凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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 オリジナル。
 心狭いって言うやつは一方の気持ちしか拾わないヤツが大半だから、ピュアピュア~~~ッ、てめぇにだけは言われたくねぇぜ~~~~~~っ!! って感じのお話。

 あ。あとこんな中途半端なお話ばっかなのに、総文字数が100万超えました。アホだ。


幼馴染ってやつぁよぅ……

 幼馴染が高校デビューした。

 元々地味でもカワイイやつだったけど、気づけば垢ぬけた~とか言われるような姿になっていて、付き合う人種もガラリと変わって。

 俺? 俺は他人に合わせて自分をガラリっていうのはなぁ、ってタイプだったから、まあ汚く見えない程度には気を使ってはいた。いたんだけどなぁ。

 ある日、いつも通りといえばいつも通り、俺がちょいとした用事で幼馴染……正木愛佳に声をかけた時だった。場所は教室。ちょっとした休み時間。

 ほんとーに、なんでもない用事で声をかけただけ。ところがところが。

 

「はぁ? うわ……」

 

 はい、これが幼馴染からの反応です。

 顔を顰め、なにいきなり話しかけてきてるわけ? とでも言いたそうな顔をこちらへ向けてきた。汚いものを見るような目である。

 さーて質問だ人類よ。幼馴染であることを差し置いても、クラスメイトに声をかけられただけでこういう反応をしてる奴ってさ、……人として終わってね?

 あーうん、すごいなこれ、俺の中の幼馴染に対する友好度の全てがたった一回の声かけで滅んだよ。

 

「なに? ていうか声かけてこないでくれる? きもちわる……」

「ああ分かった。俺、お前と知り合いってことがたった今恥ずかしくなった。お前ってクラスメイトをゴミ扱いするような人間のクズだったんだな、俺の親にもお前の親にも交友関係考えるように言っとくわ」

「え───」

 

 せんせーから頼まれてた用事は俺じゃー無理だったっすとか言って辞退しよう。

 俺は俺の隣の席におわす、友人の高岡永門にミッション失敗をしつつ、談笑に戻った。

 

「いやー、ギリ聞こえたけど、幼馴染相手にあれってスゲーな」

「幼馴染相手じゃなくてもとっくに疎遠だったんだから、ただのクラスメイトだろ」

「なお悪いわ。まあ言い触らしたりとかしねーけどさー……ただ話しかけただけできもちわる、はないよな。せんせからの言伝だったんだろ?」

「俺には声かけられたくないっつーんだから仕方ないだろ。ほれノートだせ、勉強の続きだ続き」

「なんだよー、もーいーだろ、休憩しようぜ休憩~」

「教えてくれって言ったのはお前だろうが……」

 

 高校デビューでキレーになるなとは言わん。

 イメチェンだって立派な個性に繋がると、そりゃあ思う。

 でもな、それで得たものの先で、声かけただけの相手に気持ち悪い、は違うだろ。

 あーすげ、あいつに関わる様々が嫌になってきた。

 

……。

 

 家に帰ってから、俺はきっちり親にもあいつの親にも今回のことを言った。

 相手の親はなにかの間違いじゃ……とか言ってたけど、

 

「ああはい、じゃあ二人は娘さん信じてやっててください。俺がもう一方的に関わり合いたくないだけなんで。もう親には言ってありますんで、信じようがどうしようが俺と関わってくれなきゃ本当にどうでもいいんで」

「隆星くん……」

「その……クラスメイトの手前、そう言うしかなかった、とかは……」

「だからはい。俺との関係よりクラスメイトを選んだんだから、これからもう関わる必要ないってんで楽でしょって話ですよ」

「ぁ……ま、待ってくれ、隆星くん……! きみはあんなに娘のことを……」

「もう今回のことで綺麗さっぱり気持ちが死んだんで。百年の愛も冷めるとかそういうやつですよ。ていうか誤解だなんだを期待してるなら無駄ですよ? だって誤解を解くよりもカラオケいくこと優先したから今ここに居ないんですし」

「………」

「りゅ、隆星くん、娘には謝らせるから、早まった真似は───」

「関わり合いたくないので。というか“謝らせる”は違います。本人に謝る気がないことは謝罪とは言わないと思います」

「あ……」

 

