やっぱ世紀末を救うのは愛でしょ愛~♪ というアーチェ・クラインさんの言葉をなんでか時々思い出す今日この頃。
過去のテキストツールの自動保存の奥底に、案外存在さえ忘れてた未完作があったりした。
異世界に転生したらチートを持って、なんかゆくゆくは最強にならなくちゃいけないらしい。なんで最強なのかは知らない。でも最強って決まっちゃってると、出てくる妨害対象全員雑魚なんだろうなぁって、ちょっと残念に思う。
で、その最強さんはハーレム作ったりしてムヒョヒョヒョヒョなんて生活を送るわけです。
「いやー……自由なさそうッスよね」
口に出しながら、薬草をもしゃりとむしった。
「えーっと、こっちは売る分でこっちは自分用、っと」
そう言ってバックパックの目録を見て頷く。必要分は取れたなら、欲張らないのが賢い生き方。
……さて。
「今日はモンスターも出てこないみたいだし、帰るか」
溜め息ひとつ、町へ向けて歩を進める。
ついでに考えていたチートだの最強だのハーレムだののことも思い出しながら。
「ハァ~レムねぇ。まぁ、まともに頭働いてたら考えないよなぁ」
はっはっは、ただのクズになる未来図しか見えねぇ。や、いいと思うよ? ちゃんと自分で稼げて養っていけるなら。
囲った女性の数だけ子供出来て、それらの面倒ちゃぁんと見れて、皆様愛していけるなら。
世の中たった一人を愛して、子を生してってだけでも離婚するヤツ居るってのにハーレムって……まぁ、夢見たい気持ちはわかるけど、なんでそう欲張っちゃうかなぁ。
「よっ、おつかれさんトマス」
「おつかれさん、マッシュ」
町への門を潜る際、衛兵のマッシュに声を掛けられ、返事を。いつものことだ。
「また安い依頼か? ちったぁ冒険すりゃいいのに」
「依頼じゃないって言ってるだろ? 俺は冒険者ギルドに入ってない。ただの冒険家だ」
「またそれか。なにが違うんだよ」
「何度も言ってるだろが。依頼で動くんじゃなく、好きに動いてんだ。取れた素材は売るか使うだけだし、引き受けてモンスターと戦うわけでもない」
そう、今日はモンスターが出なかった。出ればこいつに報告して、俺はさっさと逃げるか協力するかを選択するだけだ。
モンスターとの戦いなんて、基本は逃げるだけ。当たり前だ。俺は冒険家であって冒険者じゃない。いや、それも違うか。探険家って言ったほうがいいのかもしれない。
「はぁ~あ、やっぱお前、変わってるわ。他のやつらなんてやれパーティーだ、やれレベリングだ、なんて先へ先へと急ぐのば~っかなのに」
「そんなのつまらないじゃないか。せっかくこんな眩しい世界で生きてるんだ、俺は世界を、景色を、じっくりと目に焼付けながら冒険、探検をしたいんだ」
「へいへい、“ギルドに縛られてちゃ堪能出来ない世界がある”、だろ? せ~っかく可愛い幼馴染と一緒だったのに、意見の食い違いで解散とか……おーお、かわいそ」
「………」
同い年の幼馴染のルミエラ。産まれた時から一緒で、同じ村で育ち、一緒にこの世界を旅しよう、って誓い合った。
しかし彼女は“なにはなくともレベルだよ。レベルさえあれば、危険な状況でも生きて帰れるんだから!”とレベリングに走ろうとした。
冗談じゃない。俺はその時その時に初心のまま冒険し、到達した感情のままに眺める景色を愛したいんだ。
そんな、レベリングの適正地だからと、モンスターを殺すために一度訪れた場所へ、“景色見るためだけに来ましトゥァ~ン、あ、でも一度見たからもういいっすぅん☆”なんて気持ちで来たくない。
アホか! 初めて訪れて、そこが初めて見る光景だから、どんな絶景も感動できるんだ! レベリングのために一度来た場所に初心で来れるかよアホかこのアホ!!
