ちなみに書き始めたのが相当前です。
幼馴染って聞いて思い浮かべることってなんだ?
古くからギャルゲーや漫画なんかで知識を得た奴らなんかは、自分にとって都合のいい存在~みたく考えてるんだろうけど、あれってほんとクソだよな。
「ぼ、僕……あいつに告白しようと思うんだ……っ!」
だからこうして、中学で知り合い、友達になった男が幼馴染に告白する~なんて相談……相談? 話題をだな、おお話題だ。を、投げかけて来た時は、ああこいつもクソなんかと思ったもんだ。
「へー……んで? 告白する理由は?」
「理由って。……ほ、ほら、僕たち幼馴染だし、ずっと一緒に成長してきたし、そろそろ付き合うくらいしてもいいんじゃないかって。あ、あいつもさ、他の男子と僕とじゃ対応が違うっていうか……きっと僕のこと好きなんじゃないかって」
「死ね」
「ひどくない!?」
うるせぇ。ひどいっつーか酷いっつーか非道いのはお前だこのタコ。
「お前さ、失敗とか有り得ないとか考えてるだろ。ていうか日下部がお前のこと好いてるとか本気で思ってるだろ」
「あ、あたりまえだろ? 毎朝僕を起こしに来てくれたり、登校だって一緒さ。これで好きじゃないとか有り得ないよね。前なんてクッキーもらったんだよクッキー」
「………」
登校一緒なのは他の男子に絡まれるのが嫌だから~とかで、起こしに行くのなんて両親が親友同士で、親に頼まれたからだ~とかそんなんじゃないのか? 突っ込んだ理由を調べもしないで“自分は絶対好かれてる”とか怖いわ。
「で? 告白っていつ」
「そりゃ、告白っていったら放課後じゃない」
「………」
「?」
世の人よ。いや、むしろラノベに生きる……否、幼馴染ざまぁに生きる全ての告白男子に届けたい。
“お前ら本気の本気でその幼馴染のこと好きなのか”と。ただ別の男に盗られるくらいなら~とかくだらない独占欲の果てに、なんとなく告白してるだけなんじゃないのか、と。
盗られるもなにもそもそもないのだが、そういう考えはそもそもバッカヤロウと言えるし、“幼馴染だから”を振りかざして接するのもほんとバッカヤロウ。
「お前さ、日下部を一人の女性として見てないだろ」
「なに言ってんのさ、見てなかったら告白なんて出来ないよ」
「そか? 俺はお前がそういう気持ちで挑むようにはこれっぽっちも見えない」
勉強も得意じゃないし運動だって大したことない。友達付き合い、男子と少々。女子とはてんで。
人と話すのが面倒に感じて、会話は大して続けようとすることもなく、話してるとすぐに話題が途切れる。それでいいと思ってるから、一緒に居たって会話は弾まないし空気が重くなる。そういう男だ。
「お前ら“高校になってから急に幼馴染に告白する男子”に、俺は言ってやりたい言葉だらけだよ」
「え? なに? あ、もしかして僕が振られて、相手にざまぁとかするって思ってる?」
「思ってねぇよ。お前にそんな度胸はないし、確実に成功するって思ってるからこうして告白がどーとか言ってるんだろ?」
俺からしてみりゃ絶対失敗する。誰が見たって失敗するって思うさ。応援するヤツが居るとしたら、その後のこいつの行動が面白そうだから、くらいの気持ちで後押しするだけだ。
あのさ、真面目に訊きたいんだ。茶化す気一切無しに。
男から見てもさ、こんな容姿で、しかも努力もろくすっぽしてないヤツに告白されて、OKするか?
だめなところ指摘したら逆恨みしてサロン行ってカッチョよくなって? クラスメイトの前で幼馴染ざまぁ? 頭イカレてんのか? ざまぁなんぞする前に、まず告白前に自分磨きしろよ。ダッサいままの自分を押し付けようとして、失敗してから謝罪もなしにざまぁ仕掛けるとか頭の中ほんとに俺達と同じ人間か?
浮浪者まがいの容姿のやつに告白された、相手は失敗するだなんて思ってなかった、なんて、学校中の噂にされるかもしれない身にもなってみろよ。
「お前さ、今の自分の格好、どう思う?」
「なに? 陰キャがどうとか言いたいの?」
「そんなんじゃねーよ。陰キャ陽キャの判断なんて、てめぇ勝手にランク付けしたいやつが勝手にしてりゃあいいだけのことだ。陰キャだろうが陽キャだろうが楽しんでるヤツは楽しんでる。勝手に枠作って見下すヤツの言葉なんて知ったことじゃない」
「じゃあ?」
「髪ボサボサで服装もだっさい着崩し女子がお前に告白してきたとする。お前、受けるか?」
「え……嫌だけど」
「………」
自分も容姿に頓着してないくせに、理想だけ高い奴って腹立たない?
