社畜になってみて思う事。
時間はない。確かにない。学ぶことも多いし、理不尽なことは多々ある。
家に帰れば栄養摂って風呂入って寝る。こればっかり。
けどなんとか暮らしてこれた。趣味があったから。
いい歳してゲームなんて~などと言う者はもちろん居た……が、だ。
癒しもなくこんな人生歩いてられるかお馬鹿さん!
……などと思う自分の名を、ギャルゲーの名前欄に刻み込むのも何度目になるのか。
林野タケシ。読み仮名は……はやしのたけし、と。性別? 雄である。
名前を呼んでくれるでもないギャルゲーに、読み仮名までつける意味とかあるのかなぁとか思いつつ、今日も今日とてそのギャルゲー(18禁)は始まった。
タイトルは『
……銀色に? 銀色になんだよ。銀色になにされるんだよ。と最初はツッコミまくったもんだけど、まあゲームのタイトルなんてこんなもんこんなもん。
あ、どうでもいいことだけどタケシはそのまんまカタカナだ。なんでそうしたのかを訊ける相手はもう居ない。
親戚もおらず、林野家は正真正銘、マジで俺で最後だったりする。
なんでも大昔に神様に罰当たりなことをした~とかで、代々呪いめいたものが起こってるらしい。
しかしそれも俺で最後。
50にもなって昇進もせず、無難な人生をちくちく生きて来た俺で、ようやく林野家の呪いも終わるのだ。
末代まで呪う~とか、相手も暇だよなぁ。だって親戚筋ず~っと見てるんだよ?
最初どれだけ居たかは知らんけど、気づけば子供の頃にはあれだけ居た親戚もゼロ。
今年は誰々が死んだ~とか、毎年のように聞いてたっけ。
俺達林野家は40以上は生きられない、なんて呪いが掛けられていた。
かけたのは大昔の神様らしく、昔の誰かさんが神様が祭られていた祭壇を壊してしまったとかで、そんな呪いがかけられた。
なんで40歳なのかは誰も知らない。
ただ、40歳の不定期な時期に、なんか死ぬ。
それも大体は人を助けて。
償いでもさせてるつもりなのか知らないけど、俺が覚えている限り全ての林野が人を助けて死んだ。
誇らしいことだ。
お陰でぼっちだけど、誇らしいことだ。
困ったことがあると周囲が助けてくれるようになったのはありがたいけど、正直あんまり絡まれるのも困りものだ。どっちかっていうとお一人様で過ごしたいんだよ俺。
ていうかさ、俺40過ぎてとっくに50なんだけど、いつ、誰を助けて死ぬんだろう。
せめてラスト林野ンとして、なにかとても素敵な人助けが出来たらいいなぁとか思ってる。
……怖くないのかって?
いや、正直50になっても、いつか自分は誰かを助けて死にます、とか実感わかなくてさ。
むしろ湧いたらスゲくないですか? 俺40になったら人助けて死ぬんだッゼェーィ!! とか実感沸いたらスゲーって思う。素直に思う。
社畜やってて、周囲から助けられたりしてて、正直べつにいつ死んでもいいんだけどな、って諦観くらいはそりゃあある。あんだけ親戚が死ぬ様見てくりゃあね。
でもそれも10年経っちまった。俺いつ死ぬんだろ、って逆に疑問ばっか沸いてくる。
もしや呪いが晴れたのか!? なんて希望は抱いてない。むしろ末代まで呪うなら俺も呪い尽くせよコノヤロウって気分だ。
よくある天涯孤独~とか、孤児だったけど拾われました~なんて設定のお話は、結局は親戚に拾われるだとか行き別れた親がなんかニョキッと生えてきたりするけど、俺はホントのマジに天涯孤独だ。そりゃもう『なるようになぁ~れっ☆』って気分にもいい加減なるって。
あ、ちなみに『もしや俺ってば拾われ子なのでは!?』なんて思って調べてみたけど、しっかりと母から産まれたタケシ郎だった。モモタリャーってどう産まれたんだろうね、そういやぁ。今となっては桃太郎伝説の川の上流にはいったいなにがあったのか、がなにより気になる。
だって桃だよ? 桃から人間の子供が産まれるって……ぇええ……? ってならない? 上流でいったいなにが起きれば子供入りの桃が流れて来ンだよオイ……。
きっとあれだな。上流には桃の父が居て、桃の母が居て、そして太郎が下流で産まれた。……いやなんの解決にもなってねーよ。ウルトラマンタロウかよ。
そんなくだらない、どうでもいいことを考えながら、諦めを抱きつつ、しかしやっぱり呪いがどうなったのか、を考えたりもしつつ、『まあ、いつか誰かを救って死ぬならいっかぁ……』なんて生きて、今日で10年。50歳である。
そんなわけで今日も社畜して、助けて助けられて、支えて支えられてをして生きている。
なお、体がだるいなぁ……なんて時は趣味を一切忘れてしっかり食事を摂って風呂にも浸かって、風呂上りには水分補給も忘れずに、ストレッチだってするしリラックスも忘れないし睡眠時間はしっかり取る! をしているので、体調不良で仕事休みます、なんてことは一度もしたことがない。
漫画ラノベ等の社畜心臓発作さんたちはもうちょい体を労わってあげましょうね? あれ見る度思ってたけど、取ろうと思えば睡眠時間とか取り様があったと思うの。
どうしようもない人はそりゃあ居たのかもだけど、趣味に没頭するあまり心臓発作でとかさすがにあれらはフォロー出来んし同情も出来んわ……ただの自業自得だよアホウ。仕事が忙しいのは分かる。俺も社畜だし。でも自分を休ませる時間削ってまでゲームとかして休まず、それ全部を仕事の所為にして社畜が~とか会社が悪い~とかはさぁ……やっぱりアホなんじゃないかなぁって。
休めよ。しっかり休んで、あらゆる手段を使ってしっかり休める状況を掴んで、それでも休める時間よりも体の酷使率が高い人だけが言っていい言葉だろ、『休む時間がない』ってのは。
給料も悪いし仕事環境もよろしくないのにその仕事にしがみつく理由はなに? 特に理由がないならやめちまえぃ。え? 借金がある? あー……そりゃあ辞められんわなぁ。
でもそれで身体壊して死亡したり、心臓発作で死んで神様の手ェ煩わせて『異世界転生』って言葉に目ぇ輝かせるのはどうなんだろうって思わない?
