凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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 ウマ娘! プリティーダービー!(テーテーテ・レーテテーテレー!)
 いやー……アニメとアプリとで性格が違うキャラって一粒で二度おいしい感ありますよね。


ドゥラメントさん。

 ドゥラメンテ。

 その身に流れるは最強の血。名門一族の結晶。

 最強の体現者、などと呼ばれ、自身もそうであろうと努力と奮闘を忘れぬ子。

 そして───

 

「……! ……!!」

 

 その実、案外中身はポンコツである。

 

 

 

 

   ドゥラメントさん。

 

    ~ -完璧そうで完璧じゃない、少し完璧なウマ娘-~(タイトル)

 

 

 

 

 

 ───ウマ娘。

 

 彼女たちは、走るた【SKIP】

 

 

 

 

 

-_-/どこぞのモミアゲ

 

 朝である。

 

「よし、っと。今日もマイペースに行きますか」

 

 本日快晴、素晴らしき朝なのである。

 そんな朝にあって、俺こと……まあ、自己紹介なんてどうでもいい。

 んなことしている暇があるならとっとと調理だ。 

 昨日の内に仕込んでおいた材料にプラスして、頼まれればすぐに出せるようにしておいたものを追加。食堂奥の調理場の更に奥には自分の部屋があるからして、気になればすぐに仕込みも調理も研究も出来る。

 

「ま、暇がないってのは平和な証拠だ。いい仕事紹介してくれたよ、やよいの奴も」

 

 とある家に産まれ、あれこれ覚えながら成長し、現在に至る。

 どこぞでちっこい飲食店でも構えて、一人平凡に生きるのが目標だった俺を、ふらりと現れ“勧誘!!”と勧誘したのがやよいだった。

 まあ、知らん仲じゃなかったし、頼まれれば嫌とは言えん。

 

「しっかしやよいが理事長ねぇ……っはは、ほんと、人の成長って分からん」

 

 苦笑し、仕込みを再開する。

 と言ってもまあ大体のものは即座に出せるし、味の調整もバッチリだ。

 俺にとっての最大の敵ってのは、食器洗いでしかないと思う。

 調理場で一人、嫌な顔をするどころか料理に係わることが……ああいや違うか。食った人が思わず頬を緩めるあの瞬間を思うことが、たまらなく嬉しいということもあって、朝食を求めるウマ娘の来訪を今か今かと待つことが、嫌な顔をすることを許さない。

 面倒? そんなものはスティンガー(AC)にでも食わせておけ。

 っと、そうこう考えている間に開店時間だ。

 といっても水が飲みたい娘とかは案外早めに来て、水だけ飲んでいったりするのだが。

 

「お兄さん、おはようございます。マーちゃんです」

「ああ、おはようアストンマーチャン」

「はい、マーちゃんです。お兄さんはいつもマーちゃんをフルネームで呼んでくれますね。覚えててくれるのは嬉しいですけど、たまには愛称で呼んでくれても嬉しいと思える、わくわくマーちゃんですよ?」

「愛称が呼びやすすぎて、本名を忘れたら?」

「お兄さんはそんなことはしないと確信していますので、マーちゃんはその質問には首を横にふるふるマーちゃんです」

「そか。じゃ、お客様? 朝食はなにをご所望で?」

「はい。テステス、おはようございます、こんにちは、こんばんは。今朝は毎日のわくわく、朝食のお時間です。どこに行かずとも最高の料理を味わえる、とっておきと言える近場スポット。本日の朝食は料理長さんのおすすめメニューにしたいと思います。以上、録音おわり」

「はいよ。じゃあ今日もマーチャンが元気でいられるよう、腕に()りをかけて用意するよ」

 

 言って、腕まくりをしてみれば、くすくすと笑うアストンマーチャン。

 ちなみに縒りをかけるの語源は、漢字自体が“糸と差”と書くように、糸をねじり合わせて一本の糸との差を作る、ってところと、手間をかけて一本よりも強度を増させる、技術を駆使しよりよいモノを作る、縒り合わせる、というところからきている。

 

「お兄さん。お兄さんはいつも着物のようなものを着て料理をしてます。なんでなのでしょう」

「日本が好きだからだな」

「その袖の部分をぐるりとまとめてるのは、どうしてなのでしょう」

「たすき掛け、って言ってな? 着物とかでは袖がどうしてもたわんでるものだけど、それを動かしやすくするために纏めるのがこれだ」

「エプロンではだめなのでしょうか」

「だめなのです」

 