だから俺はパワーレベリングもレベリング前提パーティーも大嫌いだ。そしてやつらの巣窟である冒険者ギルドも大嫌いである。
「ちなみに俺の予想では、ルミエラはパーティーのリーダーと恋に落ちて俺のことなんぞさっさと忘れてると見た」
「お前クズだな。“待ってて、強くなってすぐ戻ってくるからっ!”って目ぇ輝かせてたじゃねぇか、ルミエラちゃん」
「別に結婚の約束をしてるわけでもない、こんな俺のところに戻るって? 幼馴染ってだけで? それよりもともに冒険することで絆が深まったリーダーかパーティーメンバーに惚れるだろ」
「…………まあ、否定は出来ないな。お前、ほんと普通~って顔だし」
「はっはっは、このイケメンめ」
「イケメン? なんだそりゃ」
「あー……USUI本によると、イケてるメンズ……って意味らしい。あ、メンズっていうのは男って意味な? で、主に顔がいけてる男、って意味で使われてたな。俺は是非とも、心技体、全てがイケてるメンズって意味で捉えてほしかったよ」
だって性格クズ男をイケてるメンズって言うの、なんかおかしいだろ? そりゃ、顔だけはイケてるメンズ、でもイケメンとは言えるんだろうけどさ。
「んで? トマス~、お前それ本気か? ルミエラちゃんがPTリーダーと~って」
「少なくとも俺じゃないわな」
「んじゃ賭けるか」
「俺が捨てられる方に全財産」
「お前もうちょっと幼馴染信じない!?」
「信じてるじゃないか、捨てるって」
「今のお前なら是非捨ててくれってお願いしてぇわ」
「じゃ、お前もルミエラを信じると」
「その言い方やめろ! お前そっちの意味でちっとも信じてねぇだろ!」
言いつつ笑った。どつきあった。
……この数時間後、本日帰って来たらしいルミエラは……しっかりとリーダーとデキていた。
……。
で。
「信ッッじらんねぇあのクソアマ! ほんとにデキてやがった!!」
こうして酒場で叫んでいるわけだ。や、俺じゃなくてマッシュが。
「や、そりゃそうなるだろ。テンプレテンプレ」
「お前悔しくねぇのかよぅトマス!! 俺ぁ……俺ァ悔しくて! 見送る時、なんてケナゲな女の子っ……! って感動したってのにちっくしょうがぁああっ!!」
「まあまあ……あぁほら、もしかしたらえぇっと、ほら、そのー……サ、サプライズ? ちょっと違うか。あ、そうそう、ドッキリ! 驚かせるためにわざと恋人のフリしてるとかもあるかもだしさっ」
「ていうかどうしてお前はそんな平然としてられんだよ! 将来を誓い合った幼馴染を取られたんだぞ!?」
「や、だから。べつに結婚の約束とかしてたわけじゃないから、取られたとかそういうんじゃないんだよ。それに───」
「それに……? あ、あのよぉトマス? お前さ、もーちょい自分の気持ちに素直に───」
「もうここらをレベリングのために歩き回ったヤツと一緒に冒険とかするわけないじゃないか」
「うぅわぁすっげぇ素直だった!! おっ……お前そこまで思ってるんだったら見送りの時点で止めろよお前ぇええ!!」
お前二回言った。なんなんだ。
「べつにこれは俺がやりたいことだし、あいつ関係ないだろ?」
「…………なんか一周回ってルミエラちゃんが可哀相に思えてきた……。急がずに、もしルミエラちゃんがリーダーんとこ行かなかったら、今隣に居るのはお前だったかもとか考えねぇの……?」
「……おお。そりゃ盲点だった」
なるほど、冒険を通じて好きになったなら、俺ともそうなってた可能性が……か。
「ゆっくりと世界を堪能する気も無いヤツなんてごめんだ」
「ひっでぇこいつひっでぇ!! でもなんか今なら許せる!!」
「だってなぁ……考えても見ろよ。景色を堪能しながら歩いてる横で、この山はなんたらかんたら、頂上になんたらかんたら、私が先に登った時はもっと景色が~とかベラベラ横で語られるんだぞ?」
「鬱陶しいな」
「だろ。で、魔物が出れば上げたレベルで楽々倒してドヤ顔で“どぉ!? 私が居てよかったでしょぉお~っ!”とか言われるんだ。おまけに踏破した景色に感動してる横で、“じゃ、次行こうか”とか“いつまで見てるの? 次行こ次”とか言うんだ」
