VRMMORPG『博光の野望ONLINE』。
誰だよ博光。NOBUNAGAじゃねぇのかよと誰もがツッコミたい存在の野望なオンラインゲーム。
世界に名だたる
自由がウリのゲームであり、βテストは無駄に凄まじい凄まじいほどの無駄さ加減が話題を呼び人気を呼び、大盛況のままクローズドを迎えました。
そうして話題を掻っ攫ったままとうとう発売日を迎え、ブラッシュアップされた作品に血沸き肉躍る猛者どもがゲームスタート今か今かと待っていました。
……なお、キャラクリエイトまではいつでも可能であったため、造形に凝るだけ凝る時間はたっぷりとありまくった次第です。
ゲームがリアル感のあるフェイスではなくアニメ調のキャラクリも可能なため、リアルなおっさん顔な人も居れば、やたらと目が大きなキャラも居ました。
お披露目会場と称される草原マップにはプレビュー状態で動かすキャラが連日沢山居て、範●勇次郎が居たりブロコリとやらが居たりと、発売日までネタで遊ぶ人が後を絶たなかったほどです。
そんな中で迎えたゲームスタートの日時に、それは起こったのでした……!
『フフフハハハハハ……ハッハッハッハッハッハッハ……!』
すべてのプレイヤーが始まりの町に瞬間移動させられたかと思うや、なんとその上空に半透明のウィンドウが表示され、何者かが姿を現したのです……!
『ハァッハッハッハッハッヒャハハ! ヒャーッハッハッハッハッハ! ゴッフゲフゴフッ……!!』
……そしてなんか神秘の世界エ●ハザードの陣内くんのような笑い声をあげたかと思えば、咳き込みました。きっとアホです。アホがご降臨めされたのです。
『ゲッフ……あ、ああごめんごめん、ちょっと無茶して笑っちゃったよ。あー、えー、ようこそ仮想現実の世界、博光の野望ONLINEへ。楽しんでますか? 入った途端にここに飛んじゃった人はごめんなさいね。購入者が全員ログイン完了してからここに飛ばしたから、たぶん大丈夫だとは思うんだけど』
そしてなんとも頼りない口調で、画面の彼は語り出します。
『というわけで───この世界はデスゲームになりましたのデース! クリアしなきゃ現実には帰れまセーン!
……語り出した途端にめっちゃくちゃ胡散臭そうな有様でした。そもそも雰囲気が暗躍する悪役というよりは、序盤でワルイコトを企ててあっさり始末されそうな小童感がありまくりです。
現に、言い出したことに『コイツマジか……』と思うプレイヤー達が大体なほど。頭のイカレたことを、まるでペガサス・J・クロフォードのようにのたま───『ワタシのことはユニコーン・T・シロフォードとでもお呼びくだサーイ! あなたの喜びに出会う! ミートユアディラーイトゥ!』……ペガサスではないそうです。あと明らかに偽名です。
しかし、プレイヤーの一人が「え……あれ!? ログアウトできねぇぞ!?」と言い出すと、その焦りが周囲にも広がっていきます。
『βからの継続プレイヤーには心からの感謝を! 新規のアナタはようこそ! 僕はこの世界の管理者、元原沢南中学校迷惑部提督! 中井出博光であるーーーっ!!』
どーん、と。なぜか効果音付きで自己紹介したものの、皆様それどころではありませんでした。一部『ユニコーンじゃねぇのかよ! さっきのなんだったんだよ!』とのツッコミはあったものの。
デスゲーム。既に世に知れ渡るほど、有名になった某ソードでアートなお話の影響で、少なくともデスゲームを知らないプレイヤーは一人も居なかったのです。
それが現実にも起きたとくれば、わくわくしていた心は一気にドン底に───
『あ、みんな勘違いしてるようだけどさ、デスゲームはデスゲームでも、死んで覚えるって方面でのデスゲームだよ? むしろ死ぬことさえ推奨されるほどのゲーム。略してデスゲーム。何度死んでも蘇れるし、スキルに自爆とかも出てくる素晴らしい世界です』
落ちる間も無く、「へ?」と。その言葉が耳に届いたすべての人が、停止しました。
『つまりさ。つまりだよ? キミたちはねぇ……僕がゲームの中に閉じ込めたっていう言い訳を糧に、クリアするまで仕事もガッコも勉強も、なーんもかんも休んでゲームしてていいってことさーーーっ!!』
