凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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幼馴染のお話。
よくある、二人のおなごと一人の男のお話。ただし一人の男を取り合ってなどという奇跡は訪れない。
だってボケ者だもの。


俺が聖人あいつが聖女。も一人おまけに破壊神。

 幼馴染の恋が成立するのはフィクションの中だけ、なんて言っていた人がいた。

 普通に考えればなかなか成立するような関係じゃないし、一緒に育つと恋心よりもまず家族愛のような、キョーダイ的な感情が芽生えるもんだ。

 俺とそいつの関係はもちろん悪友っぽい立ち位置。

 整った顔であるそいつは男よりもよっぽど男らしく、喧嘩になれば平気で拳を繰り出してくる益良雄(ますらお)にござる。

 俺とそいつが知り合ったのが産まれて少しした後の生活の中であり、成長する中であり、仲良くなるのも早かった。まあ気が合ったんだろう。なにせ家が隣同士とくる。

 とまあ、うん、そいつのことは割かしどうでもよろしい。それよりも重要なのが、その後に近所に引っ越してきたお蕎麦屋さんの娘であった。

 同い年でちっこくて、可愛くて。

 突如近所に蕎麦屋が出来たって理由もあって、かなり有名だったのを覚えている。

 しかも引っ越す前の場所ではかなり有名なお蕎麦屋さんとくれば、人も並ぶし話題にもなる。

 けどまあ。分かるよな? 親が忙しくなれば子供は寂しさばかりを与えられるようになる。

 朝っぱらから仕込みが必要で、夜まで仕事をする自営業の店っていうのは子供にしてみりゃ親と自分を引き裂くだけの環境だ。

 構ってほしくて近づけば邪魔をしちゃいけないと叱られ、手伝えば褒めてくれるかもと手を出せば叱られて。

 そんな世界を引っ越す前から生きて、引っ越したあとも同じように過ごすしかなかったその蕎麦屋の娘は、一人、公園に居た。

 居た、というか……いつの間にか俺の後ろに居た。

 

「………」

「………」

 

 近づくと逃げる。離れるとついてくる。

 その距離、うろ覚えだけど2メートル。近距離パワー型のスタンドに違いないと、喉をごくりと鳴らしたあの日。……あ、やばい思い出して死にたくなった。

 

「間合いは2メートルってとこか。近距離パワー型を警戒せんばかりの間合いだな」

「……?」

 

 実際に口に出したし。なんなら首を傾げられたし。

 だが後悔はしない。言った言葉は己の本心。俺はそいつの笑顔を見てみたいって思って、そのためならいろんなことを試してみようって思ったのだ。

 ……当時はジョジョを知らないヤツが居るなんて、って驚いたもんだが。

 結局、何がこいつの琴線に触れたのか、怯えるばかり、泣くばかりだったこいつは、結果的に笑った。笑って、俺と一緒に遊ぶようになった。

 閏璃凍弥(うるうりとうや)が俺の名前。

 支左見谷(ささみたに)由未絵(ゆみえ)がそいつの名前。

 自然、幼馴染であるあの破壊神もといバトルマスター、霧波川(むなみがわ)来流美(くるみ)も一緒に遊ぶことになり、俺達は二人から三人になった。

 他の地域からやってくるやつらは大抵驚くのだが、俺達が住む場所には珍しい苗字のやつらが多い。来流美の霧波川だってそうだし、閏璃だってそうだ。けど支左見谷以上はそうそうなかった。月詠ってところから引っ越してきた由未絵が言うには、月詠町にはかなりの珍しい苗字があるらしい。

 というのもそっちでの友人の苗字からして、更待(ふけまち)とかいうらしいし、その友人の知り合いには“月”にちなんだモノスゲー数の不思議苗字があるんだとか。

 閏璃? フツーフツー。

 そうしてガヤガーヤと騒ぎ騒がれ───

 

「……ねえ凍弥。あんたってさぁ」

「おう、どしたークルーミング大佐」

「勝手に大佐にしない。……由未絵の気持ち、気づいてる?」

「気持ちって?」

「………」

 

 小学を過ぎ、中学のいつか。幼馴染であり破壊神もといバトルマスターの来流美が、気持ちがどーのと言ってきた。しかも自分のではなく由未絵のとくる。

 なんだろう、こいつは他人の気持ちがわかるのだろうか。腹立たしい存在に聖剣ならぬ正拳を叩き込み、「力とはこういうものよ」という言葉を吐き出す勇者もとい破壊神が、よもや人の気持ちを語る日が来ようとは。

 

「来流美。お前ってさ、異世界転生とか異世界転移って状況になったら、なにになりたい?」

「異界の子供拉致って自分はなにもしないクズどもに、力とはどういうことかをまず叩き込みたいわね」

「答えになってないんだが。なにになりたいかだよ、なにをしたいかじゃなくて。職業的な意味で」

「あー……勇者とか賢者とか? そんなのキングキラーでいいじゃない」

「その心は?」

「魔王も(たお)せる。裏切ったら人間の王も斃せる」

「ワオ……」

 

 やっぱこいつ、勇者召喚されても聖剣じゃなくて正拳選びそうだわ。

 

「で、話戻すけど。由未絵の気持ち、気づいてる?」

 

 こちらも話を戻そう。

 現在放課後。場所は我らが3-2の教室。掃除当番を賜り、掃き掃除をしているところだ。

 オトモには幼馴染の一人であるご近所の(ゆう)霧波川来流美(むなみがわくるみ)

 小学の頃、馬尾(うまお)の破壊神として恐れられたあの来流美も、義務教育も終わろうという頃には随分とまあ立派になった。

 これがあの破壊神だと……!? と、当時の小学の同級のやつらが見たら絶対言う。

 成長とともに化けた、って言葉がこうも似合う女もおるまいよ。

 ポニーテールが似合う女子って、なんかいい。という理由で実際モテるらしい。なのに俺が傍に居る所為で、告白するヤツはそう居ないらしい。(注:悪友調べ)

 で、放課後の夕日差す教室っていやぁ、何故か窓が開いてて窓際の女子の髪が無駄にサワワ~と揺らぐわけだが。……揺れてるな。こりゃあコイヴァナの予感がする。たぶん。いや、俺そういうのウトいからなんとも言えんけど。

 

「由未絵の気持ちかぁ……どっち方面で?」

「恋愛方面」

 

 コイヴァナの予感は当たったようだ。

 

「お前もうちょっと由未絵に遠慮しない? それもう代弁しちゃってるようなもんだろ」

「はっきりしないのはめんどいでしょ。で? あんた的に由未絵はどうなの。むしろあんたに由未絵はもったいないとわたしは思う」

 

 細リボンでポニーさんを結った幼馴染が、風に髪を揺らされるたびに、長く揺れる髪を耳に引っ掛けるように掬い、ジト目でこちらを見てくる。まあ、うん。実際かなりのレベルの美少女として数えられているらしいのだが、俺を見る目はほぼこのジト目だからなぁ。

 ふむ、しかしもったいないか。事実だな。

 

「まあ、相当な人間のクズ相手なら、もったいないって気持ちはわからんでもない。でもなぁ来流美。それは相手の気持ちに対して失礼無礼な考えだろ。好き合ってる貴族と使用人に“はいそれダメ”って言う頭のカッタいやつらみたいだ」

「うん、まったく同じ意見。だからもうちょっとシャンとなさいって言いたいの、わたしが、あんたに」

「それで相応しくなると?」

「純粋に想う娘ッコが空回りばっかって、なんか悔しいじゃないの。あんだけ“凍弥くん好き好きオーラ”出しといて、報われるまで待ってたら何年かかるかわかったもんじゃないわ」

 

 基本、由未絵は自主的に行動しない。なんでもかんでも俺基準なところがある。

 そこを依存だーとか言う、俺達の過去を知るおバカさんは居るには居るが。

 

「依存で救われる子も居るって、なーんでわかんないかなぁって、わたしゃ全人類に言ってやりたいけどね。互いが満足ならそれを他人がどうこう言うなって話でしょ。で、あんたは今の関係に満足してる? あんたに依存したまま、いつかあの子が他の男にたぶらかされてーとか、そんな未来を望んでる?」

「お前はちょっとは人の話を聞こうって努力しような? なんでそう結論急いで話相手を悪者にしたがるんだ。こういう時の男女がじれったいのはわかるけど」

「男は“事前”の言い訳が好きでしょ? 女は“事後”の言い訳。そのくせどっちも相談事は大嫌い。報告連絡相談あっての事前事後でしょうにね。自己完結が好きで、そんで失敗して周囲を巻き込む。事前事後の前に一人で抱え込まずに相談しろって話。結論を急ぐ? 仕方ないでしょ、あんたらいつまで経っても結論なんて出そうとしないし、あたしゃそんな二人の幼馴染を何年もやってんのよ」

 

 ぞすぞすと人差し指で腹をつつかれる。

 

「見よ、この腹筋!」

 

 ぞすっ。

 

(つう)っ!」

 

 腹筋を絞めて突き指をさせる目論見は砕けた。

 

