ムラビディアの聖剣の原型のお話。
鈍器殴打(ドンキオーダー)のスキルとかまさに。
◇剣と生きる勇者のお話
───勇者、と聞いて、思い浮かべるのはどんな人物像だろう。
名前の通り、勇気のある人? それとも、魔王を倒すべき存在? お姫様を助ける存在っていうのもある。
弱い人に代わって強き存在を倒す者、っていう考えもある。人によっては金蔓だなんて考える人も居るだろう。
僕の場合は勇気を以ってなにかに立ち向かう人、だった。あと強い。
小さな村に産まれて、村とともに生きることが当然の自分にとって、そんな存在には強く憧れたものだ。
「僕、大きくなったら勇者になる!」なんて恥ずかしげもなく口にしては、親や村の人にはやさしく微笑まれたものだ。
「───フッ!」
現実が見えていないわけじゃない。小さな村に産まれた平凡な少年が、魔王を倒すような勇気ある者になれるだなんて思っちゃいない。
それでも、ある日に村に立ち寄った冒険者に教わった鍛錬法をずうっと続けて、きっといつかは、なんて夢を見ていた。
「んん、振るう時にわざわざ掛け声はいらないいらない」
つい出てしまう、というよりは漏れてしまうような声を、意識して潰す。
“得物を振るう時に声が出るような奴は、戦場では真っ先に死ぬ”、と教わった。
そりゃそうだって思う。抜ける力は極力抜いて、持続力を常に養うべきだとも教えられたわけだし。
というわけで、振るう。冒険者さんに“俺はもう要らんから”と譲ってもらった木の剣を、重さに振り回されることなく。
子供の頃は一振り二振りでよろめいて、持ち上げるのさえやっとだったそれ。中に重りが仕込まれているらしくて、振るうための体幹を養うにはこれが一番だ、って型と一緒に譲り受けた。
「っ……」
それを、振るう、振るう、振るう。
冒険者さん……僕が子供の頃にはとっくにおじさんだったその人は、僕にいろいろ教えると、欲しかったらしい素材を手に村を去った。
ぼさっとした髪にぼさっとした髭、目は垂れ目っぽくて、だるそうに日々を生きている、みたいな人。
でも、いざ剣を握るとその雰囲気は一変した。当時の僕が子供だったからだろうか、振るう剣は目で追えなくて、型の方もゆっくりと動いてもらってようやく覚えられたくらい。
“まさか子供とはいえ、弟子を取ることになるたぁ思わなかったぜ、ったくよぉ”なんて笑って言っていたあの人は、“自分はFランクだから目標になんざするんじゃねぇぞボウズ”なんて、僕の頭を撫でながら言った。
【ムラート・ビットロープ】が彼の名前。“万年Fランク。Fの村人、って言やぁ冒険者ギルドではちったぁ有名なんだぜ?”って笑ってた。言っていたことが本当なら、元は貴族の産まれで、授けられた祝福がひどすぎたために家を追われたんだとか。ムラートは本名だけど、ビットロープは世話を焼いてくれたおっさんの名前を継いだもんだ、って言ってた。つまり、家名は無かった。
そういう僕はテム。ホポリ村のテムだ。今日念願の16になる、ムラートさんの一番弟子。
一番弟子を名乗るとあの人は嫌がるだろうけど、なんと言われようと取り消すつもりはない。あの人は間違いなく、僕の剣の師匠だから。
「ふぅうう…………はぁああ……!」
今日の朝の鍛錬を終えると、強く深く呼吸をして、うんと頷く。
これから祝福の儀が行なわれる。落ち着かなくて剣を振り続けていたけど、そろそろ行かないと怒られてしまいそうだ。
「あっ、やっぱりここに居たっ! テムくんテムくん! そろそろ儀式始まるよっ!?」
「え、あっ、ごめんすぐ行く!」
呼吸を落ち着かせた頃に、幼馴染の女の子、ミルファがぱたぱたとやってきて教えてくれた。
ミルファ。ホポリ村のミルファ。僕らに家名はないから、こんなものだ。たまに家名らしきものを持っている人でも、尊敬する人に頼んで名前を継がせてもらった時か、元々家名がある貴族だけが、自分の名前に続く名を持っている。
それ以外は村の名前のあとに自分の名前が続くくらいだ。だから、僕らがテム・ホポリだとかミルファ・ホポリと名乗っても、相手には通じる。
町なんかに出れば、“あらあら兄妹?”なんて言われるんだろうけど、村ではこんなものだ。
「鍛錬してたの? 無理しちゃだめって言ってるのに」
「うん。無理はしてないから大丈夫。子供の頃なんて手にマメ作って泣いてたけど、ほら、もう平気だから」
ぐっと力こぶを作ってみせる。と、ミルファはそんなコブよりも僕の脇腹をつついて、「ちょっ、やめてよ!」「えへへぇ、鍛えてたって弱点とか変わらないよねー?」……僕の反応を楽しんでいた。
小さな村だと、同い年の子というのは結構珍しい。
僕とミルファは同い年で、今年16になった。
この世界には祝福っていうものがあって、誰でも16になると、次の春にそれを授かることになる。
僕もミルファも今日、その祝福を得ることになる。神殿から神官様がやってきて、その儀式をしてくれるのだ。
この村には僕ら以外に16の子が居ないから、そのためだけに来てくれる神官様は本当に働き者だ。
「でもテムくんも体しっかりしてきたよね。昔なんてぷにっぷにだったのに」
「頑張ってますから」