よく見りゃニキビもあるし、髪……こりゃ昨日風呂入ってねぇな。歯も磨いてねぇ。歯に青のりついてるわ。朝飯がそれ系だった? いや違う。こいつは朝っぱらに俺に昨日の晩が焼きそばであったことを話した。つまりはそういうこと。
「俺な、自分がもし女だったとしたら、お前がどんだけイケメンでもお前だけは無理だ」
「ひどいなぁ。でも大丈夫だって、僕とあいつ、幼馴染だし……もう家族も同然みたいな仲だしさ」
「……フラれたからってヘンな行動に出るなよ?」
「だからフラれないって」
“そんな風に言ってくる根拠は?”とか訊いてきたら、今目視出来る限りの理由を述べてやろうとしたけれど、こいつはニヤニヤソワソワし出して、もはや俺の言葉を聞くつもりはないようだった。
……。
んで、放課後だが。
「え……無理。あの、ねぇ、なんで? なんで告白しようだなんて思ったの?」
「は? 無理って……いやいや冗談じゃなくてね? 僕と付き合おうよ。その方がお互いの両親も安心するしさ? きっと喜ぶよ?」
「嫌。無理。ていうか私、好きな人居るから……ううん、それ以前に柴野くんとか絶対無理」
「な───」
ほれ見ろ。こんな校舎裏にまで呼び出しておいて、自信満々でとかほんと分からん。
「だっ……だって和子は僕のこと毎朝起こしに来てくれたり!」
「えっと……あのさ、急にこっちが悪いみたいに怒鳴る前に、ちょっとは自分で考えようとしてみてよ……。昔にちょっと起こしたことがあって、そしたらおばさまにたまにでいいからって頼まれただけでしょ? 言われた時、柴野くんも居たよね? 私そんなつもりなかったのに、柴野くん、起こさなきゃ起きないし……なのに起こしにいかなきゃ私が悪いみたいにいつの間にかなってたし……。あの……あの、さ。そもそもおかしいってこれだけ成長しても思わない? なんで他人の娘に“自分の息子を毎朝起こせ”なんて言えるの? おかしいよね? 柴野くんもおかしいって思わなかったの? これっぽっちも?」
「……一緒に、登校───」
「そうしないとあなたがサボるからでしょ? 無視すればなんでか私の所為になるし、事情を知らないお父さんとお母さんは登下校くらいで、とか言うしさ。……両親が親友同士だから、なんなのかな……。 私には関係ないのに」
「そんな……僕たちは幼馴染で……関係ない、なんて」
「ねぇ……それ本気で言ってる? 柴野くんさ、いっつも人にはあれをこうしろそれはそうしろって言うけどさ。それってなんで? 私、柴野くんに指図される理由、これっぽっちもないよ?」
「だからっ! それは僕たちが幼馴染だから!」
「じゃあ訊くけど。私がお願いした言葉、一度だってなんの反論も口にせず頷いてくれたこと、ある?」
「それは関係ないだろ! 今は僕の───」
「関係あるから言ってるのに、言った傍から自分優先でなにが幼馴染よ……。柴野くんにとっての幼馴染ってなに? 自分をいつだって優先させて、私がなにか言っても全部無視して、自分の意見を押し付ける相手のこと? 私の言葉はいつだって聞かないくせに?」
「それはっ……だから……」
「私、言ったよね? 髪整えよう、って。言ってから一度だって、そのボサボサ頭を手入れしたことある……? 私、なにも切れだなんて言ってないんだよ? せめて少しは整えたらって言っただけ。柴野くんはどうした? 今どうしてる?」
「………」
ボッサボサである。
……よく前髪長い=陰キャみたいな言われ様してるけど、それがファッションであり、ヤベェくらいに元気なヤツだったとしても、陽キャさんはマエガミー・ナッゲーノさんを陰キャって呼ぶんだろうか。
結局陽キャ陰キャ言ったって、コミュってみなきゃ分からんのになぁ。あの枠付けはほんと、人との分かり合いにデッカイ柵を作ってると思う。てか、なんで陽キャの方が偉い、みたいな感じになってんだろうね。不思議。
冷静になってよく見てみよう。陽キャぶって騒いでるヤツとか無理にマウント取ろうとしてくるヤツ、実際に見てて相当アイタタタに見えない? なしてそれで相手を下に見れっとや? ガッコでも仕事でもそれは変わらんらしい。頑張れ、おとっつぁんおかっつぁん。俺もいずれ、その高みに到るから。
「その制服の着崩しだって“ちゃんと着よう?”って言ったよね? 身嗜み、少し整えたほうがいいよ、って。一度も聞きもしなければ改めもしない、今だって人の都合なんて考えないで呼び出すだけ呼び出して、なにをするかと思えば告白? ……少しは相手のことを考えてよ……! 頷くわけがないじゃない……! ……ねぇ。……ねぇ! 柴野くんさっ……女の子に……ううん、人に好かれる努力、少しでもした……!? 私に告白しようって考えた時、少しでも自分を格好よく見せようって、努力のひとつでもしてくれた!? ~……してるわけ、ないよね……!? その髪型、そのニキビ……その制服……! へらへら笑うと青のりがついた歯が見えたし、体だって臭い……!」
「そ、そんなの……幼馴染なんだから、僕が面倒臭がりだってことくらい───」