「で?」

「……女ってこのテの話、好きだよな」

「面白いから話に混ざるとか、そーいうのじゃないのよ、わたしの場合。あんたらの恋路だし、交じり合わなければそれはそれで仕方ないわよ。恋ってそーゆーもんだと思うしね。あ、先に言っておくけど、あんたが好きだからさっさと決着つけてほしいとかそういうのは本気の本気でないわよ。命かけるわ」

「いや、俺もお前は勘弁だ。奇跡的に付き合っても翌日には俺の遺体が河川敷で発見されそうだ」

「ぶっ殺すわよコノヤロウ」

「言った傍から物騒な」

「……幼馴染にもいろいろあるわよねー。あ、けどね、凍弥。もし告白するにしても、目一杯カッコつけてからにしんさいよ? 私ね、あのよくある幼馴染ざまぁとかクソくらえだから。なにあれ、告白する前に努力もしないで好きです~とかアホか。そんで失敗するとざまぁに走るって、頭イカレてんでしょ。勉強もしません。運動もしません。容姿からして陰キャですとか指摘されても直す努力もいたしません。でもざまぁだけは全力で努力します! ……人としてダイジョブ? 告白断られて当然でしょが、こんな男。幼馴染じゃなくたってお断りだわ」

「まあ、気持ちは分かる。好きになった女子に告白するのに、ボサ髪とか目隠し状態とか、自分をいい男に見せる努力のこれっぽっちもしてないのはひどいよなぁ……」

「お? 分かってるじゃないの。じゃあじゃあ凍弥? アンタはもし由未絵……あー、由未絵のみと考えずとも、好きになった女の子に告白するとしたら、どんな自分磨きをする?」

「そりゃまずポイント稼ぎだろ。普通に考えて誰だってそうすると思うぞ? 相手からすりゃ幼馴染ざまぁ主人公って大体オタクっぽい印象だろ? なんでそれでポイント高いって思えるのかこれっぽっちもわからん。“告白しようって踏み切れるのは人間性が死んでいるからなんだろうか”って思えるほどだ」

「て、いうかよ」

「ああ、というかだ」

「「保身に長けたオタクやモブが、前準備も確信もなく告白なんぞするわけがない」」

 

 テッシーンと手を叩き合わせた。

 や、普通そうだろ? 誰だってそうだと思うんだが。

 むしろそんなこともせず“俺アイツに惚れられてるZE!”って突っ込めるのは、オタクじゃなくてストーカー気質の異常者だけだ。あとは超前向きな恋愛真っ直ぐ熱血青春野郎。

 

「ま、あれよ。結局あんたに何が言いたいかってところは、好き合ってる同士なら、さっさとくっついて幸せを噛み締めとけって言いたいの。今から付き合えば、これから先も幸せでいられるでしょーが。あんたが浮気とかしない限り」

「失敬だなこの野郎。言っとくけど俺は一途だぞ。一途村のイチズさんはどなたですかと訊ねられれば、まず間違い無く誰もが俺を指差して、俺が手を挙げようとした途端に隣のイチズさんが俺ですとか言うくらい一途だからな」

「誰よイチズさん」

 

 知らん。

 

「とにかく。好きならさっさと告白でもなんでもしちゃいんさいな。あの子はまぁああああそれはそれは一途で“凍弥くんラブ”を隠そうともしない健気で献身的な美少女さんなんだから。あんたにあんだけべったりだからこそ他の男子がちょっかいかけないだけ。見るに無防備なあの子がこのまま高校生になってみなさい、どこぞから集った男子どもにたかられて、口車に乗せられて、あれやこれやであげなことそげなこと……!」

「お前ただ由未絵が心配なだけじゃないか」

「なによ悪い!? わたしが男だったら突貫かけるほど心配よドアホウ! けどあたしゃノーマルだからあんたが行けっつってんの! ……幸いにも? どんな魔法を使ったんだか、由未絵はあんたにぞっこんなわけだし。まあ由未絵の容姿に関してはわたしがわざと、マエガーミ・ナッゲーノ子爵令嬢にしたんだけど。目が隠れるほどの髪に、あんた以外の男子とは積極的に話さないもじもじ感。周囲にはモッサい女子だ~なんて思われてるでしょーけどね。正直あんたが高校までこれっぽっちも進展を見せないなら、高校デビューとして髪とか整えちゃる予定だったんだけど───」

「……なぁ」

「あによ。告白する気になった? お膳立てでもしてほしい? あたしゃあの子が幸せになるならなんだってやったるわよ」

「その……」

「あによ」

「……こ、告白って、どうやるんだ?」

「───」

 

 幼馴染の破壊神が、汚物を見るような目で俺を見つめた。なんで?

 

「あんた、普段からあんなに由未絵の頭撫でたり笑いかけたりしてるくせに……え? そこ? そこからなの?」

「フフフ、甘く見るなよ破壊神。俺は近所の悪ガキがそのまま大人になったようなクソガキャアぞ? 異性への想いの告げ方なぞ知っているわけがあるまい……!」

「威張んなドアホウ。ていうかだれが破壊神よドグサレ」

「お前、昔もし自分が悪い存在になったら、なんてお題の作文が出た時、破壊神名乗ってただろ」

「あったりまえでしょが。破壊の神よ? 破壊をコントロールできるの。誰よりもよ? なら、くっだらない破壊も、しなくていい破壊も止められる。最高の悪じゃないのさ」

 

 言って、キュボッと腰に溜めた正拳を解き放つポニーテール幼馴染。

 ポニーテールは男勝りの証とか、前にどっかの本で読んだな。そして何故か胸がデカい。例に漏れずなこいつもだけど。嫁の貰い手とかあるのかね、ほんと。

 

「で? 支援魔法型最高司令官とかいう作文を出した凍弥様は、後列でなにがやりたかったのよ」

「支援部隊がすることなんて支援だけだろ。仲間が死なないように全力で支援魔法を行使する。そして正義を蹴散らして悪を示すのだ」

 

 「正義側の場合は?」「やること変わらんな」そんな問答が続いた。

 で、結局のところ、恋路なんて“目標を決める”ってなったら告白以外にないわけで。

 掃除当番を終えた俺は来流美を供に、ヴァサァと制服の上着を肩にかけてマント代わりにして歩き出す。

 さあいざ告白! 由未絵のことだから絶対、間違い無く昇降口で待ってるだろうし!

 そこで告白! ロマンチック? 知らん! 鈍感な男にロマンチックを求めることほど愚かなことなぞそうそうあるまいよ!

 

「いーい? 凍弥。由未絵はあれでも白馬の王子様とかマジで信じちゃってるほどのポヤポヤウーマンだから。出来るだけサワヤカスマァ~イルとキザったらしい告白を心掛けるのよ?」

「ぬう! それをするとどうなるというのか!」

「それを見た他の生徒がドン引きするわ」

「それ俺にやらせてなにを得たいのお前。じゃああれだな、お前、馬になれ。丁度ポニーテールだし」

「幼馴染の美少女サマになんつー要求すんのかこの馬鹿は」

 

 幼馴染の美男子(おふざけ自称)に告白しろなんて要求する益良雄に言われたくない。あと馬鹿って言うほうが馬鹿なので馬鹿は貴様だおバカさん。

 

「けどポニーテールっていうからには、俺はお前の頭に跨らなければいけないわけで」

「女の頭に跨る白馬の王子様とか何者よ」

「……暴れん坊将軍?」

「白馬であっても王子じゃねーわよ」

 

 デーンテーンテーン! デケテテケテ・テーンテーンテーン! とかBGMが鳴り始めて、来流美の頭に跨ったマツ・ケン=サンが大暴れ。……いける。

 ともあれ告白。白馬の王子とか俺のイメージじゃないし、キザな言葉だって俺にゃあ無理だ。

 無理だ無理だを無理矢理押し通す趣味だってないが、そういう問題じゃないだろこれ。

 

「由未絵にキザな告白して、由未絵がそれを望んでなかったらただのトラウマになるんじゃないかそれ」

「そりゃないでしょ。あの子、“どんな凍弥くん”でも受け入れそうだし」

 

 否定できないところがさすがは由未絵。ほんと、どこをどう捉えて受け取れば、こんなろくでもねぇ男にあそこまで心を尽くせるのやら。

 いや、ほんと自覚出来るほどに俺、悪ガキがそのまま大人になったようなクソガキャアぞ? さすがにこの歳になってスカートめくりとかはしないが、いやそもそもスカートめくり自体やったこともないが、言動や思考能力が成長してる自覚がこれっぽっちもない。ほぅら、悪いガキャアのお通りじゃい。

 

「ま、あんたって高校生になってもクソガキャア感丸出しな気がするけど。いい機会だし、恋人作ってちったぁ大人になってもいいんじゃないの?」

「大人って。……だ、だってお前、恋人ってほらその……ちゅ、ちゅーとかするんだぞ?」

「あんたどこのクソガキャアよ!! レベルいくつ!? ガキャアすぎんでしょちょっと!」

 

 男はいつでも心に童心を備えとるんじゃよ。ここぞって時に走り出せねぇガキャアは、そこんところに愛が足りぬ。そして走り出した結果、周囲から“夫婦夫婦ー!”とか“ぶっちゅしろぶっちゅー!”とかからかわれるのだ。そこで踏み出せるか、恥ずかしさに敗けて逃げるかで、人の関係が劇的に変わります。

 ちなみに小学の頃にそんなことがあったはあった。俺はどうしたか? 夫婦~とか言われたから“アホかお前、結婚は大人になってからじゃなきゃ出来ないんだぞ”ときっぱり。じゃあカップルだーとか言ってからかう男子には、“そうだ……分かるか。お前には無いものだ……”とどこまでもやさしい笑顔を向けた。ちなみにあの時の俺は、仲の良い男女のことをカップルって呼ぶんだと本気で思ってたから、各方面でカップル呼ばわりを全肯定してきた。……以降、なんだか由未絵の俺との距離が近い気がするのです。

 しかし実際……俺はどうだろう。由未絵は……大事だ。たぶん両親よりも、義理の姉よりも。

 いっそ隣でぶつぶつ言ってる破壊神よりも。

 そんな“大切”が、自分と恋人同士になる。そんな未来を想像してみても……なにやらさっぱり未来が見えない。

 や、だって今でも十分近くない? 恋人になったからって何になると?

