凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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かるゥい感じで書きたいナー……とか思ってラヴコメを書く。
……ダメだ! なんかダイジェストみたいな話ばっかになる!
違う! もっとラヴな話が書きたかったはずなのに!
なので丁寧にこう……子供の頃の話からじっくりと~……って長いわ!
ア、アレ……!? ラブコメの書き方ってどうだったっけ……!?
そんな感じでいろいろドタバタやってるお話。

あ、べつにホモは出て来ません。


蓼添(たでそ)(いぬ)も好き好き ~ホモを添えて~

 相性というものがある。

 それは性格の問題だったり、まあその……体の問題だったり。

 俺と彼女の相性の場合、驚くことに様々な相性が良く、互いの両親も呆れたもので。

 

「「やぁああああーぁあああああああ!!」」

「うるさぁああああああああっ!?」

 

 産まれた病院も同じ。産まれた日も同じ。両親は幼馴染同士で親友同士でお隣同士。

 この世の中でよくもまあお隣同士で家建てられるような土地が余ってたもんだ。

 そんな俺達の関係は、親同士が俺達を引き合わせた瞬間から始まった。

 

「「───!!」」

 

 目も見えるようになって、世界の様々に興味を示し、けれど……初めてお互いを視界に入れた瞬間、俺達は息を飲み、互いに惹かれた。

 恐ろしいことに、その瞬間のことを今でも鮮明に思い出せるほどに。

 で、まあ、じゃあ帰りますかってことになって我が家から幼馴染の親たちが帰ろうとした際、上記のように俺達は有らん限りの絶叫をして抵抗したわけだ。

 それから……俺、戌守悟(いぬもりさとる)と彼女……蓼咲美織(たでさきみおり)の関係は、複雑かつヘンテコな方向へと転がっていった。

 なにせ手がつけられないほどにビャービャー泣き出したと思えば、互いを揃えて寝かせれば一瞬で泣き止み、夜泣きもないと来る。

 なので両親たちは考えた。

 

「なぁ。忙しい日やどうしても外せない日とかは別としてさ、お互いの家で一日毎に子供を預けないか?」

 

 ───と。

 もちろんちっとも泣かないのもあのー……声帯とかの成長の妨げになるんじゃないか……? という心配もあり、その調整も病院と相談しつつしたらしいんだけど。

 ともかく俺と美織は他の誰よりも一緒に居て、誰よりも互いのことを知りながら成長してきた、というわけだ。

 気づけば互いの両親ともに互いの子供を実子と思えるくらい可愛がるようになってしまい───

 

「……なぁシュウ。悟くんが大きくなったら、美織と結婚させるのはどうだろう」

「ああジュン、俺も常々そう思ってたんだ……。ていうかこんなべったり状態の二人、引き剥がしたら一生恨まれるだろ……。由利はどう?」

「わたしも賛成。美織ちゃん可愛いし、むしろ今言われるまで、自分の娘だとか普通に思ってたし。ねぇ香織」

「え? 悟くんも美織もわたしがお腹痛めて産んだ子だよね?」

「こらこらこらこらこらっ!」

「あははははっ、さすがにそれは冗談だけどっ」

 

 ───本人たちが嫌じゃなければ将来は結婚してほしいと、笑顔で言い合えるほどになっていた。

 それはある程度成長してからも続いていて、たとえば───

 

「お父さ───あっ」

「おおっ、ははははっ、おうおうお義父さんだぞ~?」

「~……!」

 

 間違えて幼馴染の父をお父さんと呼んでしまった時でも、ニィイイコオオォオとモノスンゲェえびす顔スマイルで頷かれることもあったり、

 

「あの、おばさ───」

「お義母さん。……お義母さん、でしょ? 悟くん」

「オ、オカーサン……」

 

 おばさんと呼ぼうものなら般若さんが誕生するくらい香織さんに睨まれたり。……なお、この場合は『おばさん』呼ばわりが嫌なのではなく、他人行儀なのが嫌だという理由らしい。

 

 ちなみに我が家の家族は、

 父が戌守秀明(ひであき)。秀、をシュウとしてあだなで呼ばれている。

 母が戌守由利(ゆり)。美織の母と百合ぃ関係を疑われた時期があったらしい。

 

 美織側の方は、

 父が蓼咲潤二(じゅんじ)。あだ名はジュン。父さんとは幼馴染らしい。

 母が蓼咲香織(かおり)。母さんとは幼馴染かつ大親友らしい。

 

 父さんと潤二さんは同じ女性を好きになって同時にフラレた経験があるらしく、そのフラレっぷりがあまりに悔しいものだったため、『血の涙すら流せそうだ……!』と二人で一緒に呟いたその日から、潔癖ならぬ血癖の絆を結んだのだとか。

 母さんと香織さんは昔っから距離感がおかしく、百合を疑われるレベルだったと父さんも潤二さんも語ってる。

 

 けれど母さんも香織さんも父さんと潤二さんには一目惚れレベルで恋に落ちたらしく、二人協力してぐいぐいと押して、父さん方をオトしたのだとか。

 父さんいわく、気づいたら結婚してた……! らしい。

 けれど好きなのも事実なので、現在に不満なんてこれっぽっちもないんだとか。

 もちろん、といっていいのか、潤二さんもそんな感じで───お陰で今でもラブラブなんだとか。

 