 頬の近くに人差し指を構え、こてりと首を傾げるアストンマーチャンに対し、口の前に人差し指を持ってきて、軽く笑って答えてみる。

 アストンマーチャンは大変ご機嫌に笑ってみせると、てこてこと歩いていった。

 そうして調理すること数分、店内マイクで呼んで、受け取ってもらう。

 ほんと、ウマ娘って不思議だ。このほっそい体のどこに、これだけの量が入るのか。

 そう思えるだけの量を用意してみても、これでもまだ朝食ということで軽いものだったりする。昼食はもっとだ。とんでもない。

 

「ありがとうございますお兄さん。毎日毎日感謝感激マーちゃんです」

「ああ。栄養は保証するから、しっかり噛んで食べなさい。顎鍛えるのもアスリートのお仕事だから」

「はい、もちろんです」

 

 にこりと微笑み、ドカ食い男子がその日に食べる量とかありそうなものを持っていくアストンマーチャンを見送った……ところで、続々と他の生徒もやってくる。

 さて、ここからだな。

 基本この中央トレセン学園内食堂において、お残しは許されない。

 お残しをしたら顔を覚えて、次の食事を抜きとする。

 以前、大食いチャレンジなんぞをして食べ物を残したおバ鹿が居たが、どんな理由があろうとペナルティは架した。

 映え? 再生回数? 知らん。食材を育み、用意してくれている人のことをちったぁ考えろ、たわけ。

 

「あ」

「?」

 

 たわけ、と考えていたところで、丁度と言っていいのか。見知った生徒がやってくる。

 

「よ、グルーヴ。よく眠れたか?」

「はい、兄さん。問題なく」

 

 彼女は女帝エアグルーヴ。妹である。……義妹であるが。

 平凡な生き方をしていた俺の下に突如として産まれたウマ娘である。

 ……家の方が平凡じゃないのは重々承知。アスリート一家だもんなぁ。

 俺? 俺も学生の頃に縦横無尽に駆け回って結果を残して、その結果で実家を黙らせて料理の道に進んだクチだ。学業運動なんでもござれ、無理だと言われたことも実力で勝ち取った先に今がある。その所為か、グルーヴもドゥラも、やたらと尊敬の眼差しみたいなのを向けてくる。

 歳の離れた妹ってこともあって、一番多感な時期(?)であろう瞬間に俺の活躍をTVや大会の観客席で見ていたこともあり、すげぇやさっすが天下のジョバンニさんだ、とばかりに尊敬の眼差しを向けてくる。

 

「グルーヴ、朝はどうする?」

「昨日と同じものをお願いします」

「たわけ定食か」

「違います」

 

 たわけ定食。たくあん、わかめの味噌汁、鮭の塩焼き。シンプルだけど美味しい。むしろ俺の朝食である。俺が好んで食べていることもあって、こいつが子供の頃なんかは横からおねだりされたもんだ。

 まあそれはともかくとして、そう来るだろうと思って調理を進めていたものを終わらせ、即座に進呈。

 そんな手早さに「さすがですね」と微笑みをこぼし、受け取り、席へと歩いていく我が妹。あれが他者にはたわけマシーンだというのだから不思議だ。

 

「よーぅモミーの旦那ぁ! 今日もモーニング食べに来てやったぜディナーメニュー頼まぁ!」

「おはようゴルシ。今日のディナーはランチに工夫をこらしたモーニングメニューなんだ。だからディナーメニューはモーニングしか出せない。悪いな」

「なんだよしゃーねぇなぁ! じゃあランチで我慢してやるからディナー頼む!」

「ほれ、モーニング」

「仕事が早ぇじゃねぇか……じゃあ手はず通りお代はソイソースで振り込んどくぜ」

「そこはスイス銀行にしろたわけ」

 

 朝は本当に色々なウマ娘と出会う。

 ここで働く限り、知らないウマ娘なんてものには新入生以外じゃそうそう居ない。

 

「よ、オグリキャップ。いらっしゃい」

「うん、来た。今日もご馳走してほしい」

「よしきた。どんくらい食べられる?」

「昨日より少し多めにしてほしい。昼まで持たなかったんだ」

「そっか。じゃあ腹持ちのいいものを多めにとって……っと、まずはサラダが無難か。前にも言ったけど、よく噛んで食うんだぞ?」

「うん。咀嚼二回を一回で数えるんだったな? 二回噛んで1数える。うん、覚えてる」

「ん、よし。じゃあまずこっちの特盛サラダだ。よく噛んで食べればあとの消化にも満腹感にもいい刺激になる。あとは白湯を。これは一気に飲まないこと、って、もう分かってるか」