「……あ、うん。お前が正しいわ、そりゃ嫌だな。なんで急いだんだろうなぁルミエラちゃん」
「まったくだ」
……というわけで。
俺、ハッサム村のトマスは14の時に村を出て、15の現在は探検家? 冒険家? をしている。
同い年のルミエラは、誘われた初心者パーティーとともに冒険に出て、1年は会っていなかった。
現在の俺は12レベルで、戻ってきたルミエラは52。無邪気な顔で“どーだー!”とプレートを見せてきたルミエラは、既に雲の上の存在に近い。
そして、そんな彼女の肩を抱いて、ハッハッハッハと敵意も邪気もない顔で笑っていたパーティーリーダーのカレオ。ルミエラの他に三人の女性とパーティーを組む、ハーレム男だった。
俺としては“え? なんだこいつ、なんで俺に話しかけてきてるんだ?”な気分だったんだが。いや、だってお前そっちのPT行ったじゃん? もういろんな景色見て回ったじゃん? 俺ガイドとか要らないンスけど。要らないンスケド?
なのでリーダーにハーレムおめでとさんと言って、マッシュ誘って酒場です。
「ハーレムってどういうことよー!!」
などと一人納得していると、酒場の羽扉をゴチャァッキィと勢いよく開ける女一人。まあ、ルミエラだったわけだが。
「ぇえっとぉ……あ、居た! トマス! ねぇトマス! どういうことよハーレムって!」
そしてこっち来た。勘弁してほしい、うるさい。
旅に出る前は一緒に頑張ろうねって笑顔でやさしく言えるシニョリーナだったのに。誰だシニョリーナ。アロエリーナの仲間? もの言わないだけ静かでいいな、アロエリーナ。
「え? いや、知らんやつらと旅に出て、この一年で心惹かれてハーレム入りしたんだろ? 肩抱かれてても平気そうだったし」
「へぁう!? 肩!? ぇ、ぁ、や、ちが違うの違う違う!」
「親父が言ってた。女の“違うの”には聞く耳持つなと」
「言ってたけど! お願い聞いてこれ本当に誤解だから!」
「幸せに……な? 俺はこれから一人で頑張っていくから……」
「違うって言ってるでしょ!?」
ハッサム村のルミエラ。俺達に苗字はない。だから○○村の○○○、といった感じの名前になる。
村は小さいから同じ名前で被ることは許されない。故人の名前を使う場合、何代か離れたのちにじゃないと許されない。
そんな村で生まれた彼女は金色のポニーテールを振り乱し、そのたびに揺れるお胸様とお尻様を気にする余裕もなく、シュッと引き締まった腰周りを傾け、座ってる俺へ向けて前傾でぷんすかしている。ていうかエールが乗っかったテーブルをバンバン叩くのやめなさい。
「わ、私はトマス! あなたと……って違うまずは誤解から! あのね! うちのリーダーヒーラーだったでしょ?」
「知らんが」
「うん知らんな」
「そうなの! 知ってる前提で語り出してごめんだけど、そうなの! そ、その、さっきね? やっとここに帰れたって喜びのあまり、突っ走って、転んで、肩打っちゃって……その……だから……」
「服……お綺麗ですね?」
「生活魔法使っただけだからぁ!! ちゃんと転んで汚れたからぁ! やめてよぉ! そんなやさしい目で言うのやめてよぉ!! ほんとに誤解! 誤解なんだったらぁ!!」
幼馴染はなにやら必死だった。……必死なところがますます怪しい……!! などと言うつもりはないが……あぁ、うん、ないが……だよなぁ。
「ふふっ……ルゥ」
「ぁっ……トマス……!」
ルゥ。幼馴染を親しみ込めて俺が呼ぶ時のあだ名。
そう呼ばれたルミエラは、ぱぁっと表情を輝かせ、
「旅の最中、景色は綺麗だった?」
「うん! 特にハローナル渓谷とかね!?」
「二度と俺に話しかけるなこの
「あれぇえええええっ!?」
幼馴染を迎える暖かい目から一変、汚物を見る目を進呈し、酒を飲み干してお勘定。
信じられんこやつめ……! 俺の前で、まだ見ていない景色の話を嬉々としてしようとしやがった……!!
