凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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 オリジナル。
 頭からっぽにして適当に書いたらこうなった。


セーバンロードゥ

 ある日、人生をやり直せる力を手に入れた。

 セーブ&ロードって能力で、セーブした瞬間にいつでも巻き戻れるってものだ。

 そんな能力が自分にはあることを知った俺は───大絶賛瀕死であった。

 

「げっほっ……! げはっ! っ……ち、血……!? あ、ひっ……!」

 

 訳も分からず他人が起こした事故に巻き込まれて、気づけば血まみれで。そんな時になって、なぜだか自分にはそんな能力があるのです、と……ふと思い出したというか気づいたというか。

 なのでほんと、必死だった。この痛みと恐怖から逃げられるなら、って思いっきり願った───……ら、保育園児にまで戻っていた。

 ホワイ? 俺、こんなとこでセーブしたの? え? 無意識に? なんて思ってはみたけど、そういえばこの瞬間はいつまでも忘れていたくない、みたいなことを思ったような。

 や、ほんとね? 今思い返せばすっげぇくだらねぇことなんだけど。保育園にあった小さな渡り廊下……と言えるんだろうか、でなんでか寝転がってた俺の上を、当時好きだった女の子がぴょいんこと飛び越えていったのだ。

 その時に見えたパンツが、幼心に尊いものだと感じたようで。いや最低だな幼児の俺! でもお陰でこんな時代まで戻ってこれたわけで。てかこんな幼児時代からそういう目で同年代見れるとか逆にすごいわ!

 

「………」

 

 けれども、まあ。……“懐かしい”と、素直に思った。まだ子供同士でそこまで隔てって呼べるようなものがなかった時代だ。

 俺の顔についてをぎゃいぎゃい言うやつもおらず、ただただそれぞれが賑やかだった時代。……自分で言ってしまうのもアレなんだが、俺の顔は凄く整っているんだそうだ。

 お陰で小中高とろくな思い出が無い。イケメンならモテモテでウハウハだろ? なんて思えるのは漫画アニメラノベゲームの中だけだと言える。やっかみも嫉妬もすげーんだよ、実際。

 遅まきながら中学でしっかりとそれを理解した俺は、高校では前髪を伸ばして地味陰キャを演じた。ウザ絡みもされたし、理由もわからん暴力を振るわれたりもした。まあそれは教師や相手の親に報告したが。「なにチクってんだよ!」と翌日に囲まれようと、それを報告した。し続けた。すると相手もいい加減疲れたのか、いじめはやめた。勝利である。これは偉大なる勝利である。

 まあうん、そんなガキみたいな相手の行動と言動が原因で、子供が嫌いになった俺なわけだが。だって嫌じゃない? もし自分の子供があんなゲスクズカスクソボーイorガールになったら。

 ガッコっていう、金払ってまで学ばせる場所に向かわせた子供がさ? 同じく金払ってまで通わせてる子供にそういうゲッスィ行動取ってるor取ったなんて思ったらさぁ……要らんだろ、子供。そんで、そういうクズの親に限って、間違った方向に子供信じるのな。宅の息子or娘がそんなことするわけねーザマス! とかね。アホか。

 なので、俺はガキは嫌いだ。自分の子供、よその子供に関わらず、正直勝手にトラブル作って全自動でこっちに迷惑運んでくるめんどっちい存在、としか思えんのだ。

 今世の将来は、子供を産めない女性と結婚したい。割とマジで考えてる。

 

「…………それを廊下に転がりながら考える怪しい園児が俺です」

 

 本当にありがとうございました。ではなく。

 うん、そんな過去もあって、大人な女性に憧れを持ち、年上にアッピールしてみたりしたけど、付き合ってみればヒステリックな女だとか余裕のない女だとか、超絶甘えたがり女だとか……あ、うん、甘えたがりはあれはあれで可愛かった。めっさ可愛かった。ドチャクソ甘やかした結果、なんでもかんでも俺に頼って押し付けてくるようになって、結局破局したけど。

 

「アホなことしたよなー……」

 

 それでも親に孝行しよう~なんて考えて、多少は精神が自立した年上女性と結婚。会社の上司で()き遅れ~なんて呼ばれてる人だったけど、グイグイ行ったら……ではなく、トンと押したらトロトロに惚れてくれました。……言っておくけど、俺はちゃんと嫁を好きになる努力をしたし、ちゃんと好きになったし、家ではドチャクソ甘えてくる嫁が大好きだったし、会社ではキリッとパリっとしてるのに、隙あらば甘えたいオーラ出してくる嫁がめっちゃ好きだった。

 なにが不満だったかを言ってしまえば、出来れば子供は欲しくなかった。それに尽きる。けれど、互いの両親に急かされるようにして授かった。産まれた子に罪は無い。とはいえ、心中は穏やかではなかったと言っておく。

 

 どんなことがあっても我が子ならばカワイイ、という人はまあ一定数居るのだろう。それに俺は当て嵌まらなかった。あ、もちろん虐待なんてアホなことは命に懸けてもするつもりはないし、実際しなかった。んなことするくらいなら、家族やパートナーに見損なわれてでも子供は作らない。俺は真剣に嫁を愛していたから。そんな理由から、子供が産まれようが俺の愛は嫁に向けられていたわけだ。お陰で嫁から“子供にばっかり構うようになった~”なんて不満が出ることは一切……マジで一切なく、だからといって嫁が子供を構わなくなる、なんてこともなく、我が家は本当にパッと見で幸福家族に映ったことだろう。

 そうして無難に堅実に、俺が思う、願う、最強でトンガリコーン(?)な親を演じ続けてみれば───……ファザコン娘の育成に成功したわけだが。

 子供には最低限構い、子供は自分が求めれば親が構ってくれて、甘やかしてくれて、しかも親は最強でトンガリコーン(?)。他者に誇れる頼れる父親っていうのは娘にとっちゃあ自慢だったようで、まあ、うん、ご近所でも結構立派な父親だ~とか言われたよ。うん、言われた。嫁関連で褒められたら嬉しかったけど、正直複雑だ。だって内心は子供が苦手なんだもの、しょうがない。

 んだども、実はおいどん子供なんぞ嫌いどぇええっすぅ! なんて打ち明けることなぞ出来るはずもなく……俺は生涯を嫁を愛し、子供を最低限守った。あくまで俺の思う最低限レベルで。いじめなんぞした日には、心の中で縁を切る気満々だったりもしたクズい父親だ、クズだと思いたくばさあ思え! でもほんとそう思っちゃうんだからしょうがない。