「いや。相手を思ってのことだということは分かる。あなたは本当にウマ娘のことをよく考えて食事を用意してくれているんだなって。ありがとう」

「それが仕事だ~って言ったらそれまでだけど、俺が嬉しいからそうしてるんだ。元気に美味しそうに食ってくれりゃあそれでいい。ほれ、お待ち」

「ああ。ありがとう。いただきます」

「ああ、召し上がれ」

 

 特盛サラダと白湯を渡し、送り出す。

 次に来たのはスペシャルウィークだ。

 うん、相手が大食いウマ娘だろうと関係ない。俺は俺の、相手の喜ぶ姿のために腕を、技術を振るうだけだ。

 

「おはようございます、店長さんっ!」

「おはよう、スペシャルウィーク。あと俺のことは大将でいいよ。で、今日はなににする?」

「大将……! わ、私も及ばずながら、日本の総大将とか言われてますっ!」

「はは、ああ、知ってるよ。それで? 総大将。なにを食べたい?」

「あっ……に、にんじんハンバーグセットをその、と、特盛で……」

 

 総大将を胸張って名乗って、途中で恥ずかしくなったっぽい彼女ににんじんハンバーグセットを用意する。

 肉汁もさることながら、ホックホクに仕上げたにんじんも相当に美味いこのセット。ウマ娘には大変好評である。

 顔を赤らめながらもルンルンでそれを受け取ったスペシャルウィークは、そそくさと取っておいてもらったらしい席に戻り、そこでサイレンススズカと食事を始めた。

 気づけば結構な数の料理を提供し、席も大分埋まったり空いたりを繰り返していた時。

 

「……! 見て、ドゥラメンテさんよ……!」

「あの堂々とした姿……歩き方……! どれを取ってもかっこいい……!」

 

 ドゥラメンテが、食堂へと入ってきた。グルーヴと同様、親戚の子であり、俺を尊敬の眼差しで見て来るウマ娘だ。

 ……? ああ、うん、妹、と言ったけど、従妹(いとこ)って意味での妹……まあ、妹分みたいな感じだ。

 ドゥラメンテもグルーヴのことはグル姉と呼び、慕っている。

 

「おはよう、ドゥラメンテ。今日はこの時間だったか」

「早く来すぎても遅く来すぎても、兄さんの邪魔になるかと思って」

「そんなこと気にするな。いつだって嬉しいぞ? でも、気を使ってくれてありがとうな」

「……! うん」

 

 表情はそんなに変わらないものの、尻尾は結構高めに揺れている。嬉しいらしい。

 っとと、それよりも注文だ注文。

 

「それでドゥラメンテ。朝食はどうする?」

「じゃあ……兄さん。ドゥラ、って呼んでほしい」

「……朝食は?」

「……ドゥラって」

「…………」

「………」

 

 ドゥラメンテ。最強の体現者。完璧なるウマ娘。異名はいろいろあるものの、兄貴分であり昔っから知っている俺からしてみれば、甘え方を知らない臆病なポンコツウマ娘だ。

 昔っから完璧なる最強アスリート集団である家族の血ってものの重圧に緊張を重ね、ここ一番ってところでポカしそうになることの多い、誰よりも血に怯えているのに、誰よりも血への期待に応えなきゃと頑張っているウマ娘。

 そして……そんなドゥラメンテが唯一甘える対象として選んだのが、なにを隠そう俺である。昔から一人で緊張し、怯えていた彼女に誰よりも早く気づき、話を聞き、落ち着かせ、支えてきた唯一の存在。……懐かれぬわけもなくッッ……!!

 

「……じゃあ、ドゥラ」

「……!」

 

 言ってみた途端、ぱあっと表情が花咲くドゥラさん。こうなった彼女に、もう最強だとか完璧だとかの言葉は似合わない。まあ、一人俺へと向かい合うドゥラの表情なんて、他のウマ娘からは見えないのだろうが。

 

「朝食は、何が食べたい?」

「スタミナとパワーが付くものがいい。今日は少し追い込みをかけたいから、途中でバテたりしないように」

「よしきた」

「うん、きた」

 

 注文を受ければよしきた、なんて言う俺に対し、いつしかそれに言葉を乗せるようになったドゥラ。他には絶対に見せないにこにこ笑顔で尻尾を高く振り、料理の完成を待っている。ここで待ってなくても呼ぶぞ―と言っても、ここで待ちたいんだと。まあ、他に注文する客居ないからいいけどさ。

 あーあーもう嬉しそうな顔して。“待て”の命令でさえ喜ぶ大型犬みたいだ。

 そうして出来上がった料理を差し出せば、嬉しそうに受け取り、感謝の言葉。受け取る姿勢も、歩き方も実に綺麗だ。

 