「あーあールミエラちゃん……一緒に居たいなら今の言葉だけはだめだわ。こいつが、世界を見たくて冒険してんの、ルミエラちゃんなら知ってただろうに」
「だ、だって口で伝えるくらい……!」
「ルミエラさん、俺……初めて見る景色に一緒に感動してくれる人と冒険したいんだ……」
「それはっ……で、でも、だって……! ていうかルゥって呼んでよぅ!」
「一緒にいろんな景色を見て歩こうって言ったのに、そんな約束よりも別PT様との旅路を選んだならもういいだろ……。ほら、リーダー様のところへお帰り……?」
「ちゃんともう二度と同じPTには戻らないって言ったから! 言い切ったから!」
「そういう風に思わせて、実は俺を本気にさせて後で笑いものにするために……!」
「うーわ、ルミエラちゃん最低だわ……」
「そんなことするわけないでしょ!? ていうかなんでそうまで疑われてるの!? ……あっ、もしかしてトマス、私があっちのPTと先に旅に出たからって嫉妬して───」
「あ~あ」
「ふえ? え? あの、え? マッシュ? なにそのあっちゃーって溜め息」
「女は知らんのかもだけどね、男に対してそれだけはヤバい。誤解解ける前にそれはヤバいよ。解く気あるのかお前ってくらいヤバい」
「え? え?」
いや、誤解も嫉妬も知らんが、その“ハッハァ~ン? かわいいでちゅねぇ~”って顔を好きな男はまず居ない。俺の知る限りでは絶対に。
意地張ってそっぽ向いてるヤツを煽りたいならわかるよ? うん、すっげぇわかる。でもさ、俺べつに意地とかじゃなく、ただお前にゃもう立派なPT居るし、俺は誰にも邪魔されずに自由で、なんというか救われる旅をしたいだけなわけで。なしてそれでそんなハッハァン顔をされて、嫉妬していると決め付けられにゃならんのだ。
「……つまりはそういうわけで、嫉妬とかじゃない上にお前が好きにPT組んで旅に出掛けた以上、俺が好きに旅をするのを邪魔する権利も、勝手に嫉妬だとか言ってドヤ顔する権利もないんだ。……ていうかほんとやめてくれ、なんで俺が嫉妬するんだよ」
「え……え? だ、だって一年経ったのにここに居るなんて。私のこと待ってたんじゃ……」
「? いや、普通に下地を積むためだが。金稼いで人脈増やして、って。ここに商人が結構来ること知ってるだろ? 旅に必要なものとか、そういったことをよく知る人ととのコネ作りとかしてただけだぞ?」
「───!」
「いや、そんなキッとこっち見られてもなぁ。ほんとだぞ、そいつが言ってること。門番見習いの頃から俺が商人に軽く声掛けして、トマスがいい素材を手に入れてたら、俺がちょいと紹介する~とかそういうのだな」
「……そんなぁっ……!!」
あ。なんか床に崩れ落ちた。悲しみの女の子座りだ。
「ふぐっ……ぐすっ……! わ、私……私こんなに好きなのに……! 会えないの、一年も我慢したのにっ……!」
「いや、そこよ。なぁルミエラちゃん、なんだって自分だけ一人で突っ走ったんだ? 景色見ながら旅したいって、こいつしつっこいくらい言ってただろ」
「だっておじ様が言ってたんだもん! 男女で旅に出る者の多くは、女性を庇って男が死ぬことがよくあるとか! わ、私が弱い所為でトマスが死ぬなんてイヤ! 絶対やだ! だ、だから私っ、わたしっ、頑張って強くなろうっておもったのに……ふぐっ、ふえっ……! うえぇええええええん……!!」
「…………だ、そうだが。俺の親友よ」
床にぺたんと座り込んだまま、子供のように目じりを猫の手で拭いながら泣き出してしまったルミエラを見て、マッシュは“どーすんのよ、お前”といったふうに俺を見つめる。