「「「「「「うぉおおおおおおおおっ!!」」」」」」
人々とは案外単純でございます。
さっきまでの暗い顔はどこへやら、プレイヤー達は拳を固め、ハワーと空へと突き出し喜びました。むしろデスゲームとかログアウト出来ないとか、一種のゲーム的ドッキリなんじゃないかという、言われたわけでもない勝手な安堵感にやすらぎ、喜んだほどです。
けれど、もちろん冷静なプレイヤーも居ます。
「ま、待て! 待ってくれみんな! こいつはデスゲームがどうとか言い出したばっかりのやつだぞ! 実際ログアウトも出来ないのに、なんで本当に死なないって言い切れる!?」
『え? だってそういうシステムだから。ていうかどうすりゃゲームで人が死ぬの。ゲーム機から謎のビームが~とか、そんなん開発段階で確認が入るっつーの。ゲーム機の開発って、いろいろ許可とか必要なんよ? 機能を隠して審査が通るほど甘くねーのよ
「えっ!? そうなん!?」
『そうなん』
騒いでいた人たちは、なんだか一気に力が抜けた気分でした。
けれど、現実での世界も大事にしたい人はちょっと待ったと手を挙げざるを得ません。本音ではそりゃあゲームに埋没していた人が大半。ですが、現実はそうではないのです。
生きていく限り、お金は必要ですし働かなければいけません。
「待ってくれ! 俺、夕方には子供を迎えに行かなきゃなんだよ! このままだと困るんだ!」
『え? マジで? そりゃヤバイな……お子にはなんの罪もない。園内で他のお子をイジメたりしてるヤツとかだったらどうでもいいけど、未来あるお子を寂しがらせちゃ博光の名が廃るってもんです。既に廃れまくってるけど。えーと……よし、これでOK。よーしみんな大丈夫だ。この世界での5年が現実世界での1時間程度になるようにいじくったから、夕方までなんて余裕余裕』
「「「「「「なにをやらせてぇんだよあんたは! ていうかなにした!?」」」」」」
『ゲームを楽しんでほしいんじゃい!! あと脳内処理速度とかその他もろもろいじくりました! ───でだね! あのね! 僕はね!? ゲームを、他の何事をも気にせず自由に、思いっきり楽しんでほしいの! わかる!? なのに世界はやれ仕事だの家事育児だの! いいかね! ゲームってのは楽しむためのものだ! 癒しになることももちろんある! それを、誰に遠慮することなく全力でやってみてほしいのだよ僕は! 誰々はニートだからゲームやる時間ばっかあるんだとか! あいつはあのゲーム好きだけど時間がねぇから弱ぇえんだぜぇ~? とか! そんな言い訳なんざ一切いらぬ! 楽しめ! この世界は我が野望のONLINE! 全部をこの博光の所為にして、キミたちはただただ楽しんでくれればいい!』
野望を語る彼、中井出博光はモノスンゲェ邪悪な笑みと、人懐っこい笑みとを交互に見せ、プレイヤーのやる気を盛り上げていきます。というか話を聞くたびにプレイヤーは思います。『あ、こいつただの馬鹿だわ。人を陥れて悦に入るよりも、誰かと一緒に楽しむことを選ぶ馬鹿だわこれ……』と。
「っ……あんた……!」
『あ、でもデスゲームだからなんかこう、なんというかあっさり死ぬ時は死ぬんで。あ、死ぬなこれ……って時にはカッピョよく死んでみたり、ギャグ調にして死んでみたりも全然アリ! 痛みも大分軽減されてるから、痛みでパニックになったまま死ぬ、トラウマになる、なんてことはない筈だから』
「えっ……い、痛み!? 痛覚があるのか!?」
『あるよ馬鹿! あるに決まってるじゃん! あ、でも現実の痛みほどじゃないよ? 一部例外はあるものの、こう……分厚い空気圧で、ドゥ~ンって押された時の感触……みたいな? でもね、考えてもみてほしいのです。痛みもないのにロールプレイが出来ますかってんだ、と。攻撃を受けて痛いと感じて、そこでこそ真の“馬鹿野郎! 俺に構うな! 俺に構わず行けぇええっ!!”が出来るんでしょーが!』
「ハッ……た、確かに!!」
熱が籠った身振り手振りの言葉に、プレイヤーの一部がつい、といった感じで同意します。だって、このゲームは確かにゲームであり、さらに言えばロールプレイを楽しむゲーム、ロールプレイングゲームなのですから……!