裸の上半身を用意していた布で軽く拭いて、服を着て歩き出す。
森から採れる素材で出来た服は、着心地もよければ通気性もいい。
動くのも楽なんだけど、上を着たまま木剣を振るっていたら摩擦での損耗も激しく、いつからか脱いでやるようになっていた。
言った通り小さな村だから、あんまり贅沢は出来ないのだ。あんまりお金……通貨の概念も大きいものじゃないけどね。
「けど、神官様も大変だよね。世界中の人には誕生を報告する義務があるからって、一人一人16になったら祝福を授けに来なきゃいけない、なんて」
「えと。神官様は代々、神様から転移の祝福を授けられるらしいから、それほど苦じゃないとか聞いたことあるよ? わたしはその祝福こそ欲しいかなぁ。魔物に襲われそうになったら逃げられるし、町にもぽぽーんって、ひとっとびだし」
「町かぁ。町に行って、どうするの?」
「え? えー……えと。いろんなもの、見て回る……とか?」
歩きながら、ちらちらと僕を見て言うミルファ。
この村では珍しい、ぽややんとした性格の彼女は、その割には態度でわかりやすいところがある。
「あはは、それはデートのお誘い?」
「でっ……も、もうっ、テムくんっ!? わかってるならそういう切り返しじゃなくて、誘ってくれてもいいと思うよ……!?」
「うん、ごめん。じゃあ……ミルファ。今度、僕と一緒にデートしよう。町まで出るのはまだちょっと危険かもだから、僕らが行ける距離で」
「うんっ! 行くっ! 絶対行くからっ! ……あ、んー……デートはその、嬉しいけど、魔物は怖いよね。もっと気楽に村の外とか歩けたらいいのにね」
「そうだね……あ。もしかしたら今日貰える祝福で、魔物に感知されない祝福、とかあるかもしれないよ?」
「嬉しいけど、なんだか素直に喜べないかも……」
「同感」
あははと笑い合いながら、僕たちは歩いた。
祝福をくださる神官様は、村や町には必ず作られている聖堂に転移してくる。そこへと向かって、そこで祝福を貰う。貰う子の手の甲には光る紋様が出てくるから、祝福のことを忘れていた、なんてことは絶対にない。
やがて辿り着いた聖堂の前で、僕ら二人は顔を見合わせて深呼吸をして───扉を開け、既に来ていた神官様のもとまで歩いた。
「神官様、おはようございます」
「神官様、おはようございます」
「ええ、おはようございます。今日も善き天候に恵まれていますね。このような日に祝福を授けられること、神に感謝します」
神官様は、やさしげなおばあさんだった。
白を基準とした法衣に、青のラインが入った装飾。大きな白の縦長帽子を被って、綺麗な
「それでは、早速祝福の儀を始めましょうか。こぉんなおばあちゃんの小言なんて、誰も聞きたくもないだろうからねぇ」
神官様は結構オチャメなよう。くすくすと笑いながら言う神官様に、僕たちは否定を告げるけど、冗談ですよと笑って返された。
そうして神官様は僕らに背を向け、祭壇を見上げると、言葉を紡ぎ始めた。
「……数多の物に宿された“名”の意味の上に立つ神よ。十と六の数を迎えし者に、名と意味を授け給え。授かりし者の名を此処に。少女、ミルファ・ホポリ。少年、テム・ホポリ……あら? ……あらあら」
「?」
「……? ねぇテムくんテムくん、テムくんなにかしたの? 神官様、テムくんの名前を口にした途端、首傾げたり……あれ? 笑ってる?」
「う、うん、なんだろう」
神官様が、儀式の中で笑うなんて珍しい……のかな? よくわからないけど、祭壇を見ていた神官様が軽くこちらを向いて、僕の目を見てやわらかく笑った。
口がなんだか動いた気がして……“そう、この子が……”なんて言ったような気がして。
「ミルファ・ホポリさん、祭壇の下へ」
「ふえっ!? え、ぇあははいっ!」
突然呼ばれて驚くミルファが、わたわたと祭壇の下へ。
祭壇、って言っても軽い段差があるくらいの高低差。そこへ辿り着いたミルファに、神官様が何事かを呟いて……両手を組んで跪いた彼女に、神官様が手を翳すと、彼女たちの周囲が光り輝く。
「この者に、より大きく育つための祝福を。また、願う者からの継承を」
現れた光が、ミルファの体に入り込んでいく。眩い光も薄い光も、ぐるぐると回って元気な光も、様々。それらが余ることなくミルファの中に入ると、ミルファの体が輝いて、ゆ~っくりと馴染むみたいに光が弱くなっていく。
「……さ、目を開けて。ミルファ・ホポリさんは神に祝福されました。神、といっても様々な神が居て、名と、意味とを持ってます。人は貰った名と意味に優劣を付けたがるものですが、どんなものにも扱い方というものがあることを、どうか忘れずに」
「はい、神官様」
「では、次はテム・ホポリさん。こちらへ」
「……はいっ」
緊張はする。そりゃあ、する。するに決まってる。どんな祝福が得られるんだろうとか、すごい祝福だったらいいなとか、勇者だったらどうしよう、なんて期待もある。
でも……一番望んでいるのは。
「がんばってね、テムくん」
「うん」
入れ替わり、戻っていくミルファと言葉を交わして、いざ祭壇の下へ。
こうして見上げてみると、いつも見ている祭壇とは違って見えるから不思議だ。
