なお、一応オリ主ではない模様。
張り切って書こうとしたけど……音楽知識の乏しさに絶望しました。なおぼっちちゃんが山田より先に喜多ちゃんに憧れられるルートとか考えたけど、やっぱり僕の音楽知識じゃ無理だったんや……!
子供の頃、“このゆびとまれと”いうものに手を伸ばせなかった自分を、ふと思い出すことがある。
あの時に手を伸ばしていたのなら、今の自分は居なかったのだろうか、なんて。
でも、同時に考えることもあるのです。あそこであの指に留まっていたなら、わたしはきっと、ギターを手に羽撃くことは出来なかったのだろう、って。
ずっとずっとずうっと、誰かの指に留まっては、どこへも飛び立てない、自分で始めたいなにかも持てないまま、誇れるなにかもないままに、俯いて生きていくだけだったんだろう、って。
だから……わたしに後悔はない。
悲しむことはあっても、後悔なんてしてやらない。してやるもんか。
───……。
……。
……朝が来る。
静かに目を覚まして、軽く伸びをすると布団から出て、カーテンを開ける。
今日も今日とて孤独な日々が始まります。朝日を浴びながら、今度はぐうっと長く長く伸びをして、今日も頑張りましょうと気合を入れた。
「~♪」
光合成でエネルギーを得る植物のような気持ちで、太陽から温かさを吸収。着替えて、うがいをして、顔を洗って、と……いろいろやっている内に意識は完全に覚醒。
食事をしっかりと作って、しっかりと味わって、自分しか住んでいない部屋から制服姿で出て、鍵を閉める。そんな毎日のルーティーンをこなす指を、ふと見下ろした。
「……ん」
あの日。あの指に留まることを躊躇ってしまった日から、わたしの日常はひどく寂しいものになってしまったと思う。躊躇しただけなのなら、もう一度掴みに行ってみればよかったのかもしれない。誰かに相談すれば、うじうじ悩んでないで向かえばいいじゃんっ、なんて言われるんだろうな。
でも、一度掴めず躊躇してしまったものは、今度こそはという気持ちが離れるものだ。どうせ、とか。いいや、もう、とか。自分が混ざれば空気が死ぬかも、なんて思えば、人はいくらだって躊躇できる。そういうふうに出来ている。そこで一歩を踏み出せるのは、限られた人だけだ。自分の殻をブチ破れた人だけだ。そして、わたしにはそれが出来なかった。そう、それだけの話なんだから。
「いい天気」
空の青と、眩しい光を見上げて笑う。
表情筋さんはすっかり元気だ。小学から中学初期の頃なんて見る影もないだろう。
ギターを手にしたあの日から……ううん、もっと言えば、ギターの演奏動画をUPして、心を抉って抉って抉りまくった感想を前に溶けてしまったあの日から、わたしはわたしを破り捨てるくらいの勢いで努力した。守破離ってやつだ。だったよね? なんかどっかで見た気がします。
日に6時間という、孤独者にこそ許された時間の使い方を以ってして努力したわたしに、上手になったギターを手にしたわたしに、怖いものなんてきっとなかったはずだった。だからギターヒーロー、なんて名前で動画をUP出来たんだ。今では名前負けがすごいな、なんて苦笑してしまえますが。
「懐かしいな……若かったなぁ、ほんと」
そうして思い出していく。あの頃の、恥ずかしさの塊みたいだった自分の中学時代を。
……。
二年だ。そう……二年努力して、ギターはそれなりに弾けるようになった。
結果として……そりゃ、ちやほやされました。【上手だ】【すごい】【中学生!? うそだろ!】とかいうコメントを見るたび、頬が緩んで表情が溶けて、ニヤニヤが止まらなくて……調子に乗って、そういった投稿を何度か続けた先で───
【たしかに上手いけどさ。たぶんこいつ、バンド組んだら真っ先に足引っ張るタイプだぞ】