「っ……! 私はっ! 相手のことをこれっぽっちも考えられない人となんて、たとえ親が土下座で頼んできたって絶対に嫌だ!! 好かれる努力もしないで好かれようなんて、自分は好かれてるに違いないなんて、ふざけないで! 人をっ……女の子を、ただ傍に居たってだけでそんなに軽く見る奴が人の恋を語らないでよっ!」
盗み聞き……褒められたものじゃないけど、見ててよと言ったのは柴野である。
僕が恋人を作る瞬間を~とかデッレデレドヤフェイスで言ってらっしゃったよ。結果はこれなわけだが。
「なん、だよそれ……! 僕はずっと、君が僕のことをって思ってたから……!」
「私はもう好きな人が居て、今日告白するつもりだったの。だから───」
「だからそれが僕でっ!」
「違う! ~っ……ねぇ……もうやめてよ……! なんでそうなの……!? 私はちゃんと好きな人が居て、素敵な恋をして幸せになりたいって……! そうなれるようにって努力したから、勉強だって運動だって頑張れたの……! 格好だって三つ編み眼鏡から綺麗になろうっていっぱい頑張ったよ……!? 好きな人に振り向いてほしいからって、頑張ろうって思ったんだ! ……一緒に変わろうって言った時、柴野くんなんて言った……!?」
「そんなの……本来の自分じゃなきゃなんの意味も───……なのに和子だけが変わって……! だから───!」
「努力で変わってなにが悪いの!? 頑張って変わって、なにが悪いのよ! 私、誰にも迷惑かけてない……! カーストなんて本当にどうでもいいし、仲良くしたい人とだけ仲良くして、ちゃんと自分らしく生きてるわよぅ! たとえその先で私が柴野くんを嫌いになったって、そんなの当たり前以外のなんだっていうの!? 不潔で努力もしなくて人のことを下に見続ける人を嫌いにならない理由や方法があるなら教えてよ!!」
「………だ、から…………僕は……」
「あなたの考え方で、勝手に私の行動を決めないでよ!」
「………」
いや……うん。なぁ、ほんと、さ、本気で頼む。わかってやってくれ。
ていうかなんでそんなに分からないんだ。自由にしたいって、好きな人が出来たって言ってるんだぞ? 言っちゃなんだけど、お前それはもうキッパリフラれてるんだぞ?
「……って」
「……?」
「好きなやつって誰だよ」
「……柴野くんと同じクラスの飯山くん」
「っ!? っは……!? 飯山くん!? なんでっ……なんっ……なんでだよ!」
「努力する人で、ちゃんとかっこいいって思えたからだよ! なんでもなにも、そんなところに惹かれたから好きになったの! 話してみて、楽しくて、やさしくて……!」
「だって……そんな、だって! あいつは僕に……! や、やめとけっ、なっ!? お前知らないんだよ! あいつ、僕に今日、髪型がどうとか、制服がどうとかニキビが~とか言ってきたんだよ! 僕が告白するって言ってるのにだぞ!? 邪魔しようとしてきたんだきっと! そんな性悪のやつと付き合ったら、お前……!!」
「っ!!」
瞬間、平手打ちが飛んだ。
ッパァンッ!! と、すごい音が鳴った。
「ぇ、ぇあ、へぇあ……?」
「いい加減にしてよ!! そんな格好で告白しようだなんて、って止めてくれようとした人にまでそんなこと言うなんて! どうして平然とそんなことが出来るの!? 恥ずかしくないの!? ~……どうして……どうしてそうなっちゃったのよぅ!!」
「………」
さすがに泣きながら、幼馴染? の頬を叩く姿を見たら、黙って見ていられなくなった。
ていうか友人がモノスゲー勢いで下種になっていく姿っていうのもクるものがある。精神的ダメージ半端ない。
「っ!? ……、ぁっ……飯山……くん……」
「!? い、飯山くん……! なんで……なんでキミなんだ! 和子は僕の! 僕の幼馴染なのに!」
「努力してこなかったからだろ。幼馴染~なんて、ただご近所でたまたま一緒の時間が多かった~ってだけの赤の他人に、聞いてりゃお前、なんつーことさせ続けてんだよ……。普通そういうの、自分から止めるだろーが……」
「う、うるさい! 起こしに来るのも登下校も和子の行動だ! 相手が積極的にやってるのに、どうして僕が止めるんだよ!」
清々しいほどのクズっぷりだった。
あー……すごいな、すごい勢いで俺の中の彼のクズっぷりが限界点を越えていく。
「柴野さぁ……いいからとりあえず、まず身嗜みとか自分で何とか出来るところから自分を変えること、始めてみれ? な? で、相手のことを思いやれるお前になってくれよ……ほんと、頼むからさぁ……!」
「だからっ……ありのままの僕じゃなきゃ恋したって意味ないだろ! 僕のことを知っていて、それでも一緒に居てくれる……幼馴染なら当たり前だろ!?」
「……柴野。髪ボサボサのニキビ女子がお前に告白してきたら、どうする?」
「はぁっ!? またそれっ!? だからっ! 断るって言ってるだろ!」
「んじゃ、その立場を性別を変えて考えてみろ。相手が男子になって、お前が女子になる。相手はそのまま髪ボサボサのニキビ男子。お前は女の子な。んで───」
「断るって言ってるだろ!?」