かつて存在したとされる、緑の精霊、ドリアードを模ったとされる自然の像。それを装飾するように、自然と生えて来た木々草花が、祭壇を彩っている。
その像は緑色の長い髪に、尖った耳を持つ。そう、ここは自然の精霊が神格化し、祀られている森の民の村、エルフの村だ。
エルフは村を守る者と旅をする者で分かれ、多くの場合はあまり子孫を残さない。そのために同い年のエルフはとても珍しく、僕とミルファはその滅多にない例外。
幼い頃から一緒に居て、それでも家族同然というよりは、異性を意識した男女として生きてきた。
恋を知ったのも随分幼い頃で、将来一緒に───なんて約束もした。そんな彼女と二人で、同じ年に祝福を受けられるなんて、本当に幸せだ。
「ようこそ、テム・ホポリさん。これから大きくなるあなたのために、神と精霊、名と意味を持つ全ての者から祝福を贈りたいと思います」
「は、はい」
「さ、目を閉じて、手を組み祈り、そこに屈んでください」
「え、と……こう、ですか?」
「はい、それで大丈夫ですよ」
神官様はとてもやさしい顔で説明をしてくれる。
作法なんて知らなくても、無条件で褒められているような気がして、なんだかくすぐったい。
親が既に里を去ってしまっている僕にとって、そんなやさしさはとても心に沁みる。
親が居なくても、助け合っていくのが森の民だけど、やっぱり傍に居てくれる人が居ないっていうのは……まあその。結構キツいのだ。
ある日突然、“じゃあ父さんと母さん、旅に出るから。いい森とか見つけたら連絡する”なんて言って、両親が消えた気持ちなんて誰が知ってくれるだろう。
まあ、親が居ないから思いっきり鍛錬出来たってこともあるんだけど、そんな時にずっと傍に居てくれたのがミルファだ。一層好きになったし、好きにならない理由がなかった。
「この者に、大きく育つための祝福を。また、願う者からの継承を」
ミルファが受けた言葉と同じものが、僕の耳に届く。
目を閉ざしているからわからないけれど、きっとミルファの時のように光がたくさん出ているのだろう。
そして、それらが僕の体に染み込むように消えていく……し、染み込んでいるよね? 一つも無いとかだったら、もしやするとなんの祝福も無し、だったりするかもしれない。
怖い考えが浮かぶけれど、それでも出来るだけ心穏やかに、祈ってみた。どうか、傍に居る人を支えられるような祝福をお与えください、と。
「さ、目を開けて」
「ん……あ……」
目を開けてみると、なんだか体が重い気がした。
次いで、促されて立ち上がろうとすると、足にもちょっとだけ違和感。
立つのに問題は無かったけど、いろんなところに違和感があって、けれどそれもすぐに治まった。
「はい、これであなた方への祝福と継承を終了いたします。おめでとう、ふたりとも。私達祝福の神官は、あなた方を大人として迎えます」
「ぁ……は、はいっ」
「はいっ、ありがとうございましたっ」
素直にお礼を言ってみれば、神官様は本当に嬉しそうに微笑み、「これから頑張ってね」と言ってくれた───次の瞬間には、光の粒子に包まれて、パァッ……と。光が散るみたいに、消えてしまったのだった。
「わぁあ……! 今のが転移の祝福……!?」
「本当に消えちゃうんだね……! って、そうだ。テムくんテムくん、どんな祝福貰えた?」
「ミルファこそ。なんかすっごい数の光が飛んでたけど」
「え? 光? テムくんの場合はなんかこう……重苦しいなにかだったよ?」
「……不安になること言わないで」
えぇえ……重苦しいなにかってなにさ。
「え、っと、ミルファ? 祝福って自分で見られるんだっけ」
「うん。お母さんが言ってた。今は消えてるけど、さっきまで手の甲に出てた紋様を想像すると、頭の中に浮かんでくる、って」
「手の紋様? って、あー……」
祝福の授与が済んだからだろうか、手の甲の紋様は消えてしまっていた。
けれどもどうしてかどういう形だったのかをちゃんと覚えている。それを思い浮かべてみれば───なるほど、確かに。
◇テム・ホポリ(ホポリ村のテム)
▼祝福
鈍器殴打/ドンキオーダー
両手剣術/ブレードスキル
器詠の理力/バストラルフォース
▽鈍器殴打/どんきおうだ/ドンキオーダー
鈍器を上手く扱える。
硬ければ硬いほど攻撃力が上がる。
柔らかいもの、切れるものは逆に攻撃力が下がる。
オウダではなくオーダーであり、鈍器の秩序を司る。
鈍器を持つと、それが硬ければ硬いほど効果の高い身体能力強化バフがかかる。
逆に柔らかいものを主力武器とすると能力が低下する。
▽両手剣術/りょうてけんじゅつ/ブレードスキル
両手で扱う剣での行動に上昇修正。
剣でなければ意味がないので、剣以外を主力武器にすると能力が低下する。
▽器詠の理力/きえいのりりょく/バストラルフォース
器を詠む理の力、と書く。
世に数個しかない理力の祝福のひとつ。
モノの意思を読み取れる、または聞くことが出来る。
「……これが」
僕の、祝福。
鈍器殴打に、両手剣術。そして……ば、ば? ばす、とらーる? ぱすとらーる? ああいや、パストラルは牧歌とか田園の歌だっけ? 母さんが好きだった。じゃあ?