その文字をコメント欄で見た時、わたしの心はゴシャメシャにヒビを入れられた。
ガラスだから耐えられた。豆腐だったら潰れてた。そういう問題じゃないけど。
100の称賛よりも1の苦言。頬を緩ませていたわたしから笑顔ひとつを奪うのに、多くの言葉なんて必要なかった。
【名前もギターヒーローって。ギター上手くなって誰より自分が目立ちたいだけじゃん。こういう奴が黙って俺についてこいって、自分のペースだけで弾き散らかして、バンドの空気殺していくんだよ。分かってる? バンドって、他人と組むのよ? ひとりだけ上手くたって意味ないの】
……突き刺さった。ひとりだけ上手くたって、って言葉が一層。後藤ひとり。わたしの名前。相手はわたしの名前を言ったわけじゃないんだろうけど、ギターヒーローとしてじゃなく、わたし自身に言葉を投げてきたみたいに見えて、自然と涙が出るほど……その言葉はわたしに突き刺さったんだ。
そりゃあ、落ち込んだ。涙はこぼれるし、止まらないし、喉も嗚咽っていうよりは、なにかを口にしたいのに声にならなくて、あう、うあ、みたいなことばかりを……言う、というよりは鳴らしていた。
そうして泣いて泣いて、恥ずかしくて悲しくて、ヒーローのくせに自分が目立つことばかり、ちやほやされることばかり考えていたことが恥ずかしくて、チャンネルを潰してしまいたいとさえ思って、そんな勇気さえなくて、そういえばこれ家族アカウントだから、こんな自分の痴態もみんな知ってるんだ、なんてことにも気づいて、ただただ申し訳なくなって、パソコンの前で……自分のチャンネルのページで、泣きながら頭を下げて……ごめんなさい、と……呟いた。
そしたら、もうだめだった。
落ち込んで、塞いで、後悔して、悲しんで、自己嫌悪のスパイラルが始まって。
そうしたらどんどんと自分が人であることが申し訳なくなって、気づいたら体がどんどんと溶けていって。
【ヒーローならさ、仲間に寄り添ってみせろよ。一人で突っ走ってメーワクかけるヤツなんて、誰も英雄なんて呼ばねーよ。ひとりが上手くったってしょーがねーんだぞ? バンドがどーたらって書いてあったからあえて言うけどさ。他の演奏動画に合わせてみるのでもいーから、同じ曲弾いてみ。中学でそれならまだ行ける】
…………え?
【中学だってのがほんとなら、ちやほやされたい気持ち、そりゃあるだろうさ。でもな、それに負けんな。子供みてーにヒーローとか言いたいだけのおっさんおばさんなんだとしても、誰かと一緒にって目標あるならお前だけ突っ走るのだけはやめとけ】
…………。
最後に、そんなコメントが視界に映った。
きつい言葉が苦しくて、更新押しまくれば新規コメントに流れてくれるかなって。
そしたら何度かに分けてその人はいろいろ言ってくれて。
……楽しんでんだから邪魔すんな、何様だよ、とか返信されてたけど。そんな擁護コメントに、そうだそうだ、なんて便乗してしまいそうになったけど。
「………」
溶けたままで考えた。
それでいいの? って。
わたしはヒーローだ。ギターを手にした時だけ、ネットの上だけみんなに認めてもらえるヒーローになれる。でも、自分のことしか考えてない人って、わたしが憧れたヒーロー像と少しでも合致するところって……あるのかな。
「───…………ぁ」
そんなの、ちがう。
わたしはそんな、大勢の頑張っている人の中で、他の人を無視して自分だけが最高のパフォーマンスを見せて調子にのって笑っているような人になりたかったんじゃない。そんなのは……ヒーローじゃない。そうだ。そんなのは、わたしが嫌う自分こそ最高とアピールし続ける……嫌な陽キャの代表格じゃないか。
なんてことだ……わたしは必死にギターを練習した先で、そんな存在になりたかったのか……!?