んーなんで神様の手ぇ煩わせんなよ……仕事で人間の魂の管理とかしてる神様に対して、同じ仕事人として申し訳ないとか思わんの?
そのくせ口を開けばチートチート……ああ、神様かわいそ……。
「……学園生活、かぁ……」
目の前のモニタでは、主人公である藤堂龍太が双子の姉妹であり幼馴染の、双葉詩織と双葉香織を前に、おはようと言っているところ。
いいよな、学園生活。
社畜になってもうウン十年になるけど、なんであの頃真面目に勉強とか運動してこなかったんだろうなぁとか今さらになって思うことがある。
愛とか恋とかそっちのけで、なんかそんなんばっかり考えた。
今じゃもう無理だって分かってるけど、一時期は高校に入り直す~とかも考えたこともあった。
さすがに今はもうないけど。
「べつにさ、今さら女の子と仲良くなったり~とか結婚したり~なんて欲は無いよ」
50まで生きりゃあね、人との付き合いの面倒くささってのも分かってくる。
結婚ってのはマジモンの墓場だ。
その結婚のお陰で俺が産まれたんだとしても。林野が今まで存在していたんだとしても。少なくとも俺には合わんと声を大にして言える。
好きになった人が居たとして、相手のことが好きだから、しか理由がない。
なのに相手の環境ごとを受け入れて付き合っていくんだ。数年、何十年と。
俺は彼女が好きだった。でも彼女の親が、親戚が、こんなに面倒臭いやつらだなんて知らなかった……! なんて環境を、ただ『相手が好きだから』って理由で背負う。
……俺にゃあ無理だよ。
だから俺は誰も好きにならなかった。
いや、厳密に言えば好きになった人は居て、恋人になってくれた人も居た。
やさしいあなたが好きだから、と向こうから告白してくれて、付き合ったこともある。
でも、それだけだ。
どうしてか林野の嫁や婿になる人はいい人ばかりだったけれど、結局俺は彼女と別れた。
彼女は泣いて悲しんでくれたけど、俺の気持ちは動かなかった。
相手にイケメェン? の幼馴染が居て、彼との距離がハチャメチャに近くて、いや俺と恋人とか嘘だろ、そいつと一緒のがいいだろとか思ったのもそうだけど。
俺に言えないことも幼馴染くんには言えるとか、夜に彼女の部屋にも平気で入っていく距離感とか、彼女の親が「
誠心誠意付き合って、彼女の両親ともいい関係になれたかなって、恋ってものにウツツを抜かしていたある時、ハッと気づいて冷静になった。
……なんでこの幼馴染クン、恋人との会話中に平気で割って入ってきたり、恋人とのお部屋デートに割り込んできてるんだ? とか。
……や、それだけが原因じゃあないんだけどさ。じゃあさ、『これ丸ごと受け入れてまで彼女と付き合いたいか?』と訊かれりゃNOだろう。NOだよな? え? 結婚してまでこんなこと続くの? ずっと? 俺が仕事行ってる間とか、フツーにこの幼馴染くん家に入れてヤッダーウフフとか俺とは絶対にしない会話したり、俺には見せない笑顔とか見せたりすんの? ずっと?
───え? 正気か?
……ああうん、無理だわ。
自問自答ってやつ。答えはあっさり返って来た。
なので死んだ目で普通に別れを告げた。
彼女や幼馴染クンは大慌てで俺とこいつは、わたしと健クンはそんな関係じゃないと言いまくっていたけど、じゃあ客観的な意見をと彼女と彼の女友達と男友達とに状況を説明して、『付き合っていたいですか?』と訊ねたところ?
