凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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剣聖です。~祝福で剣聖に選ばれてしまうので、名に恥じぬ腕を磨きたい~

 ───聖女。

 いまや異世界ものの定番となってしまった、なんか当然のように職業に存在するアレ。

 

「はぁあああ……すぅうう……はぁああ……すぅう……!!」

 

 かつては女性の聖人を呼ぶものであったが、知らんうちに聖女って職業に定められてしまっている。あれか。女性側がもっと女性的な呼び方を考えるべき! とか言い出したのか。男の聖人は聖男と呼べ~なんて風習はないのに。

 

「んっ、んっ、ふっふっ……呼吸法、ストレッチ終了、と」

 

 と、まあ。異世界云々出した時点でお察しだろうけど、どうも、転生者です。

 異世界四大ジョブ(笑)の、勇者剣聖賢者聖女がどぅゎいっきらいな、元男・現女です。あー、ドラクエとファイファン……もとい、FFの職業とかジョブってイイナー。

 

「はぁ。大体さ? 戦士格闘家僧侶魔法使いとか無視して、いきなり剣聖とか賢者とかなんなの? あたしゃのんびり堅実に剣の修行を積んで、その先でついに……! って感じじゃないと剣聖なんて認めないね。剣の経験クソほどないやつが恩恵祝福でハイ剣聖~ってナニソレすぎるでしょ、まったくもう」

 

 木剣片手に木で出来た人型をカッコッと叩きながらぼやく。

 なんでこんなことを愚痴っているのかといえば、自分が将来『剣聖』のジョブを祝福で得ることとなる女キャラに転生したからだ。

 名を、マーシィ=アブラス。

 アブラス家長女で、騎士爵の家に産まれた現在4歳である。

 

「サブヒロインの名前をアブラスマシとか、制作スタッフ絶対に『遊び』が好きだよなぁ」

 

 産まれ、成長し、意識がしっかりしてきてから前世をしっかり振り返るに到り、「……なんでアブラスマシ*1?」と首を傾げたものです。

 ギャルゲー、『花よ恥じらえこの乙女力で!』のサブヒロインを務める、パッケージイラストにも登場してない、ほんとサブなヒロインだったわたしです。元男ですが。

 

「まあいいんだけどね。元男の意識があるのに男と好き合うとか地獄だわ」

 

 そんな甘酸っぱい“青春さぶストーリィ”など要らない。

 俺はこのまま、剣聖の祝福を得ることでハナターカダカになる予定だった女騎士モドキを、真っ当な……真実剣聖にするため、こうして剣の鍛錬をしているのだ。

 騎士の家に産まれたってこともあって、剣の鍛錬なんかは日常的。チャッメェーシゴットー!

 年の離れた長男であるキヤネン=アブラスは既に家を出て、お国の騎士として名を馳せている。

 油好きそうな名前の通り、油を多く使った料理とか、ジューシーなお肉とか大好きだ。

 そんな兄が出ていく前は、俺も……んん、わたしも兄と一緒に父の教えを受けつつ剣の鍛錬をしていたものだ。

 けど、兄が出て行ってからは父は積極的ではなくなり、今では自主鍛錬で頑張れって感じ。やっぱり女に真面目に剣を教えるつもりとかないんだろうなぁ。

 ……ええんやで。わたしもそっちの方が助かるし。

 

「ひゅうっ───疾ッ!!」

 

 息を吸い、踏み込み、右手に持った剣で突きを繰り出す。

 身体能力強化でブーストされた突きが空気を裂くと、それだけでは終わらさずに高速の連突を繰り返す。

 

「───ふうっ! ……スプラッシュファーントってこんな感じだったっけ?」

 

 や、女騎士ならシャルロット、って連想で昔っから練習してたんだけどね?

 連突ってアルベイン流の秋沙雨もそうだけど、あの有り得ないだろって数の連撃数がいいよね。数の割にヒット数がそうでもないっていうのもプラスして。

 あとは~……あ。

 

「覇極流奥義千蜂塵(ちほうじん)!」

 

 槍術奥義だけど、槍に見立てて放ってみる。

 ……持ち手の長さが足りないからものすっごいモタついた。

 

「はぁ~あ……」

 

 剣を地面に置いて、自分も腰を落として休憩に入る。

 見上げる空は実に良い天気で、そろそろお昼になりますぞって感じの空だ。

 我が騎士爵の親は引退をする際に、王からそれまでの貢献への感謝としてこの領地を賜り、そこで領地経営を学びながら嫁を貰い、現在に至るそう。

 辺境も辺境、ド田舎といえばそれまでのここだけど、自然の豊かさは他に負けない。

 ちなみに自分、爵位なら公爵侯爵だのを差し置いて、辺境伯が一番好き。『それ爵位やない』ってのはいいんだ、この“辺境伯”って語呂が好きなんだ。

 辺境、なんてついてるから現代人に侮られがちな辺境伯。実は国を守護る大事な地位でもあり、伯爵より信頼されている者じゃなけりゃあ任せられない立場だ。国の中心から離れていて、田舎なイメージも強いだろうけどね、辺境、国境だからこそ強く在らねばならぬのです。

