アンチ・ヘイトは念のためのタグの大半はこれです。
急募:身体は無事に、俺だけ殺す方法
転生した。まず愕然とした。アホかと。
しかし性別が変わり、自身がウマ娘だったことを知ると……愕然とした。アホかと。
「あー……ぁああー……まじかー……。……ぁあああ……」
なぁ我らが友らよ。見ていてくれているだろうか、こんな俺の人生を。……あのさ、転生とかって頭痛くならない? 俺さ、人生やり直すんだーとか、別の自分になった転生先で言ってる奴見るとブン殴りたくなるのよ。過去の自分も含めて。
大体さぁ、“自分”じゃないのに“やり直す”もなにもあるかよアホか。お前そんなに自分のこと嫌いだったの? 自分じゃない人生を“やり直す”とか言う程自分のことを消したかったの? じゃあ記憶も消せよ、“自分”ってものの構築要素なんて大半が記憶だろうが。前の自分が嫌いなら消せるだろなんなんだよお前。
一度目の人生に悔いなんて腐るほどあったけど、逆に腐るほどあったからこそやり直ししたいなんて……ていうか“もう一度人生を歩みたい”とか思わなかったわ。あのー……あのさ? 人生やり直せたとしてさ? 二度目で満足な人生歩めるって誰が保証してくれんの? 俺の人生は学生時代にあいつと出会った所為でぶっ壊れた、なんて奴はいっぱい居ると思う。やり直せば絶対にそいつとまた出会うよな? どうして上手く立ち回れるって思うんだ? 俺はそれが謎でしょうがないよ。そいつの所為で一度目が悲惨だったのに、二度目のためだから~ってそいつと肩組んで笑い合えんの? 俺ゃ無理だわ。だって人の人生を惨めでいっぱいのものにしといて、自分はちゃっかり楽しい人生掴んでやがる激烈クズとなんて肩組めねえよ。
俺、漫画とか小説であるような主人公みたいに、二度目の人生ヒィャッホォゥィとか微妙な気持ちになる感じのアレなアレだよ? だってさぁ……またこのドス黒い“悪”が
はい、それではみなさん質問です。あなたが人生をやり直したいって思うそもそもの理由ってなんだい? ……うんっ♪ たぶん、大体の人が“悪の所為だ”って言うと思うよ? その時その時の自分の“悪”に後悔したり、他人の“悪”に絶望したり。ほぉら、ほんとモリスンさんの言う通りさ。
「まあ……目覚める前に神だの女神だのに会わなかったのは実に結構。なぁにが特典だよバッキャロゥ。二度目の人生、子供から歩めるってことがどんだけのチートで恵まれてるかもこれっぽっちも考えないで。どんだけの人がただただ“やり直したい……!”って願ってると思ってんだよ……。あぁあちくしょう……! 俺じゃないのに俺の記憶持って他人の人生歩むって……! ───……よーし俺は卑怯者だ。今日から俺は卑怯者だ。うわーチートだわ勉強とか楽だわこれでマウントとかすっげー斗馬さんだっぜィウッヒャーオ。……嬉しい? ねぇ、これ嬉しい? ……やべぇすっげぇ虚しい……! なんで俺自分の記憶持って人様の人生子供時代から歩み始めてんのすっげぇ情けないんだけど……! いい大人がやり直したァアアンゥィとかほざいて死んで目覚めて子供の人生略奪とか最低じゃねぇのかこれ……!」
異世界において、チートチートウッヒャッホーイとか燥いでいる転生者らよ。まずは大前提として、チートの意味を確認してもらえるとありがたい。*1
今の時代の“チート”って言葉って、イカサマとか不正とか卑怯卑劣って言葉から逃げるために使ってるようにしか聞こえない気がしないか? そのくせイカサマとか嫌いなんだよああいう転生者らって。俺はいいけどお前はだめとか根性さえ捻じ曲がっていらっしゃる。だから、産まれた時から不正してるのに正義を振りかざす転生者は苦手だ。見ていて悲しくなる。怒りとかじゃない、悲しく……虚しく? なるんだ。
そしてここにも卑怯卑劣の猛者一人。
いっそ泣きたくなり申す。しかしこれで自殺しても俺は殺人者の称号しか得られない。やるせない。こんなさぁ、人生40年は楽しんだおっさんソウルがさぁ、やり直したいなんて願望を叶えてさぁ。よそ様のお子の人生奪うとかさぁ……!
っ……なんで! なんで“俺”でやり直させてくれなかった! やり直すなら俺じゃなきゃ意味無いだろ! それやり直しって言わねーって言ってるじゃんかもう! セーフだとしたら精々で同じ日同じ場所で性転換で産まれるとかそっちだろオィィィィ!! ていうかよそ様に転生とかほんとやめて!? なら前世の記憶とか要らんからマジで! この子かわいそうじゃねぇかマジで本気で心の底から!!
ぁぁあああもう! 転生とかじゃなくて、スタンド的な意味でこの娘の傍で人生のアドバイスを送る存在に生まれ変わり♪ とかならまだ喜んで引き受けられたのに!
はい、というわけで。
急募:身体は無事に、俺だけ殺す方法
「……そりゃさぁ……俺も最初は転生したら~とかチート~とか思わなかったわけじゃないけどさ……。でも……」
でも。人間関係に絶望して、自分の人生に絶望して、自殺した息子を持つ叔父さんが、俺には居た。遺書には、『もし生まれ変われたら』なんてことばかりがずっとずうっと書かれていたそうで、叔父さんはそれを握り潰して引き裂いて、悲しむどころか激怒した。
“自分の今すら変えようと頑張らなかった奴が、『来世こそ、来世こそ』って……! 親不孝も大概にしろよ! そんなにお前はお前をやめたかったのか!? 苦しみながらお前を産んだあいつの前でも同じことが言えるのか!? 憎むならいじめっ子を憎めよ! どんな手段を使ってでもそいつを退けたいって相談してみせろよ! やれること全部を考えもしないで放棄して! てめぇの人生はそれっぽっちの価値しかなかったってのか! ちょっと話せば二度といじめっ子どもと会うことも無く過ごすことだって出来たのに、それすらしないで全部を諦めるだ!? そうかよ……ああそうかよ!! 俺が、あいつが、お前をお前として産んだことが悪かったってことかよ! 何度訊いても大丈夫しか言わないで! 遺書には不満たらたらで! お前は何がしたかったんだよ! 俺もあいつもお前に壊れてほしくて学校通わせてたんじゃねぇんだぞ!? 心配かけたくなかったとかどの口がほざきやがるんだ! てめぇは結局いじめっ子よりも教師よりも誰よりも俺達を頼りたくもなかったってだけで! 俺達の息子って立場からさっさと退場して次を求めただけじゃねぇか! ふざけんなふざけんな! ふざっけんなよくそがぁっ! ふざけんなぁあああああああっ!!”
涙を流しながら憤慨する人を初めて見た。同時にそりゃそーだとも思えた。思っちまったらもーだめだ。自分の価値観裏返ったわ。異世界転生~とか、どうせ他人事で娯楽の中の話なんだから……なんて気楽に見れなくなったよ。実際は転生なんて出来るわけがない、なんて考えてても、それを願って自殺して、それを知って慟哭する身内が居た、なんてさぁ……娯楽じゃ片付けられんのよ、マジで。
叔父さん夫婦はご近所さんも照れてしまうくらいにラブラブな二人だった。そんな二人が愛し合って産まれた子供だ、立派なことを為さなくても可愛かったに違いないし、普通に生きてくれていればそれだけでよかった筈だ。
だというのにその本人は相談もせず不満たらたらでとっとと自殺して、“あ、俺次に懸けるわ、バッハハァ~イ♪”みたいなノリで二人の息子って人生を捨てたのだ。アホだよね、次があったとして、今を捨てたそいつが次で成功できる確率なんざ低すぎるだろうに。
なんだそりゃって怒りたくもなる。泣きたくもなる。結局二人はもう一度子供を、なんて気分になることもなく、二人で静かに暮らしている。
子供って存在に諦めを抱いてしまったのだ。いじめる存在にも、諦めて死ぬ存在にも。あ、とりあえずいじめた奴らは世間的に血祭にあげといた。匿名で自殺したタコの日記とか音声とかまあいろいろ、いじめた奴らのご近所様に無料配布しといたからね。ご近所に知らしめるためなのかは知らんけど、主犯格の男が家の外に連れ出されて、ヤクゥザみたいな親父に往復ナックルされていたのが懐かしい。
……まあ、どんだけ殴ろうが、相手が死んだって事実は覆しようがないんだけどね。ひっでぇイジメの内容を知ってるご近所さんからしてみれば、一時的に殴った程度の話なんて『……だから?』で済まされるようなもんだ。
とまあ前世でいろいろあったわけだけど、自殺だの慟哭だの、躾だの白い目だの……そんなことを目の届く範疇でやられちゃね……。ってことで、以降。俺は転生だーやり直しだーとかアホらしく思えてしまって、やり直せるってだけでどれだけ恵まれているかも知って、でも……人の悪意を知れば知るほど、もう一度人生を歩むってことがどれだけめんどくせぇことかも知った。
40年は生きた。でもさ、知れたことなんて、ほんの一握りの“楽しい”と、世の中ってめんどくせぇってことばっかなんだよ。
“楽しい”を味わいたきゃ、いろんなものを我慢しなきゃいけない。その我慢を強いてくるのはいつだって“悪”だ。
チートを得たって、人として生きるなら“悪”に囲まれて生きなきゃいけない。そしたらチートだのなんだのなんて言ってられない。俺が俺じゃないなら記憶だってもちろんいらない。なのに……
「あー……はぁ。さぁて、画面の前の諸君よ。見てる人居る? ……まあ居ようが居なかろーが独り言が増えるのは変わらないか。……さあ皆様に問題だ。よくファンタジー転生・魔法学園モノなどで転生者が踏み台傲慢イケメェン? くんに絡まれる内容をお知りだろうか。ほらほらアレだ、成績勝負~とかよくあるあれ。その時彼ら彼女らは決まってこう言うな? “不正をしたんだろう!”って。……一度訊いてみたかったんだけどさ、そういう奴らを前にする主人公くんのこと、どう思う?」
……正直、俺はすっげぇ見てて恥ずかしい。
「───ズル、してるよね? 思いっきりしてるよね? 認識として“自分でチート”って認めてるのもそうだけど、いやー……ぬぁああにをすまし顔orドヤ顔で『僕はそんなことしていない(キッ)』とか『実力だよ(ニッ)』とかほざいとんのだろうね、彼ら。記憶持ち込んでる時点で、人生経験がウン十年ある時点で、ファンタジー等の魔力上昇のセオリーとか知ってる時点で、子供からやり直してる時点でチートだよね。しかもそれを幼少の頃から試せると来た。なのに不正はしてないんだってさー。あっはは頭大丈夫かほんとマジで」
ああいうことがあって、一度どころか根っこの方から転生ってものへの気持ちが反転、スン……と冷えてしまった心の所為で、転生モノにはツッコミどころ満載なのはまあ……あるあるだから分かるんだ。そういうのを楽しむってものもあるんだろう。
叔父さんの慟哭を聞いてからは、余計に冷静な目で見れてしまった分、転生といえばチート能力って常識みたいに思われているのって、正直頭が痛い。
だからね、俺的には能力なんてもんはなく、フツーに平民として過ごす系転生者とかめちゃんこ好き。大体転生者ってのはてっぺんを意識しすぎなのだ。転生したなら上を目指さなければ~みたいな奇妙な野心を絶対持ってるでしょ? いいから万年Eランクの薬草採取メンか農家のお仕事をのんびり過ごす、でいいじゃない。
え? 生前やってこれなかったようなことをしてみたい?
よろしい、ならば農業だ。
農家の産まれでもなければほぼ経験なんてないでしょ、十分素敵な経験じゃん。
ファンタジーに来たからって剣と魔法で過ごさなきゃいけない理由なんて無いんだしね。
……話を戻そう。えーと、貴族様に不正をしたのだろう! とか言われた時の、主人公の『不正はしていません!(嘘)』に対する冷静な答えの話だったね。
「……あのー……さ。赤子の頃から自我と前世の記憶を持ってて、ファンタジー漫画とかで見た鍛錬方法で自分を鍛えながら成長した~とか、それカンニングもいいところだよね? 知識としてあったからしょうがない? だからそれがチートだと言っとるのです。なんで転生チート能力好きの人は、記憶を持ったまま新しく生きること自体を“チートである”って頑なに認めないんだろうか……? そのくせ役に立たない能力が~とか言い出すヤツは……ほんとなんなんだろう。あぁああああ成績勝負でドヤ顔キメる転生者の気持ちがこれっぽっちも分かんねぇええええ……っ!! エッ……はっ……恥ずかしくない!? 恥ずかしくないの!? ねぇ! 俺これから生きていく中で、成績とかでニヤケ顔とかしないかどうかがめっちゃ不安なんだけど!? ぃゃっ……嫌だっ……嫌だァ! もう他人の人生なのに、俺の知識で『あはァンらあらあらお利口さんでちゅぬェェ~ィェ♪』とか言われたくねぇえ!!」
いやそりゃ勉強はするよ!? このボデーに恥じぬ生き方をしたいとは思いますよそりゃあ! こうなっちゃったんなら俺の人生のやり直しとかクソほどどうでもいいわ! 便所紙と一緒にトルネード流れてしまえ!
俺にとっては二度目でも、この体は一度目なんだぞ!? それを好き勝手に生きて『人生はバラ色だー!』とかアホか! 死ね! 死んで“俺”をやり直せるなら今すぐやり直してぇわ! 今すぐ俺の魂なんか抜いてこの娘に人生歩ませやがれよ!
そもそもだ! チート、なんていう言葉が許容されてるからいけないんだよ! チート能力なんて言わずに卑怯卑劣イカサマズル能力とか言っとけコノヤロウ! 喜んで呼んでくれるわ!
タイトル:『異世界イカサマ不正転生 -女神様に貰ったイカサマ不正能力で無双する-』とか真っ直ぐなタイトルで、主人公も『俺は存在自体がイカサマなんだぜー!』とか明け透けだったらもう手放しで応援出来るね! 人間性は大事だと思うけど!
「ちくしょう……! 恨むぞこの体に俺ソウルなんて容れやがった奴……!」
寝ていたらしいベッドから降りると、部屋の中にあった姿見が目に入る。まあ、これでベッドの上から自分を見たから、自分がウマ娘だ~って分かったわけだけど。
「……とにかく。ウマ娘だ。公式によれば、ウマ娘……彼女たちは走るために産まれてきた、とか言われてるし……」
……つまり、今世で俺が為すべきことは。
「
…………やだなぁ。
走るからにはこの体の持ち主ちゃんに恥じぬ走破を見せねばとは思うけどさぁ……体の鍛え方動かし方とか知ってる自分が、幼少の頃からそういった知識で鍛えて、そこでてっぺん取ろうとか……あぁああチート無双みたいになるじゃないか……!
やだなぁ……ああやだなぁぁあ……! 俺さぁ、ついさっき『転生者はてっぺんを求めすぎ』とか言ったばっかだよ? なのに目指さなきゃいけないの……? いやいいじゃんべつに、普通にさ、農家目指すのでも。そっちで満足しません? のんびり人参でも作っていこうやマジで………………ぁだめだ、この身体のソウルがどうしたいのかさえ分からん俺じゃあ、どうすることもできん。
チート能力無双なんて俺ほんと嫌なんだけど…………え? チート能力がないならチート無双じゃない? ……だから生前の記憶だってファンタジーじゃ立派なチートなんだって言ってんでしょうが!! たとえば初めてのキャンプ等をグループでしたとして、妙に張り合う悪友の砂田くんとかが居たとするよ!? 彼は本気でキャンプ素人で、でも自分は経験こそないけどキャンプの知識は腐るほど持ってます! はいどっちが有利ですか!?
今の話はそういうことなの! 分かる!? 知識くらいいーじゃねぇかって話じゃないの! 産まれた時から、他が持ちえない知識を持ってるってことがずるいっつーとんのですよ! ずるいならチートでしょうがなにかご不満でも!?
知識があって、その通りに、自発的に、考えて、自分で、行動出来るからチートなんだよ!
よっしゃじゃあ例えだ! そんなチートさんな知識を持つ親やら親戚やら乳母やら執事さんやらが居たとして、じゃあそれを転生者でもないフツーの主人公くんが赤子の時に教えられて、100%自発的に、この通りの鍛錬をしよう、って考えを赤子がするか!? 無理でしょうが! それが出来るからチートだって言ってんですよ!
チート転生で
そんなやつが天狗になってマウント取って来て、果ては『やれやれ……この世界の魔法は遅れてるな』とか言い出したらどうする気持ち悪いわ!!
人間、先人の知識のお陰で様々な土台が出来てるところは誰だって同じなんじゃい! それをなにをさも自分の知識で~みたいな感じでああああああああ!!
嫌だー! 俺の人生じゃないのに俺の前世の知識持ちとか嫌だあぁああっ!!
「あー………………」
普通の転生者だったらほらあのー……走ること、勝つことを妄想して、一度は思い浮かべる“俺・僕・私・アタシが考えた最強のウマ娘”を目指したくなるというもの……だろうか。
え? ならない? ならない……そう。うん。そりゃあね、俺もそうだよ。
正直“最強だからなんなんだー”って気はあるにはある。でもさ、このボデーはそうではないのかもしれない。俺ソウルなんてインストールしてしまった所為で、もはや“どうしたいのか”すら分からんけれど……もしや、と思ってしまえば。ウマ娘として産まれたならば、と。
前世の死因なんざどーでもいい。こうして、そう……今ここにこうして立っていることが何より重要なのだ。
子供の自分。ウマ耳があり、ウマ尻尾がある、全身鏡に映る俺。
髪は水色。髪はヘンにいじっていないようで、ストレート。
名前は……両親がなんか特に迷うこともなくつけてくれたらしいです。それが、ジェノサイドハート……なんて名前だった。正気か。娘に、女の子につける名前か? これが……。人間の女の子だったら美幸って名付けるつもりだったそうです。おたくらなにか、ウマ娘に恨みでもあるのか。もしや食費か!? 食費を気にして、俺がエンゲルさん的な意味で心をジェノサイドしそうだからこんな名前にしたのか!?
