タコのオイタ動画をUPしてた男性の話。
誰かを守って大怪我をするって、普通にただ怪我をするよりは立派なのだと思う。
でもさ、その負傷の所為で満足に動けなくなった時、自分はいつまで、周りはいつまで“俺は、あなたは立派だ”なんて思っていられるだろう。
最初はよかった。お前は誇れることをした、なんて親に言われた時は、俺の心にも温かなものが多少は生まれたんだと思う。でも……それが何日、何ヶ月、何年と続くと、親はもう笑わなかった。どころか、俺をお荷物として正しく認識していた。そりゃそーだ、俺自身がもうそうとしか思えなくなってしまったんだから。
まだ若かったから~なんて理由でさっさと弟をこさえた二人は、俺のことになんか興味を持たなくなった。所詮そんなもんだ。俺もあの両親のあんな目を向けられるのはもう嫌だったから、特になにを返すこともなくなった。
足が無くなる、っていうのはこんなにも不便なのか、って……無くなってみなきゃわからん。膝から下が無くなる感覚っていうのはこんな感じ……んん? 足が無いのに感覚って言い方はおかしいだろうか。まあいい。
ともかく。俺は他人を守って大怪我をした。膝から先を両方失うっていうとんでもない大事故だ。ああいや、正直に言うなら足はある。まだくっついてる。けど、感覚がもう無いのだ。感覚がない以外は全ていつも通りに見えるおみ足。でも、動かない。引掻いてもな~んの感覚もない。ただそこにあるだけのそれは、無理矢理立とうとしたって、てんで俺の願うことなど叶えちゃくれない。
おまけに喉。
これも事故が原因で、喋りづらくなってしまった。
あー……OUT SIDEっていうサイト、知ってる? 天然声オウムがウリの素敵なFLASHサイトだったんだけど。喋ろうとしても、そのオウムみたいな喋り方になるのだ。都内の小学生です、なんて言葉が、トォ~ゥナァイノォゥ、ショ~ガクセェィデス、みたいに。キエエエとは言わないけど、まあそんなとこ。
まあ上半身が健康なら勉強は出来るから、それはそれでいい。なんならもう親に期待なんてされてない俺だ。むしろ居なくなってほしいと願う人の方が多いのだろう。
逆に、居なくならないでほしい、なんて……本音かどうかは別として、思ってくれているらしい人は……まあ、正直、もうどうでもいい。それが……幼馴染であり、俺が足と喉の機能障害を起こす原因となった事故から庇った相手である。
御陵このみ、という女の子で……あ、苗字は御陵と書いて“みささぎ”って読む。ごりょうとかじゃあない。ともかくそんな苗字の彼女なんだけど……まあ、その。随分なお金持ちのお方でして。
そんな彼女が、高校進学と同時に我が家へやってきた。あ、ちなみに俺が彼女をかばったのは中学1年の時だ。それから中学卒業まで自宅で勉強。一応成績としての卒業は十分だったし、高校にも席だけは───や、通信制になるっていうのはわかってたんだけどね? ともあれ俺は自宅、彼女は高校へ───なんて時期に、それは起こった。
「………」
「………」
幼馴染が、人のベッドの横で、言葉も発さずに居る時間は、既に10分を越えている。なにをしたいんだこいつはと心は叫びたがっているのに、この口は、喉は、声帯は上手く動いてくれない。“なぁ、にぃを……したぁぃ、ん、だぁ?”みたいなスローペースでしか喋れないから、それが嫌で自然と口数も減った。仕方ないと思う。今まで出来ていたことが出来ないっていうのは、本当にストレスだ。
そんな俺がモゴモゴしていることに気づいた幼馴染が、ハッとして口を開こうとするも、また黙ってしまう。罪悪感はそりゃああるんだろーよ。事故があってから数年、こいつが俺の部屋に来たのなんて、退院した初日だけだったもん。
そんなお前が今さら何の用だって話だ。
お前が健康に中学生活を送っている間、俺は若くして人を助けた英雄。時が経つに連れて、お荷物へとなっていくだけだったよ。
親はもう俺のことなんかろくに気に掛けない。どうせ勉強以外にすることがないから、俺に鍵を預けて仕事に行くだけになった。声も掛けない。行ってきますもない。そんな親からあっさり合い鍵を受け取ったらしいこいつは、今さら俺の目の前に来てなにがしたいんだか。