 

 やがていつしか嫁いでいった娘を見送り、再び嫁とイチャラブ生活開始。

 幸せはここにある……と心を満たしていたある日、あろうことか子供を庇って事故に遭い、血まみれ状態になったわけで。

 ほんと、子供ってろくなことしねー……。返せよ俺の幸せ。

 ボールで遊んでて、転がってったボールを拾いにいったら信号無視とかアホか? だから嫌いなんだよ子供なんて。ちくしょう、嫁とまだまだいちゃいちゃしたかった……! でももう子供は要りません本当です……! 間に合うなら二人目、作っちゃう……? なんて言われた日には、背筋が凍りついた俺です……! 閉経したかもいまいち分かってへんかったけど、間に合うならもなにも俺はもう子供なんてこりごりなんだよ! それを願うならいくら愛する嫁とて───! なんて、考えすぎてついに今に嫌気が差した時……気づけば園児だったわけで。

 

「───」

 

 ハッとした時、目の前をぱんつが通って行った。子供は嫌いなのに、なんか感動した。俺ってすっげぇゲスだと再確認した。

 そして……俺は、この時のあのぱんつ……もとい子供が、成長したのちの同窓会にて、子供が作れない体であることを友人の女子にこそっと打ち明けているのを聞いてしまっていたわけで。

 ……実は彼女のことは今この時から、ああいや過去の、ここでセーブしたらしい子供の頃から好きでした。恋するきっかけがぱんつとかほんと最悪な、俺。結局告白する勇気もなく疎遠になってしまったが、子供が出来ないというのなら、俺はあなたを全力で愛せます。死んでも治らないクズな性格でございますが、嫁を愛したら右に出ようとする奴に毎度史上最強のローをキメて右に出なくさせるくらいには嫁を愛せる男です。

 や、まあ、基本がこんな子供嫌いのクズなので、それが嫌ならどうしようもない。ただし子供に割く時間があるのなら他に割くクズなので、前世では義理の家族にもとても信頼されておりましたよ?

 

  なので、過去に戻ったという戸惑いもとっとと放り投げ、彼女に積極的に話しかけることにしたわけで。

 

 仲良くなること自体はそう難しいことじゃなかった。この頃から彼女……日向小春は人懐っこい性格で、“話しかけてくれる人は友達!”を胸に、来るもの拒まずな性格をしていたから。

 そんな彼女が喜ぶことをグヒヒヒヒと見極めて実行・続行する俺。うん、最低である。子供は嫌いです。でも素直な子供を全自動で嫌っているほど嫌いなわけじゃない。出来れば笑顔にしてやりたいとは常に思っているし、迷惑をかけないなら良い子だとは普通に思う。

 分かってもらえるだろうか。嫌いなのは全自動迷惑製造機の子供なんだ。そしてそんな子供が大人になった存在だってもちろん嫌いだ。なので大人の対応を心がけて、前世で積んできた“必要最低限で娘をファザコンにした父”の力を遺憾なく発揮し……やがて。

 

「こはるねー、おおきくなったらゆーくんとけっこんするのー」

 

 ッシャオラァアアアアアアッ!!

 大きくなったらお父さんと結婚する、を言わせる前に、俺と結婚するを口にさせました。もちろん俺も、

 

「うん! おれも、おおきくなったらこはるちゃんとけっこんする!」

「ほんとー!?」

「うん!」

「じゃあちゅーしよ? あのね、すきなひとどーしはちゅーするんだよ?」

「そうなの? ちゅーってどうするの?」

「えっとねー」

 

 そして無知をよそおってファーストキッスを賜った。賜った? ちと違う。それ、目上の人が下の人に下賜するあれや。

 

「わ。ゆーくんのくち、おやつのあじがするー♪ えへへー」

「もっとくっつけたら、おかしのあじもっとするかなぁ」

「あ、やってみよー?」

「うんっ」

 

 そして無知を装って、べろちゅーまで経験。ファーストセカンドサード、そしてディープまで堪能し、ぞるぞるれろろ、マッチュモッチュとたっぷり堪能すると、小春ちゃんはぽーっとして、ふらふらと俺に抱き着いてきた。

 

「んゆ……なんかぽーっとするー……」

「おれも……あ、ねぇこはるちゃん、こはるちゃん」

「ん……なにー……?」

「……だいすきだよ、こはるちゃん」

「……!」

 

 人は、無防備なところへの好意にとても弱いといいます。それは好意でも厚意でもいいらしく、弱ったところへのやさしさに人がふらりと傾いてしまう状況とよく似てらっしゃる。そして俺は、そんな人の本能へと付け入ることに一切のチューチョは無い。ロード前に愛した嫁とのことも、今は忘れよう。しかし相手の親がどう動くか……これが分からない。

 けれどもだ。ここで怯えてなにもせぬのはロード者の度胸にアラズ。とりあえずここでしっかりセーブしておいて、と。いやまあここまで仲良くなるのに、散々とセーブはしてきたけど……でも慎重に。

 

  そうして、俺と小春ちゃんの関係は続いた。

 

 小学になっても男と女のグループで分かれそうなところを自ら突っ込み、女と仲良くしてダッセェー! なんてクラスメイツたちにからかわれようが、声高らかに、むしろ女子連中に聴こえるように、

 

「人との関係をダサいダサくないで決めるほうがよっぽどださいし、俺はお前らよりも小春が大事だ!」

 

 と。

 そして女子連中は恋戦士の味方である。

 あっという間に「サイテー! 男子サイテー!」という防護壁が精製され、俺と小春は女子連中の壁に守られることになった。

 小春は嬉しそうな顔を隠すこともせず、てれてれ顔で俺に抱き着いてくる。

 ちっこい頃ってやっぱりみんな素直だよ。もちろん俺も抱き締め返した。

 

  小学校高学年になっても関係は変わらない。

 

 どころか一層に近くなって、俺達は抱き締めたりキスしたりもほぼ毎日していた。

 やべぇと感じた時にはロードして、常に最適なる答えを……とばかりに好感度管理は怠らず。

 そうして、子供のうちに両親との挨拶も済ませてしまい、相手側の父親はズガーンと大変ショックを受けていたものの、「ま、まあ子供のいうことだし?」みたいに、そのまま好きでいられたら認める! みたいな許可を得た。

 ───愚かな。(豪鬼)

 

  そして中学。

 