 きっぱり返して、関係は終わった。

 うちの両親も、最近髪を染めてチャラチャラとしだしたあいつには、なにやら嫌なものを感じていた、とか言っていたから、まあもう安心だ。

 あいつの番号も着拒したし、家電の着拒も完了。アドレスも消したし、ヤツからのものは自動でゴミバコ行きに決定。

 

  そうして俺は、ヤツを無視し続けた。

  話かけるなと言ったのはあいつだし、親が橋渡しみたいなのをしようとしたら普通に逃げた。

  二階同士で繋がっていたベランダだって塞いだし、あいつに構っていた時間の全てを勉強や運動に向けることが出来て、むしろ万々歳だ。

 

 ───やがて高校も終わり、俺はフツーに大学へ。

 あいつは受験で落ちたらしく、バイトしながら浪人やってるそうだ。

 どの大学に行きたかったかは知らんけど、あんだけ遊びほうけてて大学行きたい、って……時間足らんやろ、どう考えたって。

 

 大学入学を機に家を出て、親戚の知り合いの喫茶店でバイトをしながら自分の将来のために知識を積んでいく日々。あいつは高校時代になにを積めたのかねぇ……なんて時々考える。勉強と運動ばっかの俺を、自分の友人と一緒にバッカみたい~とか笑ってたらしい。らしいっていうのは、俺の友人からの報告によるものだからだけど、まあ、誰かからの印象はバカであれ、受験で落ちたのはお前の方だったわけだが。

 

「ルネッサァ~ンス! ……ルネッサンスってどういう意味だっけ?」

「なんか前になにかで読んだけど、再生とかそういう意味じゃなかったっけ? あ、ビデオとかの再生って意味じゃなくて、復活とかそういう方面での」

「へーぇええ……あ、じゃあ髭侯爵とかが言ってたのも?」

「…………正直あっちの方は分からんのだよな。えーあー……今調べてみたけど、衰えたものがもう一度盛んになること、らしいけど……」

「なんだよー! じゃあ侯爵達はなにかしらの復興と再生を願って───……あれ? 髭侯爵ってワイン(たぶん偽物)掲げながら言ってなかったか?」

「………」

「………」

 

 まあ、学んだことが多くても分からんことはあったりする。

 大学でくだらない疑問を出してみては、真面目に考えてみる~って適当な課題を出し合った時、こんな会話があったのだ。なお、高校で友達になった、“なんだよー”が口癖なヤツも同じサークルだったりした。

 

「じゃ、次お前の番な。適当な議題、頼む。おもろいのでも可」

「えー……あ、じゃあ。地味だけどかわいくはあった幼馴染が、なんか高校デビューして性格がクソになった時の汝の反応を述べよ」

「なんだよー。それもしかして体験談かなんかかー? って、あいつか? あいつの話か? ああまあいいや。あー、そうだなぁああ……学校に馴染むためとはいえ、なんの相談もなく今まで付き合いのあったこっちを見下す~とかって方向のクズっぷりなら、正直もう好きに生きてくれってしか返せないなぁ。逆に、幼馴染から一緒にデビューしよ~みたいな誘いがあったのに、ぼぼ僕はいいよぉお……とかヘタレて、幼馴染だけがデビューした、とかだったら事情も変わってくるよなぁ」

「いや、誘いもなく、男の方もべつに変化をしなかったわけじゃない方向で」

「じゃあただの迷惑系幼馴染だな。既知のヤツを適当に下に見て、デビューしたわたしスッゴーゥンィって周りに認めてほしかったんだろ。もしくは幼馴染クンに無意識に甘えてたか」

「甘え? ……意外な言葉が出たな」

「幼馴染クンならこれくらい許してくれる! あとで全力で謝るから、今はわたしの根付く場所のためにー! みたいな?」

「なお謝罪もなく、堂々とその仲間どもとカラオケに繰り出した模様」

「なんだよー! それってあの時のエピソードじゃんかー! あー、以降、その幼馴染は?」

「や、知らない。どっかの大学受験して落ちた、くらいにしか」

「実はこの大学狙ってて、入学と同時にお前に謝りたかったヌォーウ!! とかだったら?」

「許すから関わらんでください」

 

