凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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特になにも考えずに書いたもの。
マジ恋の二次ですね。
なお博光は出て来ません。


二天道楽の道楽日和

 刀ってさ、ほら、めっちゃ重いじゃん? 鉄の塊持ってんだそりゃ重いよな。殺傷力は無類だろうけど、持ってるだけで疲れるもんぶら下げ続けて、いざって時に動けるんかなぁ。

 それが、漫画とかで少年少女が刀を持って異世界やらで戦う描写を見た俺の感想だった。

 うちのじっさまが剣術道場なんてもんをやってて、刃引きしてあるとはいえ刀を握る機会が俺にはあって。

 で、感想。

 いや無茶言うな! こんなん持って戦場ばたばた走ってられるかバカー!

 だけど、世の中にゃあ馬鹿って奴がいるから『やってみなけりゃ分からない』なんて言葉が生まれたのだ。

 

「無茶でも苦茶でもやってみなけりゃ分かんないだろうが馬鹿! 鉄担いで走っても疲れない身体作りじゃオルァー!」

 

 ハジメマシテ、噂の馬鹿です。

 そんなわけだから、鉄の重りを担いで早朝マラソンする馬鹿ひとり。そう、俺だ。

 

「ちょっとヒノハー? 身体壊すわよー?」

「大丈夫だかーさん! じいちゃんから許可は貰ってるから!」

 

 武蔵野日刃と書いて、ムサシノヒノハ。雄である。

 道場を営む祖父を持ち、鉄を扱う仕事を営む父親を持ち、料理教室と栄養相談室とweb健康動画などを開いている母親を持ち、舞踊教室と整体医院を営む祖母を持つ俺。いろんな条件が重なったお陰で体を壊すこともなく鍛錬は続き、二月三月と続けていたら、いつの間にやら帯刀して走り続けても、息が荒れることはそうそうなくなった。

 要は効率なのだ。己を知りなさい。五体というものを識りなさい。

 

 ゴキャベキャボキパキョ!

 

「いぁあっだあああぁぁぁっ!!」

 

 走り込み、体を鍛え、ばーちゃんに体の歪みを矯正してもらい、

 

「ヒノちゃん? もっと全身を使いなさい。まだ楽な方に偏っているわよ」

「うそぉ!?」

 

 矯正中に筋肉の使い方がなっちょらん! と注意されてしまい、さらに突き詰める。

 現在中学二年生! 幻想に夢を見るには有り余る才のあるお年頃!

 なので俺は、サムラーイは本当に刀を手に戦場を駆けていたのか! 日本人はアメーリコの生き方を受け取ったために、体の使い方を忘れてしまったのか! それらの謎を解き明かすため、我が生涯を使い潰すことをここに誓いとうございます!

 

「一日一万回……感謝の正拳突きならぬ、正眼からの上段、振り下ろし───!」

 

 腕の筋肉ではなく、体全体を使って木刀を振るう。最初は木刀もつらかったので竹刀だった。一万回って言い出した自分を今こそアホと罵りたい。

 親に、一日一万回、感謝の正拳ってのがあってだな、なんて言われたからだ。それがどこから来た情報なのかも知らんのに、俺はやった。そして大激痛。

 でも続ける。男が一度、やると約束したのだから!

 

「………」

「《モミ》ギャアアアアアアアーーーーッ!!」

 

 そして、体を軽く揉まれただけで絶叫する俺が出来上がった。

 

「うんうん、いいねぇ。ここが痛いなら、きちんと全身を使うことが出来てるってことだよ。頑張りなさい」

「あ、あの……ばあちゃん……?」

「男子たるもの、一度口にした決意はなにがあっても為しなさい」

「ぎょ、御意」

 

 既に俺に、逃げ道などござーませんでした。当たり前だ、逃げ道を用意した上で決意を口にする男子など、我が家の皆様が、特に祖父母が認めてくれるわけがねーのだ。

 

……。

 

 一度振るった程度じゃあ、どれが自分に合った振るい方なのか、なんてものは分からない。だから何度も何度も振るって、なぞって、失敗して、全身を使って間違った振るい方をして、失敗する。

 そんなことを続けていると、疲れ果てた先にこそ───体が自然に取った最適、というものが見えてくる時がある。

 それでもやっぱりそんな偶然を「まさか今のが───!?」なんてなぞり続けて、「あ、これやっぱ気の所為だったわ、めっちゃ疲れるわ間違いだったわ」とぜぇぜぇ言いながら気づいたりして絶望を味わったり。