その態度は別に、泣かせた責任は取れ~なんて勝手な感じではなく、相手の事情もちったぁ加味しろドアホゥって感じの態度だった。
泣き出した女を見てどよめいている酒場のみなさん、こいつ、さっきまでこいつのことクソアマとか罵ってました。
「じゃあ、ルゥ」
「……! トマス……!」
ルゥ、と呼ぶと、涙を流しながらもぱぁっ……と笑顔をこぼすルゥ。
そんな彼女に───
「本当にあっちのPTのことはいいのか?」
「いい! どうでもいい!」
「いやどうでもいいは言い過ぎでしょ……」
「なんにもないからね!? 触れられたのだって、怪我した時に少しだけだから!」
「うーわー……リーダーさん苦労しただろうなぁ……」
「自分の分の回復薬は自分で用意したもの! レベリング以上に関わるつもりはないってキッパリ言った上での結成だったし! なんなら好きな食べ物さえ知らないもん!」
「マジで!? いっ……いやいやさすがに好みくらい───」
「レベリング以外興味ありませんって言ったもん……一番最初に言い切って、休んでる時もミーティングの時でさえ戦闘以外のことは完全無視だったもん……!」
「…………トマスよぉ。一途過ぎて見てらんねぇよぉ……」
いや……はい。さすがにそうまで言われると。
むしろよくカレオのPTが無事だったなぁと、迷惑かけてすんませんしたレベルで頭下げたい。
しかしどうしたもんかと考えていると、煮え切らない態度の俺にマッシュがすぱんと自分の膝を叩いて発言する。
「じゃ、あれだな」
「あれ?」
「なんなら今すぐ出なきゃいいんだよ。人脈作った、下地作った、旅の準備もいい感じ。けどトマスよぉ、ほんとにそれだけか? お前にゃまだまだ戦闘経験とかが足りてねぇんじゃねぇか?」
「戦闘経験……」
「そだ。お前は外に出ても、結局は景色ばっかで積極的に戦闘はしてねぇだろ。12レベルっちゃあここいらじゃ結構なレベルかもだが、それだって一年かけてのんびりと上げたもんだ。けどな、そんなもんその気になりゃその半分の期間どころじゃねぇ」
「……つまり?」
「連戦経験とか、危機感が足りてねぇ。ここいらで学べることなんざまだまだあるってこった」
「じゃなくて。お前の結論」
「もう一年くらいここでのんびりしていけや。んで、景色のことなんざす~っかり忘れたルミエラちゃんと、のんびり旅していきゃあいい」
「いや、けどな」
「なんだったらほれ、せっかく15になったんだ。結婚でもしちまえばいいさ。“旅に出るための下地”も大事なもんだが、“生きて帰るための下地”ってのも、相当大事なもんだぜ?」
「………」
ぽかんとした顔で、ルミエラを見る。と、顔を真っ赤にして、潤んだ目で俺を見る彼女と目が合った。
いや………………うん。こいつ昔っから自分の感情隠さなかったしなぁ。俺はてっきりNTRが待ってるもんだと思って、半ば諦めていたんだが。
ちなみにそのNTRというのは、我が家に代々伝えられているUSUI-BOOKというものに記されていたものだ。
俺みたいに“綺麗で可愛くて心底大事に思えた女性が居る村人には、必ず寝取りという結末が待っている”と。その多くは勇者という存在に奪われるだとか、どこぞのPTリーダーに奪われるといったもの。
どれだけ好きになっても、大事に思ってもそれは変わらず、誓いを立てようが約束をしようが勇者やリーダーに掻っ攫われていくと。
だからマッシュにも言ったのだ。幼馴染は奪われている、的なことを。
ちなみにこうして村人のもとへ戻ってきた場合、高い確率で勇者orリーダーに指示をされたメス奴隷化した幼馴染が、俺をただ笑いものにするためだけに来たのだと。
「………」
で、実際どうなのだろう。
これ、結婚の約束をした途端、あのリーダーが来るのでは?