▽バストラルフォース
モノ言わぬ、けれど意思の宿ったものの詩を聞く祝福。
世界は“もの言わぬもの”で満ちていて、見渡せば園のようにそれはある。
それを聞ける者、聴ける者としての理力。
牧歌牧畜羊飼い等としてのパストラルとは違うものの、自然を抱擁する詩を受け取る、という意味で、パストラルではなくバストラルとして分類されている。
このスキルとしての意味では、“意志あるものの詩を聞く凡人”として知られる。
現在確認されている理力のうち、“創造、次元、器詠”の中の一つ。
……わあ。
牧歌じゃなくて、意思あるものから聞ける詩とか。
たとえばこの木剣の声も聞こえたりするんだろうか。
「………」
背負っていた木剣を鞘から抜いて、しっかりと両手で持ってから目を瞑って集中。祝福を使うってイメージを働かせてみるも、なんの意味もない。
「あれー……?」
「テムくん? どう……あ、祝福、使おうとしてるの?」
「うん。ちょっと変わった祝福みたいで。ミルファのほうは?」
「わたしも。癒しとか浄化とか伝達とか、そういう祝福ばっかりだから、すぐに使ってみるのは難しいかも。あ、でも伝達なら。……ん、ん-……」
ミルファが手の指同士を第一関節あたりで軽く組んで、親指同士をつんと突き合わせるようにして、目を閉じてうんうん唸り始める。
すると───
【テムくん……テムくん。聞こえますか? テムくん……!】
聞こえてきた。ミルファを見てみても、口はまったく動いてない。
(聞こえてるよ! すごいよミルファ! 祝福ってそんなことまで出来るんだ!)
【……うーん、聞こえてないのかなぁ。あ、じゃあ……テムくん大好き! テムくん愛してる! 好きだよテムくん! えとえと……あ、どうせ伝わってないなら、普段じゃなかなか言えないこととか……! ウ、ウン、よしっ! ……もっとわたしに構って! えと、か、構えー! 手を繋いだりしたい! 腕、組んだりとか……! ちゅちゅちゅ、ちゅー……! とかっ……! してっ、してほしい、です!】
(ブフォッ!?)
こちらが考えたことが届くわけじゃあないらしい……ってそんなことよりなんてことを!?
普段から好きとか言ってくれないから、ただ僕だけが空回りしてるだけなんじゃ、とか同年代の子が僕しかいないから傍に居てくれるだけかと思ってたのに! 実はミルファがそんなに僕のことを想ってくれていたなんて……!
「あ、あの。ミルファ?」
「ぇ、ぇあ? な、なに? テムくん」
「~……あの。……好きだよ。本当に好きだ。僕も、きみのことを心の底から愛してる」
想いを、真っ直ぐに告げる。……と、目を真ん丸にして、きょとんとした顔でこてりと首が傾げられて……直後、みるみる赤く染まっていった。
「エ? ………………ほぅわぁあああああっ!? えっ、えぇえっ!? テムくん!? 聞こえてなかったんじゃ!? もしかして全部届いてっ……!? わ、わわわわぁああっ! 聞こえてるならすぐ返してよぅテムくんのばかー! おたんこなすー!」
「ぅぃややややだって頭の中に響いてきたからっ! こっちも頭の中のこと聞こえてるかなって! そしたら聞こえてないのかなぁって、止める間もなく……!」
「はうっぐ……!」
顔を真っ赤にしたミルファが、ぼしゅうと湯気を出す勢いで一層に深紅に染まり、尖った耳の先まで赤い彼女は俯いてしまった。
真っ赤で涙目、かわいいです。
【……ほんと? ほんとに、好き? 愛してる?】
「……うん。愛してる。僕とその、結婚してほしい。大人として認められたばっかりだけど、ずうっと大人になったら伝えようって思ってた」
「【っ……テムくんっ!!】」
「あ、やめて、思考と口とで一緒に喋られるとなんだか頭にすっごい響く……!」
「【わわっ、ごめんなさい! ……あ、あれ? これ、どうやって止めるんだろ……えっと、あれ? 止まれ、って念じれば……あの、止まってください。……止まって? ……とまっ……止まれー! 消えろー! ……あれぇ!?】ちょっと待っててねテムくん!【たぶん深く意識するか、祝福に使う精神が尽きれば消える、と思うんだけど……むー! てやー! 止まれー! とまー! とー!】」
