心が読める系のお話って家族のことで大体が暗いお話になりがちだから、なんかもう家族もオールハッピーラブラブファミリーなお話書きてぇ! って書き始めたけど大してノらなかった。
逸満(いつみ)って苗字を“それみた”って読むのはいつかやってみたいと思ってたことだったので、まあそれを果たせただけでも。
逸満琴香をそれみたことか! って読む的なものも、なんか奇面組っぽくていいと思う。
人の心が読める。そんな言葉を聞くと便利だなぁとか思うものだと思う。けれどそんなものは、見たり聞いたりする分だけって話で、実際に知ってしまえばとても面倒で辛いものだ。
まずは人を信頼出来なくなるし、人の汚さというものを嫌でも思い知らされる。
一番最初にそれを知れた相手が親ではなかったのは本当によかったと思う。
なんとなく親が考えていることが分かってしまったいつかから、最初は無邪気なままに望まれた通りのことをしてきた。それを人に伝えることなく、行動で示す。それがただ幸運といえば幸運だった。
口にしてしまったのは、引っ越してしまう友達に対して。
小学校低学年の頃に出来た、引っ越してしまうという友達に、人の心が読める、みたいなことをぼかして言った。その時の反応が“気持ち悪い”を前面に押し出したようなものだったから、すぐに“もちろん冗談だけど、顔を見るとなんとな~くしてほしいことが分かるんだ”なんてぼかした。
相手も「あ~、こころちゃん、人の行動とかなんとな~く予測してるみたいなところ、あるもんね」なんて笑って返してくれた。
それからは……人の心が読める、なんて言葉を口に出したりはしなかった。
世に人の心が読めてしまう主人公の漫画なんかが出れば、それを見てどんな人生を歩むかも知り、共感も出来てしまった。
多くの場合は理解者に出会って幸せになるけれど、じゃあ理解者が居ない者はどうなるんだ。そう思ってしまえば、人と深く付き合うのが怖くなっていた。
最初はいい。みんな眩しいくらいの真っ直ぐさで向き合ってくれる。けれどその関係に慣れてくると、やがてはドス黒い本性が見えてくる。
あるお話で、人の心は美しいと言っている聖女様を知る。
わたしは笑った。この人はなんておめでたいんだろう、と。
そんな美しさは限定的なもので、刹那的なものだ。いつまでも続かないし、欲望を煽られればすぐに消える。そしてその煽りというものは、誰かがそうしようと思ったわけでもないのに勝手に動いてしまうもので、煽られれば動く欲望によって、そんな美しさはあっさり消えてしまうのだ。
ただ、それでも押さえていられる人は……それだけで凄いのだと、理解した。
「はぁ……」
人の心が読めるという主人公サマの家族構成は、よく親が離婚している、なんてものがある。もしくは親族に引き取られた~とかか。
わたしの両親は……ラブラブだ。子のわたしが言うのもなんだけど、日に互いのことを思っていない時間がないくらいにラブラブだ。気づけばキスしてるし、愛を囁き合ってるし、仕事が休みの日なんて寝室に籠ってギシアンしてらっしゃる。
初めて聞いた話があったんだけど、というか勝手にその寝室から聞こえてきた心の声がそうさせたんだけど、父と母はお互いに子供が出来にくい体質らしい。お互いにそれを理解した上で付き合って、呆れるほどに愛し合いまくった結果、奇跡的に宿ったのがわたし、
父、逸満太郎。母、逸満琴香。
二人は二人の父や母も不妊治療で苦しんだらしく、早い段階で親に連れられ、検査したとか。そしたら二人とも子供が出来にくいことが判明して、これじゃあきっと結婚なんて出来ない……とかなり落ち込んだらしい。というのも子供の頃から温かな家庭を築くことが夢で、二人とも容姿がかなり整っていたこともあり、学生の頃から告白とかもかなりされたそうなんだけど、全部断ってきたって。
そんな二人がある高校で出会って、あくまで友達って方向で仲良くなって、まずお父さんが冗談……っていうか、話題半分で自分のことを話したのがきっかけで、“じゃあ……”って、同じ夢と悩みを抱える者同士で付き合うことになった、って。
でも蓋を開けてみれば、温かな家庭を作りたかったのは本当で、そんなお互い同士のいじらしさに間近で当てられて、お互い知らん男or女に告白されるのも辛いからって結んだ関係が少しずつ本物になっていって。お互いの両親にお互いの境遇を話したら、むしろ歓迎されたようだった。なにせ性格も良かったから打ち解けるのも早く、実際に聞くことなんてないと思っていた許嫁~とか婚約者~みたいな関係になったりして。