「……じゃあ、現状髪ボサボサでニキビ男子なお前がフラれるのなんて当たり前だろ。よかった、ちゃんと常識は分かっててくれたか」
「…………え?」
柴野がきょとんとしている。
いや、きょとんとされても。
「な、柴野。俺言ったよな、髪のことも、制服のことも、ニキビのことも。俺が女だったとしたら、お前だけは嫌だとも。告白に挑むようにはこれっぽっちも見えないとも言った」
「………」
「お前はさ、告白してくるボサニキビ女子が幼馴染だったら受け入れるのか?」
「………」
「そういう問題じゃないよな?」
「……なんで。なんで飯山くんなんだよ。これまでずっと一緒に育ってきた僕よりも……なんで……」
「言ってなかったっけ。俺と日下部、幼馴染なんだよ」
「はぁっ!? ふざけるなよ! 和子は僕と、僕とだけ幼馴染で───」
「引っ越す前の話だから、俺のが早い。それに、離れてる間だってずっと手紙も送ってた」
「手紙……手紙? ───手紙! いつか和子がにやにやしながら読んでたあの手紙!」
幼稚園児の時に出会って、小学二年までを一緒に過ごした。中学で再会した。その頃にはもう柴野が隣に居た。
俺は彼女に名乗り出ることはしなかったけど───彼女も覚えていてくれて、その頃くらいから三つ編み眼鏡をやめて、俺に笑いかけてくれるようになった。
もちろん俺だって頑張った。ぽっちゃり体形にさよならすべく、運動だって筋トレだって、もう嫌だもう嫌だって弱音吐きながら続けたよ。
「あれを出してたのが飯山くんだったなんて……! どうして今まで言わなかったんだ!」
「え…………いや、あの、真面目に訊きたいんだけど、手紙出すのになんでお前の許可が……?」
ちなみに話しかけた最初は幼稚園の時で、ひとりぼっちだった彼女にデヴな俺が行きました。
あの歳にしてはいくらなんでもデヴすぎたからって、痩せる努力を始めたのも彼女への見栄からだったりもしたんだけど……いやさ、だってさ、俺の腹をぽーんぽんって叩きながら、おっきいねー、って間近で笑顔で言われた時の、当時幼稚園児の俺の心境わかります?
親から女の子は守るもの、と日常会話レベルで言われてて、痩せなさいとも言われてて、なんで? って聞いたら“いざって時に動けない”からと言われて。でもさ───
「ていうかだな、幼馴染が自分と一緒に居る時より楽しそうにしてるからって、普通手紙破いたりするか……?」
「うるさい! 和子は僕だけ見ていればいいんだ! 幼馴染なんだから当たり前だろ!?」
「うーんゲッスいなぁお前……ここまでだとは思わなかった」
あー……友人だと思ってた相手のゲス発言って心にクるなぁあ……。や、幼馴染関わらなければ結構いいやつなんだよ? 関わるとすごい雑な感じになって性格悪いけど。幼馴染関連でだけ考えれば、何回殴ったろかいと思ったか分からんくらい。
とまあ、そんな考えはよそに……ほらさ、でもさ? あ、ダイエットの話だけどね? でもさ? ご飯美味しいじゃん? 食べちゃうじゃん? そんな常識が、彼女に会って、独りぼっちの彼女を守ろうって思って、でもでっぱったお腹をぽーんぽんされたら急に恥ずかしくなって。
中学で再会するまで頑張ったよ。明確なダイエット方法なんてろくすっぽ知りもしなかったから、食事制限でだけだったけど。や、急な引っ越しで別れることになってからは、痩せようとするための燃料が無くなったみたいにぐったりした俺が悪いんだが。
だから再会してからはすごかった。
改めて、再会から初めて会話した時、彼女が再び俺のお腹をぽーんぽんしたのだ。彼女は結構やせたねーって意味でやったらしいのだが、その時にそう言って貰えなかった俺は盛大に勘違い。
痩せねばならぬ……俺が痩せねば……! とばかりにダイエット戦士となって、その時には既に持っていた、親からのおさがりノーパソで痩せ方を学んでいったわけだ。
彼女が言う努力っていうのはそのヘンが大きい。柴野が絡んでこない日はとっても眩しい笑顔で、俺のダイエットに付き合ってくれたし、勉強にも付き合ってくれた。
幼馴染と居る時は、アッ、これ愛想笑いだ! って分かるくらいに沈んだ笑顔を見せるのに、俺と一緒の時は眩しい笑顔。……健全な男子だったら勘違いいたしますわよね? ええ、例に漏れず勘違いして、“おなごならば守護らねば”……から、“惚れたおなごは守護るものぞ……!”に変わった。
あとは……努力努力の日々だった。あいつが数少ない友達とウェッハハハとゲーム等をして遊んでいる間、俺は彼女と早朝ランニングしたり、放課後には勉強会を開いたりしていたのだ。
「だ、大体! 和子は僕にお菓子だって作ってくれた! クッキーだぞ!? 飯山くんが言っていることは全部でたらめだ!」
「あー……クッキー。クッキーなー……。お前さ、幼馴染だからって、そのクッキー勝手に奪って食っただろ」
「へ? ………………どっ……どうせ僕に渡すつもりなら、許可なんて───!」
「実はさ、ある日……明確な頑張る理由があった方が頑張れるってことを、俺を見て知ってくれたらしい日下部がさ、俺のためにクッキーを焼いてあげるって……テスト前に言ってくれた時があってさぁ」