『というわけでさあデスゲームの開始だよ! 理不尽な死や正当な死、そりゃ死ぬわってレベルのものまでたくさんの物語が配置されてるから、全力で遊んでくださいま死ね!』
「おい!? なんか今語尾が変じゃなかったか!?」
『ロールプレイングゲームでロールプレイしないなんてもったいない! この博光が貴様らに望むことなぞひとつのみよ! 全力で貴様らが思い描いたキャラで、この世界をお楽しみされませい! ───ではでは始まりの街、花舞う都エーテルアロワノンより、世界攻略の始まり始まり~♪』
「おいちょっと!? まだ訊きたいことが! おいぃーっ!!」
そうして、とうとうデスゲーム(何回死んでも良し)が始まったのです───!!
『あ、ちなみに』
と思ったら戻ってきました。
『こういうゲーム自体が初めてで右も左も、なんなら上上下下もBAも分からない、知らないならば、そこにある初心者修練場のドアを叩いてね? それとは別に、こんなゲームは慣れ切ってるし? なんなら玄人すぎてやべぇってレベルだし? って人は初期装備のまま外に出てとっとと死ね』
「いや言い方ァアーーーッ!?」
『うるせぇーーーっ! 開発者だとか責任者だとか、そういうやつらだって楽しんで欲しくて作ってんだよ! なのに楽しまずにイキって、せっかくの場を無視とかいっぺん死ねって思わずしてなにが人間か! ツクールシリーズでゲーム作ったのに、ホントにやってほしいところ無視されてぶちぶち文句たれて悪評価つける奴とか考えてみてよ悔しいでしょほんともう!』
「「「「「あー……」」」」」
『じゃあね! これでもうほんと僕引き篭もるから! 外に出たいやつは森にだけ気をつければそうそう死なないんだから、好きにしたらいいじゃない!《ポッ》』
(((((なんでそこでツンデレ怒り……?)))))
……始まったのでしたけど、当然その場に残されたプレイヤーたちはポカンとしたまま動けなかったのが現状です。
ちらりちらりと他のプレイヤーの動向を探りつつ、けれども何が起こるわけでもありません。ひとりがようやく頭を掻きながら、隣のプレイヤーに話しかけることで流れは出来上がりました。
「あ、あー……うん、まあ。ここでこうしてても、始まらないよな」
「あー……ああ、だな。けど、どうすっかなぁ……いきなりデスゲームとか言われても」
ノリで喜んではみたものの、やはり妙な恐怖感はあるのはどうしようもありません。
ゲームの世界に囚われたのです、当然でしょう。どこまで信じていいのかも分からないのですから、それも当然なのです。
───が。ログアウトの文字は確かに灰色になってプッシュすることは出来ず、初期装備に槍を選んだ彼……ヤー・リーが溜め息を吐くのもまた当然の行為でした。槍使いだからヤー・リー。日本人でございます。
そして最初に話しかけた彼もまた溜め息ひとつ、状況の整理を手伝わんとします。
プレイヤー名はレーヴァ・ニラン。レバニラが美味しそうですね。
「とりあえずいろいろ情報を集めてみるか。ていうかさっきも思ったけど、通行人の作りからしてすげぇよな。もう普通の人にしか見えねぇ……」
「わかる。叩いたりしたら反応とかすんのかな。うりゃっ」
こういう場合のセオリーといえば、破壊不能オブジェクト扱いで触れたりは出来ないものです。───が、この世界の通行人は普通に叩けたのです。ベシン、と頭を叩いた彼の方が驚いたほどに。
「おわっ、ちょっ、いきなり叩くとかっ……! なにかペナルティとかがあったりしたら───」
「うわバッ───総員退避ぃいっ!! 新規Pが町人叩いたァアッ!!」
「「「「「なにやってんだ馬鹿ぁああああっ!!」」」」」
どうすんだ、と続く筈の言葉が、急に叫んだβテスターによって遮られました。その間にも、この仕様を知っているβテスト経験者は一気に距離を取ります。
困惑する新規プレイヤーはもちろん戸惑いますが、そんな彼に向け───後頭部を叩かれた通行人がンバッと振り返ると、猫背になりつつ口を開きます。
「なめたら かんでぇ!」
デーゲドゥードゥーデッテッテッテーゲデー、デーゲドゥードゥーデッテー♪
《エーテルアロワノン の 町人 が喧嘩を売ってきた!》
なにやらテンポの良い……良い? BGMが鳴りだし、町人が襲い掛かってきたのです。
