凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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 オリジナル。
 人によりけりだろうけど、ざまぁしたい相手と関わりたくもない相手って、案外居るもんですよね。


今の少年少女はラヴレターを使うのだろうか

 恋愛っていうのは綺麗なものだと思っていた。

 そんなことを言える奴は、きっと心が綺麗なんだろうなぁって思う。まあ、それを知った時点で、恋愛の汚さなんて思い知ったあとなんだろうけど。

 恋愛、恋、愛。そんな言葉を絶対正義に掲げ、人を軽く蹴落とす人を見るたびに、世の中こんな奴ばっかだなと思うのだ。

 だから他人の恋愛ってものを横目で見るたび、気を付けろよ、と思ってばかりだった。あんな幸せそうな顔がいつか裏切りに歪むんだろうか。どうか、そんなことにはならずに幸せになってほしい。

 そんな風に思っていた矢先、その男はその女を妊娠させて、高校を中退。責任を取ることになって、働き始めたらしい。その顔はお世辞にも幸せそうには見えなくて、自業自得とはいえアホなことしたなぁあいつと溜め息を吐いた。のちに浮気相手のチャラ男の子供だと発覚して、青春も信頼も全部ぶっ潰され、せめて恋人だけはと頑張っていたカレは、チャラ男を渾身の力でブン殴りまくり、関係者全員に謝罪させた───ところで今さら自分が失った時間は戻らない。

 彼は関係者全員を心底憎み続け、呪い続けたという。

 

 ……と、こんな人生が間近にあったりする世の中だ。高校生ってのはなんでか高校の内こそ、って勢いで恋愛したがるけど、べつにもっと大人になってからでもよくない? なんで高校にこそって焦るように恋人作ろうとしてんだろ。

 悪ぶってる男がなんかいいとか思ってちょっと悪ぶってみて、気づけばノリだけで付き合って初めてを捨てて、のちに本気で人を好きになって、後悔して泣いている女子を見た。

 他人を蹴落として、自分こそが上に立つ人間だーなんて錯覚して、逆に蹴落とされて周囲から笑われ、それだけであっさり心を折った馬鹿を見た。

 そのどれもが恋愛だー青春だーなんて言い出す高校生男子の物語だ。

 アホかって思う。

 もうちょい心を育ててからそういうものに乗り出さない? 未熟なまま行動に出たって後悔するばかりだってなんで分からないのか。

 大人だって人間関係で泣いている人が多いこの世界で、なにをそんなに急いでいるのか。

 

「あの……あのね? 私、ラブレターで告白されるのが夢で───」

 

 そして、これもまた奇妙なクソくだらない青春と名付けられたものの残骸みたいなものだろう。

 ある日、自称陰キャな俺に、幼馴染の草薙優里からラブレターが届いた。ご丁寧に下駄箱に手紙を入れて、校舎裏に呼び出して、で、これである。

 照れくさそうになんか知らんけどいきなり自分の夢を語るこのタコはしかし、この間一言たりとも俺のことが好き、などとは言っていない。正しくは、ラブレターで呼び出した、ではなくて紙を下駄箱に入れて俺を呼び出して、私はラブレターで告白することが夢なんですと語っているだけだ。

 あー、なんかそれっぽいのをどっかで見たな。SNSか漫画かなんかだったか。

 あれの通りのことを仕出かそうってんなら、このあと俺がラブレターを書いて送ったとして、こいつはそれをクラスで笑いものにするわけだ。

 ……まあ、こいつ周囲に可愛く振る舞っているつもりなんだろうけど、俺こいつの本性もうずっと前から知ってるからなぁ。ラブレターで告白されるのが好き? 俺、お前が下駄箱のラブレター手にして、ひっでぇ顔でビリビリ破いてるの、見たことあるんですが?