 あ、無理なんで。もうほんとキミに対する興味とか死んでるんで、もう無理なんで。

 そんな気持ちしかもう浮かばない。

 “変わるため”に一度切り捨てられたなら、また何度だって出来るだろ。また切り捨てられるのはごめんだよ、俺は。

 ましてやあんな表情で“声かけてこないでくれる? きもちわる……”なんて言ってくるヤツ、人として関わり合いたくもない。

 こういう時って周りは大人になれよーとか許してやればー? とか言うけど、なんで切り捨てられた側のこっちが我慢して受け入れなきゃならんのだ? その際、こっちが切り捨てるのはなんでだめなんだ?

 向こうは自分の立場のために暴言吐いてまで切りました。

 のち、なんか謝ってきました。

 で、こっちって笑顔で全部許して受け入れなきゃならんの?

 違うだろそれ。謝られたら全部許さなきゃならんの? や、うん、許すのはいい。だから関わらんでくれ。許されたいんだろ? じゃあ許すよ。だから関わらないでくれ。

 

 え? 心狭い? ああうん、話とか聞いてくれたのは感謝するよ、お前関係ないのに。でもさ、心狭いって言うならお前もよっぽど狭いよ。だって相手の理不尽は許しても、俺のお願いはちっとも、これっぽっちも聞いてくれないんだろ? 狭いよ心。

 

 ……うーーむ、詳しく話しても、たぶんこんなことにしかならんのだろうなぁ。

 などということを頭の中で纏めてみれば、詳しく話せるわけもなく。結局俺は、この友人に詳しく話さずにいた。

 

  で。

 

 気づけばちびちびと飲み始めて、ちょっぴり憧れていたビールは苦いだけだ! なんて知ったいつかも過ぎ去り、幼馴染のことも思い出さなくなった頃。

 

「合コン───」

「行かない」

「即答!?」

 

 今も交流が続いている友人は、どこでセッティングしてくるのか合コンしよーぜーと言ってくるようになった。いやお前、そんなセッティングしてる暇あるなら、そのコミュ力利用して普通に女性とお近づきになってろよ。

 

「な!? 頼む! 突然キャンセルしちまったヤツが居てさぁ!」

「そか。じゃあ別の友人に頼むわ。たぶん喜んで参加する」

「お前は!?」

「いや無理。マジで無理。バイトと勉強で遊ぶ時間滅んでる」

「なんだよー! お前いっつも息抜き必要だーって言ってるじゃんかよー!」

「や、バイト楽しんでるからめっちゃ息抜きになってる」

「マジで!? かっ……かわいいウェイトレスちゃんとか居る!?」

「全員男だよ」

「なんだよー!」

 

 漫画動画とかでありがちな、合コンとかでバッタリ幼馴染に遭う~なんてこともない。会うっていうか遭うな時点で、もうほんと幼馴染への意識なんて、俺の中じゃ危険人物だ。

 ……さて、思い出さなくなったというのに、何故今幼馴染の話になっているのかというと。

 癒しの場、喫茶店に、ヤツが現れたからである。

 さすがに高校の頃の髪の色とかはしていないものの、あの顔は忘れない。

 即座に同じバイト仲間の桜田(とおる)くんに接客を任せ、店員側のおトイレへと逃走した。

 そこでしっかり手を、顔を洗い、ひっどい顔になっていた自分を改め、ぴしゃんと頬を叩いて気合いを入れる。

 手を、顔を自前のタオルで拭き、気持ちを切り替えて店に戻ると、桜田くんは既に注文を取ってくれていた。さすが桜田くん……! 苗字の桜と允を取って、なんか“おうムル”とかあだ名つけられてるだけはある……! テンチョーさんが付けたんだけど……なに? 若い子は知らんかぁ……ってなに?