 この頃になると、なんか能力の制度が上がったっていうか……別の能力があることに気づけたっていうか。

 セーブロードを意識すると、好感度が見えたりした。それは小春の前だとしっかりと数値化されており、他の女子が30~60に対し、小春は常に100をキープしていた。そして、なんか、数値に*印がくっついていて、それを意識すると別ウィンドウが出現。

 対象のために4年以上を生きると発動するとかで、その効果というのが───

 

  好意安定:対象の好意好感が、上がることはあっても下がることはない

 

 というものだった。

 すげぇ。あ、でも、どれだけ好きだろうと喧嘩はするし怒られもした。愛すればこそってやつだ。

 セーブロードを使ってわざとひどい物言いをして喧嘩になった。その実験結果がこれである。で、ロードしよう……と思ったんだけど、喧嘩してもちょっと嬉しそうだったのだ。「初めて喧嘩らしい喧嘩したね」って言われた。 

 ……ロード、出来ませんでした。良い夫婦ってのは喧嘩だってするってどっかで聞いたことあるし、それでいいって思えてしまった。

 だから、正直に言った。喧嘩したくてひどいこと言った、ごめん、って。

 そしたらぽかんとして、すっげぇやさしいキスされた。仕方ないなぁ、なんて苦笑と一緒に。

 ああうん、なんだこれ。攻略されてんの俺じゃないっすかこれ。

 

……。

 

 互いの好奇心を抑えきれず、本番は無しでイタしたことがある。

 お互いの裸にお互いが興奮して大変だった。好き合いすぎでしょ僕ら……。

 そんなわけで互いに絶頂するまで、という約束で、互いが互いを絶頂させるまで……の、うん、約束だったから、めっちゃやさしくやさしくねっとりたっぷりゆっくりと絶頂に導いた。

 たった一回。だけど小春ははちゃめちゃに激しく深くおイキあそばれた。既に絶頂を果たして凛々しき賢者であった俺の手で。

 中学にしてこの風格である。いや風格がどうかは知らんけど、いつでも恥ずかしくないよう勉強も運動も全力で、身嗜みにも気を使ってる。

 周囲からの評価も明るい俺でございます。風格がどうかは知らんけど。

 ともあれ、一度他人からもたらされる頂き、というのを知ってしまうと、小春は顔を赤く染めながらも密着してくることが多くなった。で、ちらちらこちらを見つめてくるのだ。可愛い。

 まあさすがに親が居る家でイタすわけにもいかんから、親が仕事~だとか用事が~だとかの時はまあその、即座に。

 

  そして高校。

 

 同じ高校に無事入学。

 この頃には小春の父も俺を認めてくれたらしく、「まあ……うちの小春は可愛いからな。好きで居続けなきゃおかしいわ」みたいなことを言いつつ、大人になったら酒に付き合う約束をさせられた。

 こうなると小春の母も大変嬉しそうにしていて、この頃から「孫が楽しみだわー」とか───あ。

 

「? ゆーくん?」

「………」

 

 ……え? 今から? 今からロードするの? いったいどこまで?

 俺もうこの流れのお義父さんお義母さんにたっぷり情が移っちゃってるんですが? それを、一人娘で、子供が産めないなんて現実を突き付けて生きていくの? 今からでももう一人どうですか? なんて口が裂けても……あ、いや、お義父さんが酔っ払ってる時とかならいけるか……?

 ロードして、うんとちっこい頃から弟か妹が欲しい~って小春に言うように言い聞かせる……にしたって今を捨てるのが辛すぎる。でも、二人の悲しい顔は見たくない。ていうか俺も一人っ子だよ。前の頃では妻も子も見せることは出来たけど、この流れじゃあ……あ、やばい、子供は欲しくない俺なくせに、そういう方面で落胆というか、孫を抱き上げて目尻をでれんでれんにさせてた親とか知ってる所為で余計に心苦しい!

 えっ……やるのか? ロードするのか? 何処から? 死んだわけでもないのに、べつに落胆されるだけで幸せになれないわけじゃないのに……!?

 お、俺達に弟か妹が居れば、孫らはそいつらに任せればいい。

 でもこのままじゃこの流れの俺達の家族は俺達で終わる。俺自身はそれでよくても、家族は、親戚はそうは思えないものだろう。

 だから───

 

「小春」

「うん? なに? ゆーくん」

「愛してる」

「えっ? ふむっ!?」

 

 小春に、深く深く心を込めたキスをして、ロードをした。

 さようなら。

 もう、この流れと完全に一致した流れには来れないけど。

 心から───心から、きみを愛している。

 前妻と死に別れしといて、その前妻も愛してたクズだけど、この気持ちは嘘じゃないから。

 

 

───……。

 

 

……。

 

 そうして───……目の前を、ぱんつが通り過ぎ───なかった。

 

「えぉおうわっ!?

 

 通り過ぎる筈だったぱんつが、何故か園児服で、俺目掛けて降って来た。

 そして俺の口を塞ぐと、言うのだ。

 

「うんっ、わたしも愛してるよ、ゆーくんっ」

 

 と。

 ───……ワッツ?

 

「……あれ? 小春?」

「? うん、ゆーく……えっ? ゆーく……あれっ!? なんかちっちゃくなってる!? え!? ここっ……えぇっ!?」

 

 ……セーブ&ロードが進化していた。

 4年以上を想い続けた対象に限り、深く深く深く深く愛した状態でディープキスをし、ロードをすると、その対象もロードに巻き込める、とか。

 ちなみに深く深く深く深く愛を深めた結果、進化した能力っぽいです。やべぇ。

 

「───」

 

 そして狼狽える小春を見て、俺の脳は超高速に回転! 結論! 俺も知らないことにして乗り切ってくれるわー!!