 でも二・三度目までは本当に楽に振るえたりして、

 

「───こう。……こう? ───こうっ!」

 

 じゃあ使う筋肉がそもそも違うんだと、

 

「っ───ふっ!」

 

 ならばと意識して全身を使ってみようが、

 

「んんっぐっ!? ……~~~っ……!!」

 

 全ての筋肉を同じ圧で振るってるわけじゃあないのだから、

 

「痛みを無くして、ひたすら楽に、けれど向上を目指して───」

 

 疲労する速度だってそりゃあ違うわと今さら気づいたり。

 

「しっ!」

 

 そうして練磨を続け、

 

「───(フン)ッッ!!」

 

 己の青春を自己満足に捧げ、

 

「───(ふん)ッ!!」

 

 己の遊べる時間を自己満足に捧げ、

 

「───(フン)ッ!」

 

 己の生涯を自己満足に捧げ、

 

「───(シツ)

 

 ……俺に教えてくれた様々な人が旅立ち、

 

「……(ゆる)

 

 やがて体の無茶が利かなくなってきた頃。

 

「───」

 

 そこに、理が残った。

 

「………」

 

 理だけが、残った。

 

「───…………」

 

 見渡しても、あの騒がしかった道場は静かで。

 もう門下生もおらず、近い内に壊す予定になっている道場の真ん中で、祖父より親へ、親より俺へと継がれた刀を手に、ヒンッ───と振るう俺。

 脱力からの、力み。必要な瞬間以外の脱力と、必要な時のみに入る力み。

 それらが生み出す加速と、消費の少ない体力と、持続する力。

 衰えたとはいえ、刀を持ったままでも一時間以上平気で走ることができ、どこをどう狙えば人を制することが出来るのか、という面でも、なんとなくわかるようになっていた。

 人を()り、人を()り、人を()る。

 身体の動かし方、筋肉の鍛え方、姿勢の使い方。

 その全てを知り、効率化することで、我儘な俺の夢は満たされたのだと思う。

 終ぞ、なにかに対して試すことなど出来なかったけれど。

 

「───スゥ」

 

 まず、呼吸。

 全身の血流をコントロールし、どう力を込めればどう血が巡るかを正しく理解し、脱力から、始動。足を振るい腰を振るい、腕を振り上げ、けれど刀を握る先端は脱力し。

 やがて、握る先端から一番遠い爪先から力みを解放。

 連鎖させるように全身を使い、いざ、脱力から力みを、体全体を以って先端を鞭のように操るが如く。

 

  ゾ

 

 鳴った音はひとつ。

 けれど、斬られた藁束は三体に分かたれた。

 

「……ほ。刃引き刀でこれが出来りゃあ上等上等、カカカ」

 

 万力のような力なんて既に出せやしない。代わりに、技を以ってそれを上書きする。

 そんな技へと到ることが出来て、満足満足。

 ただ───

 

「……まいった。べつにもう死んだって構わんのだが」

 

 未練がある。とっくにジジイなおいらにとって、学んだ“人間”以外のことがからっぽすぎたのだ。

 とうとう親に、孫を抱かせることさえ出来なかった。なにせ人間馬鹿な俺だ、己の錬磨に人生を捧げた所為で、人と関わる暇さえなかった。

 後悔があるとすれば、それか。人を学んだくせに、人との関係を築くことが出来なかった。

 なので、まあ。来世というものがあるのなら、そんなものを知ることのできる、けれどこの人生が無駄にならんような世界を。

 そうして最後に、刃引き刀で鉄の棒をシンッ───と斬り落とし、満足感とともに息絶えた。我ながら、すげぇ最後だったと思う。

 掠れた声が勝手に漏れた。親不幸でごめんなぁ、なんて。

 

 

 

 

 

 気づけば少年であった。

 いや、気づけばもなにも、産まれたであろう瞬間のことも覚えてはいるのだが、思い出したというべきなのか、おいら……俺は、まったくべつの誰かとして、見知らぬ町に産まれていた。

 歳の頃は小学校低学年、といったところか。

 前の名は武蔵野日刃。

 今世の名は武蔵守(むさしのかみ)日輪(ひのわ)

