凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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 寄り道北郷さん。
 今回はウマ娘です。


赤兎馬に名前はありますか?

 

 ───最初に、衝動があった。

 走りたいという衝動と、勝ちたいという衝動。

 それは成長する毎に強くこの身を焦がし、抑えようとしてもまるで、これっぽっちも納まることを知らない。

 だから、走るための力を、勝つための力を磨いた。

 どんなものにも、何者にも負けぬ力を、速さを、体を。

 

 誰かが知人と楽し気に話す横で、ひたすらに力を求めた。

 誰かが家族と嬉し気に笑う横で、ひたすらに速を求めた。

 誰かが級友と賢し気に悩む横で、ひたすらに知を求めた。

 

 そうして己の出せる全てを以って、見知らぬ果てを願うが如く、ひたすらに。

 誰が敵かも分からぬ戦。誰に勝てばいいのかも分からぬ戦。

 されど走るのならば、いずれは誰かとぶつかるのだ。

 走り競い影をも踏まさず。

 選抜レースのゴールを大差で駆け抜け、メイクデビューを余裕で勝利。

 

 ジュニア期から始まる全ての時期に、出走出来る全てのレースにアルティメットヘヴィーローテで挑み、その全てを大差で勝利、レコードを刻み、勝利し続けた。

 レースの日程が同日でも、時間が重ならないのであれば走り、掲示板にレコードの文字を刻む。

 クラシック級になれば、一応は出られるシニアレースにも出走。ともかく出られる全てにおいて己という名のレコードを刻み、それでも治まらぬ衝動のままに走り続けた。

 芝だろうとダートだろうと、短距離だろうとマイルだろうと中距離だろうと長距離だろうと知ったことじゃない。

 国内国外問わずに走り、駆け、疾走し、大逃げどころか破滅逃げともとれる走り方で、一度たりとも垂れたりせず、どころか一歩ずつに歩幅も速度も上げ、名を刻み時計を刻み。

 

 やがて出られた全てのレースに己を刻んだ頃───その衝動は、治まった。

 当然だ、もはや自分が駆け、刻んだレコードこそが力の証明。

 それを抜かれぬ限り、自分より強い者など───“勝ちたい”と思う相手など居ないのだ。

 それが分かってしまった途端、衝動は消えた。

 そうして残ったのは───

 

「走っただけで中等部の青春終わったァアアアーーーッ!! 俺の馬鹿ぁああーーーっ!!」

 

 ウマ娘という存在になり、衝動に人格を乗っ取られたみたいに中等部時代を駆け抜け、気づけば高等部になっていた北郷だった。やだもう泣きたい……!

 

 

───……。

 

 

 物心ついた頃から走りたいって衝動と、勝ちたいって衝動が人一倍……いやたぶん、十倍くらいは強かったんじゃないだろうか。

 そんな俺こと北郷一刀……この世界での名前は赤兎(あかさぎ)一刀(かたな)だった俺だけど、ある程度成長して走れるほどに体が出来上がってくると、その衝動はさらに膨れ上がった。人としての名前に、さらにセキトアブミって名前がつけられると、もう自分でも抑えられないほどに。

 や、赤兎馬って言われても。俺の知ってる赤兎馬っていうかセキトって犬だったんですけど。あ、普通の赤兎馬の話ですか? それだとむしろ麒麟とかそっちの馬たちとの関係の方が強かった気がするんですけど……あ、それもまた別の話? セキトアブミって名前だし、あくまで乗る者ではない、って意思が示してるっぽいのもなんとなーく感じるんだけどね。

 

 と、まあともかくとして、衝動に勝てなかったので、ならばその衝動にこそ乗ってやろうと、知り得る技術の全てを以って体を鍛え、走りましたとも。

 ウマ娘になったからといって能力が初期化された~とかはなかったようだから、そこにプラスしてウマ娘の体を十全に操れるようにと。

 そうして呼吸法から氣に関するもの、技術などをウマ娘の体に最適化していったのだ。幸いにして、誰を追い抜こうとも衝動は消えず、誰に勝てば満たされるのかも分からなかったから、思う存分鍛えることが出来ました。