 

「ゆーくん、ってことは……小春だよな? 俺の知ってる」

「う、うん。ゆーくんもゆーくんだよね? もう両親に挨拶を済ませて婚約してる、ゆーくんだよね?」

「イグザクトリィなゆーくんです」

「あ、あははっ、うんっ、ゆーくんだっ」

 

 互いに笑い合うことで、ごまかしは成功した。

 そして俺と小春は現状を超常現象的ななにかとして、夢を見てるのかもよーとか言ったりして───

 

「じゃあ違うことをすれば、違うことが起きたりするかも」

「? たとえば?」

「お互いの両親に弟か妹が欲しいって頼んでみるとか」

「あっ! それいいっ! わたし妹が欲しかったんだー!」

「俺も妹」

「えー? あはは、そこは弟じゃないの?」

「弟だったら小春に惚れるかもだし。だめです。小春は俺の恋人で婚約者です。絶対に渡しません」

「あははははっ、もー、ゆーくんはー♪」

 

 言いつつ、小春はめっちゃくちゃテレントロンに表情が緩み切った赤ら顔をしておった。

 そんなわけで───

 

「………」

「………早くね?」

 

 小学に上がろうって頃にはお互いに妹が出来ていた。 

 

……。

 

 さて。園児の頃から結婚宣言からイチャイチャ仲良しカップリャな光景を見せつけまくるに到り、前回よりも早い段階でお互いの親に公認された俺と小春。

 一緒の布団で寝たりもしたし、お互いの両親が仲良くなり過ぎて家族ぐるみの付き合いになって、男親は釣り好き同士で休みの日には二人でよく出掛け、遅くなることもしばしば。そんな時には俺と小春は同時に風呂に入れられたりもして、さすがに“一緒にお風呂”はしたことがなかったために俺達真っ赤。既にお互いの裸も見たし、やーらしーことだってしたし、お互いの手で絶頂に到った仲なのにね?

 そんなこんなで縮こまってたところをお義母さんに促され「だめっ! おかーさん! ゆーくんに裸見せちゃだめ! ゆーくんこっち見て!」小春の独占欲が発動した。

 お義母さんは「あらあら~!」なんてめっちゃ嬉しそうにして、タオルを体に巻きつつも俺達の行動を見守った。ちなみにどこがとは言わんけどデカかった。眼福である。変わらずクズですまん。

 ともあれそしたらもうなし崩しみたいな感じで、小春と一緒に居ることも寝る機会も増えて、お義父さんやお義母さんの、親父やおふくろの意識が妹たちに向かっていることも好機として、俺達は存分に互いを愛し合った。いや、えっちな意味じゃなくてね? いやえっちなこともしたけどさ。

 親同士はまだまだ若いこともあって、幼いながらもおすすめしてみたら、のんびりファミリーTV、なんて名前でWeTubeに動画をUPし始めた。

 もちろん再生数は微々たるものだけど、その時の最先端を知っている俺と小春はそういう系の動画を撮ったり、母親たちは子育てや料理系を、男親たちは釣り動画や素潜り動画、男料理動画や海鮮料理などの動画をUP。

 俺と小春は時代を先取るニューパワー幼児として活躍。

 その甲斐もあって少しずつ高評価、チャンネル登録者数は増えていき、収益化も可能になってくると、両親らは「趣味でおこづかい貰ってる気分だ……」とか言って驚いていた。

 そういうものです、WeTuber。

 

……。

 

 やがて───再び高校生って頃になると、両親らのWeTube収益は会社等で働いていた頃の給料を軽く超えた。

 そうなれば会社で嫌な思いをしながら、というのも馬鹿らしくなったそうで、現在はWeTubeと株とで、動画の前の視聴者様を楽しませつつ、暮らしを豊かにし、家族を愛して心も豊かに生活している。

 俺と小春は18になると結婚。普段からクラスメイツらに夫婦夫婦と言われていたけど、実際に夫婦になると「マジかお前ら……すげぇな……!」とメイツたちは喉をごくりと鳴らした。

 

「初夜! 初夜とかどうだったん!? やっぱそういうのって初めての夜に熱く燃えるもんなんか!? 今時の男女らって結婚前に済ませる~ってやつら多いじゃん!? そこんところ一度マジで訊いてみたかった!」

「赤沢サイテー」

「なんでだよ! じゃあ金田は気にならないってか!?」

「うぐっ……こ、こはるん~? その、実際どうだったのー?」

「……うん。わたくし日向小春は、苗字を神戸(かんべ)に変えるとともに、その夜に……女の子から女になりました」

「「「フワーーーオ!?」」」

「男だなユージ……!」

「う、うう……あの服の下の極上ぼでーを、神戸、貴様だけが知っているなど……!」

「アッ、で、でも初めてって失敗ばっかっつーし、どーせ神戸も失敗───」

「俺基本自分よりも相手の幸福が嬉しいから、とりあえず小春を気持ちよくさせること超優先しまくった結果、何度か気絶したな」

「「「ゴッドフィンガーだぁあああっ!!」」」

師父(シーフー)!! 是非! 俺に、この上田にその神業の伝授を!」

「あっ! ずりぃぞてめぇ! 師父! 俺に! 俺にこそ正統継承権を! この恩田、必ずや師父の期待に応えてみせまする!」

「なにを言うか! 師父! この本田こそが師父の意思を受け継ぎし者!」

「師父!」

「師父!」

「勝手に弟子入りすんな馬鹿ども。あとなんなのこの田率」

 

 学生生活は順調だ。馬鹿だけど賑やかな周囲に恵まれて、そんなやつらとの関係も良好。初夜はそのー……うん。卑怯だけど、子供が出来ないって知ってるから、お外か中かって話題が出る前に、お口をキッスで塞いでドビュルビュービュル。ほんとゲスでごめんなさい。

 絶頂と期待と不安をまぜまぜした顔で、涙を滲ませた赤ら顔で俺を見つめてくる彼女に、何があっても傍に居る。一生ずっと、愛し続けると、もう一度口づけをして届けた。……そしたら逆に押し倒されて、ラウンドトゥー。

 18歳の性欲スゲかった。男のものも、女のものも。

 そんなわけで結婚もしたしってことで両親らに防音マンションの一室をプレゼントされた(親戚が経営しているらしい)俺と小春は、WeTubeを投稿しながらも毎日毎日、飽きることなく愛し合った。……生で。危険日だから、という言葉も愛で包み込み、何度も何度も。

 そして……それから大学に進学してもその関係は続いた。

 何日も何日も、何ヶ月も何年も。

 いくらなんでもおかしい、と思ったらしい小春が病院に行くのを止めることは出来なかった。だって気づいたらもう結果が出てたし。止める気満々だったのに。

 

「ゆーくん……ゆ、ゆー、くん……。あの、あ、の……わたし…………わた、し……ね? あの……」

「子供が出来ない体だ、とでも言われた?」

「!? どっ……ど、どう、して……!?」

「だって、一度もスキンつけたことも外に出したこともないのに、さすがにおかしいでしょ。原因俺かなー、とも思ったけど、実は俺の方は問題なかった。だから───」

「───! ……あ、あのっ……あのっ、ゆーくんっ! わっ、わたしっ、わたし治療頑張るからっ! ちゃんと、子供っ……産めるようになるからっ! だからっ───!」

「小春。……俺、何があっても傍に居るって言ったでしょ?」

「ぇでっ……でもっ、でもそれはっ、学生のうちから妊娠しちゃったらって意味だったんじゃ───」

「俺は、小春が好きだ。子供が欲しいから小春と居るんじゃないよ。……ね、小春。小春は子供、欲しい? 俺は、小春が居てくれたらそれでいいって思えてるちょっとやべー旦那さんなんだけど」