そりゃもちろん、俺だって代々伝えられているからといって、その時その時の人の感情を無視してまでそれを信じようとは思わない。
なにより大事なのは今のルミエラの気持ちだと思う、そりゃそうだ、当たり前だ。
けど実際、約束したのに一人で別PTに、なんてなればショックを受けるのも当たり前なのだ。
だから俺は───
「わかった。───ルミエラ、俺と結婚してくれ」
俺は、自分の気持ちに素直に従った。
好きだったのは事実だ。ていうか好きだ。今でも好きだ。
気持ちを隠さなければ、あのリーダーにだってとんでもないほど嫉妬している。諦めを前面に押し出すことで隠し切れたそれだが誤解だったというのなら、俺は───!
「え……え? トマ───」
気持ちを隠すことなくぶつける。
平然を装ったそれらを全て捨て、ルゥとともに旅を思い描いた頃の自分で。
すると、戸惑った表情の彼女の目から、理解よりも先に涙がこぼれ、それを拭った先から嗚咽が漏れ、やがて静かに泣き始めて……最後に、酒場に居て聞き耳を立てていた荒くれ者どもが一斉に木製のジョッキを叩き合わせて、おめでとさんを叫んだ。
……。
事態は実にとんとん拍子で進んで、どこで話を聞きつけたのか商人の知り合いが訪れては祝福をしてくれて、得ていた人脈からもたくさんの人たちが集まり、俺達を祝福してくれた。
下地……まあその地力と言ったほうがいいのか、それら固めていた自分の金が少し軽くなったりもしたが、そんなものは使える時に使うもんだと割り切る。
旅にも出てないのに結婚をして、夢を叶えたわけでもないのにおめでとうを言われて。(いや、ルゥにとっては夢だったらしい。……俺にとっても、とは言えるには言えるんだが)
マッシュに「で? どうだったよ、初めての夜は」なんてニヤニヤ顔で訊かれて、お互い初めてだったよと返す代わりに殴っておいた。誰がバカ正直に答えるかこのバカ!(ちなみにルゥの歩き方がおかしいってんですぐにバレた)
「ほらトマス、こっち。そう、そこで───」
「や、だからなルミエラ。武技を教えてくれるのは嬉しいが、俺はその時その時の実力で踏破した場所をだな」
「死んだらなんにもならないでしょ! ……お願いだから最低限の護身スキルは覚えて。それが完成するまで、旅なんて許さないからっ!」
「お前は俺のなんなんだ」
「妻です!」
物凄い説得力だったという。
「どうしてもって言うなら、私を負かして泣かせてみなさいなっ。ふっふ~ん、今のトマスじゃ無理でしょ~けどっ!」
その夜、ベッドの上で負かして鳴かせた。文字が違う。
で……なんかレベルが上がったんだが。
なんかジャイアントキリングとかいう称号を得たんだが。
ステータスがおかしいくらい上がってるんだが。
「………」
……。
俺は遠い目をしながら、呂律の回らぬ妻を愛し続けた。鳴かれたし泣かれたけど、可愛かったので愛が止まらなかった。いや、言い訳じゃなくて。その度にレベルが上がって、スキルも覚えて。
スキル:“急所突き”とか“弱点特攻”とか覚えたので遠慮なく使った。たぶん、冒険者が使う用途とはまるっきり別のものだろうが。気づけば同じレベルになっていて、でも“耐久力UP”や“ランナー”や“回復速度UP”や“回復量UP”などのお陰で、ベッドの上では常に常勝の、誇っていいのかどうなのか微妙な男に成長した。
昼には仕合で負けて、夜ではベッドで勝利する。
妙なバランスの夫婦となったわけだが、俺達は幸せだった。
そして当然、そんなハイペースで愛し合っていれば子供も出来るってもんで。
「あ、あの……トマス」