 

……。

 

 気づけば大学も終了。

 運よく就活も終了して、晴れて社会人。

 晴れって言っていいのかは、就職祝いを家族にしてもらった時の、父の微妙な顔を見て、あー……と思ってしまい、さらにはその父に「……ガンバレよ」としみじみ言われたことで、漠然とした不安感となって俺を襲った。

 予感した通り、仕事は一筋縄じゃあいかない。どんだけ勉強してても学ぶことは学んだことの先のことばかりで、“あれ!? ガッコで学んだことってなんだったんだ!?”ばかりだった。

 や、だっておかしいだろ、国語はまあ分かる。算数も数学も、や、状況によっちゃあ算数数学が一番役立ったよって場面が多かったりした。英語ももちろんだ。

 でも……俺が入った会社、入るために学んだこととかほとんど活かせてない気がするんですが!? 

 勉強とはいったい……うごご。

 

 それでも得意分野で勝負するような場面になれば、経験を積んでいくうちにどんどんと評価されるようにもなり、勉強しといてよかった、とは結局なるわけだ。

 一度……一度? 日本人の癖として、よく話題のきっかけに一度~とか実は~とか言うけれど、あれは癖なのであって事実でないことが大半な気がするよな。

 っとと、話を戻そう。

 一度、ではなく二度三度と学生時代の友人に勉強なんて社会に出たら使わないじゃねーかー! とぼやかれたことがある。

 そんな彼に一言。

 

「学校で学んだことを活かせる場所に就職する気はあるんだな」

「───」

 

 空気が凍ったのを覚えてる。

 そうなのだ。ンなことは活かせる場所に就職したいって心を決めてから言いやがれ。

 なんだお前確実にそういう場所に自分が入れるって確信持っとんのか。

 みんな、どうなるかなんてわからんからいろんな勉強しとんのだ。

 

「なんだよー!」

 

 が口癖の友人は、今は結局俺とは全く違う場所で働いてる。

 学生時代のなにかを活かせてるか~なんてメールを飛ばした時には、コミュくらいしか役に立たん、なんて返ってきたもんだ。

 そういった日々が、月々が、年が続き、たまの実家帰りの時、仲はまあ悪くはないうちの両親から聞いた、あちらの事情。

 べつに聞きたくないのに、話題欲しさに他人のプライベートをベラベラ喋らないでほしいんだけどなぁあ……。

 

「バイトの延長で就職?」

「そそ。大学卒業して、そのままバイトの系列のお店に就職したって」

「そっか」

 

 こういう時にどういう考えをしたらいいのかが分からん。

 頑張ってるじゃん、とか浮かんでくるのがなんか嫌だ。いや、頑張りは褒めたいのに、なんか嫌じゃないか? へええ、頑張ってるんだ、みたいに俺人生の先輩デスヨーみたいな……考えすぎか?

 まあでも……関わる気はないわけですが。

 

「───」

 

 かつての自分の部屋に入ると、かつて閉ざしたベランダ通路が開通していた。

 そりゃそうだ、俺がここを出る時に開放したんだもの。

 でも、時は帰省時期。ウムスと頷くと、俺は再びそのベランダ通路を閉ざした。

 そして親にもヤツと関わる気は相変わらずないことを告げ、それでも関わらせようっていうなら俺は本気で逃げることも伝えておく。

 

「なんでそんなに頑ななの」

「べつに人生で吐くすべての言葉に責任持てなんて、俺だって言うつもりはないよ。でもあの心底面倒そうな目と、話しかけてこないでって言葉で、俺ゃあいつとはもう関わり合いたくないって思った。それだけ。相手がどうこうじゃないんだ、俺が、もう、関わり合いたくない。あ、言われるだろうから言っとく。それはお前の我儘だ~とか言うなら、じゃああいつのあの時の言葉はワガママじゃなかったの? って返す。それだけ」

「………」

 

 母さんは困ったような顔をして、仕方ない子だねぇって溜め息を吐いた。

 

……。

 

 そののち。

 俺は帰省のための服をそのままに、全身の力を抜いてぐったりまったりしていた。

 前日に干しておいてくれたらしいやすらぎフートンに身を委ね、ああ……と長い長い溜め息を吐いて。

 で、そろそろ眠気がドワオーっと押し寄せてくるって時、ピンポーンとドアベルが鳴って、俺の心の警鐘がリンゴーンと鳴った。

 間違いない、感覚で分かる。ヤツが来た。

 

「……、……?」

「……、……」

 

 階下の玄関前で、迎えたであろう母さんと……ヤツの会話。

 強く強く感覚を研ぎ澄ませながら、揃えていた準備を無駄にせぬため、そろりそろりと行動。

 母さんの足音とは別に、他の足音が床を踏む音を聞くと一層に警戒。

 やがてその足音が階段に差し掛かった刹那、俺は既に静かに開けておいた窓からベランダへと出て、トニーだけが知っている秘密の製法でこちらからのみあっさりとどけられる進行妨害材をどかし、元に戻し、ガキの頃から何度もやった方法で庭へとシュタっと綺麗に降りた。靴? スペアの運動靴ですが、なにか?