……人は頭の中でそのまま会話出来れば、それはそれはとても速い速度でたくさんのことを話せるそうです。
そんな、人の頭のものが、ドシャーと僕の頭に響いてくるわけです。
つまりなにが言いたいかっていうと。……僕の想い人が可愛いです。
「えっとえっとどうしたらどうしたら【あ、でも今テムくんと心で繋がってるってことになるのかな。わわわどうしよう、不謹慎だけど嬉しい】じゃなくてっ! 待ってテムくん待って今の無し!【でも今まで恥ずかしくて伝えきれなかった言葉とか、これなら言えr】落ち着いてー! 落ち着いてわたし! それ以上はダメ! ぁあああ考えないように、伝えないようにすればするほどダダ漏れになるよぅ!【テムくん、好き。大好きだよ。好きで好きで、大好きで、いつだって一緒に居たい。手とかも繋いでほしい。抱き締めてほしい。もっともっt】あぁあああああっ!!」
「あ、あの……ミルファ?」
「みみみ見ないでー! こんないやらしいわたしを見ないでー!!【テムくんテムくん、ねぇねぇテムくん。知ってる? エルフの女の子はね? 基本は種族の保存のためにしか子を産まないの。恋だってしない。でもね、ひとたび誰かを好きになって、恋をすると、胸が温かくなって、満たされて、その人のことばっかり考えt】ふややぁああああっ!! ややややめー! やめてえぇええっ!!」
ミルファが、その長く綺麗な緑色の髪を振り回すように、頭を抱えながら暴れ出す。
終いには祭壇横の木に頭をごすんごすんとぶつけ始める始末で───ってなにやってるのー!?
「【エルフは基本、胸がぺったんこ。例外として、本当の恋に燃えてるエルフは、胸がおっきくなっt】いいぃいやぁあああああああっ!!」
ミルファが、その豊かな胸を隠すように腕をクロスにして、祭壇の前に蹲り、ごすんと床に頭を打ち付けた。
「……あの。ミルファ? その……僕は嬉しいよ? それって、僕のことをそんなに好きでいてくれる証拠なんだろう?」
「~……【テムくん……いやらしい女の子だって、軽蔑しない……?】」
「だ、だから同時に喋るのはやめて? ……とんでもないよ、僕はますますキミが好きになった。そして、嬉しいとも思ってる」
「こ、こんなっ! エルフにあるまじきいやらしい体でも、好きでいてくれますか……っ!?」
「その。実は僕、普通のエルフのスラっとした細身よりも、ミルファみたいな子の方が好きみたいで……」
村のエルフたちは、変わっているって言う。
むしろミルファを見る村のみんなの目は、変わった育ち方したなぁ、みたいな感じが多い。
そうなのだ。僕も今、ミルファに言われるまで、エルフ族がこんな育ち方をする例外の理由なんて知りもしなかった。
「ねぇミルファ。ミルファはどうして、その……自分の体がそう育った理由を知っているの?」
「【はぐぅっ!?】」
……頭の中でも“はぐう”って言った。
「……神官様に訊いたの。そしたら、精霊様と交信してくださったみたいで……その、理由が……うう……」
「理由が……?」
「おさっ……! 幼い、頃から……好きな人が居る、エルフは……そのっ……! そ、そそそしょ……! しょの人の、子をっ……いっぱい埋めるように、って……! かかか体つきがっ、それに見合うように育つ、って……!」
「………」
「~……!!」
二人して赤くなった。そしていやらしいわたしを見ないで、の意味がわかった気がする。つまりその。ミルファの体は、僕を想ってそんなわがままボディに……!?
……主たる我らが祖なる精霊、ドリアード様……今、あなたに我が感謝のすべてを捧げます。
他のエルフたちの好みなんざ知りません。僕はミルファが大好きです。
そんなわけで……祝福を頂いたその日、僕とミルファは村長立ち合いのもと、夫婦となった。
勇者どころか鈍器使いなんておかしな能力だけど、それでもよかった。……よかった、でいいんだよね?