え、なんて声が、柴野の口から漏れた。みるみる顔色が悪くなっていく。
それだけで悟れるくらいの理解はあってくれたらしい。
「テストめっちゃ頑張って、初めて一桁台に名前が載ってさぁ。……そしたらどーだい、翌日やってきた彼女は俺に会う前から既に泣いてたよ。ごめんね、って。クッキー取られちゃった、って。……お前さぁ、それ人としてどーなの?」
「おさ───」
「幼馴染としてじゃねぇよ。人としてって言ってんだろうが」
「か───」
「家族間なら何も言わずに人にあげる予定のものを奪って良いって?」
「おっ、おか───」
「お菓子なら奪っていいってか。お前お菓子ナメんなよ? その理屈が通るなら菓子折りだって強奪可能になるだろうが。感謝だの挨拶だののために親が用意したモン、お前が勝手に食って親が一切怒らないなら見てみたいわ」
手作りだぞ手作り。しかも大好きな相手からの。惚れてる女性からの手作りクッキー。
惚れてみりゃ分かる。大事な人が出来てみりゃ分かる。それは、それだけで価値があるのだ。同じように、大切な瞬間、思い出の瞬間に得たものはいつまでだって大切にしたいもんだ。それをこいつは……。
「ちなみにな、べつに日下部が嫌がらないなら俺もこうして乗り込んできたりはしなかったよ。恋人になるっていうなら応援もした。ただ、お前にゃもちっと自分を見るようには何度も何度も言ったと思う」
「うるさいうるさい! 今さらなんて言おうがどうとでも言えることじゃないか! どうせ最初から───」
「だからお前はもちっと人の話を聞けっての。俺ちゃんと身嗜みについても言っただろうが。ていうかさっきも言っただろ? お前ほんと、人との会話をさっさと終わらせたがりすぎて、まともに聞いてないんだな」
「っ……!」
「俺はちゃんと聞いてたよ。お前が普段からどんだけ日下部を下に見てて、どんな考え方をしてるのか。だから言葉も先回りして言えるし、呆れることはあっても宥めて落ち着かせるくらいは出来るかなって思ってた」
「な、宥める……!? なんだよそれ! まるで僕を動物みたいに───!」
「あるところに暴力は振るわないけど人を見下して暴言を吐くおっさんが居ました。そいつにはまだ小さな娘が居ます。その子に危害が加わらないように、おっさんの友人は出来るだけ、荒れている気分を落ち着かせるように、日々楽し気な話題を振っては、いつか暴力にまで発展しないようにしておりました」
「今はおっさんの話なんてしてないだろ!? それよりも宥めるってどういうことだよ!」
「………」
日下部をちらりと見ると、首をふるふると力無く振るった。けれど何かが嬉しかったようで、柴野から離れるように俺の隣にくると、きゅむと俺の腕を抱き締めホゥワァアアアアアッ!?
「……ど、どうして……飯山くんが、柴野くんの友達でいるのかな、って……ずっと疑問だったんだ……。そういう理由があったんだね……」
ワッツ!? 理由!? 理由って…………ア。アーーーッ!!
うわばばばなにやってんの俺! 好きな人の前で、まるで自分の武勇伝を語るようにウワッチャアアアアア!!
「……ありがとう」
背の低い彼女が、俺の腕を抱き締めながら顔を赤らめて微笑み、俺を見上げ、ありがとう。
好きです結婚を前提に付き合ってください。
「なっ……な、なんだよ! なにやってんだよ和子! お前は僕の隣に───」
「私、
「なんっ……な、……なんで……! なんで……!」
「柴野くんが、私にとって早く会話を終わらせたい人だからだよ?」
「───!!」
「名前で呼ぶのももうやめて。幼馴染ぶるのもやめて。私が思う幼馴染と、柴野くんが思う幼馴染はそもそも違うんだから」
「ぃっ……嫌だ! なんでだよなんでそんなこと言うんだよ! ど、努力!? 努力すればいいんだよね!? するからさぁ! そんなこと言うなよ!」
泣きそうな顔で、なにやら言い出す柴野くん。
その時、俺と日下部は顔を見合わせて……たぶん、同じことを思った。
あぁなるほど、あれってこういう時に言う言葉なんだなぁって。
では、さんはい。
「「いまさら遅いよ」」
もう遅い、と言うのはなんか違う気がしたので。
すると柴野くんは食い縛った歯の隙間からぶしゅうぶしゅうと息を吐いて、その場で地団駄を踏み始めた。そんな時に───通りすがりのクラスメイト(部活終わりからこっちを通るのが家への近道らしい)がそれを見て、「……なんだあれ、ジェロニモの真似?」と言うもんだから、俺と日下部は耐えきれずに噴き出した。
いや、ボサ髪目隠れ剥き歯地団駄男子がキン肉マンのジェロニモに似てると言いたいんじゃないんだけど、その時はなんだがヤケにツボってしまったのだ。
結局柴野くんはよく分からないことを叫び散らして、どたばたと走って言ってしまった。途中ですぐに疲れたのか、歩きになった時はもうどうしたらいいのかってクラスメイトを見たけど。
「いや、俺のこと見られても。え? わ、悪い、俺なんかマズいことしたか? ジェロニモ呼びはまずかったかもだけど……なんかヤバイ雰囲気だったからつい……」
いや、かなりいい仕事をしてくれたと思います。