 

(ガハハハハ馬鹿め母さん! あなたや父さんがやつと俺を引き合わせようとしていたことなど長年の空気で読めておったわ! そんな俺が逃走用の靴を用意していないとでも!?)

 

 そうして俺は、帰省した息子さえ罠にかけんとする親に別れを告げ、自分が住んでいる地へと逆戻りしたのでした。

 時間の無駄だったなぁほんと……あ、でも両親にお土産は買って帰れたし、元気でやれてることも話せたし、それはそれでオッケーと。

 

……。

 

 日々は過ぎていく。

 たまに会う約束をして、近況報告なんぞをしつつも飲んでは笑う友人。

 そんな友人と意気投合して、三人で飲むようになった先輩(男)。

 男くさい付き合いも先輩が彼女さんと結婚したことで終わり、友人も恋人さんとの仲を相談してくるようになってからは、俺のほうからそっち優先しろと集まる回数も減り。

 気づけばひとり、美味しいお店探しなどが趣味になっていた俺。

 そんな時にふと出会ったお一人様の女性と、なんだか意気投合して───なんてこともあったけど、ベつに恋仲に発展する、なんてことはなかった。

 家出少女を保護したり、ホームレス幼女を助けたり、借金取りから逃げてきた女性を助けたり……なんかほんと漫画動画でありがちな、だけど大変珍しい経験を経てもまだ、俺には特別な人なんて出来やしなかった。

 たぶん、俺自身がそれでいいって思ってるからだろう。

 隣を歩いてくれる人、なんてものに、特別な期待なんぞ抱けないのだ、俺は。

 だからこうして一人で歩き、新しい味を知って、それをWeTubeで投稿したりして、のんびりのんびり時を過ごした。

 気づけば多少なりの人気を得るに到り、ほんと、僅かなものだけど、収入も得られるようになり、仕事の都合で出張したりした時にも別の地域の美味しい店探しを続けた。

 そういうものに収入源を預けようって気分にはなれないし、一発当ててやる~って宝くじに走る気分にもならない。

 こんなんでいいんだって思ってる自分に笑い、今日も今日とてお一人様。

 これから劇的な出会いがある? いやいや。

 改めて自分に問うてみても、俺自身がそれをまったく望んじゃいなかった。

 身近だった人間でさえ、ああも変わる。それを知ればこそ、人と深く関わり合いたいだなんて思えなかったのだ。

 

「……うわぁああ……! なんだこれ美味しい……!」

 

 そんな時に出会ったのが、なんかやたらと美味しいお店。しかもご近所。

 何気なく頼んだ朝ご飯セットがやたと美味しく、なんで今までこれを知らなかったのかと愕然とした。

 なんでも朝限定のメニューらしく、休日には遠出をして新しい味ばかりを探していた俺にとって、これは近場でのあるある盲点だった。

 急な豪雨に遠出する予定は崩され、けれどもなにも食べずに帰るのは嫌だったので、ええい入ってしまえと入ったお店。既に通い慣れていた筈なのに、朝に来ると不思議と別のお店のようで、新鮮ではあった。

 なお、朝と夜しか営業していない、という不思議な店だ。昼には別の用事があるのだそう。つまり俺は夜にだけ来て、朝のことなぞこれっぽっちも知らなかった、ということだ。

 

「味噌汁が美味しい店に当たると、なんか幸せ感じるよなぁあ……」

 

 嗚呼、よくぞ日本に産まれけり。

 そうして幸せを感じていると、からり、と動く引き戸式入り口。

 その先に───ヤツが居た。

 俯きながら入ってきたため、こちらには気づいていない。

 咄嗟に鞄に手を突っ込み、帽子とサングラスを取り出すと、スチャーンと装着。

 

