凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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どうにもウマが合わない人ってのは居るもんです。なオリジナル。


とりあえずこうしたい

「は? いや、ジョーダン、幼馴染ってだけでべつにあんたのこと好きなわけじゃないから。てか、幼馴染に告白とか頭大丈夫? よっぽど特殊じゃなけりゃOKなんか出さないでしょフツー」

 

 ある日の放課後、体育館裏にて。

 俺の告白は幼馴染にハンと鼻で笑われ、終わりを告げた。

 幼馴染は振り返ることもなくスマホをいじりながら歩き、電話をしたらしい相手に「今幼馴染にコクられてさー!」なんて話してる。

 その時の俺の心境を今語ろう。

 

  っしゃぁあああああああああっ!!

 

 喜びでいっぱいでした。

 だってこれであいつに近づかなきゃいけない理由が滅んだ。俺は自由だ。

 そらね? ガキン頃は好きだったよ? “わたし、おっきくなったらゆーくんとけっこんすゆー!”なんて舌ったらずの告白を今でも覚えてるくらい。

 でもヤツは変わった。

 人を見た目で判断するのが大好きなヤツになったし、勉強もしねーし運動も嫌がる。

 そのくせ体形維持だけはきちんと出来てるから女って不思議。

 まあ、ともかく俺側にはあいつと一緒に居る理由も、居たい理由もこれっぽっちもないのだ。

 会えば笑って人のこと貶してくるヤツが幼馴染とか、こっちの方が最悪だわ。人としておかしいってどうして自覚できねーかなぁ、ああいう人種って。

 

「っとと、すぐに父さんと母さん、おじさんとおばさんに報告しなきゃ。せっかく秘密録音までしたんだから、これを添付してメールで送って……と」

 

 ……はい、待つこと3分。

 

「っしゃぁああああああっ!!」

 

 おじさんおばさん……告白をした遠藤あかりの両親から、正式に謝罪と受け入れのメールを賜ったぞ! これでガキん頃に俺が書いた“けっこんせーやくしょ”も無効だ! おじさんがしっかりライターで燃やす動画も見せてくれた! ありがとうおじさん本当にありがとう!

 あんなんもう俺の中で黒歴史だ! あいつに関わること全て俺の汚点だドチクショウ! っはー、昔はあんなにいい子で可愛くて素直だったのにねー、時の流れって怖いわー、ほんと怖いわー。

 まあそんな幼馴染との関係もこれで終わり。今回の告白をきっちりバッチリあいつが断ってくれたお陰で、俺が過去に書いておじさんに提出した、あいつのために俺が努力する理由もなくなったのだ。

 あいつが好きでいてくれる可能性がある限り、俺はあいつのために最高の男を目指します、なんて約束を、今まで律儀に守ってきたけど……あいつから破壊するきっかけを作ってくれて本当に本当にありがとう。あいつが馬鹿でよかったわ。

 

「まあ、勉強も運動も今じゃめっちゃ好きだけどね」

 

 最初はあいつと一緒になるための手段のひとつだったのに、気づけば運動も勉強も大好きになっていた。だって分からんことが一つの式を通じて分かるようになって、その応用が別のところで活きるーとか、ほんと面白いよ?

 自らこの高校に行きたいって決めて受験して合格した者たちよ! キミたちは勇者だ! でも入学金やらなにやらは親が出したもんだよね!? なら最低限の勉強はしようぜ! 選んだなら突き進め! それはお前が選んで始めた物語……もとい高校生活だろう? ……あのー、分かってると思うけど、親は決して……自分の子供が“遊びや男女の関係を求めるためだけ”に金出したわけじゃないからね? 恋物語やエロォスなお話に高校のお話が多いのは認めるけど、親ってそんなことのために金出したわけじゃないから。

 

「まあでも実際、将来何になりたい~とか、これをしたい~って目標がないと、難しいよな……」

 

 とりあえず自分磨きは忘れません。勉強もしてるし運動もしてる。ていうか早朝ジョギングとかほんとオススメ。頭が冴える。洗濯物が増えるのはちとアレだけど。

 一人暮らしも板についてきたし、これからはあいつに振り回される理由もなくなった。サイッコーじゃないッスカァ!!

