂! かつては剣道に時を費やし、“我が剣の前に敵は無し……!”なんて思っていたハァッズカスィイイイ我が魂よ!

 

「我唱えん!!」

 

 氣と魔力を充実させたら、さあいざ足を肩幅以上に開いて、右足は左足より半歩後ろ。言った通りに脱力させていた右手を左肩の前まで、持っていき、胸の高さを保つように円を描いて右へと振るう。手は当然、肩の前では軽く握り、払った際には広げる。あ、親指はちょ~っぴり内側に軽く伸ばすのがステキです。

 そして振るった瞬間に、足元から翼が広がる範囲まで、回転する魔法陣を出現させて、それっぽい演出。ほら、めぐみんも「おおおっ!?」と興奮しております。

 同時に、広げた六翼からも聖域と力場演出をすれば、光の粒子と緑色の粒子が魔法陣から溢れ出ているように見えて、さらに雰囲気はGOOD。

 

「我らを宿す黒き大地の上に! さしずめ、鈍色(にびいろ)(つるぎ)の如く! 太陽の目から遠く! 死の岸辺に誘う!」

 

 詠唱中も油断せず演出を固める中、内側では氣と魔力を合わせ、反発しようとする力をそのまま破壊エネルギーに変換。氣と魔力は消費することなく反発の力だけをぐるぐると作り出していき、放つ際には氣も魔力も破壊エネルギーも解放して、魔法として完成させる。

 さあ、いざ───! 頭の中で、かっこE魔法をイメージしたそれを解放!

 

「吼えよ地精!」

 

 詠唱中、時に指揮者のように振るっていた手を、ボーリングの球を投げるように振るうと、コボルトでも狙って来ていたのか、走って来ていた初心者殺しを地面から出現した巨大な剣が串刺しにする。

 

「泣けよ水精!」

 

 普通なら放てば霧散する魔力を氣で繋げて、別の魔法へ変換。

 空から瀑布のような水が降り注ぎ、霧散したことで巨大剣の串刺しから解放された初心者殺しを襲う。

 

「渦巻き唸れよ螺旋の風精!」

 

 瀑布と初心者殺しが地面に叩きつけられるのと同時に魔力を変換、大量の水が暴風になると、初心者殺しを超局地的竜巻が襲い、砕けた地面と巻き起こる風が、初心者殺しを刻んでいく。

 

「全てを払うは焦熱の火精!」

 

 やがて、全てを変換したわけではない水と土とを巻き込んだ風が内側から強烈な熱となって、閉じ込められた水を爆発させる。

 

「エレメンタル・バースト!!」

 

 それは圧縮され、密閉されればされるほど破壊力を増すかのように、離れた位置に発生させた四大元素を爆発させた。

 スチームエクスプロージョン……水蒸気爆発ってやつだ。

 キメゼリフの際にはそれらの効果に背を向け、なにやら“カッコE・ポーズ”を取るのも忘れない。

 

「ふっ……ふおおおお……! な、なんですか今のは! なんなんですか今のは! えれっ……えれめんたるばーすと、と言いましたか!? それも聖女魔法ですか!?」

「すごい……! 土、水、風、火の属性を順々に……最後の火なんて、すごい爆発で……!」

「自然の力を利用した魔法ですよ。蒸気爆発といいまして」

「手を振るってからの魔法陣の展開、詠唱しながらの腕や足の振り、手の広げ方や、目を閉じ、開く際の迫力……! なんっと! カッコ・E!! だというのに使用した魔力の量はそこまでではないとくるのだから……これが効率というものですか! 分かりましたよかずぴい! 私がこれを覚えれば、巧くすれば爆裂魔法を放っても倒れるまでいかないかもしれないと! そういうことですね!?」

「いえ、最大値が上がるまでは倒れると思います。結局、爆裂魔法を撃つことには変わりはありませんから」

「なんと!?」

「なので、その中でも最大の威力をいつでも出せるよう、魔力の運び方を学びましょう」

「むう。と、言われても。魔法の云々は既に紅魔の里で学び、私は天才と自負できるほどに優秀でしたよ?」

 

 あ。少しドヤ顔。

 ならばと、話の流れからして何処で混ざろうかを狙っているゆんゆんに、こちらから近づいて声をかける。

 それだけでまあなんとも嬉しそうな顔。

 

「ゆんゆんも里? とやらで、魔法に関する勉強は修めましたか?」

「え、う、うん。こう見えても結構優秀だったりしたのよ?」

「そうですか。では簡単な魔法を撃ってみてください。そうですね、あそこの岩に」

「え? え?」

 

 さあさと背に回り、両の肩をそっと押すようにして向き直させる。そしてGOサイン。

 遠慮なんて要りません。さ、はよ。はよ!

 

「じゃあ、えっと。『ファイアーボール』───!!」

 

 ゆんゆんのファイアーボール! 石が少し焦げた!

 

「こ、これで、いいの?」

「はい。では次はわたしが協力して……」

「え? えっ!? ひゃわぁんっ!?」

 

 触れていた肩から手をずらし、背から彼女を抱き締めるようにして腕を回す。と、ゆんゆんが真っ赤になって慌て出した。

 

「さあ、同じ魔法を」

「えぇえっ!? この状態で!? ひう、はうあ、あわわ……ハッ!? ううん、かずぴいはわたしたちの疑いや心配を晴らすためにきっとこうしているんだもの! ここでやらなくてなにが友達なのゆんゆん! い、いくねかずぴい!」

「はい。氣を流し込みますが、気にせず魔法を使ってください」

「任せてっ! 『ファイアーボール』!!」

「───」

 

 抱き締めたゆんゆんの体に自分の氣を流し込んで、魔力の動きを知る。

 彼女の中の魔力の流れ方を詳しく知るためだ。

 そしてそれはものの見事にわかったので───

 

「ゆんゆん、もう一発出来ますか?」

「う、うん! 任せて! ……頼りにされてる……! 私、必要とされてる……! ふぁっ、『ファイアーボー───」

「はい、そのまま」

「ふぴうっ!?」

 

 身体から魔力が流れ、手に集わんとしたところでストップをかける。

 まだ放たれないそれを氣でやさしく包むと、まずは彼女の体の中を氣で満たしてから、魔力に変換。その“俺の氣”であったもので彼女の魔力が流れる氣脈、とは違う……やっぱり回路? を調べて、淀みがないかを探す。

 ……氣脈と違って淀みは無し。けど細い所為で開ききっていない回路もあるようなので、そこを氣の棘でトチューンと急所突き。

 

「ひゃああんっ!?」

「…………あの。ゆんゆん? 突然なんという声をあげているのですか。なんですか。かずぴいに抱き着かれて興奮でもしたのですか」

「えぇえっ!? ち、違うからぁっ! なんかかずぴいが、私の中の何かを……!」

「これでよし、と。ではいきますよ、ゆんゆん。自分の内側にある魔力に集中してください。これから体験させる魔力の動かし方が、効率もよく威力も上げられる魔力の運び方です」

「へやっ、は、はいっ! ぁ、う、うんっ!」

 

 ゆんゆんが魔法を詠唱する。その際に練り上げられる魔力を氣で包み、螺旋を加えて移動させ、回転しながら移動する魔力がやがて火の奇跡を纏う頃、

 

「ゆんゆんさん! 今!」

「っ───『ファイアーボール』ッ!!」

 

 自分の中で渦巻く魔力にどこか不安を抱いた様相のまま、ゆんゆんは魔力を発動させた。

 すると───火球は結構な勢いでドッコォーと放たれ、岩に激突するや、一箇所に焦げ跡を残すどころか丸焼けにしてみせた。

 

「………」

「………」

「はい。螺旋魔力、習いたい人ー」

「「是非!!」」

 

 即答でした。

 

 

  ───……え? いいの? また私でいいの? じゃ「このすばぁっ!」めぐみん!?

 

 

 まず密室を作り、そこにごろごろした石や岩を積んでいきます。

 それらを火魔法で熱して、サウナを作ります。

 彼女達には体と頭を丹念に洗ってもらい、このサウナに来てもらっています。

 

「ね、ねぇかずぴい? これって魔法となんの意味が……」

 

 事前に十分な水分補給も忘れません。

 そうして熱した石などに水をかけてやると、ジュリァアアアアン! という不思議な音とともに熱々の水蒸気が部屋を満たします。

 

「ぁぅ……ぅうう……熱いですね……。フッ───だが。これも試練と思えばなんてことはないのです……!」

「そ、そうよね。これくらいだったらまだまだ───わぁっちゃああっ!?」

「おひゃぁああああっ!? ……ななななっ、なななにをするのですかずぴい! 急に布を振るって熱波を浴びせるなど!」

 

 蒸気熱波浴。サウナの中にて大きな布をヴァフォオと振るい、熱波を浴びせるアレ、アウフグースである。

 

「必要なことなんですよ。大丈夫です、とっても重要なことなので」

「むうっ……わかりました。こうなれば乗りかかった船です。どんなことだろうが黙して耐えるのみですよ。その先に、最強のアークウィザードの名があると信じて……!」

 

 そうしてサウナ10分目安が終了すると、次に浴槽へ案内。

 え? あ、はい、土魔法で作った小屋でやっているので、他の人が来ることはありません。なにせ壁破壊しないと中に入れないので。

 

「ふっ……たっ……たえ、ました、よ……! なにやら頭がぼーっとしますが、こんなものは普通の湯船に浸かれば……そ、そう、これしきの苦難なぞこの我にかかればうひいぃいあぁああああああっ!?」

「? なによめぐみん、急に叫んで……湯舟がどうかしあぁあああああああああああっ!! ひやっ! 冷っ! あぁあああああああっ!!」

 

 次いで、冷水風呂、目安1分。

 ピツォンと湯船に足を突っ込めば、冥府への扉が開かれる……かもしれない。

 二人は散々叫んだけれど、必要なことですと言うと耐えた。しっかり浸かって耐えてみせた。

 

「ひっ、ひっ……はひっ……! ソト……ソト、アタタカヒ……!」

「みず、水から、出ただけで……こんなにあったかいなんて……!」

「はい、お疲れ様です。ではこのタオルで体をよーく拭いてくださいね」

「……ふおっ!? ふっかふかなのです! なんですか、なんなのですか、この、この……この布は!」

「わあああ……! 私の家でもこんなふっかふかなの無かったのに……! わあっ、すごい! 体に当てるだけで、水滴すごく吸収するわよめぐみん!」

「ぁぁ……この布に顔をうずめるだけで、もう、どこからか迎えが来るような……」

「めぐみん!? ちょっとめぐみん! からだっ……体拭いて!? 冷たい水で濡れたままだと危ないからぁっ!」

 

 次に身体を拭く。丁寧に、しっかりと。水滴、残さない。

 それが確認出来てから、太陽光がよーく届くところに局部だけをタオルで隠した状態で、足をしっかり伸ばしても余裕がある長椅子に寝転がってもらい、外気浴。

 

「ぁ、ぁば、ぁばばばばばば……!!」

「ひゃあああ……!! あしっ、足の先、だけじゃない……!? 身体が勝手に跳ねて、震えて……!」

「キモチイイ……デス……!!」

 

 ととのう。

 急激に血流が整うことで、足の先端までビリビリと振動を感じるくらいとにかくめちゃくちゃ気持ちいい、いわゆる“ととのう”状態が完成。

 それらが終わると二人は泥のように眠ってしまい、その隙に氣を通して体の中の血流を阻害するようなものを全て排除。外側から内側までしっかりとクリーンした。

 その後二人は30分程度で目覚めると、水の魔法や浄化などで洗浄しておいた衣服を着込み、すっきりした表情で目の前に立ってみせたのだった───!!

 

「というかかずぴい? 今までのはなんだったのです?」

「体の内側を徹底的にととのわせる、ある種族に伝わる唯一神が教え広めた体内洗浄法です。今までより体が軽いでしょう?」

「う、うん! そうなの! 身体がすごく軽くて、今ならどんな魔法も最高の状態で撃てそうな気がするくらい!」

「はい。その通りです。内側から正すことで、お二人の中の魔力効率や氣の流れを調整しました。これだけでも先ほどまでよりは魔力循環が上手くいくと思いますよ」

「こんなことでですか!? 暑くて冷たくて布が気持ち良かった、くらいしか印象にありませんが……」

 

 (ろん)より書文。もとい論より証拠。

 再びゆんゆんを背から抱きしめると、氣の流れで魔力を誘導させた上で、今どのあたりに魔力があるのか、どこをどう流れさせ、回転させれば威力が高まるのかを認識。

 その上で、身振り手振りの重要性を説いてみせれば───

 

「『ファイ』ッ! 『アー』ッ! 『ボール』───ッ!!」

 

 照れながらも身振り手振りを加え、螺旋イメージを上手に運んだゆんゆんが放ったファイアーボールは、先ほどの焦げた岩を、焦がす以上の───熱が浸透して赤くなるほどの熱量を肉眼で確認させるほどの威力を見せた。

 

「…………あの。ねぇめぐみん。これ、わわ私の魔力が強くなった、とかじゃないわよね?」

「魔力量が変わったようには見えませんでしたよ。つまり───これを用いれば、我が爆裂魔法がさらに最強の階段を登ることにッッ!! さ、さあかずぴい! かずぴいかずぴい! 次は私ですよ!? 私に、さらなる爆裂を撃たせてください!」

「はい、少々待ってくださいね。……では、ゆんゆんさん。魔力の流れは理解できたと想うので、魔法のひとつひとつでどうすれば威力を高められるか、を確認しながらモンスターを討伐していてください」

「う、うんっ! 任せてかずぴい! 私、やりかたみたいなのちょっぴり分かった気がするの!」

「逸脱者との邂逅が孤高なる者を強くする……とても。ええ、とてもカッコ・E状況に、この私も興奮しきりです! さあかずぴい! さあ!」

「めぐみん、興奮しすぎると、ととのったものが乱れますよ。熱きは心に。常に冷静に物事を考えつつ、どんな状況にも対応できる最良の己を作りましょう」

「フッ……もちろんです。が、それはそれとして早く撃ってみたいのです! さあかずぴい! さあ!」

 