(……勘弁してくれ)

 

 人がせっかくいい気分になってるところに。

 スズ……とお味噌汁を飲み、そこへご飯を掻っ込む。

 おいしい……のに、妙な緊張が走って落ち着かない。落ち着かないから味に集中できない。

 

「………」

 

 ちらり、と。離れた席に座る幼馴染を、一瞬だけ見た。

 髪の色ももう派手派手なものじゃないし、チャラチャラした感じも無くなってる。でも、もうほんと今さらなのだ。イメチェン? いいと思いますよ? でもそのイメージチェンジの先で声かけないでとか気持ち悪いとか言われた方の気持ちは、ちっともよくないんだよ。

 好きに生きりゃあいいと思う。でも、その“好きに生きる”の内容、俺の視界に映らないところでやってくださいませんでしょうか。

 心狭いだなんてどれほど思ってくれたっていいんだ。そのたびに俺は、お前の願いばっか叶えようとする周囲こそ心が狭ぇよタコって返すから。

 俺がどれだけ真っ直ぐに頼もうが、お前のお涙一発で覆るんだろどうせ。もういいよ、俺はもう周囲に心の広さなんざ期待しちゃいない。ほっといてくれりゃあそれでいいんだよ、俺はもう自分が楽しいって思える道を発見出来たんだから。

 

「……はぁ」

 

 嫌な気分を消すように、味に集中しようとするのに……さっきまでの美味しさなんて何処へ行ってしまったのか。残りを溜め息と一緒に掻っ込むと、会計を済ませてとっとと店を出た。

 

(……もうこの店には来ないな)

 

 溜め息しか出ない。悪いのはこの店じゃないのに。

 

……。

 

 ある日、覚悟を決めて他県へと引っ越した。

 会社の、新しく出来るプロジェクトに乗っかるついでみたいなものだ。

 会社仲間にも相談せずに決行。引っ越す日には「先に言えよこのやろー!」とか言われたけど、それだけだ。

 いちいち親への報告もせず、住んでいた部屋も引き払い、引っ越しは完了。

 その地域での美味しい店の動画は撮らず、そこから離れた場所へと移動をした際にだけ動画を撮り、投稿。

 住所がバレるようなことは一切せず、幼馴染からはもちろん、親や友人からも自分を隠すように生きることにした。

 ……敵も味方も居ない方が気楽だって悟ったのだ。

 敵はすぐさまあいつに報告するだろうし、味方だろうと口が滑れば情報が洩れる。話題欲しさに人をのことベラベラ話すヤツが、つい先日まで信頼していた友人ではないなんてどうして言える。

 そう思えれば、俺はただただひたすらに自分の平和を選んだ。

 

「なぁんでこんなことになってんだか、ほんと」

 

 幼馴染ひとりとの関係が上手くいかなかった。たったそれだけの話なのに、どうして人の自由を侵害しようとするんだろう。

 そのくせあいつは周囲を味方につけて、自分こそ正義だとでも言わんばかり。言われたわけじゃないけど。でも、もういいだろうに。

 こっちのことなんざ気にせず、自分のしゃーわせでも掴んで生きてりゃいいじゃない。それに俺を巻き込もうとすんなよ。

 動画を投稿した店に急に現れるようになって、お陰でこっちは好きだった店にとことん行けなくなっちまった。

 距離を取らずに会って話をすればいいって? 冗談じゃない、見かけただけでメシがまずくなったのに、なんでそれをこっちが譲歩するみたいなことをしなくちゃならない。

 そしておいしいお店の動画投稿って趣味も辞めなきゃいけないところまで追い詰められたら、俺はなにを趣味に、楽しみにしてりゃあいいんだよ。

 

「………」

 

 それでも。あいつを見かけてメシがまずくなるよりは、なんて。

 そう思って……動画投稿を、やめた。

 ああほんと、くっだらねぇ。

 

  そうして、ひとつの趣味が死んだ。

 

 お陰で気兼ねなく美味しいお店を食べ歩くことは出来たけど、やっぱり時々には、なんで俺が我慢してるんだろうな……なんて虚しくなった。

 

……。

 

