凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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頭からっぽで書いたオリジナル


アナタガスキー

 世の中上手くいかねぇ。

 日々思うことの大半なんてそんなものじゃないだろうか。

 小学の頃に悪ガキやって親に叱られながら、ほどほどにセーブしつつ過ごしたいつか。

 中学の頃にちょっと真面目にやってみようと勉強してみて、問題解けて褒められたのが嬉しくて、勉強にハマったいつか。

 高校の頃に───いや、頃っつーか今だけど。

 

「つまりさ、好きな男の気持ちを確かめたくて男を試す女性って、高い確率 で後悔するよな~って話でさぁ」

「サイトーさん、今日も全開だな」

「なんでいきなり苗字!? いつも通りユーヤでいーって」

 

 高校二年の春。新しく二年になってしばらくした頃、幼馴染でイケメェン? で、オタク趣味の斎藤裕也は鼻息荒く、深夜枠の恋愛アニメについて熱く語っていた。

 運動勉強コミュにお洒落、なんでもござれなマジモンのイケメン男子である。

 話す相手を選ばぬ男。“ただしチャラ男は勘弁な”な、幼馴染だ。

 

「俺もアニメは嫌いじゃないけど、どうもユーヤみたいにこう……没入? っていうのか? 出来ないんだよな。や、正直アニメとかで感動して泣いてみたいとは常に思ってるんだぞ? アニメに限らずいろんなもので。でも泣けない。これが結構辛くてさぁ」

「子供の頃に辛い思いしてると、他人事で泣いたりすることが出来なくなる、とか聞いたことあるぞ? お前……なにかあったのか……!?」

「幼馴染のお前にそれ言われるって、なんかすっごい微妙だな。ねーよ。ひとつを除いて日々平穏に過ごせてると思う」

「おうそりゃ結構。しーくん悲しいとユーヤも悲しい」

「しーくん言うな」

「いーじゃん、俺とシドの仲だろ?」

「………」

「さっきのシドみたく、シドーさん、今日も全開だなとか言ってほしい?」

「やめてください」

 

 一ノ瀬祠堂(いちのせしどう)だから……シドー。雄である。

 親しい友人にはシドと呼ばれ、もう一人の幼馴染にはしーくんとか、時にはしーちゃんと呼ばれている。

 

「で、話ぃ戻すんだけどさ。シド的にどうよ? 女の子の属性とか」

「地水火風の女子とか怖ぇーよ」

「その属性じゃねぇよ。なんで四大属性JKの話になってんだよ」

 

 他のクラスメイトが居る教室でもよく通る声量。イケメンで、オタク。なかなか不思議な存在だと思う。

 ちなみにクラスにおける、よくありのカーストとかにもまったく興味がなく、「は? カースト? つるみたい奴とつるむのに、なんでそんなめんどっちぃもん気にしなきゃならんのアホくせぇ」と言える男だ。

 クラスのオタク友達もケッコー居る。ふとっちょ眼鏡でデュフフ笑いなんて典型的な男でも破顔一笑。こいつにかかれば友人だ。

 そして、逆にそういうヤツを見下してキモいとか言うヤツほど嫌いである。

 と、まあよくわからん言葉遊びで楽しんでいると、眼鏡をクイイと上げ下げしつつやってくる巨漢ひとり。

 

「でゅふっ、今のはなかなかに興味深い話題でしたぞ一ノ瀬殿! 地水火風女子高生……魔法学園系なら絶対にありそうな属性でござるな! あ、水属性は断然ポニーで」

 

 太っちょ眼鏡オタクの五十嵐太志(いがらしふとし)くんである。

 

「わかる! 水属性ってなんかポニーだよな!」

「そうか? ポニーテールってスポーティーな感じしないか? スポーツ、熱血、火、って連想しないか?」

「ぷふっくくくコポォ……!! まだまだ甘いでござるな一ノ瀬殿ォ……! 属性や相性で言うところの髪型とは、我々とは逸した一般常識的な枠では語れないのでござる……! や、まあ水属性は候補で言ったら、波立つようなウェーヴヘアーも外せない気持ちもあるのでござるが」

「じゃあ火属性女子って?」

「ツインテールかヴェ~ルルルィイショートでござるよ一ノ瀬殿!」

「……あ、なんかわかる」

「だろ!? あ、ロングでうるさい×3な外見幼女は火属性にカウントしないからな? 最初から色が決まってないのはなんか違う」

「そんなもん?」

「「そんなもん」」

 

 けどべつに他の属性に引っかかるようなものはないような。

 ていうかなんで普通に会話に混ざってんのフトシくん。や、別に嫌じゃないけど。

 

「けどさ、ベリーショートって地属性って感じもないか?」

「それは男の場合だな。渇いた大地の親愛なる殺し屋さまさん的なイメージで」

「それはヤシロさん違いでござるよ。で、風属性は水色の髪でこう……ショートっぽいウィングヘアー女子が拙者的には満点でござるなぁ」

「水色なのに水属性じゃないのか」

「しかしそうなると髪の色にもこだわりたいものでござるな」

「こだわるのもいいけど俺の机を囲んで話始めるのほんとやめれ」

「ぶひゅひゅッ……お嬢が来るまで一ノ瀬殿も退屈でござろう?」

「そーそー、姫来るまで俺達で暇潰そうぜ?」

 

 お嬢。姫。

 もう一人の幼馴染の、姫宮美由。

 ラノベなどでよくありの“学校一の美少女”で、俺の許嫁で、恋人である。

 