  そしてそんな愛戦士たちの間に産まれたのが僕たちです。

 

  本当にありがとうございました。

 

 「そりゃね、こんなラブラブに育つわけよ」とは母と香織さんの言葉です。

 もちろんそんなやりとりの最中にも俺と美織はくっついてるってくらい一緒に居て、

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

 ……うん。居た。一緒に。

 や、相性とか……あるよね? 俺と美織、香り的な意味での相性もめちゃんこいいみたいでさ、言ったらもうアレだけど、体臭がめっちゃ好みなの。体からマイナスイオンとフェロモン同時に出してる? ってくらいお互いに惹かれてるみたいにさ、物心ついた頃から抱きしめ合って深呼吸なんて当たり前。

 

「さとくんのにおい、すきー……♪」

「ぼくも、みおりちゃんのにおい、すきー……」

 

 そんな俺たちですもの、汗の味を味わったこともあれば、舌の味ってどんなのだろ、とか言って、意味も知らずにディープキスをしたこともございます。

 しかもそのディープキスというか、相手のこう……口の中というか、唾液? の味が麻薬みたいに脳や心にガツンとくるシビレた味でございまして。自制も利かないクソガキャアがそれに抗えるはずもなく、俺達は暇さえあればレロレロチュッチュしてました。

 もちろん、といっていいのか、こんなにシビレる美味しさは自分達だけの秘密だって、他の誰にも、親にだって内緒でチュッチュしていた。

 のちに美織が読み始めた少女漫画でキスの意味を知るまで……いや、まあ、知ったあとでもしていたのですが。

 やがて小学校高学年から中学あたりになって思春期が訪れると、男子も女子も異性というものを意識するようになる。女子の方が早く訪れるらしく、女子が男子を子供だ~とか思う理由の主は大体そこらへんにあるらしい。

 ちなみに俺と美織の場合はというと……

 

「ひゅーひゅー! 悟がまーた奥さんとラブラブしてるぞー!」

「? まだ奥さんじゃないけど、好きな女の子とラブラブしてなにが悪いんだ?」

「!? お、女とずっと一緒とかダッセェの! 男ならなぁ───」

「好きな女の子ひとり守れないでなにが男だよ。自分のちっさいプライドより、俺は大好きな女の子を優先する。一緒に居たいって近づいてきてくれる女の子を突き放してまで見栄張るのがお前の言う男なら、俺はそれこそダッセェって思う。お前のお父さんにも訊いてみなよ。そんなのが男なのか~って」

「っぐ……!! うっせえうっせえ! とにかくだっせぇえんだよお前は!」

「西野さぁ……お前、たとえば親がいきなり怒った時、こっちの言い分なんにも聞いてくれないで怒鳴ってばっかの時、ださくないって思うか? 話くらい聞いてくれって思わないか?」

「……っ……ぁ……」

「……俺さ、ほんとに美織が大事で大好きなんだ。守りたいって思ってる。それってさ、ほんとにださいかな」

「………」

 

 ……そう。俺は思春期が訪れようと、男のちっさいプライドよりも美織を選んだ。反抗期が来ようと、家族との安穏を選んだ。おきまりの『ヒューヒュー! お前ら二人、ラブラブ夫婦ー!』もむしろ肯定して、愛してますが、なにか? と胸を張った。

 美織の肩を抱いて引き寄せ、美織も俺の胸に身を預けて、ほやぁ……と笑顔でございました。

 そんな思春期と反抗期が混ざり合う一時期、美織がお父さんの服と一緒の洗濯を嫌がりそうな時があって、なんでか真っ先に俺に相談してきたんだけど……自分の気持ちや世界の常識に自信が持てない思春期って時期は実に厄介。

 素直にヤッフィー知恵袋先生に訊ねてみれば、やっぱりそれは思春期ってやつの所為でして、誰にでもやってくる衝動だったんだそう。

 だから俺は、美織と真っ直ぐに話し合った。それはもう話し合った。

 

「美織。俺は、美織が潤二おじさんのことが大好きなのを知ってるよ。俺だって父さんのことが好きだ。でも、最近父さんにも母さんにも妙な苦手意識が出てきてる」

「さとくんもなの……?」

「うん。で、調べてみたんだけど、それは思春期と反抗期ってやつの所為みたいでさ。誰だってそのー……細胞の所為で、同じ細胞を持つ人を遠ざけようってするみたいなんだ。独り立ちするために親から遠ざけようとする習性だ~なんてことも書いてあった」

「そう……なんだ」

「うん。でもさ、俺……そんなのに負けたくない。俺、家族が好きだよ。面と向かって言うのは恥ずかしいけどさ、すっごく言いづらくなっちゃうくらい、照れの所為で言いたくもない別のことを言いそうになるくらい苦手だけどさ。大事だし好きなんだ。だから……俺達、そんなのに負けないくらい、家族を大事にしよう? もしひどいこと言っちゃいそうになったら、この人たちのお陰で、俺と美織は一緒に居られるんだって……大事な大事な恩人なんだって強く強く想おう? そしたらきっと、こんなつまらない細胞にだって勝てると思うから」

「恩人……? さとくんと一緒に居られる状況を作ってくれた……───ぁ……そっか。そっか……うん、そっかぁ……!」

 