切れ味のいいものを持つと弱体化するし、剣以外のものを持っても弱体化するという厄介極まりない祝福だけど。
まさか僕、このままこの……“剣だけど鈍器でもある木剣”を頼りに生きていかなきゃいけないんだろか。
…………考えるまでもなく、こんなスキルじゃどうしようもない。“まさか”だったなぁ……。
……。
ミルファと夫婦状態になった翌日。
手に入れた祝福と、僕の
ともに、っていってもミルファが一緒に鍛錬しているわけじゃなくて、彼女はあくまで軽い運動をしている程度。
……まあ、太ったエルフなんて森の中じゃ絶対に見ることはないけれど。
人族を好きになって、人族と番になったエルフは、食に目覚めて肥えることがあるそうだけど、森の中ではまず無理だ。
何故って、太る要素がないから。余分な贅肉は自然と生きる森の民にとって恥だし、そもそも太るほど食べられるわけでもない。むしろ食べない。食が細いし、森の恵みを削らないよう、基本的にマナなどを吸収すればお腹はそこまで減らない。
ミルファはそれでも食べる方だったけれど、まさかわがままボディを形成するために必要な栄養素を取っていただけだったとは。
自然とともに生き、大地の恵みで作られたナチュラルボデーは、素晴らしいの一言だ。余分な贅肉がないくせに、出るところは出ているってやつ。
ムラートさんが僕に教えてくれた、ぼんきゅっぼん、ってやつなんだろう。今の僕になら、その素晴らしさがわかると思います。
「んっ……に、じゅうっ……っと! はぁっ……腕立て伏せ終わった~……! もー、腕立てするにも邪魔だから困る……!」
いえ、たいへんすばらしいものをみさせていただきました。
あ、ちなみに森の民の体形は、よっぽどのことが無い限り変わったりなどせぬようで。成長過程での恋や愛で体形が変わるほどだから、そうして成長したからには肥えるか痩せるか以外はないのだと。
つまりどれだけ削ろうとしようとも、彼女の実りが削がれることはないということ。
はい、それを削るなどとんでもない、と僕も思います。
「っ───」
木剣を手に、いつものように鍛錬を。
けれども鈍器殴打と両手剣術のお陰か、身体能力が大分上がっているようで、振るう剣に重さをまるで感じない。
ヒュボボボボと軽々と振るえる割に、剣に力を乗せることも簡単に出来てしまう。
「わー……速くなったね、テムくん」
「だよねっ……僕も、驚いてる……!」
弾む息を整えて、剣をひと振り。背の鞘にそれを納めると、軽く柔軟運動をしてからミルファの傍へ座る。
ミルファがすぐにぴとりと寄り添ってくれるけど、汗をかいているからちょっぴり、いや結構恥ずかしい。
「ミルファ、汗がつくよ?」
「気にしないよ? 人族と違って、嫌な匂いとか全然しないもん」
自然と生き、肉を食わない僕ら森の民は、その所為なのかはわからないけれど匂いはほぼしない。
香草のような匂いがする、とは、僕に剣術を教えてくれたムラートさんの言葉だ。だから自然に溶け込むような気配の断ち方が出来るし、エルフの狩りとしての武器に弓矢が選ばれるのもそういう理由。
「テムくんの剣捌きは祝福のお陰?」
「うん、それもあるけど───ほら、神官様、“この者に、大きく育つための祝福を。また、願う者からの継承を”って言ってたでしょ? それの、継承の部分が関係してるみたいで」
「継承って。お父さんとかお母さんから?」
「ううん、ほんのちょっぴりの関係だったのに、覚えててくれたらしい……僕の師匠から」
「師匠って……ビットロープさん?」
「うん」
ビットロープさん。つまりムラートさんだ。木剣だけじゃなくて、まさか祝福までくれるなんて。
そしてこんな風に祝福が届くっていうことは。
「……ビットロープさん、もう冒険者はやめた……のかな」
「たぶん。じゃなきゃ、大事な祝福を人に渡したりなんかしないよ」
言いつつ、祝福を覗いてみると、新しく“継承”の項目が増えていた。
▼継承/ギフト(元所持者:ムラート・ビットロープ)
錬氣
旅人生活
▽錬氣/レンキ(元伝承者:マスク・ド・コウム)
人体に存在する氣を操る能力。鍛錬で強くなる。
限界はほぼない。頑張って強化しよう。
▽旅人生活/タビビトセイカツ(マスタースキル)
体捌き、毒物耐性(麻痺等を含む)、植物知識、鉱物知識、薬知識、調合、調理、釣り、野宿、マッピング、魔物知識、罠知識など、旅人に必須な様々な祝福の複合能力。
これさえあればたとえ無一文でもとりあえず生きていける。
*マスタースキル:複合スキルの全ての熟練度をMAXにすると継承させることが可能。その際、自分の祝福が消えることはない
……あ、ムラートさんの中から祝福が消えたわけではないようだ。
でも錬氣にはマスタースキルの文字がついてないから、これは普通に消えてしまったらしい。マスター出来なかったってことか……限界はほぼないって、つまり極めようにも極められないってことかな?
あれ? でも伝承者たるマスク・ド・コウムさんはつまり……?