「え? え? な、なに? 町の《ドゴガァン!!》ぶべぇあっ!?《シャアアンキラキラ……♪》」
「へ? おわおわーーっ!? 殴られて塵にっ……うわぁああああっ!? し、ししっ……死っ……!?」
町人を叩いたプレイヤーが、何故か急にエセ関西弁っぽく喋り出したNPCに殴られ、コロがされました。*1
その事実に一気に緊張が走ります───が、消えたBGMと、トコトコと歩いていくNPCに、周囲は唖然とするばかりです。
「…………いや、ちょ……っ……さっきのって初代熱血硬派くにおくんの戦闘BGMだろ!? なんでこんなところで!?」
「ていうか初期ステータスだからってパンチ一発で死亡って! あ、いや、リスポーンは!? 復活は!? まままマジで死んでねぇよな!?」
「てか通行人! 殴り殺しておいて平然と歩いていくぞ!? やべぇぞこの世界!」
緊張は驚愕に、やがて恐怖になり───それが爆発せんと最高潮になったあたりで、なにやら空から光が降り……
「《パパァアア……♪》へっ? あれっ!? ……ここ、最初の場所、だよな? 俺、どうなって……!?」
ワンパンでコロがされたプレイヤーが、なにやらビジュンッと出現しました。
「おぉおおおお復活したぁあっ!」
「え!? じゃあ本当に何回死んでも大丈夫ってこと!?」
急に叩かれたNPCがプレイヤーをワンパンで殺したのち、平然と雑踏に消えるのを見守る中、情報整理は続々と続けられました。
《ピピンッ♪》───メッセージが届きました。
「へ? メッセージ?」
「お、こっちにも届いた。なになに……?」
『この世界では誰にであろうと、どんな場所だろうと攻撃が可能ですが、理不尽な暴力をNPCに働いた場合、彼ら彼女らは自己の能力の限界をブッチギって襲い掛かってきます。このゲームの限界レベルは11922960レベルですが、それだけあってもなお負ける可能性があり、勝ったとしてもコロがせるわけではないので、NPCに危害を加えることはオススメしません』
「………」
「限界レベル千百九十二万二千九百六十って……数字で見るとイイクニツクロウじゃねぇか……。いつの時代の鎌倉幕府だよ……」
「イイハコだったんだっけか……イイクニの方がよかったのになぁ」
《ピピンッ♪》───メッセージが届きました。
『なお、村や町へのモンスター侵攻イベントなどが起きた場合、村人や町人は皆さまが想像する村人や町人の力しか持ち合わせていません。プレイヤーがNPCにちょっかいをかけた時にのみ、信じられんほどのパゥワーを見せつけ、これを排除します』
「うっわぁああ理不尽ンンーーーッ!!」
「プレイヤーワンパンでコロがせるのに、モンスターに対しては力を発揮できないとかなんだよそれ! ……ん? あれ? コロがす……コロがす、コロがされる……うわっ、なんだこれ、コロがすって言葉が勝手にコロがすになるぞ!?」
「? ……なに言ってんだお前、頭大丈夫か……?」
「いやいやヘンな意味じゃなくて! ブッコロがす……ああもう! ブッコロがす、を元の言葉に戻して言ってみろって!」
「なに言ってんだ、ブッコロがすの元の言葉って……ブッコロがす。だろ? …………おおっ!?」
「な!? 言葉が勝手に変換されるんだよ!」
「おお……なんかゲームやってる、って気分に嫌でもさせられるな……! あ、じゃあこういうのは? やっぱハラスメント行為~とかで変えるんだろうけど」
言って、彼は女性プレイヤーに向き直り、言います。
「イッパツヤラセロ《ズパァン!!》ぶべぇっしぇ!?」
ビンタが炸裂しました。
「何故!? なんかすっげぇ自然に言えたんだけど!? 調整する場所間違ってない!?」
「サイッテー……これだから男って」
「待って待って!? 俺ただ検証してみたかっただけだって! じゃ、じゃあこれは!? これは絶対変換されるだろ!」
「……あによ」
「クッフフフフ……セッ●ス!!」
「───」
「………」
……その場でピー音も鳴らなかったその日、初めてプレイヤーキルがなされたそうです。女性達の徒党を組んだ攻撃は、一人の男性をコロがすくらいワケなかったのです。
/1
βテストが終了し、しばらくして本格的に始まった『博光の野望ONLINE』。
