凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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途中で雑念が入ったのでボツにしたもの。
や、内容自体は嫌いじゃないんですけどね。


剥ぎ取り名人さん

 大切な仲間だ~とか、幼馴染同士が集まったパーティーだとか。そういうやつらが才能のひとつをきっかけに歪んでいく物語に、ひどく心を痛めた記憶がある。

 なんだそりゃって思った。そんなもんなのかよって、気づけば小さくこぼしていた。

 勝手な言い分なのは分かってるけど、信じたかったんだ。

 友情とか信頼とかそういうものは本当にあって、創作物にあるような『才能』だの『祝福』だのといったものに恵まれなくても生き続けてくれるんだって。

 

  でも……多くの場合は裏切られる。

 

 ざまぁ、って言葉を聞くようになってからは、そりゃあもうひどいもんだった。

 わざとなのかっていうくらい主人公の周りにはひどい人しか居なくて、そんなやつらの中でどうやってお前みたいなのが育ったんだってツッコミたくなるくらいには、人のいい主人公ばっかりで。

 でも───確かに、主人公の才能や祝福が発覚するまでは、周囲は『いい人』で溢れていた。

 

(祝福の儀なんて、無ければよかったのに)

 

 そんなことを思い返しながら順番待ちをしている俺は、今年で御年10歳になる女の子。名前は───

 

「次。ティア・オーファ、前へ」

「はい」

 

 ティア・オーファ。わたしの名前。

 田舎すぎず都会すぎない村に産まれ、家族にも友達にも恵まれた、今のところはひどい話のひの字もない女の子。

 創作物がどうの~のくだりから分かるの通り、前世の記憶があったりする。

 といってもわたし自身の記憶なんて、かなり偏ったものでしかなく、あるのはこういう文明や物語があったんじゃよ、程度の知識とか……他には漫画やゲームとか……うん、なんでこういう転生とかするヤツってオタ知識豊富なヤツが多いんだろうね。

 ただまあ、前世と言っていいのかも、ただそんな妄想が頭を占めているだけなのかも、いまいちパッとしない有様だ。だからいいのだ。頭に存在するなら、本で読んだ前世の記憶って言葉を使ってみたかった背伸びちゃんが、顔を出しただけなのかもだし。

 ……でもさ、分かるだろ? こういう祝福だとか恩恵だとかの儀式がある世界線での転生者って、さげすまされてれば逆転して、仲が良ければ見下されるような祝福とかを得るもんだ。

 俺……わたしは、家族に恵まれてる。本当にいい家族なんだ。

 そんな人たちに見下されたり馬鹿にされたりするのは……正直、辛すぎる。

 だから、こんな儀式なんか無ければよかったのにと思ってしまう。

 

「神により、ティア・オーファに授けられる祝福は───」

「………」

 

 祭壇前の神父の前に屈み、祈るように指を組み、目を閉じる。

 すると、目を閉じているにも関わらず瞼の裏が明るさに溢れていき、その眩しさがやさしくなった時、瞼の裏に文字が浮かんだ。

 

  剥ぎ取り名人

 

 ほえ? と……思わず声が漏れそうになった。

 

「───剥ぎ取り名人です」

「ほえ?」

 

 ……漏れた。

 瞼の裏に現れた文字を、神父に改めて言われて戸惑った。

 ハギッ……剥ぎ取り名人……? 剥ぎ取りって……エ?

 

「あ、あの、神父様、剥ぎ取り名人って───」

「次。サヴィーヌ・アノレマフ、前へ」

「はい」

「あー……」

 

 神父も仕事中だ。剥ぎ取り名人ってなんぞー!? なんて、しつこく訊けるわけもなし。わたしはシスターさんに促されるままに立ち上がり、教会をあとにした。

 

 

───……。

 

……。

 

 祝福の儀は、その年に10歳になる者が居る場合、その者の誕生日に執り行われる。

 存在しない場所もあるものの、この世界にはほぼといっていいほど、村にも町にも教会が存在する。そこで、神の声が聞ける神父を介して祝福が与えられる~って、そういうお話。

 そんな、田舎でも都会でもないこの村で、しっかりと祝福を得たわたしことティアさんはというと。

 

「ぬ、ぬう……剥ぎ取り名人……」

 

 絶賛、解説してくれる人を大募集していた。

 や、わたしの前世の記憶(だと思う)が『剥ぎ取り名人といえばモ〇ハンしかねーべさー!』と叫んでいるんだけど。なにさモ〇ハンって。

 おかしいな、前世の記憶(かも)だと、今言った言葉*1を誰かが聞けば、いろいろと解説してくれるっぽいのに。家族に聞かせたところで誰も答えちゃくれなかったです。

 

「剥ぎ取り名人か……かあさん、聞いたことあるかい?」

「いいえ私も……」

「ぼくもー」

「ミネもー!」

 

 お父さんとお母さん、弟のラシェルと妹のミネも、聞いたことはないと首を横に振る。その中で、腕を組んで目を閉じ、首を傾げながら考え込んでいるお父さんがぽろりとこぼす。

 

「剥ぎ取り、といったら……その。山賊とかが商人の馬車を囲って……とか?」

 

 父。それ追剥(おいはぎ)や。おい父。おい。本当に疑われそうだからおやめください父。

 わたしついさっきまで教会の儀式中に、家族やお友達の仲がざまぁの所為で~とか考えてたんですよ!? おやめください父てめぇ!

 

「そんなのでどう名人になれっていうの。仲間が居ること前提とか聞いたことないよ、お父さん」

「そんなことないだろ。父さんの祝福だって『友愛の祝福』っていって、自分にかかるプラス能力が仲間全体に広がる~ってものなんだ。使うって意識しなけりゃ効果はないけど、幸せを噛み締めてる時とかに使えば周りも幸せになるし、強化魔法なんかを俺に使えばパーティー全体の効果として広がる。仲間が居る前提の祝福だぞぅ?」

「そうだとしても。娘の祝福に対して追剥を疑うとか親としてどうなの、あなた」

 

 苦笑しながら説明する父の後ろにコメカミを静かに躍動させつつ低い声で言う母。

 父はびくりと肩を弾かせ、慌てて声を上げた。

 

「い、いやっ、疑ったってわけじゃなくてだなっ! もしあまりよくないものなら、なにかしら対策とか考えられないもんかと───!」

「おとーさん。この祝福、たぶんだけどそんな悪いものじゃないよ。ほら、狩猟したあととか、動物とかの皮を剥ぐとかそういうのが上手くなる~とかだと思うよ」

「や、そりゃもちろん俺だってそうだろうなって思ったけどな。……名人とか、祝福でわざわざもらわなくても、剥ぎ取りくらい慣れれば上手く出来るもんだろ?」

 

 ごもっとも。だからわたしも首を傾げたのだ。

 ある日祝福で『ボールペン二級』とかもらったって、そんなもの練習すればどうにもでもなるってもんだ。なのに剥ぎ取り名人。名人とはいったい……?

 

  なので。

 

 てん。

 お台所のGODである母に許可を得て、まな板の上の鶏肉を前に、包丁をムンと構える。ごめん嘘です。なんか知らんけどDIOナイフで持ってる。*2

 ……ふざけてると怒られそうなので、ともかくいざ実践!

 

「祝福、《剥ぎ取り名人》……!」

 

 包丁を鶏肉に当てて、祝福を発動させてみる。

 うしろではきっと、父と母、弟と妹が、どこかわくわくするような顔でわたしの背中を見ているに違いない───!!

 

「………」

「………」

 

 ……。

 しかしなにもおこらなかった!

 

「あ、あーのー……お父さん? お母さん? そもそも祝福って、どうすれば使えるのでせう……?」

「? 使うー、使いたいーって意識すれば、普通に使えるはずだぞ?」

「そうよ? 慣れれば手を動かすのと同じくらいの感覚で出来るはずだけど……ティア? もしかして、出来ないの?」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 いけません。この流れはたいへんによろしくない。

 これあれでしょ、スキルがあるのに使い方が分からなくて、もしくはその能力の真価が分からない所為で上手く使えなくて、要らないもの扱いされるアレなアレでしょ。

 ならばどうするか。……いまこそ現代知識無双のお時間でしょう!

 さあ想定できる行動の全てを以って、わたしの祝福はゴミ祝福ではないと証明するのです!

 そうじゃないと父母はべつとして、弟と妹から『できねーでやんのだっせー』的な視線をいただくハメになってしまうに違いない……!

 なにをいうんですかダサくないですよ! そう思ってしまうあなたの心こそがダサいのです!