 

「はぁ。どーせくっだらないこと考えてんでしょーから一言くれてやるわよ、このボケ者。いーい? 凍弥」

「だめだ」

「話進まないでしょが! ……たとえば、由未絵があんた以外の男子と、あんたにするみたいに尽くしてるところを想像してみなさい」

「ふむ………………よし、想像したぞ?」

「どう思った?」

「どうって。ああ、いつも通りアホ面してんなぁ来流美、って」

「男子想像しろっつってんでしょうがこの馬鹿は!!」

「なにぃ、先人に曰く、馬鹿って言った方が馬鹿だぞこの馬鹿」

 

 むしろそう言えるんならもうちょっと女の子らしく振る舞わない?

 

「男子か………………なぁ大佐。お前以上に雄々しい存在が、俺の周囲に居ないんだが」

「雄々しい言うな。あと大佐も」

「空手習ったわけでもないのに格闘センスがおかしいだろお前」

「格闘術なら葉香さんに習ったわよ。それ言ったら葉香さんのがおかしいでしょが」

「閏璃葉香。俺の義理の姉である」

「そこは心の中でナレーションしときなさいよ。………………え? 義理?」

「義理だぞ?」

 

 閏璃葉香(うるうりようか)。義理の姉である。

 俺の記憶にもないほど幼い頃に母が知り合いから引き取ったらしい。

 本来の両親がどうなったのかは知らないが、祖母は外国人なんだとか。で、姉の特徴として、身体能力が人外。高校の時に運動等の学生記録を大きく塗り替えた経験アリ。なお、現在大学生。ガキャアの頃から付き合いのある、愛称ヌリカベアニキことヌリ兄ぃと付き合っている。夢はパン屋開いて運営すること、だとか。

 余分な知識として、所々にハネのある黒髪ロングで、ココアシガレットが好き。最近品薄で、取り寄せなきゃ手に入らないココアシガレットに想いを馳せているとか。まあ大学入学にあたって一人暮らししてるから、彼奴めの脅威はないのだが。いや、ほんとな、不良グループが束になってかかっても無傷でブチノメせる異常者だから、からかってアイアンクローされた時なんざ、漫画とかで頭をメリメリ締め付けられてるキャラクターの気持ちがハチャメチャに分かった。

 

「そういやさ、姉のことで姉の彼氏を連想、次いである人のこと思い出したんだけど」

「あー……もう随分昔になるのねー……。今頃何処でなにやってるんだか」

「姉さんはなんか知ってそうなんだけどな」

 

 姉が高校、俺たちが小学の頃、とある事件がございました。

 由未絵の親が経営する蕎麦屋でバイトをしていた、姉と同級生の男がなにかに巻き込まれて死亡した、って事件。

 行方不明から発見まで時間が空きすぎたため、発見できた時は既に手遅れ。銃で撃たれた跡が見つかったためになにかに巻き込まれた、って話になった。

 で……その死亡した人の妹が、ある日行方を眩ませた。本当に、ぱったりと。最近になって姉さんに久しぶりに訊いてみたら、「さぁな。どこぞの小学校で教師でもやってるんじゃないか?」とこぼした。

 それと関係があるのかどうかは謎だけど、とある会社が潰れた。

 

「潰れた会社の名前、なんだったっけ」

「ああええっとあれでしょ? あー……える、えるー……えるす?」

「ああそうそう、L's」

 

 意思を持った人型……っていうのか? 人形みたいなのを作るって場所だった気がする。

 なんだかどうにも思い出せんが……まあ、あれだ。思い出せないのは俺が満たされているからだろう。

 

「なぁ来流美。過去のなにかが限定的に思い出せないのって、なにが原因だと思う?」

「あんたがなにかしらの主人公とかなんじゃないの?」

「ギャルゲー主人公は忘れやすいからなぁ……」

 

 言いつつ、歩みは下駄箱に差し掛かる。

 流れ作業のように靴を履き替えれば、あとは帰るだけ。そんなところで、待ってましたとばかりにぴょこんと現れるは、先程まで話題にあがっていた幼馴染であった。

 

「凍弥くんっ、来流美ちゃんっ、お疲れ様っ。一緒に帰ろっ?」

 

 幼馴染にのみ向けられる由未絵スマイルは、中学を3年ともに歩んだ猛者どもにとっては大変貴重らしい。なにせ由未絵が俺以外の男子とは距離を置きたがるからだ。出席番号順に並んで男女ペアを~とか言う時だろうと、ペアに頭を下げてまで俺のところへすっ飛んでくる。そして、すっ飛んできたわりに、俺のペアに“変わってください”が言えないポンコツさん。……来流美いわく、男だったら嫁にしたい存在第一位らしい。他の女子の印象としては、“え~? 支左見谷さんにヨメは務まらないでしょ~”がデフォルト。だが、炊事洗濯掃除なんでもござれ。想い始めたら相当一途ってのは来流美の談。

 ではよくある幼馴染っぽく、だらしのない男幼馴染を朝から起こしに来るのか、と訊かれれば否である。だってこいつ、朝にめっぽう弱いし。むしろ起こしに行くの俺だし。

 しっかしまあああ……尻尾があれば振り回しまくらんほどの、気を許した笑顔を見せる見せる。

 

「なんと由未絵が飛び出してきて仲間になりたそうにこちらを見ている。コマンド:どうする?」

「あ、そういう流れ? んー……“この娘の名前は支左見谷由未絵。わたしこと霧波川来流美の幼馴染である。髪型は肩甲骨あたりまで届く程度のセミロング。前髪は長く、片目は見事に隠れている。頭にはどこぞの馬鹿にもらった紐型リボン付きカチューシャをつけ、目は大きく胸も大きい。そのデカさ、わたし以上。そのくせ腰回りもスラっと……まあ運動してる分、わたしの方が腰回りはそのー……ね? ……で、性格は天然おっとりポケポケ系であり、そんな様子から同じく幼馴染である凍弥からはボケ者呼ばわりされている”。……身長はまあわたしの方が上ね。スタイルには自信あるけど、由未絵ほどバランスいいのはなかなかないわよねぇ……」

「お前の場合、女性特有のやわらかさの下にみっしりと筋肉があるイメージだしな」

「SUMOU取りに喧嘩売ってんの? あんた」

「むしろ女性としてお前がそれでいいのかよ。や、相撲好きだけど」

「もちろんこっちもよ」

 

 と、いうわけで。出て来た幼馴染、由未絵は俺と来流美のやり取りを聞いてにこにこしている。

 歩けばそのまま横に並んで、やっぱりにこにこ。

 ここで“待ってなくてもよかったのに”なんて言おうものなら、しょんぼりするので言わない。

 言わないので、

 

「由未絵」

「なに? 凍弥くん」

 

 声をかければにっこり完全拝聴姿勢。尻尾があればブンブカ振りまくっていることだろう。

 そんな彼女に、

 

「俺はお前の気持ちがわからん。姉さんに女の気持ちを考えてみろーとか言われたって、ならば貴様は男の気持ちがわかるのかと返したいハートをいつも心に秘めている。取り繕うほどの器量もないし、誤魔化しはなんというか……苦手だしなぁ。だからわからんなりに知っていこうと思う。その関係を築くために、俺と恋人関係になってくれ」

 

 由未絵の気持ち、わかる? と来流美に言われて、ずっと悩んでいたこと自体を打ち明けた。

 わからないなら訊く。これ、人間の知恵。(ポポ)

 ところでミスター・ポポはフルネームがミスター・ポポなのか、ミスターなポポって意味なのか。

 するとどうでしょう。由未絵は邪気を知らない無邪気な笑みでの完全拝聴姿勢のままコキーンと硬直してしまった。

 

「ぬおお、どうするんだ来流美、返事が聞けてないんだが」

「ぬおおじゃないわよ! あんたなにいきなり告白してんの!?」

「漫画とかドラマのじれったい感じ、なんかむかつくだろ? ならうだうだ言う前に恋人ってものになって、お互いをもっと知っていけばいい。俺は常々お前にそう言われて生きてきた。ていうかさっさと告白しろ的なことを言ったのは貴様だろうが破壊神」

「あんたが常々思ってたとかじゃなくて!? ゃっ……そりゃ言ったけど……! ぁああごめんね由未絵! わたしがこの馬鹿におかしなこと言ったばっかりにせっかくの告白がこんなっ……! ていうか凍弥! 告白するにしたってもうちょい言い方ってもんがあるでしょ!」

「言い方? 言い方ー……由未絵。お前が俺に対して抱いている気持ちを、俺に教えてくれ。一つや二つじゃない。全部だ」

「そこで世紀末救世主チックな問答はいらないの!」

「ぬう。じゃあ……俺に好きって気持ちを教えてくれ。お前の頑張りが、俺をクソガキャアから恋に生きられる男に変えていく……のか?」

「疑問とかこの際捨て去りなさいよ! そこは虚勢でも自信満々に告るところでしょ!?」

「なにぃ、俺はお前が破壊神であることを信じてるぞ。自信満々だ」

「殴るわあんたを」

「ごぼぉっほ!? おごっ……!」

 

 普通、そこは殴るわよで止まりませんか?