 そして……

 

「……とんでもないな」

 

 幼くして、刀と人、というものを知る、おそらくだけれども将来はバケモノになるであろう自分を自覚している───その実ただの人間馬鹿である。

 刀と人間のことしか頭になかったため、それ以外で評価するならクソガキャア程度が丁度のいい馬鹿だ。そんな俺だけど、どうやらこの少年になる前に、武の神とやらにギフト? とやらをいただいたらしい。

 使い方が微塵も分からなければなんの意味もない、俺が武の道を歩まねば思い出すことさえない知識。

 それが───

 

「痣と呼吸、そして───二天道楽」

 

 生憎と漫画も小説もゲームも知らん人間馬鹿だが、二天道楽くらいは知っている。

 宮本武蔵。彼に与えられた号のひとつだ。

 そんなギフトなのだが、困ったことに既に使えるらしい。

 何故って、そこに到るための鍛錬、練磨など、生前に踏み荒らした位置にしか無いからだ。

 

「日の呼吸、というのか。そして───」

 

 二天一流。この手に刀はないというのに、どういうわけだが握っては開いてを繰り返していると───

 

「…………ん?」

 

 妙な確信があり、

 

「……んん?」

 

 やがて輪郭が、形が、像が浮かび上がり───

 

んん~~~~~……?

 

 ───ついには、像を手に、握り締めた。 

 

「……なるほど。無刀、というのか」

 

 なんと。これはこれは……ハハ、なんと♪ なんと♪

 宮本武蔵がこんなことをしていたなんて知りもしなかった。

 持っていないのに切れるものなのか? と疑問に思ってみるも、呼吸とともに腕を振るってみれば、斬ッッ! と……なにもない空気を……“斬った”感。 

 

「己の人生をかけた日々が無駄ではなかったと思えるギフト、感謝する。そして……俺はここで、この世界ではせめて、人並みの、人としての幸せというものを───!」

 

 変わらず錬磨は続けよう。この身が、技術が錆び付かない程度に。

 けれど、もはやこの手が刀を握ることは無し。

 握るのであれば、弱きお子の手か、はたまた愛する者の手か───…………

 

 

───……。

 

……。

 

 で。

 

「おはよう日輪。そして好き」

「ああ、おはよう京。今日もいい朝だ」

 

 現在、高校二年。

 今朝も早よから俺の家に朝駆けに来たこやつは椎名京。

 小学の頃にイジメから救い、ともにあろうと誓ってから、妙に距離が近い少女だ。

 人を知った先で、人の汚さを知れば、外見のひどさなんぞよりも心の醜さが目立つもんだと改めて知った。

 ので、イジメをする馬鹿者どもよりも、俺はこいつと歩くことを選んだ。

 そしたらこれである。

 

「おはよーひのわー。僕も好きー♪」

「ああ、おはようユキ。今日もいい朝だ」

 

 こちらは榊原小雪。

 幼少の際の───まあ、京との付き合いが増えてから偶然出会い、ぐしゃぐしゃになったマシュマロをきっかけに、交流がはじまった。

 最初は風間ファミリーとやらに入りたかったようだけど、そこで冷たくあしらわれてしまったようで。その帰り道に俺と京と遭遇。もはや原型も留めておらなんだマシュマロを差し出され、嫌な気配はせず、ただ縋るような瞳を向けられたため、受け取った。

 俺の本能が叫ぶのだ。寂しいのは、悲しいと。孤独は、つらいものだと。

 だからもし、俺が手を差し伸べる程度でそれを救えるのなら、と。

 そうして俺と京と小雪は家族同然の仲となり、それぞれの親にも話をつけた上で、俺の家に住んでいる。それぞれ用意された部屋があるというのに、二人は意地でも俺の傍に居たがった。

 逃げも隠れもせんと言っているのだがなぁ。

 まあともあれ、だ。結局ガキの意地みたいな根性で、前世は死ぬまで人と刀についてを突き詰め死んだ俺だ。それ以外がそれこそ子供程度の知識な俺だから、学ぶことが、経験が楽しくてたまらん。

 傍からみれば、俺はきっと元気なだけの、偽る必要もないほどの……正しくガキなのだろう。そんな俺を好きと言ってくれる二人。嫌いなわけがない。

 二人との朝は歯磨きから口づけへと移行するところから始まり、鍛錬に続き、風呂、食事、登校へと繋がる。

 