「……おちちゅこう」
気を抜くと、なんか舌ったらずみたいな声になった。そりゃそうだ、ちっこいもの。ちゃんと喋ろうと強く意識していると上手く発音できるのに、力を抜くとかみかみ語みたいな感じになる。未発達、発展途上っていうのはこういうものなんだなぁ。
「……んぅ?」
……あれ? なんかおかしくないか? いや、今の俺、幼稚園・保育園に入っているかも怪しい小ささなんだけど……あれ?
「……名前といい……もしかしてこれっ……これって……!」
問題。こんなちっこいお子が、
はい、ベッドも足をかけて昇るようなちっこい梯子っぽいのがあるベッドです。
他にベッドも布団もありませんし、勉強用の机が一つ、ちょこんとあるくらいです。
これに対する答えを求めよ。
「…………真剣にこれ、親に要らないモノ扱いされてない?」
ごきゅりと喉が鳴った。
美幸だなんて名付けたくなかったウマーニョ。結果がジェノサイドハート。
そして、こんなちっこさなのに部屋を宛がわれて、強制ひとりでできるもんをやらされてる現在。これは……いやマテ? もしやすれば、親がアハン
「………」
ま……まあ、いい。いいってことにしよう。そして現状の確認をしつつ、先のことを……っていっても体が小さいのなら、成長段階ならば、未来へむけて鍛錬あるのみだ。それしか出来ない。
そしてウマ娘転生で走る技術とか体力的な向上っていったら、やっぱり全集中の呼吸か波紋の修行でしょう。…………あー……ほらみろ、フィクションの中で“前世の知識がある”ってだけで十分チートじゃん。これで特典よこせは勇気があるっつゥかアホだぜスッパァーーーッ!! ……と、コスモスのマルボロを真似ていないでと。
「……やれること、まとめていこうか」
決めたのだ。俺はこの体を……この娘の将来を、こう……ウマ娘的に幸福の絶頂へと導きたい。そのためなら手段は選ばんし、俺ソウルがどうなろうが知ったこっちゃない。頂点なんか俺ソウル的にはどうでもいい。マジでどうでもいい。むしろ死ね。俺の魂だけ。けれどこの娘のことが心配なのだ。親に見捨てられてるとしたら余計に。
うむ、そうと決めたところでやれること。
全集中の呼吸は肺の強化や身体機能の活性化。波紋の呼吸は怪我や骨折を強引に治すのに役立てる。なにせ骨折していた筈のジョナサンの腕が、岩を持ち上げられるほど回復するレベルでの回復力だ。さらに全集中と同じく身体能力の向上も見込まれる。
なのでこれらの習得は必須。そもそもいくらフィクションとはいえ修得できない可能性もあるけれども、そんなものは俺の努力と根性と腹筋の問題だ。
そして、そうであるなら俺が……この体こそが、この世界での頂点になるのだ……! まあさっき思った通り、俺自身としては別に、頂点とかクソほどどうでもいいんだけどね。転生者とか転移者は欲張りすぎなんよ。どうしてあそこまでわざわざ面倒なことに首を突っ込んでいけるのだろう。これが分からない。
「はぁ……まあ、どうせなら夢はでっかくだしね」
すまない、本当にすまない。一度目の生命を二度目の生命で上書きとかほんと外道の所業だと思うわ……。せめてこの世界でのウマ娘としての誉を得ることで、どうか喜びの少しでも感じていただけると嬉しい。
あ……でもなぁうん。有名な知ってるウマ娘とかの邪魔はしたくないなぁ。俺はどの世代で、どんな同期がいるのやら。
とりあえず髪型とかいじってみよう。前世じゃオシャァ~ルェとか全然だったし、美容とかにはなかなか興味はある。なによりこの娘、ウマ娘だからってことを差し引いてもバツグンに可愛い、と思う。前世のぱっとしない普通なおっさんフェイスなんざどうだっていい。今世のこの顔を前に、美を、可愛いを磨かないなど愚かなる行為に候。無頓着でだらしない所為で、この娘が馬鹿にされるようなことなどあってはならない。
俺は全力で……この娘の幸せを願い、行動することをここに誓おう……!! そのために薄汚い二度目系俺ソウルが削れちまおうが壊れちまおうが消滅しちまおうがなんの問題が?
「なんの問題ですか? なんの問題もないよね? 大丈夫だ、問題ない。……OK、ラミレスビーチの誓い」
さあ、卑劣な外道ソウルがいざ参る。チートとは不正でイカサマの証。それを当然のように武器にして、不正はしていないとほざくチート転生者のように、このボデーの果てへといざゆかん。
とりあえず髪は……ウマ娘じゃメジロアルダンの髪型とか好きだし、あれと同じように…………ムズッ! 髪型整えるのムズッ!!
むしろ清楚でもない俺にあんな髪型とか似合うカナ……いや、好きな髪型にしたいってだけだし、ほ、ほら、えーとあのー……ギャップとか、なんかいいかもだし!?
でもこの娘の体、声がめっちゃ綺麗なんよなぁ……こんな声で俺の思考とか呟くの、すっげぇ罪悪感……。あ、ウィニングライヴ用に歌の練習もせんと。この美声でもって、お客さんの心を掴み切ってやりますぜい。
……ああええと、ちなみに俺、幼稚園通いでした。
しかも4年保育で基本放置。
送り迎えもねーから一人で行って帰ってしてるのよ俺。
金払って、とりあえず押し込んどけって魂胆が見え透きすぎてる。
どんだけ俺のことどうでもよく思ってんだあの両親。
……。
そんなわけで───特訓開始です。ここからは奇妙なダイジェストでお送りします。
元・人オスの鍛錬風景なんて眺めても面白くないだろうしね。
「コォオオオオ……っほげっほごほっ!」
で。まずはちっさい内に癖をつけるがごとく、肺に負荷をかけることを意識し始めた。結果は散々。原型……といえばいいのか、完成した形としての波紋法っていうのはまあ知っているつもりではあった……けれど、実際にこうして動いてみても、そこに辿り着けるイメージを作るのを、前世の自分が邪魔をする。
「スハスハスハスハスハスハスハおげぇええっほごほげほ!! おっほげほっほげえぇっほ! ~……考えてみれば一秒間に10回の呼吸って何ィィィィ!?」
世のSSなどの転生者らは異常だね。生きてきた自分、経験してきた自分があるのに、なんでそう容易く“波紋法が出来る、全集中が出来る”なんて信じられるのか。かめはめ波を真似たことのある人なら分かるだろうが、“フィクションはフィクションだ、出来るわけがない”なんて意識がどうしても存在する。傘を逆手にアバンストラッシュを真似ようと、出来ないのだ。出来はしないのだ。
そりゃさ? ドラゴソボーノレの世界に産まれた~とかならわかる。スゲーよくわかる。その世界でいずれは出来ることなら、それがフィクションだなんて思わないからだ。しかし、フィクションといえど世界が違えば『出来る』なんて案外思えないものだ。
それでもこうしてウマ娘になったからには、という一部のファンタジーを経験したからこそ、ほんのちょっぴりだけ“出来るかも”が生まれた。頑張れる理由なんてそれっぽっちだ。
だからこそ一秒間に10回の呼吸を意識することも開始して、はい、失敗しまくってる。どうせ出来ない、が挙手し始めるのに時間は要らんかったよ。だってそうだろ? ウマ娘になったとして、じゃあかめはめ波撃てるの? って言われたら絶対無理だ。それ考えれば波紋法だって全集中だって出来ないに決まってる。そう思ってしまう。
「スゥウウ───…………………………、~……、……!? っ! ~っ!! ぶはあっ! はっ……はぁっ! はぁっ……10分長くない!? 10分っ……え!? 10分だったよね!? ながっ……長くない!? 人類に到達できるの!? 水泳選手で5分~とかなら聞いたことあるけど…………あ、じゃあ出来るか。ジョナサンだもの、水泳選手に勝てないで、ゾンビたちに勝てるわけがない」
でもまあそれはそれとして、どうせ別のなにかになったなら、とも思えてしまうから、これもまた、前世を生きたからこそ。“出来るかもしれないじゃあないか”がひょいと頭の中に浮かび、それがこの娘の将来に繋がるのなら……と変換されると、黙っていられないのが男の子。日々の成長だけでも既にヒト雄の頃の俺の握力を越えたあたりで、“あ、これいけるわ。いけるわこれ。っべー”って感じで、少しずつ前世の常識は壊れていった。
なので、自分を鼓舞するかのように……10分間息を吸って、10分間息を吐く鍛錬を続けた。結果は散々だけど、気づけば笑ってた。普通の波紋法は5分吸って5分吐く、で完成だっけ?
「───………………ハ……………………~……すぶふぉおっはぁあっ!! ~……いやキッツ!! 吐く方10分って、吸うよりきっつい! ……ハッ!? そういや吸う方も、吸って10分耐えるんじゃなくて10分吸うんだよな!? 無理っ…………アァアアアアア!! もうやってやらぁああっ!! 無理無駄出来ないやりませんは異世界転生において人生をつまらなくさせる魔法の言葉だ出来る出来るやれるやれる気持ちの問題やれば出来───あれ!? ひと呼吸で結構長く喋れるようになってない!? ……効果出てるよコレー!! うおおぉおおおおおっ!!」
当然最初は苦労したものの、体がウマ娘だからなのか、発展途上の中で“そうする”という完成形を明確にイメージ出来たからなのか、一年が経つ頃には5分間の吸って吐いてが、
「ゲロゲロゲロゲロタマタマタマタマギロギロギロギロクルクルクルクルドロドロドロドロ…………息継ぎ無しで共鳴五分達成ィィィィ!!」
2年後には10分間が可能になった。
あと気づけば両親から“頭おかしい”って目で見られることが多くなった気がする。今さらだけどね、幼稚園児に向かってなんば言いはらすばいこんげら。
とかなんとか思ってたら、なんか妹が出来ました。……やっぱ普通のお子が欲しかったんだろーね。ほんと今さらだ。だってそのお子がウマ娘じゃなくて、人メスなんだもの。しかも両親の嬉しそうな顔といったら。や、ほんとね、親の愛情とか心底どうでもいいけどね。もし俺ソウルが消えてこの娘が生きることになったら、寂しい思いするんかなーって。……まあ、そうは思ってもこの両親にゃあなんの期待もしないけど。するだけ時間の無駄だし。
ィヤッハッハッハッハッハ、いやー……こうして改めて見ると、アニメ世界ではあっても髪の毛フサフサの赤ちゃんなんてナイナイ。転生モノの赤子ってなんであんなにフサフサなんだろね? お母さんのお腹の中、抜け毛だらけになったりしてない? 大丈夫? うーん、なんともふーしーぎー。
と、それはそれとして、はい。10分間の吸ってor吐いてが可能になりました。その結果として、歌を一本フルで歌えるようになった。すげぇ。一回の息継ぎでこれって、頭おかしい。なるほど、頭おかしいわ。
「……息継ぎ無しで歌をフルで歌えるって、出来るようになってみるとキモいなおい……でもこれで終わりじゃあない……! マスクとかつけて、さらに負荷を……!」
しかし、鍛錬してるとしみじみ思うけどさ。……すげぇよなぁ、って。ここまでとはいかなくてもさ? ジョナサンてばこれをほぼ一日? 半日? くらいで覚えて戦闘に赴いたんだよ? 才能の塊すぎるよね。
「運動をしても呼吸を乱さないように……汗は流しても呼吸は安定。意識しろ、集中しろ、やれない出来ないやりませんは自分の中から滅ぼしていく……! どうしても消えないのであれば、怠惰や諦めにこそそれを向けていけ……諦めるなんて出来ません、怠惰なんて無理です、努力をしないなんてとんでもない! ……オロナミーン・Cーィイイ!(訳:よっしゃー!)」
波紋法の修行を続ければ続ける程、ジョナサンへの憧れといえばいいのか、そういったものが溢れてくる。のちにツェペリさんから
家族? ええはい、もう俺という存在の奇行には慣れてきているご様子。
「憧れがパワーに変わる! 理想は現実に! 夢は希望に! アッ……今なら無呼吸連打とか出来るんじゃ!? なんかこう、スペックのように……あ、それを走法に向ければいいわけか! ……無呼吸じゃ波紋法意味ないじゃん!」
いやー……それにしても、ディオとの決戦も含めて多くて4日あたりでこれを修めた、って、ジョナサンはほんまバケモンやんな。でも大好き。ジョジョではジョナサンが一番好き。
「───……………………っ───!! ……あー! やっぱり無呼吸のままの激しい運動はまだまだ続かない! 波紋の呼吸で吸いこんで、そのまま走ればどれくらいいけるかってやってみたけど……でもこれ面白い! ようは10分間の吸って吐いてのうちにゴール出来ればいいんだから、一本走るくらい余裕に出来るようになろう。うん。全速力で5分走っても呼吸も乱れないようになれば、1800mだろうと3300mだろうといけるいける。……問題は足の速さですがね。うん……」
気づけば頭の中はジョナサンへの憧れと敬意等でいっぱいであった。そして、そうであればあるほど修行に身が入り、結果も出てくるようになった。
……いいよねジョナサン! アイズオブヘブンで承太郎に“スタープラチナ以上のパワー”とか言われてるのとかを見て、スゲー笑顔になった俺が居る。ジョリーンとの話もいいよね、あのジョリーンが、“この人なら私を信じてくれる”って無意識に信頼を向けてるところとか。いいよね、あれ。
「冴えない顔はァアおっよっしっよッアァーンタァーーーッ!! 地球はでっかいフーラーイーパーン~ンン~ンン~♪ 弾けてドンヒャラ浮っかっれってッおーどりゃァアーーーッ! たーのーしーいーじーだーいーッ! が待ぁ~ってぇぃるゥぜ~ッ! ぁあダァ~ンスダァ~ンス・ハァ~ッピィ~ダァーーーンス!!*2 ……無駄に喋りながら運動しても全然呼吸保つな! なんかもう楽しい! 波紋法楽しい! そして今日も独り言大好きな俺、参上! ……関係ないけどショート動画とか見てる時、嫌っていうほど流れる歌とかって頭に残るよね。その所為で頭にこびりついてた時にクッキングパパを見ちゃったからこんなリズムに……! ショート動画見てるとさ、その時一定の人気を得てる歌とかしつこいくらい流れてオイオイまたかよ……ってなるよね!! ……ふぅ、よぅし! 今日も話しかける友達も居ない! だが知ってほしい! ぼっちっていうのは鍛錬において最強! 誰に時間を取られるでもない、自分のみに全力で時間を振れる、最強にもっとも最短で辿り着ける種族ぞ! ……最も最短って意味被ってるな。まぁ気にしない気にしない……辛い鍛錬とか、もういっそヤケクソとか混ぜなきゃやってられないしねほんと……。『元・だらけ怠けたい社畜メン』としては、こんな陽の当たる坂路を登りまくるような所業……“どうせ俺なんか根性”が湧き出してきて辛いっていうか……ハハ───ぁぁあああ違う違う違う! 頑張れ俺負けるな俺! この娘の幸せのためにも頑張るって決めたじゃないか! 俺が負けようがどうだっていい! だからこの娘の敗北なぞ二度目のクソ魂を使い切ってでも許すな! ───というわけで深く深く呼吸をしながら限界までスクワットだ! それが終わったら腕立て伏せ、腹筋……うおー!」
こうして鍛錬していることで思い知ることは多々ある。波紋法での戦闘方法を33日以内に修得できたジョセフやシーザーだって、やっぱり、もちろん、当然のごとく才能の塊やったんやなって。
いろんな人は承太郎が好きなんだろうけどね、俺、前世は努力する人ほど好きだったから、ジョナサンのほうが好きだったのよ。ジョセフは許されるなら努力はしたくない派だったから、もうちょっと頑張ろうぜって気分だったけど。……あーあの、ほら、失うものなど何もなく、ただ“はい、スタンドです♪”で無敵のスタープラチナを手に入れたとか、なんという悲しい運命ッ!! てくらい寂しく感じなかった? ジョナサンは確かに途中でツェペリさんから深仙脈疾走を受け取ったけど、代わりにツェペリさんを失った。力を得るためには犠牲が……とかそういうお話じゃないにしても、そもそもあんなちょっぴりの修行でいきなりボスラッシュに行くような所業がツラすぎるのだ。
……まあ、言ったら、深仙脈疾走を受け取ったからって結果もあるだろうけど、スタンドのスの字も知らない内から、人間なのにスタープラチナ以上のパワーとかラッシュ力のある生身とブチ当たってしまったディオには、ご愁傷様としか言いようがない。
……受け取る前からオラオララッシュばりのラッシュをブラフォードにしてましたとかは考えなくてもいい。つまり、ちょっとの間だけ集中して鍛練しただけなのにあんな強さになるジョナサンのポテンシャルの高さが凄まじすぎるのだ。
「スゥ───…………ふんっ! (ルームランナーで全力ダッシュ! 吸いながら全力で、苦しくなったら吐きながら! ……あ、やばい! なんか頭の中から幸せ物質が! これランナーズなんちゃら!? あ、エンドルフィンか! なんか楽しくなってきたー! うおおおおー!!)───……あ、ところでここで令和コソコソ噂話。……ん? 令和? 前世では令和だったけど……そういや今何年だっけ。まあいいや、とにかくコソコソ話。……歯磨きをすると、なんかトイレに行きたくなりませんか? 夜とか特にこうぉわぶべっしゃちぇるしぃいいーーーっ!? ぉゎいってぇえええええっ!! いぃった! 痛ッ! へきゃあああーーーっ!!