「そんな顔しない。される方がショックだから。動けなくなった妻を置いて冒険なんか出るわけないでしょーが。あのね、俺これでも好きになったら一途だからね? 相手が俺以外のことを好きだったんじゃ、なんて疑惑でも出ない限り、諦めの方向に向かったりしないから」
「そっちこそそんな顔しないでよ……私だって一途だし、諦められるくらいなら私の方からぐいぐい行くから」
「……もしかして、子供が出来てちょっと安心してる?」
「それは……だって」
「ごめん、意地の悪い訊き方だった。留める理由とかなくてもさ、傍に居るから安心してくれ」
「トマス……!」
「ちなみに今あのリーダーが来たりしたら、お前の思惑はどうあれ刺し違えてでも殺すかもしれない」
「もう、まだ言ってる。トマスったら、ふふふっ」
ははは、と二人で穏やかに笑い合った。
そんな時、家の扉をドンドンドンドンと叩く音。
「おうい! 俺だ! カレオだ!」
「───」
「トマス!? なんで剣構えるの!? トマス!?」
カレオだった。
ハイライト無くした瞳でゆっくりと剣を構える俺を、すぐ様に止めに入るルミエラだが、なんか来るタイミングとかおかしくない? もしややはり俺をハメるために二人して……!? そしてお腹の子供はカレオの……!
「───」
まあ、それはないのはよーく知っておりますが。
だってトイレ以外ほぼ全てべったりだったし、俺達。(主にルミエラが離れなかった)
寝る時でさえ、一定以上離れると起きる魔法具で、毎日俺と自分とを繋ぐ有様だったし。
「……何用で?」
だが警戒は当然である。
我が家の出入り口を多少開けて、顔を覗かせて訊ねると、カレオは「おおっ、久しいな、嬢の旦那よ!」と豪快に笑ってみせた。
もう関わりはない的な落着で話は済んでいた筈だが……ハテ?
「実は冒険で少々行き詰ってしまってな。少しでいいのだが、再び嬢の力を借りられればと」
「だめです許しません」
「即答なのだな! ぬうう……さすがに旦那となったおぬしに、チーム間の問題だ、などとは言えぬな。だが、そこをなんとか曲げてはくれんか」
「身ごもったので無理ですていうか絶対行かせません」
「身ごもったとな!? なるほどそれはおぬしがピリピリしとるわけだ! それはさすがに無理を頼むわけにもいかん! しかし、ならばどうしたものか……!」
ソウダネ。じゃあもう俺戻っていいかな。
「……ム? おぬし、なかなかいいガタイをしておるな」
「オカエリクダサイゴメンナサイ」
「待て! 何故青ざめて扉を閉めようとする! 肉体を褒めたのだぞ!? 上級冒険者でもないのに見事なものだと!」
「オカエリクダサイオカリクダサイボクノスベテハツマノモノデス」
「なんの話じゃい! ……おぬし、良ければ我らを手伝ってくれぬか?」
「身ごもった妻が居るんだっつーの! 常識考えて二度と来るな! アホかマジで!!」
「むう、それは確かに無茶は言えん。ならば産まれてからなら───」
「新人探して育成した方がよっぽど早いわ帰れボケェッ!!」
しつこいドワーフを追い出して、ヴァタームと扉を閉めて施錠。
追い出すもなにも、俺が顔を覗かせて対応していただけだが。
NTRれるくらいなら永遠の愛なんざ誓うなぼけぇー!
自分のNTRに対する想いってそんなんです。
あとフォルダー整理してたら懐かしい歌とか発掘されたので聴いてます。
“そこに在るもの”とか、よく聴いてたなぁ。
今でもセリフ部分に差し掛かると奇妙な恥ずかしさがある。
当時はセリフ無しは無いんですか!? ともやもやしたもんです。