……。
以降、柴野くんは髪を切った。制服もきちんと着た。
朝も早起きを心掛けているらしく、運動も勉強も始めたっぽいけど……
「……また見てるんだが」
いつかのジェロニモ事件からしばらく、休んでいた彼はかなりさっぱりしたのだが……ニキビはそう簡単に消えないし、顔を隠していた時間が長かったからか、あまりまともに人の顔を見ようとしないし、目を合わせるのも苦手そうだ。
そして俺と日下部……もとい和子には新たに、
「最近のあいつ、怖いよな……気持ち悪いっつーか……あ、すまん、友達と幼馴染っていったっけ」
「いや、関係はもう断ったんだけどな」
「うちも、お父さんとお母さんに今までのこと全部正直に話したら、むしろなんで言わなかったんだーって怒っちゃって……それから柴野くんの両親に話を通して、友好関係はあくまで両親問題である、ってことに落ち着いたんだけど……」
だけど、あいつは落ち着かなかったらしい。
髪を切ったらイケメンだった。勉強も運動も頑張っている……といえるのか、空回りばっかな気もするけど、まあ、努力はしているんだと思う。それを馬鹿にするやつらはクラスメイツの中には居ない。努力は馬鹿にするもんじゃないからなぁ。……ただ、まあ、求めるものは遅すぎたよな。
どんだけ顔が良かろうが努力していようが、それ以前を知っている奴からしてみれば距離を置きたい存在だ。そして、人はそんな簡単に自分を変えられない。和子が俺の隣に居ると、ああして憎々し気に睨んでくるあたり、根本は変わっちゃいないんだろう。睨んでる相手は俺じゃなくて、和子なんだから。
「土田くんは好きな子とか居ないのか?」
「いきなりだなおい。や、俺も健全な男子高校生ですし? 好きな人はそりゃあ居るもんさ」
へへっと鼻をこする土田くん。ノリのいい。その仕草を実際にする人、初めて見たよ。
「へー! どんな人どんな人!?」
そんな土田くんへ、和子が目をきゃらんと輝かせて問う。もちろん俺も気になるので、和子に倣って目をきゃらんと……え? どうやるの?
「っへへー、お前ら正直だなぁ。じ、実はな、近所にお住まいの大学生のおねーさんにホの字な土田くんです。あの人を見ているだけで、俺の胸はドッコンドッコン力強く脈打つんだ……!」
「すまん土田くん。俺、求心とか持ってないんだ」
「動悸・息切れの類じゃねぇよ。恋バナしてただろうが」
「けどそっか、近所の。へぇえ……どんな人だ?」
「…………」
「土田くん?」
「俺さ、こういう時に人の特徴べらべら説明できる人、本気で尊敬するわ。なんなのあいつら、髪型とか服装とかなんで常に頭ン中入ってんの?」
「あー分かる。陰キャもの小説とか見てると、お前のその知識ってどっから来るの? とか思うよな」
「あはは……そうだよねー……。そんなにファッションについて詳しいんだったら、自分のコーディネートくらい普通は出来るよねー、ってね……」
「だよなぁ……てかなに? 陰キャ? 小説? なんだなんだ? 今そういうの流行ってんの?」
俺と和子の言葉に、ハテ、と首を傾げる土田くん。なんということでしょう、土田くんはラノベを知らぬピュア男子であったわ……!
「土田くんはラノベとかに明るいお方?」
「んにゃ、正直見たことないんだよな。けど部活もやめたし、暇になるから趣味でも探すかーって考えてたとこ」
「部活……やめた? なんでまた。……まさかジェロニモが原因で───!?」
「そんなっ……土田くん……!」
「いやいきなり悲壮感たっぷりに人の名前呼ばないで? そういうんじゃねーからね? あーその。実はマネージャーと付き合ってたんだけどさ」
「ふんふん?」
「顧問と浮気してたんで辞めた」
「「
「いやまあ流石に冗談」
「「笑えないんだけど!?」」
「本当は、顧問が脅してきたから辞めた。俺と恋人が部室でキスしてるところを隠し撮りしたらしくて、恋人の方に接触してきたらしい。部活、基本は恋愛禁止の部活だったから、エースの俺をやめさせたくなければーって話だったんだって」
「ウワー……」
土田くんの部活なら知ってる。もちろん顧問も。あいつが? あいつがか。ウワー……。
ていうか土田くん、憧れの大学生は? あれ? 恋人? ガッコに居るの?
「あいつもさ、一人で抱え込んでなんとかしようってタイプだから、押し切られたらやばかったかもなぁ。でもさ、アホだろ? 恋人だろうがエースをやめさせたくなけりゃあ言うことを聞けーとか。ちなみに俺は過保護なんで、なかなか戻らないあいつが気になって部室に突撃した。したらあいつににじり寄る顧問が居たんで激写した。両手首掴んで鼻息荒かったし、言い訳のしようがなかったし、なんなら恋人……あ、
「……危なかったね。脅迫してくるような人と二人きりの時に“録音してます”、なんて言ったりしたら、怖い人だと逆上して襲い掛かってくるよ?」
「だからだよ。俺が行けてよかったわ。過保護でよかったー」
「………!」
「………」
「……! ……!!」
和子がめっちゃくちゃ期待を込めた目でこちらを見て、フンスしてる。
え? GPS機能でも俺のスマホに登録しとく?