「「馬ッッ鹿じゃねぇの!?」」
モォンノスンゲェェェェ真剣に怒ってくださいました。……彼女と幼馴染クンに。
そらそうだよ、こいつら一家がおかしいんだって。
なので憂いもなく別れた。彼女は泣いてたけど、彼女の女友達に「あんたが悪い」「そんな! 一緒に説得してよ!」「知るか死ねボケ」とマジトーンで言われるくらいにはドン引きされてた。
幼馴染クンは男友達に、「引くわー……おうちデート中に割り込んで入るとかないわー……」とドン引きもドン引き、友達やめたいレベルで引かれてた。
その内容も、
「お前今幼馴染の女の子の初恋をぶち壊した自覚ある……? きちんと段階踏んで、ちゃんと今宮と仲良くなっていって、これからのことまで考えてた林野の気持ち、考えたことある……? なんだよ、話聞いてたら林野めっちゃ誠実だしいいヤツすぎんじゃねぇか……! なのにお前、恋人の間にズカズカ入り込んで、邪魔して、幼馴染ちゃんも怒らなかったり注意しなかったのは無ぇわーって思うけどさぁ……お前おんなじこと自分がデート中にされて、思うことねぇの……? マジで……?」
と幼馴染クンが激詰めされる状況であり、ほんのちょっぴりだけでも事情が呑み込めたっぽい彼は、おもいっきし俺に頭下げてきたっけ。
まあ結局なに言われようと「いや別れるから。そこをなんとかとかないから。お前がやり直すチャンスをとか言うな。関わらないからとか今さらすぎるから」と譲らなかった。てか譲ってたまるか。こっちはもう十分すぎるくらい譲ってきたんじゃボケが。……ちなみに、先程『ほんのちょっぴりでも事情が呑み込めたのか』と言った理由がこれ。しっかり分かってたらまずこんなこと言えないだろ……。
そもそもさ、俺ね? 恋人関係になったんだから、幼馴染くんの接触の多さ、なんとかならいかって結構早い段階で彼女に言ったのよ。言ってあれならもう終わっとるわ。
なので恋愛がどーたら~とかにはもう心が枯れてるっていうか。
それら全部を背負ってまで誰かを好きになることがあるのかって言われたら、たぶんもうないんじゃないかなぁ……。
でも、学生時代に戻って勉強したい、とは思ってる。
運動とかもいいよね。
困ったことにおっさんになると、強制でもない限り運動も勉強もやろうと思っても出来ないんだ。
言い訳ばっかり上手くなっちゃって困るよ、ほんと。
その言い訳も、自分を納得させればいいだけなんだから本当に簡単でくだらないんだ。情けないよなぁ……自分さえ説き伏せられないんだ。努力しろって、やろうぜってどれだけ心に喝入れてもさ、やらないための言い訳ばっかり思いつく。
だから。
だからさぁ……。
親にさ、宿題やりなさいよ~とか……言われたいんだ、昔みたいに。
だっさいだろぉ? こんなおっさんさぁ……。
「……なぁ、神様。先祖代々、もういい加減死に過ぎってくらい死んだと思う。一族郎党、俺以外例外なく死んだよ。嫁に来てくれた人も、婿に来てくれた人も、こんな一族なんだって説明したって『それ以上に好きだから』って、40なんて年齢で人を助けて亡くなった。……俺達の血は、これ以上なにをすればいい? 死ねば許されるのか? あなたの中にどれだけの怒りがあったのかなんて、俺達にはわからないよ。でも───」
でも。それは人一人に対する怒りの範疇を越えてしまっている。
そしてそれは、一族が滅んだ程度で無くなるものなのか?
だったらそんなもの、あんたの気まぐれでしかない。
気分次第でそんな、人をぽんぽん死なせるようなのを神だなんて呼んでいいのか?
「父さん、母さん……ほんのちょっとしか一緒に居られなかった、じいちゃんにばあちゃん。……神様、俺はさ。家族に……なぁんも……孝行できなかったんだ」
保険金だけ残されたって、いったいなにをどうすりゃよかったんだって話だ。
贅沢なんてしたくなかった。ただ、40までしか生きられないって人生の中で、いっぱいの愛情をくれた家族になにかを返したかっただけなのに。
学校を卒業して、新社会人になって、これからだって時に───みぃんな居なくなっちまって。
無力感を無くしたくて、悲しみを忘れたくて、がむしゃらに働いて、でも体を大事になって言ってくれた両親の言葉を忘れられなくて、平のままで頑張って。
気づけば50にもなって、ただ仕事と趣味とを繰り返すだけの生活。
一緒に歩いてくれる人も見つけられず、俺が林野を終わらせちまう。
「結局、なにをすれば満足できたんだろうなぁ、俺……」
人は助けてきた。余計なお世話だと罵声を飛ばされることも何度もあった。
お前にだけは助けらたくねぇんだよと唾を飛ばされたこともある。
それでも俺の家系はそんな家系で、どうせ死ぬなら誰かを助けて、なんて……理想的だとさえ思ってた。
実際、40になった頃はどの年齢の時よりも動いたと思う。
感謝された数だって相当なもんだ。
利用されて笑われた数はその数倍。
でも俺はそれから10年も生きて、今もこうしてギャルゲーなんぞをやっている。
「……っと、眠くなってきたなら即座に寝るだ。趣味は睡眠時間を削ってまでするもんじゃない。これ、長生きの秘訣」
確かにね、人生には癒しが必要だ。そして、趣味ってのは心の拠り所である。
……で、あるが、それを『無理をしてでもやる』ようになったなら、それはもはや義務感で動く仕事みたいなものに成り下がってしまい、癒しとは真逆のものになってしまう。
楽しいのだろう。次を次をと先を求めたくなるのだろう。けれどそれで『笑えてない』と気づいた時、そりゃあお前ぇ……嫌々やって、さっさと終わってほしいと終業を待つ仕事の時間と何が違うのか。
一瞬でも笑える時間を求めて『癒し』であるはずの趣味もどきをやって、笑える瞬間がやっと来たと思えばまた次を求める。
仕事をやって、仕事を続けるというよりはね、どうしようもなくやってくる仕事を始めて、仕事終わりを求めるのと然程変わらんのだ、これが。
だってさぁ……趣味ってさ、始まっちゃえば楽しめること以外は全部が全部作業じゃん? 趣味の全てが楽しいことだって思えてる内は幸せだよ。いずれ作業になる。
ゲームでいえば、とっととやめて自由時間を得ときゃあいいのに、デイリーだウィークリーだののミッションをこなしてちくちくと時間を削る。
その使った時間を目ぇ閉じて休むのに使ったら、きっと漫画や小説であるような目にクマ作った社畜馬鹿は滅ぶんじゃねぇかなぁと思ったことがあります。
程度を知れ馬鹿もん。
「ま、俺もよっぽど馬鹿だけど」
苦笑しながらパソの電源を落として、とっとと寝る。
寝る前に目薬『ザ・ワン』を差すのも忘れない。
超人の神みたいな名前だ。
しかしこれが結構効くのだ。ステキ。
なんて、眠ったあとのこと。
夢の中に、GODが現れた。
そして、こう仰られた。
『すいませんでしたぁあああああああっ!!』
…………ホワイ。
『まさかっ……まさか過去の大罪人にかけた呪いが、一族の血に宿ってしまっているなんて……ッッ!!』
「………」
あの。
『いえ違うんです! 罪を犯したあの男に、善行を果たした先に死ぬ、という呪いをかけただけだった筈なのです! しかしその者がよもや子を成し、その子に、一族に、呪いが広がっていったなど……ッッ!!』
「えぇええ……」
目の前のGODは、そりゃあもう慌てふためいておった。
なんでも呪いをかけた時はそりゃあもう激怒してたらしいんだけど、ちょろっと目を離していた隙に男は死んでいたし、人を助けて死んだって結果が残ってたから『ならばよし!(どぅーてーてろれれるー、れれるー♪)』と蒼天航路の例のBGMとともに許したらしいんだけど、激怒とともにかけた呪いがどうやら血にまで及んでいたらしく、そこからどんどんと広がっていったとか。
ああうん……昔の平均寿命って短かったっていうもんなぁ……死亡設定年齢が40なのってそれが原因?