「いやー……ほんと、こういうラノベみたいなのを間近で体験できるとか笑えるよな!」

「一ノ瀬殿の近くは話題に事欠かぬでござるよブヒヒヒヒ!」

 

 言われてみて、想像する。

 

「ラノベかぁ……まあ、幼馴染で?」

「学校一の美少女で?」

「さらにはアイドルでござるからなぁ! でゅふふぅ!」

 

 きっちり言うなら、アイドルはもうやめている。

 小学から中学、高校一年までを活動期間として、美由……通称“みゅーちゃん”はアイドル活動などの一切をやめた。

 歌も上手いし人気もすごかったんだけどな。

 その理由も、両親がアイドルグループの社長の親友だったらしく、社長自らみゅーをスカウト。

 活動期間をしっかり設け、満了してもまだ続けたかったら続けるってかたちで契約。

 高校一年でそれは終了し、続けるか否かの質問を即答で“辞めます”と返した。

 その理由ってのが───

 

「しーくん!!」

 

 ……申し訳ないことなんですが、俺なんです。

 ずぱーんと教室の引き戸を開けて現れ───ることを予測されていたみゅーは、引き戸近くに席を持つ土井くんによって戸を開けられ、なんかフツーに入ってきた。

 

「おっ? お嬢来たな」

「ぶひぃいいいい! みゅーちゃんでござるぅううううっ!! アイドルやめても可愛いぃいいいっ!!」

「フトシくん、ドルオタだったっけ」

「いや、一度言ってみたかっただけでござる。空しいでござるね」

 

 フトシくんはアニ漫ラノベオタである。それは譲れないらしい。

 まあそれはそれとして、教室に入ってきた美由が目を爛々に輝かせて俺のもとへと早歩きでやってくる。

 ……ラノベならここらでヒロインの容姿が主人公視点で説明されます。しかし残念ながら俺はファッションとか髪型に明るくない。なんなのほんと、ラノベ主人公のあの髪型や服への知識量。

 しかし努力は嫌いじゃないので懸命に思い描いてみよう。

 あ、あー……髪型、黒髪ロング……なんだと思う。前髪はぱっつん。眉毛が軽く隠れるあたりで切り揃えていて、かんざしのような装飾がついた水色のカチューシャをつけている。目は綺麗な……あー、なんていったっけ。お、奥……二重? な感じ。結構ぱっちり目の、雰囲気おっとりさん。中身は暴走機関車。ヒューハドソン校でラグビーボール片手に駆け抜ける雄みたいな。

 

「しーくんしーくん!」

「おうおうどーしたみゅー坊」

「大好き!」

「おう」

「愛してる!」

「おう」

「結婚しよ!? 私が一生養ってあげるから!」

「18歳になった時、お前がまだ俺のことをそういう目で見れたらなー……」

「録音した!」

「おう。その方法でもう許嫁になったよな、俺達」

 

 “オープン愛してる”。それがこいつに贈られた称号。

 人の目とか気にしないで、日々俺に愛を囁く美由。……囁く? 叫ぶの間違いか?

 ちなみにとあるアホガールのようなアホで直情というわけではなく、勉強出来て運動出来て、家事もコミュもなんでもござれなのが美由である。その全ては俺のために磨いたと言って憚らない。

 周囲はこの高校で【アイドル・みゅー】を見た時、最初はユーヤにこそお似合いだーなんて言ってたもんだ。まあフツーはそう思うよ、俺だってそうかもって納得出来るし。

 でもなぁ。

 

「お嬢、相変わらずシドのこと好きすぎだなぁ」

「うん、心から愛してるから。あと誤解されるから近距離パワー型スタンドの一般的距離までは近づかないでね?」

「なんであえてジョジョで例えた」

「殴っちゃいそうだから」

「怖ぇよ!」

 

 美由の、他人に対する人当りはそう悪いもんじゃない。

 が、明らかに俺との差がある態度なので、耐性がないと結構痛かったりするらしい。

 オタ趣味も認めてくれるし人を選ばない笑顔にコロリといきそうになる奴は……まあ居るらしいのだが、俺のことが好きだと公言している分そのヘイトが俺に……向かってはこない。

 一時期そういうのもあったんだけど、美由とユーヤはすぐに自分らで解決してしまった。“お前ら息合いすぎじゃない? ほんと付き合ってないの?”と、もちろんそうやってからかった相手が居たりする。瞬殺だったけど。

 

「はははは、まーた斎藤と姫宮の夫婦漫才が始まった! お前らやっぱ付き合ってんじゃねーのー!?」

 

 ……そして懲りない男も、居るものである。スポゥツ刈りが良く似合う男、山田盛重(もりしげ)くん。

 彼は男女が仲良くするとすーぐツッコんできて、女子が恥ずかしがり、男がつっけんどんな態度を取ると、すかさず女に言い寄る、スポーツ刈りナンパ野郎と言われている男だ。やり方が陰湿だから結構嫌われているけど。それでもやり方を変えようとはしないのはある意味勇気なのかどうなのか。

 

「山田くん、前にも言ったけど私が好きなのはしーくんだから」

「んぇえ~っ? そぉんなに息ぴったりな掛け合いやっといてかよぉ~っ♪」

 

 うん、ねちっこい。

 他の、彼に絡まれたことのある女子にも、うわー……って目で見られているのに気づいていない。

 

「───」

 

 シド は そっとその場から逃げ出した!