 ……くそめんどくせぇ。

 そのひとことに尽きた。

 実家から逃走して以降、連絡の一切を断っていた親たちが、探偵だか興信所だかを使ってまで人を見つけてきやがった。

 いきなり声かけられて何事かと思った。

 事情を説明されて、来てみればどこぞの喫茶店の奥の奥の席。

 そこに、俺の両親が居た。

 

「……で。なに」

「なに、って……! あんた黙っていきなりいなくなって……!」

「あのさ、俺言ったよな? あいつとは遭いたくないって。それいきなり裏切ったのはどこの誰だよ。信頼できないって思ったからそこから逃げてなにが悪い?」

「それはっ……だって……」

「おいっ、なんだその態度はっ! 私たちがどれだけ心配して……!」

「心配って……っはは、信じて頼った息子をいきなり裏切っといてなんだそれ。なんだその態度はって? 当然の態度じゃないか。父さんが昔っから俺に教えてくれたことだろ? 人の信頼は裏切るなって。ああ、もしかして家族の信頼はいつだって裏切っていいのか? だってあいつが頼ってきたら俺の気持ちなんてどうでもよかったんだもんな? じゃあ質問するけど、俺がそれで逃げて何が悪いんだ?」

「っ……お前はっ……!」

「母さん。前になんでそんなに頑ななのって質問したよな? じゃあ訊くけどさ、なんだって二人とも、あいつの頼みにそんなに躍起になってんの?」

「それは、だってあの子はわたしの娘みたいなもんで……!」

「じゃあもうその娘とコヨシしてたらいいじゃん。あいつの願いは叶えてやりたくて仕方が無くて、俺の願いなんざどーだっていいんだろ? あのな、仲直りしたいから~とかそんな子供な話どころじゃないんだよ。会いたくもないの。話せば分かるどころじゃなくて会いたくもない。なんで分かってくれないんだよ」

「……なぁ。一度話してやるくらいすればいいんだろう。そうすればお互い、なにかが悪かった、とか思えるところも───」

 

 ……人の話聞いとんのかこいつら。

 やべぇ、実の両親なのに、嫌悪感浮かんできたぞマジに。

 

「……子供の頃に疎遠になった人間一人との関係なんてどーだっていいだろうに。あーわかったわかった俺が悪かった許すよ許す。でも会いたくもなければ声も聴きたくない。はいこれでいい?」

「……いい加減にしないか。あまりふざけた態度を取るなら、話し合いだけでは済まなくなるぞ」

「あー……拳骨でも落とす? それとも思い切り殴る? その場合、甘んじて受けるけどさ、自分が五体満足でいられるなんて思わないでくれな。……あのさ、会いたくないんだ。何度も言ってるだろ? 俺、最初から自分の素直な気持ちを二人に話してきたつもりだよ。“それ”を“そうだ”って言って、なんで殴られるんだ? 世の中さ、口にしちゃいけないことってあるよ。故意に人の悪口とか言うやつなんてひでぇなって思う。だからいろんな奴が口にはしなくても心の中じゃあいろんなこと思ってる。……でもさぁ、今話し合いしてるわけだろ? 口にしなきゃ届かないのに、なんで口にしてるのに届かないのさ。……あんたらがあいつの味方しかしてねぇからだろ?」

「それは……」

「ちゃんと聞いてくれ。父さん、母さん。俺は、あいつとは、もう二度と関わり合いたくない。それだけなんだよ。仲直りとかそんな話なんかしちゃいない。話が噛み合わなくて当然だろーが、関わらないでくれって言ってんだよこっちは。もう、二人だって信じられなくなっちまった」

「………」

「………」

「もう、長期の休みがあろうが実家にゃ帰らんから、よろしく。もうさぁ、ほっといてくれよ。せっかく引っ越しまでして平和に暮らしてたのに、どんな正義を振りかざして人の平穏ぶっ潰しに来とんのだあんたら。これであいつまでこの件に関わってたら、俺の住所なんてバレてるってことだろ? 話し合いだけで済まさなくしてるのはどこのどいつだよ。なぁ……親だから子供のことでは間違えない、なんて無いんだからな? あの日、実家で休んでた俺の部屋にあいつを案内した時点で、もう……少なくとも俺からの信頼なんて底ついてんだよ」

 

 親にしてみりゃ子供特有の、素直になれない男女の喧嘩、みたいな可愛いものだったのかもしれない。けど俺、事情話したぞ? 誇張もなしに事細かに。

 それでも二人は俺じゃなくあいつの言葉を信用したってことだろ?