 突如として脇腹を襲った拳に勢いを削がれつつも、疑問は捨てぬが男にて候。痛みが走る右脇腹を庇った瞬間、左脇腹まで殴られたが。

 それとクソガキャアがそのまま大人になったような存在に、立派な告白を期待するとかお前の脳みそ大丈夫か。……すまん、破壊神だもんな、頭の中までパワーでいっぱいだったか。

 

「じゃあ質問だクルーミング大佐。俺に“恋する男”とか似合うか? 本当にそう思うか?」

「とりあえずやってみなさい。ドクターペッパーで吐瀉物を煮込んだみたいなくそったれドクターゲロ告白だったけど、アホだろうが馬鹿者だろうがボケ者だろうが、恋に生きるってのは馬鹿になるってことよ。うだうだ言ってる暇があるなら恋に生きればいいのよ」

「なるほど。よし由未絵。由未絵? 由未絵ー?」

「………」

「あちゃー、まーだ固まってるわよこの子ったら。由未絵? 由未絵ー? ……構やしないわ凍弥、ちと抱き締めなさい」

「御意」

 

 きゅむと抱き締めた。

 

「わたしじゃねーわよ!!」

「ペポアール!(訳:ギブアップ)」

 

 殴られた。

 ナナメ下から抉るような鳩尾アッパーであった。

 

「おごごごご……! お前ほんっと……!! 冗談に対してショートレンジアッパーとかやめろというのにっ……!!」

「力とはこういう物よ」

「やかましい!」

 

 大変痛いぽんぽんを庇っていると、無遠慮にゾスゾス脇腹をつついてくる破壊神。こいつほんと容赦ない。やっぱこいつ以上に雄々しい男の友人とかおらんのだが。

 生物学的上では確かに女だというのに、何故こうも美人さんなのに野性的なのか。

 そんな益良雄なるおなごから逃げるために、固まっている由未絵を腕の中にきゅむと招いた。

 こやつの弱点は由未絵である。由未絵が傍に居る限り、迂闊な攻撃なぞ出来ぬのだゴハハハハ。

 ……ふむ。しかし、ふむ。いつ抱き締めても心地良い抱き心地。こう、腕にすっぽりーニョ。さらりと頭を撫でれば、当然とばかりにさらりとした髪の感触。いつの頃からか、こうすると自然と我が口角が持ち上がっていくのである。人間とは不思議なものですね。なんともふーしーぎー。

 しかしなぁ、人には好きという感情がありましゃう? 異性に対してトキメキドキュンな気持ちとか、やっぱり俺にはわからんとです。

 気になる異性のことをいつも考えてる~とか、手とか握るとドキドキする~とか、さっぱりである。

 手を握るだけでドキドキとか、じゃあこうして抱き締めたらどーなるんですかって話だろ? 俺はこの通り平気である。ドキドキなどせんよ?

 まあ代わりに今のこの、ぐりぐり~っと俺の胸に顔を押し付けてほにゃーり顔をしてらっしゃる由未絵を害する者がおるのなら刺し違えてでもブチ殺す覚悟があるってくらいで。

 それってペット感覚じゃ? なんて邪推する者もおったけど、ボケ者めがと言ってやろう。この世界において、俺が甘やかしたくなる存在は由未絵ただ一人だ。

 ペット感覚では断じてない……ただ、こんな状態の由未絵を誰かに任せるなぞ出来るはずもないとか普通に思っているだけだ。

 ……普通だよな?

 ということを来流美に語ってみた。

 

「あんたほんと恋のこの時も自覚出来ないクソガキャアだわ」

「なにぃ、ならば貴様はバトルのルの字さえマスターしている破壊神だ」

「どういう張り合いよ」

 

 はぁ、と溜め息を吐くと、来流美は由未絵の頭に手を伸ばし───

 

NOォゥ(僕のだぞ)!」

 

 俺はその手をはたいた。

 

「……あんたさ、ほんっとに由未絵のこと好きとか、そういう気持ち、自覚ないの?」

「fufu……貴様ら恋愛お節介どもはいつもそうだ。話を聞いてくれません。自覚だの相手の気持ちを考えろだの。そんな貴様にこの恋愛偏差値マイナス系の俺が、こんな言葉をプレゼントしよう」

「あによ」

「俺、告白シタ。由未絵、腕ノ中、逃ゲナイ。オ前ノ気持チ、関係ナイ」

「ム。……一理あるわね。さっさとくっつきなさいって言っておいて、先のことをいちいち気にするのは確かにお節介が過ぎるわ」

「然り」

「けどそれって、ちゃあぁんと由未絵が返事してからの話よね? 逃げないからってなによ。結論はちゃーんと明確にしてから胸張んなさい?」

「ぬ、ぬう」

 

 こやつめやりおるわ。だがそれこそ愚かなことよグハハハハ……!

 由未絵はこう見えても言うことはきちんと言う方ぞ? “嫌なことはきちんと嫌といふのですよ?”と昔から伝えて来たのですから。

 

「というわけで由未絵、結論を───おお?」

「え? ……なによこの光。地面……ってなにこれ!?」

「ぬう!? こ、これは……!」

「え? な、ちょ……なんか知ってんの凍弥!」

「来流美……そこは“知っているのか雷電”って言ってくれないと……」

「んーなこと言ってる場合じゃないでしょ! ってあんたちょっと! 浮いてる浮いてる! 身体浮いてきてるわよ! さっさとそこから出なさい!」

 

 叫ぶ来流美につられるように地面を見てみれば、謎の魔法陣のようなものが昇降口先のコンクリートに浮き出し、輝いていた。

 しかもどういうことか、俺と由未絵の体が浮いてきているのだ。それも、浮いていると気づかないレベルで超自然的に。そのくせ歩こうとすると足が空を掻くのみ。

 なので由未絵を抱き締めつつ、器用に足で胡坐を掻いて、と。

 

「ヨォガヨガヨガヨガヨガヨガ……!」

「ダルシムやってる場合かぁあっ!!」

「何を言う。体が浮くなら一度はやってみたいだろ? ていうか浮いてる相手に移動しろとか頭大丈夫かお前」

「あんたこそ冷静に返してないで慌てなさいよ!」

「ぬう来流美! なんか棒的ななにか! 手ぇ伸ばしたらお前も巻き込むかもしれん!」

「って、わたしも冷静じゃないわねっ……! 口開いてる暇あったら行動に出ろってのわたし……! ……って言ったって棒的ななにかって……そうだ掃除用具!」

 

 踵を返す来流美。いよいよもって勢いをつけて浮き上がり、光に飲まれていく俺と由未絵。

 由未絵は天然故かこんな状況に気づいておらず、俺の腕のなかでゴロニャーゴ状態。あ、やべ、これほんと異世界召喚とかじゃ───とものすごい高速で事態の処理を頭が行なった結果。

 

「フン」

「ホピュコ!?」

 

 自分でも信じられん速度で手を伸ばし、風に揺れたポニーテールを掴んでいた。

 

()ったぁああっ! 痛った! 首ゴキって……! いったぁあああああっ!!」

「すまん来流美……もう手遅れみたいだ……。安心しろ……俺一人では逝かぬ……!」

「へ? って、ちょ、凍弥あんたぁああああああっ!!」

 

 一応、俺と由未絵の体が魔法陣の外に出るように引っ張ったのだが。俺達の体は浮いているにも関わらず魔法陣内に固定されているようで、その先へは出られなかった。手は出たくせにね、なんとも不思議。

 結果として破壊神を魔法陣に招くことになり───俺達幼馴染ーズは、異世界へとご招待されることとなったのだった。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 空気が変わった、と思うのと同時に目を開く。瞼の上からでも眩しさを伝えていた輝きはゆっくりと治まり、きちんと目を開いてみれば……昇降口なんて景色は消え去り、なにやら天井がめっちゃくちゃ高い位置にある石作りの……その、なに? 聖堂? 神殿? っぽいところに居た。

 俺と、腕の中の由未絵と、ポニーテールを掴まれて、ぐああと呻く雄々しき幼馴染。

 

「おおっ……成功した! 成功したぞ! 聖女様だ……聖女様がご降臨なされた!」

「なんだって本当か!? すごいじゃないかよくやったな!」

「ああありがとう! ありっ…………いえあの、召喚されたのは、そなたたちなのだが……」

「え? でも聖女なんだろ? すごいじゃないか。すごくないの?」

「え……いやすごいんだが。それこそを望んでいたんだから、すごいんだが……え?」

 