(……すごい人だったんだろうなぁ、マスク・ド・コウムさん)
まあそれはそれとして。もう一つある継承の項目に目を移す。
▼継承/ギフト(元所持者:カミーナ・ビットロープ)
療養のお手伝い
ひとつだけ言語理解
▽療養のお手伝い
呼吸の安定や体力の回復、または癒し系の祝福の効果が向上する。
*特殊マスタースキル:大神官が常に持つ祝福。他人に譲渡出来るのは変わらず、極めなくても消えない。代わりに継承出来る人数は限られる
▽ひとつだけ言語理解
様々な言葉、文字の意味がわかるようになる。
地味だが重要だったりする。
ただし、定めたたった一つの言語だけ理解できるようになるだけであり、一度使用するとこの祝福は消滅する。
*特殊マスタースキル:大神官が常に持つ祝福。
カミーナ・ビットロープ。たぶん、神官様の名前。
……ビットロープ。つまりはムラートさんの家族。ビットロープは村とかの名前じゃない、ってムラートさんに聞いたことがあるから……。
(ああ、そっか)
神官様が僕を見てやさしく笑ったのは、ムラートさんから聞いたことがあったから、なのかもしれない。
親なのか、それとも奥さんなのか。森の民でありエルフである僕らでは、時間の感覚が人族とは違っていて、どんな関係なのかは判断しづらいけれど……たぶん、ムラートさんのお母さんだ。
そういえば……いつかムラートさん、“俺なぁ……万年Fランクなのに、親がすっげー立場にあってよぅ。そりゃあもう苦労したもんだぜぇ?”なんて言ってたっけ。
親が大神官様。自分は万年Fランク。そりゃ、苦労するよね。
でも旅人生活っていう祝福をマスターしたんだ。ムラートさんはとてもすごい人だ。
いくら僕でも、複合型の祝福をマスターするのがとてもとても大変であることくらい知っている。
「………」
そんな祝福を僕なんかに継承させてくれたビットロープさん達には、本当に感謝しかない。
この祝福に敗けないくらい頑張らなきゃだ。
そうすれば、勇者の祝福なんて降りなかったけれど、冒険者になって困っている人を助けることくらいは出来る筈だから。
「自分の祝福って、どうして他の人には見せられないんだろう」
「頭の中に浮かんでくるからじゃないかなぁ。それを書き出したりすれば、全部わかるかもだけど。でもだめだよ? テムくん。自分の祝福の全てを誰かに教えるのは禁止されてるんだから」
「だね」
祝福の全容を誰かに教えることは禁止されている。
多少だったら許されるけど、全部を言うのはダメ。何故って、遠い昔に人の祝福を奪う祝福を持った存在が居たから。
“素晴らしい祝福を口にすれば、そいつがお前を食いにくるぞ”、とは誰もが子供の頃に親に聞かされるおとぎ話だ。
だから誰もが近い言葉を言うけれど、祝福そのものの名前を口にすることはない。祝福を降ろす際に神官様が口にする、“名と意味”っていうのはそれほど大事なものなんだ。
(頑張ろう。まずは氣から)
立ち上がって、氣、という祝福を思い浮かべると、閉じた瞳の裏にズラーっと文字が浮かんでくるイメージ。
そこには様々な説明が書いてあって、氣の鍛え方なんかもたくさんある。
読み書き出来ない人には文字の意味さえわからないソレだけど、僕には受け取ることが出来た。
何故って、この謎言語に“ひとつだけ言語理解”の祝福を使ったから。日本語っていうらしい。ていうかむしろ読めもしなかったのに扱っていたらしいムラートさんがすごい。
……扱えてたんだよね? 謎スキルだから僕に継承させた、とかじゃないよね?
「んん……フッ!」
剣を振るう。氣を載せると、体が思うように動かせるから、かなり気持ちがいい。ただしその分……速く動いた分だけ、反動がずしんと腕の筋とかに来るわけで。
「……なにかを思い切り振るおうとすると、なんでか声、出るよね。“んっ!”とか。出ないように気を付けてるんだけどなぁ」
苦笑を混ぜた僕の言葉に、ミルファがこてんと首を傾げながら、「出ちゃだめなの?」と訊いてくる。
もちろんだめです。理由を挙げてみれば、彼女は「あー……そっかそっかー……」と納得したようだった。
けど、じゃあ、思い切り振るうとか、重いものを持ちあげる、振るう、なんて状況じゃなければ───
「すぅ……ふぅ……」
息を整えて、氣の祝福と……エルフの血に流れる魔力を行使する。
エルフの祖は精霊だ。しかもドリアード様。魔力を糧に自然の力をお借りして、様々な奇跡を可能にする。
ただし今回の場合は奇跡を起こすのではなく、祝福に織り交ぜる。すると───
(ぅ……ゎぁ……!)
貰ったばかりで、どこか他人の力を借りている、という認識がどうしても外れなかった“祝福:氣”が、魔力と一緒に体の内側を走っていく感覚。
意識すれば自在に動かせるようになって、思わず“マスク・ド・コウムさん”に感謝を叫びたくなってしまう。
氣の項目にはそんな行使の仕方、応用の仕方まで書いてあった。すごい。
(ええっと、氣は一日の終わり、就寝前に必ず行使して枯渇させるべし? 尽きて空っぽになった部分に氣が戻る過程で、氣脈がほんの少しずつ広がっていきます、か……)
……あ。ちなみに溜めた氣を無理矢理広げて氣脈? を拡張しようとすると、地獄の苦しみを味わうそうです。
試しにこう……指先のー……氣脈? を、集中させた氣で広げるようにし───た途端、ミチリという嫌な音が内臓を伝って耳に届いてギャアァアアアアアア!!
……。
……先人ノ忠告、コレ、宝デス……!!
ソレヲ無視スル、トンデモナイ・シツレイ……!!