 

「……まあ、父は伯爵どころか子爵でも男爵でもないけどね」

 

 それでも辺境を任されてるんだ、王は父の実力を本当に信頼していたのだろう。

 酔った父がこぼしてたけど、実は学生の頃からの親友なんだとか。

 王子が王となり、騎士候補生が騎士団長にまでなり、武勇と信頼と功績を糧に、領地と騎士爵を下賜された。本当だったら男爵までの叙爵も有り得たそうなんだけど、父はそれを辞退したらしい。男爵なんてガラじゃない、ってな感じで。まあ、うん。そーんな感じ。

 

「けどなー……マーシィかぁ~……」

 

 この溜め息も何度目だろう。

 騎士の家に産まれ、女だからと騎士の鍛錬はさせてもらえず、アブラス家は兄が騎士として武勲を立てていくのが通常の『よじらえ』こと『花よ恥じらえ』のマーシィの在り方。

 そのくせ10歳の時に得られる祝福で剣聖を得てしまったものだから、天狗となって剣を振るっては、その先の未来で主人公にあっさり敗れ、くよくようじうじし始める。

 や、祝福の恩恵なんぞでそれまで剣も握ってこなかった小娘が、真面目にパラメータ強化してきた主人公に勝てるわけねーでしょーが。だから恩恵やらジョブやらの力だけでいきなり剣聖を名乗るヤツなんざ剣聖の風上にも置けないってんだ。剣の道を無礼(なめ)るな! そんな当たり前のことも分からないヤツなんて、大っ嫌いだ! ヴァーカッ!

 

 ……と、そんなマーシィをゲームで知っているからこそ、“俺”は剣聖の名に恥じぬ自分を目指すことにシタノデス。

 あのね、ほんとね、ジョブ剣聖とか祝福剣聖とかアホかって話だ。それまで剣に触れたこともないくせに剣の達人とか、その頂を目指した者達をナメんのも大概にせえよ。

 勇者も賢者も聖女も、あいつらなんなんだマジで。異世界転生ジョブ考えたヤツ、いつか泳がす。アメリカまで泳がす。

 

「ぶあはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~…………っし、休憩終わりっと」

 

 クソデカ溜め息を吐いたあと、パッと起き上がって剣を握る。

 小さな領地、小さな屋敷の傍の林にて、動けるようになってからはずっとずうっと鍛錬の日々。もちろん休憩も挟んではいるけど、無茶が利く子供時代に出来ることは増やしたかった。

 なもんで、兄が父から習っていた剣の型を倣い、母が使う魔法をこっそり見つめて倣う見取り稽古(笑)を続け、兄が出ていくことで両親の興味が自分に向いてないことを確認するや、こうして自主鍛錬を本格的に始めたのだ。

 両親にしてみれば俺がやっていることなんて、兄の真似をして木を棒で叩いているだけの騎士の真似事だろう。

 

「スゥッ───」

 

 けど。とことんまでに『隙を無くす動きを』に特化させんとした俺の動きは、日を追う毎に洗練され……ていったらいいね。そんなんすぐに出来たら苦労なんてしないしない。

 なので剣の振り方ひとつを取って、徹底的に研究、活かすための体捌きを積み重ねた。なぁ俺よ、わかっておる? 剣聖よ? 剣聖になるのよ? いわば剣の道の頂点ぞ? だってのに『剣の振り方、体の捌き方すら知りませェん』でいいの? いいやよくない! 他が許しても俺が許さん!

 

「でやぁああああああっ!!」

 

 木人に剣舞を叩き込む。気分は『ルナ-シルバースターストーリー-』のアレスくんのごとく。

 や、まあ連続で剣を振りまくる鍛錬ってだけで、それが実際に必殺技になるだなんてことは考えてない。ただ、持久力は育まれるのだ。頑張ろう。

 

「イッツァアアアーッ!? カッ……カハーッ!?」

 

 でも斬り方を誤って、ゴッツィーンと妙な叩き方になってしまい、右両手がシビシビ状態になる。

 ……右両手ってなんだよ。余裕無い時って、たまぁにおかしな思考がまろびいづるよね。

 

「ぬ、ぬう……たいしたやつよ……! こ、このマーシィの剣をかような形で潰そうとは……!」

 

 自分の失敗を武器に、相手を褒め湛える。ステキです。

 でもまあ意味がないので、落としてしまった剣を拾ってもう一度型から入る。

 型っていってもこの世界の型って大雑把なんだよね。

 盾持って、ガードして、刺す。ほぼこれだけ。

 だから剣しか持たないタイプは『お前頭大丈夫?』レベルで引かれる。

 わたしの場合はこう……盾構える代わりにゴッツい篭手を用意してもらって、それで防いで戦う感じがいいと思うの。でも弓矢などには滅法弱いです。

 盾……盾かぁ……。モンハンのカムラの里らのように、シールドバッシュとかで叩けたら面白いのかな。や、俺盾コンボめっちゃ好きだったから、ニンジャソード最強時代はほんと、シールドバッシュばっかやってたけどさ。

 あのゴインゴイーン! ゴイーン! のあとの旋刈りが好きでね。

 しかし……ふむ。聞けばモンハンのハンターたちは、命を大事にするからこそ右手に盾を構えると聞く。ならば……?