 ていうかお前に告白とか有り得ないから。なんなら防衛本能働いて、ここに来る前にスマホを胸ポケットに装着、録画機能つけっぱなしだわ。

 

「へー。じゃあ気になる誰かに恋文書いて私にくださいとか言ってみれば? 要件はそれだけ? じゃあ俺忙しいから」

「え? ………………え!? ちょ、待ってよ! わ、私は良助を呼び出したんだよ!? そ、その理由とか、その……考えてほしいなぁ……って」

「ラブレターで告白されるのが夢なのは分かったよ。だから、“それだけ?”って訊いたじゃないか。用件も書かずにこんなところに呼び出して、っべー、恋文で告白されてーわー冗談抜きで、ラブレターで告白されてー、マジで、とかいきなり言われて俺にどうしろっていうのさ」

「そんな言い方してないよ!? やっ……いやほんとしてないよ!?」

 

 具体的なことは口にしないで、俺に自主的に行動させて、まんまと恋文をしたためてきたらそれをネタに笑うんだろう。性格悪いなぁこいつ。知ってるけど。

 

「……まあ、いいや。ラブレターね。書いたら直接渡せばいいの?」

「……! ううん、下駄箱に入れてくれると嬉しいかなって」

「そか」

 

 偽名でくっそ恥ずかしいラブレター書いて下駄箱に仕込んじゃろ。

 そうだそれがいいそうしよう。

 

……。

 

 翌日。学校にて。

 

「ちょっと良助!!」

「んあ? なに?」

 

 教室に入った俺を見るなり、ずかずかとこちらへやってくるタコを確認。

 

「なに!? じゃないでしょ!? ひどいよ……なんでこんなことするの!?」

「や、こんなことって?」

 

 朝の教室はなにやら賑やかだった。一番最後にやってきた俺は、促されるままに優里の机を見るのだが……そこに、なにやらごっちゃりと置かれた紙が……。

 

「なにあれ」

「なにあれ、って……良助でしょ!? 私の下駄箱に、あんなにラブレターを……!」

「や、だからなんで俺なの」

「だって!」

「?」

「…………え?」

「?」

 

 疑問符を浮かべた優里が机まで歩き、恐らくはよく確かめもしなかったであろう紙の束を見ていく。……と、なにやら首を傾げ始めた。

 

「差出人……片桐? こっちは……田中? 佐野、佐々木……え、誰? よく見れば文字も全部書き方が違う……」

 

 昨日の内から様々な書き方でラブレターを作成、朝一に幼馴染の下駄箱にこれでもかってくらいぎっしり仕込み、準備は完了していた。

 

「あー……なんか勘違いしてるようならすまん。俺、なにか書こうか考えたんだけどさ、俺べつにお前のこと好きじゃないし、なのに書いたって、それってラブレターとは言わないだろ? だからお前のこと好きっぽいやつに募集かけて、ラブレター書いてもらった。よかったなー、夢叶って」

「はぁ!?」

 

 ……うん、そういうところめっちゃ嫌い。人との会話の中で、“はぁ!?”って返す奴って腹立たない? 真面目に会話する気あんのかって思う。あのね、面と向かって話しとんのだぞ今。真面目に聞いてりゃそんな言葉言わずに済むだろうし、普通の感性してりゃあその返事で相手が不愉快な気持ちになるって分かるだろうに。煽ろうとか苛立たせようとか、相手を多少なりともナメくさるか下に見ないとそんな声は出ないんじゃないか?

 あのね、俺はきちんとお前の質問に対して返事しただけだろ? 呆れるくらい的外れってわけでもない。だってラブレターで告白されたいだけだろ? 相手が俺じゃなくてもいいんだろうし、なによりこいつは別に俺に好意を打ち明けたわけでもない。むしろ侮辱されてるレベルだ。なのにどうして理解出来ないことを訊き返すみたいな反応が来るんだよ。聞いてる? ちゃんと聞いてる? それともなにか、お前は自分の望む言葉以外は一切知る気もない言語にしか聞こえないのか?