 そうやって、【我、頓に争力せむ*1、って衝動の赴くままな態度と本能を剥き出しにしてたら───世界の頂点、握っておりましたとさ……。

 

「………………エッ!?」

 

 ハッと気づいたらウマ娘の頂点に立っていた気分はどうですか? 衝動とか本能とか、キレイサッパリ無くなってるんです。色とりどりの紙吹雪が舞う大観衆の前のターフに立ち、右拳を天に掲げて【我が生涯に一片の悔い無し】みたいな格好してるんです。

 内側から覗いていた景色に、いきなり引きずり出された気分だった。だって、これをすればこう鍛えられる~ってアドバイス的思考は出来ても、衝動や本能には勝てなかったんだもの。このままこの世界では眺めてるだけかな~なんて思ってたら、突然衝動が消えて、天に拳を掲げる北郷ですよ。なんだこれ。

 

「───もしかして……満足できたのか? そっか、よかった。勝ちたいって衝動はあっても、どこか辛そうだったもんなぁお前。あ、今は俺か。いいよ、ああ、ゆっくり休めばいい。そうやって思いっ切り休んだら、走るばっかじゃ、勝つばっかりじゃない世界も……一緒に楽しんでいこうな。はは、まあまずはこれからの……ん? これから? これから……ア。アーーーッ!!」

 

  そして自由が戻ったかと思えば

 

  いきなりのぶっつけ本番ウイニングライヴで

 

  うまぴょい伝説を歌って踊らなければならない現実……ッッ!

 

 逃げ出していいですかダメですよね世界の頂点ウマ娘ですもんねドチクショウ!!

 

  ドゥーッテーッテレレテーッテレテーッテテー♪(う~~~っ! うまだっち!)

  ドゥーッテーッテレレテーッテレテー♪(う~~~っ! うまぴょい♪ うまぴょい♪)

 

 ええもちろん歌って踊りましたさ! 数え役萬☆姉妹を指導してたいつかにプラスして、様々な身体能力を向上させ続けて来た北郷を甘くみないでいただきたい!

 ていうかこの体に既に深くライヴのダンスとか歌とかが沁み込むほどに刻まれているっぽく、ミスもなく華麗に美麗に優雅にそして力強く踊れたよ! すごかったよなんか悔しいけど! アハハハハOKOK道化にでもなんでもなってやるよ! 見ろ観ろ魅ろ視ろ笑うがいいさこんな俺を! とんだピエロだよ!

 ふはははーっ! スゴイぞー! カッワいいぞー! 歌声に氣を乗せてみれば、観客の皆様が感動に打ち震えるほどの美声が出たほどだよ! でも内心は顔から火が出そうになるくらい恥ずかしかったですいっそ殺せ! もう皆様ワーキャー感激しまくりでしたよウワッハハハ殺せ殺せー! いっそ殺せー!

 ほーれほれ両手でするうっとり投げキッスだって真心と氣と呼吸とか俺の持つ全てを以ってしてくれるわー! わたしだけにチューゥするー! ……してんの俺じゃん! あれ!? なんかヘンだぞこれ! フリツケと歌詞が合ってない! ええい構うかこれがうまぴょい伝説なんだから今さらだ今さら!

 つまり俺は心構えを以ってこれを歌って踊り尽くさなきゃいけないってことだろ!?

 心構え───そう、つまり───!!

 

   我は【走】を極めし者……!

 

   目に映るもの凡て、虹の彼方送りにせずにおれん!

 

   滅ッッ!!*2

 

 さーて観客たちよ! キミたちに質問だ! キミの愛バが、って、キミたちにとって、俺って愛バなんですか!? 大差で勝ちすぎてヤベーウマ娘とかじゃなかったんですか!? どーせセキトが勝つよ……とかほぼ全てのレースで思いませんでした!? の割になんかやたらと人気あるよね俺! なんで!? 海外レース蹂躙したあたりからなんか一気に人気が爆発した気がするけど! でもべつに俺ウマ娘になりたかったわけじゃないんですよ!?