「え……じゃああの、俺の親戚全員、死に損、というか……本来ならもっと生きられた筈で……?」
『……………………ッッ……!!』
口をHの形に引き結び、涙目になってプルプル震える神がこちらです。
『その……もちろん、これまで死んでしまってきた一族の皆様には、よりよい来世を用意するんですが……ああいえ、まだ魂の洗浄が済んでいないので、全員にその恩恵を授けることは可能なのですが』
「え? 昔から今までの魂全部ですか?」
『この世界中、一日に何人死んでると思ってんですか。昔なんてもっとですよ?』
うわぁナルホド。つくづく然り。
『で、恩恵なのですが。中でも善行を積んだ人間は、その分だけ来世へのプラス要素が加わります。……当然、あなたの家族も』
「……そう、ですか」
『あなたの場合は───まだ死んだわけではないので、今すぐにどうこう、ということはありませんが。あなたの家族……いや一族か。が、ですね、一人残されるあなたを思い、あなたの先の幸福ばかりを願うものですから』
「え……」
『……願うものですから、何事かと調べてみれば、あなたの一族が私の呪いの所為で滅ぼうとしていることに気づきまして。呪いの処理と、魂の仕分けをしていたら、人間時間で10年経っていた、ということで……』
「───」
この10年の意味ってそれかァァァァ!!
神の時間感覚まったりしすぎぃぃぃぃ!!
『しかし丁度よかった。あなたと意識を繋げた途端、あなたが強烈に願ったものを知ることができたのだから。学生時代に戻って勉強や運動をしたい、でしたね。ええもちろん構いません。さらに、あなたを思う家族の分まで、あなたに幸多からんことを。すぐにどうこう、ということもありませんが、することも出来ます。さ、あなたはどうしたい?』
「ちなみに口調のブレは?」
『神なのに人間にヘーコラするとポンコツそうに見えない?』
なるほど。
『ただ、申し訳なく思っているのは本当のことだ。失敗を謝罪もしない存在は、人であれ神であれ実に醜い。自分の正当性ばかりが真っ先に思い浮かぶようではどうしようもない。……が、今の世ではそれも難しい。いやぁ、日に日に醜くなっていくねぇ人間っていうのは。昭和は言い聞かせるなら体罰、平成中期にはまあ落ち着いてきた感はあったけど、令和はダメだね、こりゃ地獄とそう変わらない』
「うわぁ……神にまでダメ出し食らうレベルって……」
『失敗を認めると足元を見すぎる存在が多くなりすぎた結果だと思うけどね。認めてしまってはダメだと強く意識する者と、認めたらこっちのもんだと思いすぎる者が多すぎる。謝って和解すればそれで済む話をわざわざ大きくして、結局互いに損をする。アホだね、実に馬鹿で愚かで情けない』
「……で、そう言われればそんなことはないって見栄を張る?」
『そう。張らなくていい見栄を張って、結果自分の首を絞めている。手の施しようがない存在がどんどん増えている。僕らはね、そういう人間達の未来や、人自身に絶望した存在を転生させることを仕事としている。……いやぁ愚かしいよねぇ、自分達で作ったルールで自分達をどんどん追い詰めて、自分達で決めたてっぺんに苦しめられてるくせにこれっぽっちも行動に出ない。自分がやらなくても誰かがやるだろうって他人任せで、文句だけは一丁前。……いい加減飽きないのかなぁって見ていても、そんな生き方をやめようとする存在の少ないこと少ないこと。結局、動いた者だけが動いた分だけ歩を進めることになって、歩いた分だけ自国の首を絞めていると来たもんだ。真剣に訊きたいんだけどさ、なにしたいのキミら人間』
「……耳が痛いなぁ」
上には自国を潰したい大人しか居なくて、人々は生きるだけで精一杯。
多少の娯楽を癒しにして、今日も今日とて金を毟り取られては、少しずつ見えてきている自分たちの未来に諦観ってものを抱いて生きている。
変わらない平穏が欲しいなんて誰もが思うことだ。
でも、今のまま変わらないなら、それって俺達が老いるだけで、いつかは働けなくなって死ぬだけだ。
年金なんていくら積んだって全部返ってきやしない。
どんどん上がる税金に、見合わない給料と、そこから引かれる税。
なにをするにもお金が必要で、昔誰かが決めたお金ってルールに縛られて、作りものの紙っぺらのために、今日も誰かが泣いている。
『お前って結婚しないの?』と訊いてきたやつが居た。昔の話だ。
俺は『しないよ』と即答した。結果が見えていたから。
自分の家の都合で40になったら死にますなんて、付き合わせるわけにはいかない。
そんな俺に苦笑しながら、そいつは翌年結婚。
幸せそうでいいなって思ってたら二年と経たず離婚した。
そいつは言っていた。結婚は人生の墓場だって。
恋愛してた頃が一番幸せだったって。
なにが苦しかったんだって訊けば、結局金だった。
……ほんと、たまらない。
『安心していいよ、人の魂ひとつをどうこうすることくらい、私には簡単なことだから。あ、ちなみに、大変申し訳ないことに、一族を復活させてくれって願いを叶えた場合、全員もれなくゾンビになるのでおすすめはしない。噛まれたってゾンビパニック伝染ものにはならないけど、一族が銃やらなにやらで始末される姿は見たくないだろう?』
そりゃそうだ。
『というわけで、───なるほど、現代に未練はないわけだ。そりゃあそうか、人を助けてとっとと死にたいって思っていたキミだ、今さら未練なんてあるわけがない』
「まあ、はい。そうですね」
『じゃあ早速キミに幸を贈ろう。来世は元気に過ごすんだよ? キミや、キミの一族が残したもの全てをお金と幸運値に変えて、キミだけが触れられる貯金システムに保管しておくから。来世では好きに出金出来るようにしておこう。では、よい来世を』
「え? 今すぐ死んで来世へGOって感じですか?」
『おや、やり残したことでも?』
「仕事の方で教育中の部下がおりまして」
『なるほど。では私が夢枕に立って、なにやら壮大なストーリーの果てに死んだことにしておくので、どうぞそのまま旅立ってください』