 ……話し合い? ッハハハ!? 話し合いだぁ!? 同じ土俵に立とうともしねぇでンなこと出来るかボケ!

 しかもその土俵が人の信頼を泥まみれにしてまで用意した場所と来ますよ!

 

(……まあ、もう口にはせんけど)

 

 前にも言ったよ。口を滑らせたこととか、ただちょっと口に出してしまった言葉だとか、言ってしまった言葉の全部に責任を持てなんて言わないよ。

 でも、受け取った側として、俺はもうあいつとは関わり合いたくないって結論出したんだよ。気持ち悪い、声をかけるなって言われて、その通りにしてなにが悪い。

 

「……とにかく、そういうわけだから。もう引っ越しとかさせないでくれよ……。今回はたまたま仕事の都合上で移れる機会があったけど、こんなのそうそう起こらねぇよ……」

「……ねぇ。本当に、どうしてもだめなの? 会って、話をするだけなのに?」

「あのさ。前から訊きたかったんだけど、会ってなに話させる気さ。俺は話すことなんてなんにもないぞ? で? おたくら納得するの? あいつが喋るなにもかもを全否定して関わらないでくださいって俺が言ったとして、俺は素直な気持ちを吐き出してるだけなのに、割り込まずにいられるの? で? それって話し合い? 二人が納得する言葉じゃなきゃ許さない、ただの処刑場の間違いじゃない?」

「……ぁ……」

「何度でも言うけど。会いたくない。逢いたくない。遭いたくない。ちゃんと話聞いてくれ。俺は、あいつと、関わり合いたくない」

「だがな。子供の頃の一言くらい───」

「あーそーだねー。あいつが子供の頃になに言おーが二人にとっては“くらい”で済むんだろーねー。じゃあ子供の頃の俺がそれを受けて、あいつのこと心底嫌いになって、なにが悪いんだー?」

「…………~……」

「………」

「子供の頃、たとえば俺があいつに“気持ち悪い、声かけるな”って言ったら、父さん絶対拳骨落としてたよな? で? この現状なによ。実の息子より大事にしたい、よそのお子が居るなら大事にしてりゃあいいじゃない。反対しないよ? これっぽっちも。そっからとっくに巣立ったガキのことなんざ忘れてコヨシしてりゃーいーでしょーに。だからさ……頼むからさぁ……人が頑張って作った平穏、踏み荒らしに来ないでくれよ」

「っ……なんてことを言うんだ! 私たちはお前を心配してっ!」

「ああいいよそういうの、もう今さらちっとも響かないし。幼馴染の方がいつだって最優先なんだろ? ガキみたいに拗ねてるとかじゃなくてさ、もうほんとそうしてくれてりゃいいからさ。だからさぁあああ……! いっちいち探偵だか興信所だか知らないけど無駄金使ってまで人の平穏踏み荒らしに来てんじゃあねぇよぉ、なぁああ……!?」

「っ……!」

「………」

 

 いっそ叫び散らかして、椅子だろーとなんだろーと使い尽くしてブチノメしてやりたいくらい腸が煮えくり返っている。

 結局こいつらの前提は、俺が実家に帰ったあの時からこれっぽっちも変わってない。いや、むしろアイツ側にこそ傾いてらっしゃる。本当に面倒くせぇ。

 

……。

 

 一応の、平穏は戻ってきた。

 ていうか今さらあいつ、俺に会ってなにがしたかったんだか。

 そういうことにさえ興味を持つことさえ億劫だから、ただただ忘れることに努めた。

 趣味のいくつかは消えた。SNSにはストーカー被害にあったのでこれから先の投稿はしませんと書いて、次の投稿はしなくなった。

 それでも地味~に過去動画を見てくれる人は多いようで、なんともありがたい限りだ。




 お話合いの場を設けたのに中立者の居ない話し合いほど、不愉快で意味のないものもそうそう無い。そんなお話。
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