 

 

───……。

 

……。

 

「イエイ」

 

 バァアアーーーン!!

 幼き内に右手に盾を、左手に片手剣を、を極めました。

 さらにシールドコンボも体に叩き込んだので、守るだけじゃあござんせん!

 聞いてくださいよ奥さん! かなり苦労したけど左手での攻撃にも慣れたんですよぉ!

 ジャストラッシュも身体能力強化を瞬間瞬間に発動することで再現可能になったし、強力攻撃として設定されてるくせに、隙が大きいくせに総合ダメージが普通のコンボに負ける、連携続けた方が強いとかの心配もございません!

 

「既に両親がわたしに期待していないのは知っている……! 淑女としての教育なんざハナから諦めてるっぽいし*2、自由にしていいのなら自由にするとも!」

 

 訓練用木人No.43を前に、盾でのハードバッシュ連携を始める。

 旋刈りまでをキメると、その場でそのままジャストラッシュに派生。デンプシーロールをするかのように剣と盾とで攻撃をして、盾アッパー⇒直穿ち⇒駆け上がり斬り⇒フォールバッシュとキメると、一連の行動の成功に頭の中が爽快感で満たされる。

 ああぁああああ! 脳が! 脳汁がー!!

 素晴らしい! これぞ愛の! 愛の為せる業なのデス! 脳が! 脳が……震……え、る……!

 あ、でもハイ、駆け上がり斬りではあんなにジャンプ出来ないので、駆け上がる際にはやっぱり身体能力強化を強めにかけてあったりします。

 このマーシィ=アブラス、本来だったら魔力も剣技もクソザコだったのが、剣聖の祝福のお陰で頭がパーのまま強くなって調子に乗るバッケヤラァ。

 それをお子の内から鍛えに鍛え、魔力も剣技も見れるようになった。

 しかしまだぞ……! この程度で剣聖を名乗るなど恥を知りなさい!

 こんなんではまだまだ見習い剣士レベル! 剣士、熟練剣士、騎士、ベテラン騎士、エリート騎士、パラディンなどなど、俺が思う剣の道とは上がかなり高みにあるものなのだ!

 それらを飛び越して剣聖!? ハッ! ヘソで茶を沸かすどころか、へその緒で融解させてくれるわダボがァアア!!

 

「剣聖……! なんて遠く高き道の果てよ……!」

 

 あのさ。少なくともリゼロのヴィルヘルムさんくらい強くないと、剣聖とか名乗るの恥ずかしいと思うんだよね。

 しかも祝福なんぞを得ずにだ。

 ヴィル爺ほんと尊敬する。

 なので剣聖の名に恥じぬ俺に、わたしは───なる!

 

*1
*全身に蓑を羽織った頭のデカい妖怪。なんか油を入れる瓶を持っているらしく、突如現れては人を驚かすらしい

*2
元々平民から騎士に上がった父だから、騎士爵を賜ったからって娘にそれっぽい振る舞いをさせるつもりが最初っからなかっただけ。なお、母も別に貴族じゃない





 この頃の自分を振り返り……思ったこと。
 ……キモイな。
 チートに奇妙な拒絶反応があった時代です。
 あ、もう平気です。
 平気だからこそUPしてるわけですが……キモいな。
 や、正直うんざりしてたんですよ、苦労せずに、異世界飛んだだけで現地人を置き去りにする能力貰える~とかそういう下りに。
 元の世界で努力してたんならまだいい。
 でも怠惰な陰キャボーイが異世界飛んだだけで能力を~の流れはもうお腹いっぱいYO! ってなってました。
 頼む、努力してくれ! 周囲の所為にしてるだけの陰キャになるな!
 あとお前コミュ障とか絶対嘘だろ! 異世界行った途端、なんでそんな饒舌になってるんだよ!
 とかまあいろいろツッコミどころ満載だったのも手伝い……実際うんざりしてました。自分も実際、似たようなの書いてたくせにね~、ああ恥ずかしい……!
 今はもう「おっほっほっほ~、テンプレテンプレ」と心穏やかに見れますが……「やっぱりちょっと『最強』にこだわりすぎじゃない?」とは今でも思います。
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