「今日も夜の日輪はたくましかった。気づかれないようあそこから解放した時なんて、天を仰ぐ姿に思わず感嘆の息が漏れた」

「馬鹿者。人が寝ている時にご立派様を解放するのはやめないか」

「大丈夫。いずれ私が迎え入れる。代わりに私も解放した。日輪はそのまま寝てたけど」

「なにが大丈夫なのかは分からんし、解放するのもきちんと恋仲になり、好き合ってからにしろ」

「私は既に日輪には全てを晒しても平気なくらい、日輪が好きだよ?」

「だめだ。男女の交際というものはだな、まずは告白し、受け入れ合い、手を繋ぐことから───」

「告白なら毎日してる。手を繋ぐどころか、既に指を絡めて腕も絡めて二の腕を谷間に埋めるほど密着してる。手を繋ぐことなら小学の頃に達成した。段階ならきちんと踏破済み。そして私は、きちんと日輪が好きだよ?」

「えへへー、僕も僕もー♪」

「………」

 

 顔に熱がこもるのを感じる。まったく、二人は無防備が過ぎる。

 ……まあ、その無防備を晒しているのも俺のみ、というのは分かっているのだが。

 人と刀以外に満足に学ばなかった、こじらせた純情ボーイなハートが、いざともなれば足を引っ張る。正直に言おう。我はスケベぞ。そういうことにはとても興味がある。たぶん、京もユキも分かってる。

 

「うん。日輪が責任が取れるようになるまで我慢してくれてるのは知ってる。私だって日輪じゃなくて、避妊具なんかに私の初めてを捧げる気はないよ? 育てられないくせに、そういう行為をするつもりだってない」

「京……」

「だからヌキたくなったらいつでも言ってほしい。手でも脇でもお口でも髪でも、股でもお尻でも足でも膝裏でも、どこででもお手伝いするよ?」

「よーしちょっと黙ろうか」

「んーとねー、僕はねー」

「はーいはいはいユキもそこで真剣に悩まなくていいからねー?」

「じゃあ僕、お胸でするー!」

「“じゃあ”じゃないんだが!?」

「……! 失念していた……! 胸の谷間がお好みなら───」

「違うわ馬鹿者!」

 

 ある日拾った二人の少女が、なんでかエロい子に育ってしまった。

 いや、嬉しいよ? 俺だって男の子だ、そういったもの事への興味は、正直に言った通り現代高校生男子が普通に持っている性欲並みには持っている。

 いやむしろ、子どころか恋人さえ為せなかった前世もあってか、人一倍強い自覚がある。だが、だからといってそういう行為をいつからしていいのか、その明確な常識が分からない。

 結婚してから、とかが常識だと思っていたのに、なんと今世の小学6年時点で女子と関係を持った男子が居たのだ。目が飛び出る思いだった。

 そしてそんな噂を耳にするたび、こちらの二人が熱っぽい目を一層に熱っぽくするのを首を傾げて成長してきた俺だ。

 ここだけの話、嬉しい。むしろそんな行為が出来るのなら今すぐやりたい欲求は、男の子だもの、そりゃあございます。

 けどね、一度大人になった俺だもの、無責任なのはいかん。特に二人はそういう関係の先の苦労ってものを、親を見て知っている筈なのだから。

 なので。なので、だ。

 二人の欲求を解消しつつ、嫌われない程度の関係を築くなら……? と考えて。

 

「その。……本番さえしない方向で、お前らさえよければ……いい、のか?」

今晩、部屋の鍵開けとくから……!

「おおうどうした京、そんな、歴戦の勇者が希望を胸に口にした、みたいな声だして」

 

 あと俺もお前もユキの部屋にもべつに鍵はないが。

 

「私はいつでも日輪をウェルカム。でも初めては捧げるんじゃなく奪ってほしいな。私が動いて自分で失うのはダメだよ。大変よろしくない。日輪が動いて貫いてほしい。複雑なる乙女心、10点●」