 うーんこの娘、絶妙に話を聞かない。

 でもまあ気持ちは分かる。こういう状況が好きなのですね? なんとなーく分かるよ。長旅してると人との絆とか恋しくなるもの。

 そんなあなたにこんな言葉を。

 

Der(デァ) Alte(アルト) würfelt(ヴュルフェルト) nicht(ニヒト).」

「なっ!? ななななんですかそのカッコ・Eセリフは!!」

「神はサイコロを振らない、という言葉です。いわゆる“全く同じ条件で行なったことは結果が変わるはずがない”という意味ですが、言ってしまえば同じ結果を求めて違う条件で行動すれば、結果はどれほどでも変わるということですね」

「神は、サイコロを……」

 

 神というか、ドイツには神って言葉がなかったから老人だの古き者って意味になるらしいけど。まあようするに誰かは言ったわけだ。同条件でなにかを行なって、違う結果になるわきゃないと。

 そりゃそうだって思う。ただ、同じ条件なんてものを実際に作りだすのはほぼ不可能なことを考えると、言葉としてはなかなか難しいものがあると思う。

 

「さ、そういうわけですから、同じ条件を凌駕しましょう。今のめぐみんは先ほどまでのめぐみんではありません。いわばネオ・めぐみん」

「ネオ・めぐみん……! いいでしょう! ならばこの、かつてないほどととのった私が! 真の爆裂魔法というものを見せてあげようではないか!」

 

 めぐみんが眼帯を外し、カッコよくシュパッと投げ捨てる。それをキャッチするとひとまずは懐に仕舞い、めぐみんを後ろから抱きしめて……集中。

 

「氣で誘導しますから、その時に引っ張られる感覚を覚えたら、その通りに動いてみてください」

「わかりました! ではいきますよ!」

 

 めぐみん、杖を構え、集中。途端、溢れる魔力量が風圧となって、草原の草花を揺らした。

 

「───黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が真紅の混淆を望みたもう」

 

 っとと、集中を切らすな俺。

 めぐみんの体の中で暴れ始める魔力を、体の中に走る回路をきちんと走らせることで安定させる。

 こんなもんを無理矢理押さえつけた上で魔法として放つんだ、そりゃ普通の魔法でも相当な威力になるだろう。けど、ととのった上できちんと走らせてやった魔力だって、暴走には負けやしない。

 

「っ……覚醒の時来たれり。無謬の境界に堕ちし理。無形の歪みとなりて現出せよ!」

 

 魔力の動きが変わったからか、一瞬めぐみんの体が跳ねる。けど大丈夫だときゅっと抱き締めて、集中させる。もちろん俺も集中。

 普段走らない部分にまで魔力が走ったからか魔力がブレそうになるけど、そこは身振り手振りで綺麗に流す。

 さあいざ、こっからが螺旋の本領。

 

「さ、いきますよめぐみん。どうか、あなたの魔力を信じてあげてください」

「……! 踊れ、踊れ、踊れ……! 我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶものなき崩壊なり! 万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!」

 

 回路の中を、あばれるように走る魔力を螺旋に働かせることで正しく走らせる。

 飛び散らないよう、回路を傷つけぬよう、出そうと思った瞬間に正しく思うように出せるように。

 やがて、全身の魔力がいざ、手の先の杖に集中せんとした時、全ての魔力が一気に走り、放出の喜びを彼女に齎す。その瞬間の多幸感は、やった人にしかわからんのだろう。

 

「穿て! 『エクスプロージョン』───ッッ!!」

 

 全魔力。そう、それこそ彼女の中の全ての魔力が、一切を残さぬ魔力が杖に集結し、そして放たれた。

 結果は…………ぁハイ、エグかった。

 え? なに? 爆裂系魔法威力向上のスキルでも取った? もしくはレベル上げた? ってくらいに。

 ふえ、なんてぽかんとした声を上げためぐみんが、その巨大な爆炎とキノコ雲を見上げながら、くたりとこちらへ体を預けてくる。

 

「ほ、ほわ……ほわわわわわ……! なななん、なんん……!?」

 

 その威力に驚いているようで、さらには体を襲う多幸感に震えているらしく、なにやら顔がぽやぽやしている。

 

「今のがめぐみん。あなたの最大最高火力です。同じ魔力でも工夫次第ではああなる、ということですね」

「ぇ、ぇあ、は、はい……!」

Der(デァ) Alte(アルト) würfelt(ヴュルフェルト) nicht(ニヒト).……神がサイコロを振らないのなら、振らせてみせればいいんです。他でもない、めぐみん、あなたがです」

「神に……、わ、私、こそが……!!」

「はい。では今度は一人でやってみましょう」

 

 言って、氣を注ぎ込んで魔力に変換。彼女の回路を満たしてやると、めぐみんは……まるでゆんゆんのように「いいの?」なんて、子供のように訊ねて来た。口調変わっとるよー。

 ともあれ、まあ。サムズアップとともに笑顔になってみれば、めぐみんは「日に幾度も爆裂魔法を撃てるとは……!」と、目を爛々に輝かせ始めた。

 

「光に覆われし漆黒よ。夜をまといし爆炎よ」

 

 ───ん?

 あれ? ぁれちょ待って? 繋ぎっぱなしだった氣が訴えてきてる。おまん、詠唱違うと魔力の流れも違かとよ!?

 

「ちょっ……めぐみん! ストップ! だめです! 魔力の流れ方が変わってます!」

「いいえ待てません! 『エクスプロージョン』───ッッッ!!」

 

 ……そうして、爆裂魔法は放たれました。

 けれども威力は先ほどより低いし、爆発の仕方に花もない。キノコ雲どころか乱雑にばらまかれた廃棄ガスめいた煙しか上がらなかった。

 そして、ととのわない魔力行使に、めぐみんの表情はどんよりとした不快感を隠しもしないものになっていた。

 

「ぁ、ぁぅ……なぜ……どうして……!」

「めっ」

「ぁぅっ」

「どうもこうもありません。詠唱を変えたことで、魔力の流れが先程とは全くちがっていたんです。確かに神にサイコロを振らせればいいとはいいましたが、慣れない内からアレンジを求めてどうしますか。そういうことは、魔力をきちんと操れるようになってからです」

「うう……ですが……」

「可哀想に……回路も傷がついちゃってるじゃないですか。今治しますから、動かないでくださいね」

「ぅぅ……」

 

 氣で包んで、少しずつ魔力を流し込みながら、傷ついた回路を修復していく。

 氣で氣脈が治せるのなら、とやってみたけど……治るね。よし。

 

「マイナス90点をくれてやります。今の爆裂魔法には、めぐみんさんの愛情も、爆裂魔法としての花もありませんでした。より強力なものをと急ぐあまり、爆裂道を愛ではなく見栄で駆けた結果です」

「…………ごめんなさい」

「はい。謝れるのはとても素晴らしいことです。あなたほど爆裂魔法を愛している人は居ないのですよ? そんなあなたに道を踏み荒らされたら、今度こそ爆裂魔法は本当の孤独を味わうことになります。ネタ魔法、なんて言われて、誰からも見向きもされなくなるのですよ」

「……! そ、そんなっ、私はそんなつもりではっ……!」

「……愛してあげてください、めぐみん。そのカタチが浪漫を求めるというだけでも構いません。初級魔法達が冒険者に笑われてしまうような世界の中で、それでもそんなものは使い様だと愛されているこの世界です。……あなたなら出来ます。疑わず、見栄に囚われず、ともに、あなたの魔力と成長させていってください」

「………………」

 

 草原に彼女を寝かせ、膝枕をしてその頭を撫でる。

 デコボコに散った爆裂の煙が風に簡単に流されていくのを眺めながら、めぐみんは一度、目を乱雑に腕で拭った。

 

「好きと言われて喜ぶ心を知っています。なにかとともにある喜びを、ともに成長出来る日々を幸せと称す人も居るでしょう。……あなたが傍に居たいのは浪漫ですか? 格好良さですか? それとも……爆裂魔法ですか?」

「───っ……当然! 爆裂魔法です!!」

 

 はい、回路の修復完了。そのついでに、回路にも十分に魔力が含まれた。

 途端にめぐみんは起き上がり、目尻に残っていた涙を散らした。

 

「間違っていました……! 私は爆裂魔法が好きです……! 爆裂魔法を愛している!! 浪漫? 見栄? そんなものは後からいくらでもついてきます! 目的と手段が食い違っていました! 私は……私は!!」

 

 魔力が溢れる。

 杖を持つ手に光が籠り、俯かせた目は既に真紅に輝き、その光をこれっぽっちも失わせていない。

 

「そうです……そうですよ。我が魔力を使うから輝くのではないのです。爆裂魔法は最初からそこにあって、けれど好きを、焦がれを、恋を、愛を注ぐからこそそれ以上にもそれ以下にもなるのです! そして私は───爆裂魔法しか愛せない!!」

 

 マグマの渦にも似た魔法陣が踊る。渦のように回転する魔力と輝きが空へと集い、けれどその集い方も螺旋のように昇っていくものだから、ただ集うだけの魔力とは比べ物にならないほどの風圧を生む。

 

「自分ならばと(おご)り、彼女よりもと見栄を張った私を許してください……! 今、ともに歩むこの爆裂道に、我誓わん! 私はぁあああっ!! 爆裂魔法をぉおおっ!! あぁああぃいッッしてぇえええッッいるぅうううううっ!!」

 

 やがてそれは轟音を掻き鳴らす上空の渦となり、あとはトリガーとなる言葉を放てば降り注ぐ破壊の象徴となるわけで。

 

「『エクスプロージョン』ンンンンッ!!!!」

 

 声が掠れるほどの大絶叫。

 集った魔力は並ぶものなき崩壊となりて……草原に大爆発を齎した。

 かなり離れているのに吹き飛ばされそうになるほどの風圧と熱が広がって、あとには巨大なキノコ雲を残した。

 

「…………ぁぅ」

 

 ぽてりと俺の膝に倒れてくるめぐみんは、けれどやり遂げた顔でキノコ雲を見つめた。

 

「はぁ……はぁ……! どう、ですか……! 見事なものでしょう……!」

「はい、見事なものです。確かに伝わりましたよ、爆裂魔法への比類無き愛……!」

「愛……!」

「はい、愛です」

 

 めぐみんは達成感と多幸感を胸に、すぅっ……と息を吸って、吐いた。

 そして言うのだ。「我が爆裂道に、もはや一片の曇り無し!」と。

 そんな言葉を聞けば俺も満足ってもので、彼女の中に氣を注いで満たしてやると、お疲れ様ですと頭を撫でた。

 

「さ、ゆんゆんもそろそろ仕上がっている頃でしょうし、あまり一人にすると拗ねちゃうかもですからそろそろ」

「『エクスプロージョン』ッッ!!」

「めぐみん!?」

 

 膝枕を終わらせて、目を閉じてさあさとばかりに立ち上がる……と、魔力に満ちた彼女は早速ブッパした。

 チュンゴォオオオオン!! と爆炎が上がります。

 

「くぅっ……こんなものではありません! か、かずぴいかずぴい! 魔力を! 私に納得の爆裂愛を放てる魔力をください! 私はまだっ───愛しきれていない!」

「愛が重い!?」

「なにを言うのです! 愛とはこんなものではありません! 愛とは! 愛とは愛とは愛愛愛愛あぁああいぃいいっ!!」

「………」

 

 この時僕は……一途なのも考えものだナ……なんて、考えたのでした。

 とりあえず当身でもしましょうかね、うん。

 その日、頭のおかしい爆裂娘の腹に、干天の慈雨ならぬ干天のボディーブローが炸裂した。

 あ、大丈夫。威力はほとんどなく、ただ氣で内臓を揺らしただけなので。

 ぽてりと倒れるめぐみんを受け止めて、さてゆんゆんは───と視線を後ろの景色へと向けてみれば、

 

「『ライト・オブ・セイバー』!! ……すごい! 心と体が一体になったみたいな、魔力に寄り添って戦ってるみたいな一体感……! わ、私、一人じゃなかった! こんなに近くに相棒が! 魔力さんが居てくれたのね!」

「ゆんゆーん!?」

 

 涙を散らしてまで喜んでいるっぽい紅魔族さんがいらっしゃった。

 そして、爆裂魔法の轟音を聞きつけてかやってきたらしい魔物の群れを、魔法で滅ぼしまくっている。

 ……わあ、勤勉だ。教えられたことを超集中的に。はい、ぼっちの“御技(みわざ)”にございます。

 ぼっち───それは全ての時間を己のために割ける最強の存在。

 人気者のように他人に時間を割く必要もなく、ただ只管に己のために時間を使える、ファンタジー等の研究者が孤高である理由の最たるものである。たぶん。

 

「あっ! かずぴいかずぴい! 私、コツみたいなのが掴めたの! 自分の魔力と向き合うってこういうことなのね! もう私、一人じゃない!」

 

 いや一人だよ。

 思わず口から出かかった声を飲み込んだ。やばい、この娘やばい。

 優秀なのに。ほんのちょっぴり目を離した隙にぼっち度が加速している……!

 

「私、かずぴいに出会えてよかった! 今まで私に友達らしい友達が居なかったのは、かずぴいと出会うためだったのね!」

「友情が重い!?」

 

 紅魔族ってこんなのばっかなの!? いや友情を強く思ってくれるのは嬉しいんだけど! 嬉しいんだけどさぁ!