 そう。だから、俺達は、自分達で意識改革をして、思春期をお互いの愛でブチ破った。お陰で反抗期だろうとなんだろうと、心が反抗しそうになったらお互いを抱き締め合って、お互いで微笑みながらファイオーした。

 家族にしてみたら急に抱き合って、笑い合って、家族に愛を叫ぶバカップルである。

 けど、俺達は隠すことなくそれを語った。

 

「あの……潤二おじさん。あのさ。俺達、なんか急に家族と親密なのが恥ずかしい、なんて考えるようになっちゃってさ」

「ン? あ、あー……反抗期か。や、そりゃしょうがないぞ、悟く───」

「だから、恥ずかしいと思った分だけ家族への愛を語ろうって思った!」

「なんで!?」

「あ、あのね、お父さん。わたし、お父さんのこともお母さんのことも大好きだから! こんな、よくわからない細胞の衝動になんて負けないくらい、ちゃんとちゃんと好きだから! 照れ隠しで傷つけたりなんか絶対にしないから!」

「え、あの、美織? それは嬉しいんだけど、べつにお母さんもお父さんも、それはちゃんと反抗期のものだから~って分かってるから、そんなに頑張らなくても───」

「「いやだ!! 好きな人のことをわざと傷つける人になんかなりたくない!!」」

「「「「……もうやだ……! 娘と息子が可愛すぎる……!!」」」」

 

 お互いの両親は手で口を塞ぐようにして、耳まで真っ赤になって俯いていた。

 そうして俺達は『反抗期』にこそ反抗して、照れが脳裏に浮かぶたびにそれに対抗し、敢えてその照れる原因へと飛び込み、愛を証明し続けた。

 

「いや、それはそうじゃなくてな? はは、悟にはまだちょっと早かったか」

「───!」

「……! さとくんっ!」

「わっ! …………うん、ありがと、美織」

「うん」

「……お、おう? 美織ちゃん? どうした? 急に悟に抱き着いて……って今に始まったことじゃないけど。え、なに? なんか親の知らない間に、二人に謎の定番行動みたいなことが……」

 

 けど、細胞レベルの反抗って本当に厄介で、ちょっとの小言でカッとなることとか結構あるんだ。親がどれだけこっちのことが心配で声をかけようと、どれだけ俺達の関係について知りたいから声をかけただけであろうと、一度カッと来ると止めるのが難しい。

 だからその瞬間を瞬時に察し、声を荒げてしまいそうな相手を抱き締め、心を落ち着かせる。俺だけじゃなく、美織だって同じなのだ。

 俺との関係を何度もつつかれたらカッとすることもあるし、ほっといてよと叫びそうになることだってあるのだそう。それはもちろん俺もだ。

 だからそんな瞬間がすぐに分かって、衝動的に動きそうになる相手をぎゅうっと抱き締めるのだ。 

 

「───……ぅうううう~……!!」

「美織、大丈夫だから。恥ずかしいことじゃないよ。恥ずかしいことでも、俺の前なら我慢しなくていいから。俺も何度も美織に救われてる。いつもありがとう、美織」

「~……さとくん、さとくん……!」

「えぇええ……? 自分の失言にハッとした途端に目の前で抱擁祭り……? 娘と息子にしか理解できない謎の行動が増えてきて、お母さん困惑しきりなんだけど……!」

 

 そういう時は途端に自分が恥ずかしくなって、抱き締めてくれた相手の胸や首に顔をうずめ、泣きそうになってしまう。

 本当に、叫びたいわけじゃないし怒鳴りたいわけじゃないのに、この反抗期ってやつは困ってしまうくらいに厄介で、俺たちはそうしてお互いを守り続けた。

 あ、もちろん親にも「これこれこういうわけだから、あまりからかったりつついたりしないでほしい。もうちょっとで落ち着けると思うから」って注意するのも忘れない。

 

 すぐ近くでラブコメしてりゃあつつきたくなる気持ちも、まあわからんでもないのだ。しかもそれが愛しの娘と息子なら。

 でも、子供からしてみれば近しい人にそういうことをつつかれるほど、叫びたくなるほど、怒鳴りたくなるほど恥ずかしいものはないわけで。

 ……そこも素直に胸を張れれば良かったんだけどね。親にはさ、ほら、つつくんじゃなくてさ。ほら、ね? そこは普通に祝福してほしいのよ。俺も、美織も。

 基本、ぽやぽやさんな美織だけど、そういうところではきちんと割り切ってほしいって気持ちは強いのだ。もちろん俺も。

 

「あの……父さん。俺も美織もさ、俺と美織の仲を祝福してほしいんであって、つついてほしいわけじゃないんだ。相変わらずラブラブだなぁ~とか言うんじゃなくて、見守ってほしいっていうかさ」

「すまんそりゃ無理だ。俺や母さんやあっちの二人も、お前たちが可愛くて仕方がない。手がかからなかった所為かなぁ……お前らの青春に首突っ込みたくて仕方がないんだ。将来的に多少迷惑かけてくれたっていいから、存分に楽しませてくれ」

「───」

「あ、もちろん美織ちゃんも。……あ、こういうこと言うと大体二人はどっちかに抱き着いて、ぎゅ~ってして胸に顔をうずめたり───」

「───」

 