「なにやら壮大なストーリー!? なにそれすっごい気になるんだけど!?」
『大丈夫、あなたのムフフなデータはあなたの心の中に強くインプットさせるとともに、PCやらからは消去しておきますので』
「あなたが神か!」
『神だよ悪いか!』
そんな事情や理由やらがあって、俺は転生することになったらしい。
今まで死んだ一族のみんなが幸福を祈ってくれるなんて、それだけで恵まれてる。
死ぬことになったっていうのに嬉しくて笑顔になれるなんて、思ってもみなかった。
そうして───俺は今まで生きた世界にさよならをして、どこぞかへと旅立った。
……ちなみに。
のちにGODに教えてもらったことだけど。
俺の葬式は俺の一族に助けられた皆様の支援のもと、なにやらとんでもなく盛大に行なわれたらしい。
神いわく、『大統領でも亡くなったんですか? ってくらい盛大だったよ、ありゃ笑ったね』だそう。
いや林野一族が滅んだのあんたの所為だろが、笑うなGOD。
とか思ってたらGODの上司がセイントマッスルパンチでGODの鼻っ柱を砕いてくれたらしかった。
よく分からんけど転生中の俺の耳に、どこからともなく十や二十どころのものじゃない大喝采が聞こえて来た。
たぶん一族みんなが大変に喜んだ結果だと思う。
ざまぁみなさいGOD。
───……。
……。
で。
「おめでとうございます! かわいいおとこのこですよ!」
生まれ落ちたよベイビー。
わー、てっきり学生時代からやり直し~だとかだと思ってたのに。
あ、声は聞こえる、というかなんか滲んで聞こえるんだけど、とにかくやかましく聞こえる。
ええっと、なんか言ってるんだけど……ギリギリ分かるような分からんような。
目は……見えんな。たった今産まれたんだろうけど……いや見えんな。
耳が聞こえるだけマシなんだろうけど……うるさっ! やめれ! 頭に響く!
なるほどこれは赤子が泣くわけだわ! 他の赤子が俺と同じなのかは知らんけど響くよこれ!
「ありがとう! ありがとう! がんばったな!」
「うまれてきてくれてありがとう……!」
……。
あ、今のはなんとなくわかった。
産まれてきてくれてありがとう、だ。
……。
うん、がんばろう。
せっかくの二度目の人生だ。
林野一族に送り出されたからってこともあるけど、産まれて来たことを喜んでくれるこの人たちのためにも。
───……。
……。
と、いうわけで。
「スヴァラスィイー! 汗をー! ───夏侯惇! 汗を掻くってスヴァラシィイー! 汗を掻くってスヴァラゴイー!!」
ギアーズ・オブ・ビー! じゃなくてギャッツビー!
ギャッツの意味は分からんけど!
ちなみに男性のお肌ケア的なアレでよく聞くブランドの名前はギャッツビーじゃなくてギャツビーだから気をつけようね!
故に! 本当の社名じゃないからどれだけ叫ぼうが関係ねー!
「ギャアアアアアアッツビィイイーッ!! ギャアッツビィイイーッ!!」
ちなみに前世では50年生きて来たにも関わらず、マジでギャッツビーだと思ってたし、なんならギャッツビーの文字的な意味でも、gats be的なこう……なになに、なれ、的な意味かと思ってた。
男ならガッツだ! 的な意味で根性的になれ~みたいな? ガッツをギャッツに言い換えてたのかなァとか真剣に思ってましたさウフフ懐かしいなぁ。
さてさてこんな風に騒いでいる現在の俺、16歳。
名を
そして地味に林野の名残りがある。なんなんこれ。
最初文字見た時、苗字が二つ重なってるのかと思ったよ。
それこそやんごとなき御家柄で、やしゃざくら・はやしのじょう・なんたらかんたら~とかって。ほらあの~……昔の話に詳しいわけじゃないけどさ、天草四郎時貞~とか、世良田二郎三郎元信~とか。
そしたら“りんのすけ”じゃないですか。これ学校で格好のイジられキャラにならんかなぁ……とか思ってたけど、小学校とかじゃ『かっけー!』とか『昔の名前みてー!』とか言われた。
中学は……まあ、うん。
「さあ今日から夢の高校生活ッ……! 友達100人なんて要らないから究極の親友とか欲しいなぁ!」
ああちなみに。
50年生きた前世なんて、16年生きていく内にほぼ召された。
子供の活発な精神に完全に浄化されたよ。
そりゃあもちろん残っちゃいるけど、人生を子供から始めるってのは思いのほか心を自由にさせたのだ。
自由になっちまえば、そりゃあ心はウキウキワクワクだ。
そんなワクワクに、枯れてた心が追い付けるわけがない。
なので、乗った。そんなビッグウェイヴに。
そしたらね、これが思いのほか楽しいのです。
童心ってやっぱ大事だわー。行動力の源ってやっぱ童心だと思うわー……ってな感じで、勉強運動友達付き合いに親孝行、出来ることは出来る範囲でやりまくってきたさ。
……まあそれはそれとしてなんだけど、ちょっと聞いてアロエリーナ。
ちょっとどころかかなり気になってるんだけどさー……なんかね? 違和感がすごいの。
や、フツーに生きてる~って感じはするんだけどね? 前世を思い出すと、今世の景色というか……見るもの全てがおかしいっていうか。
ほら、こう、ね? たとえばさ、VRゲームがあったとして、それでギャルゲーの世界に入り込んだ~みたいな世界と言えばいいのか。
パパンもママンも漫画キャラみたいな感じだし、鏡で見た俺もそんな感じ。
え? 誰コイツって最初は思ったもんだけど、自分だと気づいてからはイケメンになれるようにと努力をしましたさ。
けどもさぁ、やっぱこう……違和感。ゲームキャラになって動いてる~みたいな感覚が未だに抜けない。
……っと、教室見えてきたな。
「1-C……よっしゃここかっ! 席は~……おお窓際後方! ……でも最後尾ではない、と」
残念。窓際最後尾とか一度なってみたかったのに。
なんて思いつつ席に座り、さてさてと級友となる人々の流れを見ていると、ガタッ、と後方から聞こえる音。
振り向けば───えらいイケメンがそこに居た。
ぬ、ぬう……これはゲームとかでいえば主人公クラスのイケメン……!