このゲームが始まって、既に一週間が経っていた。……ゲームの中で。
「ええと、じゃあ一週間経ったことだし、情報の整理をしよう」
「おっけー」
「つっても、大した変化もないんだけどな」
「いやいや、序盤だからこそこういうことはやっとかないとだろ。まあ大体はβテストの時のままっぽいから、テスターが開示してくれた情報には感謝しかないな」
会議所として用意されたのは、一番最初に作られたギルド『トーテムポールロマンス』。
なんでこんな名前になったのかは謎のままではあるものの、ゲームってそういうものだということで、既にツッコまれることもなくなっています。
というか試しで作られたギルドなので、ギルドに入っておけば宿台が安くなる、という理由だけで適当に入ってるソロプレイヤーも結構居るのが現状です。
「ええっと、とりあえず───いっちゃん最初に分かった情報といえばアレだよな」
「うぐっ……もう掘り返すのやめてくれよ……」
「はは……プレイヤーキルにおける、された側に痛みは無かった、だな」
一週間前に女性プレイヤーにFOX……もとい、セッ●ス発言をしてコロがされた男性プレイヤー、『鉄のアレイクス』が罰が悪そうにしております。なお、あだ名は鉄アレイです。
「これを脅し文句としてハラスメンティヴな行為を、なんて行動はまったくもって無意味と確認された。ていうか故意にハラスメント行為をするとペナルティが起こるから、もはや誰もそれをしようともしないしな……」
無精髭が生えた顎をゾリ……と撫で、くつくつと笑うのは『メタリック・サムライ』。シルバーサムライっぽい名前にしたかったらこんな名前になったとか。
「あー……無惨弾事件ね……あれは不幸な事故だったわ」
「クリアしなけりゃいつまでも5年が一時間の世界で遊んでられるんだろ? とか言い出して、カワイイキャラクリの女性を襲おうとしたあいつな」
「なんか急に落ちて来た雷からクッソデケェ雷神様が現れて、そいつ掴んで地面にびったんしたんだよな……。あれにはオバロのラースさんもびっくりだろ」
「急に出てきて『無惨弾! 大激怒ォオオッ!!』───で、びったーんだもんな」
「悪質なペナルティの時は痛覚はしっかりあるってんだから恐ろしい……。そりゃ、誰もハラスメンティヴな行為に走らなくなるわ」
「カルカ様もびっくりなほど、上半身吹き飛んだからな……」
だはぁ、と溜め息を吐くのはキャラクリで桃から産まれた桃太郎、を作ったプレイヤー、
「ま、PKされても、装備を落とすことも所持金が半分になることも、経験値が下がることもなかったし、プレイヤーにゃあやさしい世界だよな」
「デスペナとかテンション下がるもんなぁ……」
「ただしコロがしたプレイヤーにはペナルティとして、獲得できる経験値やお金が半分になる、ドロップ率低下とかがあるってのも後押ししてるよな。メリットがない」
「快楽殺人犯とかが居るなら別だろうけど、それやった時点で弱体化してるところを他プレイヤーにフルボコられるのがオチだしなぁ……。PKしたら地図に問答無用でマーキングされるし、人をコロがしたショックで~って理由で身体が震えて上手く動けなくなる、とか……まあよく出来てるよな」
「PKプレイヤーをキルしてもペナルティは発生しない。けど、集団で一人を、ともなると元のペナルティの倍率も上がるってんだから注意が必要、と」
その言葉にウム、と頷くのは重戦士プレイヤー、『マッスルージュ~雲の彼方に~』です。
タンクを担い、活躍をしている彼ですが、ネタネームでまったり遊ぶつもりがまがりなりにもデスゲームになってしまい、攻略しなければ抜け出せないという、つまりそのー……多少は真面目さが際立ってしまう世界になってしまった中で、名前失敗したァァァァ……! と悩むプレイヤーのひとりでした。
「彼方さん、あなたの意見を聞こう」
「オイ。彼方さん呼ぶのやめろ」
「いや、だってマッスルージュって呼ぶのもさ」
「それでも彼方さんはやめろ」
「“マッスルージュ~雲の”が苗字で、“彼方に~”が名前みたいな感じになってますよね」
「やめろっつーの生肉」
「先輩こそやめてくださいよ!」
先輩後輩でゲームを始めたらしい彼は、後輩の彼女にめっちゃいじられまくってました。しかし後輩のネームも『カンピロ爆誕』という、食中毒が爆誕しそうな名前でした。