だったら、と。許可が出たのなら、と……高校の頃から……その、おセッセいたしまくったらしい。子供が“出来にくい”体質だというのなら、早い内から作り始めてはどうか、という話がたまたま上がって、二人がきちんと同意した上で。ああその、ええと、もちろん避妊具なんて付けず。
お体の相性もとてもよかったらしく、お互いの足りないものにお互いがピッタァァァァと嵌まり込むような性格同士だったこともあって、その関係はもう相当続いている。
そして……わたしが産まれたあとも暇さえ見つければアハンしている二人だけど、未だに新たな命は宿していない。わたしが産まれたのは本当に奇跡みたいな確率だったようだ。
「これが漫画とかだったら、某ヒーローものだったら、なるほどーなんて思えたのかもですけど」
父、逸満太郎。学生の頃の通り名、“いつ見ただろう”。
母、逸満琴香。結婚後の通り名、“それ見たことか”。
父は記憶力がかなり良く、見たことがあるものを忘れることがほとんどない。
母は既視感を覚えることが多く、注意するべきもの事への嫌な予感に鋭かったそうだ。
で……娘のわたしが心を読める、ですよ。
わたし、逸満こころ。通り名になるとしたら、“いつ見た心”。
あくまでなんとなーくそうじゃないか、嫌な予感がする、なんて両親とは違って、はっきり読めてしまうから困る。いえまあ、閉ざすことも出来るんですけどね、その場合相当周囲に無関心になってしまうため、わたしは今日もこうして学校に通いつつ、目立たぬよーに過ごしているのです。
読む力を開いてみれば、わちゃわちゃと頭に届く心、心、心。
頭が痛くなる、なんてことはなく、そこらへんはまあ、いいのだ。ただ、ほんと、人付き合いが億劫になる。めんどい。心の中では誘いたくないのに、笑顔でカラオケ行こぉ~ンォとか誘ってくるその善人ヅラした顔面を殴り抜いてやりたい。
いいからほっといてください、わたしは教室窓際いっちゃん後方というステキな席を手に入れられた猛者です。ここは主人公様席なるぞ! ええい散れ散れ!
なんて思ってはみても口にはしないわたしです。面倒なんて面倒なだけですもんね、名前の通り。
そんな、いっそぼっちになりたいのに放っておかれないわたしの最近の癒しといえば───
「………………(トンツクツクトントンツクトーン……)」
「!?」
隣の席の、武者錦勘三郎くんの心の中だったりする。
彼の心ももちろん読めるんだけど、これが不思議で……何故か彼の心の中に集中すると、頭の中に映像が浮かぶのだ。
ムシャニシキという凄まじい苗字と、勘三郎、なんていうこの令和においてつけられる名前とは到底思えない名前のインパクトもあって、この学校で、彼の顔は知らないけど名前は知っている、という生徒はたくさんいる。
しかし、うーん。これがコトゥーラさん(アニメ)であったような相手の心の中の世界、ってやつか。コトゥーラさん(琴浦さん)は心を読む女性が主人公のお話だけど、あれのアニメは衝撃だった。まさか声としてじゃなく映像として相手の心が読めるとか、凄まじいにもほどがある。
そしてあの鬱クラッシャーさんの造形は見事につきる。
謎の動きを見せながら、「キエェエエッ! ディエェエエッ!(ドキュゥウウンッ! バキューンバキューンバキューンバキューン)」と何故か奇声と銃声を高鳴らす荒野の用心棒ならぬ……ならぬ? ……例える言葉が見つからない。
……そんな彼の心を覗くのが、わたしの日々の楽しみだ。
彼に集中していれば、わたしは心穏やかに日々を過ごせる。
面白いことに、離れていても一定の距離ならば誰かの意識に集中したままで居られることを、彼のお陰で知れた。まあ、普通は試さないもの。
「………」
「………」
今日の映像は謎の生命体が謎の世界を旅する光景。
その世界で、冷めない夢を見るモチャラス男爵令息が、サイコロを振るったあとに何故か踊ってる光景が上映された。なんか歌付きで。
悪夢に狂わされるままに、何故か空を大空を飛んでったプレートアーマーの女騎士が、手斧を構えたままの姿勢で空の彼方まで飛んで行ったり、なんか雲を突き抜けた先で太陽が見えた、と思ったらまた雲を裂くように飛んで行って、その先で四魔貴族のビューネイさんと戦いだしたり。えと、うん。なんだろこれ。
ちなみに各キャラクターの名前はご丁寧に右下とかに出てきたりする。余計になんなんだこれ。
勘三郎少年は映像はもちろん、音楽も好きなので、気づけばこころさんも、知らなかった音楽を好きになったりアニメゲーム漫画小説を好きになったりとまあいろいろ心から変えられていくってお話。
なお別に恋愛には以降しない模様。趣味に興味があるのと恋愛はそれはそれで別なのだ。