 

「黒より黒く……闇より暗き漆黒に、我が真紅の混淆を望みたもう……!」

「めぐみん!? もう目覚めたの!?」

「あっ、めぐみん! そっちはどう!? 私はついにこの世の真理に辿り着いたわ!」

「フッ……今さらですかゆんゆん。遅いですよ。私など出会った瞬間からかずぴいを生涯のパートナーとしてですね」

「なに平然と嘘ついてるの!? 最初なんて警戒ばっかりしてたくせに!」

「ほう、疑いますか、今の私を。ならば今この瞬間に放つ爆裂魔法を絆の証として見せつけてやりましょう! 踊れ、踊れ、踊れ……!」

「だっ、ちょっ……めぐみん!? 分けた先から使い切るのは危険です! もっと体に馴染ませてから───」

「大丈夫ですよかずぴい。私は私の魔力と、あなたがくれたこの力を信じています。───なので止まるとかないです有り得ません有り得ないから撃つんですええ真理ですとも『エクスプロージョン』ンン!!」

「あーーーーっ!?」

 

 まるで早口言葉のように言葉を並べながらの爆裂魔法。既に魔力の流れのコントロールにも慣れているのか、身振り手振りも見事で、詰まることなく螺旋を描いた魔力は素直に杖へと集い、それを完成させた。

 直後、轟音を高鳴らせて大爆発を起こし、綺麗で立派なマッシュルーム爆炎を作り出す。巨大な爆発の際のキノコ雲……男の俺にはかなり刺さる光景。

 円形の爆発エネルギーが某最後の幻想6のアルテマの如く広がっていく~どころではなく、天を焼かんとする爆破エネルギーが地面より伸び、それに引っぱられるように爆炎も空へと昇り、最後にはキノコ雲が完成する。

 うーん……ナイス爆裂。でも与えた先から爆裂されるのもとっても複雑なんだよなぁ。

 ……まあいい。これで個人個人の力量はわかったわけだし、効率のいい魔力行使も習得できたわけだ。

 さ、クエストだ。

 ……ということを話してみれば、

 

「なにを言っているのですかずぴい。まだかずぴいのサム・ラーイやニンジャーの技術を見ていませんよ」

「紅魔族は基本、魔法しか使えないから……むしろかずぴいのそのー……呼吸? 型? にんじゅちゅ? ってとっても気になるの。だ、だからそのー……よ、よかったら見せてくれたらなーって……」

「………」

 

 了解した。ただし実戦で。

 出てくるモンスターを呼吸でブーストした身体能力を用いて、型は使わず。鈍ってないかの確認もあったし。

 あ、鬼の呼吸は無理なのでスルー。あれ鬼の王の素質が無いと絶対無理。

 

「討伐クエスト……終わってしまいました……。これで達成報告をすれば、お金がもらえるなんて……」

「ほ、ほわっ……ほわいとうるふの群れが、あんなに簡単に……!」

 

 敵はいっぱい居た。季節にはまだ早いというのに、冬に出てくるらしいモンスターの群れと森の中で遭遇した俺達は、それなりの対応をした。

 ああうん、なにかに怯えている様子から、たぶん爆裂魔法の轟音を聞いて巣から出て来たんでしょうけどね? ……すいません、迷惑レベルの騒音高鳴らせておいて、出てきたら皆殺しって……ほんとすいません。

 

「聖女なのに剣の戦いにも長けている……何者なのですかかずぴいは」

「侍と忍者の末裔です。聖女になったのは冒険者ギルドで登録した瞬間ですよ。それまでは普通でした(性別以外)」

「あの……かずぴいは、なるならどんな職業になりたかったの?」

「冒険者ですかね。最弱職でも、努力すればなんでも出来るってところに惹かれました」

「なるほど……と納得したいところですが、かずぴいは現状でもほぼなんでも出来るじゃないですか」

「教えてもらえれば様々なスキルが使えるって、素晴らしいじゃないですか。伝説の剣を操って、その剣に爆裂魔法を付与して、エクスプロード・ブレードとか出来るかもなんですよ?」

「なんですかそれはもっと詳しくッッ!!」

 

 あ。釣れた(フィッシュ)。けど別に大げさな話があるわけじゃなくてですね? この世界に魔法剣なんてものがあるかもわからn───ぁ出来るよ。剣を魔法剣に変換すれば出来るよ。

 でもまさかなぁ、変換にだって限度ってものが───と思いつつ、手頃な石に触れて変換。

 石の剣になったそれに、さらに変換を加えて……

 

「はいめぐみん。振るってみてください」

「? これは、石の剣、ですか? 結構な重さですがっ……とと、ほわぁっ!?」

 

 渡され、持ってみれば重く、へにょりと振るった刃から風の刃が放たれた。

 やばい、エクスプロード・ブレード、出来るかも。

 

「この剣は今から“ちゅるばん”です。古にて魔の者に石化された伝説の剣です」

「それ今作ったんですが!?」

「ていうかなんで当然みたいに剣を懐に仕舞おうとしてるの!? それかずぴいのでしょ!?」

「ところでかずぴい? ニンジャーだのサム・ラーイだのは、いったいどんな存在なのですか? その末裔、と言われてもいまいちピンときませんよ。紅魔族のように魔法に長けている、などの特徴はないのですか?」

「ええと、そうですね。私が知っている特徴として、忍者───忍は、夜の闇に生きる暗殺者、または情報収集を生業とした存在です」

「なんと!? 夜の闇……! 暗殺者……!」

 

 おーい、光ってる。目が光っとるよー。

 

「暗殺、って……ね、ねぇかずぴい? 忍者は、人を殺すの?」

「はい。歴史の表舞台には決して浮上せず、常に影に徹して敵を討つ隠密の達人です。主の命により、悪を働く存在の党首を闇に紛れて討ち滅ぼす。そんな、そういった存在ですね」

「おおおお……! 紅魔族の琴線に触れる素晴らしい設定です! それでそれで!? ニンジャーにはなにが出来るのですか!? 暗殺、というからにはそれなりの術、というものがあるのでしょう!?」

「忍法、と呼ばれる技術が一般的ですね。例えば───」

 

 印を組むフリをして、無刀流・風遁塵旋風。

 突き出した手から風の渦が出るのを見るや、めぐみんの目は爛々と輝いた。

 次いで口から炎を吐いたり分身などを見せてみれば、めぐみんはそれはもう子供のように燥いでみせた。

 え? ゆんゆん? マスコットキャラのぬいぐるみが持つ風船に憧れる子供のように、目をキラキラさせてこちらを見ておりましたよ。

 

「はあ……はあ……! 素晴らしい……素晴らしいですよニンジャー……もとい忍者! で、で!? 先に紹介したということは、サム・ラーイはもっと凄いのでしょう!? 先ほどのなんとかの呼吸、とやらが全てとは到底思えません!」

 

 大興奮のめぐみん=サン。もっともっと見せてくれとばかりにしがみついてくるその手を利用して、変わり身の術を行使。といっても丸太に服着せて、歩法で背後に回って喉に短刀押し当てるだけですが。

 

「……動けば殺します」

「ひぃいっ!? ぁあああのあのごめごめんなさい殺さないでください! 調子に乗ってしまったことは謝ります! 謝りますからー!!」

「と、まあこんな感じですね、忍者は」

「へ? …………し、心臓に悪いですよ……! けれど素晴らしい! 確かに掴んだと思ったのに、いつの間にか丸太に変わるなど……!」

 

 と、からかいもしたところで全集中。呼吸を強く意識すると、体の到るところに痣が出現する。

 

「? ね、ねぇかずぴい? 身体に、変わった模様が浮かんできてるわよ?」

「これが侍の呼吸法の果てに使用可能になる痣です。発現させると寿命が半分以下になります」

「「ぇえええええええええええええっ!?」」

「ようするに前借りのようなものです。未来の力を今この瞬間に凝縮させる、呼吸の秘奥ですね」

「ア、アノ、カズピイ……!? ソレッ……ソレハ、ソウイウ設定、トイウコトデハ……!?」

「? いいえ、普通に寿命は減りますよ?」

「まままままさか! かずぴいの種族がかずぴい以外に居ないのは!?」

「……あー……あの。はい。吹聴はしないでくださいね。というか、一度出現させてしまえば寿命は変わらないので、なにもお二人の所為で寿命が、なんてことにはなりません。安心してください」

「では既に寿命が!? 強さの秘密はそういうことなのですか!?」

「はい。そう思っていただいて結構です」

「「ぁあああああああああああああっ!!」」

 

 紅魔族の二人が頭を抱えて絶叫した。

 

「何年ですか!? いったいどれほど削られるんですかその寿命は!」

「平均で、痣者(あざもの)は25年しか生きられません」

「25ッ…………!!」

「そんなっ……!!」

 

 紅魔族の二人が目からハイライトを無くし、ふらりと眩暈を起こしたかのように座り込んでしまった。

 だ、ダイジョブヨー? 北郷、もはや寿命とか関係ないから。

 あ、でも元の世界に戻ったらどうなるんだろう。普通に死ぬ? ……あ、なんか反動で死にそう。

 

「大丈夫ですよ。その対処法ももう確立されています。わたしが25で死ぬことはもうありませんから」

 

 だって実際の年齢、25どころじゃないし。嘘は言ってないよ? 仲間に嘘つくとか心苦しいしね?

 

「ほ、本当? かずぴい、本当に、25で死なないの……?」

「ええ。命を懸けましょう」

「命の話で命を懸けられても困るわよぅ!!」

「まあまあ。サムライ・ニンジャ流の冗句ですよ。というわけで、これから呼吸の奥義を宿した末裔が末裔たる所以、その秘奥を見せてくれましょう」

 

 言って、紅魔族風にヴァサァとマントを広げるように、法衣を広げてみせる。

 ……というか、法衣で刀術は辛い。ので、変換。忍術っぽく見えるように、印を結ぶのと同時に煙まで出してドロンと演出。変換を実行して、法衣をヒテンミツルギスタイルに変えてみせた。

 

「おおっ! 衣装が一瞬で……!」

「では、とりあえず歩法から見せますね。今からギルドに行って報告をして、また魔物討伐クエストを貰ってくるので少々お待ちを」

「えっ? い、今から? ここからアクセルの街って結構って速ぁあああああっ!?」

 

 神速歩法で地を蹴り、朔雷を後に残して移動を開始した。

 アクセルにはすぐに着いて、ギルドにもすぐに着いて、確認が済めば任務完了。衣装の違いで驚かれはしたものの、すぐに依頼を受けては二人のもとへヘイお待ち!

 

「と、こんな感じです。はい報酬と依頼の追加」

「ほんとにもう行ってきたのですか!?」

「ここまでは馬車で来たのに!? さ、さむらい、すごい……!」

「人の可能性を見た気がしました……! なるほど、紅魔族が魔法に特化した存在ならば、かずぴい達侍忍者族は物理に特化しているのですね」

「はい、きっとそんな感じなのでしょう」

「それがど~して聖女などに……? その設定で行くならば、聖女というのは魔法に特化した我らから選ばれるべきでは……?」

「そうですね……そしたらきっと、めぐみんの爆裂魔法も変異するのでしょうね。聖女のみが扱える、光と闇がそなわり最強に見える神聖なる闇の爆裂魔法、とか。名前は……セイクリッド・ブラッド・エクスプロジオ、とか」

「その設定詳しく」

 

 設定言わない。

 

「むう。でも神聖なる闇の爆裂魔法ですか。爆裂魔法は爆裂魔法だからこそ素晴らしいのですが、素直に心惹かれる私が居ます」

「わたしの里には合体魔法、というのも伝承としてありましたよ? 他には二人掛け、という、二人でひとつの魔法を完成させるというものです」

「詳しく」

「あ、あの、かずぴい! 二人掛け、の方を私もっ……!」

「………」

 

 日本のゲーム知識には、いちいち紅魔族の琴線に触れるものが多すぎるらしい。

 まあ、うん。それでは早速いきましょう。

 加減はせず、けれども派手にド派手に派手派手に、だ。

 

(……覚悟、完了。です)

 

 ふふっと笑って、もう聖女にいろいろ侵食されてるなぁと呆れた。嫌悪感とか無いからべつにいいんだけどね。もうこういうの慣れたし。

 

  というわけで。

 

 型と呼吸を見せつつ、討伐依頼のモンスターを次々と屠ってみせれば、二人はそれはもう興奮した。

 あそこまで赤く赤く輝く瞳で見られれば、嫌でも興奮しているってわかるもんだ。

 煉獄でトロールを焼き貫いた時なんて、炎が走る様にめぐみんがカッコEってやかましかったくらいだ。

 けど、結構スムーズに変換できるもんだ。これもあの時代から今まで、鍛錬に人生を捧げたみたいな生き方をしたお陰だろう。

 どれをどうすればそうなるのか、がイメージしやすいのだ。

 だから───連続で変換できるかを試してみたくなりました。

 で、連続で属性攻撃っていったらアレだと思うの。思ってしまえばあとは早い。敵を探して突っ込んで、いざいざ以前までならやらなかった、好戦的突撃奥義。

 ではいきましょう。英語版の方が喜びそうだし、そっちで。

 

「シェイク! スプリット! スラッシュ! ウィンド! クラッシュ! パニッシュ! ディバイドエンドォッ!!」

 

 黒檀木刀に纏わせた氣を属性魔法に変換しつつ、一人連携のように次々と異なった属性に変換、攻撃を連ね、トロールに付き従っていたゴブリンを纏めて屠っていく。敵に当てる前に木刀から氣を放って属性に変換すれば、結構派手な上に高威力な魔法に変わるから面白い。相手にとっては地獄かもだけど。

 その地獄のような光景を前に、何匹かのゴブリンは悲鳴を上げて逃げるわけだが───

 

「かずぴい! 逃げますよ!? 撃っていいですか!? 撃っていいですか!?」

「いいえめぐみん。相手が背を見せ逃げるのなら、こちらも背です。必死になって追い縋るのではなく、相手が背を向けたらなこちらも背で語ろうではないですか」

「背で、とは……!? でも討伐報酬が───」

「マリクビーム!!」

「「!?」」

 

 腕を組み、ゴブリンに背を向ける。と、その背から背丈以上もある極太巨大ビームが発射され『ゴゲギャアッ!? ギャッ……ギャアアアァァァ───……』……ゴブリン達を飲み込んだ。

 けれどその余波を癒しに変換してみれば、ゴブリンたちは消し飛んでも地面からは草花がポコポコ生えてくる謎現象。

 ……うん。今さらだけど、ファンタジーがどうとか以前に御遣いの氣も相当アレだよね。

 