 

「あーあ、俺もラブレターとかもらってみたいわ。手紙で呼び出して、好きだとか明確な気持ちを伝えもせず、言葉巧みに人にラブレターを書かせようとするんじゃなくて」

「っ……ぁ……っと、な、ななに、なにに言ってるのちょっと、それってなんのこと……?」

「さあ? ていうか、なんで高校生ってそんな急いで恋人作ろうとするんだろーな。学生で恋人になったやつって大半が別れてるって知ってるか? 義務教育終わったばっかの社会人二・三歩手前のクソガキャアなんぞに、一生を付き合えるパートナーなんてそうそう出来っこないのにな」

 

 学生結婚を反対する親ばかり? 当たり前だろうが。高校在学18歳で結婚したって自慢する知り合いが幼い頃に居たけど、笑顔だったのは数ヶ月だけだったよ。最初は好きな相手のためにーとか頑張ってたのに、次第に疲れた顔になって、自由な時間がないーとか言い出して、喧嘩して、別れた。

 もっと遊びたかったんだと。双方ともに。結婚すればもっと一緒に居られると思ったのに、思ってたのと違うとお互いの足を引っ張りまくってあっさり破局。そらそうだ。結婚したんなら、って親が自分らを見る目が変わって、それまでやってもらっていたこと全部を自分がやらなきゃいけなくなって、なにをするにも“もう結婚してるんだから”とか“これから親にもなるかもなんだから”とか言われ、ストレスを溜めるばかり。

 娘さんを必ず幸せにしますから! なんて言っていたその男子高校生は相手の親と自分の親にガンストされて、鼻血出しながら、なんで俺がこんな目に……! なんて言っていた。

 なんで知ってるのかっていえば、その相手の女ってのが俺の親戚だったから。今は社会人になってヴァリヴァリ働いてるよ。口癖は“学生と結婚するのはよほどのアホか、成熟し切ってないガキな自分や相手を自分色に染めたいヤツだけよ”、だ。それが学生同士だって大して変わらないらしい。

 

「あ、あんた、私のこと好きじゃ───」

「あ、それ聞く? こんな状況なんだから察しときゃあいいのに、自尊心のためにとかほんっとごくろーさん。じゃあ誠実にはっきり答えるわ。───大嫌い。わたし可愛いでしょアピールとかほんと無理。ぶりっ子ってある日メテオストライクで絶滅しねぇかなって全力で思うようになった切っ掛けだよお前。世の中を上手く渡っていくために猫被りを一切するなとは言わないけど、お前の場合は猫じゃなくてオドガロンレベルで無理。気色悪い。キショいとかキモいとか端折った言葉で言いたくないレベルで正面きって気持ち悪い」

「オドガロン!? オドッ……オドガロン!?」

「それより良かったじゃないか、選り取り見取りだ。こんなにラブレター貰って、鼻が高いんじゃないか? っていうことで、そいつらに悪いからもう俺に絡んでこないでくれ」

「~……!! ま、待ってよ! いきなり大嫌いとか言われて納得できるわけないじゃん! どこが嫌いか───」

「ぶりっ子気取ってるくせに人の会話中に少しでも気に入らないことがあると叫びキレ散らかす性格がもうほんと無理。俺、会話って好きだけど、会話する気ないなら話しかけてくんなってレベルでお前が嫌い」

「───」

 

 どうか“はぁ!?”なんて返さずに納得が出来るように伝わりますように、と語る。と、ぶりっ子って言葉が霞むほどに歪んだ顔で言葉を吐き散らかしていた目の前の女子が、顔を戸惑いに染めて停止。

 人の本性を知ると、思うことはいろいろあるもんだ。その本性ごと好きってヤツは結構稀で、本性こそに惚れたってヤツの方が希少で貴重。もし付き合うのならそんな人とがいいものの、こいつは絶対無理だ。ウソ告とかするヤツもだけど、こういう自分の容姿の価値を理解していて、それを遊びに使う相手は本当に性質が悪い。極悪だ。相手があくまで遊びって気持ちで乗っかってくるのならいいんだろう。けど、本気で惚れていた場合はシャレにならない。

 まあ、つまりはだ。遊びや軽い気持ちで人にトラウマ作る奴は滅びろ。何様だよクソが。

 