ヘンなこと口走った所為で喉に息が詰まって、びっくりした途端に呼吸が乱れて足を滑らせて、高速で動くルームランナーに顔面から落下するように転倒。ギュィイゴリゴリと顔面を削らんばかりの勢いで擦られた。思わずルームランナーで顔面を削った春巻先生のように、ちぇるしーと叫んでしまうほどに大激痛だった。
……え? 親が慌てて駆け付けたかって? いやないない、あの両親、ほんともう妹に付きっきりだし。俺なんて“このルームランナーさえあればこれに夢中になるでしょ、ウマ娘だし”みたいな態度で放置され放題どすえ。……まあ、ええねんけどね? 今さら構って~とかそんな気分でもないし、むしろ元社畜としてはほっといてくれたほうがやりやすい。
「ビッバノォ~ンッ♪ ………………ホォォアアアア!?」
……などなどと。長々と鍛錬を続けた先。呼吸の強弱を意識、体が“やりやすい”と願った方向での呼吸法を馴染ませ、時に強いて、時に慈しみ、どこまでもどこまでも高めていくと───自然! 風呂に入った時、俺の体を中心に湯船に波紋が広がるようになっていたッッ! そう───波紋法の完成である!!
そうッ! この瞬間ッ! フィクションへの『できるわけがないっ!!』は、『頑張れば出来るのだ』に裏返ったのだッッ!!
「これは……勝ったなぁ! ガハハハァ!!」
いや待てまだだ。走るだけならそれでいい。波紋の呼吸は乱れさえしなければ、身体能力の爆発的向上が見込まれる。実際、吸いながら走る、吐きながら走るは、既に全力で5分は可能になっている。スペックの無呼吸連打だって出来ちゃいます。
……? あ、ああ、うん。園児なのに既に一人で風呂入ってますよ? 数回一緒に入っただけで、なんかフツーに湯船に浸かったり体洗ったりする俺を見て、早くも放置されました。所詮転生者なんてそんなもんである。
「…………グーム……」
そんなことより呼吸法だ。波紋を強く練られたとしても、全集中・常中を組み込まなければ雷の呼吸やらといった速度に活かせるものは繰り出せない。炭治郎くんみたいに一歩を弾き出すことは出来ても、そのたった一歩で足を痛めてちゃレースは出来ない。全力で走るっていっても、俺……なんかウマ娘の中ではそんなに速くないっぽいし。波紋法を混ぜて肉体強化してもこれなんだから、波紋法も知らずに走ることに夢を持ってたら、確実に破れてたよ。夢、破れたりか……とかレイヴンズネストの地下の底の底の獄で改造人間にされるレベルでダメダメだった。
「ぬ、ぬう……テレビの中のウマ娘たちのなんと速きことよ……俺も頑張らねば」
や、常中だけでも速度が増すのは無限列車編の煉獄さんが線路を走ってる部分でよく分かるから、それはいいんだ。
だからつまりそのー……波紋の呼吸をしつつ、さらにそれを全集中に近づけられるように───?
「………おや?」
……そもそも全集中の呼吸ってどんな感じだっけ。波紋はこう、コォオオって感じだから分かりやすかったんだけど。シィイとかホォオオとか……あれ? 波紋の呼吸を常中レベルに昇華できればいいのか? こう、耳から内臓がまろびいずるレベルで呼吸を強くすれば───つまり、こうしてこうして───コォオッ!!
(───ア)
どくんってすごい音。運動しすぎた時に体内から耳へと伝導して聞こえる、あの頸動脈の躍動みたいな音が、一気に跳ね上がったような、動脈を破裂させんほど膨らんだかのような───
「ギャアアアアア!!」
やってみたら本気でやばかった。体内の全てが急激な活性に驚きすぎて、冗談抜きで臓物が耳からまろびいずるかと思った! ちなみにまろぶって転がるって意味らしいよ! ここ、テストに出ます! うそです出ません!
「いぎっひ……ひぎっ……いっひ……! いぢぃいいちちち……!!」
本気で涙がこぼれるほどの激痛であった。
これは時間をかけてじっくり馴染ませないと……!
……。
勉強と、運動と、五臓六腑の強化など。飽きるほどに自分磨きを続けて、果たしていかほど経ったのか。
「COOOOOO……!!」
早朝。健康のために朝日を浴びようと、まずはお外で波紋式深呼吸。あ、起きた時にお口のケアとして、うがいをしてから行動するのも忘れません。寝起きには冷たい水を、などと言うお方もいらっしゃるようですが……とんでもない、臓器をびっくりさせるような温度のものは、いきなり飲むと危険です。ので、多少熱い程度のお湯をくぴぴと飲んで、お外に出て、呼吸を続けながらのストレッチを開始。
やがて朝日がこの身を照らし始めると、体が覚醒の時を迎えていくのを感じた。
直立。目を閉じ、俯き、伸びをするような感覚でンゴゴゴゴ……と全身に力を込めて、その伸び的な感覚が薄れてくると両腕を持ち上げていって、
「目覚めろ、大地よ……!」
とか七枷なヤシロさんのように言って、伸びを終了する。もちろんクロスして持ち上げた腕を振り下ろしてから。うん、意味はない。作品によって目覚めろだったり目覚めよだったりするのも関係ない。俺は目覚めろが好きだった。うん。
「……ふう」
早朝に朝日を浴びておくと、夜に眠りやすくなるそうです。寝起きから30分以内だっけ? まあ一応、前世からのルーティーンだ。社畜としてはこれをやって、夜にはしっかり肩まで風呂に浸かって温まり、ホットミルクなどを飲み、ストレッチとかしないと熟睡できなくて大変だった。ストレスとかって不眠症を引き起こすからね~……まあ効果があったかは知らんけど、睡眠の質を高める乳酸菌~とか飲んでた。サウザンド・ヤクノレトは見つけられればめっけもん、みたいな感じだった。同じく効いてたかは知らん。
朝起きてからの熱めのお湯は、腸活にも効果的だからやってみよう。コップ一杯の熱めのお湯を飲むのです。白湯の方がいいらしいけどね、そこは30分以内に朝日を浴びるために省略だ。
あとストレス溜まってるなら、頭とか首周りのリンパマッサージとかオススメです。ストレス社会に牙を剥け!
「……ンッグ……スゥ……ハァ……ンッグ……コォオオ……!! 汗が……止まらねぇさ……!」
そんなこんなな様々な前世知識やら豆知識やらを以って、トレセン学園入学までに出来ることを増やさねば……! と必死こいて鍛錬して、ウマ体力を以てしても究極にへとへとになるほど運動。この時点でもういろんなウマ娘さんらとは差が出てるのは明確だ。ほれ見んしゃい! 知識ありの二度目なんて、チートもいいところじゃないか! よくこれで特典もくれ~なんて言えたもんだな転生者どもは! そんなだから『転生するからチートをよこせ』『っ……! 転生者の人っていつもそうですね! 女神のことなんだと思ってるんですか!?』なんて思われるんだ。
そりゃ知識はあっても出来るとは限らないじゃないか……! なんて言えもしましゃう!? でも一歩も二歩も前を走れる方法や応用なんざいくらでも頭ン中にあるのと違う!?
やはり俺の心こそが悪……! この娘自体はこげにめんこいといふのに、俺の魂ばかりがこんなにも悪なために、嗚呼なんといふ……! ……まあ、今さらやめるつもりはないけどね。
「FUUUUM……成長を実感できると、努力の甲斐って妙にこう……頷きたくなるっていうか……fufu、努力の末に、友達ゼロですがね……」
日々、ジェノちゃんこわい……と人々に距離を取られるほどには必死こいて己を鍛え続けた。しかし運動馬鹿ってわけでもない。狙うは文武両道。波紋の呼吸が疲れなどを癒そうとも、その上でへとへとになるほどの運動後の栄養補給、そして勉強は、実に効率の良さというものを俺に与えてくれた。
「……なんか、鏡見ると勝手に笑みが浮かぶこと、増えたよなー……」
や、聞いてくださいよ奥さん! ウマ娘って美人しか居ないっていうけど、それが自分だと磨き甲斐があるのですよ! 男であった頃は“美人・カワイイは作れる!”なんて言葉を聞きはしましたけどさ!? いざ作ってみるとこれがまぁ~ぁあああ最高に楽しいのだ! そうなれば……作りたくなりませんか、理想を。というわけで、美よ、愛よ、今こそ目覚めよとばかりに肉体改造も続けた。
「フー……。…………(嗚呼……カワイイ! 名前はあれだけどカワイイ! もっと、もっと美しくなりたい!)」
やがてウマ娘として、カワイイが成長していくに従い、俺は───シュゴォオーーパパァーーーッ! とか奇妙なオノマトペが付きそうなくらい、なんだか信じられんくらい美しいウマ娘に成長していた。
や、幼稚園児とは思えんくらいには背も高くなってて、なんで? って思ったけど……波紋? 波紋効果? でもあれの外的効果って若々しさを保つくらいしかなかったんじゃ……? ……もしやウマ娘だからか!? 野菜星人みたいに全盛期の体を保つために、って体が大きくなろうとしてるとか!? ……ま、まあ、外見だけなら小学3年あたり……かな? だからまだまだ育ち切ってない筈なんだけど……なんか随分成長した。やっぱり“なんで?”と思ってしまう。
「成長……成長? …………ハッ!? そういえばウマ娘には本格化、なんてのがあって───……テレビの中のウマ娘さんより遅くて当たり前じゃん! なにやってんのわたし!」
や、うん。より走るため、ってウマ娘的に背がまあまあ高くなるのは分かるんだけど……それにプラスして凹凸がしっかりするのはいったい……!? ウマ娘には美人しか居ない、というのは常識だから、それに倣って体形も綺麗になっていってる……とかだろうか。“このボディ幸せ計画”の一環として、体形の美しさにもこだわっているつもりな俺だけど。ほら、波紋を練りつつ、胸や腰回りやお尻により良い血液循環がなされますように、って意識は常にしてる俺だけど。
でもさ、俺以外にもウマ娘の子は居るんだけど、俺ほどおっきくないです。正直やりすぎたんじゃ……!? とか思わないでもない。なんか一人だけ巨人みたいだし。一人だけ頭ひとつ分でっかい感じですごい奇妙な気分だ……! ヒシアケボノさんはきっとこんな気持ちで生活していたのでは……!?
けどそのー……うむ。こう……いや、なってみて知ったけど胸ってほんと重いんだな! 男であった頃はおっぱい馬鹿だった俺も、さすがにこう、自分の胸だと……!
幼稚園児のくせに胸が大きくなるってすげぇなウマ娘……! 外見だけはもう小3だからいいのかもしれんけど……!
「…………ふつくしい……!」
いや、俺をどれほどのおっぱい馬鹿だとお思いか? かつて片思いしていた幼馴染のおなごの前で、女性のおっぱいとはそこにあるだけで“美”なのだ! と断言した俺である。もちろん自分の胸でも愛してる!!
そして“俺”は、“わたし”の幸せを願う一人の修羅。この娘が美しくなることに、なんの憂いがありましゃう。いや“しゃう”じゃなくて。
そんな美しさにうんうんと頷きつつも、やれることはやる。常中も身に付けんとして努力して、臓物がまろび出んほどの痛みも波紋法で無理矢理和らげたその先で───瓢箪を破壊せんがために、その容器へと思い切り息を吐き入れたりしていた。
「スゥ……フゥウウウウウウッ!! ホワァッ!? ……よ、よし。うん。瓢箪なんてなかったから、ペットボトルでやってみてたけど……ガムテープでぐるぐる巻きにしたやつで破壊できれば、常中……出来たってことでいいよね? いやー……勉強も出来る、運動も出来る、そして美しい。なんて成長し甲斐があるんだ、ウマ娘ぼでー……! 前世の常識なんてほぼ滅びたね! うん! かめはめ波は相変わらず撃てる気しないけど!
そうして常中を得てからしばらく。なにやら周囲からジロジロ見られることが多くなった。何事? ……あれか。親に内緒で、肌や髪のケアとか親のスマホで調べて一生懸命に続けてきたからか。その効果がようやく出たとか……?(*注:園児とは思えん成長の所為)
よかった……! 無駄だったらどうしようかと……! いやうん、最初に一応、親に肌のケアのこと訊ねたんだけどね、そしたらめっちゃキョドるじゃない? ……あーうん、そういや家族とのコミュニケーションとかって、これっぽっちも取ってなかったもんね。基本アータたち、わたしのこと放置だったし妹優先だったし。俺も失敗したって思ったよ、声なんかかけなけりゃよかった。というわけで溜め息ひとつ、キョドる親をシカトして部屋に戻った。戻って、親が寝静まった時に、親のスマホで調べたわけだ。履歴もきちんと消して。
でもなんかお手入れがいきすぎてしまったのか、肌がめっちゃ綺麗だしちょっぴり心配。スベスベの実かなんか食べたっけ、俺。あんだけトレーニングしてるのにすべすべもっちもちって、どうなってんの、なんなのウマ娘ボディ。
「……他の人と雰囲気が違うって言われた……。ただ話しかけただけなのに、なんでまずビクってされるんだか……。光って見えるとか言われたって、わたし普通だよ……? ちょっと本格化がまだなのに、本格化を待つウマ娘としては、もはやヤベーレベルで速く走れるとかおかしなところがあるだけで、でもそれだって頑張って鍛錬したからで……」
んー…………アッ……! 美しさの原因、【全集中・波紋の呼吸・常中】の所為か! いや所為とかじゃなくてお陰ね! なるほど、そりゃあ美しさにも磨きがかかった気になれるよ。常中のお陰で、より深い波紋が練られるようになったからだ、きっと。身体の細胞が活性化されたり作り変えられまくってるんだろうなぁ。
だから元から美人しか居ないウマ娘の中で、幼き頃から活性化されたウマボディが、“美よ、愛よ、目覚めよ───!”とばかりにこの身を美しく成長させたのだろう。
しかし? 自分の美に自覚を持とうが、他人にワテクシ美しーザマショ? なんて同意を求めたりはしない。だって俺より綺麗なウマ娘なんてそれこそごっちゃり居るだろうし。思い出すのだ、アプリ世界を。モブウマ娘さんだってキャワいかったあの世界を。……ん───……うん。俺なんか普通です。普通ですから、努力を続けるのです。
「常中も身に付けてもはや敵無し……! いや、驕ろうとするわたしの心こそが最大の敵に違いない……! かわいいは、美しいは作れる……けど、作ったものになんか染まるんじゃあないぞ、わたし……! 集中、集中……! もっと深く、もっと強く呼吸を意識、意識───……あ。え? ……うわぁ自分の中が見えた!? これって……透き通る世界!? おぉおっしゃああっ!! ……あ、あー……はぁ」
喜びに叫んだのち、家の中ではお静かに、を思い出して冷静になった。
妹はまだちっこいofちっこい。それを俺が騒いで泣かせたとあっては親が
あ、ちなみに長年染みついていた“俺”って一人称は、散々目ェ背けて来たくせに両親によってネチ……ネチ……と矯正されました。今さらだなぁとかそりゃ思ったけどね、たぶん妹に悪影響になると思ったから、ほんと今さら俺、もといわたしにいろいろ声かけてきてるんでしょう。今まで通りほっといてくれていいのに。人間関係ってめんどくせー。今まで関わろうともしてこなかった人が急にとか、正直気分のいいもんじゃねーズラ。頭ごなしに怒鳴るとかじゃないだけマシだけど、いきなり注意から入るとか何事?
けどまあ、そりゃそーだ。どれだけ可愛いや美しいが作れようが、親が許さなきゃ食っていけない世界です。言われたことは可能な限りは頷くよ。一応金を出してくれてることにゃあ感謝だ感謝。後でのしつけて絶対返すけどね。
「ほむほむなるほど……ここをこう意識すると、肺がこう……となると、こうすればもっと肺に……ははっ、いい! 透き通る世界、いい! よぅし鍛えられてないところがないくらい鍛えるぞー! 筋繊維をイジメ抜いて、栄養を摂ったら波紋の呼吸で修復……これでも超回復が起こってくれるなんて、ほんと波紋ってすごい!」
独り言が増えたのはぼっちの宿命なのでほっといてください。
というわけで、常中、透き通る世界と続けて修得出来た俺、もといわたしは、さらに集中して、本格化もまだの体を鍛え続けた。
“なんでも”は出来ないけれど、波紋の呼吸が原型のお陰か回復方面には滅法強く、さらに身体能力強化側にも強いと来るから素晴らしい。
そうして俺は、もといわたしは、自分が出来る範囲での行動にプラスして、思い出せる限りの“柱稽古”を開始。丸太を持ち上げたり岩を動かしたり、かと思えば繊細な行動を意識してみたりと、速さだけではない、力や精密性も鍛えていった。体が人ではなくウマ娘ってこともあって、思い出せるものよりも負荷が強いもので試してみているのはご愛敬。
「走る時に、筋繊維一本一本に意識させるように……。そう、まるで……あたかも、トリコでやっていた“全細胞にて意識を一つの行動に集中させる”をなぞるかのように───!」
“波紋の呼吸法”自体を、透き通る世界を使いながら最初から見直してみた。自分を鏡越しに透き通らせて観察するって、すっごい違和感というか……シュールというか。
すると案外無駄な部分があったりして、さらに効率良く全身に呼吸の影響が出るように、を意識して続けたところ、まるで深仙脈疾走を受け取ったジョナサンのように、一瞬……だったけど体が大きくなった……ような気がした。まあそれが見間違いだったとしても、より濃い波紋を練られるようになったのは事実で、それ+常中&柱稽古の影響か、足がかなり速くなった。言ってしまえば基礎能力が馬鹿みたいに高くなった。あ、馬鹿じゃなくて馬鹿か。
「波紋の呼吸法はOK。全集中としての昇華もOK。昇華してさらに常中化もOK。となると……他の呼吸とか、試してみたくなるよね? ほ、ほら、たとえばそのー……北斗の拳で【ケンシロー】がやるあのー……なに? 腹の底から吐き出すような“あぁああぁぁぁ……”とか“はぁあぁぁぁ……”って感じの呼吸法。なんか上着がミヂヂベリベリって破けるアレ。…………あれ? あれが転龍呼吸法だっけ?」
まあ、やってみる。そんないきなり上手くいくはずがないっていうのは分かってたけど、やる。出来ないやれないは人生をつまらなくする魔法の言葉。わたしのテンションを下げるだけだ。なのでうだうだ言わずにやる。……もちろん唸るだけで、なんにも起こりませんでした。
しかし? どうせ自分の内部が見えるのだからと、こう、筋肉が一時的に活性化するような呼吸を探して、それを煮詰めた結果───
「………………OH」
上半身の服が破けました。あと筋肉が……うん。あの……うん。
園児なのに小3サイズの身長で筋肉がムキっとなると……うん。オブラートに包んで言うと……キモかった。
けど出来ることが増えたのは事実なので、それを突き詰めていく……過程で、転龍呼吸法を習得出来たことがよかったのか、“氣”の使い方、というものが分かった。素晴らしい副産物だすばらしい。
うん、はい。とりあえずやってたのが部屋の中でよかった……! お気に入りの服はベリャベリャに破けてしまったがね。外でやってたらとんだ痴女だったよもう。
…………うん。でも。うん。親になんて説明しよう……ッ! ……別にいいか、説明せんでも。
転龍呼吸法が出来た所為で、【ケンシロー】のように上半身の衣服が破けました、なんて説明出来るもんですかい。なによりめんどい。
……。
日々是鍛錬也、な日々が続く。
「激しい運動のあとに! ウマテイン!」
激しい運動のあとはウマ娘印のプロテインを飲んで、しっかりお勉強。……え? ウマいプロテインの略? いいえ違います、ウマ娘印のプロテインです。
いや~、やっぱ出来るだけ出来ることは増やしていかんとだよね。勉強もだけどそのほかも。走るのだけが速いだけでは、走るのをやめたあととか大変そうだものね。
この世界の常識に慣れるためにも、この世界での勉強は本当に大事です。なので勉強。呼吸が乱れに乱れて満身創痍状態で帰宅するわたしを見て、最初こそ本気で心配していた親も、もはや「まーたこの子は」って顔である。そして、慣れてしまえばやっぱり放置。……まあ、呼吸が安定すればすぐ回復するしね。心配なんて要らん要らん。この娘のことは俺に任せておくれ?