「す、すごい……魔物を退治して、その上に草花が……!」

「くっ……なるほど、これも“聖女の御技”というやつですか……! 我ら闇の炎を纏う者たちからすれば───」

「違いますよめぐみん。わたしの場合はそもそも侍で忍者なので闇で影です。すなわち───聖女のわたしは光と闇が両方そなわり最強に見えるアレです」

「なっ……ずるいですよかずぴい! そんなっ……そんな能力なんて! 素晴らしすぎるじゃないですか!」

「めめめぐみん!? 関心持つとこそこじゃないと思うんだけど!?」

 

 めぐみん、目を爛々に輝かせてカッコEを唱えるの巻。

 けれども紅魔族の常識人、ゆんゆんは流石にそこにツッコんだ。

 ……うん、カッコ良さ勝負をしているならその評価も分かるんだけど、違うなら関心するとこそこじゃないよね。

 

「……やれやれ、ゆんゆんは分かっていませんね。いいですか? 光と闇というのはそもそも混ざり合わないものなのです。光があるから闇がある、などとはよく言いますが、どうあっても混ざることはない……それが一つになった! それが今のかずぴいなのです!」

「そ、そんなのは分かってるわよ……あ、光と闇が好きっていう意味では。里のみんななんて闇の炎なんて言いながらライト・オブ・セイバー使う人ばっかりだし、分からないわけがないじゃない」

「ではなにが不満なんですか。背から光を放ち、魔物を滅する闇……素晴らしいじゃないですか!」

「はいはい、二人ともー? 話はそこまでにして、今日はちょっと遠出したりする依頼もあるので、野宿も視野に納めて行動しますよー」

「いいえまだですかずぴい。他にも奥義や秘奥義があるのなら是非とも見せてほしいのです」

「め、めぐみん! ちょっと! 頼んで見せてもらってるのになんでそんなに偉そうなの!?」

 

 ありがとうゆんゆん。たぶん興奮した紅魔族にしっかりツッコめるの、ノリや流れに慣れてるゆんゆんじゃないと難しいかもだから、是非ともそうあってくれ。

 とはいえ……奥義とか秘奥義かぁ……。

 紅魔族が喜びそうな奥義? 秘奥義っていったら───あ。

 

「ええと、それでは光と闇の融合を、実際に見てもらおうかと───」

「出来るのですか!?」

「出来るの!?」

「はい、出来ますよ? 少々時間がかかりますけど」

「是非! 是非見せてほしいのです! それはいったいどのような輝きですか!? 闇なのに輝く……輝く闇!? 興味がつきません!」

「ちょっ……落ち着きなさいよめぐみん、かずぴいが時間がかかる、なんて言うなら、きっと難しいものなんだから」

「フッ……言うじゃないですかゆんゆん。ええ、確かに正論です。平然と有り得ないようなことをやってのける、聖女としてのかずぴいが時間がかかる、などと言うのなら、儀式のようなものさえ必要なのかもしれませんが。……言いつつ目が輝いていますよ、ゆんゆん。紅魔の血は争えませんね」

「えぇっ!?」

 

 慌てて目を手で隠しつつ、けれどその間からソーっとこちらを見るゆんゆん。……なんか行動が意中の裸体を見てしまった思春期な子(なお性別は問わない)みたいだからやめなさい。

 ……さてと、言っては見たけどほんとに出来るかはちょっぴり不安。

 さてさて、結果を望むなら本来の行動とは少々変える必要があるから、頭の中で行動を描いてみて……よりそれっぽくなるように、変換することも忘れずに。

 いや、ほんとこの変換って便利だ。こんな素晴らしい能力をくれた女神様、ありがとやんしたぁーっ! とか無邪気に言いたくなるくらいに。

 ではまず身体を捻るようにして左肘を胸前に持ってくるようにして、手は握って額辺りに。右手は左肘の下辺りに構えて、まずはその右手に光属性を。

 

「交わらざりし生命に」

 

 両手を横に払うように広げて、左手はナナメ下、右手は天に翳すように上に。

 

「今もたらされん刹那の奇跡」

 

 奇跡、の部分で広げていた手を握り込み、その瞬間に光の剣が出現するよう演出。

 

「時を経て」

 

 光剣を輝かせる右手を正拳突きを腰に溜めるような姿勢で腰近くに。お次は突き出し広げている左手に闇を宿して次の準備。

 

「ここに融合せし未来への胎動!」

 

 右肩まで闇が蠢く左手を持ってきて、一気に左に払って、下から上へ救い上げるようにして天に掲げ、手の甲を相手に見えるようにして拳を握り込む。胎動、で闇の剣を作るのがステキ。

 

「“義聖剣(ぎしょうけん)”!!」

 

 “義”で両手を斜め下に振り下ろし、“聖”で両手を竹刀を持つように構え、融合する光と闇の属性に変換。

 強力な磁石のように反発しようとするそれらを剣道で言う“面”の要領で振り被り、振り下ろすのと同時に融合を完成させる。“剣”、で完了させるのが極上です。

 そうして見てみれば、“光と闇が両方そなわり最強に見える魔法剣”が完成したわけで。……あ、やばい、これカッコ・E! 想像以上にカッコ・Eよ!?

 

「ほわー! ほわっ、ほわああああっ! ゆんゆん! ゆゆゆゆんゆん! ゆんゆんゆん! 闇です光です光り輝く闇の魔法剣ですよどーですか見てますかカッコEでしょうカッコEですよねカッコEぃいいっ!!」

「ゆんゆんゆんって誰のこと!? かっ……かっこいいのは分かったからちゃんと呼んで!? 呼んでよぉ!!」

 

 作っておいて自分も興奮してるでござる。

 試しに軽く振るってみると、音もなく草が切れた。

 ……ここ、ちょっと変換して、振るうとそれっぽい音が鳴る、とか……。

 その上で振るってみれば、フォギィンッ! とそれっぽい音が!

 ヴン、みたいなビームサーベル的なのもいいけど、こういう弾け散るような光が剣になった光剣の場合はこんなのがいいと思いました。まる。

 

「ゆんゆん、あれ、うばってきてください」

「なんで!? なんで私に頼むの!? 貸して、とか、ややややり方教えて、とか言ってみればいいじゃない! あと目が怖い! ぐるぐるしてる!」

「かずぴいかずぴい! 必殺技は! 必殺技はないのですか!?」

 

 いや、これ自体が秘奥義みたいなもんなんですが。

 でも……嫌いじゃない。こういうノリ……嫌いじゃない。

 だったらやっぱりそれっぽく行くしかないでしょう。

 氣を自由に使ってヨシな部分を大半使うつもりで───生半可なナイトには真似できない光と闇の奥義を!

 というわけで氣を思いっきり消費して光剣に注いでみれば、闇で真っ黒なそれが雷をまとったようにより強く発光。

 見るだけで、“あ。あれ奥義放つわ。今から奥義放つわ絶対放つわ。っべー”とか思えそうな状況を作りだした。

 けど名前が。名前が思いつかない。えーとえーと! ……ああもうアレでいい。あれしかない。

 

「吼えなさい! “其は珠にて描くもの也(クーゲルシュライバー)”!」

 

 闇の光剣がさらに輝く。めぐみんの目も輝いた。

 そんな状況でさらに変換を行使。翼を、左を漆黒に、右を純白に変え、天使の輪も右半分を神秘的な輪に、左半分を中二的な黒の輪にして光の粒子も大量放出。

 地面に輝く魔法陣は様々な中二心をくすぐる文字列やら柄やらにして、それらをゆっくり回転させながら幻想さ加減を演出。

 さ、あとはそれっぽい語りと技名だけど……適当で。

 闇。ドゥンケルハイト。

 光……明るい……聖女の光とか……あ、祝福? ゼーゲン。

 はい融合!

 

「我に仇為す汝を屠るは無情なる光の抱擁! ()じり穿(うが)つ! “闇燦眩き祝福の白光(ドゥンケルハイト・ゼーゲン)”!!」

 

 真っ黒な輝きを放つ剣を両手で思いっきり振るう。

 すると剣から放たれた剣閃が地面に衝突、斜に爆発する光の柱が衝突した地面から空に伸び、轟音を掻き鳴らした。

 おお……巨大なパワーゲイザー。規模が違いすぎてさすがにヤバい。

 ほら、紅魔族の二人もさすがに…………あ、ダメだ、す~んげぇ目ぇキラキラさせてる。

 

「なんですか……なんなんですかそのカッコE武器は! 技は! 口上は! くくくくくーげるしゅらいばー!? とかいいましたか!? 見せてください! 見せてくださいッッ!!」

「わ、私も! 私も、そのっ、いいっ……!?」

「え、あ、はい、いいですけど……」

「ほわぁああああ……!! すごいのです、黒いのに光ってます、闇なのに輝いてます、実態は無さそうなのに手を近づけると熱に焼かれるようなヒリつきが……!」

「こ、これ、かずぴいしか持てないの? 貸してもらったりとか……」

「ああいえ、実はこれはミストルテインと一緒に我が家に代々伝わる秘宝なんです。なので、適正も無しに渡せるかどうかは……。あ、名前はクーゲルシュライバーで合ってますよ。クーゲルが珠という意味で、シュライバーが書くもの、という意味。この秘宝自体の真名(しんめい)は“()(じゅ)にて(えが)くもの(なり)”というらしいです」

「なんと……! 名前の他に真名(しんめい)……! なるほど、初対面では仮の名を、親しくなってから真名を名乗るという新たな名乗りもあってもいいのでは……!? 倒れた仲間の窮地に一人魔王の前へと進み、仲間を振り返りつつ寂しそうに笑み、己の真名を告げ、最強最後の秘奥義を放つ…………あっ、良いです、これは良い。なんと素晴らしい……! そ、それでは、どぅんけるはいとぜーげんというのは……!?」

「ドゥンケルハイトは闇を意味して、ゼーゲンは祝福を意味します。真名は“闇燦(えんさん)(まばゆ)き祝福の白光(びゃっこう)”。闇が燦々と眩しい、みたいな意味ですかね」

「闇が眩しいなど、なんと理に反した……!」

 

 ほわぁああ……と口を開けっ放しでクーゲルさんを見るめぐみんとゆんゆん。

 そんな二人に、闇の光剣を消してから……はい、と黒檀木刀を渡してみる。

 消した途端にああ……と残念がられはしたものの、きょとんとした顔で木刀を見る二人。

 

「? これは?」

「ミストルテインです。特殊な大樹から作られたとされる、我が家に伝わる伝説の大樹の剣です。この柄から下を握ってみてくださ───あ、重いから気をつけて」

「ふおぅっ!? な、なるほど、これはなかなか……!」

 

 先にめぐみんが受け取ると、見た目よりも重いことに驚いていた。

 そんな彼女に魔力を込めてみて、とお願いしてみる。

 

「魔力ですか。んん………………あの、これがなにか?」

「適正があれば光るんですよ。めぐみんは残念ながらミストルテインに適正はないようです」

「なにおう!? わ、私ほどの存在が選ばれない理由があるなら聞こうじゃないか!」

「適性がないからです」

「ぐっふ!?」

「めぐみん!?」

 

 理由を求められたので答えたら、胸を押さえてショックを受けるめぐみん=サン。そんな彼女の手からするりと黒檀木刀を取ると、ゆんゆんに渡してみる。

 適正っていったって大したものじゃなかったりする。結構体を鍛えていたり、動かす機会が多ければ多少は反応する筈なんだけどなぁ。

 

「え、えっと、かずぴい? これに、魔力を流せばいいのよね?」

「はい」

「ばっ……爆発したり……しない?」

「しません」

「壊れたりして、弁償しなさいとかっ……!」

「言いません」

「うう、じゃあ……───」

 

 ゆんゆんが目を閉じて、手に魔力を集中させる。───と、ふわぁ……と黒の木剣から光が漏れてくる。

 

「わっ……わ、わっ、わあっ! み、みみ見て見てめぐみん! 光った! 光ったわ私! すごいすごい! 私適性が」

「ふん!」

「あいったーっ!?」

 

 嬉しさのあまりか、ぴょんこぴょんこ跳ねて、胸もゆっさりゆっさり揺らしながらめぐみんに木刀を見せていたゆんゆんが、その揺れるおっぱいをびしゃーんとビンタされた。

 うん、ゆんゆん? 北半球、露出しすぎたど思うのよ、俺。そりゃあ叩かれればいい音鳴るよ。

 

「なななななにするのよめぐみん! なにっ……なんで!? なんで胸叩いたの!? ぇ……なんで!?」

「いえ。人の目の前でこれ見よがしに揺らすものだから、叩いてほしいのかと」

「どんな条件が揃えばそんなふうに思えるの!? 自分が育たないからって私に当たらなぁいったぁーっ!? 痛い痛い! 叩かないでー!」

 

 なるほど、ゆんゆんは結構心身ともに鍛えてる方なようだ。逆にめぐみんやばい。

 でも正直目の毒なので。俺心は男のつもりなので。やめて?

