凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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人の精神ってモロいところはモロいのです。なオリジナル。


愛を見失わんようにね

 告白。それはある種、刹那的ながら人の人生を変えるもの。

 

「こなぎ。俺、お前が好きだ。俺と付き合ってくれ!」

 

 そして今、放課後のオレンジ色に染まる空き教室にて幼馴染に告白する男がいた。

 

「……遅いよ、やっくん。私、もう付き合ってる人が居るんだよ……?」

「なっ……マジか」

「うん……すごくやさしくて、傍に居るととっても安心できる人。彼と付き合うまでは、やっくんがそうだったのに……」

「こなぎ……」

「私、待ってたんだよ? いつかやっくんが告白してくれるのを。ちっちゃい頃からずっと好きだったのに……」

「……? んん?」

「遅いんだもん、言ってくれるの。私、もう待ちくたびれちゃったから……」

「おいちょっと待てコラ」

「……え? ───えっ!? コ、コラ!?」

 

 しかしそんな告白もトキメケも吹き飛び消し炭になるほどの理不尽を前に、彼は恋心を憤怒に変えた。

 

「黙って聞いてりゃなに悲劇のヒロインヅラして被害者ぶって、人が全部悪いみたいに言ってんだよ。昔から好きだった? 告白してくれるのを待ってた? 好きなのに行動もせず待ってるだけなのに人の所為にすんな馬鹿」

「なっ、なっ……なっ……」

「お前さ、好きだって自覚したのに行動に出なかったんだろ? 俺、告白された覚えもアプローチ受けた記憶もこれっぽっちもねーもん。あ、ちなみに俺がお前のこと好きになったの三日前。昔から好きとか知らんわ。ていうかお前俺と目が合うたびにものすげぇ速さで顔ごと目ぇ逸らしまくってたろうが。あれやられまくって嫌われてるって思わない男子が居るなら見てみたいわ。なのに数週間前あたりからふんわり笑顔を見せるようになって、少しずつ好きになって、自覚して、早速行動に出てみりゃ“遅いよ”、とか。はっきり言うぞ? 知らんわ!!」

「あ、あぅ、あぅあぅあぅ……!」

「なぁ。この際だから訊きたいんだけどさ。なんで“告白されること前提”で物事考えてんだ? なんで自分から告白しよう、とは一切思わないんだ? それで俺に遅いとか待ちくたびれたとか言って、俺どうすりゃいいのよ。俺三日前にお前のこと好きになって、きちんと身嗜みだのなんだの整えてからこうして告白したわけなんだが───」

「うぅう……」

「ああほれ、ラノベとかでよくある、幼馴染に告白してフラれるとこから始まる陰キャ物語とか、あれ俺ほんっとわからんのだ。なんで本気で好きになって、さあいざ一世一代の告白を! って話で、まず身嗜みとか整えないの? って。や、まずそっからだろ? ボサ髪ヨレヨレ容姿で張り切って告白しに行くって、相手にしてみりゃ断るのが当たり前レベルで失礼な話だってわかるでしょーが。だってそれOKしたら、ボサ髪モップ男子の告白を喜んでOKした女、みたいなレッテル貼られるかもなんだぞ? そりゃ断るわ。そしてなんでフラレてから身嗜み整えてんの。あれがわからん。ほんっとわからん。力の出し所絶対に間違ってるだろ。あいつらってさ、なんで“ざまぁをする”って決めた時だけは人生最大のマックスパワー振り絞って準備に取り掛かるだろな? その労力をまず告白する前に発揮できてりゃ、未来は絶対に変わったろうに。たとえ失敗しても、なにかは残せたろうに。……あいつら告白成功させたいんじゃなくて、ざまぁしたかっただけだろ絶対」

「………」

 

 男の怒涛の疑問に、彼女はあわあわと困惑するばかり。

 そして確かに、自分から行動しなかったくせに相手を悪く言うのはお門違いだと自覚した。むしろ遅すぎた自覚である。

 

「……ごめん、やっくん。私、最低だった。でも、信じてほしいの。やっくんのことを好きでいたのは本当。幼稚園の頃に意地悪な男の子に帽子を取られちゃった時、取り返してくれたあの時から……私は」