「ぷくっふふ……あ、いや、ごほんっ。ああ、うん。カンピロバクター、モノはともかくいい名前だと思うよ、うん……~……くっふくくくく……!」
「ギルマス、笑いこらえきれてませんよ……」
「わ、悪い悪い……いやでも、みんなそれだけこのゲームが馬鹿ゲーだって分かってて踏み出したってことだもんな。俺だって『男爵ベルダンディーノ』なんてヘンテコな名前でキャラ作ったわけだし」
「髪型は嗚呼女神様のベルダンディーなのに、なんでシルクハットとマントに上半身裸で、下はふんどしなんですかね」
「今の若い子は男爵ディーノ知らないんだもんなぁ……」
ギルドマスターはこの現状報告という名の情報交換の場を設けたギルドの長、男爵ベルダンディーノ。
完全にネタキャラで入って大後悔を味わっている、ネタプレイヤー筆頭です。
「俺ソロでやりたかったのに、ネタネームとかネタキャラクリした奴らに押し付けられて、無理矢理ギルド任されて、俺にどうしろってんだよ……」
「はは……悪い。いつも場を提供してくれて助かってるよ」
「ほっときゃ解散扱いになって消滅するのに、お前らが勝手にギルド維持費払うからだろぉ!? 俺にソロをさせてくれよ!」
「ホホホやだ」
即答で返したのはネタでもなんでもない、生粋のオネェプレイヤーであるオネェ、『テラクンバ宮本さん』です。
宮本はなんとなくつけたもので、本名は違うそうです。
「前々から気になってたんだけどさ、宮本さん」
「あらなに? 彼方ちゃん」
「彼方呼びやめろマジで。……その、テラクンバってなんです?」
「あー……ほら、結構前に放送してたアニメでシャンフロってあったじゃない?」
「ああ、知ってます知ってます。あのハシビロコウっぽい鳥の顔した主人公の」
「それの最初のEDをね、歌詞も知らずに聞いた時の印象をそのまんまって感じ。ここで終わるなって泣くんだ、って部分がね、ここで終わるなッテーラクンバァって聞こえちゃったのよ。それを名前にしたはいいけど、なんか寂しいから宮本つけたの」
「ついで感すげぇ。でもテラクンバの理由はなんかちょっと分かる」
なお、維持費を勝手に支払っている代表者がテラクンバさんであり、ホホホやだと即答したのもそのためです。
「で、過去の情報は揃えたけど……なにか目新しい情報はあるか?」
「とりあえず初心者修練場はクリアしといて損はないってことは確実だな。装備いろいろもらえる」
「まあ、基本だよな。問題なのはそれを今言ったって、挑戦するプレイヤーが居るかどうかだけど。新規はもうどう足掻いたって現れないし」
「んー……戦闘で傷ついても、戦闘が終わればHPMP全回復は有難いよな」
「レベルアップしても全回復は有難いよな。戦闘中でも経験値は貰えるしレベルも上がる。まあ、経験を積んでるって意味では間違っちゃいないんだろうけど」
「スキルの熟練度を上げる感覚でレベルも上がるの、いいよな。能力が上がる所為でヘイト管理がズレる時があるのが怖いけど」
「そうなのよねぇ……レベルが上がった、と思ったら戦ってる最中のモンスターが一斉にこちらを向く瞬間とか、今でもキャアとか叫びそうになっちゃうもの」
(((((キャアってツラかよお前……)))))
テラクンバ宮本さんはゴリモリマッチョのオネェさんです。
キャアというか、ぬおおおお! とか叫んで爆肉鋼体とか使いそうです。
ちなみに声も玄田哲章さんのようですが、戸愚呂というよりはイトウくん(ナマモノ)です。
「ちなみに宮本さんは戦闘経験などは……」
「あら、リアルの話? 空手とかやってたわねぇ……ビール瓶切りとかやってみたら出来た時点で免許皆伝言い渡されたけど」
(((((キャアって技能かよお前……!!)))))
くねくねしてるイトウくんもといテランクバさんは捨て置いて、彼ら彼女らはううむと唸ります。
「女性側からなにか情報は?」
「ビール瓶切りって本当に出来るもんなんですか?」
「いや知らねぇよ。どこの攻略情報だよ」
瓶を切れるなら骨くらい簡単に砕いてきそうですよね、カラーテ。
なめたらかんでぇ! の意味が今でもわかりません。
でも本当に「なめたらあかんでぇ!」じゃなくて、「なめたらかんでぇ!」なんですよ。