 

「ま、まあまあめぐみん、適正については仕方がありませんよ。胸とは違って気軽に育てることは出来ませんし」

「今なんと?」

「え?」

「今、なんと? ……育つ? 気軽に? 育つと言いましたかかずぴい。それはあれですか、自分が豊かであるから余裕という意味で放った言葉ですか」

「? ……あ、胸のことですか? 育てられますよ?」

「命懸けますか」

「はい懸けます」

「ちょ!? かずぴい!?」

「なんと潔い……! ではその。いえ、別に不満があるわけではありません。ありませんが、かずぴいが己の発言を嘘ではないと証明するためにも、わたっ……私の胸を、大きくしてもらおうじゃないか!」

「めぐみん」

「なんですか! 出来ませんか! やはり嘘ですか!」

「一番重要なのが、自分が“大きくなる”と信じることなので、今のめぐみんでは難しいです。というか他人任せで努力しないなんて私の前では許しません」

「……エ?」

「胸は育てられる。ええ、言いましたね、言いましたけど。自分は信じないで相手に任せて失敗したら命を貰うなど───懸ける価値すらないと何故分からぬのですか!」

「はっ……!!」

「あなたが自分の胸の成長を望むのなら私の命などどーでもいいでしょう! わたしの言葉が真実かどうかなどそれこそどうでもいいでしょう! 出来ると言いました! あなたはやはり嘘ですかと言いました! あなたの望みはその程度のものですか!」

「なにおう!? 絶壁たる者に産まれた者の宿命はそんな言葉では片付きません! いいでしょう全面的に信じますよ! 大きくならぬなら我の命も懸けましょう!! ───あとゆんゆんのも」

「ぇええっ!? めめめめめめぐみん!? 私の命は関係ないでしょ!?」

「ゆんゆん……友人二人が命懸けの行動をしているというのに、あなたはそれでも友人ですか……」

「都合のいい時だけ友達とか言わないで! 胸のために命をかけるとか私嫌だよ!?」

 

 ……ほんと、この二人の関係ってどうしてこうなったんだろうね。

 まあ詮索するつもりはないからこれはこれで納得しなきゃなんだけど。人の関係っていろいろあるのんなー……。

 

「さて、それじゃあ今日ももう遅くなりました。最後に───」

「最後に?」

「わたしの氣が枯渇するまで、めぐみんに爆裂魔法の練習をしてもらいましょう」

「え? ………………………………え?」

「? あの、結構話を戻しますけど、爆裂愛を放ち切れていないのですよね? では、納得できるまでやらなければ愛ではありませんよ? 協力しますから、頑張りましょう」

「っ……~……あなたという人は───! いいでしょう! ならば我が愛、見せてやろうではありませんか! 鼻血が出ようがぶっ続けますよ!」

「はい。望むところです」

「え? え? あの……めぐみん? かずぴい? なんのこと? あのっ……私にもわかるようにっ……!」

 

 涙目になっているゆんゆんにきちんと説明しつつ、わたしたちは街からはさらに離れた場所へと歩き、上機嫌でついにはスキップしだしためぐみんに合わせ、ばっくれっつばっくれっつ♪ とルンルン気分でレッツ爆裂しに行ったのだった。

 爆裂スキップにはゆんゆんも喜んで参加。その一体感に頬を染め、緩ませていた。

 そうして気づけば陽は落ち、野宿することになると、その野営準備にとりかかり───

 

「ふわぁあ……! かずぴいが作った料理、美味しい……!」

「おかわりを所望します! あっ、大盛で! 大盛ですよ!?」

「あっ、ず、ずるいわめぐみん! かずぴい、あの、私もその、お、おかわりを……!」

「はいはい、ちゃんと噛んで食べてくださいね」

 

 無邪気である。……って、そういえばまだまだ13歳のお子なんだよなぁ……逞しいなぁ紅魔族。

 お食事も元気に食べるし、美味しい具材は取り合ったりする。いいね!

 そして俺の料理の腕前もちょっとしたものだ。もう……普通だなんて言わせないッッ!

 

「ぉぅん……っ」

「ふゎ……!」

 

 食事も終わり、じゃあ寝ますかって時になると、二人には俺の両脇に来てもらう。

 そして大きな六翼で包みながら横になると、これがかなり温かい上に心地良い。

 

「あ……やばい、やばいですこれ……寝心地が宿のベッドの比じゃありません……ダメになる……ダメになります……! 温かくて、良い匂いで、包まれてて、おまけにこの、かずぴいが出してくれた聖域やら力場やらの粒子が私達を囲んで……!」

「ま、まだ起きてるのよゆんゆん……! 憧れのパジャマパーティーじゃないけど、こうして夜に固まって眠るなんて、本当に想いの通じ合った仲間たちって感じだし……! でも、でも瞼が……ぁぅ…………はっ!? ね、寝てない、寝てな……───」

 

 ゆんゆん、脱落。いや、なんのだよとかそういうのはいいとして。

 こういう時、この世界でスマホが使えて、及川とか居るなら“ゆんゆんなら今俺の隣で寝てるぜ……”とか写真添付して送れるのに。ゆんゆんの名誉のためにも送らないけど。

 

「めぐみんも早く眠ってしまってください。きちんと休まなければ、戻る魔力も戻りませんよ?」

「……いえ。その、胸のことはどうなったのかと」

「え? ……やりますか? 胸を大きくするには、人の体の奥にある幸福物質というものを分泌させた状態で行動してもらう必要があるので、少し儀式的な意味でやらなければいけないことがあるんですが」

「……嘘は禁止でしたね。では、その。胸を大きくしてほしいので、痛くならない程度にお願いします」

「最終確認です。大きくなった胸を元に戻すには中々苦しいものがありますが、よろしいですか?」

「いいですとも!」

 

 やだ、なんかメテオ撃ってきそう。

 

「ではまず最初の試練です。今からめぐみんの状態を“幸福物質分泌状態”まで持っていきますが、絶対に声を出さないでください」

「フッ……痛みだろうとなんだろうと、それが試練だというのならば耐えましょう。というかそういうの大好きです」

「いえまあその。結構大変だと思うので頑張ってくださいね。今まで声を耐えられた人、居ませんので」

「望むところです! ならば私がっ! その唯一にして初の存在になってみせましょう!」

「では」

 

 翼で包んでいるめぐみんの全身を、氣で包む。

 余裕顔で目を閉じためぐみんだけど、果たして……?

 あ、ちなみに幸福物質はマッサージなどでじわぁりと出てくるもので、手っ取り早く大量に分泌させるならそのー……女性の場合は特殊な性的絶頂がいいらしいデスよ?

 というわけで───はい。その。ええ。

 氣で、道具を用いても普通じゃ届かないところとかをこう、刺激するわけですね。時間をかけて、たっぷりと。

 通常、何日もかけてそこが気持ち良さを覚えるまで開発……もとい待たなければいけないところを、氣で癒しながらやるとあっという間に完了するわけでして。

 ……結果として、彼女は声を抑えられませんでした。

 その声に起きたゆんゆんに、顔を真っ赤にしながら呂律の回らない声で説明するめぐみんだったけど、彼女の奇行は今に始まったことじゃないとばかりに再び眠りにつくゆんゆんに、めぐみんは少々複雑そうな顔をしておりました。

 

「続けますか?」

「くっ……つ、続けます、ええ続けますとも。今度こそは声を出さずに試練を乗り越えてみせようじゃないか……!」

 

 なんかいつの間にか試練ってことになってる……ああいや、儀式的なものって言ったの俺だった。

 

「血行促進として、日々の“ととのう”も続けますので、そのつもりで」

「それも望むところです」

 

 ともあれそうしてめぐみんの胸部育成は始まり───そんな日々はカズマさんたちが金を作り、装備を整える日まで続いたわけだ。

 

  ───たとえばそれは、なんでもない晴天の日。

 

 ジュリァアアアアアン!!

 ピツォン……! ぁああああああああ!!

 ドクンドクン……ビクンビクンッ!!

 

「『エクスプロージョン』!! ……あぅ」

「はい次です。良い感じで爆裂魔法を放てれば、めぐみんは幸福物質を分泌出来ると知ったので、それを増やす鍛錬をしましょう」

「感謝します! 『エクスプロージョン』!! ……ぁぅ」

「はい、次の魔力です」

「まだまだいけます! 『エクスプロージョン』!! ……ふゎぅ」

「ん-……60点。幸福物質も大したことありません。まだまだです」

「むうっ……もちろんまだまだ行けますとも! 『エクスプロージョン』───ッッ!!」

「あっ、今のはいい感じですよ? さあ次です」

「くうっ……! ととのい方によっても、自分の体調によっても魔力の通り方に違いが出るなど予想外なのです……! ですが! 我が爆裂愛はその程度では挫けませんよ! 『エクスプロージョン』!!」

「めっ。焦っちゃだめです。40点」

「あう……!」

「マイナスを叩き出したので合体魔法の鍛錬に入りますよ。はい、ゆんゆん」

「し、真打登場ね! さあ、やるわよめぐみん!」

「ぁハイどうぞご勝手に」

「めぐみん!? 失敗したら合体魔法をやるって約束したでしょ!?」

 

  ───それは、兎(一撃)が美味しい(追わない)とある日の午後。

 

 ジュリアァアアアアン!!

 

「ところでかずぴい。なぜあの熱した石は、水をかけるとジュリアンと鳴るのですか?」

「唯一神ユミルのみが知ります。わたしは知りません」

「なるほど……ととのう、とは奥が深いのですね。ではゆんゆん、始めてください」

「わかったわ! 『ライト・オブ・セイバー』!!」

「魔法の合体などと甘く見ていましたが、横に跳ぶ爆裂魔法……悪くありません。『エクスプロージョン』!!」

「あ。同調率が足りませんね。空中で爆発しますよ、あれ」

「ふえっ……!? めめめめぐみん!? あれほど同調は気を付けてって言われてたのに、なにやってるのよもう!!」

「ぁ、ちょ、やばいです、動けません。かずぴい、私を背負うか魔力をください……ここに置いていかれては絶体絶命です。です、が……己の魔力で滅ぶ術者、というのも悪くはないのではないでしょうか……!」

「だからそんなことに命懸けないでよ!」

 

  ───それは、爆裂で雨雲を吹き飛ばしたとある日。

 

 ジュリアァアアアアン!!

 

「ふう、まったく。雨雲の所為で今日は“ととのう”が出来ないところでしたよ。一度知ってしまうと、このととのった状態にはなっておきたい欲求がありますからね」

「それでもライト・オブ・セイバーを使って雲まで爆裂魔法を届かせるなんて、めぐみん、あなたなに考えてるよ……」

「常に爆裂魔法のことですが、なにか?」

「なにか、じゃないわよ!」

「ぁああああ……! きました、これです、この体が勝手に震えるくらいの気持ち良さ……! あ、ととのう、ととのいます……!」

「う……た、たしかにこれがないと今日が始まった、って感じがしなくなっちゃったけど……! ……あれ? ねぇめぐみん? なんか……なんかだけど、めぐみん、胸とか……」

「……!! フッ……ええ、ついに私にも成長期、というものが来たということでしょう! 自慢したいわけではありません。ありませんが、いずれはゆんゆんをも超える胸部になると思いますが───」

「……めぐみん。胸、大きくても結構邪魔になるし重いし肩とかすごい凝るのよ? あるえほどじゃないにしても、私の大きさでも結構大変なのに……。外から見てたから思えることもあるけど、めぐみんのする格好いいポーズとかって、胸が大きいとみぃんな胸にばっかり視線とか行っちゃうんじゃないかなって」

「……!? ふ、ふふふっ……なにを言うかと思えば……! 問題などありません! そうであるならば、より映えるポーズを編み出すまで!」

 

  ───それは、二人が合体ではなく、一つの魔法を完成させんとしたとある日。

 

 ジュリアァアアアアアアアン!!

 

「私は爆裂魔法以外は使えませんので、ゆんゆんが爆裂魔法に合わせてください」

「私だって爆裂魔法なんて使えないわよ!?」

「なんて!? なんてと言いましたか今! いいでしょうあなたがいつも言っている通り、勝負してやろうじゃないですかゆんゆん!」

「えっ!? いいのっ!?」

「また始まりましたかー……はぁ。いいから、二人はとりあえず冷水風呂に入ってしまってください」

「ぬっく! ……な、何度やっても、あれに入るのは勇気が要ります……!」

「あっ、じゃあどっちが先に肩まで浸かれるか、で勝負よめぐみん! これなら───」

「とーーーっ!!」

「あーっ!? めぐみん!? まだスタートも言ってないのにめぐみんずるい!」

「今日も勝ち!!」

「元気ですね……」

 

  ───それは───

 

『エクスプロージョン』!!

 

  ───それは……

 

 

『……ロージョン』!!

 

  ───そ……

 

『……ジョン』!!

 

  ───……

 

『……ン』ッッ!!

 

 …………。

 

 

  ───このすばっ!

 

 

 ───その日。わたしたちはジュリアンを済ませてからアクセルの街に戻ってきていました。

 普段ならジュリアンをする前に食事を済ませるのですが───マテ。

 ん、んんっ! ……その日、彼女たちのジュリアンを済ませてから俺も済ませ、俺達はアクセルの街に戻って来ていた。

 普段ならジュリアン前に食事を済ませる俺達なのだが、今回はととのったのちに食べてみたいと二人が言うので、酒場まで来ているわけで。

 と、そこに来てショートソードを手にしたカズマさんを発見。隣にはわくわく顔の女神様まで居る。

 

「カズマさん、アクアさん」

「ん? って、かずぴいか? ひっさしぶりだなぁっ!」

「はい。クエストボードを見ている、ということは、とうとう?」

「ああっ、とりあえずは武器は買えたから、これでしばらくは稼いで頑張ってみようって思ってるんだ」

「おめでとうございます。それで、最初のクエストはいったい……?」

「このジャイアント・トードの討伐ってのが初心者向けだって言われたから、まあカエルくらいならって」

「……カズマさん」

「ん? なんだよ、そんな急に底冷えするみたいな低い声出して」

「ジャイアント・トードの座高、成人男性二人分以上はあるので気をつけてくださいね?」

うん。ちょっと俺初心者におすすめって言った受付嬢にドロップキック喰らわせてくるよぉ♪

「やめましょうね」

 

 さわやか笑顔でとんでもないことを言いだしたカズマさんを、とりあえず腕を掴んで止める。と、

 

「なめんなぁっ! それの何処が初心者向けだよ! どっからどう聞いても正しくモンスターじゃねぇか!」

「当たり前ですよ、人が困っていて依頼を出すほどのことなんですから」

「うっ……それ言われると……。でもなぁ、最初は報酬スゲーって思ってたけど、それってつまり、人様もぱっくんちょ出来る大きさってことだろ?」

「毎年繁殖期になると、家畜や人の子供などが行方不明になるそうです」

「こぉわぁいぃわぁっ! そんなの大人が毛を毟られた程度の強さの俺にどうしろっていうんだよ……」

「簡単です。スキルを覚えましょう」

「スキル?」

 

 そう、スキル。幸いにしてカズマさんは冒険者だ。教えてもらえればどんなスキルでも覚えられる万能職。

 取得に必要なスキルポイントこそ高いけど、そんなものはレベルを上げまくればいいのだ。

 というわけで、教える教える~……はい!