「帽子って。あー……園田勝司か。なつかしーなぁ。あれ以来、事ことある毎に俺に絡んできたっけ」

「……え?」

「ん?」

「え、えぁ、あの? やっくん? 帽子取った子の名前、なんて───」

「園田勝司だろ? 俺が嫌がることなら、どんなに回りくどいことでもやってくるクソ野郎」

「………」

「おい?」

「や……やっくん……あの……わ、私の、ね? 彼氏の名前も……園田勝司で……」

「ワー……」

「なんで一歩下がるの!?」

「いや、だって……」

 

 オチが読めた。そう言って、彼はドン引きした。そんな相手の掌で踊ってしまったっぽい幼馴染の彼女にも。

 

「そんな……そんなのって……! だ、だって、彼はいっつも、やっくんよりも私のこと好きだよ、とか、やっくんよりも傍に居て支えるよ、とか……!」

「ワー……」

「だからなんで一歩下がるの!?」

「いや……自分で言ってて気づかない? そいつがほんとにお前のこと好きなら、俺の名前出す意味がどこにあるよ……。明らかに俺のことが気に入らなくて、俺に対抗して俺を悔しがらせるために、俺に勝つためだけにお前が好きだよムーブしてるだけじゃねぇか……」

「そっ! それっ……それはっ……だって……だっ…………っ……ひっ、ひっく……! うわぁああああああんっ!!」

「だからまあなんというかそのー……俺これっぽっちも悔しくないから、勘違いしたままマウント取りたがってるそいつとそのー……お幸せに、な? さすがに他人の恋人奪ってまで自分の告白成功させたいとは思わんから」

「待ってえぇええええ!! やっくん! 待ってぇええええええっ!!」

「や、待ってどうにかなる問題かよこれ」

「~……やだなって思うところ、いっぱいあるの……! いまっ…今、どうしてか急に頭の中に浮かんできて、思い出して……っ! やっくんに脈ないのかな、って想い続けてたら苦しくて、諦めちゃえば楽になるのかな、って……! 無理矢理諦めようとしてたの……! そんな時に園田くんに声かけられて、断る前に声かぶせるみたいにぐいぐい来て、それを何日も何日もされて、断りづらくなっちゃって……!」

「なにお前。押し切れば恋人になれる人種かなんかですか?」

「……やっくん、習慣自己催眠って知ってるよね……?」

「あー……」

 

 心当たりがあった彼は、あちゃー……と天を仰いだ。見慣れた教室の天井があった。

 しかも、急に思い出したとか、被せるように言ってきたとか、あれじゃないですか? 彼はその可能性に頭を痛めた。

 

「毎日毎日、お前は俺の女だー、みたいなことと、やっくんは私のことなんか好きでもなんでもない、みたいなこと言われ続けて、私、疲れちゃって……そんなことがあったことさえ、今まで忘れてて。あの……やっくん。すっごい勝手なことだって分かってる。でも……」

「回りくどい。言いたいことがあるならハッキリ言え」

「っ……たっ、たすけてっ……助けて、やっくん! 私、園田くんのことなんか好きじゃない! 私はずっと、今も、やっくんだけが好きっ! 好きも愛もない彼氏なんて欲しくないよぅ!!」

「いや、俺の告白が遅いって言えるほどに大事な彼氏だったんじゃ───」

「うわぁああああああああああああん!!」

「オワー!!」

 

 ガチ泣きだった。なだめるのに苦労したらしい。

 

……。

 

 しくしくと悲し気な泣き声が教室に響く。

 ガチ泣きして憑き物が落ちたような彼女だったが、くすんくすんと鼻を鳴らしながらも、その手は彼の制服を掴んで離さない。

 

「まずひとつ。好きなら告白なさい。行動にも出んで勝手に諦めようとして人を悪く言うとか何様じゃいこの馬鹿者」

「あぅうう……!」

「ふたつ。他人の、しかも男が毎日毎日習慣になるくらい言葉で脅しにかかってくるならポリスか、まずは親にでも相談なさい」

「お父さんとお母さん、最近夜出て昼帰ってくるから、会える時間も相談出来る時間もなくて……」

「ぬおお……! だったら俺に相談しろっつーのばっかもんがー!」

「だ、だって諦めるかどうかーってもやもやしてるやっくんに、そんなこと相談したらそれこそ面倒だーとか絶縁だーとか言われるかもって……!! そ、そしたら怖くなっちゃって、不安とかが増えちゃって、どうしようもなくなっちゃって、従ってれば楽になれるのかな、って……」