 というわけで───

 

「あー……」

 

 というわけでもなにも。前世もどきさんが脳内で叫んでいたじゃあないですか。剥ぎ取り名人といったらモ〇ハンだって。

 じゃあモンスターをハントして、そのモンスターから剥ぎ取りをしなければ意味がないのでは?

 

「お父さん、お母さん。この祝福、魔物を倒したあとに剥ぎ取りじゃないと、意味ないかもしれない……」

「「………………え"?」」

 

 随分と濁った『え?』だった。

 

……。

 

 そんなわけで、ある晴れた昼下がり、市場へは続かない村の外の道。

 わたしはお父さんとお母さんに手伝ってもらって、魔物をハントしてもらってい───

 

(フン)ッ!!」

『ピュギュッ!?』

 

 ───……たんですけど。珍しいこと、外に出た途端に襲い掛かって来た一匹のスライムが、母が繰り出した拳で息を引き取った。

 

「………」

「………」

 

 わたしとお父さん、穏やかなる笑顔でそれを見守ることしか出来ませんでした。

 

「ティアー? 剥ぎ取りって、スライムでも出来そうー?」

「ヒェァッ……!? チョ、チョットマッテ……!」

 

 核を破壊され、ヌボチャアと粘性のある液体となって地面に落ちたスライムに駆け寄り、早速祝福の発動を願ってみる。

 と、鶏肉の時とは違って今度はちゃんと発動したようで……スライムに触れると、なにかを掴むような感触があって、それを引き寄せるようにすると、

 

  ピピンッ♪ 《スライムゼリー(高品質)を入手した!》

 

 ピピンッて高い音のあとに、なんか目の前に入手を報せる半透明の……なに? ウ、ウィンドウっていうの? が、出て来た。

 現代知識ないと分からないぞこんなの。

 

「………」

 

 ハテ? なんだろう、既に素材を取ったはずのスライムなのに、塵にならない。

 魔物は討伐して素材を採取するか、時間が経過したら塵になるはずなのに。

 お父さんもお母さんも小首を傾げてる。ので、ちょっと試すつもりでもう一度触れてみると、再びスライムゼリーを入手できた。しかもまた高品質。

 

「……かーさん。これは」

「ええあなた。これはあれね」

 

 お父さんとお母さん、そして脳内知識は胸を張ってこう言った。

 『剥ぎ取り回数+1だ!』と。

 なお、品質に関してはとても綺麗に剥ぎ取れる模様。

 だってスライム、母の拳で粉砕に近いかたちだったのに、高品質のゼリーが取れるとかどうかしてるもん。

 

「よぉっし今日は兎のシチューよ! あなた! 兎追い込むの手伝って!」

「アイサー! いくぞティア! 今日はお前に狩りの仕方をみっちり教えてやるからなー!」

「父と母が現金だった!」

「ばか言えぇ! 腹いっぱい、かーさんの料理が食いたいだけだ! お前はどうだぁ!?」

「え? あ、うん。そりゃあ食べたい……食べたいね! うん!」

「よっしゃあならいくぞエイオー!」

「エイオー!!」

 

 基本、我が家はノリがいい方である。

 母が駆け、父とわたしはエイオーと手を叩き合わせてガッツを入れる。

 そうしてあの手この手で兎の巣を発見、追い詰め、仕留めたからには丁寧に剥ぎ取りをしましょうってもんで。

 

「……あ。お母さん、素手じゃ動物は剥ぎ取れないって」

「あらそう? 私は出来るけど……いいわ、あなた、ナイフ持ってるでしょ?」

「あるけど。さらっと素手で解体出来るとか言わないで? 怖いよ?」

 

 母はツヨシ。もとい強し。母の名前がツヨシなわけじゃないので気にしない方向で。

 

「わっ……」

 

 ともあれナイフを受け取ると、どこにどう刃を通せば綺麗に剥ぎ取れるのか、が浮かんでくる。そして、体はその通りに動けるってもんで、これはかなり面白い。

 あ、でも……

 

「ごめん、お父さん。切れ味が悪いから、品質落ちちゃうかもしれない」

 

 当たり前のことだけど、一応事実みたいなので伝えておいた。ら、母の目がヌゥン……と赤く光り、夜道のバイクのテールランプのように赤い軌跡を走らせながら、父を見た。

 

「……あなた」

「手入れ怠ってごめんなさいっ!?」

 

 よい素材が採れるって思った矢先に『品質落ちます』とか言われたら、そりゃ怒るよねって話。

 まあ、しょーがない。いくら名人でも、なまくらで綺麗に捌くことは出来ないってことだ。

 おもちゃのナイフでものは切れないのと同じだ。

 わたしは剥ぎ取りの名人なのであって、刀剣などの匠の技士ではないのです。

 達人なら葉っぱで肉を切るとか出来るかもだけど、そもそも土俵とかそのー……す、住み分け? が違うってもんですね。

 

「ん……」

 

 ともあれ、それでも集中して剥ぎ取る。

 出来るだけ丁寧に、祝福のアシストをなぞるように。

 すると高品質には劣るものの、品質・良の兎肉が手に入った。しかも×2で。

 そんな謎状況を前に、頭の上にクエスチョンマークを浮かべた父と母は、顎に拳をあてて首を傾げていた。

 

「すっげぇえええなこれ……」

「えぇええ……? 一匹なのに兎肉が二つって……え? じっと見てたのになんか分裂でもした……?」

 

 兎を解体した。……ら、取れた肉が二つになってた。なにこれ。

 前世さんが思う異世界物語の瞬時に解体、アイテムボックスに移動~とかそんなものもなく、丁寧に自分で解体……したのになんか二つに増えてた。

 率直に言ってホラーです。

 ほら見てくださいよ、アイテム素材『うさぎの皮』が、×2なんですよ。

 中身がないだけでしっかり兎の皮なのに、一匹の兎からなんか二つ手に入りましたよ。これがホラーじゃなくてなんだってんですかってんですか。すいません混乱してます。

 

「………」

「ま、まあ! 少しの労力で二倍美味しいってことで!」

「ふふっ、私はもう切り替えたわよ。子供も多いし、言ってはなんだけどとっても助かる祝福よ。こんな風に頼ってごめんだけど、ティア───その」

「ん、だいじょうぶ。わたしもこういうことで手伝えるなら、いくらでも頑張れるから」

「ありがとう、ティア。───さ、というわけであなた」

「ああ。娘にいきなり生き物の剥ぎ取りやらせたんだ、しかも娘がそれをきっちり受け入れて、むしろ頑張れるって言ってくれてる。張り切らないわけにゃあいかんだろっ! ……あ、ティア? 気持ち悪くなったり疲れたりしたらすぐ言うんだぞ?」

「大丈夫。それより……他に切れ味のいいナイフとかってないかな」

「この娘ちゃっかりしてる!!」

 

 お父さんの驚きもどこぞに、笑うお母さんに連れられて、わたしたちは村の金物屋*3へと向かうのでした。

 

……。

 

 その後。

 

「いいなーねーちゃん。俺も行きたかったー」

「ミネもー!」

「ふふっ……早く大人におなり……」

「うわっ、なんかねーちゃんがすっげーむかつく顔してる……!」

「おねーちゃん、そんな顔しちゃめーなの!」

「ひどいですねキミ!」

 

 あれから疲れ果てるまで狩りをして、我が家のお食事事情が安定に向かったあたりで帰宅。きっちり血を流したのち、わたしは祝福授与記念に買ってもらった剥ぎ取りナイフを手に、ニヨニヨが止まらないでいた。

 当然そんなことになれば、弟も妹もなんぞなんぞと寄ってくるわけで……経緯を訊いてきて、この始末。

 けれども、楽しいことが家族のお腹や健康の幸福に繋がることに、なにを我慢する必要がございましゃう。わたしはこの剥ぎ取りナイフのハギーさん(命名:わたし)を武器に、地道ながらも少しお得な人生を歩むのだ───!!