 

「カズマさん、カードを見てみてください」

「カード……って、なんか取得可能スキル? が、増えてるな。えっと……? 氣? と、呼吸法、とか……」

「「なぁあっ!?」」

「ん? あれ? そういえば後ろの二人って誰なんだ? あ、もしかしてかずぴいの知り合いか?」

「はい。この二人は紅魔族、という魔法に特化した種族でして、こちらがめぐみん、こちらがゆんゆん。……わたしと同じく本名ですので、名前に関して触れることはやめてくださいね?」

「お、おう……了解」

 

 と、ここで、「この世界の名前事情、どうなってんだ……」とか小さく言い出すカズマに、二人がズズイと前のめり気味に騒ぎ出した。

 

「ずずずずずずるいです! ずるいのです! 冒険者だからといって、よもやサムライニンジャ=サンの秘奥をこんっなに簡単に教われるとは!」

「そ、そうですよ! あんなっ……あんっなわくわくする力を、どうぞって教えられただけで!」

「え? なに? おいちょっとかずぴい? これもしかしてやばいヤツなのか?」

「いえ、役に立つスキルですよ。ただ、里に住まうわたしたちの種族は、血反吐を吐きながらそれを習得したことをどうぞお忘れなく」

「怖いわ! そんなの受け取れるかよ! ……でも、そんな奥義とかに興味はある……! 氣、といえばかめ〇め波だし、撃ってみたくないといえば真っ赤なウソになるわけで……! でもこの呼吸? ってのは?」

「身体能力がハチャメチャに上がります」

「なんだそれ凄いなっ!」

「ただし極めると25歳になった途端に死にます」

「いらんわぁあっ!! じゃ、じゃあこの氣ってのは?」

「移動に使えば足が速く、攻撃に使えば威力向上に。傷ついた部位に集中すれば傷も癒せる優れものですよ?」

「おおっ! そうだよこういうのだよ! こういうのを俺は求めて───」

「ただし能力上昇のために氣脈、という体の中の回路を広げる時、ヘタすると痛みのあまり死にます」

「だから怖いわぁああっ!! なんでそんな両極端なんだよ! もっとやさしくしろよ俺転生者だよ!?」

「てん、せい?」

「あ、いや、うん……も、もっとデメリットの少ないの、お願いします」

 

 カズマさん、気まずそうにギギギと視線を逸らし、言うの巻。

 その後、めぐみんやゆんゆんに「なんともったいないことを!」とか「い、いいんですか!? あんなに凄いの、もう貰えないかもしれないんですよ!?」なんて言われているけど、突然美少女二人に話しかけられたことでテンパるカズマさんは……まあ、置いておこう。

 

「そうだ。カズマさん、アクアさん。せっかくです、ジュリアン、やっていきませんか」

「へ? なにそれ。ジュリアン?」

「聞いたことないわね。なになに? なんなのよー。これからクエストに向かおうっていうこの女神たるアクア様を誘うんですもの、中途半端なものじゃ満足しないわよ?」

「はい。とぉっても気持ちのいいものです」

「詳しく」

「食いつき早いわねこのヒキニート」

「おい。だからヒキニートはやめろ」

 

 いや、でもすごい食いつきだったし、なんならすごいイイ顔で言った。俺でもちょっと引いたです、はい。

 

「それで……とぉってもの気持ちいいとは……どんなものなんだい……?」

 

 そして何故かうっとりねっちょりとなんだか気色悪い喋り方を始めるカズマさん。うん、なにが起こった。

 なんでこの人急にマツゲめっちゃ伸ばしてサワヤカフェイスになれるんだ。

 

「説明より実践ですね。あ、気持ち良さはこちらの二人が太鼓判を押してくれますので」

「はい。あれは、その……クセになります。もうあれなしでは生きていけません……」

「う、うん。あのっ、と、とっても気持ちいいですから、是非っ……!」

「任せてください」

 

 ニヒルドヤ顔の彼は、秒とかからず食い気味に了承した。

 

  で。

 

 ジュリアン10分目安。

 

「え……なに? 気持ちのいいって……サウナ? 服脱いで腰に布、とか来たから相当期待したのに。ていうかおい。なんか石がすごい変な音出したぞ? なんだよジュリアンってアッツアァアアッ!?」

 

 アウフグース。

 

「言われるがまま10分待ったけど、これからどーすんだ……え? 風呂? いやもう正直出たいぞ俺……ッァアアアアアッ!! 冷ッ……アァアアアアッ!!」

 

 冷水風呂1分。

 

「あっばばばばばっばばば……! アツイ……サムイ……ヒ……エ……ル……!」

 

 全身を拭く。重要。

 

「ちくしょう! なんの拷問なんだよこれ! 俺今日こそクエストに行こうとしただけで───ァッ……!!」

 

 ととのう。

 

「ふあぁあああああああん……!! ととのっちゃう……! カズマととのっちゃうぅううん……!!」

 

 ととのった。

 ちなみに別の密室でもアクアがととのってる頃だ。

 

「いやー、最初はなんの拷問だーとか思ったけど、これすごいなー! 体がすっごい軽くなったよ!」

「プークスクス! カズマったら褒める表現とか語彙が少なすぎなんですけど! さっきからすごいしか言ってないんですけどー!」

「るっさいわ! それだけ凄かったんだからしょうがないだろ!」

「まあ、思わず眠っちゃうくらい気持ち良かったのは認めるわ。ねぇあなた、アクシズ教に入信しなさいよ。今ならこの女神アクア様直々に勧誘してあげるわよ?」

「ぁいえ結構です」

「なんでよー!」

 

 作った建物の壁を壊して、二人を出した頃には丁度いい時間。

 ととのいつつ眠った二人は目覚めもスッキリなようで、気力充実状態になっていた。

 

「ではこれからジャイアント・トードの討伐の補佐をさせていただきます。一回目から失敗すると負け癖みたいなものがついてしまうので、補佐は意地でもさせてもらいますからね?」

「そりゃ助かるけど……───そんなヤバいの?」

「あのカエル、食べられるサイズなら女神だって食いますよ? 弱点として魔法に弱い、という部分がありますが、集団に囲まれて捕喰されては手も足も出ません。なので決して一人で立ち向かわないでください。」

「や、でもカエルだろ? 食われたって出ようとすれば……」

「胃袋の中に先住民が居る可能性を考えると、冷静に動けるかどうかは分かりかねます」

「だから怖いわぁっ!!」

 

 様々な苦難が待ち受けていることでしょう。でも悲しいかな、戦いは続きます。とりあえずレベルを上げて、デメリットが出ない程度の氣や呼吸の習得だけでもしておいて損はないと思うの。

 大丈夫、極めようとしなければ痣とか出ないし、ただ単に氣を行使するだけなら拡張の必要もないから。というか、たぶんカードでレベル上げるだけだから、痣者レベルに極めるまではいかないと思うのだ。氣だってレベル上げれば勝手に拡張しそうだし。なにそれ羨ましい。

 そんなことを教えつつ、ジャイアント・トードの討伐は開始されたわけで。

 

 デッテー・デケテー・テッテ・デーッテテー♪

 ◆討伐クエスト:三日以内にジャイアント・トードを5体討伐せよ

 

「ぁあああああああああああっ!!」

「カズマさん! 落ち着いてください! 相手の行動をよく見て対応するんです! 飛び跳ねている時は相手は攻撃できません! 方向転換も得意な方ではありません! 攻撃手段は直接銜えるか、舌を伸ばす以外は無いと思って大丈夫です!」

 

 現在、Windows平原にて、カズマさん大激走。

 その後ろをジャイアント・トードがバインバインと跳ねつつ追っている。

 

「アクアさん、あのカエルには打撃攻撃や打撃武器は通用しません。刃物無しで平気ですか?」

「誰にものを言ってるのかしら。私、女神よ? 女神の攻撃がカエルの一匹にも通用しないって、本当にそう思うの?」

「思います。わたしが思い切り殴っても無効化されました」

「大丈夫よ、だーいじょうぶ。だって私、女神だもの。人間の打撃が通用しない? そんなの女神たる私の打撃が通用しない理由にはならないわよ」

「……では、ご武運を」

「ふふん、見てなさい? 今からあそこのカエルを一撃で倒してみせるんだから。そしたらカズマだって私に泣いてすがってアクア様~とか言い出すに違いないわ!」

「ド下種ですね」

「え? ……え? ねぇかずぴい? 今なんかすっごいこと言わなかった?」

「いえなにも。ではわたしはカズマさんのサポートに向かいます」

「役割分担ってやつね? まあこっちのカエルはこのアクア様一人に任せなさい! うるぁああああっ!! ゴッドブロォオオオーッ!!」

 

 そして駆けてく女神様。そんな彼女から視線を外して、逃げ続けているカズマさんの補佐に向かった。

 後ろからデイーンって何かが弾む音と、「きゅぷっ!?」となにかが大きな何かに飲み込まれるような音が聞こえたけど知りません。

 

「ではめぐみん、ゆんゆん。カズマさんの補佐に回りましょう」

「かずぴい!? 水色髪の人が食われてますよ!?」

「気のせいです♪」

「かかかかずぴい!? み、水色髪の人がずぶずぶ飲み込まれていってるわよ!?」

「気のせいです♪」

 

 忠告を聞かないヤツはゲリラだ。忠告を聞いても守らないやつは特殊訓練を受けたゲリラだ。

 なので俺はカズマさんのサポートだけを考えればよろしい。

 ああ、素晴らしい! 役割分担って素晴らしいナー!

 そう、女神ですよ女神! 女神で役割分担といえば、最終防衛システムを一人で一体対処してみせた女神様!

 きっとあの女神様にも、わざと食われて内側からうんたらかんたらする心づもりでもあったんだよきっとたぶん!

 それをめぐみんとゆんゆんに熱弁してみれば、「「内側から……! なるほど……!」」と目を輝かせておりました。その間にもメリメリ飲み込まれる女神は気にしない。

 こんな調子で、見事カズマさんの力のみで、ジャイアント・トードの討伐依頼は達成されて、あとは報告をするだけ。

 なんてことになった後には、待っているのは当然爆裂祭りなわけで。

 

「わたしたち以外の前で初めての螺旋爆裂です。お披露目の準備はいいですか?」

「もっちろんです! さあ行きますよ───『エクスプロージョン』───ッッ!!」

 

 せっかくだからとエクスプロージョンを一発放ち、音を聞いて地面から出て来たジャイアント・トードにも一発ずつくれてやるつもりで爆裂祭り。

 

「うおおっ!? すっげ……これが魔法なのか……! ていうか人の力でこんな簡単に、人が吹き飛びそうな風圧が出せるとかすごいよな……!」

 

 カズマさん、その破壊力に大興奮。

 次々と出てくるカエルに、さらに───

 

「『エクスプロージョン』!!」

「次です、集中して」

「フッ……任せてください。『エクスプロージョン』!!」

「ん、途中で魔力がちょっと引っかかりましたね。調子に乗っちゃいけません。めっ」

「ぬっく……! 分かってはいるのですが……ではこれでどうでしょう! 『エクスプロージョン』!!」

「あっ、爆発にまで回転が加わるのはとてもいいです。80点。けれどまだいけますよね?」

「くうっ! 我もまだまだ未熟……! 会心の出来には程遠い……! かずぴいに手伝ってもらった時のあの一発を、我のみでも出せるように───踊れ、踊れ、踊れ───!! 『エクスプロージョン』───!!」

 

 平原の広い景色に爆裂の花が咲く。

 おお見事、やれ見事。

 

「どぉおおおおわぁああああああっ!? ちょ、ストッ……名前なんだっけ!? ストップ! おーい! ストップ! ストーップ!! 地形変わる! ていうかこんな破壊力の魔法、何発撃てるんだーっ!!」

 

 そしてカズマさんが爆裂祭りの光景に軽く絶望した。

 ああうん、俺もう慣れちゃってたけど、初めての魔法としてこんなん見たら、ヤバイ気分になったりするよね。

 でも止まりません。この子、魔力があれば全てを爆裂に注ぐお子だから。

 そんなわけで───その後、

 

「『エクスプロージョン』───!!」

 

 際限なく出てくるジャイアント・トードをレッツ爆裂し、

 

「『エクスプロージョン』! 『エクスプロージョン』! 『エクスプロージョン』!」

「連射はまだまだ詰まりますね。はい、もっと集中です。……と言いたいところですけど、今日はこれで最後ですね」

「フッ、望むところですよ! さあ唸れ我が爆裂愛! 最後に相応しい輝きを私に見せてください! 『エクスプロージョン』───ッッ!!」

 

 氣が限界になるところで爆裂祭は終了。

 そこかしこで仰向けになって死んでいるカエルや、直撃して滅んだカエルを眺めたり想ったりしつつ、めぐみんとともにサムズアップ&ナイス爆裂。

 

「けど、このままにしておくのはさすがに他の冒険者に悪いですね。せめて傷ついた大地に癒しの息吹を───」

 

 焼野原を平原に、癒しと言いつつ変換を行使。……しては見たものの、抉れたところまでは無理でした。きちんと焼けた部分に草花が生えたりして、平原にはなったんだけどね。

 そんな奇跡的変換能力は大変驚かれ、咄嗟に聖女パワーですと誤魔化しはしたけど……うん、目立つような変換はあまり使わないほうがいいかなぁ。

 ……で、だけど「きゅっぷ!?」

 

「ひゃああああっ!? かずぴいいいっ!!」

 

 誤魔化して慌ててる内に、後ろからカエルに食われた。背負っていためぐみんごとであった。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!!」

 

 すぐにゆんゆんに救ってもらったものの、当然ぐっちょりねっちょりで生臭いわけで。

 

「うぐっ……! えぐっ……! あぁあああ……! たしゅけっ……えぐっ……だれもたしゅけて……っ……くれなかった……! あああああー!! わああああーっ!!」

 

 アクセルの街へと戻ってきた俺達。一人、ねっちょりとカエルの粘液にまみれた女神だけが、涙溢るる目じりを拭いながら、街を歩いていた。

 これから大衆浴場で粘液を落とすにしたって、なんというか絵面がひどすぎる。

 

「分かったからもう泣くなよ。お前が自分一人で大丈夫、なんて言ったんだろ? しかも俺を笑いながら」

「だって! だってぇえええ!!」

「しかもかずぴいからは打撃は通用しないってしっかり聞いておいて、それ無視してなに? 魔法が苦手なモンスターって聞いておいて殴ったんだって?」

「ふぶっ……ひきゅぅぃぅぃぅっ……!!」

「俺の知る“めがみ”だったら、一人でラスボス一体討伐するくらい出来るっつーのに。忠告も聞かない、勝手に行動する、食われる、信頼して任せてるのに助けがなけりゃ助けてくれなかったと喚き散らす。…………あの。お前ほんとなんなの? ここまで並べておいて、俺お前が女神らしい存在だとかそういった証明が無いことに絶望してるんですけど。考えてみればあの世界で出会った時も……お前、菓子食いながら人の人生笑ってただけだし。転生作業だって翼の生えた後輩さんがやってたし。ねぇ、お前ほんとなんなの?」

「わぁあああああああああ!! わぁああああああああっ!! カズマが! かじゅまがぁああああっ!!」

「……あの。さすがにそこの水色髪の人が可哀想では」

 

 あっ、めぐみんおやめなさい! この女神様、助け船には“あと一人が手を乗せれば沈みます”って状況でも他人を蹴落としてでも乗っかるタイプだと睨めるから! こんな短い付き合いでもそう思えるんだよ!? おやめなさい!