なのでウマテイン飲んで勉強。もちろん汗を流してからだけど。
あ、よく筋トレのあと30分以内にプロテイン! とか言ってるけど、筋トレ後は筋組織方面に血がジョヴァーと集中してるから、胃にプロテインなんぞ流しても消化吸収出来ないし、なんなら重苦しくなるくらいにもたれます。飲むなら20分くらい経ってからにしようね。胃もたれしても知らないゾ♪ あと運動30分前に軽く摂っておくのもオススメだ。
「ふー……うん。お小遣いをプロテインやHMBに使う子供なんて、わたしくらいだろうなぁ……」
あ。汗を流す、で思い出したけど。この体になって、呼吸法を得てからというもの、体が痒みとか覚えたこと、ないんだよなぁ。お肌はスベスベだし、髪もやべぇくらいにサラッサラ。
まるで今を全力で生きてます、っていうか……今だけに全力で集中して生きてます、って感じの在り方。もはや鍛錬勉強自分磨きはルーティーンとなっております。
そんな俺のルーティーンは、俺以外からすれば異常であったようで、一番身近でそれを見ていた両親から雷が落ちるのはもはや必然であったわ。
ほほ、雷? 今さらなんじゃいこの親ども。お? なんだ? ヤンのかこら。……などとは言わず、大丈夫だーとは言ったんだけどね? たまたまテレビでそのー……脈の正確なチェックの仕方~みたいなのやってたらしくて、そこへトレーニングから戻った俺、帰宅。さぁて水分補給だ~とばかりにスポゥツドリンコを欲したわたしは、母にキュッと手首を掴まれ……常中を使用している故、常人より脈の速度も体温の高さもあるわたしは、そりゃあ“えーから休めコノヤロウ!”ってな感じで無理矢理休まされるハメになりました。基本放置のくせに、こんな時だけコノヤロウ。言っても始まらんけど。どーせご近所の皆様にあそこの両親はーとか言われるのが嫌なだけだろこのクズが。
まあうん、そんな時とかは、疲れ切った体がウマテインを栄養に、どのようにゴワゴワと修復されていくのかを透き通る世界で見ていたりしたもんさ。最初はそれこそ「ウワッ! 気持ち悪ッ!」とか思ったもんだけどね。人間慣れですよ。うん。
ただ熱があるのはいけやせん。最近、体熱いなーとはそりゃあ思ってたけど、全集中してんだもの、他の人より脈も体温も高いでしょそりゃ、とかフツーに流してたよ。
……。
そうして走ることとか筋トレとかを禁止されてしまった日に、とぼとぼトボボ・トボリエーヌ……と外を散歩しまくり、見慣れぬ景色にまで到ってしまい、「おやァ?」と黄昏ていると……とある妊婦さんを発見した。なんか辛そうにしてるから声をかけてみれば、お腹の赤ちゃんのために散歩をしている最中だったんだけど、急に気持ち悪くなったんだって。
こいつぁ~いけまs……え? 親に風邪とかって思われてた俺なのに、散歩の許可なんか出たのかって?
抜け出してきたに決まっているじゃあないか……!
いや俺のことなんざどーでもいいのだ。親のことだってどーでもいい。“わたし”のことはどーでもよくないけど、ともかく目の前で妊婦さんが苦しんでいる。そいつぁあいけやせん、と透き通る世界でお腹の中を透視。すると……ウワーオ!?
えっ……やばくない!? いややばいってこれ! 一応ウマ娘なマダムっぽいけど、ウマ娘の双子を身籠ってらっしゃるよ!? そりゃ気持ち悪くもなるって! 宅のお母さまが父親に語るところを盗み聞いたことによれば、ウマ娘の子供を産むのってものめっさ辛いらしいんだから! 考えてもみんしゃい! 人の体で、将来車と同じくらいの速度を駆ける存在を作り上げるんだよ!? 人間の子と同じ程度の感覚でハイ♪ って埋めるわけねーでしょーが! いや埋めるなよ! “産める”ね!? “産める”! ……や、そうは言っても人間の子もそれはそれでめっちゃ苦しいんだけどね!? でもそれの数倍を覚悟させられたって母上様が父上様に言ってらっしゃった! ……それを双子で!? ウマ娘だからってそりゃ無茶でしょ!? ……“美幸を産む時は逆に楽すぎたくらい”よって軽く睨まれた時は、なんかウマ娘でごめん……って泣きそうになった。それと同時にこの娘のことを思って、てンめ二度とT-SUWARIが出来なくなるくらい尾てい骨粉砕するほど全力で尻殴ってくれようかこんげらァァァァ! と心が怒りに満たされそうになったり……そんなわたしを見て宅のお母様、怯えて謝ってくれたけどさぁ。“俺”、やっぱ望まれて産まれたのとちゃうんやろな……ヒトオスソウル配合で、頭のおかしいウマ娘とか認識されてるし……そりゃそっか……名前もジェノサイドハートだしなぁ……。
(……いや、今は俺なんぞのことよりもこの人だ)
恐らくどころか当たり前のようにレースとかで言う現役は退いてるだろうし、そうなれば体力作りなんてしてないだろう。仕事してるか専業主婦してるかでも事情は変わってくるだろうけど、どちらにせよ若い頃とは体力や貯蓄してる栄養云々も格段に落ちてる筈だ。
「……あの。ちょっと、なんとなく分かったんですけど……もしかして、お腹の中の赤ちゃん、ウマ娘の……双子、ですか?」
「……! すごいわね、どうしてわかったの……?」
ちょっと辛そうにしながらも驚きつつ感心するマダム。
透き通って見えるから、なんて馬鹿正直に話すことはしないけど、そういう感覚に鋭いから、と適当にぼやかすことしか出来ない。
しかしこれ、もしかしていずれはどちらかを……なんて。
(…………ん? ウマ娘で……双子? それって……)
ハテ、と思いつつも、見てしまえばほっとけない。
「あのっ。このままじゃ、どっちかしか産めなくなっちゃいますよ?」
「ぇ───……ど、どうして、そのことを……?」
「お腹の中の赤ちゃん達が、成長しきれてないです。……栄養、摂れてないんじゃないですか? ウマ娘二人を育てるだけの栄養を」
「………」
訊いてみると、女性は辛そうな顔で俯いた。
そうだ。いくらウマ娘でも、ウマ娘二人のための栄養にプラスして、自分の分の栄養も、なんて中々食べられない。
オグリとかスペちゃん並みに食えたらよかったんだろうけど、大人になってもあそこまで食えるウマ娘をわたしは知らない。この人が若い頃に走ってたかは分からんけど、現役時代より食えなくなってるのは確かだと思う。その上、双子のためにも栄養を摂らねばならない。……あれ? これ詰んでない? なにかしらの外的要因がないと双子ちゃん二人ともお陀仏ってことに……?
(馬で双子っていえば……アドマイヤさんとかアルダンちゃんだっけ? この人は……メジロ、って感じじゃないよな。ってことはアドマイヤ氏?)
や、親がアドマイヤだったかは知らんけど。
「………」
え? わたし、これ見捨てるの? してやれることなんてないから、とか言って? はたまたポックンまだ小学生だから知らねぇプチポックル! とか言って逃げるの? いや無理無理無理!
……ホホッ、一度しかない人生を懸命に生きている人を、二度目の人生なんていうクソチート野郎が見捨てることは許されないし許せない。クズは別だけど。少なくとも“俺”の中ではそんな認識だ。傲慢だねドチクショウ! 笑うがいいさ、こんな俺を!
でもさぁ、思わない? 二度目とか卑怯じゃん。本気でずるいって思うよ? 転生してチート得て女性襲うクズとかどんな理由があろうが死ねって思うし、未来の保証もないのにとりあえずハーレム作るタコも滅びてしまえって本気で思う。わたしは努力をしない転生者が大嫌いだし、“二度目の人生”なんていう最高のチートを貰っておきながら、こんな能力がどーたらとか文句垂れる奴は心底嫌いだ死ねクズが。そいつにのみ語尾が“死ねクズが”になってもいいって思えるくらい嫌いだ死ねクズが。
“転生といえばチート能力”、って考えがそもそもふざけんななんだ。前世の記憶と知識だけで十分だろうが。じゃああれかおんどりゃあ、女神とか神に『じゃ、チートあげるから今までの記憶は全部無くさせてもらうね?』って言われて納得出来るのかコラ。能力を貰おうが、それを応用するための前世の記憶があるから、飛んだ先が苛酷な世界でも這いつくばってでも生きていけるんだと思いませんか?
恵まれてる奴は、他者のためになにかしらが出来る努力をするべきだ。ノブレスオブリージュがどーたら言うんじゃなくて、精神性のお話。
オリー主たちが私利私欲しか振り翳さん存在だっていうなら、仕方ない。わたしだってそれを振るおう。わたしはわたしのエゴで、この人を助ける。
(寿命削れるかもだけど……ここで何もせずに、ずっとずうっとモヤモヤしたまま生きるよりは。うはー、自分勝手だー。だが言おう。胸を張って。それが魔法の言葉だ。“誰だって自分が一番可愛いのさ……あんただってそうだろ?”……よし、俺の心が今ちょっぴり救われた。自己満足をやるなら自分が満足しなくちゃ意味ないしね、引っ掛かりがあるままにこれは自己満足だー、とかアホかって話だ)
ちょっとごめんなさい、と言って、マダムに断りを入れてお腹に触れる。
マダムは驚いていたようだけど、そんな彼女に笑顔を向けてこう言った。
「任せて。双子の赤ちゃんたちに、わたしが元気をあげる」
まるで無邪気なお子のように……! ……や、わたしこれでも小学生ですけどね?
他の子よりちょほいと発育がいいだけで、まだ小学生ですがね? それもホヤホヤの小学生ですとも! ……見えないよねごめんなさい! これもなんか急激に発育がよくなったこの娘の体が悪ッ……アホかお前この娘は悪くないだろ悪いのは俺の心だごめんなさい!
マダムは目をぱちくりすると、くすりと笑って「じゃ、お願いしようかな?」なんて言ってくれた。
たぶん、そんなおまじない的なことでも欲しくなるくらい、キツい状態なんだろう。そんな彼女のお腹の中を透き通らせつつ、氣で双子と……マダムの内臓をやさしく包んで、ごくり、と喉を鳴らしてから……波紋の呼吸を深く深く繰り返し───覚悟を決めて……!
(───
“究極”ではない、普通の出力で“相手に託す波紋”。
波紋法を鍛え続けた恩恵で、我が身に溢れる生命力の一部を相手に託す。
究極までいくとスパークしたり筋肉が躍動したりで、赤子にも母胎にもよろしくないだろうから、氣で包んだ上で慎重に生命力を譲渡した。
すると……
「……え……? か、体……軽い……? さっきまであんなに気持ち悪かったのに……。え、あ……? け、蹴った……? お腹の中……どちらか一人を選ばなきゃいけないくらい、元気がないって……言われてたのに……?」
……そしてどうやら成功。
どぅあっ……と一気に汗が噴き出てくるけど、それを拭いながらマダムのお腹から手を離す。
……うあー……やばい、生命力の譲渡ってとんでもなく疲れる。また深く深く波紋を練らないと……。こりゃ、しばらくは苦しい目に遭わなきゃならなそうだ……。でも達成感がスバラゴイ。素晴らしいと凄いが合わさって最強に思えるくらいに今、俺、まさに、“自己満足”の真っ最中……!!
「あ、あなた……いったい……?」
「双子ちゃんに、わたしの生命力の一部を受け渡しました。実はわたし、魔法使いさんなんです」
「魔法って。そんな……」
「おかあさんの方にも活力を分けておきましたから、前より食べられると思います。頑張ってかわいいお子さん、産んでくださいね」
にっこり笑ってさあずらかれ! と走ろうとしたんだけど、あ、これ結構キツい! 生命力譲渡ってこんなに目ぇ回るの!? だが構わん! このまま逃げる!
「あっ……待って!」
「なんぞね!」
しかし腕を掴まれて引き留められてしまった! 思わずサイボーグじいちゃんGの爆弾を仕掛けられたばーさんのような声を出してしまったけれど、OHシット! 生命力を分けてしまったために相手の方が俊敏だ! 生命力が回復した方と減った方、どう考えてもこっちの方が不利でござった。そんなわたしに、奥方は心からの感謝を滲ませるような笑みで仰った。
「……お名前、聞かせてくれない?」
と。
……え? 拷問ですか?
「おっ……およっ……! ……およそッ……人助けをするような存在の名ではありませぬゆえ……! ご容赦を……! どうか、どうかご容赦を……ッ!」
「余計にどんな名前なの!? 人に名前を訊いて、そんなに怯えられたの初めてよ!?」
「………」
「……?」
「………」
「………」
「……ジェノサイドハートです……」
「え?」
「ジェノサイドハートです……ぼくの名前は……。ぼくの名前はジェノサイドハートです……」
「…………ごめんなさい」
謝られた! 名乗ったら目ェ逸らして謝られた! ちくしょうだから嫌だったんだ!
助けたあとにせめてお名前をなんて言われて、恰好いい名前ばっか出てくると思うなよコノヤロー! いや名前だけならかっこいいとは思うけどさぁ! それが人の名前だったらどうかなぁ!
───ある日、助けてくれた人が居るとします。
名前を訊ねるとします。
恩人の名前がジェノサイドハートでした。
……こんなに辛いお話がありますかね?
なのでわたしはそんな悲しみに涙を散らしながら、アディオ~スとばかりに家へと帰ったのでした。
ええ……帰って……ぶっ倒れました。それも三日三晩目ぇ回った状態で。熱なんて40度あたりが出て、脈とかもトクントクンっていうよりはドココココココって感じのヤバ目なやつになったりして、さすがにぐったりだった。しかもそこですかさず家族に勝手な呆れとお叱りを受ける始末。おーおーここぞとばかりに言ってくれおるわ。今まで見向きもしなかったくせに、そげにご近所はんの印象が大事? 大事ったい? っはァー、それはそれは。
でも言わせてもらうなら……ちゃうねんで? トレーニングの所為やない。これは人助けの果ての高熱やねん。名誉の負傷的なアレや。などと起こった出来事を自分の武勇伝チックに語れる筈もなく。わたしはトレーニングのしすぎでとうとうぶっ倒れた、ということになってしまった。まあ結局なにか言われたのはその最初だけで、あとは適当に作ってとっとと薬飲んで寝ろ的なアレなアレだった。この親ン中でウマ娘ってどれだけたくましい存在として印象に残ってんだろね。まず人として扱われてる感じがせんわ。お~そうね? 風邪とかだったら妹ちゃんに伝染ると大変だものぬぇえ~ィェ♪
……もう知らんわ失せろクズが。
FUUUM……しかし、脈と……熱? な~んか忘れてるような……。まあ、うん。思い出せないのは兄さんが満たされてるからだよってことで。
生命力が復活してからは、それはもう以前にも増して努力努力の日々ですとも。
トレセン学園への入試もあるしね、勉強せねばだ。
「おめでとう、ジェノサイドハートさん。また100点よ」
「ありがとうございます」
「運動ばっかのくせにー。カンニングしたんじゃねーかー?」
「おや、知らないのかいボーヤ。運動をしてへとへとになってからのほうが、勉強に集中できるんだぜ? 運動ばっか、じゃない。運動をしたからこそ100点が取れるのさ」
「ボーヤ言うな! 同い年だろーが! ていうかなんだよその喋り方ー!」
「なにって……スペック?」
「スペ……?」
「まあまあ、細かいことはいいから。いっつもちょっかいかけてくる隣の席の
「なんでいきなりフルネームで呼ぶんだよ!」
そうしてこうして時は流れ……園児の頃から小学卒業までの間に、きっと誰よりも成長した自信があるジェノサイドハートです。
トレセン学園の入試もしっかりと、これからもこの娘のしゃーわせのため、切磋琢磨し続けることを何度だって誓おう。
もはやこの体は俺の娘だ……! 絶対に幸せにするのだ……!