 いつの間にか座り込んでいた俺達を囲む、神官っぽい人々の中の長のような存在。そんな彼が感無量といった感じで喜んでいたので、我がことのように喜び褒め称えたら、困惑された。きっと褒められ慣れていないに違いない……おお心強き人。きっと、岩を砕く波のような僕の父親的存在だ。

 

「おっと、出会ったのならまずは自己紹介を。俺は日本よりこの地に召喚された、名を閏璃凍弥といいます」

「これはご丁寧に。私はこの王国国立聖晶神殿の神官長を務めます、メグロ・モッスイーンです」

「メジロマックイーンじゃないんだ……」

「はい?」

「いえなにも」

 

 うおう……マック派じゃなくモス派なんだなこの人……! ちなみに俺は安ければどこでもいい、いち学生です。

 

「しかしよかった。かつて召喚されてきた異世界の住人は、召喚されると取り乱す者が大半だと聞いておりましたが、冷静に教えてくださるとは」

「ったたた……あーええっと。そういうの、他には期待しないほうがいいわよ、ええとメグロさん」

「ふむ?」

 

 メグロさんと話していると、うなじをさする来流美がメグロさんに言葉を投げる。その対応は、神官長様にするようなものではない……とはいえ。

 

「まず最初に。名乗ることはしないし情報を漏らしたりもしないわよ? こっちは急にここに飛ばされて、どーせ迷惑することになるんだろうから」

「……なるほど、確かに。ええ、召喚者への対応は学ばされております。要求されるものの大半も、まあ大体は。ですので手っ取り早く話を進めましょう。それを、こちらの……トーヤ殿の名を教えてもらった対価とさせていただきたい」

「あ、こいつは益良雄です。是非益良雄って呼んでやってください」

「ちょっ!?」

「おおっ……なんと心の広い……! これはこちらも一層に心を尽くさねば……! よろしくお願いします、トーヤ殿、マスラオ殿」

「………」

「だっ! いっだ! だぃっ! っだい!!」

 

 モキリ、と来流美の首に万力紛いの力がこもった。首がすげぇモキモキである。そしてその状態のまま、無言で腹と脇腹を交互にドムドム殴られた。ご丁寧にしっかり由未絵を抱いたままの俺の鉄壁防御(自称)を掻い潜るように。

 

「では早速話の続きを。あなた方には迷惑な話でしょうが、こちらの世界には聖女召喚でお越しいただきました」

「聖女召喚……?」

「ええ。この世界には主に三つの国があります。挙げてしまえば細かな国はありますが、まずはその三つの説明を。我々が居るこの国、聖王国セイ・ナール。主に神に仕える神官らが住まう、神に近しい国、と言われております」

「疑問投げかけながら脇腹殴るのやめれ!」

「だったらあんたも、隙を見つけては可能な限り人を雄々しく紹介すんのやめなさい!」

「フン……お前ら武力派はいつもそうだな。都合が悪くなれば、やれあいつが悪いこいつが悪い……。俺に言わせてもらえればな、来流美よ……そもそもお前が雄々しすぎるのが悪ブォッホォッ!?」

 

 腰の入った脇腹ナックルだった。

 暴力系幼馴染とかってどう思いますか? 俺は別にいいと思います。だって俺が殴られるようなこと言ってるんだし。

 理不尽暴力系幼馴染はほんと、イッツアヨクナーイだけど。

 

「次に剣の国カッサ・バーク。こちらには勇者が召喚されるといわれています。隣国として小さな国───ヘルネスト王国、という国がありますが、世代交代をしてからはあまりいい噂は聞きませんね。かつてこの国から勇者が召喚された、という話もありますが、やはりいい話は聞きません」

「おお勇者」

「そして最後に、魔の国マジナ・ノロージュ。こちらには破壊を司る者、いわゆる魔人のようなものが召喚されます。召喚、といいますか、発生するといいますか」

「ふぅん……? で? その魔の国の住人っていうのはどういった存在なの? あ、どういった、っていうのはええっと、魔法を使うから魔の国なのか、敵対している魔物とか魔族が住んでいるから魔の国なのかって意味で」

 

 流石来流美。訊きたいこと知りたいことはズケズケと訊いていく。ズケズケが過ぎて、マリオ・ズッケォロと俺に名付けられただけはある。オヘンジはリバーブローだったが。

 

「両方となります。魔法を使う、魔族・魔物が生息する国、それが魔の国です。魔王が治める国であり、長きに渡って一国でセイ・ナール、カッサ・バークと対立してきた巨大な国です」

「で、そこに攻め入って魔王をなんとかしろって?」

「いえ、魔人をなんとかしていただけるだけで結構です」

「…………え?」

 

 ははぁん? って顔で言っていた来流美、困惑。俺も困惑。由未絵、ようやく現状に戸惑う。

 

「確かにセイ・ナールとカッサ・バークはマジナ・ノロージュと対立をしております。しかし、なにも王を殺すだのの話にまでするほどではありません」

「ちょっと待った。じゃあなんだって異世界人を呼んでまでの問題になってんのよ」

「……発生する魔人が問題なのです。魔人は、誰の言葉も受け付けません。ただ発生し、魔気、聖気、精気などを喰らって力をつけます。召喚ではなく災害のような存在でして、発生する時期を予測推測することは出来ても、止めることは出来ないのです」

「じゃあつまり、わたしたちはその自然発生する災害対策に呼ばれたってわけ?」

「そうなります。セイ・ナールからは聖女を、カッサ・バークからは勇者を。そしてマジナ・ノロージュは少しでも魔人を弱らせるため、魔気などの吸収、分散を。しかし、そうまでしても抑えきれず、その力に当てられた魔族・魔物は暴走、無事な魔族や魔物、他国の人などを襲うモンスターとなるのです」

「ちょっと待ちなさい。それってなに? 結局はわたしたちに、その……マキだかなんだかに当てられただけの、魔の国って場所で暮らしてた存在を殺せって話なの?」

「魔人に殺されれば復帰は望めません。召喚者が討伐してあげることが救いとなるのです」

「……胸糞悪い話ね」

「まあ待て来流美」

「凍弥?」

 

 ここで軽く挙手。

 こういう場合のテンプレとして、なんぞか救いってのはあるもんだと思うのだ。

 たとえば───

 

「魔人に殺されれば復帰は望めないって……召喚者の手でモンスターを殺せば、そいつは浄化される、とかはあるのか?」

「……!? よっ……よくぞご存知で……! はい、この世界の者は魔人が放つ瘴気などに飲み込まれるとモンスターと化してしまいますが、それを異世界の者が持つ独特の力で破壊してやれば、元に戻れるのです。我々が魔人の発生とともに異世界人を呼ぶのはそういった理由で───」

「つまり、異世界人は魔気とやらを浴びてもモンスター化しない、と」

「その通りでございます!」

 

 すぐに理解してくれて嬉しかったのか、メグロさんは何度も頷いてくれた。

 と、そんな中、来流美がソッと俺の耳に顔を近づけて、軽く呟いた。

 

「……この馬鹿。そんな理由ぶらさげられたら、無碍に断れないじゃないの……! せっかく戦わないで済む理由を作ろうとしてたのに……!」

「おおう」

 

 言われてみればそうだった。日本人のヤサシサやジアイを利用した、巧い話術だった。

 帰還方法を聞いてさっさと帰ればよかったのに。

 

「けど、そっか。ていうか俺男なのに聖女なのか? そういえば聖女の男版って名前とかどうなるんだ?」

「司祭とかでいいんじゃないの?」

「聖なる男と書いてマサオとか?」

「あんたがそれでいいならいいけど。なんかカレー食べたらラ○スになりそうじゃない?」

「懐かしいからそれで」

「それで頷けるあたり、あんたってほんと凍弥だわ……」

「ところでJリーグカレーの宣伝してる人の声が、ナイトハルト殿下に似てるって噂があったんだけど」

「誰よ」

 

 知らん。

 とはいえ気にはなったので、神官長様に訊いてみた。

 

「は、は……? あの、マサオ? ラ○スとは……?」

「それ訊いてどーすんのよ!」

 

 怒られた。それもそうだった。

 改めて、聖女の男版について訊いてみると、ステータスプレートを見ればわかる、とのこと。

 頭の中でステータス、と意識すれば見れるとのことなのでやってみれば、なるほど、空中に半透明のウィンドウのようなものが出て来た。

 

「トーヤ・ウルーリ、祝福職:聖人……ぐああ似合わん……! 身体が痒くなるくらい似合わん……!」

 

 自分を正しくクソガキャア認定している俺が、聖人とかって! あ、でも聖人っていうらしい。聖女の男版。

 まあしかし、それはそれとしてだ。

 

「『ステータスオープン』……ってよォ~~~。……“ステータスがモノを言うゲームの世界”で言うならわかる……スゲーよくわかる。そういったゲームはステータスを確認することが『ゲームのシステム』として備わっとるからな……」