「……よぉ~ぅ、が、ないぃ~なぁ、ら……かぁ~ぇ、って……くぅ、れぇ……」
声帯を震わすまで時間がかかる所為で一言一言が伸びてしまう。言えた、と思った一つの文字が、どうしても伸びてしまう。分かるだろうか。心配して見舞いに来てくれた級友に、なんだその喋り方、なんて笑われた気持ち。一生懸命に喋ったところで、え、なに? なんて訊き返されて、何度も何度も喋っては惨めな気持ちになる。
「っ……あ、あるっ、あるよっ! あのっ……よ、陽くん、わたし……」
「………」
……御陵このみは幼馴染だ。産まれた時からの付き合いで、両親が親友同士~なんて物語の世界じゃなけりゃ無いもんだと思ってた。だって、仲が良いからって四六時中隣の家に友達が居る、っていつか息が詰まるもんだと思う。自分はこれをやりたいけど、あいつも誘わないといけないのか……みたいな気持ちが一切ない、そういう輩が居るなら見てみたい。
そしてこのみは年齢が上がるごとに綺麗に成長し、いつしか彼女ばかりを見ていた俺が、愚かにも告白して……あっさりフラれた。家族としてしか見れないんだそうだ。結構ショックだったよ、好きっていう初めての気持ちを否定されるって、ほんと、かなり、辛い。でもそんなものは序の口で、翌日にはクラスに俺があいつに告白してフラれたって話題が広まっていた。
頭が真っ白になったよ。幼馴染なのにフラレたのかよ、とか、そんだけ近くに居てフラれるとか逆にすげぇよ、お前普段どんな感じで御陵に接してんの? とか。周囲は好き勝手に言ってくれる。ああ……痛ぇ。なんだよこれ。なんでこんなに痛い思いをしなきゃならないんだ? 人を好きになるって、ここまで周囲に笑われたり見下されたりする感情なのかよ。そんな風に思わずにはいられなかった。
家に帰ると、どういうわけか両親もそのことを知っていた。
たぶん、このみが親に相談して、親が俺の両親に話したんだと思う。そのあたりで、俺は“大人は話題のためなら人の苦しみだってベラベラ口にするものだ”と理解した。親は“あんまり迂闊なことしないでくれな、俺達の関係にまでヒビ入るかもしれんだろ?”なんて苦笑しながら言う。
たぶん、おどけて茶化して、人の失恋を軽いものにしたかったんだと思う。でも、なにも今言わなくてもいいじゃないか。学校で散々馬鹿にされたんだぞ? そりゃ、そっちは知らないかもしれないよ。でもさ。なにもさ。なにも……さぁ。
心の奥で、ぼづっ……って音がした。
それはきっと何かが切れる音で、それはきっと、何かを諦める音で。
“俺の失恋は、感情は、この痛みは、両親や周囲にとってはお隣さん同士の絆に影響して、それを崩しかねないただの邪魔なものでしかなかったらしい”
だから俺は、俺を諦めることにした。
なにもかもをこのみに譲り、なにもかもをこのみ優先で考える。
意地を張るだとかそんな感情もない。俺はもう、期待をするのをやめた。
親がそのあまりの変貌っぷりに、覇気のなさに、“いい加減イジケるのはやめないか”なんて言う。だから、俺はそれに近い言葉にはいつだって頭を下げて謝った。告白なんてしてごめんなさい。あんな感情を持ってしまってごめんなさい。人なんて好きにならなければよかったと。
そのたびに、親は気まずそうな顔をした。級友たちもからかうような言葉を吐かなくなり、やがて級友が級“友”ではなくなり、ただの同じクラスの人間になっていった。
そんな日々が続いて、その後のいつか。
もはや一緒に帰ることもなくなっていたこのみが、横断歩道で信号待ちをしているのを見つけた。さっさと信号変われ、それでさっさと行ってしまえと思っても、変わらないまま俺はこのみに追い付いてしまう。
あ……なんて声を出しても俺は言葉を返さない。興味もなく、ただ信号が変わるのを待って……いた時、このみが話しかけて来た。ほぼ独り言みたいなものだったけど。
あの日は……そう、こんな会話をしたのだ。まだ喉をやる前の、健康だった時。
“なんで告白なんてしたの?”