「本番はしない方向でっつっとろーが」

「うーん、僕はどんな形であれ、ひのわにあげられたらそれでいーかなー。でもひのわが起きてる時じゃないとヤだから、寝込みとかは襲いたくないねー」

「そう? 私は初めてさえもらってもらえれば、もう問答無用で夜這いも朝駆けもしたい」

「わー、あはははは! ミヤコすごーい!」

「頼むから……! 朝っぱらからそういう話を大きな声でするのはやめてくれないか……!」

「ん……日輪はこういう話、嫌い?」

「大変興味があります」

「あはははは、日輪は素直だよねー」

「他に興味をぶつける場所が、今のところ沸いてこないからな……怖いな、三大欲求」

 

 食欲、性欲、睡眠欲だっけ? 好きなもの、に対して真っ直ぐすぎた前世は、その欲求を“好き”に変換して勇往邁進することが出来た。

 けれども今世は……その好きは、既に理として手の中だ。

 痣と呼吸、そして二天道楽。強者と戦って、その力を見せつけたいなんて欲求はこれっぽっちもないとくる。

 俺が求めたのは力の先であって、その先で理と、それらに通じるものを得てしまえば、心が満足してしまったのだ。

 もはやなにかきっかけがあって、また火がつくようなことがなければ……無理だろうなぁ。というかこんな、理だとか人だとか刀だとかが金になるのか? なんて考えれば、俺はこれからなにをどうやって、この二人と生きていくための責任を果たせばいいのやら。

 ……道場? 道場か? はたまた……?

 いや、俺人に教えるとか苦手だぞ……? 伊達に人間関係壊滅的で、未だに友達0人続行人生歩んでない。前世の道場だって、一応継いだは継いだけど、俺の教え方を理解してくれる人なんて結局一人も居なかった。

 

「………」

「? ……日輪、そんなに見つめられると妊娠する……♪」

「むー! 僕も見てよー!」

「二人はかわいいなぁあ……!」

 

 これは親心? 祖父心? 兄心? 分からんけれども二人を大切に思う気持ちに嘘はない。なので、両腕に抱き着いている二人を抱き寄せようとして、無理であると悟った。両腕封じられてて、どう抱き締めろと? いくら人体を知る努力を果たした前世があろうと、この状況では無理でござんす。

 ふりほどけばいける? ははは馬鹿な、ケンゼンたる男子高校生たるもの、両腕が埋まるおっぱいから逃げ出すなど恥と知れ!

 ……うん。俺ってやつは。俺ってやつはよぅ。

 だがだめなんだ。この体が、欲求から逃げる努力を許してくれない……!

 中身、一度爺になって、鉄の棒斬ったあと道場でお亡くなりになった迷惑爺なんだけどなぁ。どこにこんな性欲が眠っていたんだか。

 ……前世の分まで背負い込んじゃいないよな? 大丈夫だよな?

 思えば自慰のひとつもしたこともない、夢精の意味も知らん人体馬鹿だった。人体を知り尽くしたと思ってたくせに、そういう方向での知識なんてゼロだった。

 保健体育? インターネットR指定? なにそれ美味しいの?

 そして今世で知ることとなった様々で、いろいろと知ってしまったあとは、京とユキに振り回される毎日だ。

 

 小学の頃に手を繋ぎ腕を組み、抱き着かれながら愛を囁かれ、恋愛方面知識がクソガキャアな俺は、“これが青春……!”なんて思って告白を了承。次の瞬間にはユキにも愛を叫ばれ、好き同士なら結婚出来る、程度の認識だった俺、了承。実に阿呆で馬鹿である。

 いや、本当に申し訳ない、本当に本当に、その程度の知識しかなかったのだ俺は。

 武に人生を捧げた男の先なんて、それ以外が零な馬鹿者程度なんだよ……。

 中学になる頃にはいろいろ分かってくることもあって、一夫多妻は無理だと知り、本当に大切な二人の中から一人を選ぶ……? え? 無理だろ……とか本気で絶望を抱いていたら、「そんなの簡単。結婚なんてしなければいいんだよ」「そうそう。そしたら僕も京もずーっと一緒にいられるよ?」……あっさり解決した。

 結婚するから不倫だの離婚だの重婚だのなんだののしがらみに囚われる。だったら最初から結婚しなければいい。

 阿呆な俺は、なるほどー! と受け取り、その答えを至上の結論と受け取って、二人と幸せなキスをした。

 