……違う
違う。
確かにちやほやはされたかった。
人気者になりたかったし、ギターは目立つからって理由もあった。
ただ音楽をしたいんだったらドラムでもベースでもキーボードでも、ボーカルでもよかったはずだ。
でも目立ちたかったから、お父さんが持ってたから、そんな理由でギターを始めた。
「…………でも」
わたしは、もう間違えてしまった。
ヒーローを名乗っておきながら、憧れを持っておきながら、勝手に苦手意識を以って嫌っておきながら、理想の自分とはかけ離れた結果を求めていた。
そんなわたしが今さらなにを望めるのだろうか。
ギターを始めてからもう二年だ。友達なんて出来なかったし、作るために使うべき時間を全部ギターに割いたわたしは、もうとっくに誰にも声をかけられないぼっちだ。
こんなわたしにもう一度立てって? 間違ったならそれでいい、そんな無価値な存在でも手を伸ばしてくれる人がいるかもだから、それを待ってればいいじゃないか、なんて。……そう考えてしまえる自分に、絶望した。
でも……もしも。
そう、もしも。この人が言ってくれている通り、まだ出来るなら。まだ、誰かの演奏に寄り添える自分になれるなら。自分みたいな、ちやほやに目が眩んで、なりたかった自分さえ見失うような自分でも……目指せる自分がまだ持てるなら。
もう
これで
終わってもいい
だから
ありったけを
心に、ちいさな波が起こった。
きっとそれは勇気なんて呼べないもので、本当にちっぽけで無様な見栄みたいなものだったんだと思う。
それでも……そんな見栄でも、努力のきっかけになってくれるならって。
溶けた“私”の体が“わたし”を構築する中で、わたしは強く願った。
今度こそ……わたしが願い目指したものになれますようにって。
もう二度と、自分が目立つためだなんていう理由で、曲がってしまわないようにって。
───……。
……溶けた自分から自力で元に戻った“わたし”は、あの日から努力が苦にならなくなっていた。自分磨きは楽しいし、勉強も運動も、炊事洗濯掃除だってなんでもござれ。オシャレにだって気を使えるようになったし、ボイトレだってしたし活舌を鍛える練習も、会話の練習だってした。
その甲斐あって、残りの中学生活は順風満帆。成績は常にトップだし、喋る時にどもったり、“あっ”とか言っちゃうこともない。運動をすれば好成績を残し、音楽関連では自分で言うのもなんだけど、かなりの結果を残せたと思う。
生まれ変わったような気分だった。まるで、“そうなるように”と強制的に自分を成長もとい作り変えたかのような……スゲーッ、サワヤカな気分、ってやつだったんだと思う。
そんなわたしも両親を説得したのち、遠くの高校を受験。問題なくあっさりと合格をもぎ取ると、そのまま……広告収入で得たお金で自分の居住する場所を手に入れた。防音完備で押入れに籠らなくても近所迷惑にならない素敵な場所です。
高校デビューというわけではないけど、ありったけを願った頃に髪型とかもしっかり変えたわたしは問題なくクラスに馴染み───……現在高校一年と一週間近く、という立場にあって───…………クラスでぼっちやってます。順風満帆? はい、一人で味わってましたよ、学生が未来に向けて努力をする、という青春の1ページを。
(あれぇ……?)
自慢の笑顔を振りまいたり、さりげなーく会話に混ざろうとしてみたりするのに、なんでかみなさん蜘蛛の子を散らすように逃げていくんです。
何故……もしや顔ですか? か、顔には自信があるつもりだったんですがっ……!?
自分改革の中で、前髪も切りましたしお母さんに相談して服のことだって……! お母さんの古い友人で、服のお店を経営している人に服だっていっぱい貰ったし、買ったし、なんならその人に見せるために着替えて、お母さんにも友人さんにも太鼓判まで貰えたのに、何故……!? ───はっ!? もしや声が生理的に受け付けられないデスボイスみたいになっている……!? はっ!? もしや強烈な口臭があったり……!?
(お、おい……お前話しかけろよ……!)
(無茶言うなよ馬鹿お前!)
(くっはぁああ……! 今日も凄まじい可愛さ、そして美しさ……! 俺、人知を超えた美貌~とかってフィクションの中だけだと思ってたのに……!)
(あ~……座り方綺麗~……! 髪もさらっさらだし、いい香りするし……! ねーねー男子ぃ、ちょっと先陣切ってよぉ)
(だから無茶言うなっつーの!)
……そしてまた遠巻きに囁かれるわたし……! きっと“最近アイツ調子乗ってな~い?”とか言われてるんだ……!
もっと……! もっと努力しないと……! そうだ……なにを勘違いしていたんだわたしは……! 今までの努力は“中学生までのわたしが誰かに好かれるための努力”であって、高校生になれば当然その範疇からは外れてしまうんだ……!
がんばれひとり、がんばれっ。
そうだ、あれからはギターも、独り善がりのものじゃなくて誰かに寄り添えるものを目指して練習してきたんだ……! わたしなら出来る……がんばれひとり、わたしは孤独なひとりじゃなくて、誰かのために生きられる“何かの中のひとつ”って意味の“ひとり”なんだから……!