 

  ───と、いうわけで。

 

 その日から、父と母に時間がある時は同行してもらい、経験を積むこととなった。

 まずは基本の準備運動と、それが終われば戦いにおける体の動かし方や、戦闘は基本的に『避けて当てる』の繰り返しであることを教わる。

 

「がっつり防御して反撃、とかじゃないんだね」

「まあパーティーを組んでいて、味方に盾役が居ればそれもアリだ。けど、一人で戦う上に防御職じゃないなら、基本は避けること。大した力もない内から一人で防御して攻撃に移って~なんてやってたら、腕が使い物にならなくなるぞ?」

「あー……」

 

 なるほど納得。

 次に、利用できるものはなんでも利用することを教わる。

 

「えっと、たとえば?」

「相手が小型の魔物なら、いっそ掴んで地面に叩きつける、とかもありだ。岩目掛けてブン投げるってのも有効だな」

「うわぁ……」

 

 な、なるほど納得……? そりゃ死んだら元も子もないもんね。

 

「あとはとにかく死なないこと。無様だろうと生きること最優先だ。その際、地面の砂を魔物の目にブチ当てて目潰しも全然アリ。いいか? 俺達がやってるのはお行儀のいい試合とかじゃなく、いわば殺し合いだ。生き残らなけりゃ意味がない。それは相手だって同じ気持ちだ」

「うん」

「兎だろうと糧として食料にするってんなら、俺達だって命を賭す覚悟を持つこと。俺が、俺のじっさまから教えられたことだ。俺の場合、兎追ってる時はこれっぽっちも自覚出来なかったことだけどな、いざ獲物をイノシシに変えた途端に理解できたことだ。命を頂くなら、命を懸けろ。心構えってものを教えるとしたら、まあこんなところだな」

「………」

 

 なるほど納得。

 つまり、死にたくないなら最後まで抗えってことだ。

 

「ところでお父さん。お母さんって元々なにしてたの?」

「ん? 冒険者やってたぞ? 殴拳(おうけん)のメアリアといったら、なかなかに名が通った冒険者でな」

「へぇえええ……想像つかないや。あ、ちなみにお父さんは?」

「俺は村で農家の息子やってたぞ?」

「………」

「?」

 

 そんな二人がどう出会ってどう結ばれたのか。

 気になったけど、教えてはくれませんでした。

 

……。

 

 地道な日々は過ぎていく。

 

「うふふふふ、ティアのお陰で食事事情が随分改善されたわー♪ なによりティアが魔物討伐に乗り気なのが嬉しい。家のためとはいえ、魔物を狩ってこいーとか体を鍛えなさいーとか言いたくないからね」

「まあ、うん。もっといろいろ知りたいし、体は鍛えておいて損はないと思うから。それに、弟と妹にかつてないほど喜ばれちゃうと……いまさらやめる~とか言い出せないよ……」

「やめたくなったらいつでも言ってくれていいのよ? ラシェルとミネには私から言っておくから」

「なんて?」

「“出される食事に文句言いたいなら、自分で魔物や動物を狩って、剥ぎ取ってから言ってみなさい”」

「………」

「さ、というわけでティアにはもっともっと力つけてもらわないとっ♪ おかーさんの故郷に伝わる肉体強化の神髄を、みっちり教え込んであげるからねー? というわけで、さあさっ❤ お肉食べなさいお肉っ♪」

「イ、イエスマム……」

 

 一日、三日、一週間、一ヶ月と月日が流れていくと、さすがに体も作られ、状況にも慣れてくるってもんで───

 

「腰に溜めて、標的に目掛けてまっすぐ───正拳!」

『ギチュウッ!?』

「うんお見事っ! ラビット系の魔物はなんでか馬鹿正直に飛びかかって襲ってくるから、当てるなら自分から追うんじゃなくてカウンターが一番なの。ホーンラビットみたいな額に角のある魔物とかはちょっと難しいかもだけど……」

「あの、おかあさん? 拳で戦うこと大前提で話し進めるのやめない……?」

「刃こぼれしようと武器を落とそうと、常に己にある武器。それをなにより鍛えなくてどーするの。魔力を込めれば斬ることだって出来るんだから、育てておいて損はないのよー?」

「あの。そんな世間話するみたいに頬に手ぇ当てながら小首傾げて、ズパーンって木を両断するの、やめてもらえますか? ───あ、レベル上がった」

「あら、若いトレントだったみたいね。試し切りで死んじゃうなんて、よっぽど弱ってたのかしら」

「(絶対違う───!!)」

「ともあれ、おめでとうティア。レベルアップでは基本的にどの数値があがるかは運任せなんだけど、そんなこと関係ないくらいにレベルを上げればいろいろ怖くなくなるから、頑張るのよ」

「…………(宅の母が脳筋すぎる───ッツ!!)」

 

 おまけに魔物を倒すことでレベルも上がるらしく、気づけばわたしは村の周囲の魔物くらいなら、自分だけでも倒せるようになっていた。

 

「うおおおおおーっ!」

『グヒーッ!』

「ズオリャアアーッ!!」

『グヒーッ!』

「違う違う、違うわよティアー? 猪はちゃあんと、額を狙って穿つのよー?」

「簡単に言ってくれますねこの母! だわぁああっと!?」

『グヒーッ!!』

「ええいグヒグヒやかましいですよ猪突猛進! 散々殴られて鼻血出してるくせに! わたしにもっと力がついたら、次はキン肉バスターで一発で───あ、お、おわーっ!?」

「あらら……ティアー? 猪相手に倒れると危ないわよー?」

「倒れたら倒れたでっ……! やってくること変わらないからっ、これはこれで分かりやすいからっ……! こぉんのぉおっ!!」

『グビュウッ!?』

「わははははどうだ見ましたか! これぞ身体能力強化で全身をバネにつかった蹴り奥義! 超烈破弾!」

『グヒーッ!!』

「あわわ大して効いてなキャーッ!? 母ーっ!? 母ヘルプたすけてぇえええっ!」

「もう……額を狙いなさいってあんなに言ったのに……」

 

 もちろん親の監視アリでの話で、危なくなったら助けてもらって。

 

「今日はお父さん、お仕事だっけ」

「うんそう。おかーさんも明日は仕事だから、そろそろティアの鍛錬も仕上げに入りたいのよね」

「この上さらに叩き込むと申すか」

「基本が出来るまで早かったけど、もうちょっと経験積ませたいのは親心ってやつよ。私の時なんて基本出来たらとっとと出てけ、だったんだから。突然言われて、わけも分からないまま嫌だ嫌だって言ってたら、大森林に置き去りにされてねー。さすがに死を予感したわね」

「……(母の親族に会いに行くのだけは絶対にやめとこう)」

「ま、そんな絶望と正存競争の果てに辿り着いたのがおとーさんの居た山奥の農家でね。あの人はその時のこと覚えてないみたいだけど、命の恩人なの。地獄から救ってくれた時からすっかり心奪われちゃって」

「あ……教えてって言っても教えてくれなかったのに、自分がノロケたくなったら言っちゃうんだ……」

「大森林を必死で生きて、野生児同然だった状態から持ち直した私は、農家に作物を買い付けにくる商人の馬車に乗らせてもらって王都に出てね。そこで冒険者を始めて、力をつけてったってわけ」

「で、名前も売れてお金も増えたから、お父さんにプロポーズしに行ったの?」

「ううん? お父さんの農家を襲ったはぐれワイバーンを撃退、または討伐って依頼が来てね? お母さんブチギレちゃって、直で向かって殴殺して、それをきっかけに告白されたの」

なんで!?

「さ、たっぷり惚気たところで今日も狩猟頑張るわよー? 猪もいけたから、軽い魔物くらい楽勝楽勝。魔猪(まちょ)は厳しいかもだけど、調整が終わればきっといけるから。大丈夫大丈夫、危なくなったらおかーさんが助けるから!」

「へっ!? やっ、ちょっ、心の準備───がああああ! 痛ッイイ! 折れるぅ~!! 腕腕腕! 変な感じで掴まないでギャオアーッ!!」

 

 でも、そんなことをしてもらっていたのは5年も前のお話。

 ある程度レベルが上がってからはわたし一人でも村の外に出ることを許可され、わたしは「わーいぼく自由だー!」と、誰ぞが望んだ永遠のどこぞの最低なる男のように大自然をスキップで駆けていた。

 そんな時に森の茂みから飛び出た大きな鳥型の魔物が、

 

爆魔龍神脚!

『コケェエエエーッ!?』

 

 スキップのその勢いのままに繰り出された鋭い膝蹴りによって、バキベキゴロゴロズシャーアー! と転がり滑っていった。

 スキップすごい……! お母さんが『勢いを付ければいつでも攻撃に移れる』と言っていただけのことはある……! もちろんタイミングと距離も大事だけど。

 

  というわけで、話はようやく現在だ。

 

 そう、単独での狩りが許可されて、強いと感じた魔物からはとっとと逃げること、と忠告された上での現在。日々を格闘漬けで過ごしたこのティア・オーファは、格闘スキルだけならそこいらの冒険者にも負けないくらいに成長していた。

 筋肉だってそれなりについたし、レベルアップでのSTRの成長も手伝って、もはやそうそう負けはないと自負したいお年頃……!