「モノを持って歩く姿勢も綺麗……!」

「ほんと、ドゥラメンテさんってすごいわよね……完璧超人って感じで」

 

 あ。

 と思った時には、そんな言葉にピピンッと耳を弾かせるドゥラメンテ。

 途端につかつかと素早く完璧超人とか言ったウマ娘が座るテーブルまでを歩くと、ずずいと顔を寄せ、語り始める。

 

「……悪いが、言わせてもらいたい」

「え、えっ!? ドゥラメンテさん!?」

「人のことを完璧と呼んでくれるのはいい。未熟な身、精進を続ける身ではあるが、目指すべきを見失わずに済むからありがたいくらいだ。だが───」

「だ……だが……?」

「訂正させてほしい。完璧はいい。完璧な人、と言うのであればそれで構わない。しかし……“超人”と付けるのなら、最初の二文字は“完璧”(パーフェクト)であるべきだ。あなたがたはよく言われる“完璧超人”(かんぺきちょうじん)の語源を考えたことがあるだろうか。何故完璧な人、ではなく超人と呼ぶのか。それを考えたことはあるのだろうか」

「え? え? え?」

「ぱ、ぱーふぇくと? ちょうじん? 完璧じゃなくて? え? 言いたいことって、それなの?」

 

 ……そんなドゥラメンテは、“完璧超人(かんぺきちょうじん)”と“完璧超人(パーフェクトちょうじん)”の違いについて、なんか突然語り始めた。どうした急に。

 ああうん……すまん、ミニコスモス、コンフュージョン、ローズフルヴァーズ、そいつに変なこと教え込んだのは俺だ……俺なんだ……俺が悪いんだよ……!

 妙に尊敬した眼差しで見つめてくるもんだから、なんでもいいからいろんなことを教えてほしいと言われた時に、つい完璧超人についてを……!

 と、そんな俺のたわけな過去を申し訳なく思っていると、ドゥラの熱弁をたわけと停止させ、落ち着くように言うグルーヴが。

 

「どこから出てくるんだその無駄知識は……確かに昨今、完璧超人、などという言葉は耳にするが……」

「どこから、と言えば……兄さんから直々に伝授されましたが」

「なに……!?」

 

 あ。やばい。なんか風向きが変わった。

 

「兄さんが言うのであれば、真実……!? いや、確かに優れた活躍、優秀すぎる者を完璧超人、と呼ぶものは少なからず居たが、その語源については考えたこともなかった……」

 

 そこで深く頷きながら俺を見るのはやめてくれグルーヴ。俺だって友人にそうであると言われただけなんだ。ろくでもない親友と提督だから、その情報だって本当に合ってるのかも怪しいくらいだ。

 

「はぁ。まあいい、いいからお前は席について食事を始めろ。もうあまり時間はないぞ」

「はい、グル姉」

「その呼び方はやめろというのに……」

 

 まあ、そんな日常。

 グルーヴに促され、席に向かい移動を再開するドゥラだったけど、そろりと俺の方を伺うように見ると、なんか“やりました! 褒めてください!”と言わんばかりのムフーンとした表情を見せてきた。

 ……うん。誰だろうなぁ、あいつのこと表情の乏しい堅物~とか言ったヤツ。

 ここに親友と提督が居なくて本当によかった。居たら絶対に、キン肉マン漬けにされてたよ、ドゥラのやつ。

 遠くから見る分にはキリッとしたクール美女って感じなのに、中身はあの通り子供っぽさをその身に隠したただの人懐っこい大型犬だもんなぁ。

 ドゥラメンテっていうより、なんかちょっぴりズレた感じのドゥラメントさんって感じ。そのくせ、内側に入れるまではしっかり線引きを忘れない心はある。

 線の内側に入った相手には無意識下でのどっかり寄り添い具合を発揮するけど。

 ……分かるだろうか。こう……大型犬が、自分の体格の良さも考えずに、ドカァアアアアアアと主人に寄り掛かって休む姿をイメージしたら、その犬をドゥラに変えてみればいい。……ほんとそんな感じだから困る。

 まあ、うん。グルーヴ含め、可愛い妹分だけどさ。

 

 





 中途半端だなオイ……だがすまない、ここで終わりなんだ……。
 あ、でも誰かを完璧と呼ぶ時は、きちんと超人であるかどうかを意識してみてほしいのです。
 超人を付けるのなら最初の二文字はパーフェクト。パーフェクト超人と呼びなさい。
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