え? 親? 妹? 知らん。お金の繋がり程度しかないんでないの?
───……。
……。
そうして……長い時間を鍛錬や勉強や美しさなどに割きまくった……その先で。
小学を卒業し、いよいよ家を出て、家族(笑)との別れの日に───
「ほははははは……! 家族との最後の挨拶も無しに家を出てきてやったわ……! 別れの挨拶? 行ってきます? なにそれゲロ不味いこと確定じゃん、なにそれ美味しいのとか訊くだけ無駄無駄」
何も言わずに早朝からとっとと家を出ました。持ってく私物なんて、そもそもが少なかった衣服程度でござんす。そんなわけで無事、中央トレセン学園への入学入寮が決まり、いざ我が家を離れ、寮へと案内されたわけで。
……。
入寮。その、住み慣れたところからの巣立ちに、わたしは結構緊張していた。
なにせ前世はあったものの、住み慣れた場所から離れるという行為は、案外このウマ娘ボディにはボディーブローの如く効くらしく……なんで? 元が馬だったから? まあ馬って結構環境の変化とかに敏感だし寂しがり屋だって聞くけどさ。あんな家のあんな部屋にでさえ愛着持ってたって事実に俺こそが驚きだよ。
「えっと、失礼しまーす……」
緊張をそのままに、コチャッ……とドアノブを回して入室。まだ誰も居なければいいなーとか思いつつ……その願いは叶わなかった。同室であったらしいキャワユイウマ娘ちゃんを発見したのだあらカワイイ。
「あっ……同じ部屋の人ですかっ? はは初めましてっ! 私はっ……ひゃうっ!?」
そんな娘が、わたしにお辞儀をしたあとに顔を上げると、わたしを見て肩を弾かせたのだ。……ハテ?
「? あ、あの? どうかしました? あー……っと。わたしはジェノサイドハートといいます。凄まじい名前負け感があるでしょうから、ハートとかジェノとか、略して呼んでくれると嬉しいです」
「……ひゃ、ひゃい……! ハート様……!」
「なんで!? “様”どっからきたの!?」
訊ねてみるも、彼女はなんだか俺の頬あたりを見て怯えている様子。
ハテ? もしやなにかを食後にくっつけてしまったまま、ここに来てしまったとか? ……いや待て、そもそもわたし、朝食食べてない。最後の食事はオムライスな気分だったから、昨日の夜にケチャップ多めで美味しくいただいてきたわたしですよ? 歯磨きはちゃんとしたし、出発前に玄関の鏡の前での身嗜みチェックは忘れたことがないんだけどな。
ここに来るまでに、ルームメイトとのコミュを心配しすぎて、心臓とかバックバクどころかバククククククって感じでヤベェくらいに高鳴りまくり、考えすぎて熱が出過ぎてたってくらいでそのー……んぅ? 熱? 鼓動? えー、あー……? なんだろ、なにかがすごーく引っかかるような。
「……?」
気になるのならチェックだチェック。
コンパクト手鏡を用意して、なんじゃらほいと暢気に見てみれば、
「───」
呼吸が死んだ。
そして、俺の未来もたぶん死んだ。
勝手に震えてしまうハート、燃え尽きかねない勢いでヒートアップして鼓動を続ける心臓、鼓動を刻むっていうか、もうメンタルをズタズタに刻んできてる血液のビート。
「─────────痣が」
頬に、特徴的な痣があった。鬼を滅する漫画ではそれぞれの呼吸によって、特徴的な痣が浮かんでくる、なんてことがありましたが……え? 波紋? 波紋の呼吸で? 常中を経てさらに深く鍛錬してたとはいえ、波紋の呼吸で痣!? エッ……俺、
いやちょ待って待って待って!? 違うでしょ!? ウマ娘で全集中~とか、転生者が全集中の呼吸~とか、俺TUEEE界ではなんか普通のことじゃなかったっけ!? いっぱい鍛錬したからあとは強敵と鎬を削って切磋琢磨サカザキチックな日々を続けて、別になんかひどい最後があるわけでもなく順風満帆なウマ娘生活をアイエエエエ!? アザモノ!? アザモノナンデ!?
突如、アザモノ・リアリティ・ショックに襲われたわたしの心は、アワレにも恐惶状態となり、しめやかに失禁───しそうになったけど耐えた。
ちなみにわたしはアイエエエエという叫びなら、バカテスラジオショッピングの下野さんのアイエエエエが一番好きである。悲鳴らしくていいよね。───じゃなくて!
(いや嬉しいよ!? 痣が出たってことは、それだけ俺が呼吸に対して真っ直ぐに極めんと突き進むことが出来た証なんだろうし! でもその結果が25歳で没するだとか、君早く死に給えとか冗談じゃないんだが!? なんでなんでなんでなんでなんっ……アッ! あれか! 透き通る世界で自分の内側から隅々まで、身体能力向上へのガチを突き詰め過ぎたから、体が“今この一瞬を閃光のように……!”とか勘違いしちゃったとか……!?)
まっ……待って! 待って待って! 俺まだなんにも出来てない!
俺まだ、この娘のために……この体のためになんにも出来てない!
まだ自己満足の段階までしかやれてないのに! ずっ……ずるいぞ転生者(他)! そういやなんで他の皆様ってあんだけ常中だ~だの〇ノ型~とか使い放題やってたのに、痣も無しに順風満帆な日々を!? なんっ……なんで俺だけっ……! 不公平だなもー!!
「っ……」
ごきゅり、と鼓膜にこれでもかってくらい響く音が鳴った。喉、カラッカラ。
でも改めて、痣を見る。
……水面に映った太陽のような歪な円形と、そこから広がる波紋の形。
初対面の方にはタトゥーかと思われそうでは……あるのか? まあ、だからこそ、未だにびくびくしている目の前の娘に驚かれたんだろうけど。
(呼吸を乱すな……落ち着け、落ち着くんだオックスベア……!)
オックスベアはクエクエVに出てくるモンスターで、大きく息を吸い込むことで有名な存在。わたしに勇気を与えてくれる。そう、彼を真似ろ。呼吸を続けるんだ。落ち着け、落ち着くんだよジェノサイドハート。……俺の名前の物騒さで台無しだよ!
「えっと……これはただの痣だから、ね? さすがに入れ墨とかじゃないから」
「そ、そうなの?」
「そうなの。というわけで、ハート様とか妙な畏敬の念みたいなの、持たなくていいから。むしろ努力馬鹿って意味で、ジェノサイドハートを略して
「そ、そうなんだー……もう、びっくりしたよー。あ、じゃあ改めて自己紹介。私はアストロンマーチ。よろしくね」
この、一見ぽやっとしているウマーニョさんは、アストンマーチャン……ではなく、アストロンマーチというらしい。髪は肩までのちょっとウェーブかかったような、なんかそんな感じ。ぽやっとした雰囲気は言った通りで、胸はホライゾン。や、まあ、中学上がりたてなんてまだまだこんなもんだよね? ……私、なんか結構育ってきちゃってて困……ってはないか。呼吸法のお陰で血行は大変よろしく、肩こりなんて存在しないし。
なによりお胸が育つのはとてもいいことだ。おっぱいはそこにあるだけで宝という気持ちは変わりませぬが、己の手と意思と呼吸と食事とで育ててきたこのお胸様を、どうして嫌えましょう。自分の胸を我が子のように育てるわたしは、きっと両親からしたらヤベー娘として見えていたことだr今さらか。あーもう忘れよ忘れよ。厄介払いみたいに金を出してくれたことにだけは感謝する。それでいいだろ。あっちも、こっちも。
「うん、よろしくね」
そうして自己紹介と、どちらのベッドを使うかで話し合ったわたしたちは、これからの日々をお互い頑張り合って生きていくのだった───! ……ええ、はい、見た感じでは。
普通に過ごしているように見えて、頭の中はほぼ───
(……ヤメロー! シニタクナァイ! シニタクナーイ! シニタクナァーーーイ!!)
こんなもんであった。
25歳……25歳で死ぬ……! あわばばばばどうしようどうしようどうすればいいどうしたらいい……!? 死んでしまうのは逃れられない事実となってしまったとして、俺はどうしたら……ああいやわたしはどうしたらあばばばばば……!!
え? 送り出した娘がなんか25歳になったらいきなり死にましたとか、両親にとってはそれこそ頭おかしすぎて寿命削ってたとか思われるんじゃ? いやまあおそらくエンゲル的な意味で、娘にジェノサイドハートなんて名前を付けた上に頭がおかしいとか平気で言える親だから、べつに死んだところで『ありゃま、誰かに迷惑とかかけなかった? あ、あー……そう。それじゃ』で終わるかもしれんけど。いや親のことはいいんだよ、なんなら俺のこともどーでもいい。問題はこの体、この娘のことで、俺の所為で死にましたとか……え、なにそれ辛すぎる。
「………」
遺さねばならぬ……この娘の生が、無駄ではなかったと思われるだけの偉業を……!
……? あ、親とかはもう金で黙らせればいーんでない? いやほんと興味ないよやつらのことは。出来るなら、親が子を育てるのに使うであろうお金の目安、一千万くらいは稼いで、ほぅれ、一万円札じゃ~いとか言って渡せばいーんでない? あ、でも俺小学までしか世話になっとらんし、いや、でもウマ娘だから食費の分で大分苦労しただろうし……ぬ、ぬう。
俺……あ、っと。わたし、公立だったし、学費とかは私立とかと比べて安かった筈だけど……まあ、それは言い訳か。稼いで稼いで、金渡していろいろ忘れよう。頭おかしいって思われてるなら思われてるなりに、生かしてもらった恩くらいは返して……それでチャラだ。
(出られるレースには全て出よう。そこでワールドレコードだろうがなんだろうがとにかく獲りまくって、有名になって……! わたしが出るレースはつまらない、なんて言われようが、これから現れる全てのウマ娘の心をジェノサイド出来るくらい、絶望的記録を出して……わたしという名のレコードを未来永劫残してやる……! ……あ、もし海外とかに行ったとして、そこで記録を残す~なんてことになっても、日本代表~なんて名乗らないようにしようね、わたし。だってわたしのレースはつまらないんですものねぇ? そげな二度目クソ野郎を日本代表なんて、日本の恥ッ晒しもいいところですわヒ~ホホホ!)
こんな経緯があって……わたしは。この残酷な世界にて、頂点に君臨し続ける道を選んだ。直接的な娘(?)孝行が出来ないなら、せめて名を、金を遺そう。
そしていつの日か、あなたこそ、と思える誰かに出会えたのなら……究極・深仙脈疾走を贈ろう。あ、わたしが消える瞬間に、この体にこそ……この娘にこそディーパスするのはどうだろうか。そしてわたしという不純物はそれと同時に消滅、でも銀の手……もといこの娘は消えない! みたいな未来……! な、なんてステキな! そしてざまぁみろ二度目の俺! 具体的なイメージはまだ出来ないけど、成功するように煮詰めていこう! 絶対に! その時が俺の最後だこの二度目クズソウルめが! 死ね!! それが果たされた時こそ、最初に願った“急募:身体は無事に、俺だけ殺す方法”が達成されるのだ! 悲願成就の瞬間が待ち遠しくってたまらねェYO!!
そんなことを考えながら、死への恐怖でこぼれてしまった涙を拭って───25までの短い時間を全て使い切り、どんな手を使ってでも、そう……手段を選ばず、頂点を目指すと決めた。フィクションは叶うと知ったのなら、他のフィクションの呼吸法や、それ以外の足を速める、または一気に前へ進む技法をもっともっと習得するんだ……!
誰かの邪魔をわざわざするつもりなんてこれっぽっちもない。誰かの足を引っ張るつもりだってこれっぽっちもない。正々堂々努力して、わたしはただ、わたしが出せる有らん限りの全てを以って頂点へと昇ってみせる……!! 転生者は頂点を意識しすぎと言ったな、大丈夫だ、目指した俺はとっとと死ぬ。ざまぁない。そしてこの娘の栄光のみが残るのだァアアーーーハハハハ!!
我が名はジェノサイドハート。あだ名はジェノさん、ハートちゃん、そして
やれること全部で、わたしだけの未来へ辿り着いてみせる……!
わたしは堂々と努力をしてうぬらを倒し、実力で王位……もとい頂点を勝ち取りたいのだァ! 結果として俺がどうなろうが知ったことかむしろ死ね! そしてこの娘に幸あれざまぁ見ろ二度目の俺!
───……。
……。
……悲報。悲報? まあいい、とにかく報告。
「……知ってるウマ娘、誰も居ねぇ……!」
なに世代だよ今! いや現実に今何年だよ~とか訊きたいんじゃなくてね!?
いやそりゃさあ、お陰で誰がどうなろうが知ったこっちゃありませんで走れるけどさぁ! マルゼンスキーは!? シンボリルドルフは!? 本気で、マジで、知ってるウマ娘誰も居ないんだけど!?
「コァーン……! ……神は言っている……! 全てに打ち勝てと……! いや自分でSEとか口ずさんでまで言ってる場合じゃなくて……!」
けど、つまり、そういうことでいいのかもしれない。
早速素晴らしい走りを見せて、一番いいトレーナーを手に入れなくては……! あ、ここでいう一番いいトレーナーとは、適度にズボラで自主性に任せる~なんてほざきやがってくれる奴のことを指す。ある程度真面目だと、わたしの走りはツッコミどころ満載だから。
なのでとりあえずは授業を受けて、芝などの使用方法などを訊いたりして、この素晴らしくも美しい学園のコースを利用し尽くす覚悟を決めた。
まだピチピチの中学一年という年齢。けれど、途上だからこそ手抜きは良くない。よく食べよく学びよく遊ぶ。亀仙流は本当に素敵な学ばせ方をしてると思うよ。遊ぶ暇はないけどね、わたし。
というわけで、今日も今日とて授業でのトレーニングが終わると、トレーニング器具の使用許可を得ては、自分を追い込んでいった。自分ちじゃあこういう器具は使えなかったから、ありがたい限りだ。さすがに学校に丸太を持ち込むわけにもいかない。
はい、なので、ですね。目の前に200kgのバー……バーベルだっけ? ダンベルだっけ? ダンベルって小さい片手用のやつだっけ? じゃあこれバーベル? 前世で自宅筋トレしてても、器材とか器具の名前や由来なんて馬鹿正直に知らないよ俺……。しかもウマーニョ(ウマ娘)になってからというもの、家にあるトレーニング器材じゃあ物の足しにもなりゃしないときたもんだ。もやもやしたなぁ……。
なので設備利用者の監視として居るっぽい人間のおねーさん(好みのタイプです)に訊いてみると……なるほど、バーベルでいいみたいだ。
れ、連絡先とか訊いてみたり───あ、うん。わたしどうせ25で死ぬし、青春なんて無理だ無理無理。今はただ、頂点を掌握するだけの修羅となれ。そして気になったお方が居ても手すら伸ばせぬ無様な俺! 今日のご飯は美味しくなりそうだ! いや毎日美味しいけど!
「200kgか……こういうのも、姿勢と筋肉の動かし方で……ほいっと」
トレーニングルームでひょいと200kgの重りを持ち上げると、見ていた様々な人がわたしを見てやべー奴が居る……! みたいな目を向けてきた。ええはいもちろんおねーさんも。
いやうん、こんなん、旧日本人の丁持ちの皆様方なら大体出来たらしいからね? ウマ娘じゃなくて、普通にヒューマンで。女丁持ちや飛脚は尊敬に値する職業だ。おにぎりと味噌汁と野菜や漬物を主食としていた、余分なもののない純日本人は、そりゃあ強かったもんらしい。や、実は中身はスッカスカだった~なんて話もあったけど、丁持ちが150kg以上を一度に持ち運びさせられてたのはマジらしいよ? しかも強制だったから断れなかったとかなんとか。現代の卸業者とかも、100kg近くを持つとか出来るからね? ようはバランスバランス。で、それを誤ると腰をゴキャアと痛めるのです。
一方のわたしは、ウマ娘だからなのか、昔っから野菜ばかりを食いまくってたお陰かそういった方向に血が目覚めたらしく、さらには呼吸と透き通る世界の恩恵によって、そうした旧時代の日本人の血が覚醒したっぽいのだ。肉とかべつに好きじゃないしね、前世から。なので野菜ばっかり食っては、家族にぽかんとされていたものさ。肉とかガツガツ食われるよりは安上がりだってんで、親はなんだかホッとしていたようだけどね。いうほどエンゲル的迷惑はかけなかったつもりだ。それでもジェノサイドハートなんて名前つけたことは忘れねぇぞコンチクショウ。
まあ、そんな野菜とお米と
ともかくだ。
200じゃ足りん。足腰どころか全身の細部に至るまで、ヘンな風に痛めない程度の、けれどやさしくない重みまで高めて……よし、じゃあこの状態でスクワットォォォォ……!!
「きゃあああああ!? ちょなななな何やってるんですかジェノサイドハートさん!」
「何奴!?」
スクワットを始めたら、なんか緑な人に止められた。ぬうう邪魔をするか! もはや一刻の猶予も無駄も持ちたくないこのジハードさんのトレーニングを邪魔するのであれば、ジェノレイツォ、容赦せん!