「え、なんだよ良助、お前このラブレター事件に一枚かんでるのか?」

 

 心底嫌、って気分で会話を終わらせて自分の席へと着くと、前の席の友人、鈴木三太が声をかけてきた。それに対して巻き込まれただけ、と返すと、ほーん、という返事。

 

「しっかしまあ、連絡手段がスマホな世の中で、オテガーミとか珍しいっちゃ珍しいよな。むしろ下駄箱ラブレターとか現代でもあるんだなって感想」

「だよな。まあ、相手のENILのこと知らなければスマホでの連絡なんて難しいだろうし、人によってはそういうのに憧れるっていうのもあるんじゃないか? 三太はオテガーミとENIL、どっちが欲しい?」

「俺はオテガーミかな。マジモンの告白用だったら個人的家宝にするわ。……こういう時、家宝以外で自分の宝のことを言うならなんて言うんだろ。自宝?」

「普通に宝物、とかでいいんじゃないか?」

「あ、それ賛成」

「でもなぁ、宝物にするのはいいだろうけど、マジモンの告白用でもあいつから貰って嬉しいか?」

 

 既に俺との会話なんてどうでもよくなったのか、机の上のオテガーミをメッシャアメリメリメリと無理矢理鞄に詰め込む優里をちらりと見て、コソォと問うてみる。オヘンジは無理の一言だった。

 優里は、まあ幼馴染の俺から見ても確かに容姿はいい。が、ほんと性格が無理だ。幼馴染に幻想を抱く男どもは多いだろうが、性格悪いと本当に地獄だぞ? そんなやつと家が隣同士とか、家族ぐるみでストレス抱える毎日になる。で、性格極悪一家と幼馴染でご近所さんだと、俺達家族まで距離を取られる。分かる? あいつら一家の所為で家がどれだけ迷惑被ってるか。

 

「ほんとなー……なにか喋る前に、ひと呼吸でいいから“これを言ったらどうなるか”を考えてくれりゃあいいのに。思ったことを口にする奴って、性質悪いよなー……」

「そか? 隠し事されるよりよくないか? あ、付き合うかどうかは別として」

「なるほど。でもさぁ、あいつの家族全員がそうだって言ったらどうする? たとえばなにかしらの作業をしてたから汚れたとして、その過程を知らずに現れた途端にうっわ汚っ、くっさ! とか言ってきたら? それが人助けのためにドブに突っ込んだ~って話だったら?」

「うぅわなるほどそりゃ無理だわ」

 

 そう、あいつの家族はそういうやつらの集団だ。夫婦そろってそうだし、娘のあいつもあんなザマ。

 

「ちなみに実話で、原因を話したところで謝罪もなかったよ。それからあいつが飽きるまでドブ男って呼ばれ続けた」

「頭イカレてね?」

 

 真顔でハッキリ仰った。はい、もちろん俺も同意見です。

 あいつの嫌なところは、それらを他のやつらにはキレェ~な猫を被って隠しているところだ。思ったことはハッキリ言うくせに外面気にしてやがるんだ、なんなんだよあいつ。

 

「これで実は本気でお前が好きで~とかってオチは?」

「だとして、お前そんな女と付き合いたい?」

「…………ごめん」

 

 じっくり考えての、顔を逸らしての言葉がこれである。

 

「ちなみに我が家の両親は、あいつら家族の所為で本気で引っ越しを考えるくらいには迷惑被ってる」

「ああうん、迷惑レベルが目に浮かぶわ。……っかし、ああいうやつが幼馴染だと、恋人とかが出来ても迂闊に家に呼べないだろ」

「あいつ俺に仲の良い女子が出来るとニヤニヤしながら無いこと無いこと吹聴しまくってツブシにかかってくるぞ」

「真剣に殴っていいんじゃねぇの? なにそのクズ」

 

 心の底から純粋に、真顔になって応えるほどに真っ直ぐに言葉をぶつけられた。

 うん、クズだよな。




 他人に他人の悪いことしか語れないヤツこそが悪である。
 そう、この世に悪があるとすれば、それは人の心だ。
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