「~っ……無理、してない……?」

「してない。というか、その。俺、独占欲とか結構強いんだよ。だから、小春さえ嫌じゃなければ、ともに白髪の生えるまで、っていうかさ。……ずっと一緒に居てください。お願いします」

「~~~っ……!!」

 

 小春は、感極まったみたいに鼻から口までを両手で覆うあのポーズ……なんて言えばいいのかアレだけど、あれをしながら泣いてしまった。ぽろぽろ涙をこぼし、ひっくひっくと嗚咽をもらす彼女をやさしく抱きしめ、ただただやさしくやさしく受け入れる。

 ……内心とかゲッスィけどね。ああ……俺ほんとアレだなぁ……。ゲスでごめん。

 でも必ず幸せに致します。それをここに誓いましょう。

 

……。

 

 以降も子供のことで落ち込むことはあったものの、その話題のどれもを飲み込み受け止め笑顔で抱き締めると、やがて小春もなにも言わなくなった。

 気負うこともしなくなったし、なんならずっと二人で、邪魔もされずに愛し合えばいい、と思ってくれるようになったみたいで───……結論から言うと、俺にゲロ甘というか、俺好き好き人間になった。望むところですがね。

 

「ね、覚えてる? 急に園児に戻った時のこと」

「そりゃね。いっそ高校になったらまた戻るんじゃ、なんて怖かったもんだよ」

「あはは、うん、それはわたしも。でも……あれがあったから、わたしも余裕を持つことが出来たんだと思う。うちにさ、妹が……由紀奈が居なかったら、わたし罪悪感で圧し潰されてたと思うから」

「自分の所為で家族の血が途絶える~みたいな感じで?」

「それもだけど。……お父さんとお母さんに、孫を見せてあげたいって気持ちとか。……うちはね? おじいちゃんとおばあちゃんが口癖みたいに孫が見たい~ってお父さんとお母さんに言ってたんだって。あ、もちろん嫌味な方向じゃなくて、急がなくていいからって感じで。幸せになりながら家族を増やしなさいっていうのが祖父母の願いだったって聞いてる」

「聞いてる、ってことは」

「うん。間に合わなかったんだって。お母さんがわたしを妊娠した時、すっごい喜んだらしくて。ベビー用品とかわくわくしながら買いに行った先で、酔っ払い運転に巻き込まれて、それで。だからわたしは写真でしか祖父母の顔を知らないんだけど、わたしが産まれてくるのをすっごくすっごく楽しみにしていたんだよって教えられて育ったから。……だから、家族を増やせないわたしは、わたしのことが嫌いになりそうだった」

「俺は大好きだけどな!」

「あはは、うん。そこで自分に親指向けながらドヤ顔出来るゆーくんだから、わたしもこんなわたしを嫌いにならんずに済んだんだ。家族は増やせなかったけど……結婚は出来たから。だから……絶対絶対幸せになるからってお墓の前で手を合わせたらね? 頭、撫でられた気がして」

「小春……」

「ゆーくん、大好き。わたしを好きになってくれてありがとう。お義父さんにもお義母さんにも、ゆーくんの子供を見せてあげられないのはやっぱり罪悪感は出てくるけど……それでも、それだけを考えて下を向いたままでなんかで居ないよ、わたし。絶対にゆーくんを幸せにするから。だから、ずっとず~っと……ゆーくんの隣を歩かせてください」

「───……もちろん。俺も、大好きだ、小春。幸せにする。幸せにしてくれ。幸せになろう。子供に向ける筈だった自分の中の愛情全部で、何年かかってでも」

「っ……うんっ」

 

 とある日、とある静かなマンションの一室で、ソファに座って二人、抱き締め合った。

 相手の都合も考えんと、卑劣にも不正(チート)能力を行使してのセーブロード人生。どうしてこんな能力が俺にあるのかも知らんまま、それでも……俺だけが幸せになる気なんぞ、今さら俺にはなかった。

 絶対に幸せにしようと心に誓い、そして───

 

 

  ───いつかの日。

 

  俺は、“4年以上を連れ添った最初の人”の手で、その幸せを壊されることになる。

 

  幸せであることを選ぼうとしすぎたんだろう。

 

  何度もセーブ&ロードを繰り返すうち、再び能力が進化した。

 

  4年以上を連れ添った愛する人、を問答無用で巻き込むものに変わったそれは、

 

  かつて愛した人までを巻き込む能力に勝手に進化して。

 

  幸せになろう、と誓い合った筈の俺達3人は。

 

  3人分の血だまりの中で、静かに、息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───……のだが。

 

「だーかーらー! ゆーくんはわたしとしあわせになるんですー!」

「ちーがーいーまーすー! 雄二さんはわたしと! わたしと幸せになるんですー!」

「………」

 

 意識が消えていくさなか、もっとなにか出来たんじゃないか、とか思ってたら、なんか勝手にロードが発動したっぽい。

 もしやこれ、俺に未練とか一切残さず生きさせようっていう呪いの能力なんじゃなかろうか、なんて最近思い始めてる。

 ───現在、俺の目の前には園児の小春と、学生の頃の最初の妻、千秋が居る。

 嫁き遅れ~なんて言われてた元妻だけど、学生の頃の姿はアルバムで見たことある。

 これがまためっちゃくそ可愛くて綺麗でヤバかった。……のだが、そんなんだから男から言い寄られたり告白されたり、好きな人が彼女に告白した~ってんで女子にも嫌われたりと大変だったらしい。んで、その所為で男性キライ……と距離を取り続けて、気づけば嫁き遅れ、なんて状態の時に、彼女にとっての最適解というか、欲しい言葉や行動ばかりを取りまくる神のような男と遭遇してしまった。そう、俺である。

 そりゃセーブ&ロードで探りまくりながらだったから、ロードした先じゃあ最適解ばかりのやべぇ男になるよ。

 そんな男が交通事故で死に、どれほど彼女が、その娘が泣いたことか。

 なのに気づけば若い頃に戻っていて、俺の実家も知っていたことから凸って知ってオウマイガァ(おかしすぎるわよ!)*1

 そりゃね、最愛の男性がなんか別の若い子と結婚してますとか言われたらオウマイガァ(おかしすぎるわよ!)ってなるよ。

 