……や、まあ? 僕も負けておりませぬが?
「っと、おはよーさんっ、俺藤堂龍太。よろしくっ」
「あいよぅよろしくっ、俺ゃ夜叉漸蔵林野丞」
「やしゃざくら!? すっげぇ苗字だな……名前もりんのすけ、って……もしかしてどこぞのやんごとなき金持ちとか……?」
「いや、普通に農家一家の平凡ピーポー。みんな苗字聞いてまず驚くんだけどさ。あー……苗字自体、こう書くんだけど……」
スマホの自由メモに、さらさら~と電子ペンで文字を書く。
最初はスマホにペンとか邪魔だなぁとか思ってたけど、慣れってすげぇ。今じゃコレないとなんかモヤる。内蔵ペン、これはこれで便利だ。無くした時はめっちゃ焦るけど。
「へぇ、桜、って書くほうかと思ってた。あのほら、桜の樹とかのさくら。あの~……八重桜? みたいな」
「はは、みんなそう言う。なんでも家を分ける時に名前も差別化するために変えたんだとか。だったら読み方も変えろよって気分だけど」
「あー分かる。ややこしいよな。苗字書くのばっかめんどっちくなってそう」
「分かってくれるか!? 中学のやつらなんか、『なんでだよかっけぇじゃん!』とか言うやつばっかだったんだぜー!? テストとかで毎回こんな文字書かされるこっちの身にもなれよって感じでさー」
「や、まあ、中学のころ合いならほら……あれだろ?」
「まあ、それは分かる。分からんでもないのが分かるから困る」
「はははっ、お前ヘンなやつだな」
「男なら、ヘンな方が人生楽しいだろ。真面目なら真面目がいいけど、真面目ぶるのは肩が凝るってやつ。分かる?」
「なるほど、自然体で真面目なヤツにゃあ、いくら真面目ぶっても勝てないってやつか」
「そそ。で、俺はどう足掻いたって真面目ぶる、にしかなれないタイプだ。楽しい方が好きだからな」
「いいなぁそれ。その考え方スッゲェわかる。なぁ夜叉漸蔵、前後席のよしみで友達にならないか?」
「よせやい……俺達、もう───」
「「───友達だろ?」」
「………」
「………」
「「だっはっはっはっはっはっは!!」」
示し合わせたみたいに声を重ねて、俺達は笑い合った。
なんなら手とかピシガシグッグと叩き合わせたりして、友情を深め合った。
というわけで───出会って5秒で藤堂龍太が友達になった!
……ん? 藤堂龍太? 藤堂……なんか忘れてるような。
なんかこの人生において、とんでもなく大事な名前だったような───
「………」
───。
分からないので気にしないことにした。
思い出せないのは兄さんが満たされてるからさ! 誰だ兄さんって!