 

「………」

 

 そう、勉強も運動も、料理だって頑張った。それは親が出してくれた入学金などに報いるためだ。ここがいい、って選んで高校に入って、なんでかヤツまでそこを選んで、勉強に付き合わされた。それはまあ別によかった。その頃は嫌ってなかったし。

 けど、ヤツは高校でそーゆー友人を作って、勉強から外れて、見た目だけが変わって、中身を過去に置き去りにした。よーするに成長してない。意識的にはいろいろ変わったんだろーけどね。まあ、あいつの人生だしどーでもいい。俺に関わらないなら。

 

「さってとー、バイトだバイトっ」

 

 社会勉強をして、家で勉強して、料理もして洗濯もして……自分で出来ることを増やすって、なんでこんなに楽しいんだろう。

 そしてもうあいつのことを気にしなくていいってだけで、こんなにも心が晴れやかになるなんて……!

 

「ウオオオオオー! 人生は薔薇色だー!」

 

 そんなことを叫びつつ、走った。

 俺をフってくれた幼馴染にも笑顔で「お疲れ! じゃーなー!」って言って、ポカンとするあいつを置き去りに、バイト先へ向かった。

 

……。

 

 カララララ……ぴしゃん。

 

「ありがとうございましたー!」

 

 バイト先で声を出して、お客さんを見送る。

 客をもてなし注文を取り、時に厨房に入っては皿を洗い。

 最低賃金でのバイトだけれど、学ぶこともあって楽しい職場だ。なにより働いている人の人柄がいい。よくある性格最悪の人種が居ない。ステキだ。

 

「シゲは元気だなー、その元気、少し俺に分けてくんねー?」

「じゃあ両手を上に上げて、オラに元気を───」

「そのタイプの元気じゃねーよ。そのあと誰にそれぶつけんだよ俺。じゃなくて、活力っつーの? 元気が出なくてさぁ最近。俺も歳とったなー」

 

 職場の若旦那が気怠そうに言う。その割に顔は笑顔で、親父さんに声をかけられればすぐに仕事に取り掛かる。

 

「若ってまだ大学生ですよね?」

「若やめろ。名前だけ若くてもうれしくねーよ」

 

 若旦那、若村若生(わかむらわこう)さんは大学生。

 どんな方向で大学進んでいるのかは謎なものの、このお店を継ぐためにいろいろと頑張っているらしい。短く切った髪に、無精ひげを生やした……こう、将来は気怠そうに生きるオッサンを軽くイメージ出来る人。目が死んだら世話焼き狐とかがやってきそうな顔してる。

 そのくせ勉強運動なんでもござれ、様々を平均以上にこなせる謎な人だ。

 昔からフケ顔とか呼ばれていた所為で、なんというか……枯れている。“俺どうせ高校で若オッサンとか呼ばれてたから”、という自虐が持ちネタになってしまっている。若奥さんみたいな呼ばれ方で、しかも当時好きだった女子にそれをネタにされて、スンッ……と心が萎れたらしい。

 女子って怖いわぁ……!

 

「けど、外見オジサン、とかだと逆にタバコとか吸っても平気な時期が来るのが早かったりしませんでした?」

「あーやめやめ。俺タバコと酒大嫌いだから。高校時代にさぁ、同級男子がタバコ吸ってるの見て、吸ってる理由訊いたらなんて答えたかわかるか? 格好いいから、だとよ。で、そのタバコを買う金をどうしてるのかって訊いたらブッフ! ぉ親の財布からっぷふ……! ぬ、抜き取ってるとか……っ! だぁっははははッハー! カッッッコワルゥウウウウウ!! 親の金でガッコ入って親の金で生活してぇ? 勉強しなさいよーとか言う親の願いをこれっぽっちも聞かないで親の財布から金取ってタバコ買って、“俺……カッコイイ”とかアッホだろもう! いやー無理、カッコつけてる高校男子の行動洗い出してみると、もーカッコわるすぎて笑える笑える」