 それでもやっぱり魔物を一撃で、とはいかない。

 ふらふらしながらも起き上がった魔鶏(まけい)は、トサカをピンと立てて襲い掛かってきたのだ。

 ……向かってきてくれるなんて、なんとありがたい!

 

フン……ッ!!

 

 一歩を踏み込み、クチバシ攻撃へ向けて右手を伸ばし、クチバシではなく頬へと掌底。一撃で魔物の勢いを抑え、掌底のために伸びた右腕を発射台に、魔力を込めた左手をミサイルと化し、一気に発射。

 インパクトの際に回転させて広げた掌が、風を引き裂いて鶏の顔面をクチバシごと破壊した。

 

「……ご立派なお筆で、でっかく“劈”って書いてやりたい威力ですね」

 

 からくりサーカス見てなければこんなのやろうだなんて思わなかった技。

 つんざくこぶし、と書いて劈拳(へきけん)と書いて読みます。

 母に内緒で何度も何度も練習して、5年かかってようやく劈拳と、次いで崩拳修得しました。

 他の形意拳とか崩拳以外無理だったよ。

 なんで無理か分かるのかって、だってスキルに劈拳だけあるんだもの。

 梁師父の説明にあった型を思い出しながら三体式から五行拳までを練習して、スキル項目に劈拳だけグレー文字で出てさ? 剥ぎ取りはしっかり黒文字だったのに、グレー文字のものは使えないとくる。

 

 だから練習しましたさ鍛錬しましたさ錬磨しまくりましたさ。

 修得メーターがMAXになった時、ようやくレベル1状態で修得できたんだ、つまりわたしは形意拳では劈と崩しか覚えられる可能性がなかったし、他は剥ぎ取りの祝福関連スキルと、母から習ったサバイバル術と格闘スキルくらいだ。

 女子力死んでますね。いっそ笑ってください。

 

「マスターが劈拳だけって……はぁああ……」

 

 なお、レベルは5まであって、レベル毎に説明が違ったりした。

 レベル1:三体式より踏み込み、体重移動による内巻きからの叩きつける打撃

 レベル2:三体式より踏み込み、内巻きに鎚で叩くような打撃

 レベル3:三体式より踏み込み、コンパクトに斧を振り下ろすような回転片手打撃

 レベル4:三体式より踏み込み、伸ばした手を軸にした振り下ろし回転打撃

 レベル5:重心移動と魔力コントロールを完全とした回転掌打

 

 そのまま殴るんじゃなく、発射されたミサイルが上空から落下するように掌打に変わるのが劈拳の不思議なところです。

 ちなみに崩拳は劈拳マスターしたら項目に出て来た。グレー文字で。泣くぞこの野郎。一応修得はしたけど、まだまだレベルは3程度。

 もちろんここらの魔物にならフツーに効くし、カウンターの劈、攻勢の崩、って感じで役には立ってるんだけどね。

 はぁ……崩拳マスターしたら他の技も出るんだろうか。なんか出なさそう。

 

「ま、そんなことより剥ぎ取り剥ぎ取り」

 

 魔鶏の素材は魔鶏の肉が主。RPGとかであるような魔物素材とか、モンハンであるような部位素材なんてほぼ取れない。

 なんでかなー、なんて思いつつ、もう剥ぎ取り剥ぎ取り5年以上だ。

 なにか思考パターンとかで変わったりするんだろうか。

 たとえばー……

 

「お肉が欲しい、暮らしを豊かにしたい~とか考えて剥ぎ取るから肉類ばっか出るとか? じゃあー……魔鶏から獲れる中でも最もレアな素材が欲しいですッッ……!」

 

 強く強く想って、はい剥ぎ剥ぎ~♪

 

  ピュキィンッ♪ 《魔鶏ニワットルの虹色羽を手に入れた!》

 

「………」

 

 ……………。

 

「おわーっ!?」

 

 え? ええ、えああええっ!? 虹色羽!? なにそれ!

 ここ5年の中でこんなの手に入れたことない! え!? もしかしてほんとに!? 考え方ひとつで!?

 

「い、いや待て、落ち着くんだわたし……! 剥ぎ取り回数+1の恩恵で、まだあと一回剥ぎ取れるんだから……!」

 

 そのまま、レアを求めながら剥ぎ取ってみる。……と、やっぱり虹色羽。

 

「───」

 

 うむ。価値がどんなものかすら分からぬ。

 これはあれだね。他の魔物で試してみるしかないね!

 

「というわけで魔兎どこじゃウラァーッ!!」

 

 二回剥いだことで塵になって消えた魔鶏を見届け、走って魔物な兎を求めた。

 もちろん対象は魔物の兎じゃなくて普通のでもいいんだろうけど、レアを求めるなら魔物の方がわかりやすいと思ったから……探した。

 

「ガッデェエエーム!!」

 

 が、こういう時に限って見つからないのが物欲センサーってものでして。

 ドシームと木に劈拳をブチ当てつつ鬱憤を晴らし、どしゃどしゃ落ちてくる木の実を目に、溜め息を───

 

「あら」

 

 ───吐きつつ、ハテ、と。

 考えることで剥ぎ取りが変化するなら、木の実や素材などならどうなのだろう。

 あれも一応剥ぎ取りナイフで採ったりするし。

 剥ぎ取り、であるなら案外……?

 あ、最初の祝福受け取ったばっかりの頃のように、既に素材になっているものからは剥ぎ取れませぬ。処理された鶏肉はどこまでいっても鶏肉です。

 が、でごぜーます。落ちた木の実は果肉と皮と種とに分けることが出来る……つまり剥ぎ取れるのです。ではではでーは?

 

「………」

 

 思い立ったらってやつでござーます。

 適当な皮のシヴい果実を発見、それをきっちり能力を意識して切り採り、そのまま解体作業。

 するとどうでしょう。

 

  ピピンッ♪ 《渋皮の赤い果実の種(上級品)を手に入れた!》

 

 なんと素晴らしい品質の種が採れるではないですか!

 試しに祝福を発動せずに採ってみたら、普通の品質の種しか取れなかった。同じ果実から採ったのに……ッッ!

 

「剥ぎ取り“名人”って……そういうことか……!」

 

 まさか剥ぎ取るものが選別できるとは……!

 でもたしかにねー、モ〇ハンでも、尻尾から剥ぎ取ってるのになんで尻尾が取れないんだよ! って何度もツッコんだしねー。

 ……ンゥ? じゃあもしや? 皮がシヴいこの果実も、実を綺麗に剥ぎ取るイメージで剥ぎ取れば……?

 と、何個か落ちてきた木の実のひとつを剥ぎ取ってみる。

 

  ピキュゥンッ♪ 《渋皮の赤い果実の実(上級品)を手に入れた!》

 

 オゥヤハーリ!! で、ではさっそくシャクリと食べて

 

「うンまぁああああああああだだだだだだっ!?」

 

 おぎゃああああああ!! ほっぺが! あまりに美味しすぎて頬がジュワってなるあれが強烈な勢いでほっぺを襲うゥウウウウ!!

 でも美味しい! なにこれ美味しい! まるで不純物が取り除かれた、美味しい部分だけを引き出しましたぞってくらいの美味しさッ……!! 

 

「あぁああああでも変色が早い! 形もりんごみたいだけど、この変色速度も実にりんご!」

 

 剥ぎ取ったあとで持ち帰るのは無理そうだったので、もう食らうことにしました。

 美味ぁああああい! 説明不要ッ!!

 

「えへへへへ別に剥ぎ取って持って帰らなくても、果実を持って帰ればいいんだからえへへへへへ」

 

 おいしすぎて顔が勝手に緩む。へんな喜びの声が勝手に口から漏れるくらいに美味しい。ヤヴァイ。これヤヴァーイ。

 でもこれで確信を得られた。この剥ぎ取り名人の祝福、ほんとやばいです。

 

「ともかくこれを持てるだけ持って帰って……あ。あー……」

 

 どこぞの異世界転生者のようにアイテムボックスがあるわけでもないので、結局拾えるものを限界まで拾ったら帰ることにした。

 なお、持って帰った果実を見せたら「おまえ……」と石と草をお土産に渡された聖徳太子みたいな顔で迎えられたけど、その場で剥ぎ取ってみせた果実には皆さま大変大喜び。

 

「ウんまァアアアアーイ!?」

「なっ、なにこれなにこれ! お肉なんかよりよっぽどおいしいじゃないの! え!? なにこれ! なんなのこれー!」

「うぅっわおいしー!? ねーちゃんすっげー!」

「ふわぁあああーっ!? お姉ちゃんすごい! これ渋い果物だっていってなかったっけー!? おいしー!」

「………」

 

 頑張って戦って打ち下して剥ぎ取ったお肉類より好評だったよドチクショウ。

 あのー!? それ木ィ叩いたら落ちてきた果物なんですけどー!? ろうりょっ……労力考えてー!? おいしかったけど! 美味しかったけどさー!