 魏の種馬とか言われてた俺にウマ娘とか嫌がらせかチクショー!! ライヴ終わりなんて恥ずかしくて涙出まくったわ!

 『セキトさんが泣いてる!?』『あのセキトさんが!?』『嘘! 頂に登るまでの全ては過程でしかないって冷たく言い放ったあのセキトさんが!?』などなど散々な言われようだったけど、それが恥ずかしさからの涙だったなどと、誰も夢にも思うまい……。

 

 あーうんとにかくね、もうね、うん。もうレースに出ることはない、みたいなことを言って引退したよ。だって敵が居ないんだもの。走らせたいならレコード破ってくださいって言って、今はただの学生やってます。

 学生っていうか……えーとこれどうなんだ? 一応高等部扱いではあるんだろうけど、もうこのトレセン学園で学ぶことないんだよ俺……。

 そんなことをたづなさんややよいに相談したら、この学園で教官を務めてほしい、とかなんとか。あ、一応卒業扱いでも学生のままでも、ここに席を置いてくれるならなんでもいいんだって。教官をしてくれるなら学生扱いだろうと給料は支払ってくれるとか。……いや、金なら学生の身分ながら、腐るほどあるのだが。

 何故って? そりゃあ───

 

  ───世界の頂点

 

  ───唯一抜きん出て並ぶことなく頂点に到った王

 

  ───全てにおいて【伝説】(エクリプス)を越え、覆い隠した者の名。

     【トータルエクリプス】

 

  ───ウマ娘の中のウマ娘

 

  ───生涯無敗の全冠ウマ娘

 

 などなどの異名と一緒に金はたんまり稼いだから。

 ……あー、あと王と書いてマオウっていうのもあったっけ。頑張ったヤツに対して魔王みたいな呼ばわりはひどくないだろうか。いや、そういう意味で言ったんじゃないにしても、なんかそう聞こえる。あとマオウマオウ言ってると、どうしても真桜思い出すからそれで呼ばないでほしい。

 エクリプスっていう馬自体が日蝕の日に産まれたからエクリプスって名付けられたらしいけど、それを覆うって意味で【皆既日蝕】(トータルエクリプス)とか名付けられても、正直やめてくださいとしか言えない。

 

「でも……衝動が無くなったってことは、好きなことが出来るってことだよな」

 

 うん、と頷く。

 衝動と本能に操られてた~みたいなところはあったものの、体の自由を託された瞬間、この身にあったのは“満足感”だった。もう自分はやりきったから、といった感じで、それも俺の知識のお陰だから、あとは好きにしてくれ~って感じだったのを覚えてる。

 そんなだから思い付いたのが─── 

 

「用務員とか、どうだろうか」

 

 だったわけで。トレセン学園を影で支える縁の下の力持ち、とか。ほんのちょっぴり憧れた次第でして。

 レースをしたい衝動はもうないけど、せっかく走り抜いて得た知識とかがあるなら、それに関係するなにかの仕事に就きたい。

 そう思ったら、学生の身分ではありますがって思ってしまう。

 中等部の内にジュニア、クラシック、シニアと走り、レースがあるのならば、間に合うのならば、日にも月にも様々な地で出走、その全てで頂点を得た、無敗の全冠、総冠ウマ娘、なんて呼ばれてる北郷ではございますが、そんな自分でも誰かのサポートとか出来ると思うの。

 だってさ、この学園、トレーナーが決まるまで、全員が全員同じような走り方の授業とか受けるんだよ? 座学はまあそのままでもいいとしても、走りはウマ娘にとっての、ここで学ぶ全てを凝縮させた“意味”そのものだ。それを、全員に同じように、なんて時間がもったいない!