「それがタバコが嫌いな理由ですか?」

「え? 単純にくせーだろ。ケンコーがどーとか以前にくせーだろ。嫌だよ俺。隣に居られるのも嫌。メシ食ってる時にあんな匂い吐き出されたら殴りたくなる」

 

 同感だった。長々語られるより、ひどく納得して頷いてしまった。

 

「大体、料理するヤツがタバコ吸ってるとか俺嫌だわ。アレ本当に匂い移るからね? 親父の親戚に料理好きでタバコ好きのおっちゃんが居るんだけどさー、あれもう食えたもんじゃねぇ。タバコ嫌いだと本気で嫌になる臭さ。食材もったいねーよあれ」

「あー……匂いに敏感だと嫌になりますよね」

「そのくせ俺、顔がこれだろー? なもんだからよくお前も吸うかーとか誘われるわけよ。じょーだんじゃねっつのなぁ……はぁ。ガッコでタバコの落とし物とか吸い殻とか見ッけられると、なんでか俺が真っ先に疑われるし」

「あー……なんというか」

「ま、そん時ゃみさきと、その友達が真っ先に否定してくれたけどな。良い幼馴染を持って、俺ゃ幸せです」

 

 遠藤みさきさん。若生さんの幼馴染の女性で、同棲中の婚約者さん。

 こっそり訊いてみたけどフケ専というか……ちょっぴり老けた感じの人の方が好きらしい。むしろ昔っから若生さんのことしか見ていないくらいベタ惚れだとか。

 ……ちなみに、二十歳になった途端に若生さんに酒を飲ませ、襲ったのも彼女からだとか。いや、そんな情報、なんでいちバイトの俺に話すんすか。え? 話しやすい? 勘弁してください。

 

「なんかシゲって人生相談っつーか、話しやすいんだよな。こう、自分の中にある悩みとかいろんな、他のヤツには話しづらいことを話しやすいっつーか」

「お陰で知りたくもないいろんなこと知っちゃってますけどね」

「でも誰に話すでもない。いいヤツだよ、お前は。いろんなヤツのいろんな顔を知った上で、八方美人にならざるを得ない場面ってのはどーしてもあるんだろうけどな。こういうとこに来ると、それこそ」

「八方美人って。……まあ、八方美人ですけど。べつに誰が誰を嫌っていようが、自分がその人を嫌ってるわけじゃないなら普通そうなりません?」

「っはは、そりゃそうだ。ただ、そんなお前から嫌われるヤツってのはいったいどんな性格してるんだろうなぁって考えただけだよ」

「人を利用することしか考えていない、生粋のクズですかね」

「おおう……なんか実感籠ってんな。……もしかして、噂の幼馴染ちゃん?」

「はいっ! 今日めでたく告白してフラれました! 俺やりましたよ若!」

「え、えー……? なんでフラれてそんな嬉しそうなん……? 俺、幼馴染にフラれたらショックで寝込む自信あるぞ……?」

「そりゃ嫌いですから。告白してフラれる……そうすればまず相手から関わってくることなんてないでしょう? 俺はこれのためだけに好きでもないあいつに告白したんです。そう! フラレるために!」

 

 我、悲願達成セリ!! 万物必殺! 赤裸々空裂破! ぬぅううう……滅!!

 

「はー……逆に気になるわ、その幼馴染ちゃん。えーと、名前なんつったっけ?」

「遠藤あかりです」

「………………ウィ?」

「遠藤あかりです」

「…………」

 

 若、停止。

 ん、んんー……とか唸りつつ、眉間を揉みほぐし、顎に手を当て細目で天井を見上げ……喋りながらゴシャーと皿を洗っていた俺に、やがて呟いた。

 

「……それ、みさきの妹だわ」

「………………ウィ?」

「それ、みさきの妹だわ」

「……………」

 

 …………。

 今度は俺の番だった。

 一連の動作をなぞるようにして、やがて呟いた。

 

「強く生きてください」

「毒妹とか嫌なんだけど!? マジか! うわーマジかぁあ!!」

 