 

「わぁあああああー!! そうよ! あんまりよー! カズマの鬼! 悪魔! ヒキニート!」

 

 そーら見たことか。今、きっとカズマさんと俺、同じ顔してるよ。

 

「ええっと、めぐみんっていったっけ。……こいつ、嘘泣きが得意で人の同情に便乗して人を貶めるのが趣味なんだ」

「え……」

「ていうかさ、正論がいっつも正しいだなんて言うつもりはないけど、俺間違ったこと言ったか? 人の言うこと聞かずにこんなことになって、これからは気をつけてくれ~って言ってるだけなのに、鬼だの悪魔だの……俺、こいつの今後を心配してるだけだよ?」

「あー……確かに間違ったことは言ってませんね」

「アクアさん。とりあえず泣くのはやめにして、お風呂に行きましょうね。それと、今度からは助言や忠告くらいは聞いてください」

「わあああー!!」

 

 味方が居ないと知るや、普通に泣き始めた。

 道行く人にヘンな目で見られてるからやめましょう、女神様。

 そんなわけで喚く女神様を引きずってでも浴場へ移動。ザバーして食堂行ってご飯食べながら話をして、解散して宿に戻って。

 

「あの。さすがに狭いんですが」

「ですね。さ、ゆんゆん、隣のベッドへ行ってください」

「ここ元々二人部屋なんだけど!? めぐみんが勝手に居付いてるだけじゃない!」

「ええ、ですから元のゆんゆんのベッドが隣にあります。私は眠る場所がないのでかずぴいの隣に居るだけなので」

「じゃあ眠る場所譲るからめぐみんがあっちに───」

「爆裂魔法をたっぷり撃ったので動けません」

「さっ……さっきまで思う存分動いてたじゃない!」

 

 この二人は寝る前までとっても元気でございます。

 ならばこういうのはどうか、と提案を。

 

「では紅魔族同士、二人仲良く同じベッドで───」

「なにを言うのですかかずぴいは! せっかくこのような素晴らしい翼があるというのに!」

「わたしの翼は就寝用ではありませんので」

「ぁぅ……い、いえあの、そういうことではなくてですね? その……むね、のことがまだ……」

 

 正論を述べると、めぐみんが顔を真っ赤にしてぽそっと小声で言ってきた。

 ……なんとまあ、まだ上を目指したいと。初対面の時からは有り得ないほどの速度で成長しているというのに。

 

「結構大きくなったと思いますけど、まだ……?」

「ゆんゆんより大きくなると言ってしまったのです」

「………」

「し、仕方ないじゃないですかっ……持たざる者の見栄、というのは重々承知しています……! ですがっ……」

「はい、正直に言ったことは花丸満点です。……続けましょうか。ただし、声は出してはいけませんよ?」

「ぅうっ……勝手に出てしまうのはどうしようもないのでは……っ!」(*注:特殊なマッサージです)

「めぐみん? 最初の自信はどうしたのですか」

「わわ私だって、自分があんなふうになるだなどと思ってもみなかったのです……! 確かにヤバいくらいに幸福を感じられましたが……!」(*注:特殊なマッサージです)

 

 と、そこまでヒッソォ……と話していると、反対側から翼を撫でられた。

 

「あ、あの……ねぇ、かずぴい、めぐみん? その……二人ばっかりで話さないでほしいかなって……」

 

 おっと、すぐ近くでこそこそ話をされちゃあ嫌な気分になるよね。

 あります、ありますともそういう経験。

 そう、忘れもしない、あれは剣道で初めて敗北して、心を腐らせていた幼かったあの日……! って、それはどうでもいい。

 

「すいません、別におかしなことを話していたわけではないんですよ。ただ、めぐみんが寝る前のマッサージを気に入っていまして、別のベッドになるとそれをしてもらえないのでは、と……それを心配しているようで」

「えっ? そうなのっ?」

「なぁっ!? なな何故言ってしまうのですかかずぴい!」

「なのでゆんゆん、よかったらあなたもマッサージ、受けてみませんか?」

「えっ!? いいのっ!?」

「はい、構いませんよ。確かに三人居るのに秘密の行動のようなものがあるのはいけません」

 

 すぐに反対側のめぐみんが、あうあわと慌てた様子を見せるけど、ゆんゆんが天井を見上げつつ喜んでいる内に、しーっと口に人差し指を近づけてのウィンク……なんて何故してる俺! 落ち着け北郷沈まれ北郷!! やばい心が聖女に侵蝕されてる!

 深呼吸してー……落ち着いてー…………よし。

 心を落ち着かせてからは、喜んでいるゆんゆんをベッドにうつ伏せに寝転がらせて、じっくりとマッサージをしていく。

 氣で包むことから始めるのは相変わらず。そうすることで“人との一体感”をかつてないほど感じているのか、ゆんゆんはそれだけで相当幸せそうだけど。

 いや、ゆんゆんの場合は幸福物質を分泌させるのが目的じゃないのに、なんでこの子全自動幸福分泌マシンになってらっしゃるの!? 幸福のっ……幸福の基準値が低すぎる!

 まあでも、幸福状態で豊胸マッサージとかしない限りはそうそう大きくならないだろうし、ほうっておいても大丈夫だろう。

 ていうか、こうも自分がしていることで幸福になってくれると、こちらも本当に嬉しい。どうしようもなく嬉しくなってしまう。

 なもんだから、とてもやさしくじっくりとマッサージしながら、他愛ない話をしつつもゆんゆんを褒めたり、慰めたりを続けた。

 したっけ……なんだろう。自分の肩越しに俺の方を見るゆんゆんが、とろんとしつつも物凄く潤んだ瞳で顔を真っ赤にしながら俺を見つめてくる。

 友人に対する感情を超越してらっしゃいません? って感じに。

 ……は、はっはっは、いやいやまさかまさか。そんな、ちょろい女性が居たとしてもここまでなんてそんなそんな。

 え? ……居ないよね? そんな人、居ないよね? いくらなんでも……ねぇ?

 

 

  ───このすばぁあっははぁ……!!

 

 

 翌日。

 ギルドに集合した俺達は、カズマの一声であー……と妙な納得をしていた。

 と、いうのも。

 

「昨日痛感した。俺、このままじゃダメになる。ていうかザコモンスターの概念が根底から覆された気分だよ」

 

 あー……である。

 

「だから前衛が必要だ。タンク……盾役とか加えて、俺は運だけでも戦力に成りえるアーチャーでもやってみようと思う。丁度かずぴいの紹介で、狙撃を教えてくれたアーチャーも居たし」

 

 そう、昨日の夜の食事の途中、幸運値が高いといえば……と、ちょいとそこ行く弓使いにご相談したのだ。

 すると酔っ払ってたこともあり、シュワシュワ一杯で気前良くスキルを教えてくれた。

 

「それはそうとカズマさん」

「はいカズマです」

「弓と矢は、ありますか?」

「あ」

「あ」

「………」

「………」

「………」

 

 カズマと女神が声をこぼし、暗雲を背負ったかのような雰囲気で俯いてしまった。

 あー……である。

 

「分かりました。オススメしたのはわたしですし、弓と矢はサービスします」

「すいません……借金も返せてないのになにからなにまで……すいません」

「はい、きちんと謝れるのは素晴らしいことだと思います。というわけで、はい」

 

 懐に手を突っ込んで、氣を凝縮、弓に変換。出来るかなー、なイメージでやってみたけど……わあ、なんか出来ちゃった。

 あれ? これ、ある意味創造に近いんじゃないの? やっべ俺やっべ! やっべー! ……なんだろう、何故か“創造”を意識したら、無性にやっべーとか言いたくなった。

 

「? なんだよこれ、剣なら持ってるぞ?」

 

 カズマは差し出されたものをきょとんとした目で見る。

 いえいえこれはそういうものではございません。

 形はまさしく剣でございます。ちょっと細めだけどしっかり斬れる剣でございます。

 

「いえ、ここをこう持って、強く握り込んでみてください。で、こちらをぐいっと引っ張ると……」

「え? こ、こうか? うおあぁあっ!?」

 

 カズマが、剣の鍔替わりの部分───片方だけ飛び出ている場所を掴んで、柄を引っ張ると、ガションとギミックが発動。剣が真ん中から割れ、柄が伸びて、なんとも変わった弓の形へと変化した。

 ちなみに弦は氣で出来ていて、引き絞る時間が長ければ長いほど威力が何故か増すモンハン仕様である。

 

「うわぁなんだこれすげぇ! えっ……いいのか!? これ貰っていいのか!?」

「弦に触れて引っ張れば、自然と矢は装填されますから。引く時間が長ければ長い程、威力は増しますがブレが生じます。氣の行使が必要となるので、申し訳ないのですが氣のスキルの取得をお願いできますか?」

「ああやるやる! こんなの貰ったら使わないわけにはいかないって! ……よし、これで───おー! おおおおー!! すげぇ! ほんとに氣の矢が出るよ! うわー! ありがとな! ほんとありがとなかずぴい!」

 

 そうして“でんせつのつるぎ”を貰った子供のように素直に喜ぶカズマさん。……を前に、同じ席に座っている皆様が一斉に騒ぎ出した。

 ちなみにアクアはカズマさんの隣。俺は何故か紅魔族の二人に囲まれるように、その対面に座っていた。

 

「ななななななんですかあれは! なんなのですかあれはー! ずるいですよかずぴい! わたしには!? わたしには不思議な杖とかないのですか!?」

「な、なんであげること前提の話になってるのよめぐみん! それにめぐみんはちゅるばんとかいう石の剣、貰ったじゃない!」

「すごいじゃないカズマ! これ売ったらすごいお金になるんじゃないかしら! ねぇカズマ! カズマさんってば!」

「売らんわぁあっ! お前ほんといい加減にしとけよ!? 毎度毎度稼いだ先からシュワシュワに使いやがってこの貧乏神が! 今日こそは溜めようって思うたびに吐くまで注文したり、宴会芸で盛り上がったからって他の冒険者に奢ってやるとか馬鹿か!!」

「だってだってー!」

 

 うーん賑やかでやかましい。

 そして、あれだけの期間働いたってのにショートソード一本しか買えなかった彼らの懐事情がよーく理解できた気がする。

 

「かずぴい! ちょっと外出て試し撃ちしてみていいか!?」

「はい、もちろんですよ。あ、それと氣のことですが、スキルとして成長させるのではなく、普通に成長させる時に苦痛を伴うので、スキルとしてレベルを上げる分には問題はないと思います」

「そうなのか!? ……あの。氣、っていうけど、もしかしてかなり育てればその……両手から、大きな氣の塊とかを放てたり、とか……」

「? ……ああ、先祖の秘伝で、確か……かめはめは? とかいうのがありましたが」

「あるのかよ出来るのかよやだ見てみたい!! かずぴい! かずぴいはそのー……秘伝? の奥義を使えたりは……」

「はい、なにせ末裔にして最後の生き残りですから。里の技術の全てをわたしが伝えていかねばならないので、もちろんできますよ」

「うおっしゃあ!! うおおっしゃあああ!! 是非! 是非に! お願いします!」

「なになに!? なによなによ! もしかしてアレ!? アレが出来るの!? 魔法なんかで誤魔化したりしてないでしょーね! そんなことしたらこの女神アクア様の曇り無きまなこはぜえぇええったいに見逃さないんだから! きっちり見せてもらうわよ、あれを見たなら絶対にポーズだけは真似しちゃうアレを!」

「……? あの、先程からアレアレと、なにを指して言っているのですか?」

 

 騒ぎ燥ぐ、日本にて有名な龍球物語ネタを前に、紅魔族の二人は首を傾げるばかりである。

 そりゃそうだ、あればっかりは知ってなければどうしようもない。

 氣、とか言われて便利ですねー、で済んでしまうだろう。

 けど、ダメなのだ。知っている人にしてみれば、氣=アレなのだ。

 

「ねぇめぐみん? かずぴいの忍者と侍の技は見せてもらったけど、両手から出すのなんてあった?」

「いいえ、印を組むものは見せてはもらいましたが、両手で、というものはなかった筈ですよ」

 