なんでこんな名前にしたのって訊ねた時のお父さんの顔、今でも忘れない。理由を知って、納得出来て、自分の名前が好きになって、胸を張って名乗れるようにって頑張ってきたんだ……! 足りないなら、もっと、もっとだ。
(わたしはわたしという個人じゃなくて、もっと大きな……なにかの中の一つなんだ。わたしには何かの意味があって……今はその何かがなんなのか分からなくても、きっといつか、分かるから……その時まで、後悔しないように努力を……!)
そう……これで終わってもいいと、そう願ってから始まった自分改革。それは今だって続いている。世の中には自分を裏切る努力がたくさんあるけど、その努力した結果で救われる何かが無いかって言ったらそんなことはなかった。
ぼっちであったから出来た努力があって、深く認知する人が居ないから、大きな自分改革の際に奇妙な正義感ややさしさで、“そんなことしないほうがいいよ、今のままでいいよ”なんて言う人も居なかった。
なら、これからだって進める。
誰に責任を押し付けるでもなく、わたしはわたし、後藤ひとりのままで、自分を育てる努力を続けられるんだ───!!
(……おい、なんか出された宿題もうやってるぞ……手の動き速ぇ!? 宿題をその日のうちにって聞いたことあるけど、休み時間に……? ……と思ったらノート閉じ……早ッ!? もう終わった!?)
(うそでしょ!? 結構多くなかった!?)
(お、俺……ちょっと教えてもらおっかな……)
(バッカやめときなさいよ! あんたなんかが教えてもらおうとしたって、どーせ分からないことだらけで迷惑かけるに決まってるんだから! 迷惑かけたくないなら静かに見てなさい!)
(グ、グゥムッ……!)
(はぁあ……! 今日も後藤さん綺麗……! お姉さまとか呼ばせてくれないかな……! 誕生日私の方が早いけど……!)
(いっつもああして努力してるんだよなー……最初は綺麗な人だなーって見てたけど、努力の量がエグくて、声かけるのも邪魔になるって思えてきちゃってなー……)
(そうそう。あ、私この前、掃除当番変わってあげてさ、笑顔もらっちゃったんだー! 友達と話したいことあるから、後藤さんは先に帰っていいよーって!)
(おおスゲェ。俺もさりげなく早く帰れるように影ながら手伝えること探してみっかな……)
(センセと話してて、一人暮らししてるって聞いちまった時はスゲェって思ったもんなぁ。きっといろいろな家庭の事情とかあるんだぜ?)
(やっぱりサポートは必要よね……みんな、これからも後藤さんに負担がかからないように、さりげなーく当番とか手伝ってあげるわよ)
(おっし、んじゃあ俺、こいつとセンセに言って、面倒な運びものとかこっちに回すように相談しとくわ)
(おっ、自分だけの手柄にしないとかやるじゃん)
(バレないように動きなさいよー? 気を使われてる~なんて気づかれたらきっと後藤さん、罪悪感とか感じちゃうタイプの人だから)
(わかってンョ、上手くやるって)
ぁあああああ……! なんだかわたしを中心に円を描くように遠巻きにされてる気が……! なんで……!? わたしなにかしてしまいましたか……!?
さりげなく、遊びに誘ってくれるように宿題とか終わらせて、ほらー、もう時間とか気にしないで遊べますよー、とかアピールしたつもりだったのに、なんかこっち見ながら溜め息吐いてるし……!(注:素晴らしい努力に見惚れているだけ)
はっ!? まさか勉強できますアピールがうざったらしかった……!? ちちち違うんですよ!? わたしはただ、みんなと一緒に青春を駆け抜けたかっただけで……!
掃除当番だってなんでかわたしだけ帰らせるし、残ったみんなは楽しそうに談笑してるし……これってわたしが居ると話が盛り上がらないからだよね!? 当番だからってどれだけ食い下がっても、みんなして”いーからいーから”ってわたしだけ教室から追い出して……お、おろ、おろろろろ……!!(イメージゲロイン)
(…………………………帰ろう)
あと一教科だけだけどもういいや、帰───いや! ここでそのまま帰るからいつまで経っても独りぼっちなんだ!
声を……そうッ、声をかけるんだ! わたしから! 一緒に遊びましょうって! あそっ…………遊びってどこに誘えば!? KARAOKE!? KAIGUI!? 何処にあるんですかそれ! どこで出来るんですかそれ! 誘った結果が下校時の買い食いがバレて厳重注意と処分が下されて、なんてことになったら友達作るどころではないのでは!?