 だから、二人で一気に臨界点突破した時は、ズッパァン! と、スリッパが良い音を立てたりする。なお、振るうのは我が母か美織の母である。

 

「つつくなって言われた途端につつくバカがどこに居んのこのドアホ!! あんたこれが原因で二人の仲がぎくしゃくしたらどーするつもり!?」

「い、いやっ! こぉんなちっこい頃からラブラブしてる二人の関係が、今さらこんなことで壊れるわけっ───!」

「いい仲ってのはそれだけ状況に慣れてるから、そんな些細で壊れちゃうもんなの! あたしたちの高校時代にも居たでしょーが! 幼馴染で恋人関係だったのに、他人のちょっかいの所為で別れちゃったのが!」

「うあっ……あ、あー……居た、居たわ……。あの時は嘘だろってみんなして言ってたし……で、でもさぁ、うちのふたりは別っていうか……なぁ?」

「はぁ……。そういう方向の『まさか』は信じないこと。あんたこれで本当に別れることになったら、二人にももちろんだけど、香織たちにまで相当根深く恨まれるわよ……?」

「うぐっ……ご、ごめんなさい」

「謝る相手が違うっ!」

「いやいやすぐ謝る気だったって! あ、あー……その、すまなかった、二人とも。悪気はなかったー……というか、二人の関係に茶々入れるつもりはなかったというか。応援したい気持ちしかないんだけど、その応援の仕方がマズかったというか」

「きっぱり!」

「すんませんっしたぁああああああっ!!」

 

 そんなこんなで、つつかれることは……無くなりはしなかったけど、少なくはなった。俺達は心の底から安堵して、互いに抱き締め合い、頑張ったな、頑張れたねと互いを褒めた。

 こんなことで褒めてくれる人なんて、きっと互い同士しか居ないから。

 

「…………、ね、さとくん。ここ、わかる? 詰まっちゃった」

「ん、ここはたぶんこっちと同じ解き方。えー……っと、こう、でよかったと思う」

「あ、そっか~。うん、ありがと~、さとくん」

「いいよ。俺がつまった時もよろしく」

「うん、頑張るね」

 

 中学での扱いは、もはや公認夫婦みたいなものだ。

 からかわれる度に許嫁カップルで、純・異性交遊として学校側から許可を得てますが? と説明すると「コイツらマジか……!?」と驚かれたもので。

 実際に親が学校側に話を通してくれて、俺と美織に関しては不純ではないので注意することはしないでください、という言葉に許可が下りた。こっちがマジかだよ。

 我らの親、何者……? いやもちろん節度を、とは注意されたらしいけど。親から俺達にもその注意はきたけど。

 

「驚いたよねー。まさか学校側に許可を取るなんてねー」

「美織は可愛いからなー……許可してくれた学校側には感謝だ」

「? なんで? わたしが……えと、か、かわいい、と、なにかあるの?」

「(照れてる美織かわいい……!)……許嫁だってきっちり言えるし、学校側にも認められてるから嘘じゃないって他の男どもに理解してもらえるからな。これで、美織に言い寄る男子が滅せる」

「えー? わたしに言い寄る男の子なんて居ないよぅ」

「いや……自覚しような美織。自覚して? お前ほんと可愛いから。中学になってから綺麗と可愛いが混ざってやばい魅力があるから」

「だってわたし、さとくんのことしか興味ないよ? 他の男の子になに言われても、えっと……なんて言えばいいのかな。心がね? 胸の奥がね? なんにも響かないの」

「響く……」

「うん」

「………」

「?」

「美織」

「うんっ、なになにっ? さとくんっ」

「……好きだよ」

「ふっひゅっ……!?」

 

 響くとはなんなのか。

 考えてみて、名前を呼んでみれば、他の男子のことを考えていたからか不貞腐れ顔に近い無表情っぽかった表情が、ぺかーっと眩しい笑顔に変わる。そして大好きな主人に名前を呼んでもらえた犬のように、なになになになになにっ? と腕に抱き着いて見上げてくる。

 あーもう可愛いなぁ。そんなことをしみじみ思いつつ、響く、というものを試すために自分の正直な気持ちを打ち明けてみた。───ら、顔がぐぼんっ! と真っ赤に染まった。

 なるほど響いてる。

 わたわたと慌てたのちにはわはわとあたふたして、やがてぽしゅう……と煙を噴きつつ、真っ赤な顔で「わ、わたひも好きだよ、しゃとくん……」とカミカミ語で返してくれた。

 純粋である。ただし俺に向けてだけ。

 女友達とは普通に話すし、綺麗な笑顔を見せている。どこかぽやぽやで、たまに喋り方とか間延びしてるときがあるけど。どちらかというと綺麗な女の子って感じの印象を持たれていると思う。

 男子に声を掛けられれば事務的と呼ぶのが一番相応しい対応で終わる。笑顔? ほぼ無い。

 なお、俺に対しては。

 

「さとくんさとくんっ、えへへへへさとくん、さとくぅ~ん……♪」

 

 尻尾を振りまくって腕にしがみつく犬、大好きな人を前にして悲鳴にも似た声をあげる狐、しがみついて離さなくなる猫がごとく。

 表情はとろけてるし、基本笑顔だし、にらめっこしたら刹那に終わる。

 名前を呼べば幸せそうで、二人きりになればキスもするし、一日一回はハグをしないと落ち着かない。

 ……なお、これって普通じゃないの? と幼いあの日に母に聞いた時、「なに言ってんの、あんたも似たような感じじゃない」と当然のように言われた。マジすか。

 同じ日に美織も香織さんに訊いてみたらしく、同じように言われたとか。

 ちょっと待って? 俺美織の前で、そんな犬猫みたいな状態になってるなんて知らんのですが!?