 ので、早速たのもーう! と理事長室へと駆けたわけでして。これがのちに教官を奨められるきっかけにもなったわけだ。

 

「たのもう!!」

「驚愕!? セ、セキト女子!? ノックくらいはしてほしい!」

「いえ。どうせ今の時分は窓際で陽にあたりながらおやつでも食べているのだろうと思ったもので」

「誤解! 憶えられるほどそうしているわけではない! ……と、とーもーかーくー! 何用だろうかセキト女子! 君がここに来るのは珍しい、というか自室と運動場と訓練施設が学び舎ですと言っていたというのに」

「ああはい、とりあえずウマ娘としての疾走本能と勝ちたいって衝動が無くなったので、なにか別のことをやりたいなぁと。つきましては理事長。わたしをこの学園で、用務員として雇ってはくれませんか?」

「疑問! それはこの学園を卒業扱いにして、就職したいということでいいのだろうかっ」

「いえ。学生のままアルバイト感覚で。学生としてでしか出来ないこととかもあるかもですし、一応学生としての席は残しておいてほしいのです」

 

 そう、あたかもなんたら学園~とかで購買部で働く学生のように。

 一時期ちょっぴり憧れたのだ、あの仕事。

 そ、それにほら? いきなり学生卒業して働いたりしたらさ? ただでさえそんざいしない友達とか、余計に出来なさそうだしさ。

 

「却下!」

 

 そしてダメだった。

 

「説明! そもそもにして君が有名すぎる! ひとり歩けば人だかりを作るような君を学生バイトとして置くには、君に憧れるウマ娘がここには多すぎる!」

「就職という方面でも無理、ということでしょうか」

「訂正! 就職という意味で、用務員という仕事ではなく教官として立ってほしい! 君に憧れる生徒が居るということは、それだけ教官の言うことを聞いてくれるという事実に繋がるものと思う! 実は先日、教官職に就いていた者が辞めてしまい、引継ぎが出来る者を探していたのだ!」

「辞めたって、それはまたどうして?」

「苦悩! どれだけ真面目に教えても、担当トレーナーが付いた時からが本番であるとどうしても思われてしまうが故のこと! もちろん皆、選抜レースを勝つために真面目に努力をする! だが勝てるビジョンが見えないウマ娘は当然居て、友が先にトレーナーを得たことでめきめきと実力を伸ばす姿を見てしまい、教官の存在に疑問を抱く者も出てしまうのだ!」

「……なるほど、つまり」

「セキトアブミ! 今や国内外問わずに誰もが認めるウマ娘たる君が、教官となり教え導くのなら、皆のやる気も上がると思う! こちらの要望ばかりを押し付ける形になるがどうか考えてほしい!」

「? それは今すぐ答えずに持ち帰って考えろという意味で?」

「否定! もちろん今すぐでも構わない! こちらも相応の待遇で迎えるつもりーーー」

 

 【歓迎!】と書かれた扇子をんばばっと開き、笑顔を見せてくれるやよい。相変わらず、口を開けばちらりと見える八重歯がかわいい。

 そんな彼女の言葉を遮るように聞こえたノック音に、やよいの声が止まる。

 伺うような視線を向けられたので頷くと、入るようにいわれ、入ってきたのはたづなさんだった。

 

「大変です理事長! 食堂勤務の職員の皆さんが、もう無理ですと辞表を置いて出ていってしまいました!」

「え? …………なななななにぃいいいいいっ!?」

 

 どこか芝居がかった声ではなく、素の可愛らしい『え?』のあとに、大絶叫。

 うん可愛い。やよいは可愛い。姿もだけど声がいいよな特に。

 ちなみに既知の仲なので、プライベートでは結構気安い。

 

  レースの世界はわたしが束ねてやる。だからお前は気負いせずに胸を張っていろ。

 

 ……本能と衝動に呑まれた俺……もう一人のボクが、やよいに言った言葉がそれだ。

 それからは結構懐かれたと思っている。あの時のやよい、見ていられなかったもんなぁ。面倒な世界を運営し、関係を作るってことは、面倒なやつと関わるってことだもんなぁ。

 ん、よろしい。なればその面倒事、この北郷めに任せてみてはいかがか。

 