「夜叉漸蔵じゃ長いだろ、名前───でも無駄に長ェんだよなぁ……。ちなみに小中と、友達になった奴らからの認識は『苗字でも名前でも呼び方に困るヤツ』、だったぞ」
「あだ名で呼びゃいいじゃん……あ、じゃあ林野丞のリン、ってのは?」
「おお、女子にバカウケだったぞ。キャア女の子みたァ~ンウィ! リンちゃーん!? リンちゃーん! って」
「…………なんか……悪い」
「女ってなんで、調子に乗ってハイテンションになると、たァ~ンウィってヘンな語尾になるんだろうな……」**1
謎を胸に秘めたまま、けれど俺達は笑顔でそれぞれの呼び方を決めた。
「んじゃ、夜叉漸蔵は俺のことをリュウって呼んで、」
「俺は藤堂のことを竜白、って呼べばいいんだな?」
「俺のあだ名しか決まってねぇよ!? 誰が重ね当てオンリーだこの野郎!」
「冗談冗談。いきなりあだ名で呼び合うとか、段階飛ばしてんなぁとか思っただけだって」
「いーだろべつに。お前、苗字、名前、あだ名~とか段階は踏んでもその段階が一日二日で消化されそうだし」
「甘いわ、俺なら秒刻みだ」
「それが会話で分かったから最初っから提案したんだよ、アホウ」
くつくつと笑いつつ、あだ名で呼び合う中になった。
「んじゃ、これからよろしくな、ジョー」
「ハリケーンアッパー出しそうだなオイ」
「夜叉だとなんか詰まる気がするんだよ……だからってリンだと確かに女っぽいし、スケってのも違う。昔の不良用語の女みたいしだし。ちなみに小中だと結局なんて呼ばれてたんだ?」
「夜叉からとって『やっちゃん』とか、漸蔵の部分からとって『ざっくん』とか、林野丞からとって『りんちゃん、りんくん』、『スター林野』、で、やっぱり『ジョー』はあった。一番多いのはやっぱリンだったかなぁ。……リュウ?」
「ぶっくっくっはは……! 林野っ……! スター林野……っ!」
「あー……」
錦野じゃなくてすんません。
や、林野って呼ばれるぶんには俺は全然ありなんだけどね。
「林野、とかハヤスィーとか呼ぶやつもそりゃ居たよ。むしろ俺はそっちの方がよかったくらいだけど」
「ハヤスィー」
「元気っ子にはハヤジョーとかハヤっちゃんとかも呼ばれてた。毎回呼び方が違うんだよ」
「……お前それ、その子にめっちゃ好かれてたんじゃ……」
「それ中学のクラスメイツにも言われたけどさ。まあ高校じゃ分かれたし、元気っ子のわりにめっちゃ頭よくて、ふはははは私はキミより上を目指すよまたいつか会おう! とか言って去っていったぞ?」
「……頭のいいヤツの考えることは分からんな」
「まったくだ」
や、まあ、俺もその高校、行こうと思えば全然いけたんだけど。
むしろそいつ、『え!? ハヤジョーこっちの高校行かないの!? なんで!?』ってめっちゃ驚いてた。
もしかして俺が行くと思ってたからそっちの高校を……!?(トゥンク……!) なんて、なんか悪いことしちゃったかなぁ……とか思ったりもしたんだけどね。
今となっては分からんのでどうにもなりませぬ。
「っと、センセ来たな。んじゃ、今日をのんびり乗り切りますか」
「だな。いざとなったらハヤスィを盾にして俺は寝る」
「いや普通に見つかると思うぞ?」
なんかハヤスィが気に入ったっぽい。
中学で呼ばれてたのはスィーって微妙に伸ばしてたんだけど、まあいいや。
◆ ◆ ◆
当然といえば当然のことでござーます。
自己紹介が始まった。
そりゃそーだ、俺達まだみんなのことをこれっぽっちも知らないのだから……!
そんなわけで、
「藤堂龍太です。好きなものはアニメとゲームと漫画。勉強運動はまあまあってところっす。よろしく」
何故か窓際後方から自己紹介が始まった……! このセンセー、やりおるわ……!
「ド田舎に在り申す
「主席ってお前だったの!? 詩織と香織が1位が辞退したからとか任されてたけど!」
「ややっ!? もしやお知り合いだったのかリュウよ! それは悪いことをした……いや、当方、なんでも器用にこなす『おのこ』を目指してはいるけど、別に目立ちたいわけではない故……して、詩織殿と香織殿、というのが……?」
「同点で2位。ほら、隣」
「ヌヌー!」
言われ、見てみれば同じ顔をした同じ髪型の、同じ雰囲気を纏って同じジト目で俺を見るおなごが二人……!
「オー、これは失礼した。自己紹介した通り、俺は夜叉漸蔵林野丞と申します。あー……っと、前の席の人が困ってるからとりあえず自己紹介に戻りましょうか。えーと、我斜髑髏くん?」
「
「いいぞ泉谷くんその調子だ! 自己紹介上手だね! 掴みはバッチリだ!」
「ただのツッコミにしかなってねぇんですがねぇ!? ああもう……! 泉谷茂です。好きなものは格闘技で、後ろの誰かさんにジャブでも打ち込みたい気分です」
「やべぇぞリュウ……! お前狙われてる……!」
「ひう! なんておそろしいのでしょう……!」
「ひうじゃねぇよ!? 横山さん家の光輝くんかお前は!」
「はーいそこの馬鹿三人! いいからちょっと黙ってなさい!」
「フッ……おいリュウ、馬鹿にされてんぜ……?」
「いや三人って言ってたろうが。お前も含まれてんだよ」
「俺完全にとばっちりなんですがね……」
「そんな特別感なら元から三人の誰かに譲るべきでは? リュウ、お前幼馴染が都合よく二人居たりしない?」
「詩織と香織がそうだけど」
「おめでとう三馬鹿……! 俺とガシャドクロくんの称号は二人に譲るぜッッ……!」
「よーし喧嘩売ってんだな」
「だからガシャドクロじゃないってばさぁ!」
「いきなり馬鹿呼ばわりとは随分ね、えーと……ラファティくんだったかしら」
「レベルEネタとか中々やるなアンタ」
「アンタじゃないわよ。双葉詩織。不本意ながら、そこの馬鹿男と幼馴染やってるわ」
「わたしは双葉香織。そこの馬鹿男と幼馴染をやってる女2」
「そしてこの俺が───」
「夜叉漸蔵くんでしょ?」
「愚地独歩です……」
「「誰よ」」
見事にハモった。
そこで思い出した。
この娘たち、GODと遭う前にプレイしてたゲームに出てきたヒロインだ。
双馴染の銀色に、に出てた娘……だよな? で、主人公が……わお、リュウじゃねぇか。
そっかー! ここ『ふたいろ』の世界なのかー!
……まあ、どうでもいいけどね!
俺がやることはただ一つ! 二度目の青春ガンバッゾー! ってくらい。
や、だってべつに無理して彼女とか作りたいとも思わないし、仕事漬けの毎日に到りたいとも思わない。
なので週休二日制のホワイティンな職場とか……ねぇ?
とってもとっても憧れますよねぇ~…………ねぇ?(*極圧)
ならばやることなどひとーつ! 青春を存分に謳歌し、ホワイティンな企業に入れるよう選択肢を広げる努力をするべし!