 

「や、アンタの場合は(つがい)を守る雄鶏(おんどり)、一途な愛を見せるロシアンブルーって感じかなぁ。雰囲気でバレバレっていうか、この娘は俺の大切な人だから近づくなってオーラが凄いのよ。むしろ隠そうともしてないでしょ」

「え? だって大切な人は守るものだろ? 父さんから教わったし母さんもそれでこそ男の子だって言ってくれたじゃん」

「───あ~……」

「え? も、もしかして嘘だったのk───」

「違う。嘘なんかじゃないし、あんたはそれでいい。むしろよく守っててくれたって感心してたんだよ。よし、お小遣いUPしてあげる。あんたは立派だ。おかーさん、鼻が高いよ」

「そ、そっか。……いや、さ。学校とかだと女子にひどいことする男子とか結構居てさ。なんであんなことするんだろって。首突っ込んだらさ、なんかナイト様だーとか指差されるし」

「悟。おかーさんも、おとーさんだって言ってやる。あんたは間違ってない。胸張りなさい。自信持ちなさい。香織や潤二くんだって絶対に頷いてくれる」

「で、でもっ! ……他の女子の肩を持ったら、あいつら……不倫だーとか言い出して」

ちょっと待ってなさい悟。学校に用事が出来たわ……!

「エ? あ、う、うん……?」

 

 バッ……と突如歩き出し、着替えをし、スーツ姿の母が家を出て行った。

 隣の家───美織の家に行ったようで、少しして香織おば……もとい香織さんもスーツ姿で出て行った。

 その後になにがあったのかは知らないけど、学校で女子に意地悪していた男子は顔をボコボコにして登校。

 女子に誠心誠意謝罪をし、それからの中学校生活を身を小さくしながら続けていった。

 そんな状態のまま中学は終わりを告げ、もちろん俺達も卒業。

 同じ高校に入学、同じクラスであることに喜び合い、その後。

 

伊香畑東(いかはたひがし)中学出身、戌守悟です。趣味は運動勉強その他もろもろ。よろしくお願いします」

「はい。えーと、戌守くんに関してはちょっと学校側からみんなに伝えておくことがあります」

「え? なんだなんだ?」

「もしかしてやべぇやつとか?」

「え? 漫画とかでよくある理事長の孫とか?」

「ばっかそんなの実際にあるわけないだろ。大体、この高校の理事長、孫が居るとしても高校ってのは有り得ない年齢だったし」

「じゃあ息子か娘?」

「……ミルク色の異次元(それがありえるかも)

「はーい静かにー。ええっとね。戌守くんはこのあとで紹介する蓼咲さんと許嫁の状態で、ようするに婚約者同士です。学校側が認めている公認カップルみたいなものなので、二人の関係についてはつついたりしないように。いーい? 不純異性交遊ではなく、既に将来の決まった純・異性交遊だから、ほんと絶対にちょっかい出さないようにね! ……下手に手ぇ出したら潰されるからね、なにかに」

「「「「「なにかに!?」」」」」

 

 高校一年。自己紹介の時、ちょっとした騒ぎになった。

 まあ、話題には事欠かない俺達だとは思う。

 

「えっと。先ほど先生からご紹介に与りました、蓼咲美織です。蓼食う虫も好き好き、の蓼が咲く、って書いて、美しい織物、って書いて蓼咲美織です。えっと、さとく───悟くん、えへへ……戌守悟くんの婚約者さんです。許嫁って聞いて、親が勝手に決めた、とか思う人も居るかもですけど、わたしはちゃんと、とっても悟くんが大好きです。お互いの両親とも生まれた時から家族のようなものなので、死にたくなかったら間に入る~とかやめてくださいね」

「「「「「(ぽやぽやした顔で怖ッ……!!)」」」」」

「あっと……俺からも一つ。許嫁でも一方だけが好きなだけ、とかありそうだけど、俺もちゃんと美織のことを愛しているので、邪魔をしようだとか絶対に俺の方が幸せに出来るとかそういう割り込みとかやめてくださいね。両親が大の仲良しであることもそうだけど、俺も美織もお互いの両親と、それこそ親子ってくらいに仲がいいので、もし俺と美織の仲を裂いたとしても、俺達の親にフルボコられて終わるだけなので」

「……ち、ちなみにええっと戌守? もし仲を裂けたとしても、とか言ってたけど、お前自身、関係を裂けられるとは───」

「やあ前の席の前友くん。そうだな───思春期だろうが反抗期だろうが、細胞レベルの行動に美織のために耐えきった俺だ。他の誰にだろうと美織を譲るつもりはこれっぽっちもない」