「やよい。問答はいい。任せろ」

「っ……! し、しかし」

「やーよーい?」

「…………依頼ッ! セキトアブミよ! そのっ……助けてほしいっ!」

「ん、よろしい」

「……!」

「え? り、理事長? セキトさんに……世界のウマ娘さんにそんなこと頼んでいいんですか!?」

「無論! 論ずることなど無い! …………」

「はいはいそこで心配そうにこっち見ないの。胸張ってろって言ったでしょうが。……たづなさん、いいのいいの。俺とやよいの仲だし」

「……! 既知! そして旧知! 私とセキトの仲なのだ!」

「どんな仲なんですか!?」

 

 セキトアブミ。寒門の出ながら世界のレースを束ねたウマ娘。

 理事長秋月やよいとは、幼少のころに出会い、いつかでっかいことをしようと誓い合った仲である。

 外見は……髪、赤と黒の混合。髪型は恋っぽい。セキトだからだろうか。でもあっちのセキト、犬だし。

 あ、顔の作りは実に恋に似ている。とろんとした、ボーっとした目ではなく、シャッキリポンと瞳の開いた表情。ちょっとツリ目っぽくはあるけど……ああうん、まあ、この顔で睨まれたりしたら怖いよなぁ。もう一人のボク、セキト自身は三国無双の呂布っぽい性格だったし。『俺は呂布、字は奉先』とか名乗りを上げていたら、たぶん笑ってた。

 

 ちなみに勝負服の時はまさしく恋って感じだ。そこに、頭に二本のアホ毛じゃなくて翎子(りんず)が乗っかってる感じ。普段はしっかり二本の触覚っぽいアホ毛が出てるのが俺である。

 お陰で顔が映る鏡とか見るたびに、どれくらいかぶりに知ってる顔に出会えた……! って気持ちになって、胸がトゥンクしてるのは誰にも言えない内緒の話。

 でもさ、そうなればさ、全力で勝たせてやりたくなるってものじゃない? 性格、ほんと三国無双の呂布っぽい感じだったけど。

 でもなぁ……あっちの呂布って貂蝉のこと好きだったんだよなぁ……。

 俺の中じゃ、もう貂蝉っていったらモミアゲが辮髪のゴリモリオカマッチョなんだよな……。

 及川にウマ娘の話題出されて、“Glorious Moment!”を聴いた時の俺の気持ち、分かります? へええぇぇ……ウマ娘ってこんないい歌とか歌ってるんだ……走って勝ったら歌って踊るんだよな? へぇえ……とか感心してたら、OP映像とかがあるらしいじゃないか。是非にと見せてもらって、すごいすごーいって蒲公英と燥いでたよ。

 でもある日に用事で訪れた貂蝉の存在によって、“憧れはもう挑戦になったんだ”って部分で挑戦が貂蝉に変換された。丁度その歌詞の部分の時に貂蝉が家に来たもんだから。途端、モンゴルマッチョに憧れるトプロ委員長が脳内に爆誕したよ。

 以降、頭から消えてくれない。助けてくれ。誰か俺の中からこの記憶だけを都合よく消してくれ。

 トホホイと溜め息を吐きながらも仲謀もとい厨房を目指す俺は、もうすっかり隊長モードに戻っていた。隊長って主にどんなことをするのかって? 困っている人や困りごとを解決するために、日々を駆けずり回るのさ!

 都の安穏を願い、駆け続けたこの北郷と北郷隊の想い……見せてくれる!

 

……。

 

 で。

 

「はい、にんじんハンバーグあがった」

「は、はーい!」

「甘野菜パフェはこっちね」

「わっ、は、はいー!」

「かつ丼一丁おまち」

「はいー!」

 

 調理と食材管理を請け負い、多くのコンロとフライパンと鍋と包丁、様々を駆使して次々と料理を作り、提供する俺。

 お手伝いさんには模延舞子(ものべまいこ)さん*3という人を紹介され、現在しっかりと正確にレシピ通りの料理を次々と作り上げ、提供している。

 ちなみに素顔だと騒がれるから、現在は……顔を隠しての行動中だ。顔をすっぽりと包むは懐かしき紙袋。額に輝くは校務の文字。長方形に開けられた穴からは景色がよく見える……そう、我が名は校務仮面。この学園にある校務すべて、執行せずにおれん!