でも何処に居るか丸分かりになっちゃうんだよ? ヤじゃない? ……え? 独占されたい女の子だって居るんだよ? ア、アー……!
「まかせてっ、ヤンデレ、とか言われちゃうくらい愛しちゃうからっ!」
「おおう、自分で言うとは熟練者に見せかけて中々弱い。ちなみに和子さんや」
「なんですか、お前さんや」
「和子の中のヤンデレってどんな感じ?」
「愛がひたすらに深い感じ? あっ、束縛監禁飽きたら殺すはヤンデレじゃないと思ってますですはい。イメージ的にはこう、愛が深すぎて相手に引かれつつも、ごめんなさいごめんなさい言いながらも真っ直ぐに愛していく……
「“
「いやいやこれこれお前さんや、あれには束縛監禁が混ざってますよ」
「おっとこらぁいかんいかん」
適当にツッコミつつ、三人でクスクスと笑う。
平穏である。普段なかなか笑えなかった和子が笑ってるってんで、他のメイツ達はドヨドヨと戸惑っているようだけど……
「こういう時に異常なくらいにはっちゃける悪友ポジの級友ってすげーよな」
「ていうか土田くんや? 憧れの大学生はどったの? 恋人居るなんて聞いてないぞ」
「ホの字って言っただけで、惚れてるとは言ってねーぞー? 好きな人だけど惚れてるとも言ってない。人間的に好きなんだよ。あ、ちなみにその人お胸がホライゾン」
「───」
最後だけ、俺の耳にこしょりと告げる土田くん。
……ホライゾン。地平線。…………ホの字。なるほどホの字ではある。
「胸がドッコンドッコンの理由を訊こうじゃないか」
「…………不釣り合いで不自然なパッドがいつ落ちるか……!」
「すまん俺が悪かった……!」
そりゃあホライゾンでハラハラでドッコンドッコンだわ……!
なんで土田くんがそのお方のそれがホライゾンって知ってるのかはツッコまないほうがヨロシ?
それとも一発でわかるほどに不自然とか……!?
ふたりしてピシガシグッグしている隣で、和子だけが首を傾げていた。
「ところで飯山さんや」
「なんだい土田くん」
「お前、身嗜みとかにも気を使ってるように見えるけど、そうしてりゃあファッションとかにも詳しくなっていくもん?」
「……冗談だろ? 自分がそうしたいって部分の名前程度までしか理解できるかあんなもん。和子の髪型の名前とか、普段着とかの名前だって知らんのだぞ俺。調べようとしたってどう調べるんだよあんなの。心から知ろうと思ってるのにこれで、なんで漫画やゲームの知識しか下積みの無い自称陰キャ様主人公ってあんなに髪型とか服の名前に明るいんだよ」
「え? ラノベとかってそんな感じなのか?」
「そう。そこまで知ってりゃお前根暗引き篭もりとか嘘だろとかツッコみたいレベルだ」
「なー!? ほんとそれだよな! 聞いてるだけでそう思うわ! それで美容室とか来るの初めてでーとか言われても説得力ねーよ!」
「? ねぇ土田くん。ラノベじゃなくても、そういうお話に心当たりでもあるの?」
「彼女出来る前に言い寄ってきてたも一人のマネージャーがそんな感じでさ。一言で言うと見栄っ張りで知識ばっかりひけらかしてきて、そのくせ現実には弱いって感じのやつ。お前どんだけ口で凄さを説明しても、実際に対処してくんなきゃどうしようもないだろって、そんなことがあった」
まあ……見栄っ張りは何処にでもいるもんだよな。知識が半端な分しかないのに、なんとか話題に乗ろうとして事実じゃないこと口走って後に引けなくなるとか。……はい、やらかしたことがあります。子供の頃の自分って、振り返ると忘れろ忘れろ忘れろの嵐だったりしません?