なんて言葉から始まった筈だ。
続いて……そう。
「幼馴染のままなら、こんな居心地悪い空気になんてならなかったのに」
「………」
「こんなんじゃ───」
「ごめんなさい。全部俺が悪いんです。断ったわたしが悪いみたいじゃないか、なんて思う必要はありません。俺が、人を好きにならなければよかっただけなんですから」
「───っ……!? よ、陽……くん? なに言って……」
「なんで告白なんかしたの。……本当にその通りすぎて笑える。どんどん綺麗になっていくこのみを好きになって、いつか誰かと付き合うんじゃないか、なんて思ったら気持ちが止まらなくて。好きになるたび活力が沸いてきて、人を好きになるのってすごいんだな、なんて思って。……べつにフラれるくらいよかったんだ。俺がどれだけ好きだろうと、相手が好きでいてくれなきゃなんの意味もない。でも……」
「陽くん……?」
「俺がお前を好きになると両親が困るそうだ。俺達の関係までぎくしゃくするからだと。クラスの連中だってそうだ。時間はかかるけど、いつかちゃんと好きって気持ちを別の誰かに向けられるようにって、前向きに生きようって思ってたのに。あいつらにとって、俺の好きって気持ちは笑い話であり見下すための話題なんだろうさ。なんだそりゃ。なんでこんな思いをしなきゃならないんだ。なんでこんな気持ちが沸いてでたんだよ。そう考えれば、行き着く場所なんて同じだよな。人を好きになんてならなきゃよかった。誰かに傾かずにいれば、こんな辛い思いをすることなんてなかったんだ」
「ぁ……」
「なんで告白したのかって言ったよな? 好きになったからだよ。でもこんな感情が全部間違いだってお前の質問でよくわかった。……もう、いいからさ。俺のことなんか見えないように振る舞ってくれ。俺以外で仲良し友人親子やってりゃいい。そっちの両親は俺の告白なんてお前のステータスくらいにしか思ってないようだしさ。陽平くんも虜にしてしまう娘はすごいなぁ、だとさ。気まずそうに語り掛けた父さんにそう笑いかけてたよ。こんなことくらいで俺達の友情が崩れるわけがないだろう、ってさ」
「………」
「俺の気持ちなんてさ、ガキみたいな想いなんてさ、友情の前じゃ“こんなことくらい”レベルなんだとさ。そりゃそうだ、二人は俺たちが産まれる前から友たちやってんだ、そんな関係があんなことくらいで崩れていい筈がないんだ。だから───……さぁ」
「っ、よ、陽くっ───」
「俺がその輪から外れるくらい、“そんなこと”レベルでどうだっていいだろ……?」
───そう、言葉を紡いだ。もうなにもかもがどうでもよくなっていたんだ。
心を砕かれてまで誰かと一緒に居ようとするヤツは馬鹿だって思う。愚かだって思う。強制されているわけじゃないのなら、逃げたっていいんだって真剣に思う。
でも俺にそんな力はなくて、どうしたって親の力を借りなきゃ生きられないから、その時から自分の感情なんてどうでもいいやって諦めた。途端、あれだけ心の中を占めていた愛情や親愛が崩れ落ちて、思い出せば笑えた記憶も、一切琴線に触れることがなくなった。だからだろう。
歩行者の信号は青。渡るべき時が来たのに、動かない俺達目掛け、けたたましい音を高鳴らして走ってくる車を見て、ああ……なんて思えた。
思えたら、無感情に動けた。俺なんかよりこいつが生きてた方がみんな喜ぶんだから。だから俺はこのみを突き飛ばして、焦りも恐怖も湧かないままに、車に撥ねられた。あ……もしかして、もう俺……楽になっていいのかな、なんて思いながら。
……けど。
手の平返しのような立派だコールをどう思う?