 そりゃさ!? お肉あっても味付けとかに工夫があんまりできないから、肉食べても焼いた肉の味しかほぼしないけどさ!?

 塩とかあるけどコショウはないから味塩コショウとかもできないし、焼き肉のたれとかもないしガリバタもポン酢も無いけどー!

 

「ちくしょう美味しい……」

 

 でも薄情します。もとい白状します。肉より美味しいです。

 モ〇ハンみたいに肉をこんがり焼けば美味しくなるわけじゃないんだよこの世界!

 数多の転生者さんたちよ! 調味料ってどうすれば出来るんですか!? わたし一切分からんのですが!? マヨネーズの作り方を当然のごとく知ってるとか変態ですかアータら!

 だが構わん! 彼らは彼ら、彼女らは彼女ら! 溜め込んだ知識が違っただけのこと! わたしだってからくりサーカスのことは覚えてましたし! お陰で魔物の狩りも楽になってますし!

 で、でももうちょっとくらいお食事事情のことを学んでおけばよかったなー……とか、大して記憶に残っていない前世さんに恨みを抱いたのも事実です。

 いったいどんな生活して、なにをしてやがったんスヵ前世この野郎。

 

「うう、ちくしょう」

 

 言ってもどうにもならないことを、誰にも聞こえない声量で呟きつつ、わたしは美味しい果物さまを食べて心を癒したのでした。

 

 

───……。

 

……。

 

 村には学校~なんてものはないけれど、望めば村のシスターさんが簡単な読み書きくらいは教えてくれる。祝福を受けたあの教会での話ですね。

 わたしは前世の影響で日本語と英語くらいは読めたから。この世界の文字も大体のアタリをつけては『これはこう読む』と頭に叩き込んでいった。

 よくあるカタカナを反転させた文字~とかではなかったものの、覚えるのにはそれなりに苦労した。日本語とか英語とか知らん状態で学んだ方が早かったんじゃ……とか思うくらいには、いっそ面倒に感じるくらいには。

 

 そんなわけで、わたしは村人ながら、読み書きも出来るし狩りも出来るステキなおねーさんです。

 村に居てその勉強って役に立つの? とラシェルにツッコまれて答えに詰まった情けないステキなおねーさんですが、役に立ちますよ失礼な。

 なにせ商人との書類でのお話も出来ますし、重要書類などで騙されることなく村のために働けるってもんです。

 両親の影響か顔もイイですし、日々の狩猟と鍛錬のお陰か、引き締まったボデー!

 でもお貴族様とかなんか知らんヤカラに見初められるとか冗談じゃないので、髪はもっさりカーテンで、ちゃっかり顔を隠している。

 なもんだから、たまに自分でも視界が遮られたりすることもあるけど、まあそんなものは目をつけられたあとの面倒さとかを考えればやっすい安い!

 

「世の先駆者たちよ……わたしは絶対、この村で生涯を終えてみせるぞ……!」

 

 ついぽろりと決意表明。先駆者たちはやれ王都へ行ったり有名になるためにあれこれやったり、貴様ら本当にスローライフする気あんのかーってくらい成果を表明しまくっているように思える。

 ならばわたしも剥ぎ取ったものを商人に売ろうか考えたりしてる時点でヤベーかもしれないけど、まさかまさか、商人経由で有名な人からお声がけが~とかあったって、僕は知りませんよ?*4

 

「ふーん? ティアは冒険者になったりしないの?」

「興味ないかなぁ。別に強い魔物を倒して有名になりたい~とかないし。あ、でもいろんなところの美味しい料理~とかには興味があるかも。王都の料理とか凄そうなイメージあるよ?」

「うーん……はっきり言って、王都の料理なんて大して変わらないわよ? むしろティアが剥ぎ取った赤い実の方が美味しいくらいだもの。それに今じゃ───」

「……我が興味が一瞬で木っ端微塵……」

「あっ、ちちち違うのよティアっ、お母さんべつにティアの興味を潰したかったわけじゃっ……!」

 

 や、いいんですけどね。わざわざ村を出て王都に行かなくても“そうである”、と分かったのならそれはそれまでのお話。なんならわたしはわたしで、剥ぎ取った最上級果物やらハーブやらで、とてェも美味しい料理を目指してやりゃあえーのです。

 だってさ、わたしが10歳で祝福を得たのち、これまでの5年。

 その中で10歳になった弟や、次いで10歳になった妹が得た弟と祝福が、

 

「ねーちゃんねーちゃん! ソース……だっけ? 出来たぜ! ブルドックとかよくわかんないけど、美味いの出来たと思う! 果物からこんなの出来るってスッゲーな!」

「お姉ちゃん! 今日の料理一緒に作ろ!? 前のラシェにぃのソースと合わせたパスタ、もっと作りたい!」

 

 ……調合名人と調理名人だったんですもの。

 作ってみてって試しにお願いしたのはわたしですけど、弟よ……普通調合スキルといえば、とんでもねぇポーション作って“わたァしなにかヤチャイマーシタァ?”的なこと言うところじゃないの?

 妹よ……ありがとう。ただただ、有難(ありがと)う……!! 実に有難(ありがと)御座(ござ)います……!

 母が言いかけた『それに今じゃ───』の続きがつまり、ミネの作る料理の方が絶対に美味しいから、という意味に繋がるわけで。

 

 ええとまあそんなわけで、弟には剥ぎ取った果物数種や穀物などを渡して「こういうの出来ないかなぁ……」とふわっとした説明をして、妹には「こん肉ばあぎゃんやってこぎゃんやってぎゃーんやるギンよか」とかワケわからん説明をしたら、なんか美味しいものが出来たみたいで。

 以降、弟は調味ソース制作にハマり、妹は料理研究にハマり、連日わたしに『もっとだ……もっと知識を寄越せ! まだ持ってんだろテメー!』とばかりに……な、懐かれてるのかなぁこれ……。

 

 なお、父の実家が農家であるため、たまに大量の小麦が送られてきたりする。

 大変ありがたいけど、豊作すぎると消費しきれないため、どうしたもんかと悩んだ時期なんかがあったのだ。

 しかし妹であるミネが調理の祝福を得てからは変わった。

 わたしがパスタとか出来たらなぁと小麦をコネコネしてたら、ミネがホリュリュリュピキィンとパスタ制作を閃いて、わたしがパン硬いなぁ……酵母菌ってどうしたら出来たんだっけ……切った果物を瓶に入れてえーと砂糖入れて……? とかぶつぶつ言ってたら、ホリュリュリュピキィンと酵母菌とふんわりパンの制作を閃いて。

 

 そうして美味しいパンが出来上がれば、パン粉を使ってトンカツとかも作ってみたくなり、カツが出来ればソースが欲しくなり……そんな話をしていたらラシェルがホリュリュリュピキーンとソース調合を閃いて、なんて。

 えーと……あとはお察しというか。

 我が家の食卓はやべーくらいに賑やかになり、もうこうなれば調合用の容器なんかも集めようってんで、父と母が金物屋さんに行ってはラシェルと相談、こういうものを作ってほしいと提案して、手に入ってからはますます調合にのめり込み。

 ミネはそうして出来たクリームやソースなどを使って新たな料理を作り、家族で相談した結果、

 

「あの。いっそ家族でお食事屋さんでも作らない?」

 

 わたしがこう提案するのも案外早かった。

 

「だめね」

「だめだな」

「やだよ」

「うんやだ」

「あれぇ!?」

 

 そして一家総出で却下された。

 ば、ばかな……な、なぜェエエ……!?