 で、高校。

 いい加減そういう簡単な話じゃないことくらい学んだ俺だけど、既に外堀なんぞは京とユキに埋め尽くされており、両親には「は? 結婚? ンなもんしなくても孫見せてくれりゃそれでいーわよ」とか、「馬鹿かお前は、結婚なんぞしたらどっちかが幸せになれないだろーが。俺はな、京ちゃんも小雪ちゃんも娘のように思ってる。男なら、好きな女の子には幸せの涙以外流させるんじゃねぇ。離婚重婚滅びろクズが。だったら結婚なんざしないで幸せに暮らしやがれ。未婚だろうが稼いで養えりゃ問題ねぇ」とか。

 ……我が親ながら、とんでもない。

 ちなみに京の親も小雪の親も、中学に上がる前とあとにいろいろ問題起こしてくれたけど、前世から引き継いだ経験と、痣と呼吸と二天からくる圧とをぶつけたら、真っ青になって逃げだして、以降はちっとも接触してこない。

 小学のうちに親としての資格を剥奪された京とユキの親。剥がされた親の権利を受け取った我が両親。俺の実家で暮らしていた時は、そりゃあもう借りて来た猫レベルで震えていた───んだけど、俺からは決して離れようとしなかった。

 で、それはそれで平和に過ごしていく内に二人も我が両親らに慣れていって、両親も目尻がとろけるほど甘やかし両親になってたんだけど……ああうん、娘が欲しかったんだってさ。悪かったな息子で。

 で、俺達が中学生になった頃に、どっかでなんかトラブル起こしたとかで、自分の娘を担保にどうにかしようと我が家に凸ってきた元京やユキの両親。

 生憎と我が両親らが仕事で出張に出ている時だったので、頼れる大人は居なかった。

 いやー、ひどいもんだったよ。ピンポン鳴って、家で過ごすことも慣れてきていた京が出て、一緒についていったユキが扉を開けた途端に髪引っ掴まれて。

 

  ───だから、斬った。

 

 ドッ、と“斬った感”が、無刀を通して腕に伝わった。

 相手───ユキの母親は訳が分からなかっただろう。

 急に腕が───肘から先が切り落とされたような感触が、腕に伝わったんだから。

 訳も分からず悲鳴を上げて蹲るユキの母親に、京の母親も驚いていたようだけど───その手が京の腕を掴み、痛がる悲鳴も無視して手を振り上げた瞬間、その腕をゾ、と斬った。てかいつの間に仲良くなったんだこいつら。

 「ひィ!?」なんて悲鳴と一緒に蹲るそいつを睨みつけ、一部始終を見ていた俺は、殺気を消すこともせずに腕を振るい、相手にも見えるほどの“像”をその手に握り───

 

「何も言わずにとっとと消えるかァ!! この場で死ぬかァ!! どちらか選択(えらべ)ぃッ!!」

 

 ───絶叫(さけ)んだ。

 あれほどの怒りは初めてだ。俺を好き、と……隠すこともなく好意をぶつけてくれる人を傷つけ、泣かせる相手。

 俺の心の奥が、痣が、呼吸が、許すなと叫んだ気がした。

 幸せが壊れる時には、いつも血の匂いがする。

 そんな言葉が一番最初に浮かんだ時は、祖父が血を吐いて倒れた時だった。

 祖母も、両親も。

 俺だけが老衰みたいに朽ち果てて、俺の周りから幸せが壊れる時には、いつもいつも血の匂いがした。

 だから。

 それを故意に起こす者を、決して許してはいけないと、そう思った。

 

  ……以降、その元両親らが姿を見せることはなかった。

 

 俺は自分で幸せの道を歩み出すことが出来たと思うし、京も小雪も、それ以降はもっと余計に距離を詰めてくる結果となって。

 自衛出来るようにと武を学ぶようになって、俺の謎すぎる教えでも必死になって受け入れようと頑張ってくれて、高校に上がる頃に、親が一軒家をガッコの近くに購入とかとんでもないことをしてくださいまして。ああうん、初めて聞いたんだけど、俺の両親九鬼ってところの結構重要な役職頂いているらしくて。「金ならあるから気にするな! ガハハハハ!」とか笑ってた。「……あと絶対に京ちゃんと小雪ちゃんをモノにしろよ。これはその先行投資みたいなもんだ。俺はあの二人以外は絶対に認めんからな」と、父親に背を叩かれてしまった。

 

 さて、そんな過去があって現在、俺は一年を過ごした川神学院に、大切なる二人に腕を封じられたまま通っているわけで。

 