「あ、あのー……お二人さんや?」

「「なに!?」」

「争うくらいなら、お互い永劫に離れます? 俺、幸せにしたいしされたいけど、これがずっと続くくらいなら離れた方が───」

「「───」」

 

 直後、二人の女の子はX-MENvsストリートファイターのタイトル画面よろしく、硬い姿勢のままでガッツィイと握手をした。

 

「~……ひとのこところしておいて、よくもまあしあわせにしたいなんておもえますよね……!」

「雄二さんが言ってたんですよ……! もし俺が浮気をしたら、俺を殺してくれていいって……! 雄二さんとの約束は絶対に守ります……けど、その時はわたしも死ぬって決めていたんです……! あなたが死んだのは勝手な後追い自殺でしょうが……!」

「あー! そーゆーこといいますかー!? せっかくしあわせにくらしてたのに、いきなりさしておいてー! しぬまえにゆーくんがわたしに、あんなかなしそうに“ごめんな……”なんていえば、あとをおうのはあたりまえでしょー!?」

「だからって直後に自分を刺して、寄り添うように死のうとした人のこと蹴りますか!? せっかく“折り重なる愛し合う夫婦……!”みたいな構図で倒れたっていうのに!」

「あなたののうないがどうかはしりませんけどあのときの“つま”はわたしですー! おっとのそばにはあいするつましかいちゃいけないんですー!」

「むきー!」

「むききー!」

「………」

 

 握手をしながら喧嘩を始める二人。うん、愛が痛い。

 そしていきなり幸せをぶち壊された怒りからか、小春の口調がめっちゃ幼い。

 ていうか。

 

「あのー……千秋?」

「! は、はいっ! あなたの愛する千秋です!」

「そのー……性格変わりすぎじゃない? 会社で出会った頃なんて、誰も寄せ付けないクールビューティーって感じだったのに」

「……こんなに弱いわたしにしたのは誰ですか。わたしはもう、一人で生きていくつもりだったのに、あなたに愛を教えられました。年下に恋をして、年下を愛して、恋愛は年齢じゃないって知って。娘も家を出て、またここからって時にあなたが死んで……! わたしがどれだけ泣いたか知らないでしょう! なのにこんな、別の誰かと夫婦になってるなんて! どうしてわたしじゃなかったんですか!?」

「いやそんなこと言われても。記憶が戻ったの、お前に刺されたあとだし」

 

 そしてさらりとデマを混ぜる。クズでごめんなさい。

 するとどうでしょう、千秋は悲しそうな表情をするも、だったら、と。

 

「じゃあ記憶が戻った今こそです! 幸せになりましょう! じろじろ見てくる男子たちを気にする意味など微塵も無くなったんです! あなたが18になった瞬間、わたしたちは再び夫婦に───!!」

「なにを勝手に話を進めてるんですか! ゆーくんはわたしと! わーたーしーと! 幸せになるんです夫婦になるんですー!」

「はー!? 雄二さんの記憶が無くならなければ見向きもされなかっただろう人がなにを言ってますかー!?」

「記憶がどうとかなんて関係ありませんー! 事実としてわたしとゆーくんは夫婦になったんですから! だいたいゆーくんが18の時あなた何歳ですか!? ゆーくんはわたしと同い年結婚をまたするんですー!」

「なー!? このちんちくりんがー!」

「今小さかろうが18にはおっきくなってるからいいんですー!」

 

 喋りまくってるからだろうか。コツを掴むかの如く、小春の活舌がよろしいものになっていく。そして握手しながら展開される舌戦も、どんどんとヒートアップしてる。

 展開、って言葉で思い出したけど。サクラ大戦で“紅のミロク”ってやつ、居たよなー。ラストの印象がもう、「天海様の勝利だ! わらわは嬉しゅうございますぞー!? ……ホッ!? ホオオオオオーーーッ!!」って、なんかウコム像を奪おうとして落ちてったカーチャンみたいな最後だったってものしかない。

 

「………」

 

 いろいろ考えたけど、やっぱここは誠実に、の方がいいんだろうか。なんか解決策とかなさそうだし、セーブ&ロードしたって二人の記憶が引き継ぎされるなら、どう言いつくろっても無駄そうだ。

 ……そだな。まだ誰の未来も穢してないってことで、今からなら───

 

「あーその。二人とも」

「「なに!?」」

「今からとんでもねぇ懺悔をいたしますが、気に入らなかったらキュッとやっちゃってください。まず───」

 

 そんなわけで、俺は自分の能力についてを話すことにした。

 ますはもちろん千秋にしっかり謝罪をした上で。

 

いっぺん死ねー!!

「あぽろぉおおっ!?」

 

 もちろん殴られた。身長差もきっちり加味した素晴らしいアッパーカットだった。いや、この場合は千堂式スマッシュと言ったほうがいいかもしれない。

 

「どうりで……どうりで人が喜ぶことばっかり……! じゃあつまり、もうあなたがロードして過去に戻っても、わたしたちには隠し事が出来ないということですか!?」

「まあうん。───と、このように」

 

 ロードをすると、殴られた部分が元通り───になった途端、今度は横から殴られた。

 

「なにをなさるの!?」

「同窓会でわたしの話を聞いてたから……だからわたしを選んだなんて……! じゃあ、わたしが子供を産める体質だったら、選ばなかったってことですか!?」

「まあうん。すまん、ほんと子供苦手なんだ。なのに何故か子供には好かれるらしい」

いっぺん死ねー!!