 

「おっと待てぃ」

 

 しかし ユーヤ に まわりこまれた!

 

「ば、ばかおまえっ、この流れはアレだろっ……!」

「いっそ見せつけるようにもっとやっちまえ。具体的にはおまけに胸とか揉んでこい」

「お前俺にどれだけクラスチェンジしてこいっての!? 平凡一学生がどれだけランク上げればそんな勇者になれるんだよ!」

「なに言ってんだ、異世界転移したヤツでも歓楽街行って金払えばだれでも出来るぞ? 愛はねーけど」

「まっ……まさかのマジレス!(ユーヤ的な意味で)」

 

 常識的に考えて異世界転移前提なんて無理な話なのに、ユーヤとフトシくん相手だと普通だから困る。どこがマジレスだよとツッコミを入れようものなら、彼らの界隈だと答えよう。

 

「でゅふっ、拙者としては、さういふ行為には愛があってしかるべきだと思うで候」

「おう俺も同意見。つーわけでシド。いけ。揉んでこい」

 

 にこりと微笑み、ソッと逃げ出した。

 その手を掴まれ、振り向かされた途端、俺の唇は美由によって塞がれた。

 

「「「「や、やった!!」」」」

 

 ズキュゥウウーーーン!! とか擬音が鳴りそうな状況。そして俺は、“ヤバイ今日もやられる!”と思って咄嗟に彼女が密着しないために手を前に出していたわけで。

 ……もにゅりん、と。制服越しでもわかるやわらかさが、俺の両手を支配した。

 天は二物を与えた。左右で既に二物である。やわこい。

 やべぇ、と気持ち的に真っ青になった俺の眼前で、見開き、きゃらるんっと輝く潤みを帯びた瞳。

 キャアエッチィ、とか言ってビンタが飛ぶ? とんでもない。美由は離れるどころか一歩を踏み込み、密着し、キッスを続けた。

 

「ちょ、んゅーぶぶ!?」

 

 ちょっと待てお前、と言おうと開いた口に、すかさず舌が潜り込んできた。

 驚いて、喋ろうとして、舌が跳ねる度に、その舌に美由の舌が絡みついてくる。

 

「お、おわわ……!! いけ、揉んでこいとは言ったが、よもやここまで……!」

「サイトー殿……幼馴染同士のディープを見る気分というのは、どういった感想が出るものでござるか?」

「……めっちゃ居心地悪ぃ……。おめでとうって言いたいのに、なんか疎外感……!」

「背中押したのはサイトー殿ですからなぁ」

「……ところであっちで山盛りくんが固まってらっしゃるが」

「一年の時に似たようなことをやったのを知らぬか、嘘だと思っていたのでござろう。愚かなりクラウザー」

「ほんとなー。人の好いた惚れたなんて、他人の言葉よりも当人の言葉信じた方が手っ取り早いってのに。なぁんでわざわざ他人の言うこと信じるのか。アホだよなー」

「アホでござるなぁ」

「っ……んーだよ! カワイイ女に男が居る、なんていちいち信じてたら告白なんて出来ねぇだろうが!」

「あら聞こえてた? やっほぅ山盛りくん」

「山田盛重だ!! 山盛り言うな!」

 

 いやそれよりこっち助けて!? 美由が俺の背中にまで手ぇ伸ばして抱き締めてる所為で、手ぇ動かせないの関節的な意味で!

 腕ごと抱き締めてくるもんだから美由の胸揉んだままなの! やわこいの! ていうかこいつめっちゃ興奮してない!? 舌めっちゃ絡めてくる! 引っ込ますと顔を傾けて思いっきりアルティメットディープ決めてくるの! やめろこら! こういう口の合わせ方は人工呼吸の時にだなぁ!?

 やっ、やめっ……やめてください!? なんか気持ちよくなってきたから! なんならジュニアが……いやジュニアさん、胸触っちゃった辺りでご起立くださっちゃったけど!

 

「でもなぁいかんぞ山盛りくん。人の恋路、相性、幸福ってのはそいつらで決めるもんだ。好き合ってる相手に近づいて、“俺の方がキミを幸せに出来るー!”とかただのアホだぞ?」

「ざっけんな! もしほんとに幸せに出来たらどーすんだ!」

「まずそれ。“人の言葉にいちいち叫ばなきゃ返せない”。自分がやられて嬉しいか? 俺ならそんなヤツ、恋人どころか友人にだって欲しくねぇ。で、次。お前のなにで女の子ォ幸せに出来るよ。顔か? 金か? 話術か? 知識? 経験? 恨み? 憎しみ? 山手線? 小麦粉かなにか? ちくわぶ? いったいなにでそんな確信以って? そもそもお前、シドとお嬢のことどんだけ知っててそんなこと言えんの」

「どんだけ、って……」

「まぁ見た目は可愛いわな。頭だっていい。運動だって出来るしコミュもケッコー。んで? 好きな食べ物は? 好きなテレビは。どんなものが好きでどんな番組が好きで、どんな勉強が好きよ。お前の知ってるあいつの知識の、いったいなにであいつを喜ばせられるの」

「ゃ……それは……」

「ちなみに俺は知らん。べつにあいつのこと好きじゃねーし、あいつにゃシドとくっついてほしい。つーかシドじゃなきゃコントロールできねぇよ。そもそもシドの言うことしか聞きやしねぇ。あ、じゃあ質問だ。あいつがアイドル業やってた理由、知ってるか?」