アワワ……まずは校則を調べるところから始めないと……! ななななんなら先生に相談して、下校時にちょ~っぴり遊ぶくらい許されるか許可を得るところから……!
───……。
……。
相談した結果───なんか表彰されました。……ななななななんでぇええ!?
……。
───……。
ヨノナカガワカラナイ。
「はぁ……」
全校生徒の前で
わたしがそのタイミングで相談して、警備のつもりで見回りしていた教師(体育会系顧問マッチョ先生)が現場を押さえたことで、解決。ただ相談しただけならこんなことにはならなかったけど、わたしが心配のあまりねちっこく注意するべき点とかどんなところが先生方にとって、買い食いや遊ぶのに適しているのか、なんてことを訊ねまくった結果、『ああっ……この女子生徒はそんなにも我が校の生徒たちの安全と遊びの空間を心配して……!』なんてことになって、結果として捕まえちゃって、で……表彰されたみたいデス……。
「いやもう先生のお手柄でいいじゃないですか……わたしなにもしてないのに……」
普通、日陰ぼっちさんがああいう相談をしたら、相手は“しつこいなぁこの生徒……”とか“適当に誤魔化して乗り切ろう”とかまともに取り合わないものなんじゃないだろうか。なのに相談した先生はすごく真面目に、真正面から受け取ってくれたみたいで……意思を固める前のわたしが、どもりながら相談したら絶対にまともに取り合ってくれなかったに違いないのに……!
これが教師側から見た、優等生と劣等生の差なんだろうか……おそろしい世の中……! やっぱり世の中が分からない……!
「はぁ……結果として誰かを救えたなら、一応ヒーローっぽくはなれたのかな……。うん、そうだ、学校側が表彰してくれるくらい、誰かが喜んでくれたんなら……うん、わたしが
一人公園で、ギターを弾く。タイトルは
突然ギターを弾き始めた所為で、なんかベンチに座ろうとしてたサラリマン風の男の人がビクゥと肩を弾かせてこっちを見た。
はい、どうか聞いていってください、この悲しみを。ええはい、べつに誰かが死んだわけでもありません。エレジーの意味にいろいろ含みがあっても、そんなことはありません。わたしの心は死にそうですが。
───……。
真心を込めて弾いた。音楽に嘘はつけないので、真っ直ぐに、たとえ即興で適当に、なんてお題だとしても、ただひたすらに全力で。
すると、サラリマンなその人はいつの間にか来ていた奥さんと娘さんと拍手をくれて、一方で……
「あ、あわ、あわわわわ……!? ま、まさか……まままさか……いやでもあの心に響く、寄り添いたいって気持ちが全面に押し出された音は……!」
……これまたいつの間に来ていたのか、金髪の女の子がハワハワと震えながら、ゆっくりとこちらにうわなんか急に走ってきた!!
「ああぁああのっ! ねぇっ! ももももももしかしてっ! だけどっ!」
「……? はい……どうしました?」
首を傾げつつ返すと、その人は深呼吸をしてから、
「もしかしてっ……ギターヒーローさんですか!?」
───。
……エ?
「ぁの」
「やっぱり! そのギター! 綺麗な桃色の髪に、それを横で結わうのはたまに机に置かれていたキューブ型のゴム!」
うわあめっちゃ知られてる……! これは誤魔化すとか絶対無理なやつだ……ていうかむしろわたし、あんまりにも周囲に距離を取られるもんだから、気づけるなら気づいてくれって気持ちも相まって、結構身バレスレスレで動画投稿とかしてたからなぁああ……!
「おおおやっぱりギターギーローさんだ! ファファファファンです! いっつも動画で癒されてます!」
「えぇえっ!?」
横から興奮気味のサラリーマン風の男性が、鼻息も荒くファファファファン宣言してきた。なんだろうファファファファンって。どこぞのちんゆーさんのファンファン的存在?