「あぽろぉおおっ!?」

 

 そしてまた殴られた。幼いながらに全身のバネを正しく使った良いストレートだった。

 

「じゃあ、じゃあ、ゆーくんはっ……ゆーくんはっ……!」

「いっぢぢぢぢ……! ……その代わり、絶対に幸せにするって誓った気持ちは嘘じゃない。俺はクズでゲスだけど、好きになった相手を不幸にしたいって思ったことはこれっぽっちもなかった」

「「───!!」」

 

 これっぽっち以下はあったわけですがね! いいか、甘言や真摯っぽい言葉に弱い少年少女よ! “そんなつもりは少しもなかった”~とか言う奴の言葉には“少しも”以下が存在するから気をつけろ! そしてそれは、言った奴一人一人の心のゲスさによって幅がデカすぎるものだから! たとえば超絶外道と超紳士な“これっぽっちも”の量は一緒ですか? まさかまさか、ですよね! ……そういうことである。

 

「だから、二人さえ納得できるなら、これからの人生……もう俺みたいなクズには引っかからず、楽しんで生きてほしい。二度目の人生……って言ったらアレだけど、ここから始めて、好きな選択をして、前では出来なかったことをたくさんして、俺のことなんか忘れてくれ」

「───…………雄二さん」

「ゆーくん……」

 

 沈黙。のちに、両方からビンタが飛んだ。

 べぶっち!? ってヘンな声が出た。

 

「忘れられるわけがないでしょう!? わたしがっ……娘があなたのお陰でどれほど幸せだったか! たとえ打算的な行動だとしても、感じた幸せに嘘はありませんでした!」

「これだけ好きにさせておいて、忘れてくれなんてよくも……!」

「あ、でもこんなクズっぷりみせれば好意も反転して大嫌いになったり───」

「「するわけがないでしょう!?」」

「えー……」

 

 だ、だってお二人とももう清いアナタタチですよ? 俺のことなんぞ忘れて、第二の人生ヒィヤッホウした方がきっと楽しく生きられるよ?

 俺、懲りずに自分の幸せのためにセーブロードするかもだけど、そのたびに後悔があったこと~とかやり直せるのよ? ほれほれそれって素敵じゃ「ダップス!?」……殴られました。

 

「雄二さん。人は一度きりの選択に一生懸命になれるから、勝ち取れた時に心から喜べるんです。だから───」

「え、そう? じゃあ小春、この世界で俺と幸せに───」

今世のわたしの選択が決まりました……! 絶対にあなたと添い遂げます……!!

「千秋さん!? 言ってることとやってることが違うのですが!?」

「はあ……ゆーくん? そんな、片方に否定的に言われたから選ばれたって、ちょっぴりも嬉しくなんて───」

「え、そう? じゃあ千秋、俺と幸せに───」

なのでわたしから全力でアタックしますのでわたしと幸せになりましょう……!

「だから言ってることの前後がさあ!」

 

 なんか二人とも、結局のところ諦めるつもりなんてこれっぽっちもなさそうだった。

 なんでなのか。俺ほんとゲッスィーことしかしてないのになぁ。

 

「俺のことなんぞ忘れて、新しくも記憶を持ったままの人生を楽しめばいいのに……」

「記憶を持っているから離れたくないんですっ! なんで分からないんですかっ、もうっ!」

「えー……」

「たしかにゆーくんは、嘘をついて女の子の気持ちに入り込んでくるひどい男の子だよ。でも、ゆーくんの心のうちはどうあれ、それに救われたのは確かなんだ。……本当に、目の前が真っ暗になるくらい、怖かったんだよ……? 子供が出来ない体、なんて言われて……わたしは」

「小春……」

「でも、それをゆーくんが受け止めてくれた……嬉しかったんだよ……? 本当に本当に、嬉しかったんだから……!」

 

 やだ……! 潤んだ瞳でめっちゃ見てくる……! やかましくもなく子供の事情に振り回されるでもない、俺と愛する人だけの幸せな未来に目が眩んだだけ、とか言えない……!

 子供のことだってそりゃあ最初はさ? 授かって嫌悪だけしかなかった~って言ったら超絶嘘になるけど、大人になるにつれ面倒は起こすし問題は起こすしそれに親を巻き込んでくるしで、小さな時でも大きな時でもろくなことがないってのが俺の心内だ。

 だって自分が誰かの子供であることを、たとえば大人になった自分の意識で考えてみ? で、その親が自分だったら、なんて考えて、幸せな未来想像できる? 俺無理だわ、だって俺ゲスだもん。

 俺なら、わたしならこうやって~とかわくわく気分でイメージ出来る人は、楽観的な部分でしかその時ってもんをイメージ出来てない。俺が何度セーブ&ロードしてると思う。ゲスだけど人の機微には敏感でずる賢い俺でも、何度もやり直さなきゃ人間一人の好感さえ得られやしないんだ。

 それをたった一度、大人の意識を持ったままガキからやり直せた程度で、ガキな自分が親に幸福だけをって? ……無理なんだよ、マジで。それが本当に可能だって思ってるんなら、自分がいけ好かないって思ってる誰かと心の底から仲良くなってみせやがれ、やり直しなんて甘っちょろいこと言ってないで、今すぐ。

 出来る? 俺にゃあ無理だ。

 失敗無しで誰かを真っ直ぐ幸せに~なんて、それだけ難しいことなんだよ。

  

「……ちなみに。わたしたち二人が諦めたとしたら、ゆーくんはその、今回はどうするの? えと、結婚とか」

「子供が居なくても平気な女の子を探して、ともに白髪の生えるまで」

「───」

「ノー! 正直に答えた! なんで拳構えるの!?」

 

 な、なんてYAVANな! っぶねー! 殴る気だったよこの子! 俺はただ傷心した自分を時間をかけて癒したあとに、新しい愛を探そうとしただけなのによー! というような言い回しを、どろどろ、という漫画の幽霊が言っていたのを思い出した。

 人間を呪い殺そうとしたら殴られそうになった、って話だった気がする。俺はただ人間を呪い殺そうとしてただけなのによー! って感じで。いやそりゃ殴られるわ。

 

「またゆーくんの犠牲者を増やすくらいなら、いっそわたしの手で……!」

「……ていうかさ。千秋も小春もさ? 誰にも邪魔されない夫婦生活~とかって憧れないもん? 俺、確かに娘が出来たときは嫌われない程度に育て上げて~とか思ってたよ? どっちかっつーと子供が巣立ったあとの千秋との生活を楽しみに生きて来たところ、あったし」

「……それは」

「子供って、絶対に俺らが作って育てなきゃいかんの? 妹とか弟が居るならそいつらに血の継承は任せればよくない? 俺さぁ、間違っても自分の好きな相手が我が子に顎で使われたり指図されたりババアとか言われたりされたくないの。反抗期だかなんだか知らんがそんなことしたら我が子だろうが性別無視して極ナックルパート出来るよ」

 

 俺ね、ゲスである自覚はあるけど、愛した人は真っ直ぐに愛してたつもりです。

 最初っから子供は欲しくないと明言……や、千秋には言ってなかったけど、最初から欲しくはないって思ってたことだし、どうしても欲しいなら小春のそのー……治療? もしっかり手伝った上で一緒に生きていくつもりだったよ。

 だって千秋の時にだって娘っこひとり巣立たせたんだもの、心の底から嫌でヤンスなんて言うつもりもない。

 でもそれすら嫌なら一緒に居る意味なんてありますか?