「……? 凍弥?」

「だがァッ! ゲーム世界に飛んだわけでもねーのに“異世界だからステータスオープン”って異世界モノはどういう事だああ~~~っ!? ゲームでもねーのに『ステータスがオープンされるシステム』が働くかっつーのよーーーーーッ! ナメやがってあの認識ィ超イラつくぜェ~~~ッ!! ゲームでもねぇのにステータス見るっつーんならよォ~~ッ、ギルドカードか冒険者カードかなんかにするべきなんじゃあねーのかよ! 世界観大事にしやがれってんだ! チクショーーッ!! どういう事だ! どういう事だよッ! クソッ! 『ステータスオープン』ってどういう事だッ! ナメやがってクソッ! クソぶぼっふぇ!?」

「またクソとんでもなくどうでもいいことでキレてんじゃねーわよ」

 

 ステータスオープンに対してギアッチョしていた俺を正気に戻すのに丁度いいボディーブローだった。おおそうだ、話を進めなければ。

 腹を庇うように体を曲げつつ、由未絵を見下ろし声をかける。

 

「由未絵、由未絵ー? ちょっといいかー?」

「え? あ、うん、大丈夫。もう調べてみたよ?」

「立ち直り早いなおい」

「そりゃそうでしょ、由未絵が固まってた理由なんて、あんたが抱き締めて離さなかったことくらいだし。その上であんたに迷惑かけるとか時間とらせるとか嫌ってんだから、行動は呆れるくらい早いわよ」

「ぬう……で、由未絵? お前のステイトはどうだ?」

「うん。聖女だって」

「へー……ていうか聖女召喚だもの、女の場合は誰でも聖女でしょ。ちなみに由未絵、実際、聖女の男版って聖人で合ってるわけ?」

「えっとね、来流美ちゃん。聖女が男の人の時が聖人なんじゃなくて、そもそも聖人である女の人を指すのが、聖女なんだよ?」

「……マジ?」

「うん」

 

 マジか。来流美と同じくポカンとしてマジ? と訊きそうになってしまった。

 じゃあいいのか。俺が聖人で、いいのか。

 まあ、そういう理由ならそりゃあ、聖女召喚で呼ばれれば聖人になる……よな?

 ならそうか、ならばこの雄々しき幼馴染も、ここでは聖女様として扱われるわけか……。聖女……聖女ねぇ……。世も末だなオイ。いやまあよくある聖女モノってニセ聖女の性格が極悪でもなんだかんだ猫被り程度で見逃されてる程度だし、いい……のか? いいのかおい。破壊神だぞこいつ。

 

「……なんであんたはここでわたしに悲しそうな瞳を向けるのか。はぁ、そーよいーわよどーせ似合わないから。けどね、んーなこと言ったって国に召喚されちゃったんじゃしょーがないでしょーが。それに、たまにはいいじゃない。聖女って枠に入ってるなら、ここに居る間くらい職業に沿った生き方ってのを見せてやるわよ」

「なんだと……!?」

 

 来流美が……あの来流美が聖女然とした生き方? 聖女っていったら……浄化とか癒しだろ?

 

「………」

 

 …………傷ついた少年を見つけては、正拳突きで相手を癒す破壊神が連想された。

 ぇ無理。聖女無理。え、とかそういった戸惑いが短縮されるくらい無理。

 だって来流美だぞ? こいつが聖女って。この祝福くれる神様頭大丈夫?

 “浄化”が“砂化(じょうか)”だったり、“癒し”が“いや死”ならすごくよく分かるんだが。

 

「ほら、よーく見ときなさい、凍弥、由未絵。ここを逃せば、今後一生かかっても、わたしに聖女なんて祝福がかけられる状況なんて見る機会がないわよ」

 

 言って、溜め息とともに目を閉じて、開いたウィンドウを俺達に見せてくる来流美。

 俺と由未絵は、ちょっぴり不貞腐れているような幼馴染をちらりと見つつも、そのステータスウィンドウに目を通し───

 

 

  【クルミ・ムナミガワ、祝福職:破壊神】

 

 

 …………ワッツ?

 

「………」

「……? ……?」

 

 目を疑った。

 こしこしと目をこすって、「わ、だ、だめだめ凍弥くんっ」……由未絵に止められて、ぽちょんと目薬をつけてもらった。

 ぱちぱちと目を瞬かせたのち、抵抗する由未絵を襲い、目薬を奪い、嫌がる少女に無理矢理点眼し、二人して目をすっきりさせてから、さあいざ改めて。

 

 

  【クルミ・ムナミガワ、祝福職:破壊神】

 

 

 ホワッツ!? ホヮッ……ホワッツ!?

 目を疑った。慌てて自分のステイトも見直してみる。

 

  【トーヤ・ウルーリ、祝福職:聖人】

  【ユミエ・ササミタニ、祝福職:聖女】

 

 由未絵も戸惑いながら、わたわたしながらも俺に見せてくれた。

 聖人聖女でちょっぴりおそろいが嬉しそうに、にこーと天然スマイルを見せてくれる。頭撫でた。

 で……ええと。この、さっきまで不貞腐れてたのに、ちょっぴり聖女であることをドヤってるっぽい破壊神どうしよう。

 目を閉じつつ俺達に見せて来たもんだから、たぶんきっとまだ真実に気付いていないと思うのだ。

 じょっ……冗談だろう? 俺、今からこいつに“お前、聖女じゃなくて破壊神なんだが?”とか言わなければいk「破壊神とか書かれてるが」言った。由未絵が「ふえ……? ふやーっ!?」と驚いた。

 

「え? ……いやいやなに言ってんのよ。まーたいつもの冗談? 聖女召喚で破壊神が降臨するわけ───…………」

 

 苦笑しつつ、ヤツは見た。……目からハイライトが消えた。苦笑も消えた。仰け反った。後退った。…………やがて、静かに、ゆっくりと、柱と向かい合うように体育座りし始めた。

 

「というわけで俺達はこれからどうすればいいんだ?」

「えっ……あ、あの、そちらの方は? なにやら座り込んでおられるようですが───」

「日課です。ああして聖なる氣を溜めているんです」

「なんと!?」

「とっ……凍弥くんっ……!」

 

 真顔で冗談を言う俺に、由未絵がわたわたしながら止めに入るがもはや遅し。

 神官長は来流美の座る姿勢を目に焼き付けようと、ジロジロジロロジーロジロと見つめまくり始めた。

 いや、うん。あの、ね? 俺達なにすりゃいいの?

 

「よし由未絵、能力チェックだ」

「ふえっ!? あ、う、うん、頑張るね、凍弥くん」

「おう、頑張ろう」

 

 戸惑うことも多いけど、決めたとあっては行動するのが由未絵さん。

 というわけでスキルチェック。

 まず俺のスキルは……

 

 ◇聖人スキル【限定聖人】

 治療Lv1

 浄化Lv1

 聖魔法・攻撃Lv1

 聖魔法・防御Lv1

 ソウルコンタクト【ドレイン】Lv--(転移特典)

 ソウルコンタクト【コネクト】Lv--(転移特典)

 

 ……ふむ。

 治療、浄化、聖魔法はわかる。うん分かる。けどソウルコンタクトってなに?

 

「由未絵、俺こんなだけど、そっちはどうだ?」

「うんえっと、こんな感じ」

 

 躊躇もなく見せてくれる。

 ……ほんと、俺に対して無防備すぎやせんかねユミエールさんよう。

 

 ◇聖女スキル【限定聖女】

 治療Lv5

 鎮静Lv5

 聖魔法・状態Lv5

 聖魔法・領域Lv5

 ソウルコンタクト【ドレイン】Lv--(転移特典)

 ソウルコンタクト【コネクト】Lv--(転移特典)

 

 ……大体似たような感じなようだ。ただしレベルは由未絵が上。

 まあ、聖女って意味ではなぁ。むしろ俺や来流美で聖人聖女とか“なんで?”って首傾げたいレベルだ。

 

「んん……限定聖女、ってなんだろうね」

「ぬう……俺もちと気になってた。限定? 限定って……」

 

 と首を傾げつつ“限定聖人”の部分に触れてみると、別ウィンドウが開かれ、説明書きっぽいものが出てくる。

 

 ◇限定聖人───げんていせいじん

 限定的な一人、もしくは複数に対してのみ聖人、または聖女である証。

 “万人に対して聖人であれ”なんて出来るわけがねーだろタコ。アホか。死にくされよダボが。

 そんな様々な人のツッコミが具現化したかのようなスキル。

 ユニーク使用者:トーヤ・ウルーリ。

 対象:ユミエ・ササミタニ、クルミ・ムナミガワ

 

 ……うおう。

 

「ええっとつまりなにか? 俺は聖人として召喚されたけど、由未絵と来流美相手じゃないと聖人してない、と?」

「凍弥くん凍弥くん」

「おうなんだ由未絵」

「あのね、私の方もえっと、スキル? のこと、見れたよ? 凍弥くんと同じで凍弥くんと来流美ちゃん限定で聖女さんだって。あとなんだか説明書きにタコとか書かれちゃってるよぅ……」

 

 容赦ないなスキル説明欄。

 しかし確かにタコとか言いたくなる。万人に対して聖人であれ、とか無茶だよな。本気で言ってる奴居るならタコとか言いたくなる。

 