 

「飲食店みたいに次から次へと何時間も注文がくるわけでもないし、朝食と昼時と夕食時をきちんと見極めれば余裕だよ。よしっと、とりあえず捌けたから、あとは昼が終わるまで様子見るだけだ」

「は……はぁああ……! あのっ……? こ、校務仮面……さん? なんでそんなに平然としてられるんですか……!? あんなに忙しかったのに……!」

 

 おや意外な質問。

 何故? 何故って……

 

「慣れですね」

「慣れ!?」

 

 生徒数が2000人だろうが、すぐに喧嘩おっぱじめたり酒飲んで暴走したりウザがらみしたり、自分の好きなものを作れだとか、なんでもいいとか言いながら文句ばっか言う大剣様だとかそんな人らの相手じゃないだけどんだけ楽か。

 注文したら静かに待っててくれるんだぞ!? 分かる!? しかも美味しそうに食べてくれてるの! 一番最初の娘が紙袋ウマ娘に料理を注文して、出された食べ物恐る恐る食べてさぁ! 途端に花開くみたいにふわぁって嬉しそうな顔するの! あんなの見たらさぁ! 頑張りたくなるじゃないか!

 かつて料理の腕は普通だ普通だと言われ、氷菓などでしか美味しいと言ってもらえなかった北郷は既に過去……! 様々な歴史と大地を歩み、学び、レシピノートをきっちり作ったこの北郷に死角無し……!

 皿洗いさえ、水の呼吸とともに高速で果たしてくれようぞ……!!

 

「あわわわわわ……! 食器がみるみる内に綺麗に……! 材料の仕込みも信じられないくらい速いし、味付けも完璧だし……! こ、この人、ううん、ウマ娘さん、何者なの……!?」

 

 なお、言った通り正体は隠してある。“英雄・セキトアブミ”はなんかいろいろやらなきゃいけないことが出来たので、なんというかそのー……消えた! って感じにふんわりと隠されることになった。なので、あなたは誰ですかと質問されたら「校務仮面だ」としか返せない。

 やよいにも許可を得て行動している。というか正体は、教官職をする時以外は是非隠してほしいと言われた。そりゃそーだ。

 自覚はあんまりないけど、一応俺、伝説のスーパーウマ娘ってことになってるらしいから、無警戒に食堂で調理人とかやってたら、食事の用事じゃないのに訪れるウマ娘が居るかもだからって理由で、秘匿中だ。

 

「モトベさんもすぐに慣れますよ」

「誰が公園最強ですか。模延です」

 

 どれだけ生徒が居て、どれだけ注文が来ようとも、出す場所も受け取る生徒も一人ずつだ。つまり、流れさえ掴んでしまえば受け渡しは楽といえる。そのための調理担当は地獄とも言える勢いで作らなきゃだけど、冷静に手順通り、余計な手を加えなければレシピ通りの料理ってのは大変に美味なものなのだ。

 疲れてそうな娘の料理にたまぁに癒しの氣を混ぜたりはするけど、それ以外はレシピ通りにGOだ。モノベさんもすぐに慣れるだろう。

 大体にして朝昼晩と食事の時間は決まっているし、弁当持参(トレーナー作)のウマ娘も居る。2000人居たとして、その全員をその時に全員対処しなければいけないわけじゃあないのだ。

 なお、寮ごとに用意されていた食堂は滅び、現在俺とモノベさんが動き回っているこの建物こそが、生徒&職員&トレーナー用の食事処となっている。

 え? どう用意したのかって? ……どこぞの北郷が一騎当千の働きで建てましたが? 長く生きてるとね、いろいろ技術も身に着くものなんです。材料はやよいが揃えてくれたから、足りない人員をこの北郷めが担当した。