「すっげぇ自信だぁあーっ!?」

「わ、わたしもっ! わたしも、誰にからかわれたって、誰にどんな嘘を吹き込まれたって、さとくんのことしか信じないし好きじゃないからっ!」

「いっそ清々しいなオイ! あーでも、好きって感情って数年しか保たないって聞いたことあるぞ~? 大丈夫なのかよオイ~♪」

「? 産まれてから出会って今日まで、俺達はずっと好き合ってるぞ? 数年どころじゃない。十年以上だ」

「うん。赤ん坊の頃に初めて出会った時のことも覚えてるくらい、わたしとさとくん、運命の出会いをしたって意識があるんだよ?」

「赤ん坊の頃ォ!? いやいやそれはさすがにっ……!」

「いやマジだ。一目惚れして、離れさせられそうになった時にギャン泣きして抵抗したのも覚えてるくらいだ」

「えへへ、うん。わたしも離れたくなくて、思いっきり泣いたんだ~♪」

「親にも確認取ったら、『なんで覚えてんのアンタ!』って心底驚かれた」

「「「「「(こいつらやべぇ……マジだ……!)」」」」」

「はいはい。というわけで、戌守くんと蓼咲さんの関係については妙にからかったりつっかかったりしないこと。むしろその愛の行先を見守る方向でいきなさい。───ちなみに二人の両親は妙に顔が広くて、この学校の理事長とも友人関係にあるから。下手すりゃ自分らの青春が死ぬと考えておきなさい」

「「「「「()ッわぁああーっ!?」」」」」

「……! 崇高なる恋愛の波動を感じる……!」

 

 と、そんな感じで自己紹介の時間は過ぎて、本日は特にすることもないまま、まあ学校に慣れなさい的な話があっただけで終わった。

 初日から出来たクラスの誓いといえば、『イヌタデコンビには手を出すな……!』なんて、奇妙な誓いめいたものだけだった。*1

 あとは帰るだけ───って時。そう……俺がお花を摘みに行っている時に、それは起こったそうな。

 

「あの……蓼咲さん」

「? なに? えっと、愛束(あいづか)さん」

「蓼咲さんって戌守くんの許嫁……なんだっけ?」

「うん」

「それってそういう歳になったら結婚するってことだよね? その……こんな頃から結婚を決められる~とか、不安になったりしないの?」

「不安? ん~……ないかなぁ。たとえばどんなことが不安になると思うの?」

「ほら。大学生になったら~とか、社会人になったらもっと素敵な人が見つかるかも~って」

「あ~……そっか~。うん。大丈夫。それに関しては、いくらわたしでも断言できるよ? わたしにとって、さとくん以上、さとくんよりもっと素敵、なんて有り得ないから」

「えっ……で、でもさ、私たちまだ……って言ってもあれかもだけど、高校生だよ? 好きな気持ちって数年しか続かない~っていうし、案外───」

「えっと、心配してくれてるんだよね? ありがとう。でも大丈夫。これはわたしとさとくんの恋で愛で婚約だから、わたしたちだけで対処できるうちはわたしたちだけで頑張るって決めてるんだ」

ワオ……。ゼン……

「? ゼン?」

「すっごい自然に恋に真っ直ぐだねって言ったの! 自然のゼン! いい! すっごくいいよ蓼咲さん! これは出来る! 応援出来る! ちょっとの揺さぶり程度では微塵も揺るがぬその恋道! 少女漫画とか韓流ドラマのあのくされドロドロ感とか全く無しの純なラヴ! アッ、申し遅れましたワタクシ、愛は純であれ同好会名誉会長の愛束恋愛(あいづかれんあい)! ありそでなさそな、まさかのそのまま“れんあい”な恋愛! 本名である!」

「あ、うん。自己紹介の時にさとくんが二度見してたから、全然覚えてるけど……」

「お、おう……いやー……恋愛って名前、もちろん馬鹿にされたりしたんだけどね? 私は学びました。恋愛は素晴らしいものだと。そんなものと一緒の名前である私は、胸を張るべきだと。なので崇高な恋愛をしている人は純粋に応援したくなるのです。分かりやすいですか?」

「愛束さん自身は崇高な恋愛をしてるの?」

「ハッハァーンッ! 私は他人の恋愛に興味はあっても自分の愛などドゥー! ディェモ! イー! あ、ただし“面白いから~♪”などという理由で、友人の恋愛を腐れ根性でつついて叩いて囃し立てるカスなど滅べ委員会の会長でもあります。あれ素直に死ねって思う。クソ行動だと思う。知りなさいレディースアンドジェントルメン。人の恋愛は下手すりゃ人生に影響します。貴様らの所為で本当なら幸せになれた筈のカッポゥ予備軍が取り返しのつかない関係になって、恋と愛にトラウマをもったら貴様、そんな彼と彼女の人生に責任持てんの? 持てないでしょ? はい♪ というわけで死ね

 

 とても良い笑顔でポムと手を叩き、死ねと仰る女の子を前に、美織は硬直したそうです。

 愛束恋愛。小学からここまでをたまたま同じクラスで生きて来たらしい人物によると、小学の頃に名前のことで馬鹿にされ、けれど彼女は泣いたり悲しんだりするどころか、『だったらあんたたちは恋も愛も知らない親から産まれてきたんだ! 恋愛を馬鹿にするってそういうことなんだから!』と……まあ、随分とお強き意志で言い返し、彼女を囲んで馬鹿にする馬鹿者どもを、ちぎっては投げしてきたらしい。