目覚めた病院で、両親に心配され、褒められ、このみの両親に散々と感謝されても……もう心は動かない。この人たちにとって、俺なんぞ生きててもしょうがないだろうに、なんであそこで死ななかったんだろうか、
気づけば満足に喋れない。足ももう動かない。でも、期待なんぞされない俺ならそんな自分がお似合いだとすぐに受け入れられた。
でも、誰かの手を借りなければ、移動も上手く出来ないことには何度も何度も謝罪した。お前は立派なことをしたんだから、と言われたって、なんの感動も生まれない。取捨選択が立派なことだというのなら、なるほど、俺を切り捨てるのはやっぱり立派なことなのだろう。理解を深め、ただただ腕を鍛える日々が続いた。
そんな日々が過ぎ、立派なことをした、なんて意識が薄まってくると、親の態度はだんだんとよそよそしいものへと変わっていく。
このみが立派になればなるほど、何故うちの息子は、なんて思っているのだろう。俺を見るたび、気まずそうに顔を逸らした。
そんな日が続いても続かずとも、もうなににも期待なんて持っちゃいない俺は、なんかもう……様々なものを放り出してしまいたい衝動に駆られた。
大事に思っていたもの、記念品、思い出、様々なものを。
すぐに出来るといったらなんだろう、と考えて、スマホを使ってある操作をした。ずっとずっと前に、親に“どれがいい?”なんて言われて買ったもの。お小遣いが一定数溜まるたびに買って、積み立てておいたものだ。
気づけばおいそれと買える金額ではなくなったものを、放り投げるような気分でポンと売った。待っていればもっと高くなるかも、なんて考えはもうどうでもよかった。
思い出の品も全部捨てたり売ったりしたかった……けど、この足で様々を片付け、揃えるのは至難の業だった。だから出来る限りの趣味のものをかき集めると、オークションに出した。
───……。
……。
で。
数日かけて俺の部屋がきれいに片付いた頃。
俺の電子通帳に、億単位の金額が刻まれた。
嘘でしょ……?
……。
あれから時は過ぎ、高校生に……まあ、障害者用の通信制高等学校だけど、一応高校生となった俺は、変わらず部屋からは大して出ずに勉強をしていた。
中学の途中から転校扱いで始めたそれは、足を動かせない俺にとっては大変ありがたいものだった。なにせ学校に行くために親の手を煩わせることがない。なにより何処に居てもインターネット環境さえあれば出席にマルをつけられるのもいい。まあ、出席だけ集めたって成績が奮わなきゃなんの意味もないのだけれど。
そうしてさっさと通っていた中学を転校扱い、自宅から外にも大して出なくなった俺は、ますます親の意識から外れていった。
動かない所為でデヴになりたくはなかったので、ジョギングなどは当然出来ないにしても、体を動かす運動はとことんやった。血流を良くしまくってりゃいつか足とか急に動くようにならんかな、なんて、足が不自由になった人なら大体考えるらしいことに辿り着いて、そりゃあもう運動しまくった。結果として上半身だけマッスルになっただけで、依然として足は動かなかったんだけど。
まあ、それはもういいのだ。弟をばか可愛がっている両親は、仕事に出る時は専業主婦のお隣さんに弟を預ける。お隣さんも娘を守ってもらったこともあってか、ああいや、かなり嬉しそうに弟を預かっては世話をしているようだけど、まあ、そうなると家の中はひどく静かだ。
「……きょ~ぅのぉ、ぅ……───」
今日の運動終わりっと、と言おうとして、上手く出せない声に溜め息を混ぜて諦める。これでも何度も何度も、それこそ中学から現在まで、なんとかスムーズに喋れないだろうかと頑張ってみたんだ。でも、だめだった。そんなことが続くと、いい加減独り言なんて言いたくもなくなる。
運動とかに夢中になって、自分の現状を忘れた時、つい出てしまう言葉以外は……もう、大して口にすることもなくなった。