「きゃああきゃあああ! 見て見てあなた! 動画見ててきっと綺麗な人だろうなーって思ってたけどヤバいくらいカワイイー!!」
「だよな! 俺も思った! むしろ先にこのお嬢ちゃんが声かけてなけりゃ、声かけるとか絶対無理!」
「わー! ほんとだー! おねーちゃんキレー!」
気づけばブランコに座ってギターを構えていたわたし包囲網が完成していた。
絵に描いたような幸せ家族の突然の凸に、金髪少女さんも結構戸惑ってる……けど、なにやら焦った様子でハッとすると、わたしの前でスッパァンって手を合わせてきた。
「ごめんなさいっ! 急でほんっとに申し訳ないんだけどっ! どうか私たちのバンドを助けて欲しいんだよ!」
「───!」
言われて、乞われて、躊躇はなかった。
助けて、と言われてすぐに動けず、なにがヒーローだって……あの頃に生まれ変わったわたしの心が叫んだから。
「行きましょうっ!」
「今日ライブ予定えぇええ!? いいのっ!?」
「はいっ! ここで動けなきゃ、ヒーローなんて名乗れませんから!」
「ほわぁああ……!! じゃ、じゃあついてきてください! っとと、私、下北沢高校2年、伊地知虹夏っていいますっ」
「2年生!? 先輩!? けけけ敬語とかいいですごめんなさい! 秀華高校1年、後藤ひとりです!」
「わっ、大人びた雰囲気だから年上かと思ってたよ! じゃあよろしくね! ひとりちゃん!」
「(いきなり名前呼び!?うわわわわわぐいぐい来る人だなぁあ……!)は、はい、よろしくお願いします」
「……で、ひとりちゃん? なんで返事しながら素早い手つきでサイン書いたりしてるのかな?」
「…………はっ!? 身体が勝手に!?」
「無意識だったの!?」
言われて初めて気が付いた! なんか求められるままに差し出された手帳にギターヒーロー名義のサインを!? しかも練習した甲斐があったなぁってくらい美麗なサインが出来ちゃってるー!?
「よっしゃああ! 英雄ギタリストのレアサインゲットォゥ!!」
「もう家宝にしちゃいましょ! ね、あなたっ!」
「おねーちゃんばいばーい!」
「はい、これからも応援よろしくお願いしますね」
笑顔で手を振って、さあいざ伊地知先輩とともに───!!
「うわー……配信者の顔してた。えっと、有名配信者の邪魔してあれだけど、もう移動開始しちゃっていいかな」
「はっ!? ごごごめんなさい! 普段はバレることなんてないんですけど、わたしもどう対応したらいいかで目が回って……! 有名配信者の対応をコピーしてみたらあんな感じになりましたですはい……!」
「いやひとりちゃんも十二分に有名配信者だよね!? ていうか私がこんな気安く声かけていいのかって恐縮するくらい……ていうかごめんね、私が騒がなきゃ、サインが~とか無かったんだった。ほんと、ごめんなさい」
「あ、や、それはいいんですけど……」
もしバレたら~とか考えながら対応の練習もしてた、なんて言えない……! 有名配信者の真似で乗り切った? そんな馬鹿な。その物真似だって、何度も練習しなきゃ出来るわけがないじゃないか。あああああ恥ずかし恥ずかし恥ずかし恥ずかしぃいい!!
(……? なんで急に頭振り出したんだろ、ギターヒーローさん。……わっ、なんかめっちゃくちゃいい匂いがするっ! なにこれ、髪の匂い!? ……ふわあああ……改めて見ても綺麗と可愛いが見事に混ざった人だなぁあ……! 声も透き通ってる感じだし、歩き方も綺麗……服は、あれ? 喜多ちゃんと一緒の服……って、秀華高校って言ってたもんね、そりゃそっか)
(……? な、なんか伊地知先輩がわたしに向けてお鼻をスンスンって……まさか恐れていた口臭が!? あ、いや、それは大丈夫だった筈だし……)
考えることはいろいろあったけど、話題の宝物庫みたいな伊地知先輩にいろんな話題を振られながら、目的地である……すたーりぃ? 目指して、歩き続けた。……急いでたっぽいのに、走らなくていいのかな。
そんな疑問も、ちょっぴり急ぎ足風になった彼女から聞く話を耳にするに到り、事情も知らないまま参加っていうのもなるほど、不安になるからこその、お互いのことを知るための時間だったんだなーって納得できた。
……それにしても、当日に逃げたっていうギターボーカルさん。ロックなことしてるなぁ。
……。
そんなこんなでスターリィ。STARRYって書くらしい。見るまではなんとなく、頭の中でチョビヒゲで悲し気な顔の閣下が叫びながら手を振るってたけど、あれはスターリンだった。あ、いや、閣下がって意味じゃなくて。
「あ……なんか暗くて落ち着く……」
ここ、私の家───じゃ、ありませんね。落ち着きましょう。
ぼっち、寄り添い……リードギターにて最強。そんな姿を幻視しました。