 なもんだから、彼女は崇高なる恋愛、というものを好むようになったと。

 

「あ、私、他人の恋愛に興味があるっていったけど、首を突っ込んだりはしないからね? 見守る姿勢こそ傍観者の基本。面白そうだから、などという理由で首を突っ込むことなぞするものですかい。というわけで友達になったとしても恋愛相談してきたら、アブソリュートあんちくしょうと言われようとも突き放します」

「あの、えっと。アブソリュートって、絶対的とかって意味で、絶対零度的な意味でいいたいなら、アブソリュートゼロって言わないと、絶対的なあんちくしょうさんになっちゃうよ……?」

「冷静にツッコまれると恥ずかしいのでやめて……知ったかしてすいませんでした」

 

 と、いうところで俺が到着した。

 彼女……愛束さんは俺を見るなり「婚約者だ!」と言って、まだまだ新しい制服をバッババッババピシパシビッシィーンと整えて、蝶結びの細いリボンをカートゥーンアニメのように胸を張りながらググゥ~グググピィーンッ! と伸ばし、むふーんとした笑みを浮かべて、

 

「やぁやぁ婚約者くん! 我が名は恋愛! 名乗らせてもらおう───愛束……恋愛! ついさっきキミの婚約者さんの蓼咲美織ちゃんと強引に友達になったクラスメイツさ!」

「なったの? 友達」

「なってないよ?」

「強引に! 強引にってところ拾ったげて!? そして何を隠そうこの私! 恋と愛が大好物! 是非婚約者くんとも友達になりたいのですがどーでしょーか!」

「え? あー……男女の友情って」

「成立する! 何故なら私は男にクソほどの興味もない! ……恋愛ってさ? 女の子見てるほうが心ほっこりするじゃん? 男なんてうじうじもたもたするばっかりで、そりゃあ女の子だって“告白されたい願望”が強すぎてほんっとこのカス……! って時もあるけど」

「えーと……男女の恋愛は?」

「見守ることこそ至高!!」

「友達になりましょう」

「よろしく友よ! さあさ蓼咲さんも!」

「えぇ……?」

「そこで嫌そうな顔しないで!?」

 

 ……いろいろあって、友達になりました。

 

……。

 

 蓼食う虫も好き好き、という言葉がある。

 蓼、というのは『たで』と読み、実は独特の辛みのある草のことを指す。

 一般的に、食用にも薬用にもなるヤナギタデを指すことが多く、苦い蓼の葉でも好む虫はいらっしゃるのよ、という意味で使われる。

 人の好みは人それぞれだ~って意味だね。うん、分かりやすい。

 ちなみに俺は苦いのも辛いのも平気である。……関係ないね。 

 

 さて。早速だけど、俺には幼馴染がいる。

 家が隣で親同士が親友同士、生まれた日も生まれた病院も一緒だし、あるのはほんのちょっぴり俺が早く生まれた~ってくらいの違い程度だ。

 なんで幼馴染云々のことを語り出したのかというと、これから説明する俺の現状の中で、これはとても重要なことだからだ。

 というか、この話の内容は幼馴染と俺のことが大半を占めているので、『あ、幼馴染とかいう負けヒロイン枠はもう間に合ってますんでブッフォオwww』とかいう煽り文句は必要ない。

 むしろそんなことを言ってしまえば、俺達の命が危ないレベルだ。

 

 さて(二回目)。

 なんでこんなことを言い出しているのかといえば、俺達がうんと小さい頃に、おかしな夢を見たからだ。

 いやトチ狂った~とかではなく、マジで。

 あ、俺達は別に前世の記憶がある~とか転生者だ~とかじゃあ断じてない。

 ただ、子供の頃に『幼馴染の神』って存在と夢で出会って、祝福されただけのふつ~~~ぅの一般男子と女子だ。……だった。

 だった、というのは、その幼馴染の神ってやつの所為で、俺達が幼馴染っぽい行動を取るたびになにかしらの能力が向上していったことがすべての始まりだった。

 や、能力向上とか言ってもそれが見えるわけじゃない。

 最初の頃こそそういうものなんだろう、なんて思いつつ、運動をしていたわけでもないのに運動が異常に得意だったり、勉強をしていたわけでもないのに勉強がある程度出来たり。

 

 勉強にはコツがある、と某CMでやっておりましたが、そのコツというのを掴むのが上手かったのだ、俺も、幼馴染も。あくまで幼馴染の神のお陰で。

 もちろんそれがずうっと続くわけでもなく、ある程度の初期ブーストとして備わっていた程度らしく、努力をしない怠けものをいつまでも祝福するやつなんて居ないのと同じように、俺達のそのー……幼馴染の神が言うところの、幼馴染の祝福? も、少しずつ力を失っていった。

 

  ……あ。勘違いされたくないから言っておくけど、努力は続けたぞ?