そんなことを思うたびに、ははっ……なんて声になるまでに至らない苦笑が漏れて、陰気な空気を払拭するようにポージングを取っては、ボリショ~イ・パビエーダと心で言う。
「………」
カラ元気を続けていると、不意に涙がこぼれることがある。
そんな時に昔の友人のことを思い出して、勝手に英雄扱いして勝手に騒いで勝手に冷静になって勝手に離れていったことも思い出すのだ。
だから。そう、だからだ。
身体を拭いて、勉強も終えた時、やってきた幼馴染に、正直うんざりした。
今さらこいつに友好的な感情なんざ抱いていない。
退院の時に一度現れただけで、こいつは俺に会うこと自体を避けていたのだから。
「あ、の……」
「………」
御陵はわざわざ俺の部屋まで来て、許可もなく入って俺の姿を確認すると、ぐっ……と喉を詰まらせるように息を止めた。
そしてうろうろすると、疲れた体を休めようとベッドに座っていた俺の横に、きしりと座ってきた。
……用がないなら帰ってくれくらい言いたくなるだろ?
なのにこいつは用があると言う。
「あ、の……わたしっ……ごめんっ! ごめんなさいっ! ~……たすけてもらったのに、ずっとお礼も言えずに、会いにもこられなくてっ……!」
「………」
「わっ、わたし、怖かったの……! 会いにきて、もしものすごい罵倒されたら、って……! お前の所為でって言われたら、って……どうやったって償えっこないし、謝ったってどうにもならないし、誰がどれだけ英雄だとか言ったって、そんなのがなんの役に立つの……!?」
おー、わかってんじゃねぇの。だよなー、英雄の称号なんてクソの役にも立たんよ。生きていく上でなんの意味もない。まして、俺を好きでもないこいつの英雄になったところでなにになるってんだ。よかったじゃねーか、そっちの両親だって大喜びだったぞ? ステータスにしかならない俺が娘の代わりに潰れてくれて。両親だって喜んでたさ。喜んで、我に返って、役立たずのことは早々に投げ出して二人目を作ったさ。結局面倒見れないでそっちのおふくろさんに面倒頼んでるけど。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「………」
で、こいつは俺にどーしてほしいんだか。
許すって言えば二度と来ないのか? 許すって言えば勝手に満足するのか?
「………」
溜め息ひとつ。枕元にあるメモとペンで文字を連ねて、見せてやる。
「陽くん? なに───」
【許すから二度と関わるな】
「───なんで!?」
そりゃこっちのセリフだ。一筆書けば喜んでとっとと帰ると思ったのに。なにが不満なんだこいつ。
「あ、あの……あのねっ!? わたし、陽くんに助けてもらった時、陽くんのことが───」
「………」
文字を連ね、彼女に見せる。
【俺はお前が嫌いだ】
「!? ど、どうしてっ……!?」
「………」【告白して、言い触らされて、好きでいられるとでも思ったのか?】
「ちがっ……あれはわたしじゃない! 本当なの! 信じて!?」
「……………………」【それを信じたとして、どうして告白なんかしたの? なんて言われて好きでいられるとでも? お前の親に“こんなこと”扱いされて、好きで居られるとでも?】
「そんなっ……! お、遅すぎたって思ってるよ! 身を呈して助けてくれて、それで好きになるなんてって呆れられるかもしれないよ! でもしょうがないじゃない! 本当にその時に好きになって、それまではそうじゃなかったの! こんな言い方ひどいと思うよ! でもどうしろっていうの!?」
「…………」【諦めれば? 俺がお前ら相手にそうしたように】
「諦め……? お、お前ら……?」
「………」【帰ってくれ。もう話すことなんてない】
「ま、待ってよ! 話しならある! あのっ……わたし、どんなことでもするから! それが償いになるなんて思わないけど、でもっ……!」
「………」
うーわー、こいつまさかあれか? こんな状況でケッナーゲ&パワフォーなことアッピールして、悲劇のヒロイン気取ってんじゃあるまいな……?