する筈もなかったのに誰かにキツく当たっちゃった瞬間とか、もうちょっと言葉選べばよかったーと感じた瞬間とか、嘘ついちゃった瞬間ってほんと消えてくれないよな……。
なので俺は和子相手には誠実で行きたいと思っているのです。
「ところでお前さんや」
「なんだい和子さんや」
「私、べつに太ってても一志くんのこと、好きだったよ?」
「気になる相手に、会うたび腹ぽんぽんされる男の気持ちなんてっ……!!」
「あの感触がよかったのに」
言って、もはやミシリと引き締まっている俺の腹を服越しにぽんぽんする和子。
代わりに俺は和子の肩をトントンした。
隣同士で嫌な気持ちにならない相手って、いいよね。
「イチャイチャいいなー……俺も穂乃果と同じクラスがよかったわー……」
「あ、じゃあ今度は別のところで集まってお話する? 私、土田くんの彼女さんのこと気になるかも」
「あ、俺も。……はい、ここでの気になるは女性としてじゃなく、土田くんの彼女としてって意味だから頬を膨らませないように」
と、まあ。こんな感じで俺達はいたって普通の日常を過ごせている。
時にイチャイチャ、時に笑い、時に待ち合わせしてダボーデートとか。
そんな日々を過ごしては、柴野くんも突っかかってこなくなった日々に安心しつつ、時は過ぎたのだが───
……のちに柴野くんが後輩の彼女を作ってみせるのだが、彼女になった途端に物凄い俺様彼氏になった柴野くんに後輩ちゃん愕然。一日待たずに破局し……た筈なのにしつこく追い掛け回したために俺様系ストーキング野郎というあだ名をつけられ、女子からは基本、距離を置かれるようになった。ていうか男子からもか。俺様彼氏であることを隠そうともしなかったために、男子もドン引き、女子もドン引き。
「幼馴染に出来たことがなんで彼女のお前に出来ないんだよ!」なんて教室で言い出せば、そりゃ引かれるって……。
「なんっつーのか……傍から見てて思うのはさ、あ、柴野の話だけど。ありゃ尽くす心とかが欠けてるな」
「尽くされて当然、みたいなところ、あるよなー……」
「うん……私もあそこまでとは思ってなかったよ……」
溜め息四つ、昼の屋上にて、頭が痛い状況に苦笑いしつつ、弁当をつつく。
しかしまあ……後輩彼女さんが可哀想だ。ていうかよくもまあ本性隠しつつ彼女が出来たもんだと感心する。
「基準が和子になっちゃってるんだろ……今さらだけどほんと大丈夫だったか? ヘンなことされてなかったか?」
「あはは、大丈夫大丈夫。私いっつも柴野くん起こしに行く時は、必携って言われて持たされてた防犯ブザーとか握りながらだったし、ヘンなことされそうになったら、って自分なりに考えて、コショウの瓶とかタバスコの瓶を忍ばせてたし、部屋の前にはモップとかも用意してたんだよ?」
「なぁ飯山さんや」
「なんだい土田くん」
「お前の恋人さんってダイナマイト
「ちげーよ」
「あ、でもコショウもタバスコも結構いいかも。コショウは鼻とか目に目掛けて振るえば催涙スプレー代わりになるし、タバスコは手につけて相手の目でも擦れってあげれば武器になるし」
土田くんの彼女、矢稲穂乃果さんが何度か頷きながら言う。
モップと柱時計とコショウを匠に使う刑事さんを想ったわけではないらしい。
「けど穂乃果よぅ、両手掴まれて押し倒されたりしたらどうする? や、この前のあのことがあるから、俺が心配しすぎってだけかもだけど」
「うん、ちょっとコウくんは心配しすぎかも」
「あ。なんか今心の芯にぐさって音とともに言葉のトゲが……! 飯山くんや、俺ら、ずっ友だよな……!」
「なんでここで友情確認してくるのか知らんけど、そだな」
俺と土田くんは勢いのある
そんな中、和子は笑い、矢稲さんは少し呆れる。
「もう……コウくん? 責めてるとかじゃなくて、ありがとうだけどコウくんの時間が減っちゃうでしょ? 私はそれがヤなの」
「いや、男子高校生ってケッコー単純なんだぞ? 好きなやつと一緒に居られたら案外自分の時間とかどーでもいいって感じになるし。や、そりゃ人によりけりだろうし、モテて当然俺様野郎とかなら、逆に俺様に時間を取らせるんじゃねぇとか言いそうだけどさ。……俺の場合でいうならむしろ、暢気してる間に恋人になにかあったら、そのことにこそ後悔するのが男ってもんだろ、って感じ。だから俺は過保護くらいでちょーどいいの。むしろそうじゃないと安心できない」
「あー……相手がちゃんと自分のことを好きなのかどうかって時、女子の反応ってすっごい気になるよなー……」
「だよな!? だよなぁ! ほらほらほのちゃん! 俺以外にも俺と同じ考えの人居た居た!」
「はいはい、私はちゃーんとコウくんのこと好きだから」
やっぱりちょっと呆れたような反応で好きを口にする矢稲さん。はた、と気づくと気になることひとつ。それは、俺が言う前に和子が言ってくれた。
「あの。矢稲さん? もしかして土田くんとは幼馴染な関係……とか?」
「うん? うん、そだよ? 産まれた時から一緒で、家も隣同士。両親ともが話し好きなのとパーティー好きなのでしょっちゅう隣同士で庭繋げて一緒にごはん食べて育った仲なんだ」
「うわー……! 幼馴染レベル高い……!」
「え? レベル? ……あ、うん、確かに言われてみれば高いかも」
「でもでも、あんまりに幼馴染レベルが高いと、兄妹みたいな感じで育っちゃわない? よくそれで恋とか出来たなー、って」
「うーん……そこは性格に寄ると思うよ? コウくんは子供の頃から悪ガキっていうよりはちゃんとしてる感じで、好きになってもらう努力が出来る子供だったから」
「それ言うなら穂乃果もだろー? じゃなきゃ子供の頃からずっと一緒に居るのに、異性意識して好きになるもんか」
そしてぶっつり切れる。もはや続きが思い出せません。