 うん、あれだけは侍でも忍者でもないからね。

 というわけで俺達はカズマを先頭に街を出て、魔物の一匹もおらず、薬草採取なども依頼に出すほどじゃないとされるアクセルの街の外で構えていた。

 しかし、今日もいい天気だ。こういう空の下では、まず大きく深呼吸とかしたくなりませんか? 俺はなる。

 なのでこの現代日本のように景色を邪魔する電柱電線建物があるわけでもない大空の下、大きく息を吸って、吐いての深呼吸。氣の循環もその間に済ませて、完璧な状態になるように準備も完了と。

 

「では、……あ、カズマさん?」

「な、なんだ? なにか俺にしてほしいことでも?」

「いえ、里に伝わる演出はどうしようかと。ほら、わたし、白髪じゃないですか。里の伝承には、これを放つ際には時には髪を金髪に輝かせ、逆立たせながら、なんてものがありまして」

 

 そう、変換が発動したから女になったように、黒から変換されたからなのか、俺の髪は白髪だ。黒混じりとかではなく、本当に真っ白。

 ともあれそういったオプションもどうでしょう、と訊ねてみると、カズマは神妙なお顔をして、「もしかしてお野菜なチート能力者が先祖だったりしたんだろうか……」とかぶつぶつ言い出した。

 

「カズマさん?」

「あ、あー……すごいヘンな質問するけどさー。かずぴいって、尻尾が生えてたりとか───」

「? いえ、獣人ではないのでそれはありませんが」

「じゃ、じゃあ夜には外に出歩くなとか、月を見上げたりするなとか言われたりっ……!」

「月を見るのは好きですよ? 思い出があるんです」

 

 主に覇王様との。

 元気にしてるかなぁ……と思いつつ、会ったら会ったでいろいろあるんだろうなーとか妙な覚悟を決めちゃったりもしている。

 長い旅をする中で、人恋しくなってしまったことや、ここでそうしなければ心が潰れてしまうって人を抱いたこともある。

 もちろん後悔なんてしてはいないものの、だからといって……というのも。うーん。

 

「よ、よし、じゃあオプションもありで頼む」

「はい、任されました。では───んっ!」

 

 まず氣を解放。いい加減、風圧として感じられるほどに練られたそれは、変換のお陰で目で見えるほどのものになり───

 

「うおおっ!? すげ……すげぇ! 氣だ! 氣だー!」

 

 喜んでいるカズマさんを前に、変換を使用。顔の前で腕をクロス、下げるのと同時に胸を張るようにして氣の圧と髪の色を変えれば超野菜人の完成である。

 

「ほんとに変わった! おぉおおお!!」

「すごいすごいわすごいじゃない! いいのよねカズマ! 期待していいのよねここまできたら!」

「あったりまえだろおい! アレが出来て、まさかかめはめ波が出来ないとかないだろ!」

 

 はい、昔は切り離して放つのがとっても苦手な北郷でした。

 ですがもう悲しむまい……かめはめ波は男子諸君なら一度は真似したことがあるだろう。そんな夢を実現するならば、恥などはいらぬのです。

 

「かぁああ……めぇええ……!」

「…………!!」

「…………!!」

 

 ゆっくりと足幅を広げるように右足を後ろに。両手の手首辺りをくっつけ、指は関節を軽く折るようにして自然体。それをまずは前に突き出したのち、ゆっくりと……足を開く過程で後ろ側になった腰に溜めて、その手の平に氣を集中、凝縮させてゆく。

 もちろん変換で眩しいくらいに青白く輝かせることも忘れない。

 

「はぁああ……めぇええ……!!」

「…………っ!!」

「…………っ!!」

 

 ていうかカズマさんとアクアさんが、本気の本気でヒーローショーを見て目を輝かせている子供ばりに目を輝かせている。

 めぐみんとゆんゆんは状況が分かっていないながらも、とにかく俺がすごいことをするようだということは分かったのか、期待を込めた目でこちらを見ていた。

 そうこうしている内にエクスプロージョン4発分の氣が溜まって、開いた指の間から青白い閃光となってあちこちを照らし始めた。

 氣って便利だよね、まさか灯りにまでなるとは。

 さて、変換を行使して、ともかく派手にド派手に派手派手に、けれど“ぼくら”のイメージを壊さないかめはめ波を完成させよう。

 丁度、離れた位置に繁殖期だからか家畜を狙ってやってきたジャイアント・トードが居るから、あいつを滅ぼすつもりで。

 “ぼくら”の中でかめはめ波は最強。一撃で屠れずしてなにがかめはめ波か。

 

「波ーーーーーーっ!!」

 

 両手を突き出し、発射する。あたかも龍が口を開け、ブレスレーザーを放つがごとく。

 それは……その。僕が思ったよりも強大な青白く綺麗な破壊エネルギーとなって、ゲコりと鳴いたジャイアント・トードを襲った。

 当たった途端に爆発する、なんてこともなく、その巨体よりも大きなエネルギーの波が巨体を飲み込み、消し炭にし、平原に激突するや、ようやく巨大な爆発を起こしたのである。もちろん爆裂魔法4発分の爆発だから、生半可な破壊力ではない。本当に派手でド派手で派手派手だった。

 

「うおおおおおおおおおおっ!? おおおおお!! うおおおおおっ!!」

「ふわぁああああああああっ!? わぁああっ!! ほわぁあああっ!!」

 

 カズマさん、アクアさん、両手を繋ぎ合ってぴょんこぴょんこ飛び上がっている。やばいくらいに燥いでいるようだ……どうやら夢を壊さないで済んだらしい。かめはめ波といっても人によっては違うイメージを抱いているかもだし。

 一方のめぐみんとゆんゆんは、口を開けたままあわあわと震え、けれど次の瞬間にはビコーンと目を赤く輝かせた。

 

「すごいじゃないかずぴい! まさか本物のかめはめ波が見られるなんて!」

「かめはめ波だ……かめはめ波だー!! うおおおお!! ありがとう異世界ファンタジー!! 本物見られるなんて感激だー!!」

「ふうっ……お気に召していただけたようでなによりです」

 

 変換を実行、髪を元に戻して息を吐くと、さすがにどっと疲れた。

 と、そんな俺の腰にドゴォとタックルをしてくるロリっ子一人。

 

「かずぴい! あのような技を隠し持つとは何事ですか! 何故私達に先に見せてくれなかったのです!」

「様々な攻撃が武器から放たれる中、たとえば敵に不覚を取った時、たとえば緊急時に武器を忘れてしまった時。相手がいい気になっている時にこんな奥の手があり、図に乗っていた敵を粉砕出来たとしたら……?」

「なっ……なんと素晴らしい!!」

 

 一発理解であった。

 

「うー、うー! かずぴいは、かずぴいはどこまで私を興奮させれば気が済むのですか!? いったいあと幾つ、隠し玉を持っているのです!」

「めぐみんにとって、わたしの能力のどれが興奮させる材料になるかが分かりませんから、なんとも言えません」

「ではあるのですね!? み───」

「見せません」

「むうっ……! 確かに数ある奥の手を、乞われるまま見せるのは愚というものですか」

「はい。どこで魔王軍の目が光っているとも限りません」

「……なるほど。そうまで言われてはこの我も引かざるを得ませんね」

 

 どの我だろう。ツッコんじゃダメかな。ダメだね。

 ノリやすかろう方向に持っていったら見事に治まってくれた……異世界にも中二はあるって初めて知ったけど、まあ中二病と一纏めにしなくても、そういう性格だと言えばそれまでだ。

 

「ではカズマさん」

「ああ」

 

 カズマさんが、鞘から剣を引き抜く。それは彼が持っているショートソードとは別の鞘に納まっていたものであり、ようするに先ほどの弓になる剣だ。外に出る過程で変換して渡したのです。

 彼は剣を弓にジャコンと変えると、氣の弦が現れたところでそこへ指を当てる。と、氣の矢が出現して、それを引けば断続的に矢に氣が集中して、ヒィンッ、ヒィンッ、と音を鳴らしながら矢の光が増していく。

 

「じゃあ……氣の矢っていうのがどこまで飛ぶかは分からないから、あそこのカエルに当てるつもりで───んんっ『狙撃(ソゲキ)』ッ……!」

 

 カズマさん、何故か狙撃を溜め息混じりのイケメンヴォイスで言って、矢を発射。

 氣の矢は真っ直ぐに、かなり遠くに居るカエルに───ドッ、と見事命中。

 

「はぁっ!? えっ……はぁっ!? 落下とかしないのかよこれ! 真っ直ぐ飛びすぎだろ!」

「……? 氣で出来た矢ですよ? 風等の影響が全く無いとは言いませんが、かめはめ波が落下すると思いますか?」

「あ、カズマ納得」

 

 いい意味で驚いてくれただけのようで、むしろカズマは狙撃を使いまくった。幸運値の補正もあってかほぼ必中。クリティカルまでばんばか出るような調子で、離れた位置に居たジャイアント・トードはすぐに倒れて動かなくなった。

 

「すげぇ……氣と狙撃ってすげぇ相性いいんだな! ありがとなかずぴい! ほんっと恩に着るよ!」

 

 この世界に来て一番の笑顔を見せた、と言ってもいいくらいの笑顔で言って、カズマさんは遠くのジャイアント・トードをひたすら経験値へと変えていった。

 

「『狙撃(ソゲキ)』ッ、『狙撃(ソゲキ)』ッ、『狙撃(ソゲキ)』『狙撃(ソゲキ)』ッ───『狙撃(ソゲキ)』ィンッ……!!」

 

 けれど連射は氣が集中していないために威力は弱く、溜め時間の調整を始めたり、ジャイアント・トードが何発で死ぬか、溜めの段階の何回で死ぬかの確認を始めると、溜め時間の短縮がどうにか出来ないもんかと悩み出した。そこで呼吸法ですよ。なにせ名前からして“全集中”。少し相談して、結局呼吸法のスキルも得ると、カズマさんの狙撃能力は飛躍的に上がり───ジャイアント・トードを倒すことでスキルポイントを得たカズマさんは、氣と呼吸法の熟練をいい具合に伸ばしていった。

 そうして、あとはカズマさん自身の技術に寄るものとなると、俺とカズマさんはあーでもないこーでもないと技術についてを語り、実践し、時には笑った。すると、めぐみんとゆんゆんが目を輝かせてやってきた。

 新しい技術への知的探求が刺激されたらしい。いいことだ。

 

「いい加減まずはしっかりとした自己紹介といこうじゃないか! 我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!!」

「わ、我が名はゆんゆん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、いずれ紅魔の長を継ぐ者!」

「おい、随一が二人居るんだが。……まあいいや、よし。我が名は佐藤和真! アクセル随一の最弱職にして、いずれ魔王を倒さんとする者!!」

「おお! こうしてきちんと返してくれるなんて、かずぴいに次いであなたが二番目ですよ! どうですか? 冒険者というのなら、あなたには幅広いスキル習得が可能な筈。爆裂魔法など……興味はありませんか?」

「んあーダメダメ、カズマじゃ無理よ。冒険者に爆裂魔法を覚えさせるなんて、10年レベル上げに励んで一切ポイントを使わず溜めて、ようやく習得できるかどうかってレベルなんだから」

「そんなにキツいのかよ!」

 

 いや、さすがに冗談だと思いますよ?

 

「その、なぁ。パワーレベリングとか裏ルートとかで手早くレベルアップ~とかないのか? お前、説明の時にゲームは好きかって訊いてきただろーが。ゲームだったらこういう時、モンスターを倒した時はもちろん、クエスト達成とかデイリーミッションで経験値ボーナスが入るもんだぞ? サービスが長く続いてるゲームだったらスタートダッシュミッションだってあっていい筈だろ。なのに、金は無いわバイトから始めることになるわ、女神は金遣い荒いアル中まがいのおやじガールだわ、飲んで騒いで奢って吐いて、いざクエストに出れば大言吐いてはカエルに食われる。……お前さ、女神名乗ってて恥ずかしくないの? 全世界の全女性に謝るべきじゃない? 愚かしくも“女の神”名乗っちゃってるんだよ? お前」

「うるっさいわねヒキニート! 本当に女神なんだから女神名乗ってなにが悪いっていうのよ!」

「お前さ、壊す方の破壊じゃなくて、戒律を破る方の破戒神名乗った方がいいんじゃねーの? それだったら俺も諸手を上げて女神様って呼ぶぞ?」

 

 はい俺も。

 けれどもアクアは「だぁれが破戒神よ!」と激怒して、周囲が見えないほどの言い合いを始め、二人仲良く傍の地面から出て来たカエルに丸呑みにされた。

 

「ぇわぁああっ!? アクアさん!? カズマさん!?」

 

 ゆんゆんが叫ぶ! しかしその後ろにはジャイアント・トードの姿が!

 

「ゆんゆん! 後rひゅぐっ!?」

「かずぴいぃいいいっ!?」

 

 注意を促そうとしたら、俺も食われた。

 この北郷も老いておったわ……! 味方の危機を意識するあまり、自分のことをおろそかにするとは……!

 めぐみんの叫びを耳にしつつ、持ち上げられ、頭からメリメリと飲み込まれて行く自身の状況に、流石に恐怖が走る。

 生きたまま飲み込まれるのは初めてだ。女性の攻撃を受けて空を飛んだことや、女性の手料理を食べて死神や天使に出会ったことならあるけど、まさかカエルに丸呑み……!

 しかしそのまま飲み込まれるつもりもないので、

 

「今、憤怒の(トキ)───!!」

 

 身体からファイナルエクスプロージョンばりの衝撃波を発射、カエルの顎を外す勢いで拘束を破壊して、仰け反り吹き飛ぶカエルに雷速で肉薄、その弾力ある腹に掌底とともに氣を炸裂させた。

 すると───なんということでしょう、腹への衝撃で体が折れ、上を向かせていた口が俺へと向くと、なんとその口の奥からゴンヴォッチョとなにかを吐き出し───それが俺の体にベチョォとぶつかりギャアアアア先住民ンンン!?

 

 





 予定ではアイリスをダクネス加入前に仲間にする、というものがありました。
 途中で力尽きましたが。
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