「今すぐ下ろしてください! 入学したばかりで、早く強くなりたいのは分かります! ですがそんな無理な重さのものでのトレーニングは逆に体を壊す原因になるんですよ!?」
「あの。無理してるように見えますか? ……さんっ、……しー、……ごー……」
「見えっ……え? ……あの……え? それ……え、えぇぇぇえ……!?」
「大丈夫です、問題ありません。なんならまだ上の重さもいけますけど、それこそ体壊したら元も子もないのでこの重さでやってるんです。……じゅーさん、じゅーし……じゅー……ご、っと。10秒休憩~……あ、それで何の用ですか?」
「まず下ろしましょう!? なんで平然と持ったまま休憩とか言ってるんですか!?」
「え、だって下ろしてまた持ち上げて、って10秒ぽっちの休憩中にやるのめんどいですし……にー……ぃ、さー……ん、しー……ぃ……。あ、ところで5秒スクワットとかって、5秒を意識しすぎるあまり、スクワット自体の回数とか忘れがちじゃないですか?」
「この状況でする質問がそれですか!?」
「いえ、だってもうとりあえず回数だけこなすスクワットじゃ大して効果ないですし。負荷をかける方向で、ブレーキ筋は程よく無視した鍛え方で伸ばすしかないといいますか……っと。ふぃー、10秒休憩~……」
「あの……それ、もしかして重くない、とかは……」
「300kg以上ありますけど」
「ですよね!? 見間違えじゃあありませんよね!?」
身体の中の芯を崩さず、筋肉の一つ一つを無駄なく使えばいけるいける。
いや正直ほんと、透き通る世界を習得して、波紋を最初から見直してからというもの、人体の進化が止まらないような気分だったよ。その理解の果てがアザモノ・リアリティ・ショックだったがなぁガハハハァ!! もうやだ死にたくない。(この娘を死なせたくない的な意味で。俺? むしろ死ね)
そんなこんなで、屈むのに5秒、立ち上がるのに5秒をかける5秒スクワット15回3セットを終えて、バーベルをゴコォ……ン……!! と下ろした。
そんなバーベルを、眉間を寄せてぺたぺた触り、ぐっと持ち上げるようにして、うわー……という顔をするえーと……駿川さん? 駿で“はや”って読むの、個人的には珍しい感じで読みづらいなーとか思ったのは秘密。まあ逆に印象に残ったっていうのはあるにはある。藤巻くん! ガンバだ!
……ていうか、名前の知らないウマーニョしか居ないこの時代において、まるっきり見覚えのあるお顔なこの人はハテ、いったいお幾つなんだろうか。……なんか急に駿川さんの目がスゥッと迫力を増した気がするけどそれがどうした。言っておくがわたしは漫画とかで心を読む的なノリツッコミで思考を放棄する奴らとは違う。ていうかアレわけわからんから、なんで考えてること分かってしかも脅すみたいに睨んでくるんだろうとかむしろずっと思ってたわ。さあどうだ駿川さんこの野郎、そんな目でわたしを見たって思考放棄はしないしトレーニングだって続けるぞ止められるもんなら止めてみんしゃい止められたって続けるけどなガハハハハ!!
あ、スクワットする時、屈みから体を立ち上がらせる際、足は延ばしきっちゃあいけないよ? 負荷を継続させるためにも、微妙に立ち上がりきらずにキープ、また屈んでいくんだ! 日々是鍛錬だよ! 愛弟子!
「あの、特に話すことがないなら次行っていいですか? 筋トレは時間との勝負なんで」
「えっ……疲れてたりは───」
「熱が冷める前に次にいきたくてうずうずしてます。正直授業で学ぶトレーニングだと、物足りなさすぎて……」
「ゥヮー……」
小さな声で、緑な人にドン引かれた。けど考えてもみてくれ。本格化してトレーナー見つけるまでは教官に無難なトレーニングを教わるわけだけど、あれってほんと、一人一人の適正にこれっぽっちも合ってないじゃない? あんなんで時間潰すくらいなら、自分で出来る追い込みとかビシビシバシビシィッ! ってジョニーブラボーの連続ポージングのSEみたいにやっていきたいじゃん? フンハァフンハァッ! って。
でも、くれぐれも無茶はしないようにって言われたので、サムズアップ・ソルジャー。
普通はね、ほら、三日間筋肉を休める必要もあって、足を鍛えたら翌日に腕から胸筋、翌日に背筋腹筋、とか一日ごとに別の筋肉をいじめるもんだ。その度にウマテインを摂取して、効率よくバランスよくトレーニングをするんだけどね。……全集中波紋法常中なわたしとしましては、筋トレって一日のうちに全身痛めつけて、タンパク質摂って、呼吸で癒してって、それをすることが大事なんだよね。
ここに来て一気に負荷をかけられるようになったし、もう丸太を担いでスクワットをする必要がなくなったわけだ。丸太、重さはステキなんだけどバランス悪いんだもん。でもどっかで岩は動かしたいかなぁ。なんかそれっぽいトレーニング機器があればいいけど。トレーニング用品って、引くものはあっても押すものって中々無いしね。だからベンチプレスは貴重。寝転がって真っ直ぐにしか押せないのは、隅々を鍛えたい人にしてみりゃ欠陥らしいけど。それ欠陥っていうの、ほんと上級者じゃないですか……?
「んー……! はぁっ……!
「まだ続ける気ですか!?」
「え? あ、はい。血が筋肉に行ってるうちに追い込みかけたいですし、今ウマテインなんて飲んだら消化不良起こしそうですし。動く時には動いて、休む時には休む。ウマ娘ならこんな時間にこそ歌の練習に走るのも
「ではなくて! ……かなり足に負荷をかけていたでしょう? これ以上は……」
「(透き通る世界で)見てみましたけど全然大丈夫です。むしろ今まさに、走れば最高の状態で走れそうです」
「えぇええぇぇぇ……!?」
そしてまたドン引きされた。
まあ、自分のことは自分が分かってる、という言葉は、今まさに自分にこそ相応しいと思いますです。体内の異常、一切無し! 自分の目で見て煉獄さん式局部血管止血が出来るのってすごいイイ。……ところで煉獄さんって竈門少年の血管が傷ついているのにすぐ気づいてたけど、もしやあの時既に、透き通る世界の領域に……?
まあここで考えてもしょーもなし。筋肉は成長のための準備段階で、もう一押ししてやるくらいが丁度いい。なので走る。トレセン学園御用達の、一般ではまず買えないような特別製ルームランナーに乗って。まずはゆっくり、そして速く。
やがてゴシャーと速度をマシマシにしていくと、脳内がゴシャーと輝きと幸福に満たされていく。いらっしゃいエンドルフィンさん。さあ、今日も幸福の中で体を鍛えましょい。
「うそ……この娘、この速さの中で笑ってる……!? 姿勢も綺麗で、ブレもなくて……足音も静かで、汗は掻いてるのに息が乱れてない……!」
過去、飛脚とは体力おばけであり足運びに対しての超・プロフェッショナルだった。疲れない走り方を熟知し、その足で、日に今では考えられん距離を駆けたという。
その記事なんて嘘っぱちさ! なんて話も出たけど、それはあくまで“そこまでの距離じゃないよ! 誇張だよ!”って話であって、今では考えられん距離を走ったり、信じられん重さを持ち上げたりしたのは事実だそうだ。
そんな彼らの食事が玄米握りと乾物やお漬物。ちなみに一日二食である。うん、現代日本人は脂を摂取しすぎなんだ。ダイエットが成功しない? なら一日二食お米食べろ!!
朝と昼をしっかり食うことをおすすめするよ。
朝と昼の食事は八時間以内で済ませて、16時間は断食出来る環境を作ってみよう。そして運動もきちんとする。そしたら一ヶ月で10キロ痩せるのも夢じゃないよ。いやマジで。
え? いやだ? がっつり食べたい? そんな人は一日二食、その一食ずつに食欲の全てをぶつけんしゃい。それで済む。摂取カロリー計算はきちんとすればOK。
男なら2200とかね。ほんとはもっと食っていいけど、それで痩せられないとか文句言われても困るしね。ただ、主食は絶対に米にすること。麺類とかじゃなく、ご飯を食いなさい。日本人にしか海藻類が上手く消化できないとか言われているように、日本人の体質にあった効率の良い消化エネルギーになるものは、お米の糖質らしいからだ。
糖質ならスイーツとかでも、とか思っちゃいけない。日本人は、お米の糖質でエネルギーを燃やせる存在だと無理矢理にでも認識するのだッツ!!
あ、一番頭が痛いのは、実際に真面目に取り組んでもいないのに、痩せられなかったじゃなァーハハハァイとかほざく愚鈍なクズだ。そういうヤツはまず動け。動けばカロリーは削れる。脂肪燃焼に届かなくても、いずれ脂肪になるカロリーは削れるんだよ。消費されるのが10カロリーでもいい。それが脂肪の1グラムに変化しなくて済むんだって考えれば少しは頑張れるじゃろがい。
と、まあそれはそれとして。飛脚云々についてだけど、既に血の覚醒から足運びの方法は閃きを得ている。つまり足に衝撃のほぼが通らない走り方も開発済みだ。こればっかりは日本人の血と氣の効果、そしてそれの元となった呼吸法に感謝だ。よくぞ日本に産まれけり、だ。
「集中───」
……うん。
“できるわけがないッ!”が、“頑張れば出来る”に変わってから、“走り”や“身体能力強化”に関するフィクション系能力は───知っている限り、覚えている限りは試した。お陰で会得習得獲得出来たものはいろいろあるし、正直いらんかったと思うものもあった。それらを駆使して急速に体を休めたり活性化させたりが出来るのは、フィクションの中だとはいえ“人間よりオツヨイウマ娘”だからだろう。
「ぬおぉおおおっ!(いつでも平地を走れるだなんて思うな……! 二週目があるならデコボコな道を走らなきゃだし、雨が降れば道は重バ場にしかならない……! 一歩一歩、確実に地面を捉えるように……! 雨振りの日の不良バ場は最高だったなぁ!! くっつく波紋と弾く波紋! どんなぬかるみだろうが水があれば転倒しねぇぞわたしはー! ウハハハハ豪雨よ! わたしを祝福しておくれ! なんて狂ったように走れたし!)」
……なお。足への気脈点穴法が成功した時には“アホですか!?”って本気で驚いた。透き通る世界を駆使して、淀みや滞りのある氣脈に意識を集中、淀みや滞りを血管を塞ぐ要領で逆に開放してみたら、いや、体の調子がすこぶる良くなるのと同時に、出来ることが増えてしまったのだ。もしやこれの要領で、氣脈点穴法、できるのでは……? と。で、出来てしまった。自分でやっておいてなんだけど。フィクションが再現可能、だなんて状況になって、頭が少々おイカレ状態だったのよきっと。だからあんな危ない橋を渡ってしまった。渡って渡って……成功してしまったのだ。アホだろ、うん。
なので……ハイ。“超連歩烈風脚”は使える。3歩まで使える。
なので一日に使う歩数は3歩まで。だってどのくらい間隔空けたら失明しないのかが分からないんだもん! 分からないのに使って失明とか僕怖い!
他にはうん、呼吸法から成る奥義も習得出来たから、用途に合わせて使い分けるのがヨロシイかと。人間、どころかウマ娘ってね、死ぬ気になれば、もとい死ぬって分かってるなら、結構無茶とかできるんです。なお、全ての呼吸法を混ぜ合わせた中間に位置するものが、北斗神拳奥義転龍呼吸法だったので、やっぱ北斗神拳は無敵やんな、って。
なお既に知っておるでしょうが、使うと筋肉ゴリモリになる。マジでなる。さらには上半身の衣服が問答無用で弾け飛ぶから絶対に使わない。使ったら痴女になる。
あと水中で10分も過ごせる調気呼吸術とか、もうそれ呼吸法って言わねぇよって奥義もあった。北斗神拳すげぇ。まあ10分なら上級式波紋法でも十分過ごせるけど。でもあれって10分間の吸って吐いてが出来るだけであって、水中で10分間を自然に過ごす、とは意味がまた違うんだよね。
「っ───ふうっ! はい終了!」
やがて、中等部で出すような速度じゃない速さで5分間を走り切ると、ピッと機械をいじって停止。ゆっくりと速度が落ちていくと、ブブルバフーと息を吐いて、吸って、疲れを波紋法で癒していく。
おお、おお、わたしの可愛い筋肉たちが、ピグッ、ピググッ……! と酷使に対して喜びの悲鳴を上げている……! ウマ娘にとって、苦難とは成長への階段ぞ。それを恐れて、走る者としての成長なぞ有り得んのだ。そして、疲れた体にウマテイン! 既にシェイクして溶かしているウマテイン飲料をガヴォガヴォと飲み込んで───とするのはまだ早い。筋肉に血が行ってるから、今はまだのんびりクールダウンだ。20分は待とうね。何事も焦ることなかれだよ、愛弟子!
「あの……ジェノサイドハートさん? その……言ってはなんですが───」
「無理しているようには見えなくても、いずれ無理が祟る~とかなら聞きません」
「えぇええ……!?」
選抜レースにはとりあえず本格化しなきゃ出れないとか、学校の説明会で言われた気がするし……本格化を迎えるまではとにかく鍛錬あるのみだ。そしてわたしはそのための時間を、他の誰よりも無駄に出来んのだ……ッッ!!
「(集氣法……!!)」
とりあえずは疲れた体に氣を集中させて、呼吸法と一緒に癒していく。
氣、という概念は転龍呼吸法を会得してから手に入れたのは記憶に……新しい方、かなぁ。いまいち使い勝手が分からんかったものを使えるようになるまで昇華されたのがこれだ。氣を集中させて、疲れた場所とか痛んだ場所などを回復させる。すげぇ。波紋全集中常中と合わせると、回復がめっさ速い。
あとなんか、集中させた場所が力強い感じがするから使ってる、みたいな感じ。なんか筋肉が少し太く修復される気がするんだよね、氣を集中させると。
でも活性化させすぎるとゴリモリマッチョになって上半身の衣服が弾け飛ぶのでほどほどに。
走る際には足の関節ごとに氣を込めてやるのも忘れない。結構クッション性あるんですよこれが。お陰で全力の全力で1分間走っても大して疲れなくなった。これもう勝ったでしょ。勝ったよね? ……勝ったなぁ! ガハハハァ!
まあ、ルームランナーを走るのとターフを走るのとじゃ違うし、なんならルームランナーじゃあコーナーのようなカーブを走る~とかは無理だからね。そこは要努力だ。
そうして許される限りの鍛錬を済ますと、クールダウンと水分補給をしっかりと取ったり摂ったりした上で、ウマテインを摂取。
少し胃を落ち着かせてからお風呂をいただき、しっかりと呼吸をしつつ体を底の底から休めtムヒョヒョヒョヒョ良いおっぱいをお持ちですね目に焼き付けていいですかすいませんもう焼きつけました二度と忘れない愛してる。
……ン、ゴホン。清楚な見た目でド変態ウマーニョですまない。でも今さら男になんぞ興味のカケラもないのです。女性に転生して性別に引っ張られて心から女性になる元男、なんて話を見たことあるけど、わたしにゃ無理だった。女性が好きです。だって美しいし可愛いし。かわいいショタ? はは、残念。わたしが俺だった時、おねショタが心の底からヘドが出るほど超弩級で嫌いだったのだ、少年だろうがカワイイは無い。女性みたいな男性がお姉さまになって女子校に入るお話とかは好きだけどね? だがショタ、てめーはだめだ。
(……はぁ。お風呂……なんて天国なんだ。男なんていう不純物が居ない女の園の楽園……! 園の楽園ってなんだよ。まあいい、天国だ。嗚呼眼福……! まあ心はね、目もね、しゃーわせですよ? でも性的な興奮はやっぱないのだ。女性を愛してる。でもエロォスに走りたいとは思わない。それはやっぱりジュニアが無くなったから、なんだろうか。ううん、謎だ。)
将来的には百合な女性と結婚したい人生でした。そんな将来などやってこないがなガハハ。あ、ちなみに今世の話ね? 前世は結局なにも成せぬまま没した社畜のクズだから。っはー、ほんとなにが二度目だこんなん二度目じゃねーやい、二度目名乗るならなぁ、ちゃんと自分として自分の体で大地に立ってから言えってんだい。というわけで、転生で二度目なんてあっちゃならねー。やるならタイムスリップだ。
知ってるかもだがリープは自分の能力、トラベルは機械などの要素、事故などでのそれがスリップだって認識されているらしい。一部で。
だから漫画やなんかで『これ……タイムリープ?』とか言い出したら、すげぇお前超能力者だったのかよすげぇじゃんすげぇ! とか思ってあげましょう。なお一部の反応なので、馬鹿丁寧に信じると赤っ恥掻きます。
「………」
体を休める時はね、誰にも邪魔されず自由で……なんというか救われてなくちゃあだめなんだ。独りで孤独で豊かで……。
その点でいうと、わたしなんて頬にタトゥーがあるだけで皆様遠巻きにしている分、存分に堪能できるってもんよゴハハ。
幼児体形なお子から、もはや本格化も間近ってお子までたくさんだ。アータほんとに中等部? って訊きたくなるお子がぎょーさんおるでよ。
(ええ、まあ、わたしもなんですけどね───!!)
恐らくは呼吸の恩恵なのかどうなのか、既に体は中等部に入りたて、なんて体格じゃあない。それでもまだまだ成長していってるってんだから、この体はいったいどこまで……? ああうん、成長の準備段階だからか、メシ食いてYEAH! って体が欲しがりさんになってらっしゃるから、風呂から出たら晩御飯はたっぷりいただくつもりだ。といっても、本格化が成ったとしても、いきなりデビュー、っていうのは無理だ。まずはトレーナーを見つけて、ジュニア級としてデビューまでをトレーニング。それから6月にジュニア級メイクデビューって運びになる。
中等部一年から既に本格化して、はいジュニアデビュー! なんて例はまずないだろう。精々一年を教官の下で学んで、翌年に、ってのが大体だと思う。たとえ本格化していてもだ。例外もあるっぽいけどね。難しいや、ウマ娘世界。何事にも例外はあるって話だね。
なので今はひたすらに鍛錬だ。がんばるぞー! えい、えい、むんっ!!