 

「いーい? ティア。わたしたちはね、平凡に暮らして、なおかつ豊かな生活を過ごしたいの」

「そうだぞー? お金がどうこうの話じゃない。危険もなく、でも平和で賑やかにって意味だ」

「そうだぜねーちゃん。お店なんて開いたら、俺達楽しく調合も調理も出来ないじゃん」

「そうだよおねーちゃん。喜ぶのお客さんばっかりで、私たちだけばたばた忙しいんだよ? そんなのやだよ」

「OH……」

 

 それもそうだった。

 お金のことや将来のことに目がいって、そういう方向のスローライフを忘れるところだった。

 思い出しなさいティア・オーファ。前世さんが言っていたじゃあないですか。

 スローライフスローライフ言ってた先人は、店を開いたら大体ひっでぇ迷惑を被るハメになっていたと……!

 

「で、でもお金は? 調合するにも料理するにも、わたしが剥いでくる素材だけじゃあ限度があるよ?」

「あー……ただでさえお前達も大きくなってきて、食う量も増えたからな。それを心配する気持ちもわかる」

「うん。でもね、ティア。あなたがたまに持ってくるレア素材を売ったりすれば、案外どうにでもなるのよ」

「───エ?」

「そうそう。この前商人に見せたら『これは大変珍しい!』とか言ってな。かーさん監視のもとにきっちり計算させたら、まあ普通に暮らす分には十分なくらいの金が手に入るらしい」

「………」

 

 ……エ? じゃああの……エ?

 この暮らし、安定する……?

 

「ま、でもお前らもいつまでもこの家にってわけにもいかないだろうから、なにか目指すものがあるなら出ていってくれても構わない。村に新しい家を建てるも良し、どこかの大きな町へ出ていってみるも良し。とーさんは応援するぞ」

「あ……なるほど」

 

 べつにこの村で大往生するにしても、この家である必要はないんだ。

 なんならわたし一人でも狩りと剥ぎ取りで生きてはいけるし、美味しいものをたべたくなったら弟と妹を頼ればいい。

 

「えー? ねーちゃん居なくなったら美味しいソースのランク下がっちゃうじゃん……」

「ラシェにぃ、そんなこと言って、ほんとはお姉ちゃんが出ていくのが寂しいだけでしょ?」

「そなっ、そんなんじゃねーし!?」

「そーだよミネ。ラシェルは自分で作ったものの評価が下がるのが嫌なだけなんだから」

「……っ……違うっ! ふたっ……ふたりとも人の考え勝手に決めて、ニヤニヤしたりするのやめてくれよ! ……そういうの、一番嫌だから。あ、あのな、ねーちゃん。俺嘘ついた。俺、ちゃんとねーちゃんが居なくなるの、寂しいよ。もちろんミネが居なくなったって寂しいと思う」

「うん」

「作ったものの評価が下がるのは、そりゃあ嫌だよ。上級だったのが中級、ってなるだけでも残念だ~って思う。でも、それのためにねーちゃんの剥ぎ取りを利用してるって思われるのはなにより嫌だ。そう思われるくらいなら評価なんてどうでもいいし、そのっ……俺の、今のこの恥ずかしさとか、叫んで逃げ出したい気持ちとかだって、無理矢理押し込めてでも伝えたい、って……思うよ」

「ラシェル……」

「……おれ、家族のこと、ほんと大事だって思ってるから。自分のさ、とーさんの言う……男のぷらいど? っていうのと計りにかけたら、そんなの横に置いておけるくらい、大事だから。い、今だってさ、その、ほら……逃げ出したいよ。ミネのこと、なんか適当に言って、話題逸らしてさ、叫んで逃げて、なんもなかったことにして。でもさ、今俺がそれやったって、俺の気持ち、きっとこれっぽっちも伝わらないから」

「………」

 

 マジか。ラシェルお前……マジか。

 なんか急にシリアスな空気が……と思ったら、まだまだ子供だと思っていた弟の、まさかの発言。

 見栄を張りたいお年頃だろうに、なんと素直で真っ直ぐな瞳であろう。

 見てください皆様! 弟! この素晴らしき覚悟を見せている男の子が我が弟にござーます!

 くうっ……目の前でこんなにも家族愛を語られる日がくるなぞ……!

 ……うむ、ここで不用意にからかうみたいな言葉をかけるのは愚かというもの。

 ならば……?

 

「ん。ありがとう、ラシェル。ラシェルは立派だね。やろうと思えば全部全部投げ出して逃げられるのに、ちゃんと自分の気持ちを出せるなんて」

「……その。ゲンボのやつがさ、それやって、ゲンボのかーちゃん傷つけてた。おばさん、すっげー悲しそうな顔してた。俺もあーゆーこと言って顔逸らしてた間、かーちゃんとかさ、ねーちゃんにああいう顔させてたのかなって思ったら、自分の見栄がどうとかより、だっせぇ……って、さ」

 

 ゲンボお前……。名前が凄まじいから記憶に残ってた悪ガキゲンボ……!

 ちょっと前に父親のガデンさんに、ペンペン・オブ・オッスィールィされて泣いてた貴様が、よもやラシェルの成長に繋がるなんて……!

 

「ラシェ兄かっこいい……」

「うっ、ぐっ……! ち、ちがうんだよミネ……。こんなの、かっこいいんじゃない。俺、恥ずかしさのあまり、おまえのコト悪く言って話逸らそうとしたんだ……。かっこよくなんかない……かっこわりぃんだよ……。ごめんな」

「今のラシェ兄がカッコ悪いんだったら、ミネはカッコ悪いラシェ兄の方がいい。謝れもしないで、自分の見栄ばっかりのゲンボの方がすっごい嫌」

「(ゲンボ……!)」

「この前だってなにかと絡んできて、自分のお金で買ったわけでもない首飾り自慢してきて、転んだ拍子に壊して、人の所為にしてきたりして情けなかったし」

「(ゲンボ……!)」

「騒いでたのがガデンさんにバレて、お尻叩かれてとーちゃんごめーんって泣いててやっぱり情けなかったし」

「(ゲンボ……!)」

「どんなに自分でカッコ悪いって言おうが、ラシェ兄はミネの自慢のお兄ちゃんだもん」

「ミネ……」

「そして、ミネもラシェルも、わたしの自慢のキョーダイですとも」

「もちろん俺にとっての自慢の子供たちでもある!」

「それを言ったら私の自慢の家族ですけど? うふふ」

「……うう」

 

 家族からの言葉に、ラシェルがじわりと涙を浮かべる。

 けれどもそれを、いつの間にか傍に行った母が抱き締め、誰にも見えないようにした。

 

「ちょっと用事があるからラシェルとお外行ってくるわねー♪」

「おう! この場のことは任されたぞかーさん!」

「任された―!」

「行ってらっしゃい、母」

「もー。ティアもたまには、お母さんのこと『おかーさん♪』とか『ママー♪』とか言ってくれていいのよー? 前はちゃんと呼んでくれてたのにー」

「母……まっぴらごめんです」

 

 くすくす笑いながら、母はラシェルを連れて外へ出て行った。

 ……こういうの、普通は父親がするんじゃないんかなぁ……とか思ったのは、内緒である。

 

「で、現金ながら、話は戻るんだけど。父、生活は安定できる?」

「うーん現金。でもそうだな、安定する。好きなだけ居てくれていいし、自分の時間が欲しい、ってなったら外に自分の家を作るのも全然アリだ。というか、この村外に出て行くやつらの方が多いから、出来れば村に家を建てて欲しくはある」

 

 父が言うには、実際わたしが剥ぎ取る希少素材を何回か買い取ってもらえれば、村の大工に家を建ててもらうくらいは楽々ポン、らしい。いや本当に楽々ポンって言ったわけではなくて。

 が、あんまり一気に希少素材を売るとなると、商人から誰ぞかあくどい奴に情報が行き、この村に嫌な意味での手が入る可能性があるとのこと。

 うーわー有り得そう~。

 なので希少素材(狙って剥ぎ取れる)を売りに出すのは本当に希少って納得させられる回数にして、それまではぼちぼちなものを売ること、と。

 はえー、ちゃんと考えてるんだなぁ父。

 ただの母大好きな農業馬鹿じゃあなかったんだなぁ。

 

「うーん、確かに父さんは農業が好きだしかーさんが好きだ。でもな、それは農家をしてたからかーさんに会えて、農業をしてたからかーさんを助けられて、あの農村にいたからかーさんと好き合えたから続けられたことだぞ? 好きでもなけりゃあ続けられんて。だからな、ティア。好きって気持ちは大事にしろ。きっかけなんてどーでもいい。歪でさえなけりゃあ貫いていけ」