「……親に言われたからだろ? 他に理由があるかよ」

「ざーんねん、違うんだなぁこれが」

「あぁ?」

「あいつね、シドとの婚約を実現させるために親に交換条件出して、頷かせたんだわ」

「は? …………は、は? はぁあああああああああっ!?」

「うひゃひゃひゃひゃ! 笑っちまうだろ!? 驚くよなっ! あっははははは! だからさっ、なっ!? やめとけって! あいつのシド好き、ほんと理屈がどーとかじゃねぇんだって! シドじゃなきゃダメだからシド好きになってんの!」

「ぇ……? マ、ジ……で? マジで!? だっ……みゅーちゃんデビューしたのって……えぇええっ!?」

 

 ……はい、実はマジです。

 街中でスカウトされて、スカウトマンが親父さんの友人の事務所の人で、一緒に居た親父さんの許可を得たはいいんだけど、美由が頷かなかった。

 その理由が……俺と離れるのが嫌だ、なんて理由だったわけで。

 親父さんは“俺の可愛い美由だからな! アイドルになるのは当然だな!”なんて喜んでたけど、まさかの親離れならぬ俺離れが嫌だ、なんて理由。

 親父さん泣きながら俺に言ってきたっけ。「……俺も、パパから離れるの、ヤ……とか言ってもらいたかったのに……!」って。結局シャッチョさん直々の勧誘というかたちで落ち着き、アイドルをやったってわけで。

 ……なんかもういいや、胸揉んどこう。そして感触を忘れないでおこう。

 俺も所詮雄です。健全な男子高校生です。むしろ婚約してます。18になったら強制結婚です。

 これ……俺、恋してるって言えるのかなぁ。

 いや、うん、可愛いよ? こんだけ好意をぶつけてきてるんですもの、好きにもなるし照れもします。前世の俺側から見たらィヤァッホォオゥって諸手突きを繰り出すくらいで……いや諸手は挙げろよ。なんで突くんだよ。

 でも、貰ってばっかで……ほら、その、漫画とかドラマとかでいう、きゅんきゅんする何かとかが思いっきりすっ飛ばされてる気がするの。

 …………ああ、おっきいなぁ。おっぱいがいっぱい。なんて思ってたら、どかーんと机に押し倒された。その上でキスもめっちゃされた。もとい、されてる。

 

「おわー! 姫が一ノ瀬殿を押し倒したでござるー!!」

「おわちょっ……お嬢!? お嬢ー! さすがにそれはやばい! なんだどーしたなにがあった! 今までそこまではしなかっただろお前!!」

「ぷあっ……! しーくん! しーくんしーくんしーくぅううん!!」

「ぷはっ……! うわわわちょっ、待っ! 揉んだのは悪かった! けど固定されてて腕が攣りそうだったから! 待て待て待て待て発情するな暴走するな服を脱ぐなぁあああっ!!」

「じゃーじょーぶじゃーじょぶ痛くしじゃーからみゅーさんゆーことききゃーせぇ……!」

「お前何処の人!?」

 

 姫宮美由。

 子供の頃からアイドルをして、勉強は教科書と向き合ってやっていた。

 ただし、保健体育は詳しく教えてくれる人はおらず。

 そういうことは、本当に好きな人とするんだよ、ばかりを教えられたため、まあその……オープン愛してる。

 

「やめろ馬鹿お嬢! そういうのは好きな人と、って言われてるだろーが!」

「何を言うのサイトーくん! 私ちゃんとしーくんのことを愛してるよ!? キサマには何が見える! 私には愛しいしーくんしか見えない!」

「着てくる下着も乙女の裸も好きな人以外に見せていーわけねーだろが! ってか雄々しいなおい! じゃなくてむしろ愛の営みを他人に見せる行為だって、そんなもんは愛じゃねぇ!」

「!! …………しーくん保健室!」

「行かんわぁあっ!!」

「じゃあ帰ろ!? わ、私の部屋っ! ねっ!?」

「“ね”じゃないが!?」

「えっ…………ほ、ホテル?」

「なんでそうなる!」

「あ、ここでCMでござる。web小説などでよく見られるNTR現場に設定されているラブホテルでござるが、言ってしまうと高校生でラブホテルに入るのは法律で禁止されているでござる。それはたとえ18歳になったとしても変わらず、“高校を卒業するまでは違反行為に値する”ので、ラブホテルに行きたい男女は高校卒業まで待つのがよいですぞ、でゅふふ。あ、もちろんそれより下でもアウトでござる。こういう知識、とっても大事。迂闊なことをしてしまっては、ラノベや漫画等で純愛の内容を貫いていたつもりが、実は法律を平気で破っていましたとかツッコまれることになりますぞ」

 

 説明ありがとうフトシくん! でもそれより助けてクラサイ!!

 

「じゃっ……じゃあ、えっと……しっ……しーくんの、部屋……!」

「むしろなんで一番最後に出てくるんだよ……」

「だ、だって……しーくんの痕跡だらけで、私……気絶しちゃうかも……!」

「よし俺の部屋で」

「もらってくれるの!? 私の初めて!」

「あぁあごめんそういう意味じゃなくてね!? 気絶してくれたら楽かなぁって!」

「きっ……気絶姦が趣味なんだ、しーくん……! じょっ……上級者さんだぁあ……!」

「違うからァァァァ!! なにその理解力!? いったいどうしたらそんな結論になるわけ!?」

 

 お願いだから話聞いて!? 聞いてるからこんなんなんですねごめんなさい!