「───……」

 

 習慣脅迫型洗脳案件です、ポリス呼んでいいですか? 手に持つスマフォが火を吹きそうだったそうな。

 

「あーまあとりあえず。園田の連絡先とかスマフォにある?」

「え……う、うん。エニルがあるけど……」

 

 ENIL。よくあるメッセージチャットアプリである。

 

「よし、んじゃ貸してくれ。あー……『やっぱりやっくんのことが好きなのであなたとは別れます』と」

「やっくん!?」

「『あと脅迫まがいの俺の女宣言のことや、精神的に追い詰めたことへのあなたの行動について、やっくんの両親に相談したら、あなたのやったことは犯罪だと教えてくれました。もう私にもやっくんに関わらないでください』」

「やっくん!? やっくんってば!」

「『ちなみにやっくんの両親はお医者さんです。あなたが懲りないのであれば、出るところに出ます』……と」

「やっくん……」

「ん? なに、別れたくない? やっぱあいつがいい?」

「そ、そうじゃなくて…………あの。……いいの? わ、私、確かにまだ、全然、すごく、すっごく、やっくんのこと好きだけど……私もう、てっきり好きでいる資格なんか無いって思ってたのに」

「いや俺ざまぁとか興味ないし。むしろ人生で初めて、女性の気を惹きたくて身嗜み整えての告白ですぞ? 成功したいに決まってんじゃねーべさ」

「っ……! じゃ、じゃあっ!」

「あ、ちなみに。園田とはキスとかした? 手は繋いだ?」

「ち、誓ってしてない! 言ったでしょ!? やだなって思うこといっぱいあったんだよ!? なんだか最初からぐいぐい来て気持ち悪かったし、でも逆らおうとすると怒鳴ってくるし、だから怖くて、触れられたくなくて、でも好きじゃなきゃいけない、みたいな強迫観念に近いものがあって……ど、どうしてそんな大事なこと、忘れてたのか分からないけど……」

「や、その強迫観念の中で強引に、とか」

「……えっと」

「うん」

「その」

「ふむ」

「……わ、私、ね? あの……笑わないでね? やっくんのこと好きになってから、お母さんにお願いして……その、えと。他の男の子に触れてほしくなくて、護身用グッズとかいっぱい買ってもらってて……」

「ワオ……」

「だから、怒鳴られるたびに、びくびくしながらもスタンガンとか構えてたから、指一本も触れられてないわけでして」

「ワオ……」

 

 「命懸けられるよ!」と言う幼馴染の彼女の目はマジであったそうです。

 

……。

 

 自己防衛本能というものがある。

 自分の精神やらなにやらを重度のストレスやら痛みやらから守るため自分の中の情報、事実、常識などを書き換えてしまうそれも、そうだといわれている。

 こなぎの場合、子供の頃からなんとか俺に振り向いてほしくて、けれど迷惑になるのも拒絶されるのも告白が失敗して疎遠になるのも嫌で、相談相手もおらず(これは怒鳴り野郎の差し金で、誤解で友達に距離を置かれてしまったらしい)、まさか俺に俺との恋愛相談するわけにもいかず、弱っていたところにしたり顔のあいつは来たらしい。

 で、そいつに何度も迫られ、怒鳴られ、そのくせ時折にベッタベタなやさしい態度を見せてきて、それがいつしかこなぎの中で、俺から受け取っていたやさしい記憶と記憶置換が行なわれてしまったらしい。話しててやべぇって、ここまで思ったことはない。

 

  なので。

 

 あるところへ一本の電話。

 詳しいことを話すと了承を貰えたので、こなぎの手を握って歩きだした。

 

「え、え? やっくん? 急に手とか、恥ずかしいよう」

「とりあえずあのタコを法的に血祭にあげよう」

「恥ずかしさが裸足で逃げてったよ!?」

 

 




車の免許取る時、習慣自己催眠やったなぁ……あ、はい、きっちり合格出来ましたさ。
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