……。
前世の営業社畜コミュもあってか、マーチちゃんとの関係も良好だ。突進しつつも相手の情報を引き出し、安心させ、趣味を語らせる匠な話術……相手は懐柔される。
つい昨日も実家から送られてきたっていう人参をいっぱい貰った。元々はサラリマンをしていたらしいマーチちゃんの両親だけど、産まれたのがウマ娘だったということで退職、実家の農業を継ぐことに決めたんだって。で、今年もいい人参が出来たぜ~~~っと送ってきてくれたのだとか。
……ちなみに寮住まいになる前にも大漁にもらったらしいけど、『そろそろ住むことにも慣れて、腹も空いとる頃だっぺ』と大漁に送ってきてくれたのだとか。
食べてみると……これがまたうンまぃの。産地直送やべぇ! そりゃあスペちゃんも元気に育つよ!
そんなこんなで両親や実家の農家のことをベタ褒めすると、マーチちゃんはテレんトロんなニヘヘ笑顔ですっかり懐いてくれるようになった。
小学の頃は、家が農家とか農業とかって臭いし汚い~、やーいやーいとか男子に言われてイジメられてたんだってよしそいつ【滅・昇竜拳】で空に飛ばそう。
純粋なニコニコ笑顔で仲良くしてくれるマーチちゃんはこのわたしのマブぞ? マヴダチいじめるようなヤツに人権なぞ無い。ハイクを読め。いじめっ子男子=サン。
笑顔でそいつの住所を訊ねるわたしに、慌てて止めに入るマーチちゃんはやっぱりいい子だ。あの、マジでアストンマーチャンじゃないの? 胸以外がほぼマーチャンなんだけど? ぶっちゃけ好みです結婚したい。
でも俺となんざ結婚しても、あとあと“俺が悪いんだよ……!”みたいな結果にしかならなそうだから、高望みはやめてとっとと寝ましょうね。
そうして、マーチちゃんに笑顔でおやすみを言いつつ、今日も今日とて眠るのでした。
───……。
……ゴキッ。
……メキョッ、ゴキバキメキョキョッ……!
ゴムアゴムアゴムア……!!
「あぎゃぁあっだだだだだぃだだだだっ!? ななななになになになにぃいいっ!?」
……その夜。なんかバキミシとヘンな音に目が覚め、“え……もしやラップ音!?”なんて少々ビクついた……のだけど、転生なんてことがあるならそりゃ霊くらい居るだろーよと妙に冷静な気分になった……ら、体が激烈痛かったです。
もしや敵襲!? これは敵襲でござるか衛宮!? などと愉快な思考を振りまきながら掛け布団をめくってみれば、───ア、見なきゃヨカッタ。
見下ろした先には、まるで体の中を大きな蛇が走り回っているかのような肌の隆起。
ボゴメゴと肉が膨れ、骨が暴れ、血管が伸び、まるで錆びた鉄が軋む重い音のようなものが、関節毎から体内を通して耳に届く。思わず「ギィイヤアアアアアアッ!?」って叫んでしまったわたしは悪くないと思います。
しかし同時に理解も出来てしまった……っていうか透き通る世界とか使うんじゃなかったキモいこれキモい!!
これあれだ! 本格化だ! 俺の体が、今まで鍛えて来た意志と目標に沿うように、成長してるんだ! あたかもピトーを倒せるレベルまで、無理矢理成長を果たしたゴンさんのように……!!
「───!!」
見るんじゃなかった、とは思ってしまったけど、逆にチャンスだ! 成長する体に、思い切り氣や呼吸を練り込んでいけ! 無茶にも耐えられる体を作るんだ!
「COOOOOO……!!」
波紋の呼吸、全集中常中……いやもうここは布団被って転龍呼吸法!
「はぁああああああぁぁぁ……!!」
【ケンシロー】が低い声で呼吸を上げるように、意識を集中して体に働きかける。
すると作られてゆく体はさらに膨張をして、ミヂヂベリベリベリャリャビイイィイとパジャマの上を破裂させた。どうです? よい音でしょう? 余裕の音だ。はちきれんばかりのダイナマイトボディーが作り込まれていきますよ。あ、でも家から持ってきた一着きりのお気に入りパジャマだから替えのパジャマ無いやわたし。いやあるよ? ただ着るだけのソレならあるんだけどさ、体が大きくなった影響で、たぶんこれもう着れないんじゃないかなぁって。ジャージなら学園に交渉すれば貰えるだろうし、まあ……うん。
お気に入りだったのに……!
(……このパジャマは【ジェノサイドハート】ウイ悲しみ。1が1歩ずつしっかり噛むのが極上です)
ナム豆
……ああでも、今まで着ていた服が一切着れない状態になってしまった場合、わたしはどうやって部屋から出ればいいのでせう。……アストロンマーチちゃんに言って、センセか誰か呼んでもらうしかないよなぁ。
などと暢気な思考で誤魔化そうとはしてるんだけどやっぱり痛いものは痛いしキモいものはキモいので、黙って転龍呼吸法を波紋の呼吸側に傾けて痛みを和らげることにした。和らげる、といっても、気と波紋法を、成長している部位に溶け込ませるようにだ。ただ痛いだけなんて冗談じゃない。効率良く成長させねば。
「ゴフオォオォォォォ……!!(なめるなよオロチ……! 本格化による痛みなどにこのわたしが負けるなどと思うな……!)」
思っておいてなんだけどダメフラグが立った気がした。なんかかっこいいこと言っておきながら即堕ち2コマあたりでオロ血に負けて暴走しそう。めっちゃしそう。
ていうかね、成長痛にしたってもうちょっとゆったり来てくれない!? 自分の中身が肌の下で蛇みたいに躍動するのなんて見たくなかったよ! どんなホラーだよ! 透き通った所為で生肉とか骨がゴンボッチョって躍動するとこ見ちゃったしもぉおおおっ!! そして分かる!? 前世で足つぼマッサージとかやってもらったことあるけど、見た感じだけでもあれの数倍は痛いよ!? だって皮膚の下で自分のものとはいえ何かが躍動してるんだよ!? 怖くて波紋の呼吸を弱めるなんて出来やしなかったよ!
あ、あの!? ねぇ!? 本格化するウマ娘さんってみんながみんなこんななの!? ねぇ! みんなこんな感じで本格化を迎えるもんなの!? そりゃ他の子に比べりゃ小学校高学年にしちゃ胸とか出てきてたけど、今ちょっと上半身が裸の状態でもちょっとやばいくらいおっきくなってるんですが!? あっ、あっ、あっ、美乳だ! すっごい好みの美乳! あ、やばい! 理想のおっぱいだこれ! 手の平では収まり切らない、こう、下に手を添えるとずっしりたぷんとなるあの───アァアアアアッ!!
身体が伸びる! 足も腕も太腿も……あだぁああだだだだ! いぁだだだだだジャックハンマーの骨延長手術なんて目じゃないレベルで成長してるってこれ! あぁああでも美しい! 腰のくびれとお尻の大きさが理想的ィイ!! でもこれ中学一年生の体じゃないよ絶対! 断言できるね!
だが───
それがいい───……!
どーせ25で死ぬんだから好きに行こうぜ好きに生きようぜ!
じゃなきゃ命がもったいない! ……まあ正直ね、転生したやつの命なんて今を必死に生きてる一度しかない命に比べりゃ、ほんとカスみたいなもんだって転生前から思ってたけどね。なんなのほんと、二度も生きられる上にチート能力貰うとかアホじゃんズルじゃんほんとチートじゃんって思ったもんさ。
二度目の人生を貰っただけで満足できないって、普通に考えておかしいよね? それを、なんの努力もしてねぇ分際で能力貰っておいて望んだものと違う~とかふざっけんじゃないよアータ! とか肝っ玉かーちゃん風に思ったもんさ。
そのくせたった一度の人生を懸命に生きているやつらを能力で圧倒してドヤ顔とかするんだよ? 不正はしてないとか太々しくも言いくさって。死ねばいいのに。今俺らが持ってる様々な知識だって、先人が居たから知識として利用出来てるんだよ。分かるでしょ? それを、そういった知識のない世界でさぁ、我が物顔でさぁ、……死ね。死ねばいいのにとかじゃなくて死ね。俺は死ぬ。ざまぁみろ。
では問題です。なんのチート能力もなく、フィクションって部分を信じて雲を掴むような努力を続け、やっとの思いで開花させた能力にこそ死の宣告をされたバ鹿なウマ娘は誰でしょう♪ はい、わたしです♪ ……おーおーもちろんわたしです! わたしですよコンチクショー!
これから勝手にこの世界に紛れ込んだクソウマ娘の分際で、同期のレース人生をしっちゃかめっちゃかに掻き回す自覚も覚悟も出来てるよ! 恨まれるだろうさ泣かれるだろうさ! 二度目の人生なんてもんを手に入れておいて、のうのうと他人の道を蹂躙していこうってんだからさぁ! 罪悪感とか沸かないわけがないじゃない!
だから自覚をした上で、蹂躙上等って言ってやるのさ!
彼女らが夢見た舞台をアホみたいに踏み潰して踏み潰して、その上で頂点を掴んで走り切って、その先でとっとと死んで『馬ッ鹿でー!』って盛大に笑われてやるさ! ざまぁみろって笑われてやるさ! せっかく生まれて落ちて成長したのに、結局
……なんて。何故だか知らないけど、頭の中にたくさんの“悔しい悲しい”が溢れて、それを頭の中で吐き出しまくったあと。
「………」
勝手に溢れ出る涙を拭って、長く長く息を吐く。
気づけば体の隆起は終わっていた。
その時、なんでか……たぶん、見えない、その……馬? かなんかに……頬ずりをされた気がした。
俺のもとにどんなウマソウル因子が来たのかは知らんけど。たぶん……それこそ、走ることしか出来なかった、道半ばで死ぬしかなかったやつのウマソウルが来たんじゃないかって。
「……あー……なんだろ」
急に悲しくなって、もっと涙が止まらなくなって、頭の中がおかしくなっていた。
走ることは楽しかった。でも、走ることしか出来なかった。そして、“自由には”走れなかった。望まれるままに走って、頑張って、でもどいつよりも先には走り切れなくて。気づけば足が痛くて、自分に跨る誰かだけは守りたくて。足がおかしな音を立てて、倒れて、守りたくて。守れて。
……誰かが自分を見下ろして、名前を呼んでくれた景色が一瞬だけ見えた気がした。
ゴーグルを外した先はひっどい泣き顔で。必死になって泣く誰かの涙を、自分の頬で拭った先で、○○○は───……
「───…………女神像の前でもないのに」
どんな因子が届いたかも分からない。けど、涙が止まらない。
ただただ長い長い溜息を吐いて、なんかスースーする体を……その。布団をめくって見てみれば、なんか全裸でした。
どうやら下半身のパジャマも弾け飛んだらしい。……まあ、だよね。怖いくらいにいろんなところが隆起してたし。あと体がめっちゃ伸びてる。身長、今いくつよ……!
「……“有名な馬だ”、なんて……言われずに……。名を遺すなんてことが許されなかった馬……かな」
でも、そこに居た。
有名じゃなくたって、誰もが覚えていられなくたって、頑張らなかった馬なんて居ない。
そんなやつらの叫びが、たくさん届いた気がした。
きっと、生前に見て聞いた因子継承の“二つ”ぽっちじゃなく、名前さえ霞んじゃうような、幾つもの……気持ちが。
同じ、産まれた命なのに、産まれた瞬間は喜ばれた命だったろうに、輝けなかった……それだけの理由で、消えていった気持ち達。
でも……ごめん。背負っていくとか格好いいこと言えた命じゃないんだ。何かが原因で拾った、二度目なんていうズルくて卑怯な命だ。そんなおっさんソウルと一緒でもいいっていうなら……───
(一緒に、先頭の景色……見に行こう)
せめて、見れなかった景色を見せてやる。
ズルいって分かってるドグサレ命でも、そんな命と知識と努力で手に入れた成果で……真正面から頂点、取りに行くよ。
そうだ、俺の命だけが、他とは不平等で卑怯でずるいものでも、転生特典なんか無く、その先で努力して得られた力で頂点目指してなにが悪い。
(この世に悪があるとすれば、それは人の心だってモリスンさんが言っていた。ほんとその通りだって思うよ)
前世の知識を用いて、フィクションを現実に変える。そんなことが出来たのは、この体に俺の……人の心があったからだ。だから、同期のみんなよ。恨むなら“俺”の悪の心をお恨みなせぇ。
ガハハならば俺はこれからは外道! 悪として悪らしく、豚は死ねとは言わないけれど純粋に悪であったぞと言って死ねる自分になってやろう!
故に───死ぬ時or消える時は自分の消滅に誇りを持って胸を張るさ。
おれは!!!
おれが想うまま、おれが望むまま!!!!
邪悪であったぞ!!!!!!!!
(*注:記憶を持ったまま人生を歩き直すという、その時点で極ズルチート)
……でも正直、特典持って産まれるか落ちるかして、洗脳催眠ズッコンバッコンするクズどもよりよっぽどマシって思えるから不思議。みんなも覚えておこうね? ああいうやつらって決まって“この能力さえあれば……!”とか言ってニヤリしてるけど、言っちゃえばそれを頭の中に浮かべてる時点で、その能力が無きゃなんもないって自分で認めてんのよ。愚かだよねー。
あーあと、なんかさ、そういうキャラってさ、漫画とかだとほぼ全てのページでニヤリ剥き歯してる気がしない? なんなのあれ。あの口の形じゃないと生きていけないの? ってくらい、ニヤリ剥き歯してる。普通に口開けられないのかなぁあの人ら。
ああうんまあ、ニヤリ剥き歯とかは正直どうでもいいんだ。それはそれとして、言った通りわたし、努力しない“二度目”を渡された輩が心底嫌いなんよ。一度目はいいよ? そりゃ自分の人生だもの、好きに生きんしゃい。他人に迷惑かけなきゃ全然それでいいよ。
でもさぁ……二度目はさぁ……“ずる”じゃん? その命と人生自体が。
神とか女神ももーちょい人選真面目にやりましょ? ってツッコミたくならない? そもそもなんで神も女神も転生させて能力あげるの? 現地で必死になってモンスターと戦ってる真っ直ぐな心の冒険者に能力あげろよアホなのか? それで調子に乗るようならワンパンマンの神みたいに『没収だ!』でいいじゃん。地球人にこだわる理由がわからん。現地で必死に生きとんのだぞ? なんなら地球でヌクヌク暮らしてるやつらよりもよっぽど魔王らの脅威とか知ってるわ。その分必死になるだろうになんで? 分からん。もっと自分が管理する世界の住人信じろよクソゴッドども。
いやさ、そりゃあ日本を生きたわたしらがさ? 二度目の人生歩めるなら『嬉しいな、前には出来なかったこと、いっぱいやっていこう』なんて思うとおもーよ? 思ったもん。今度こそ悔いの無いように~とかさ。
でも人間ってさ? 後悔せずには生きられない生き物じゃない。どんな行動取ったって『あの時ああしておけばッツ……!』って絶対なるよ。“人という存在は存在自体がアホで構築されてる”ってどっかの誰かが言ってたくらいだし、思わず頷いちゃったわたしは悪くない。反論出来る人は、自分の周囲に後悔の無い人生を歩んでる人が居るかどうかを調べてみよう。居るわけねぇ。断言するね。幸せそうに生きてる輩でも、絶対に“今より上”を願いつつも現状維持の泥沼にズブズブ沈み込んどんのよ。
恋愛もので『何度産まれ変わってもキミを───!』とかいうのもあるけど、たぶん実際に産まれ変わったら全然違うことやってんじゃないかね。全部が全部いい方向に向かうように~とかほざいて行動して、その結果その子と結ばれる未来はありませんでした、とか。
たぶんその好きだった子が別のヤツと付き合ったりしたって噂を聞いたあたりでようやくその子のこと思い出したりするんじゃないの? 一途って難しいんだから、目の前の
だからね、二度目ってね、ずるいもんだってちゃんと認識した上で動きなさい。
『別に望んでたわけじゃねーしー?』とか言うなら死ね。さっさと死ね。なんで二度目生きとんのだお前。ちなみに俺はこれにあたる。安心おし、あと十年もしたら死にますから。ざまぁない。でも可能なら、アドマイヤさん(妹)のように『運命はわたしが持っていくからッ……!』とか言って、元のこの体のタマスィーに全てを託してわたしだけで死にたいなァと思っております。
ほら、アドマイヤさんのようにあの謎空間で“俺”と“わたし”とでターフを駆けながら会話をして、別れる瞬間に
そしたらもうこの子ったらツィヤッホヤされまくリーニョですよ! 身体も心も美しい、不純物のみ抹消されたジェノサイドハートちゃん! 名前だけがほんとアレだけど、それと家族以外はイッツァパーフェクトッツ(?)! 最高じゃないですか! フハハハハそしてざまぁみろ二度目ソウル! 死ぬがよい!! 死にたくないとか思ってたけどもうどうでもいいよ“俺だけが死ぬ”なら! “この体が”死ぬことが怖かっただけだしね! どうなるかなんて知らんけど、ウマ娘時空ならなんか俺だけ死ねば運命とかなんとかなりそうな気がするし! つまりざまぁみろ俺ソウル! 死ね!!