「テムくんテムくん? 涙と鼻水止まった? もう大丈夫? 痛くない?」
はいあのミルファさん? 今はその心配の仕方がものすごく胸に刺さりますんで、子供みたいに泣いた数分前をどうか忘れさせてください。
はぁあ……それにしても、氣脈拡張……こんなに痛いだなんて……! これは絶対に、氣の説明に関することは馬鹿丁寧に信頼していかなきゃ、僕自身が壊れそうだ。
(氣かぁ……)
文字は読めずとも、かじってみた人……相当ご苦労なさったかと思います。お疲れ様でした……本当に。
文字も読めずに間違った方法で使おうとして、今の痛みを経験したら絶対に“二度と使いたくないっすすいません”とか、誰に向かってしたいのかもわからないのに土下座したくなるレベルの痛みだった。
(これは、他に注意するべきことがないか、しっかりと読んでおかないと……! 鍛え方を一項目ずつ読んだ先から試して、後のページで“以上のことは絶対にやらないように”なんてことになったら目も当てられない……!)
なので読む。まずは読む。道は実践するよりまずすべてを知ること。はい、大事です。
(ええっとなになに……?)
ともあれ読んだ。生死に関わってたりしたら怖いし。氣ってよくわからないけど、いわゆるその、誰しもに存在する、練り上げる生命エネルギー? のようなものらしい。
生命エネルギー……つまり生きるための力? ……ヒィそりゃ使い方間違えればあんなに痛いわけだよ!
ででででもそれらを理解してきちんと使えるようになれば、とても強くなれる、らしい……!
(……あ、枯渇するまで使って眠るにしても、それをすることで寿命が減る、なんてことにはならないらしい。よかった……!)
……ざっと読んだ感じ、心配になるようなことは氣脈拡張には気をつけましょう、くらいだった。代わりにしつこいくらいに氣をつけましょうって書いてあるだけで。
あとは……? この人の……書きなぐり、みたいなもの?
【追記:アカシックレコードという祝福をもしも得たなら、史上最強最悪の祝福兵器になるのでいつでも継承出来るように準備しておきましょう】
……アカシックレコード?
あ。別項目が開けるみたいだ。
◆アカシックレコード
なんかどの異世界でも同じ名前をしている謎知識にして謎記録。誰が名付けてるんだろう。
空間知識、とも呼ばれていて、世界の始まりから終わりまでの知識や経験、現象などの情報が全て存在するのだとか。
過去に祝福として齎されたことがあり、使用した存在は情報量の多さに脳が爆発。国一つを丸々焦土にするとともに死亡した。
欲しい知識だけ得られるとでも思っていたのだろうか。
ちなみにそこに存在していた、全てを見ていた精霊の話では、断末魔は「蟻が! 始まりから終わりまでのすべての蟻の生涯が頭に流れ込んでくるー!」だったそうだ。
蟻の時点で限界で、残り全ての情報が未知エネルギーとして爆発したらしい。
犠牲が国ひとつで済んでよかった方である。おそらく処理しきれない分は世界に戻っていったのだろう。
……情報で爆発ってなんだよ。怖いよ。そりゃさ? 異世界ものの魔力とかってほんとなんなのってツッコミたくなるけどさ。
魔力で火が熾せる? うんすごい。じゃあ情報ってなに? ……あ。世界にあるものの始終がつまってるなら、そりゃあ魔力もあるか!
爆発するわそりゃ! 納得! すごい納得! ほんと国ひとつで済んでよかったわー!
なお現在、その国は死者の怨念が存在となって、魔王国になっていたりします。
元から他国全土を忌み嫌っていたような国だったので、なんにも変わっておりませんが。
「怖い!?」
情報で爆発ってなに!? いやっ……そりゃ、魔力で火を熾すとかも、言ってみれば謎だけど!
……アカシックレコードには今後一切触れないでおこう。
だ、大丈夫……だよね? ミルファが実は所持してる、とかないよね?
「テムくん?」
「ぁ……ミルファ。アカシックレコードって知ってる?」
「? あか……? ううん?」
知らない! セーフ!
お話としては、村にやってきたチート転生者の能力によって、ミルファが聖剣に変えられる~ってもの。
チート能力は“聖剣作成”で、よくある生贄式の強力武器を作る能力。何故かヒロインを的確に狙って生贄にする。不思議。
結局出来上がった聖剣を転生者が気に入らず、滅びた村と捨てられた聖剣だけが残されて、たまたま村に居なかったテムくんだけが無事だった復讐のお話……になるのだろうか。
聖剣は勇者以外が手にすれば輝きを失って、切れ味が悪くなる。そこで鈍器殴打が生きてくる、とかそんなもの。
バストラルフォースのお陰で意思を通してミルファと会話が出来ることを知ると、テムくんは……復讐をするのかただ生き延びるのかはその時のテムくんズハートに託します。
大筋は復讐が~とかというよりは、ミルファを元の姿に戻す方法を探す~ってお話になります。
ほんとねー、これだからねー、チート能力貰った日本人っていうのは自分のことばっかで、現地人への迷惑とか考えないからもー。不正の意味を流行りのチート、って言葉で正当化して、他人の迷惑考えずに俺が勇者だーって好き放題するの、イクナイ。そのくせ他人がズルすれば不正だ不正だーって叫びまくる。うーん、ゲスい。
なお、聖剣との想いが強ければ強いほど能力が上がる、なんておまけもあるので、テムくんと聖剣さんが好き合えば好き合うほど強くなる、新感覚型ラブロマンス冒険譚……でもないか。
他人を犠牲にして成り上がる系チート転生者じゃあどうあっても扱い切れやしません。