 

「……で、あれ見てまーだ俺とお嬢のやりとりがーとか言えるか?」

「…………………………俺のアイドルが……!」

「アイドルやってるあいつなんて偽物もいーとこだぞー? あれがあいつの素だ。シドのことを口にしないお嬢なんてお嬢じゃねーよ」

「……なぁ。姫宮さん、なんで一ノ瀬のこと好きなんだ?」

「前世がどーとか言ってた。前世でひっどい死に別れをした恋人同士らしくてな? アホかーってツッコんでみたら、シドにもその記憶があるっていうからビビった」

「マジでかよ」

「問題出して答え合わせやってみたら、マジだったよ。問題ってのも、お嬢が出した問題で、子供がマジで答えられるようなもんじゃない系統」

「へ? じゃあなんだ? あの二人って精神年齢がやばい感じ?」

「そーいうのとも違うんだってさ。基本はやっぱあいつらがベースで、そこに二人の恋心とその時のその場その場の記憶がこびりついてるって感じ。よーするに好き合ってるけどあいつらはあいつらってわけ」

「…………ラノベかよ」

「そう思うだろ? 俺やお嬢がそっちに興味を持つ理由も納得してくれると嬉しい。なにかしら、そういうそのー……なに? 紐づけみてぇなのが欲しかったんだ。探してみりゃなんだい、見つかるのはラノベばっかじゃねーか。読み漁ったらスッカリハマっちまって、今ではフトシくんが友だ」

「ラノベ界隈ならお任せですぞ、でゅふふ」

「友って。こんなキモオタデブが?」

 

 山盛りくんが、フトシくんを見てうへぇって顔をする。

 違う、それは違うよ山盛りくん!

 

「お前さぁ、なにを以ってキモいとかオタクとか言うの。お前の常識だけだろそれ。俺やお嬢にしてみりゃお前の方がよっぽどキモいぞ? 相手のことろくに知らねぇのに俺のほうが幸せに出来るとか言うんだもん。キモいだろ。どこの自信過剰ナルシストさんだよお前。頭大丈夫? お前が将来どんな仕事に就くのか知らんけどさ、恋人出来ても都合のいいように利用することばっか考えてそうで、正直祝福とか出来そうにねーわ。だってお嬢のこと、どーせ恋人に出来たって元アイドルだーだので自慢するくらいしかしねーだろ?」

「なっ、あ、んぐっ……ぉぅぐ……!!」

 

 山盛りくんが消沈していく。が、頑張れ山盛りくん! ところで本名なんだっけ!?

 ってなんでお前は鼻息荒くまた襲い掛かってくるんだよ! もういいからそっちで大人しくしてろ!? な!? ……即答で嫌だと言われてしまった。

 

「じゃ、じゃあよ! じゃあなんで一ノ瀬ン奴はさっさとくっつかねぇんだよ!」

「お前みたいな奴がフサワシクナーイとか言ってつっかかってくるから。付き合ったらどーせ陰口叩きまくるだろお前」

「ふぐぉぅ!?」

「うおう、まさに痛恨なり、でござるな」

「中学の時さ、アイドルしながらでもガッコ通ってたんだけど、まーあああいろんなヤツに告白されたもんだよ。けどそのた~んびに“私はしーくんが好きだから”って断って、そのた~んびに“あんなヤツ!”とか言い出すのね、相手が」

「………………目に浮かぶようだよ。俺でも言うわ」

「だろうなぁ。で、んーなことが続けばアイドルなんてしたくもなくなるだろ? お嬢だって最初は結構乗り気だったんだぞ? 自分が有名になれば、シドも将来喜んで自分を貰ってくれる、なんて言うくらいには」

「うわあ…………結局一ノ瀬第一なのな……」

「そりゃそうだろ、シドのために契約したんだから」

「……それが理由でやめたのか」

「相応しくないってんなら、自分が一般人になればいいんでしょ? ってな。俺にしてみりゃアイドルだろうが学校一の美少女だろうが、人なんだから人を好きになったり惚れたりするだろ。他人が身勝手に言う“相応しくない”とか、頭イカレてるとしか思えんわ。誰が誰を好きになろうが勝手だろーがよ。なぁフトシくん」

「まったくですなぁ、人の恋路、青春ってものを他人がどうこう首突っ込むなど、そっちの方が常識知らずでござろう!」

「…………まともなこと、言うんだな、案外」

「ぬむ? 当然ですぞ山田殿。人としての一般的な考えでござろう? いくら拙者がアニメやラノベ好きだからとはいえ、その程度の常識なぞ持っているに決まっているでござる。人は、好き合っている者同士が結ばれるべきでござるよ。自分じゃ釣り合わないだの勝手に考えて身を引く者や、友情を優先して自分も好きなくせに自分を好きな人をフる者など、クズでカスでゴミでござる。好き合う者同士なのに、親友がそいつを好きだから、で身を引くとか愚かしいにも程がござろう? そういったレベルで俺の方が幸せに出来るとかぬかすタコも、中身の無いゴミクズ以下でござるよ。だって相手の外見や評価にしか目が行っておらず、内面をこれっぽっちも見ようとせぬのでござるから」