そのためには怠惰な青春なぞ送るべきじゃあ……ねぇぜッ!!
「ガシャドクロくん……俺、本気を出すよ───!」
「その本気に俺の名前を憶えるって項目、追加してくれません?」
「ごめん、名前なんだっけ」
「愚地独歩です……」
「独歩!」
「よろしく独歩!」
「ノリに乗ってみたらこれだよ! 泉谷! 泉谷茂だ! ごめん前の人! 名乗ったから次よろしく!」
「え、お、おう。裕希中出身、
「「「名前濃いィなオイ!!」」」
「よく言われるよチクショイ!!」
お風呂のために産まれてきたような名前だった。
そして俺はこんな自己紹介をきっかけに、新たな青春ユウジョウコメディーを築き上げていくのだった……!
え? ラブコメ? そんなもの…………ウチにはないよ………………。
───……というのは俺がそうありたかっただけで。
「え? いやいや、キミ詩織さんでしょ? 香織さんそっち」
「違うわよ、わたしが───」
「嘘言わない。キミは詩織さん」
「…………うそ。家族でもリュウくんでも見分けられないのに───」
ある日のこんなことがきっかけで、俺は双子の銀髪美少女らに妙に懐かれることになる。
「ねぇ、リンくん。一緒に勉強しよ?」
「え? いや俺ガシャドクロくんと遊びに行く約束があるから」
まあ懐かれたからって男同士の約束を破るほど愚かではないので、
「リンくん、明日からの連休の予定は? よかったらわたしと───」
「テルマエくんと銭湯巡りの予定があってさ。すっごいんだぞテルマエくん。名前でいじられそうなもんなのに、むしろそれを武器にお風呂好きだってんだからさ!」
「じゃ、じゃあわたしもそれに───」
「お風呂がお好き? 結構。ではますます好きになりますよ!」
「ん……予定と違うけど、これもきっと一歩……!」
基本、男友達との約束を優先していたら───
「リンくんリンくんっ、お弁当を作って来たので一緒に食べましょう!」
「なにぃ、俺も負けずに弁当を作ってきたんだが。なんかみんな誘ってドデカイランチとかしたくて。だから友達誘ってみんなで、でいいか?」
「どれだけ作ってきたの!?」
「なにを隠そう、俺は調理の達人!*2 というわけでリュウー! ガシャドクロくーん! テルマエくーん! 一緒にメシにすっべー!」
「だからガシャドクロじゃ……! ああもう!」
「なんかデケェの持ってきてたけど、それ弁当だったのか」
「むしろ教師がなにもツッコまない校風よ」
なんか余計にムキになって、接近してくるようになり───
「……なぁ。双葉姉妹ってフツー、ガッコとかだと美人姉妹~とか学校一の美少女~とか言われて男が近づこうとも近づけないタイプの女子じゃない……?」
「なぁんで俺達、その二人とフツーにランチ囲ってっかなぁ……」
「? 俺はべつに幼馴染だし、疑問抱いたりとかはねぇなぁ……」
「まあ、リュウはそうだろうな。で、なんでザクはそんな二人に挟まれてんだよ」
「大好きをあげられてるんだ。何回でも。タスケテ」
「リンくん、あーんして」
「リンくん、ほらほらこっちも食べて」
「すげぇ。食べた先から押し込まれまくってる。こんなに羨ましくないあーんは初めて見た……」
「これアレだろ。100カノ一期のOPで見たあの」
「なるほど。大好きあげられてるな。何回でも」
「てかウマイなこれ! ザク、なんでもありかよ……! 卵焼きが美味いなんて、女子の手作りだけかと思ってた……!」
「テルマエくん、卵焼きとか好きなん?」
「うちは両親がメシマズ両親だからさぁ。手作りの卵焼きとかタコさんウィンナーとか憧れてたんだけど、まさか男の手作りで食うのが初になるとは……」
「俺のかーさんは料理は上手だけど、厚焼き玉子とか作ってくれたことないなぁ。だからこれが初の厚焼き玉子ってことになるけど……美味しいなぁ」
「泉谷ん家ってもしかして卵アレルギーがあるとか?」
「いや、普通に卵使った料理とかは出てくるんだけど、厚焼き玉子は一度もない」
「弁当の定番なのにな。運動会とかでもなかったのか?」
「無かったなぁ……アルミホイルにおにぎり包んで数個と、あとはからあげ、漬物、ウィンナーとか」
「あー……」
「おぶっほ! ちょ、待って! 箸休めさせて! 俺箸使ってないけど! 飲み物! 飲み物クラサイ!」
「リンくん、あーん」
「ペットボトル丸ごと押し付けられても困るんですけど!?」
「リンくん、あーん」
「だからって缶ジュース丸ごと飲ませろって意味じゃねぇよ!?」
「俺、南アルプスの天然水をあーんされてるヤツ、初めて見た」
「それ言ったら国家コーラゼロ缶をあーんされてるヤツも初めてだわ」
「夜叉漸蔵くん、苦労しそうだよね」
「ちなみにザク、どっちがしおりんでどっちがかおりん?」
「俺の左がかおりんで右がしおりんだよ! とにかく水分をスプラァッシュ!!」
「噴水の如く噴き出す国家コーラゼロがハヤスィの瞳に直撃だ!」
「大変!」
「ハンカチありがとうだけど国家コーラ渡してきた奴の台詞!?」
「誤解よ! あーんしただけ!」
「なおひどいわ!」
そんなどたばたユウジョウコメディーが、俺の平穏をぶち壊しながら始まったのでした。
神様ありがとお~ゥォ、僕に~、トモダチをくれぇ~て~♪
でもごめんなさい、もうちょいお目目にやさしい友達が欲しいデス。
ライッダーウィンドゥーリッチューラスコー(モテプテ王マス)
書いてて楽しかったけど着地地点が見えなかったんや……。