 今さらあれは嫌だこれは嫌だ、ああじゃなきゃ嫌だこんなのは嫌だって言われたって、俺はそれにプラスして子供のことでまで我慢しなきゃならんなら、そんなもんはこっちから願い下げだ。

 俺はゲスだ。クズだよ。でも、嫌なことは嫌だって思うし、我慢にだって限界がある人間だ。

 なのでね、はい。

 

「俺は変わらず好き勝手生きるから、二人も自由に生きてほしい。誰かと険悪になるのも嫌だし面倒事に巻き込まれるのも嫌だから、セーブロードは今後も使うだろうし、巻き込まれて巻き戻ることは、いつかまた能力が進化したら除外出来るよう設定するから。そしたら今度こそサヨナラできる」

「自由」

「自由」

「うん。で、自由自由言いながら、なんで二人とも俺の腕を掴むのかな?」

「自由に生きていいんでしょう?」

「自由に生きていいんだよね?」

「他人に迷惑かけない程度ならね?」

「じゃ、この三人で最良の未来、目指しましょ。今さらこんな秘密抱えて一人で生きていくなんて恐怖でしかありませんし、やっぱりわたしは雄二さんが好きですので」

「セーブ&ロードを繰り返さなきゃ、千秋の喜ぶこともこれっぽっちも分からんかった元夫だよ?」

 

 自覚あるゲスは遠慮なぞしません。これも一種の自己PR?

 

「雄二さん。やり方はどうあれ、それは好きでいようとしてくれる努力です。告白して恋仲になったら、言わなくても分かるだろな馬鹿な男女が多い中、雄二さんはいつだってわたしとの幸せのために細かな気遣いをしてくれていたんですから」

「グ、グウ……小春は?」

「誰かさんに熱々新婚生活を急に血だまりの思い出にされちゃったからなー。だから、わたしは諦めるつもりなんてこれっぽっちも、ほんのちょっぴりほどもないよ? でも嘘ついてたことに怒るのは、それはそれで別だよね?」

 

 あ、そりゃそうだわ。スゲー説得力だった。愛してるくせに嘘だらけだったんだもの、そりゃ怒って当たり前だったわ。

 

「えーっと? じゃあそのー……」

「とりあえずロトゥォ・スィックスをセーブ&ロードしましょうか」

「千秋サン、アータ笑顔でなんてことを……」

「ううん、ゆーくん、やかましい親をとりあえず黙らせるには、稼ぎ云々が一番有効だと思うから。心配という名の刀を振り上げる心優しい両親と義両親だから、それはちゃんとしないとだよ」

 

 ちゃんと、と言いつつやるのは賭け事なわけですが。

 まあでもそうだね、親はまずお金はどうするのー! みたいに言うと思う。

 宝くじで当たったお金がある、なんて言っても長続きなんてしないと切り捨てられる未来しか思い浮かばない。

 じゃあどうするか?

 ……千秋に株でもやってもらおっか。

 うん、よし、人生はバラ色だー!!

 

「あ、ところで千秋? 子供、欲しい?」

「ひとつのことに集中すると、視野が狭まるのは相変わらずというか……。あのですね、雄二さん。雄二さんがそうであったように、わたしだってあの子が家を出る日を今か今かと待っていたんです。嫌いじゃないしきちんと愛していましたが、それはそれとして雄二さんとの関係はまた別だったわけですから」

「一生子供の居ない生活で平気そう?」

「それって、たとえば子供が出ていって夫まで死んでしまった未亡人の先のことを訊いてますか?」

「……うん、失言でした」

「雄二さん。それに……小春さん、でしたか。この三人で暮らすことに異論はありませんよ。だから、わたしに問答は無しです。答え、でちゃってますから」

「……そか。じゃあ、小春は?」

「子供は……自分でお腹を痛めて産みたい、って願望はあったよ? でもそれを嫌がる旦那さんが居るなら、わたしは無理に不妊治療とかはやりたくないって思う。それよりも───」

「それよりも?」

「……いっぱいいっぱい、愛してくれる? 普通なら子供に向ける筈の時間も感情も、ぜんぶぜんぶ、わたしにぶつけてくれる?」

 

 返事はもちろん即答で。

 だって自分の我儘を押し付けるっていうのなら、自分もなにかで相手に貢献しないと嘘だ。

 だから俺は小春も千秋も受け止め、またここから生きていくことを誓ったのだ。

 

「……ところで千秋の親父さん、あの頃もだったけど今なら余計じゃないか? 娘は渡さーん! って」

「まだいけるうちに妹か弟でも作ってもらいますから、時が来たらとっとと家を出ますよわたし」

「判断が早い!?」

 

 まあでも、セーブ&ロードがあるなら、自分たち以外に怖いものなんてものは、そうそうないのかも。

 

「二人も、なにかやり直したいって思うようなことが起きた時は、迷わず言ってくれな。誰々が事故にあったーとか、飼ってたペットがーとか、そういう時にはすぐにロードするから」

「目指すは幸福の未来、だね」

「こうなったらもう、生半可な幸せなんて許されませんね」

 

 開き直ったバカは強い。そういうことでいいんだと思う。

 いずれなにかしらの対価みたいなものを取られるんだとしても、それまでは精々で人生ってものを楽しんでいけばいい。

 今回みたいに喧嘩をするのもいいだろう。

 ……や、正直ハーレムみたいなことになるとは思ってもみなかったけど。

 絶対に俺が刺されて終わる悲しみの向こうエンドだと思ったんだけどなぁ。

 だってほら、クズの最後ってそんなもんだろうし。

 でもこうなったなら覚悟も決まる。俺の全てをもって、この二人を幸福の絶頂へと導いていくのだ───!!

 

*1
バイオハザードアウトブレイクであった謎翻訳。オウマイガァと女性が言って居るのに、訳はおかしすぎるわよ! だった。




 そしてなんだかんだ、人生をもっとも謳歌する三人のお話。
 まあ、あれです。
 個人的には重婚とかアリだと思う派です自分。
 自分は一途でいたい一途村のイチズさんですが、金銭的余裕もあって、ちゃんと幸せに出来る度量があるならそのー……いーんでない?
 あ、ちなみに自分にゃ無理です絶対に。
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