大体足が不自由のやつに罪悪感抱いてるやつが、フツー足がすぐ横にあるようなベッドに腰掛けてるヤツのすぐ隣に腰掛けるか? その軋みで俺の足にダメージいったらどうしよう、とかちっとは考えない?
てか、“なんでもするアピール”しておいて、どーせ自分のなにかを穢すような要求されたらパパンママンに言ってどうにかしてもらうんだろ。魂胆見え透いてるんだよどんだけ幼馴染やってきたと思ってんだこのタコ。まあそもそもそんな願いなんてこっちから願い下げだ。
「………」【お前にンなもん求めてない。むしろ軽蔑する。ていうか軽蔑するし、お前は間違っている】
「求めてないって……す、好きだったんでしょ!? どうして!?」
「………」【だからさ、俺を抜いた家族同士で、どうぞコヨシしててくれよ。俺、もうお前らとは関わり合いたくないから。あのさ、今さら俺が、お前らと本気で関わり合いたいと思ってるとでも思ったか?】
「え……?」
「…………」【最初は役立たずの俺がお前を助けて、そりゃあ喜んだだろうさ。両親だって俺を立派なヤツだって褒めた。けど、冷静になれば、上手く動けやしないお荷物が出来ただけだ。お前を助けてなにが残った? 今、ここに、なにがある? 動けない俺と、そんな俺を見限って二人目を作った両親だろうが】
「ぁ……ぁそ、そんな、そんっ……ちがっ、違う! 違う違う違う! おじさまもおばさまも、そんなつもりなんて……!」
「…………」【両親が冷静になって現状を確認してから、この部屋に何回来たと思う? 何回、俺に声をかけたと思う?】
「そ、そりゃ、頻繁に……」
願うように、縋るように、目の前のこいつは言った。
俺はそれを極上の笑顔で迎えてやり、片手を開いて持ち上げてみせた。
……目の前のそいつは、苦しそうな顔をしたあとに……泣いた。
そう、五回だ。たった五回。片手で足りちまうほどの絆だ、すっげぇだろ、立派だって褒めた息子相手にこれっぽっちとはさ。
「………」【英雄なんていらないんだよ。動けなけりゃお荷物でしかない。お前の両親は俺のことをお前のステータスとしてしか見てないし、お前は会いにも来なかった。なぁ、これで俺になにを求めろって? どんな関係を願えって? 諦めるに決まってんだろうが。分からないなら言ってやろうか。今さら近寄られても迷惑なんだよ。俺はお前らを信じない。準備が出来たらこの家も出ていくつもりだから、もう関わらないでくれ】
「っ……! そ、そんなっ……」
「………」【お前あの日、俺のことは家族としか思えないって言ったよな? おめでとさん、俺はそんな家族ってもんが大っ嫌いだよ。心から思うね。なんでこんな家に産まれて来ちまったんだかって。俺は産まれる場所も、育つ環境も完全に間違えたよ。……俺には家族も、幼馴染だって居なかった。それだけのことだ】
「なんで!? なんでそんなひどいこと言うの!?」
「………」【お前それ正気で言ってる? じゃあ訊くけど、俺がこの家に産まれて、俺が幸せだったことなんてあると思うか? お前の知ってる俺はどんだけ笑顔で居たよ】
「………………ぁ………………」
即答で返せない時点で終わってる。
卑屈になるやつは下手に救いがあるより、好きなだけ落ちてほしい。
落ちた先でそいつなりの生き方を得るって話の方が、僕は好き。