「由未絵の方も聖女スキルの他に、転移特典あったよな、俺と同じの」

「うん」

「クラスメイツの加模(かもし)くんとかが語ってくれた異世界転生知識によると、こういう時の特典って普通、違うものが得られるらしいとか……なのに同じなのか? 来流美の方はきっと絶対多分やっぱり破壊関連だろうけど」

「と、凍弥くん……来流美ちゃんだって女の子なんだから、そういう見方はよくないよぅ」

「……由未絵。姉さんの息がかかった時点でもうアレは女じゃない。辛うじてまだ女って部分を持たせるなら、“アマゾネス”……その呼称が限界なくらいの益良雄だ」

「あまぞねす……ますらお……」

 

 由未絵が緊張した面持ちでごくりと喉を鳴らした。素直である。

 

「よし、まあ気になるならやってみりゃよろしい。ソウルコンタクト……魂の接触? だよな? で、えー……由未絵? コネクトってなんだっけ」

「ふえっ? えと、連結、とか接続って意味だった筈だけど……」

「ふむ。ならばきっと俺と由未絵の心? 魂が連結、接続状態になって、思ってることとかそういうのが共有されるとかそんなところか?」

「───エ?」

「なるほど、じゃあソウルコンタクト【コネクト】は赤裸々なる嘘偽りのない関係が築けて、ソウルコンタクト【ドレイン】は……なんだ? ドレイン……吸収だよな? 魂を接続して……吸収? ……あれか? 心っていうかハート? を吸収したりする……とかか?」

「ふえっ、あのっ、と、凍弥くん? 凍弥くんっ?」

「ならばこの俺に躊躇無し! 今さら由未絵に隠すこと、というか隠してられるようなことなんて無さそうだものなぁ。というわけで“ソウルコンタクト・【コネ】”───」

ままま待って凍弥くんっ!!

「ぬう! 何事か由未絵!」

 

 召喚されて早々、ガヤガヤと話し始め、今ではショックを受けている益良雄を放置しつつ自分らのスキル確認をする俺と由未絵。

 モッスイーンたちは俺達の邪魔をするつもりはないのか、こちらをただただ見守っていた。

 そんな中での、珍しいこと由未絵の大声である。

 常にぽやっとしてやわらかな印象を持つ由未絵がどーだい、今では顔を真っ赤にして目がきゃるりんと潤むほどに涙を滲ませて俺に待ったをかけるじゃないですか。

 これは……いったい?

 

「あの、あのね凍弥くん。えと、その。お、思ってること、の共有はね? んっと、まだ早いって思うんだよ? だだだってそんなので思ってること、思い続けたことが伝わっちゃうのってとってもすっごく悲しいなって思うの」

 

 なにやら手をわたわたとさせながら俺に訴えかけるユミエール。片目が隠れたマエガーミ・ナッゲーノ子爵令嬢は、長い前髪から覗く片目を動揺で揺らしては、懸命に俺に“それは違うよ!”といった言葉を投げかけてくる。

 おどおど系女子というのは焦った際には脇を絞めつつ手を前に、やもすればガッツポーズに見えなくもない姿でおろおろするものだと聞いたことがある。脇を絞めて手を前に、なんてファイティングポーズとして疑われても仕方がない状況ではなかろうかと思うものの、なるほど、相手がおどおど女子ではファイティングポーズもなにもない。

 

「なにぃ、ならば由未絵よ。まずはお前だけがコネクトして、俺の内側を知りなさい。悪ガキャアがそのままデカくなったような俺に、お前に隠すような気持ちは一切ない。ていうか俺自身、“隠してられるほど器用じゃないと自覚を持ってる悪ガキの鑑”としてご近所でも有名だ」

「聞いたことないよぅそんなこと……、……えと、凍弥くん?」

「おうさ」

「……いいの? いろいろ私、知っちゃうよ?」

「おうさ」

「うぅー……」

 

 隠すようなことが無い真っ直ぐなるこのクソガキャアを羨んでか、由未絵が複雑そうな顔をする。なんで? いいじゃないか、隠し事の無い馬鹿者。真っ直ぐって、素敵なことだぞ。益良雄にはボディされるけど。

 

「(やっぱり少しも脈とかないのかなぁ……。少しでもあったら、普通は照れたりすると思うのに……)」

「由未絵?」

「~……それじゃ、するよ?」

「おうさ」

 

 やっぱりどこか不満なのか、珍しくも軽く頬を膨らませつつ、由未絵は長い前髪に隠れた目を閉じて集中するようにすると、「ソウルコンタクト【コネクト】」と言った。

 どうやらそれでスキルは発動したらしく、俺の中で何かがコチリ、と……動いた? くっついた? ともかく妙な感触がした。

 

「……ぬう。べつに由未絵の方から何かが流れてくる~とかはないな。やっぱり俺も使わなきゃ相手への接続は…………由未絵?」

「………」

 

 で、接続した由未絵なんだが…………停止。ていうか真っ赤っか。

 前髪カーテンから覗く左目がその赤さ、というか熱に当てられてか潤んでいて、口はハワハワと震えるばかり。ていうか漫画的表現でいうなら、目のそのー……黒目の部分がうずまき状になってそうなくらいに目がぐるぐる揺れている。ぬおお、ここまで同様が視線に現れる人間も珍しい……!

 

「由未絵? 由未絵ー? どうかしたか? ていうか顔赤いなおい」

 

 顔真っ赤にしてコキーンと固まったまま俺をじーっと見てるもんだから、近づいてその前髪カーテンをさらりと持ち上げる。そうすることでコンニチワした両目をじっと見て、超唐突性風邪伝説でも発病したのかと心配になるものの、前髪持ち上げた手でそのままておでこに触れた時点で、余計にぴしりと停止した。

 

「ぬ、ぬうどうしたことか。もしや俺の魂に接続することで、俺の───アッ」

 

 そういや俺のタマスィーとかと接続して……もし思ってることとか記憶を受け取ったり出来るとしたら、俺がヴェンジョで“ビッグ便”したり“スモール尿”をしている光景とかも……?

 

「ふえぇえっ!? なななないっ! そういうのは無いよ!? ただっ……ただちょっと、ちょびっとだけね? えっと、んっと……ととと凍弥くんの心の中が、受け取れちゃって……」

「うおうマジか。どうだ? どんな感じだ? 自分の深層意識とかって案外気になるもんだな」

「どほっ……ど、どうって……」

 

 真っ赤である。煙がぼっふん出そうなくらい、真っ赤である。

 その状態で軽く俯き、おでこを触ったままの俺を潤んだままの上目遣いで見つめてきて、指は胸の前でこねこねうごめくばかり。

 

「わたしのこと……」

「うむ」

「すごく……」

「うむ」

「……ぃじに、思ってくれ、てて……」

「うむ?」

 

 ……いじ? 維持? 意地? ……遺児!? ぬおおまさか由未絵が俺の深層意識の中では遺児扱いだったとは……!

 いや待て閏璃凍弥。ことある毎にこんな返答を素直にしては、たびたび幼馴染の破壊神に脇腹を殴られた俺である。日々進化を続ける雄として、悪ガキとて学び、成長していくものぞ? と奴めに見せつけてやらねば……! ていうか幼馴染の破壊神ってすごい言葉だなおい。

 

(しかし、ふむ?)

 

 ……ぃじ、というのは恐らく、その前になにかがあったのだ。言おうと思って、掠れて声に出なかったに違いあるまい。

 というわけで───

 

 

  ───わたしのこと、すごく、カイジに思ってくれてて───

 

 

 あっ…………あぁあっ…………! あぁぁぁぁああ…………っ!

 や…………やべぇ…………っ! 俺の幼馴染がまっこと……正真正銘……人間のクズだった……!

 いや待てさすがにそれはない。

 

 

  ───わたしのこと、すごく、カーネイジに思ってくれてて───

 

 

 どこのジェノサイドハートだ。あと意味が分からん。

 

「はのっ……あの、あのね? その、気持ちが、ね? わわわ私とそのっ……同じものだって、分かっちゃって……! いっつも、いっつも普通の顔してるから全然私っ、分からなかったけど……っ!」

 

 我が幼馴染が俺と同じレベルでカイジを思っているらしい。いや違うだろ。

 ならばカーネイジ……OH……NO FUTURE。

 などと考え込んでいたら、破壊神が絶望顔からパパァアアアと眩しいくらいのうざったらしい笑顔に変わり、割り込んで───

 

「あ、すまん。今大事な話の途中だから割り込むな。割り込めば俺と貴様の言い合いでうやむやになることを約束する」

「ぬぅっく!」

 

 そうなる自信があったらしく、破壊神ははぁ~……と溜め息を吐いて落ち着きを見せた───のち、破壊神の称号にやはり落ち込みだした。

 

「だからっ……だからあのっ……ととと凍弥くんっ!」

「これもう俺もソウルコンタクトした方がよくないか?」

「ままま待って! お願いだから待って凍弥くん! 私、勇気出すから!」

「なにぃ、勇気の鈴を鳴らしたいのか」

「う、うんっ! なんで鈴なのかわからないけど、鳴らして出るなら鳴らすよっ! リンリンだよっ!」

「ぬう、ならば俺は不思議な冒険をルルンルンしなきゃならんのか……」

「凍弥。とーや。いーから今はアホなこと言うのはやめなさい。割り込まないからそれだけは約束しなさい」

「御意」

 

 由未絵がなにやら必死なのは受け取れた。ならば俺はそれをきっちり受け止めた上で、誠意を以って応えねばならんな。

 破壊神に落ち込む益良雄にさえこうまで言われては、いつまでも話を聞かんキカンバースでは居られない。

 

「~……わ、わたしねっ、凍弥くんっ!」

「おうさ」

 

 そう返事をするとともに、この世界でなにが起こったのか、神殿っぽいこの広間の天井が、パパァアと輝き出した。ややっ!? と驚きつつ見上げてみれば、どこぞから来た輝きを受け、俺と由未絵を囲むように円柱の光を降ろしてくる。

 ……言い方おかしいな。パパアアと輝いてるって知ったのは見上げてからだし、ようするに光が急に降りてきたから見上げてみたわけだな、うん。光の入り具合は……教会のステンドグラスから斜めに入ってくる光が、どういう工夫なのか入ってきた光を真上に集中させて、それから俺達が立っている場所へと円柱型の光として降ろしてきてる感じだ。

 あ、ちなみに言うと来流美も光の中に入っている。神官たちはどよどよ囁き合って、まるで“恐れ多いっ!”とばかりに光から距離を置いていた。え? これなんか危ない光なの?