「…………」

「山田さぁ。そうやって自分の物差しで好き勝手に人を自分より下に見るの、やめたほうがいいぞ? なにお前、常識の神にでもなりたいの? 一応イケメンとか言われて女性との付き合いもあるっちゃある俺からの助言だ。そうやって他人を扱き下ろすことで自分をよく見せようとする男は、まず女にゃモテん。それも、そいつが惚れているタイプの女性からはむしろ嫌われる」

「なっ……なんでそんなことがわかるんだよ!」

「あーもう……だーかーらーなぁ……? 言う前に、な? 考えてみろっての。いいか? ちゃんと考えろよ? イメージしろよ? なんでも“はぁ? わけわかんないんだけど”で済まそうとするなよ? それ、相手の話をこれっぽっちも真面目に聞いてないし理解してない、しようともしてない奴が口にする言葉で、会話する価値もないクズの言葉だって覚えとけ。……あのさ、他人を扱き下ろしている男の傍で、一緒に笑ってくれる女性。……お前がタイプだと思う女性と一つでも一致してる部分、あるか? あ、顔だけ~とかは勘弁な?」

「……………………───!」

「醜い、高笑いが似合ってそうな極悪女しか浮かばなかったろ? そーゆーこった。まずは自分のタイプの女性に好かれる自分を目指せ。ハッキリ言うとお前みたいな性格の男はチャラ男やって、チャラ女引っ掛けてなんとなーく付き合うくらいしか絶対に出来ん。もしくは気弱そうな子を強引にとか」

「ちくしょう俺お前嫌いだ!!」

「他人見下して自分を良く見せるクズになる前に、いい男になる努力しろーって言ってるだけなのに。ひっでぇ言い方」

「常識とか正論がいつだって正しいだなんて思ってんじゃねぇよ! お、俺にだって言い分が───!」

「え? マジ? お前が振りかざす常識でお嬢のこと幸せに出来るの? それお嬢洗脳して、扱き下ろされた人間を見下して高笑いするようなゲス女にしなきゃ無理だろ。んで、それお前の好きなお嬢なの?」

「チクショウ俺お前嫌いだ!!」

「うんさっき聞いた」

 

 山盛りくんがユーヤのこと嫌いなのはわかったから! こっちのことなんとかしてくれません!?

 ていうかなんでこいつこんな力強いの!? 今この一瞬を閃光のように生きているが如くすげぇ力なんですけど!?

 

「シドもさぁ、もういい加減受け入れろって。なにが嫌なんだよ」

「前にも言っただろーがァァァァ! 俺はピュアなお付き合いをしたいの! 二人きりになったらいきなりキスして押し倒してくるような激烈ラブとかノーサンキューなの! イヤァァァァ! ラブレターのらの字も交換日記のこの字も知らないで犯されるのは嫌ァァァァ!!」

「交換日記って。ピュアだなぁお前。相手お嬢だぞ? ほぼ一緒に居て交換日記もなにもあるかよ」

 

 呆れた声でユーヤが言う。然り、とフトシくんも頷くわけだけど待ったを唱える! 異を唱える! 否であると声高らかに!

 

「ばっかやろお前! 出来事は共有しても内心はわからないだろうが! その時に僕はタスケテと思いました! とかどういった瞬間に考えたかーとか! とりあえず俺は今すぐ助けてほしいです! わかりやすいですか!?」

「あー、ほらほらお嬢ー? 男を押し倒して股間と胸に手ェ伸ばすのはやめなさい。お前どこのスケベ親父だよ」

「? 男女で愛を確かめる場合、まずはこうしろって恋愛の達人“ナッツ・ハァネガー氏”が……!」

「誰だよ。あとそれ恋愛の域飛び越えてるから」

「恋して愛してる。恋愛!」

「お嬢ってたまにドがつくほどドアホゥだよな」

「サイトーさん頭だいじょぶ? 恋はマトモな感情じゃ出来ないものなんだよ? 一人の人のために自分の、一生に一度しかない時間をめったくそぶつけるんだよ? 正常な自分のままでなんて出来るわけがないじゃん。恋とは、愛とは己の全てを懸けた、意中の相手との戦争だと、“ユグゲラ・ハイゲロ・ビシャルド”さんも言ってたし」

「無駄に正論だから腹立つ……! あと誰だよユグゲラさん」

 

 ユーヤ頑張って!? もうちょっと頑張って!? 俺も渾身の力を以って頑張るから! ていうか女子に腕力で勝てないとかほんと泣ける! 鍛えよう俺! 俺これからもっと頑張るよ! ていうかこれでも結構力はあるほうだとか思ってたのに、体勢によるものがあるとしても悔しい! でも負けちゃう!

 

「あ、ちなみにしーくん? わたしがやってるのって渋川流柔術的なアレだから、腕力じゃ勝てないよ?」

「ちくしょぉおおおおおっ!!」

 

 それでも押し退けようとして突き出した手に、美由は目を光らせて先に動いた。結果が、彼女の胸をもにゅんと触ることだったわけで。

 

「ふにゅっ!」

「キャーッ!?」

「いやシド、キャーってお前」

「んっ……しーくんってばなんて大胆な……! これはもう今すぐお嫁にもらってもらうしか……!」

「シド……」

「待ってユーヤ待ってくれ! そんな呆れた目で俺を見ないでー! 人前で女の子の胸触るってのがどれほど世間的にアレか男なら分かるだろ!? ていうかこいつの胸を自分の意思で触るってことがどういう意味かオワーッ!!」

「しーくんしーくん! しーくーん!!」

「イヤァァァやめてぇえええ! 脱がさないで脱がさないでぇえええっ!!」

 

 抵抗した。無駄だった。俺が弱いんじゃない、恋に生きるおなごが強すぎるのだ。ていうか火事場の馬鹿力並みに力が強いですどうなってんですか助けてください。あ、柔術でしたねちくしょう!