 広い食堂、綺麗な花畑、そして立派な人参畑。

 たっぷりと天地の呼吸の氣を吸い込んだ大地で育まれる人参は、【太陽の人参】と呼ばれ、ウマ娘たちに大変好評である。

 

「ところであの」

「? なんです?」

「その……紙袋から飛び出ている髪の毛は……」

「触覚です」

「………」

「………」

「あの。私の知る限り、その特徴的な赤い二本の毛と、ピンと立ったウマ耳は……」

「校務仮面ですが、なにか?」

「………」

「………」

 

 日々は平穏である。

 バラされたら平穏ではなくなるので、緘口令の意味合いも込めて、モシャアと殺気を放っておいた。するとモノベさんは校務仮面から放たれる未知なるパゥワーを前に、「ひゃい……!」とオヘンジを返してくれた。謝謝! 謝謝モノベさん!

 

……。

 

 さて。食堂での仕事が終われば学園での仕事がある。

 畑仕事は早朝にやってあるので、あとは用務員としての仕事をこなしつつ、体育(?)の授業のクラスの時間までを潰すだけだ。

 

「芝の整備開始ィィィィーーーッ!!」

 

 誰が来ても快適に走れるように、芝の手入れはいつだって万端に。

 ダートの砂とてきちんと平らにするのを忘れない。他にも校内での備品の修理、トレーニングルームの器具の整備なども行ない、ウマ娘たちの未来を守るため、彼女らの未来が少しでも幸福に近づくための行動を続けていった。

 

  で。

 

 時間が来ると、初の教導官としての仕事を、まずは新入生を相手にすることになった。

 

「あの」

「なにか?」

「えっと……教官さん? は、……どうして紙袋を被っているんですか?」

「それは私が校務仮面だからだ」

「…………えっと」

「なにかな?」

「校務仮面さんは、どうして教官をすることに……?」

「全てのウマ娘の幸福を願うが故」

「……あの」

「なにか?」

「素顔───」

「いかん! 校務仮面の正体は絶対に秘密なのだ!」

「えぇええ……!?」

 

 やよいとの話もあったというのに、俺は校務仮面を外すのを忘れて、ジャージ姿で新入生ウマ娘たちの前に立っていた。全冠ウマ娘が教えるからこそ、生徒たちも真面目に取り組む筈だ~って話だったのに、……いやほんと、なにやってんでしょうね俺。

 

「おっと、自己紹介がまだだった。私の名は校務仮面。校務に命を燃やし、ウマ娘たちのより良き未来を願う謎の用務員さんだ」

「あーのー。結局、えーっと校務仮面さん? って、ちゃんと教えられるんですかー? どーのこーの言って、やっぱりトレーナーが教えなきゃなんにも身に付かない~とかは勘弁してほしいんですけどー」

「大丈夫だ、問題ない」

「いっちゃん不安になる返し来た!?」

 

 失礼な。きちんと最強を目指せはする鍛錬くらい教えられるやい。

 ……ついてこれたらの話にはなりますが。

 

 

 

*1
われ、ひたぶるにちからくらべせん。

ようするに、ひたすらに力比べしようぞ、って感じの衝動、または本能。

*2
たぶんそういう意味じゃないと思うなぁ

*3
模して舞う、モブである





 なお、構想ではレースは一切せず、普通の学校行事だのを地味に楽しむお話を書きたかった模様。
 ほら、文化祭とか体育祭はもちろんだけど、季節ごとの催し物~とかをじっくりと。

 いろんな遊びがある文化祭の出し物で、ポイントを溜めれば景品がもらえる~的な出し物を用意。エアバットで一撃でも当てられたらポイントをあげる~的な出し物とかを考えてた。
 もちろんその時に彼女が歌うのはゴンザレスのおうた。

 あ~ゴンザ~レス♪ お~れは強い♪ お~れに勝~った~ら~15ポイント~♪
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