 

「私っ、支左見谷由未絵は、ずっとずっと小さい頃から、凍弥くんのことが好きです! わわわ私の、そのっ……恋人さんになってくださいぃっ!!」

 

 と、謎の光に首を傾げていると、目の前で恋人になってくださいというユミエールさん。

 温かなこの光の中でその顔はめっぽー真っ赤で、しかし俺の目をじっと見つめたままに、どこまでもまっすぐだった。

 好き。好きとな。それは男女の、いやまあ恋人になってくれっていうならそうなんだろう。

 ……ふむ?

 

「由未絵」

「ひゃっ、ひゃいっ!」

「俺は既にお前に告白したんだが……俺達ってまだ恋人じゃなかったのか?」

「────────────ふえ?」

 

 そして、時は止まった。

 由未絵の顔は真っ赤から桜色に変わり、目は潤みまくりで、けれどめっちゃソワソワ。

 そういえば告白はしたけど、コキーンと固まった所為で返事は貰えてなかったな。

 

「こ、告白? 恋人さん……? ぇ、え……? 私、凍弥くんに、告白……? されて……? え……?」

「したぞ? この世界に来る前に、俺と恋人関係になってくれーって。そしたらお前、コキーンと硬直して動かなくなって。したっけ急にあそこの益良雄がお前を抱き締めろというから抱き締めたら殴られて……このありさまである」

 

 殴られた所為で転移しちゃったよとばかりに言うと、破壊神がアニメのケンシローのように拳をコロキキキ……と鳴らして俺を見つめた。笑顔が本来威嚇の意を持つことを、俺はどこぞで知っていた。そんな表情していたので、軽く死を覚悟した。

 

「……………………あの」

「おうさ」

「じゃあ、その……」

「おうさ」

「~~~……うやぁああああああああっ!!」

「ぬおっ!?」

 

 由未絵が叫んだ! 叫んで、来流美に襲い掛かった!

 しかしその襲い掛かりの歩は遅いもので、とてててて……がばしー! って感じの、由未絵らしい走り様だった。

 

「来流美ちゃん、来流美ちゃーん! うわーん! 来流美ちゃーん!!」

「あーぁはいはいよかったわねまったく……! ていうかなんでここでわたしに抱き着いてくんのよこの子はもー……!」

「両想いだった……!」

「そーね」

「来流美ちゃんの言う通りだった……!」

「そーね」

「凍弥くんの頭の中だと、来流美ちゃんの認識がますらおさんだった……!」

「よーし凍弥ちょっとこっち来て歯ァ食い縛らず舌を軽く噛んで棒立ちしなさい」

 

 おやめください死んでしまいます。

 お前あれだろ、そのまま俺に極ナックルパートして舌を噛み千切らせて自殺に見せかけて殺す気だろ。

 などと予想の未来に対して俺の脳内が供述する一方、赤ら顔の由未絵がソワソワしつつ俺へと向き直り、おずおずと訊ねてくる。

 

「ぁ、あ、あの、あのね? 凍弥くん。凍弥くんはその、いつから? いつから私のこと、告白してくれるくらい好きでいてくれたの……?」

「? いや、好きというか、そこの破壊神が由未絵は俺のことが好きだからとっとと告白しろと俺の腹という腹を殴打しながら脅迫してきてな」

「とちょばっ!?(凍弥!? ちょっ、ばかっ! の略)」

 

 なお、腹、脇腹、下っ腹と満遍なく殴られたので、腹という腹という表現は間違っていない。

 

「───……来流美ちゃん」

「ゃっ……やっ、ちがっ、違うのよ由未絵!? 違うの!」

……よく見ておくんだメグロ氏。あれが俺達の世界の、浮気がバレた嫁の姿だ

「なんと……!」

「あんたもテキトーなこと言ってんじゃねーわよ!」

 

 いやでも、とりあえず浮気がバレた女っていうのは“違うの!”を言わなきゃいけないという、浮気道の掟とかあるらしいって加模くんも言ってたし。

 

「じゃ、じゃあ、あのっ、凍弥くんっ……! 凍弥くんは、私のことが好きとかじゃなくて、来流美ちゃんに言われたから……その、告白、したの……?」

「……? いや、俺の心とコネクトしてるんなら俺の心に訊けばいいんじゃないか? 心は嘘はつかぬ! そして俺は俺の本心なんぞこれっぽっちも知らぬ! ていうかカイジだかルイージだかなにやら思いながら顔を赤くしてたってことは、なにか分かったことでもあったんじゃないのか?」

 

 不思議に思って言ってみれば、不安そうだった顔が瞬時ポムッ……と赤く染まり、「ふえ……」なんて震える声を、喉の奥からこぼしていた。

 

「と、凍弥くん」

「おうさ」

「あの、いくつか質問していい? ううん、するね? 答えてね?」

「うおう……由未絵がかつてないほど積極的だ……! よもや俺に答えてと言ってくるとは……! まあ質問しながら心を覗けばなんでも読める。煮るなり焼くなりマッスルリベンジャーするなり好きにしろ」

「なんでそこで肉に走れるのよアンタは……」

 

 ともあれ、由未絵はなにやらムンと構えているようだし、俺も誠意を以って応えよう。

 

「あ、あの。まずはね? あ、あなたに、理想のパートナーが出来たとします。あなたはその人と、どんなことをしたいですか?」

マッスルドッキングだな

「一問目平気でぶっとんだわねこの肉脳め」

「ま、ま……? ……、……わっ、すごいすごい! 凍弥くんの考えてることが映像みたいに見える! ……来流美ちゃん来流美ちゃん! なんか四人の人が半裸で縦に並んでどっかーんって!」

「うん由未絵ー? まずは落ち着きなさいねー? その喩え方、誤解しか生まないからねー?」

「ぇぅ、うん。じゃあ凍弥くん、次の質問ね?」

「おうさ」

「ていうか由未絵? 質問の方向性決めないと肉に飛ぶわよこのガキャア脳は」

「だ、大丈夫だよ来流美ちゃん。ちゃんとした答えも見えるし、質問すれば映像も見せてくれるし……ええっと、尊敬する人に自分の能力を認めてもらえました。あなたがその人に返す恩は、どんなことですか?」

「グローバルブレーンスピン?」

「プリンスカメハメに対するキン肉マンじゃないのよそれ」

「あ、あなたには大事な人が居ます。自分がその人に見せたいものがあるとして、それはどんなものですか?」

「メイプルリーフクラッチだな」

「そこは神威の断頭台にしときなさいよ」

「だだだ大事な人が……生涯をともにする伴侶が出来たとしますっ……! あなたは、そんな人と……ど、どんな暮らしをしたいですか……?」

「生涯を? んー……」

「───、───!?」

「ホワッ!? ちょ、由未絵!?」

 

 突如、由未絵がグボンと瞬間沸騰したみたいに真っ赤になった。

 途端、由未絵の守護神のくせにジョブが破壊神な来流美が、理不尽にも俺をギヌロと睨んで来る。

 おやめなさるのです。俺は無実ですとも。

 

「ただ、ともに白髪の生えるまで、ってイメージしただけだっつの。俺と一緒に居てくれる女と言えば由未絵だけだろうし、それを生涯、って、それだけ」

「どんな暮らしがしたいんだって質問だったでしょーが」

「今と変わらんだろ。てかそうそう先のことなんてイメージできないだろ」

「……はぁ。まあ、凍弥だものねぇ」

「なんだとこの。来流美なくせに」

「……、え、えへ……えへへへへ……♪ うん、わたしも由未絵なだけの女の子だもんね」

「うむ。というわけで、俺は由未絵とのんびり平和に、今と変わらない日々を過ごしていきたい。イメージ出来たのなんてそれくらいだ」

 

 むしろ頭クソガキャアの男子のイメージなんてそんなもんだろ。

 




そして気づけば異世界のお方たちが蚊帳の外、と。
うーむ、続きは書けるだろうけど、ムラビディアみたいにずーっと馬鹿話ばっかしてそうな気がする。話が進まん。
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