 

「おら席に着け―、歴史の時間だ授業始めっぞー」

 

 ぁぁああああ先生! 先生ー! たぁあすけてェーッ! 歴史の先生のあなたの前で今まさに保健体育の授業が実践されそうなんです! お、俺の前世が解放を求めている! 違うんだ! 俺、こんなラブがしたくてこいつを好きになったんじゃない! もっとこう……ピュアなラブが……ね!? ってどこまで奥手だ我が前世! 据え膳は食さなくては男が廃りますことよ!? あ、言っておくけどきちんと自分が大好きな据え膳に限るけどね!? 浮気者は死ね! 滅べ! 朽ちるべきである! あ、俺この娘のこと大好きだったわ。でも過程が欲しいんですわかりますか!?

 前世で女侍らせていたクズはそりゃあ居たよ! 婚約者にトチュリと刺されて死んでたアプファルくんとかね! むしろご近所さんに“いつかは刺されてると思っていたけど……ええ、まるで悪夢のような出来事だったンヮ?”とか世界仰天ニュースの女性和訳チックな語尾で言われるくらいのクズさだったわ! 様々な女性が女の敵だの刺されて当然のクズだの言って、外道の証拠の限りを提示したら、刺した女性が無罪とはいかないまでもめっちゃ減刑されるくらいのクズだったわ!

 とか心の中で絶叫していたら、俺の魂の叫びが聞こえたのか厳つい顔の歴史教師の五反田先生が俺の方を見た。……見て、ぎょっとした。

 

「すぇ~んすぇ~い! 教室の一部が卑猥っつーかただれてるんですけど、注意してくださいよー!」

 

 そこへすかさず山盛りくんの告げ口攻撃! すげぇ! あれだけ言われてまだそんな元気が! た、対するセンセーの反応は!?

 

「な~に言ってんだ、卑猥だろうがただれてよーが、親御さんの期待を裏切らんほど勉強出来てりゃ問題ねーよ。あのな、大人は“学生の本文は勉強だー”とか言うけどな、お前らみんな呆れるか聞く耳持たねぇだろ? けど想像してみろコノヤロー。たっけぇ学費払ってな? 子供がこのコーコーがいいっつーから応援してやってな? なのにいざガッコー入学してみりゃどーだい、勉強もせず遊んでばっかのタコどもば~っか。なにお前ら、親に金出させておいて親の望みをこれっぽっちも叶えないで、なんでそんな毎日楽しそうに人をいじることにばっか目ぇ光らせてんの? あのな、ほんとな、先生ぶっちゃけちゃうけどな、ガッコの先生や校長教頭理事長からしてみりゃな、親にたっけぇ金出させといて、ご入学して勉強もせず問題ばっか起こしてるやつらって真正のアホだぞマジで。ワー、俺、私、このコーコーが良ィ~ンゥィ! とか言って金だけ支払わせて、親は子供が言うんなら~とか、この学校でならきっといろいろ学んでくれる~とか思って通わせるのに、なんでお前らちっとも率先して勉強とかしねーの? そんで炊事洗濯掃除とか親に任せて? こづかいまでせびるヤツも居て? あまつさえ弁当も? 頭おかしいんじゃないんですかアナタ方。……えーはい、っつーわけで、卑猥だろうがただれてよーが不純じゃなけりゃどーでもいいわ。不純じゃねーならちゃんと愛し合え、ンで18になったら式もあげずにしっかり結婚して互いのためにしっかり学んでしっかり卒業して、将来に見合ったしっかりした大学行ってしっかり学んでしっかり卒業して仕事始めて、そっから親に返せるもん返していきやがれコノヤロー。歴史教師ナメんなよコラ」

「…………えっと」

 

 告げ口したら、なんかマジに返されて困惑する山盛りくんの図である。

 

「あのな。教育委員会がどーとか生徒からの面倒ばっか運ばれるのがガッコーってもんだけどな。毎度毎度親御さんがカワイソーでなんねーよ。お前らは今よりちっとでもいいから、“たけー金出させて自分が望んだ場所に通ってること”を自覚しろ。勉強がだるい? 授業がめんどくさい? んじゃあとっとと辞めて働けタコ。そんで入学に必要だった金や、そこに入るために必要な身支度の金、その他もろもろしっかり返していけ。どんだけかかるか知らんけどな。それが嫌なら親の迷惑にならん場所で遊びほうけて朽ちていけ。てかな、自分に子供が出来た時のこと考えてみろ、お前らは子供に遊ばせるために入学金や授業料もろもろを払うのか? 自分にも仕事があって、付き合いもあって、やりたいこと遊びたいこと、妻や夫とまだまだしたいこと、二人で笑いたいこと楽しみたいこともあるだろーよ。そんな中で炊事洗濯掃除して、おべんとも作って、お金ちょーだ~ンゥィとか言われつつ用途を聞いて、それならって納得して、余分な金はないのにポケットマネーから削ったりしてな? それがある日突然、お宅の子供がガッコで問題行為ばっか起こしてますー、なんて言われてみろ。あのな、マジな、セッキョーとかじゃなく、人としての助言だ。勉強はやっとけ。きちんと運動しろ。選んで入った、ここしかなかったって理由でもお前らが望んだ“まなびや”なんだぞここは。順位とか気にするこたぁねぇよ、でも全力で学べ。親がせめてこれくらいはって願う最低限は、ああ、通わせてよかったって想わせてやれ。それさえ出来ないなら、お前らなんでここに入ろうって思ったの? って話だ。はい以上。とっとと席につけー」

 

 怒涛の言葉の群れが放たれて、力が抜けた美由の手から逃れ、席についた。

 そして始まる授業。……声を発する者はおらず、皆が皆、真面目に授業を受けましたとさ。だってある意味歴史というか、社会を教わったっていうか。ええっとあのー……胸が痛い……! ごめん、父さん母さん、俺、もっと頑張るよ……!