「あ、ハゲおはよー!」

 

 そんな俺達の視線の先で、横道からひょっこり現れるはツルッと輝くステキなドタマ。僕らの井上準くんだ。

 

「朝っぱらから辛辣ゥ!? おい武蔵守(むさしのかみ)ィ! この前ちゃんと注意しとくって言ってたよなぁ!?」

「すまん、聞いてくれなかった」

「諦め早すぎィ!?」

「いや、すまん、ほんとすまん。どんだけ説明してもハゲとしか認識してくれないんだよ……だからほらそのー……もういっそ名前をハゲに戒名しないか……?」

「お前ほんと謝る気ある!? 俺には井上準って名前があるんだっつーの!」

「だよな。俺も武蔵守(むさしのかみ)なのに、ホイッスルって漫画の影響か武蔵守(むさしのもり)ってずーっと間違われてきたから、気持ちわかるよ……」

「へ? ……あ、あー……そういや一回で正解引き当てるにゃ、ちと難しい漢字だよな。や、漢字自体は簡単なんだが」

「ああ。だからさ……ここでちと豆知識。知ってるか、井上。井上って文字をな、井って文字から横線を抜いて、上って文字を時計周りに90度回して、その文字の右上に井から抜いた横線を置くと不思議なことが起こるんだ」

「……? ちょっと待て、自由メモに書く」

 

 井上がスマホを取り出し、指で自由に文字を書けるアプリを起動。そこにさらさらと文字を連ねてゆく。

 

「あー……まず井上って書いてー……井上の“井”から横線二本取って……? “上”を90度回して、右上に抜いた横線二本を置くと───」

「はい、ハゲ・準」

「こんな豆知識要らんかったわァァァァ!!」

「あはははははははは!!」

 

 井上は心底驚いたようで、自分の苗字の影にこんな裏が……なんて本気でびっくりしていた。そしてユキ、大爆笑である。

 

「ところで井上。今日は若はどうしたんだ?」

「ハァハァ……! あー……若だったら用事があるとかで、ちと遅れるとよ。俺も一緒にって言ったんだけど、先に行けって言われちまってなー」

「そっかー。あ、バイトの方はどうだ? 上手くいってるか?」

「そっちも問題ないな。まあもともとなんでも器用にこなす人だし、最初っから心配はしとらんが。……ま、あっちの件に関してはほんと感謝してるよ、あんがとな、武蔵守」

「親しみを感じてくれてるんなら日輪でいいぞ? いい加減俺も男子の友達が欲しい」

「お前さんの妻二人に睨まれるからやめとくわ」

「ん、とってもいい判断。ハゲグッジョブ」

「当然のようにハゲ言うのやめません?」

「ん、ハゲはとってもいーやつ。マシュマロをあげよー」

「あーはいはい、あんがとよ」

「……てか、俺に友達が出来ないのって京とユキの所為なのか?」

「そんなことない。男どもに勇気がないだけ」

「そーだよー。僕たち別に邪魔してないもん。ただずーっとひのわにくっついて、邪魔されたら殺気が漏れちゃうだけだし」

「「いやそれ十分邪魔してるからァァァァ!!」」

 

 井上と声が重なった。

 そんな俺の悲しい現状に、井上が涙ながらに俺の肩にポムと手を置きベシィ!「あいったぁ!?」……ユキに叩き落とされてた。

 

「……すまん武蔵守。男として慰めてもやれねぇヤツ相手に友達はちょっとな。南無」

「拝まないでくれます!? ユキも! 同情してくれたヤツの手を叩き落とすとかやめなさい!?」

「えー? だって今僕が頭こすりつけようとしたのに、先に手を置くんだもん」

「おーおー愛されてるねぇ武蔵守ィ。ま、俺のこととか気にしねぇでちゃあんと大事にしてやんなさいな。人に好かれるってこたぁそれだけですげぇこった。俺も若も親のことでお前さんにゃあ助けられた。こんな、手ぇ叩き落されたくらいじゃ怒ったりもしねぇよ。あ、お前さんに叩き落されるんならまだしも」

「おー、ハゲは心が広いねー。丸くなった人はやさしいってホントだったんだー」

「おいこらー? 丸くなった、って部分で人の頭見るのやめなさい?」

 