「ん、そりゃもちろん」

「……実はな、とーさんな。かーさんに会う前までは農業とか大ッ嫌いでな」

「え? おとーさんそれほんとー?」

「アッ……ミネ、内緒だぞ……!? これほんと内緒な……!? ……でな? もっとおっきくなったらこんな村出てってやるんだー、なんて考えてた時にかーさんに出会ってな。その時はべつに好きとかなかったんだけど、かーさんが冒険に戻ってからはもー……どこでなにしてたってかーさんのことばっか考えてて。翼竜に村が襲われた時は、あ、死んだ……とか思ってたけど、かーさんがブチノメしてくれて」

 

 もうな、ドキドキが止められなかったんだ。と語る父。

 あのー……それ立派なつり橋効果なんじゃ……とツッコミたかったけど、今現在の父はそれはもう母にゾッコンなので、妙なツッコミはやめることにした。

 

「農家の小僧が冒険者に告白なんて、成功するわけないって思ってたのに、まさか成功して。稼がなきゃいけないからって死ぬ気で努力して、食事事情は親父やお袋が助けてくれて。どんだけ尖ってたって、結局は家族に助けられてたって思い知ったら、大切にしないわけにはいかないよな、家族」

「───」

 

 あ、そっか。父さんはつまり、それを伝えたかったのか。

 苦労はした。けど、助けてくれたのは、支えてくれたのは家族だったから、次は自分の番なんだと。

 

「まあ……正直ティアの成長には父さんが一番驚いてるだろうけど……」

「おとーさん、そこで顔逸らすのカッコ悪い」

「ぬぅーしっ!?」

 

 さりげないミネの一言が父の胸を襲った。

 

「だってさぁ、ティアってば物覚え良さ過ぎだし、とーさんでさえ覚えきれてない読み書きとかバンバンやっちゃうし、田舎農家で鍛えた狩猟術とかもうとーさんより上手いだろきっと……」

「あの母に叩き込まれましたから」

「うーわーすげぇ説得力」

 

 父は母が好き。それはなにかしらに目を瞑ってのこと、というわけでもない。

 父は母の全部が好きだ。自分より強いところも頼りになるところも、かといってやさしくないわけじゃないところも、母がちゃんと自分のことを好きでいてくれているところも。

 というか、たぶん父より母の方が好きが強い。

 でもあんなに強い母だけど、父への愛はモんノスんゲェピュアです。

 たまに見せる圧も、家族を思えばこそであり、その家族は父と母が居なければ完成しないもので。

 

  立てばにこやか 座すれば母性 外に放てばバーサーカー 

 

 母の関係者(冒険者としての知り合い)からの母情報を纏めればこんな感じだけど、父の前ではもうほんと主婦してる。

 なお、ほんとの関係者(親類)については、多少育っては放ち育っては放ちを子供にし続けていた所為で、もう壊滅寸前状態らしい。

 それを伝手で聞いたらしい母は、「まあ、それはそうでしょうね」とほぼ無関心だった。まあ、それはそう。誰だってそーなる。わたしだってそーなる。

 ……父と出会う前から、立てばにこやかとか言われてたかって?

 そりゃキミ、

 

 

  立てば爆薬

 

 

    (目が)座ればボカン

 

 

       歩く姿は核弾頭

 

 

 レベルの危険度だったらしいですよ?

 や、この世界の人が核弾頭知ってるわけじゃなく、比喩的な意味ね?

 とまあ、そんな感じの家庭事情を話し合っていると、ラシェルも母も戻ってきて、再び一家団欒が戻ってきた。

 今日も今日とて我らが家族は平和を噛み締めておりまする。

 

 ……関係ないけど。

 そうしたささやかな心温まる一家のやさしい絆の中、ゲンボの評価だけが無駄に下がった。

 

……。

 

 さて。この世界での生活も大分経ち、わたしの中の前世の記憶も朧気だったものが余計に朧気になっていたりもする今日この頃。

 ここでこの世界を覗き見ているであろうあなたに問いかけたい。

 や、実はね? わたし、いや俺が俺であった時、常々思っていたことがあったんだ。

 それを改めて確認するとともに、訊ねたい。

 今や異世界転生なんてものには、テンプレがありすぎるほどに様々な、様ざまぁがございます。

 でもその先でいろんな出会い、いろんなテンプレがある中、俺にはどーしても『ああまたかよ……』と思ってしまうものがございます。

 最強だっていい。なにかやっちゃいましても全然いいよ。

 それは確かに現代じゃ無理な、異世界転生でチートを手に入れたからこそできることだ。異世界転生万々歳だよ。転生した甲斐があるってもんさ。

 でもさぁ……前世で社畜やってた所為でやりたかったことが出来なかった人や、もし生まれ変わったら、夢だった喫茶店を開きたい~とか、そういうことを思ってた人がさ? 転生した先で店開いたり最強の冒険家になったり。うん、全然いいと思うんだけどさ。

 

「な、なんと愛らしくもたくましい……! き、きみ! そのっ……僕とそのっ、清いお付き合いを───」

いやです

「えぇえええーっ!?」

 

 ……でもさ、恋愛は違くね?

 それさ、べつに異世界じゃなくても出来るっしょ?

 

 ───というわけで。

 ある日、森の中、ここらじゃ見かけないコゾーを発見。

 剣を片手に魔物とわちゃわちゃしてて、危ないところを助けたらこれである。

 そりゃね、即答で返すわ。なんでいいオヘンジ貰えると思ったの?

 そして逃走。待って! 待ってぇええ! とか叫んでたけど知らん。とっとと帰れ。

 このあと魔物に襲われようと、このわたしに男女の関係を求めるのであればいっそくたばってしまえ。

 貴様はこのティア・オーファの禁忌に触れた。

 愛だ恋だなんて要らん。たとえ俺が男で相手が女性だろうが要らん。

 我が願いにもはや愛だ恋だは存在せぬわ。

 

 …………や、だからって異世界ラブコメ全否定したいわけじゃないのよ?

 やりたいことやって、夢叶ったー! って喜びつつ、理想通りにはいかない現実にちくせう……! って苦悩しつつ、それまでの関係者たちに助けられていく……! って、転生した先で築けるステキな絆だと思う。

 

 ……でもさ、恋愛は違くね?

 それさ、べつに現代でも出来るじゃん。

 え? 喫茶店とかもそうだって? いやいやいや、喫茶店っていうか、日本とかの料理の知識がない異世界の方々に美味しい料理を馳走する! そんな夢の一歩を歩む姿を見たかったんですよ俺は!

 スローライフするのもいいよ! 冒険するのも全然いい!

 

 ……でもさ、恋愛は違くね?

 恋愛って別に異世界でも日本でもやってること変わらんくね?

 俺……わたしさぁ、転生した社畜さんの苦労が報われて、夢を叶えて営業なり冒険なりする姿が見たかったんであって、別に恋模様とかどぉ~~~でもよかったんだよなぁ……。

 ラブコメはラブコメ漫画で成分補充するよ。分かる? 異世界ラブコメって最初っから分かってるのはいい。でも、なんかいきなり恋愛成分盛られたって困るの。ね?

 そして好きなおなごが主人公庇って傷ついてその子を助けるために竜の秘宝が必要とか正直クソほどどうでもいい。ラブコメはラブコメ漫画に任せよ? ね?

 もうこれが男塾だったら、庇って倒れて抱き起された時点で「フフフ……く、悔いはない……。○○……き、貴様のようなお、男を……か、庇って死ねるのな、なら…………」とか盛大にどもりまくって、手がコトッて地面に落ちて死亡確認ですよ?

 なのでだ。

 とある森のコゾーから逃げ出したわたしは、しっかり悩んだのち、仕事や村の会合などの都合で、揃うまで地味に二日とかかった母と父を前に、キッパリ宣言することとした次第にゴザルマス。

 

「はい、というわけでお父さん、お母さん」

「あら」

「なににににににに!? ティアが久しぶりに俺をお父さんと!?」

「はいはいおちついてあなた。……で? ティア、なにかしら」

「……わたし、生涯独身希望でお願い。男性経験とか一切皆無でいいから」

 

 宣言はそんなとこ。まあ、当然だよね?