ほんとねー……どうせ二度目~とかいうなら、欲張りはせずにフリーライフを求めるために努力する奴とか、自分を守るために強くなるとかは全然いいと思う。でも全部他人任せで文句ばっかの奴、見てて楽しい? ブタは死ねとは言わないけれど、そういう奴には言っていいと思います。ぶつくさ言いながらも結局は努力する奴相手なら、しょぉお~がねぇなぁああ~って感じにはなるよ。でも努力しない文句マン。好きになれる? わたしは無理。
それならさ? 『俺は面倒が嫌いなんだ』って言いながら、好んで面倒事に突っ込んで行くスティンガーなアイツとかの方が全然良くない? 俺結構あいつ好きなんだよねー。アーマードコアの新作、待ってます。……そういやこの世界にアーマードコアってあるのかな。
「……と、いろいろ考えたところで、と」
ちらりと布団から顔だけ出して見てみると、マーチちゃんがこっちをビクビクしながら覗き見てる。オヤ、驚いたねボーヤ、くしくも同じ構えだ。(布団から顔だけ出してるという意味で)
そりゃいきなり同室のウマーニョがギョエエエエとか悲鳴上げたりゴムアゴムア躍動してたら恐怖しか覚えんわ。マジでごめん。すこぶるすいません。
「あ、あのー……マーチちゃん?」
「っ……!?」
声をかけてみれば、ビクームと布団ごと小さく跳ねるように驚くマーチちゃん。
……うん、いや、うん。ほんとね、どれだけ怖かったかが手に取るようじゃわい。
「ごめんね、マーチちゃん。なんかそのー……本格化しちゃったみたいで、布団の中で服がビリビリに破けちゃって……」
「!?」
正直に白状してみれば、『え!? 本格化ってあんな、フリーザが形態変化するみたいに躍動するものなの!?』みたいな目で驚かれた。どんな目だよ。でもたぶん驚きの量はそんなもんだと思う。
「出来れば寮長さんか、駿川さんに連絡を……あ、スマホ使えばよかったか」
パジャマは仕方ない。ので、アニメとか漫画とかでよくある、なんかすっげぇサラッサラしてそうな薄っぺらい掛け布団(?)……これなんて名前なんだ? 高級ホテルとかでスタイル抜群のおなごがこれ一枚被って寝てる、とか言うと、なんかイメージとかしやすいと思うんだけど……ねぇ? わかる? これほんとなんて名前なんだ? を、纏いながらベッドを降りて……うわっ、足の感覚がすごい変! ていうか俺の背とかスタイルの変化に、マーチちゃんがすっごい驚いてる! そりゃそうだよ俺だって驚いてるし!
「ふ、ふわっ、わぁあっ……!? せ、背……おっきくなったねぇ……!?」
「……うん。なんか立つだけでもバランスの感覚っていえばいいのかな、それがヘンな感じ」
竹馬にでも初めて乗ったかのような……あ、これあれだ、産まれたての馬が立たんとするかのような感覚。急に伸ばされるように成長した筋肉たちが、内臓からエネルギーを掻き集めてカラッポになったみたいに力が入らない。ていうかまさにそんな状態なんだと思う。今なら14キロの砂糖水とかいけそうだよわたし。あと炭酸抜きコーラとか。
……関係ないけどフィニッシュコーワとかの○○○コーワって薬とかは、興和株式会社が出してるからコーワってついてるって知ってた? 前世じゃほぼいろんな人が知らなかった無駄知識である。あと“シングロモント”って聞くと“あああれね”って頷く人は居るけど、正式名称が“新グロモント”であることを知ってる人って案外少ない。
え!? “シングロモント”じゃないの!? って驚く人は居るけど、“新しいグロモント”であることを知る人は少なかったりする。
「えー……と」
「………………?」
「……寮長さんとかの電話番号、知らないや……」
「あっ……そ、そうだよね? わたしも知らないよぅ」
「もういっそこの格好で駿川さんの部屋に突撃とか」
「だだだだだめ! ぜったいだめぇっ!」
怒られてしまった。
「や、だって寮は基本男性禁止だし、こんな───うん、夜中な時間なら大丈夫じゃない?」
「急にそのっ……いろんなところがおっきくなった子が、自分の部屋を訪ねるびっくり加減とか、考えた方がいいと思うんだ、わたし……っ!」
「………」
びっくり加減とか何語だよ可愛いなオイ。
疑問に思っていると、マーチちゃんが起き出して「わたしにまかせてっ!」と片腕力こぶに手を添える感じでムンッ! として歩き出した。
あらかわいい……とか思っている内にマーチちゃんは出て行ってしまい、なんか色気ムンムン大人な女主人公の休日チックな扉絵とか飾ってそうな格好のわたしだけが残された。どーすんだよこれ。
「………」
いやしかし……。
「…………ワオ」
やっぱり気になったので姿見の前で謎シーツ(?)を
うーむ、前世ではついにおなごの裸なんぞ見る機会もなかった俺だったが。うーむ。以前から小学生とは思えんボデーとは思いつつ、ついにこの中央に入ってからも益々成長していた体だったけど。まだ上があったとはなぁ……いや、ご立派。
……? ああいや、そりゃあ俺はこの娘がモノスンゲー大事ですけど、それはそれとして心は男ですし、見たいものは見たいです。まあといってもズキュウウウンな感じになる部分が無いので、立派になったなぁあああという親心はあっても、性的興奮は無いです。これは親心に近いんだろうね。手でずっしりもっちりたぷんたぱんしてみても、ああまあ……自分の体だなぁなんて感想しか出てこないし。まあこんなもんだろう。
だが自慢はしよう。我が娘を誇るように自慢しよう。おぉおおおれのぉおおおっ! 娘はァァァァァ!! ドゥァアアアイヌァムァアアアアイッ!!
「っとと」
つい美しくも可愛いポーズを探して、いろいろとポージングしてしまったああカワイイ。しかしハッとすると、すぐに常中を深く深く意識して、一気に伸びて疲弊してしまった体たちに癒しを運んでいく。丁度マーチちゃんの実家から送られてきた人参をお裾分けしてもらったものがあるから、それを……人参、まるごとカリッ! ポリッ! とベビースターラーメンのようにカリポリして、それをエネルギーへと変えた。
スポルツドゥリンコは常備です。しっかり咀嚼したあとにそれと一緒にガヴォガヴォと嚥下して、飲み終わったあとは消化を助ける運動を。
前世で某テレビでやっていた行動だから、ほんとに効果あるかは知らんけど、一応。
「ううむ、しかし……
そしてこのジェノサイドハート。伊達に全身の中身を見ながら鍛錬したわけではござんせん。全身を使う、という意味では似たような、ワンピでいう“生命帰還”が可能になり、消化吸収に近いことが出来るように……なるわけがなかった。うん、人間はやめられんよ、いくらウマ娘でも。
なので両腕を持ち上げ、頭の後ろで手を組み、両足は肩幅よしちょっと広めに広げて腰を軽く落とし、その状態で腰を左右に振るう。8~16回あたり。あんまり激しくではなく、軽く。激しくやると体がそれを運動だと勘違いして、胃に向かう血が筋肉に向かっちゃうからね。軽ゥく内臓を揺らしてやるのがよいのです。
お陰で軽くだけど消化吸収を助けることが出来てます。なお、効果には個人差があります。
「おっとと」
いろいろやっている内に人の気配を感じて、はだけていた謎シーツ(?)を再び纏う。と、丁度駿川さんを連れたマーチちゃんが来てくれた。OK、これでわたしの衣服についても、パジャマについてもきっと支給される筈……ッツ!!
……あ、なお。明らかなる何処のどなたですかレベルでの成長に、駿川さんには大変驚かれました。やっぱりここまで明らかに変化or成長する本格化なんてないって。普通はもっとゆっくり変わっていくって。うん、そりゃそーだ。マーチちゃんだって、きっとわたしから言われなきゃあ、わたしがわたしであるだなんて頷かなかったんじゃないかなぁ。
安らぎフートンの中に入ったまま、本格化しちゃった、って伝えたのも判断材料の中に相当に含まれてると思うよ。
……。
翌日……翌日? もう日付は変わっていたので、その日の朝。
あれから朝には着替えを用意しますから、と駿川さんに言われていたわたしは、そのままベッドで寝入って……朝を迎えたわけで。もちろんマーチちゃんに人参についてのお礼を言うのも忘れずに。あれがなければヤバかった。マジで。エネルギー的な意味で。痛みを和らげたり血の流れをある程度操れたり、爆発的な力をどれだけ生み出せようと、結局はそれを支えるためのカロリー、エネルギーがなければどうしようもないのだ。
そんなわけで、まだ穏やかに眠るマーチちゃんに大いなる感謝を送りつつ、窓から差し込む光を前に今日も一日がんばるぞい、と気合を入れるのだった。
………………。
ところで着替えはまだですか?
ほんのちょっぴりわくわくしながら、謎シーツ(?)を体に巻きつつ、ベッドの上で正座するわたし。あ、わくわくの理由は、成長したこの娘の姿に新たな制服を着させるのが嬉しいだけなので、わたしの中でおなごが目覚めた~とかの期待は一切要らん。
「………」
…………。
ちなみに。しばらくしたのち、わたしのボデーに合う制服が用意出来なかったとのことで、特注で作ることになったからしばらく待って欲しい、との事実に困惑したのは、登校するぎりぎりの時間になってから慌てて来た、駿川さんが実際に口にした瞬間であった。
……。
特別に、おっきい私服(駿川さんが買ってきてくれたもの)で登校することを許されたわたしは、自分だけ私服登校なことにソワソワしながらも……なんか、そういえば、この世代のウマ娘って……いや、先輩方もだけど。ダイナマイツな人たち、居ないなぁと。
マルゼンスキーとかが居れば、あ、もうやべぇほどマヴいねーちゃんしか居ねー、みたいな感じになるんだろうけどね。
「………」
ズチャ……といった感じで、慣れない新品の衣服や靴を履きながら歩くわたし。
みんながみんな制服で歩く中、わたしだけ私服登校。一応お報せはスマホの連絡網で送信されたらしいんだけど、いやぁ~~~ぁぁあ……逆に目立ってない!? これってばさぁ!
「だ、大丈夫? ハーちゃん」
「正直すこぶる恥ずかしい……!」
すこぶる=予想を超えて、大層、大いに、などの意。
本格化の件でのツッコミやら驚きやらから距離が縮まり、今ではハーちゃん、アーちゃんと呼び合う仲です。夜中にてんやわんやありながらも、びっくりしたねー、そうだねー、なんて笑顔で会話をすることが出来て、一気に距離が縮まったべさ。ああもうほんとかわええ。
『マーちゃんがあのほんわかぽわぽわマスコッター(マスコットになりたい系女子)じゃなかったら』、って方向だとほんとこんなんなんだろうなって感じ。あ、あとおっぱいはホライゾン。時折わたしの胸を見て、自分の胸をぺたぺた触って、とほーって溜め息吐いとる。かわええ。
「あ、あの。ほら、本格化とかしたら、アーちゃんもほら……たぶん、ね?」
「なるかなっ!? うち、お姉ちゃんもお母さんも妹もぺったりんこだけど、なるかなぁ!?」
「……ナ、」
「な……!?」
「ナルホド、スゴイナ、ワルイノハキミジャナイ……」
「それ誤魔化したい時のアレなアレだよね!?」
「チャッ……チャイマンネン……! ココココゲナトキ、ドギャンユゥタラエエノンカ、ワカラナイダケデンガナ……!」
「むー……! ハーちゃん?」
「お、押忍」
「……胸おっきくする方法とか、知ってる? 本格化前にしておくこと~とかあったら、経験談とか教えて欲しいっていうか……その」
「………」
かわええ。
ええいもうこうなったら口八丁言って、他人に揉んでもらうと~とか言ってこのワテクシが揉みしだいてくれようかしませんけどね。
ハッハハバカめ、チート転生者のしゃーわせの順序なぞ一番最後だ馬鹿め。
チートチートと自分で言って、オーホホワテクシ卑怯者でしてよー! とか認めてるくせに、なにを一丁前に我先にと幸せになろうなどど思えるのかあ、卑怯だからか。考える必要なかったわ、納得したわ。
やぁねぇもう、こういうお子に限って、ゲームとかだとチート使用者を親の仇のようにクズだカスだとギャースカ言い出すのよ? 今の自分と何が違うのやらまったくあぁああああすっげぇ死にたくなってきたもうやだ俺だけ死にたい。このボデーの持ち主よ、早く俺をアドマイヤ空間へ誘ってくれ。*3
「アーちゃん」
「う、うん、ハーちゃんっ」
「まず……胸筋、鍛えようか」
「おっきくなれるっ!?」
「ウン、モストマスキュラートカ、スッゴイニアウソンザイニ、ナレルヨ」
「モ、モス? マスカラ? 似合うって……あっ、もしかしてなにかの化粧品かなにかかな。えっとー……」
隣のぺったんさんがスマホで調べだした。
瞬間、わたしはかつてない速度でスタートを切れた。
音も無く、似合うと言われてうきうき気分で調べごとを始めた彼女から逃げ出し───スマイルの似合うゴリモリマッチョなハゲの外国人男性の素敵なポージング画像が、己のかわいいスマホの画面に映し出された時、彼女は笑顔をぴしりと停止させたのち───顔を真っ赤にしたぷんぷん顔で、わたしを追ってきたのでした。
……。
選抜レースというものがある。
この中央トレセンに入学した者は、座学や体の動かし方を大雑把に学びながら、とりあえずその選抜レースを待つ。
レースに勝つもよし、勝てずとも、トレーナーが付けばよし。トレーナーがつかないのなら、延々と選抜レースのために学んで学んでまた挑んで、の繰り返しだ。
けど、大体の人が二度三度と敗北を味わい、同期だった筈のウマ娘に担当がつき、めきめきと力を付けていくと……心を折り、去っていく。
勝負の世界とはいえ、ひっでぇ話だって思う。苦労して中央に入っても、選抜レースでふるいにかけられ、頑張っても、勝っても、負けても、実力以上がたまたま出せても、トレーナーが付かなければいつまでもここで走ることになる。
教官は生徒全体に馴染む走り方しか教えてくれないし、自分の走りを磨くにはどうしても担当トレーナーが必要だ。
そして、トレーナーガチャで失敗しても自分の望んだ走りが出来ないとくる。
ガチャの外れ枠は、己の名を上げることしか考えないクズトレーナーや、頭の悪い新人トレーナーだ。ここで言う頭の悪いっていうのは、試験を合格してトレーナーになったーとかそういうことではなく、ウマ娘のことを考えていそうで、結局その場の空気とかに流されて自分の判断を過信する阿呆どもだ。
たとえば無茶をすれば怪我の危険があるのに、担当ウマ娘にお願いですとか強く懇願されると断れないヤツとか、逆になんでもかんでも“危ないから”で止めるヤツとか。もちろんウマ娘側が阿呆な場合は、どれだけトレーナーが優秀でもろくな結果にならない。
ウマ娘側もトレーナー側も、まあ一筋縄ではいかないわけだ。
……。俺? 俺は俺の走りに口を出さない、自主性に任せてくれるトレーナーとか素晴らしいと思っているよ? 出来れば沖野Tに担当してもらいたいと心から願ってる。
───ので。
年に四回あるとされる選抜レースを目指し───
「と、このように。あなたたち新入生はまず、選抜レースで走るための地力をの底上げと、底上げした力をいつでも発揮出来るよう、心構えを鍛えることも───」
「………」
「地力……自力? 自分の力ってことだよね、うん。がんばろ……!」
一人で馬鹿みたいに猪突猛進で鍛錬していたことをやめ、マーチちゃんと学び始め、
「ふっふっふっふっふっ……! すぅっ───はぁー、すぅっ───はぁー……ねぇハーちゃん。えっと、走りながらの息のぉ~……入れ方? って、こんな感じでいいのかな」
「一人一人や走り方に寄って違うと思うんだけどね。たぶん、新入生全員、一人一人に事細かく教えてくれる教官は居ないと思うから、こればっかりは自分に合った走りを見つけなきゃいけないと思う」
「うあー、大変だぁ……。ハーちゃんはもう見つけたの?」
「うーん……見つけたっていうよりは、どんな走り方でもバテない、垂れない走りをすればいいかなって」
「え……そんなこと出来るの? 高等部の先輩だって、距離とか走り方の所為で実力を発揮しきれないって聞いたよ?」
「まあうん、子供の頃から一人で頑張ってきたから、自分の走り方を信じるしかないっていうのが実際のところ。これを否定されたら結構傷つきそう」
「新入生なのに、でっどりふと? あのおっきな重りをひょいひょい出来るハーちゃんは、ふつーにとんでもないウマ娘だと思うよ?」
「アーちゃんって結構言うことキッパリさんだよね」
「え? え、えへへ~♪」
「照れる要素は何処に?」
マーチちゃんと走り、
「育ち盛りさんは好き嫌いしないで食べることっ! ……うーんでもわたし、好き嫌いはないんだけどなぁ。おっぱいさんは育ってくれないんだよなぁ」
「この娘なんだって胸にそこまでの関心がござるのか」
「ウマ娘だもん、走ってれば上向きお尻は自然と身に着くけど、おっぱいさんだけはどうにもならないんだよ……! ハーちゃんはいったいどうやって、そんな立派なおっぱいさんを……!?」
「って言われても。わたし、家ではあんまりというかほとんど家族とは関わってなかったし、家計を圧迫しないようにって食事は少量で気を使ってたくらいだし」
「そうなの!?」
「うん。だから基本はおかずよりもお米ばっかりしっかり噛んで食べてたよ。おかずは高いからね、しっかり口内が甘みで満たされるまで、よーく噛んでから飲み込んでいたのです」
「お米……! やっぱりルァモスさんのCMでお爺さんが言ってた言葉は本物……!」
「日本人ならお茶漬けやろが?」
「そう!」
「それならわたしはお味噌汁を推すよ? ご飯、御御御付、香の物。これだけあればとりあえず日本人は強い」
───よく食べ、よく寝た。
うん。人はとりあえず薬だサプリメントだと騒ぐけど、まず規則正しい生活を送ってからそういうことをお言い。
どんだけ栄養摂ろうが運動しようが、生活リズムが不安定じゃなんの意味もないわ。
だからブラック企業にお勤めで、いくら健康ドリンコ飲もうと健康になどなりません。
JASRAC許諾番号
9023742001Y45038
作品コード:008-9171-1(ハッピー2ダンス)
これだけ文字数6万近く在り申す。おつかれさまでした。