 「そういや最近妹がーとかみさきのやつがー!」と頭を抱える若をよそに、旦那さんに声をかけられてまかないを貰う。

 このお店は……ウマい。個人経営のお蕎麦屋さんなんだけど、ウマい。

 忙しい日とかはもうちょいバイトかパートさん増やしてほしいなぁとか思うけど、若に言わせりゃ俺は二人分以上は働いてくれているらしい。や、そうじゃなくて増やしてくれっつってんですよ。俺が二人分以上働いてるのは人手が足りないから止む無くでしょーが。

 

「てかおい、俺とみさきは幼馴染だぞ? それでなんでそいつの妹とお前が幼馴染で、俺らと知り合いもしなかったんだよ」

 

 まかないを食している俺に当然の疑問を投げてくる若。まあそりゃ気になるだろう。俺も推測するくらいしかできんし。

 

「あかりの奴が自分の家に俺を寄り付かせなかったからじゃないですか? あいつ、他人と会う時は自分の家には寄らせませんでしたし、遊ぶ時だってそーですよ」

「ウワー……」

「俺が初めて会ったのも公園でしたし、まあ、多少の馴染みと腐れ縁があったってだけで、本音で言えば幼馴染とはまたちょっと違うんでしょーね」

「まあ……うん、なんか違うって言いたくもなるわそりゃあ」

 

 勉強の時も、ガッコか俺の家で、だったんもんなぁ。なんでか意地でも自分の家には近寄らせなかった。お陰で俺はあかりの家なんぞ知らんかったし。

 っし、皿洗い終了! さて次は───

 

「お願いしまーす」

「アッ……」

 

 洗い物が追加された。しかも、喋ってる暇があるのならーって感じの怒り顔で。ちゃうねん、ちゃうねんで女将さん! 俺ちゃんと喋りながらやってた! なんもやってなかったのこっちの人だけだから! ……なんて言い訳は通用しないのがバイトってもんです。よし頑張ろう。

 

「若生、あんみつ5個だ。サボってねぇでチャキチャキ作れ」

「5個!? あー……もちろん今通したばかりの、食後の注文で───」

「もう食い終わってる。急いで作れ」

「最初に注文しろやぁぁぁぁ……!! なんで食い終わってからデザート頼むんだよちくしょぉぉぉお……!!」

 

 気持ちはわかる。スゲーわかる。だって材料足りない時とか断らなきゃいかん。

 食ってる最中なら干天とかも用意できるけど、もしなかったら用意なんて出来んのだ。

 

「だーくそどんなだけギリギリで分けても4つ分しかねぇ! シゲ! パットと氷と冷水! 最速で干天冷やすぞ!」

「シュワルツミー!」

「何語だバッキャロー!」

 

 そばを茹でる窯に火がついてると、蛇口を捻ればお湯が出る部分がある。そこから定量のお湯を取り、粉寒天を入れて、ファイア。かき混ぜつつ蓋をして、時折蓋を開けてまた混ぜる。沸騰したらダマがないか確認したのち、氷と冷水が張ってあるパッドにさらに流し込み用のバットを置いて、その中にお湯干天ダヴァー。

 軽くかき混ぜて、ある程度冷えるまで待って、多少固まったら冷凍庫へGO。

 それから待つこと数分。冷えたならシュタタタタンと小さくサイコロ状に切って、もう一個分を制作すれば───あんみつ5つのでっきあがりでぃ!

 

「しかし日本そば屋なのになんで干天も餡子も手作りでやってんですか?」

「おふくろのこだわりだ。てかよその店であんみつ食ったけど、ここのあんみつ食ったことあるとゲロマズくて食えたもんじゃねぇ。あんなん、どっかの業者の缶詰あんみつだぞぜってー。干天はちっせぇし果物も全部サイコロ状で、彩はあるんだろうけどなんかすっげぇ大量生産されました感ハンパねぇし。なによりうまくねぇ」

「ちなみにお値段は?」

「ウチのとドッコイ」

「詐欺じゃないスカ」

「店によりけりだ。詐欺じゃねーよ」

 




幼馴染にもゲスは居る。
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