 前世が男の主人公とかさ、女は好きになっても男は好きにならんと思う。

 例外もたまぁにあるけどさ、や、それはほんと、ラブコメ漫画でやってくれって話。

 前世の夢を叶えて今世でやりたいことやって、報われる主人公が“俺は”好きだ。

 でもその報われには恋愛は要らんのだよ。畑違いだ、急にラブコメ挿入すんなや。

 そういうのは番外で、しかも濃厚でありつつあっさりと締めてくれ。

 お前らさぁ! バトルしたいのか魔王討伐したいのかスローライフしたいのかやれやれ系したいのかナンパしたいのか純愛したいのかハーレムしたいのかどっちなんだよ! こんなのきんに君の筋肉だって答えられないだろ! パワー! ……ハッ!(笑顔)

 けれどもこんな発言をした娘を前に、二人は特に表情を変えるでもなく、そっかー、ってくらいのノリで返してきた。

 

「あらそう。まあ、ティアはそうだと思っていたわ」

「あ、なんだ、そういう話題? いいぞいいぞ、気にすることないって。恋愛なんて自由だ自由。たとえ我が家の血が俺達で途絶えたって、俺は一切文句は言わん!」

「もちろんわたしも。というかわたしの血筋はさっさと滅んでほしいとさえ思うから、ティアは迷うことなく悔いのないよう、自分の人生を好きに生きなさい。もし邪魔する人が現れたら、お母さんがブチノメしちゃうから。……ええ、貴族だろうと王だろうと」

 

 怖い! でも頼もしい! でも隣の父が笑顔でめっちゃ汗たらしてるからその殺気抑えてあげて!!

 

「ああでも、ボーマンさん家のカマッセくん、初恋は実らなかったかー」

「え? わたしを好きな人なんて居たの?」

「居るわよぉ? そりゃ居るわよ。昔っから大人びてて、行動力も凄くて魔物も狩れて勉強も達者。憧れない子なんて居ないし、嫉妬から尊敬に変わる子もそりゃあ居たのよ?」

「それがカマッセ氏?」

「そうそう。なんでも強い男になりたいから~って短剣片手に森に入ったら、勇ましく、そして力強く戦うティアに見惚れちゃったらしくて。まあ、一目惚れってやつね」

 

 どうしよう とてもキモいし マジキモイ

 

 へぇええ……男に一目惚れされる男の心境ってこんな感じなんだぁ。

 いや無理。一目惚れとか勘弁してくれませんか? 俺ほんといいんで。恋愛とかいいんで。

 

「じゃあお母さん。さっきも言った通り、わたし恋だの結婚だの、ほんと無理なんで。男友達とかも要りません。許されるなら女の子と結婚したいくらい」

「あらまあ」

「おやまあ」

 

 父と母が互いを見やっておやまああらまあ。

 けれども笑ってみせて、『構わん好きにせい』とばかりに「ならばよし!」と言ってくれた。

 

「実はね? ティア。あなたに惚れたっていう女の子が居て」

「紹介するか悩んでたんだけどなー。でもティアがそうしたいっていうなら」

「あーやーいやそのう結婚したいっていうのは言葉のあやでして」

「やっぱり嫌?」

いやです

 

 俺の中で空き地に立ち、バスターワッフル片手に冷たい目を送って来る里村さんが吼えた。

 俺言ったよね、わたし。ねぇ!? 結婚は墓場だって言ったよね!? 聞いてんのか“わたし”!

 どんな性別の相手に『ンドクセッッ……!』って感じたかもう忘れたのか!?

 心が男だから女と結婚したい!? 馬鹿をお言い! 俺は面倒が嫌だったからそれをやめたんでしょうが! そこに性別云々なんて関係ないわ!

 つまり! ……男だろうと女だろうと、好きってだけで相手の人生も担うとか絶対嫌だ!!

 異世界に来て、こうして好きなこと出来るようになって、なのにそこに他人の人生を背負いこむ……!? じょおおおだんじゃねぇ!!

 OK分かった了解だ先駆者たちよ! 俺が、わたしがこの世界で為すべきこと!

 それはただただ好きに生きろってだけだ!

 他人の人生なんざ知らん! 生きたきゃ好きに生きりゃいいだろう! 貴様らの人生を好きって気持ちと一緒に背負わせてくんな! 俺はごめんだ!

 

「じゃあつい先日、森で自分を助けてくれた女の子を探してる~っていう貴族の少年が、護衛と一緒に村に来たらしいんだけど───」

「相手が貴族だろうと王族だろうとまっぴらごめんです」

「じゃああなたのことが気になって夜も眠れず昼寝してるっていう、ブツブツとあなたの名前を呟きまくっていた女の子は───」

「もっと嫌!」

 

 わたし、一途な愛はものすごい好き! 前世の頃からきっと好きだったんだろうなってくらいめっちゃ好きですよ!

 でもね、メンヘラとかヤンデレとかは話が別! 俺、あ、俺って認識しちゃったよ!

 ともかくね! ヤンデレとか大嫌い! あれ相手のこと好きなんじゃなくて、相手のことを一途に思う自分に酔ってるだけじゃねぇか!

 殺したいほど好きとか誰かのものになるくらいなら殺すとかアホか!

 あととりあえずハイライト失くしてブツブツ呟いてりゃヤンデレとかああいうのがほんと嫌!

 あのさぁ! 相手のことほんとに好きならヤンデレなんて属性に染まってないで純粋に愛してみろよ! そんでぶつぶつ言ってハイライト失くして相手に怯えられてちゃ世話ねぇわ!

 恐怖と恋愛感情間違えてる程度の感情も制御出来ねぇ奴が恋愛語ってんじゃねぇよ!

 そんで思い通りにいかなきゃ刺傷事件勃発ですか! そりゃああんた恋愛感情じゃなくて独占欲でしょーが!

 

「とにかく! わたしはお一人様で生きていくから! 恋愛も結婚もいーから!」

「ん、わかった。かーさんはいいと思うわよ?」

「もちろんとーさんもだ。というか……正直ティアが結婚って、想像出来なかったし」

「あら。でもそれを言ったら、私だって私が結婚するだなんて思いもしなかったわよ?」

「あ、ん、んんっ、ごほん。まあ、それはそのー……好きになってくれてありがとう、かーさん」

「ええ、受け入れてくれてありがとう、あなた」

 

 ……目の前でラヴが繰り広げられている。

 うん、こういうのでいい。わたしは傍観者でいいのだ。

 愛だ恋だは他に任せよう。

 わたしがもしこの世界の主人公だったとして、ラブコメのジャンルには入らんだろう。

 入るか? 入らんだろう。

 なので今日も今日とて剥ぎ取りで心を見たし、生涯をこの村で過ごすのだ……ッ!

 邪魔をしたければ来るがいい貴族ども……!

 わたしは意地でもここを動かんぞ……!

 

*1
『ぬ、ぬう』から始まる言葉。古くは『魁!!男塾』より。主に三面拳の雷電。

 時に『むうあれは……』や『〇〇……よもや実在するとは』などがある。

例として、

「ぬ、ぬうあれは……百八千九百……!」

「し、知っているのか雷電……!」

「う、うむ……百八千九百……で、伝説の技でしかないとお、思っていたが……」

など。とりあえず出来る限りどもっておこう。

え? 百八千九百の意味? ひゃくはちせんきゅーひゃくっ! って早口っぽく言えば、格ゲー好きの人ならなんとなーく分かるかも。

立った状態で片足を前に突き出して、自らは前方に水平跳躍しながら回転するのです。

ね? 簡単でしょ?

*2
ディオナイフ:ジョジョ三部のDIOがズゥラァとナイフをたくさん出した時の、なんというかこう……右手の人差し指と中指と親指を重きにする持ち方。薬指と小指はお飾りです。

*3
村でのんびり鍛冶もどき、包丁研ぎとかもやっているお店。

剣などはないものの、ナイフや鉈みたいなのは置いてある。

お店の名前は特にない。

“この村の雑貨屋”と言われて分からない人が居ないからである。

商人には名前をつけてもらえたら……と催促されているらしい。

*4
サイキックフォース2012というゲームがあって、出ていたキャラにカルロという存在が居た。

戦闘に勝利すると「僕は負けませんよ?」という自信に満ちた言葉が聞けるのだけれど、『いやお前もう勝ってるじゃん』と結構ツッコまれていた。

どうせなら戦う前に言いなさい。そして勝ったなら「やはり僕の勝利ですね」とか言えばいいじゃない。

そんな懐かしきあの日。

関係はそんなにないけど、OVAでキャラソンっぽいのまで流れたのに()られたのはそいつというキースでエヴァンスなキャラが居たとか居ないとか。(うろ覚え)





「ワ~カメ好き好き♪ ……お前はどこのワカメじゃ?」
「昆布です」
「マジか」
「マジです」
「お前はどこの昆布じゃ?」
「なべやきさん家のコンブです」
「あのー……お友達に頭がパインでハワイアンなヤツとか居ます?」
「居ません」
「お前どこの昆布だよ!」
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