 などと様々な人が思いつつ、授業も終わっての休み時間。スマホを取り出し、「でもあれはちょっと言い過ぎだよね~♪」とかジョワジョワ騒ぎ出した女子連中が、高校、入学金、などと検索してしまったらしく───「ひっ……」とこぼし、黙った。それから「ま、まあ他の高校が高すぎるだけだし! どーせこの高校はさー!」とか言い出してこの高校のHPを検索───おいやめろ───と止める間もなく「エァッ……!?」と絶句。しばしの沈黙ののち、示し合わせたわけでもねーのに女子連中は無言で教科書とノートを取り出し、自習を始める。

 ……うん、安くねーのよマジで。俺もこの前調べてみてめっちゃ驚いた。え? こんな金ウチにあったの!? って学生の身分じゃ思うくらいに高い。他の高校はどーだい? はは、この高校めちゃくそたけーぞマジで。カーストだのいじり問題だのしてる暇なんてございません。そんなくだらねーことで自分の子を登校拒否まで追い詰められたら、追い詰めるきっかけになったヤツに、かかった費用の全てを働いて返させたいくらいに。ていうか相手の親にどういう育て方してんだぶち殺すぞコラとか言いたくなるくらいに。

 

……。

 

「けどさ、まさか教師に学生結婚推奨されるとは思わなかったよな」

 

 昼休み。ユーヤが苦笑とともにそう言うと、俺は即座に頷いた。

 

「だな。や、結婚は全然いいんだ。むしろ親からは18になったら結婚しろって言われてる。俺もそう思ってるし。子供は急がんでいいから、結婚したことを意識しながら大学行って、のちに社会人を気の済むまでやって、それから“そろそろかな”って思ったら子供を、って」

「へー、理解のある親だなぁ。あ、これ一度言ってみたかったんだ。式には呼んでくれよ? っへへー」

「や、式はしないぞ? 血族総員の意思で」

「え? …………マジで?」

「おう。俺も美由も式になんぞ興味ないし、ンなもんに金使うくらいならお互いのためになるものを揃える」

「へー……なんか学生の時分の方が、そういう式には憧れてるもんかと思ってたけど」

「あー……べつに常日頃から、言いたい感謝とかは親とか祖父母にも言ってるからなぁ俺と美由。前世がひどかった分、家族大事にしてるんだよ、めっちゃ。んで、お互いの両親がさ、式にろくな思い出がないんだと。呼んでもねぇ共通の知り合いがやってきて、式を台無しにしたとかでさ。あんな最悪なものに高けぇー金出すくらいなら、互いの幸せのためになるものを買いなさい、だとさ。祖父母もめっちゃ頷くんだもん、そりゃしたくもなくなるよ」

「えー……なにがあったんだよほんと……」

「ビデオ見せてもらったけど、まあ…………ひどかった。俺も美由も、それで式に憧れなんてものを抱くことはなくなった。両親の知り合いとかも、式、ひでぇ、って共通認識っぽくてさ」

「うーわー……」

 

 なので式はあげない。知人友人を呼びたくもない。むしろ山盛りくんとか仕出かしそう。ユーヤもそう思ったのか、ちらり……と山盛りくんを眺め見た。

 ちなみに美由は既に俺の隣に椅子を持参してきて、寄り添うようにというかむしろ腕に抱き着いてゴロニャーゴさんやってる。腕にこしこし女性のほっぺの感触。こしょばゆい。

 

「あー……ところでさ。そういうそのー……前世? がある場合、今世(こんぜ)はこういうことしたい! っていうのはないのか?」

「交換日記とかしてみたい」

「お前真顔でそんな……」

「いや、交換日記に限らず、こう……のんびりした恋愛をしてみたいっていうか。一歩一歩噛み締めるみたいに、寄り添うような恋愛をしてみたいんだ」

「お前それ全部オープン愛してるに潰されてるじゃないか」

「うん。儚い夢だったよ……」

「ああうん、もう自覚してるのなぃやそりゃ自覚するか」

 

 喋ってる途中で理解に辿り着いたのか、間も置かずにユーヤは頷いた。

 こうやって黙って寄り添ってくれる分には本当に愛しい存在なのに、発情すると手がつけられないから困ったもので。

 

「あーでも、ゆるやかな恋愛って相手側は求めてないとかよくあるよな。好きだから触れて欲しいのに、相手が草食男子すぎて~とか」

「美由ほど肉食だと、草食なんて食われるだけだぞ? サバイバルしてる人が食べられる野草を躊躇なく食すみたいに」

「簡単にイメージ出来て困る」




そして続かない。
ほんと無駄に書いては途中でやめてばっかなので、短すぎるものでも何点かあるけど、それに一話使うのもったいないからそれはUPしないでGOします。
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