 なんというか、“S組である”ってこと以外で接点なんてあんまないのに、ユキと井上は結構会話が弾む仲だ。聞くところによると、やっぱり例の病院関連のことで世話を焼いたことで、俺に助けられた同盟、みたいなものが築かれていたらしい。俺に関係してることじゃないと興味示さないもんなぁ、ユキも、京も。

 

「でも安心してほしい。どれだけの美形や性格イケメンが現れようと、私が愛しているのは日輪だけ。一途で性欲最強な女の子なんてなかなか居ないよ……? だから私とひとつになろう? 具体的にはそこの茂みで今すぐに」

「具体案が生々しいからやめなさい」

「もちろん僕もひのわだけが大好きだよー♪ トーマとハゲとは仲良しだけど、トーマはえーっと、ばい? だし、ハゲはハゲだから、僕が好きなのはひのわだけだよ? ……あ。この言い方だしトーマがばい? じゃなければ平気みたいに聞こえるかも。ハゲはハゲだからいいとして」

「ハゲだからハゲってなに!? え!? 俺ハゲだからハゲで女子に引かれてんの!? これただ剃ってだけって言ったじゃねーかァァァァ!!」

「ハゲ知らないの? 女性が最も苦手な髪型No.1はハゲだよ?」

「いや俺べつに女子に好かれたくてハゲしてるわけじゃねーから! てかお前ら以外でここまでハゲいじってくる奴いねーからァァァァ!!」

「ハゲは今日も元気だね。そして日輪、今日も好き」

「唐突に告白するのやめような? 嬉しいけど」

 

 熱い吐息とともに、耳の傍で告白。そして隙あらば耳たぶをハムハムレロレロしてくる京さん。やめなさい! やめっ……やめないか! 俺のキカンバースがおっきしちゃうから!

 あとこういうことしてるとユキが真似して《ゴリッ……!》ギャアアアアアアアアアアアア!!

 

「耳がァァァァ!! ユキユキユキギャアアアアアア!!」

「おわぁあああっ!? ちょ、ユキっ子落ち着けぇ! 耳の形が変わるくらい強く噛むやつがあるかァ!!」

「えー? ミヤコ、噛んで出た血をぺろぺろしてたんじゃないの?」

「さすがの私もそんな猟奇的な行動には出ない。傷つけたいわけじゃないしね」

 

 ユキは加減というものを知らん。

 そしてさすがの私とか言う以前にお前もちょっとは控えてくださいね!? 家でならウェルカムだけど!

 

……。

 

 そんな騒がしさのまま2年F組に到着。

 この学校は成績順に組の仕分けをする、みたいな部分があるけれども、勉強が出来るからS組に入る、なんてことにまるで興味がない俺は、のんびり出来るし遠慮の無いF組所属である。

 S組はF組を見下す傾向があるからなぁ……そういうの、ヨクナイ。

 

「で、耳を噛まれたわけか」

「聞くは苦笑、語るは涙の物語だろ?」

「年上の女性に、構ってもらいたいからって強めに悪戯されるシチュとかなら、俺様最高に興奮するんだけどな」

「ガクトは平常運転だね」

 

 ユキはS組に向かい、俺と京はF。

 「またねーひのわー!」と元気に井上をからかいながらSに行ったユキは、最初こそ何故S組にしないのかとぼやいてたもんだけどね。

 自分の席に落ち着けば、俺の隣の京さんが離れるでもなくユキに齧られた耳をペロペロレロレロハムハムマッチュモッチュと執拗に───やめないか!

 とまあそんな感じだったので、またいつものか、といった感じの表情の直江大和くんに事情を訊かれ、説明してみりゃさっきの下り。笑ってやってください、最初は純粋に心配しての耳舐め(動物的)だっただろうに、いつの間にか興奮して愛撫((ジュウ))に変わってるんだよこの子。

 というわけで、俺の周囲に立つこやつらが、風間ファミリーの軍師担当直江大和、筋肉担当島津岳人、ツッコミ担当師岡卓也。

 リーダーである風間翔一は今のところ居ないっぽく、川神一子は自分の席でハンドグリップをニギニギしてる。

 

 

 




風間ファミリーやハゲは書いてて本当に楽しかった。
今? ……もう設定とか完全に忘れてしまっております。
今度久しぶりにプレイしてみるかなぁ。
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