 

 子供の頃に見た夢の中でも“あ、これやべぇ”って思えるくらい圧倒的な存在感を持っていた“神”なんて存在が、自分に『最近の幼馴染って地位がやべぇので、全力で幼馴染を幸せにしなさい』って言ってきたんだ。

 努力しないとどうなることか、わかったもんじゃあないってもんで、俺も子供心に必死に頑張ったよ。

 始めてしまえば、続けてしまえば、努力はもう完全に自主的なものになっていた。こうしなきゃいけない! なんて強迫観念に突き動かされたわけじゃなく、自分が純粋に幼馴染を幸せにしたいと思ったから行動した。

 子供が持つ知識量で、どう行動すれば相手が喜んでくれるのかなんて、分からんもんだよ。行動に出てみれば親に怒られてしまった、なんてことはあなたにも経験があると思う。喜んでくれると思ったのに怒られて泣いた、なんて経験、もちろん俺にもあった。

 でも、そのたびに目の前に選択肢が出てきて、どうすればどれほど喜んでくれるのか、そしてその喜びがどれほど続くのかが分かった。

 ……厄介なことに、幼馴染に関係すること限定で。

 

 たとえば、彼女が泣いている時にどうするか。

 『慰める』の場合は好感度が3上がる。でも持続は5。

 『黙って傍に居る』の場合は好感度は1上がる。でも持続は7。

 『ほっぽって家に帰る』の場合は好感度は8下がって、持続は15。

 

 よーするに瞬間的な好感度の上昇を取るか、長い目で見て持続する好感度を選ぶか~って感じで、重要な時は絶対に出て来た。なお、その際に世界の時間は止まった。

 便利だなぁとか思うかもだけどこれが案外困ったもので、持続を取ってみればまたすぐ選択肢が出てきたり、瞬間的な好感度を選んでみれば、しばらく選択肢が出てこなかったりと、狙ってんのかコノヤロウってくらいに上手くいかない時もあった。

 えーと……分かる? 持続的な好感度が少ないと、拗ねる時があるのよ。

 や、それが面倒だとか思ってるわけじゃない。それはそれで構って構ってって言ってきてるみたいで心はとってもほっこりする。もともとぽやぽやした幼馴染だし、彼女を甘やかす……というか、構うのが自分は大変好きだ。

 でも、自分がそれを狙っているみたいで嫌なのだ。

 選択までしてなにを、とか思うじゃない? でもさ、選択肢よ出ろー! とか思った瞬間に出てくれたことなんてないし、なのに選ばなきゃ先に進めない。

 嫌われる選択なんて選びたくないし、なのに『これを選べば幼馴染は俺にデレデレにムヒョヒョヒョヒョ』とかそんな感じの選択肢しかなかった時の、あのものすんごい複雑な気持ちが分かるだろうか。

 

 結論から言おう。俺は幼馴染が好きだ。大好きだ。

 だからこそ選択肢で操ってる感が結構苦手だし、苦手なくせに選択肢様に随分助けられてきたし、そもそもそれが無ければ幼馴染に好意を持たれる自信さえなかった。

 幼馴染は綺麗で可愛い。スタイルもいいし、ぽやぽやしてるのに運動勉強なんでもござれ。

 ガッコに行けばいろんなやつに声かけられるし、告白だって男女問わず、何回されたか分からんくらい。

 そんな彼女が俺の傍に居たがってくれるのは、選択肢と幼馴染の祝福があったからだろう。

 

 幼馴染の神が夢に現れた日、俺は神に幼馴染についてそれはもう語られた。

 異性の幼馴染の素晴らしさ、異性の幼馴染の稀有さ、よく知らん他人事の幼馴染の話ではなく、俺の幼馴染である彼女───蓼咲美織という存在の素晴らしさを。

 子供ってのは基本、一に頷くか意味もなく反発や否定から入るかだ。

 俺はきちんと事実を事実と受け止め、一に頷いた。だってかわいい子である、とは普通に思うし。笑うと可愛いし、親に『男は女を守るもの、なんて言葉があるけど、他を守る暇があるならあんたは美織ちゃんを守ってあげなさい』なんて言われて、素直にうんと頷ける俺だったから、頷いた。

 そしたら二にも頷けるってもんで、俺は幼馴染の神が続ける言葉に、次から次へと頷いた。気づけば幼馴染を愛するクソガキャアの出来上がりである。我ながら単純だ。

 

 さて(三回目)。

 そうなれば単純な子供がどう動くかなんてのは、それこそ馬鹿らしいほど単純なわけで。美織に好かれるために、美織を守るために、美織の傍に居ておかしくない男であるために、それはもう努力を重ねた。

 幸いなことにそこそこ見れる男に産まれたらしい俺は、よくある『なんでそんな男に!』と周囲に即否定されない程度には、傍に居ても不思議ではないらしい。

 もちろん努力を続けてきたからであって、怠けていれば即『なんでそんな男に!』ルートだったとゴッド幼馴染から言われている。

 

 そんな俺なわけだけど、ある時ある瞬間、親戚が離婚した、という話を耳にした。

 その時の感想を述べなさいと言われたら、『選ぶ選択肢、“好意の持続”極振りに方向転換してよろしいでしょうか』のみに限る。のみに限るって、ひどく限定されてそうだけど、まさしくなのだ。

 瞬間的に好きになってもらえても、その好感度が長く続かなければ意味がない。

 それに気づいてしまった俺は、よっぽどのことがない限り好感度の持続を選んだ。

 もちろん悩むこともあった。それはもう悩んだ。選ばない限り動かない世界の中で、「俺はー! 俺はよー!」と頭を抱えて悩みましたさ。

 

 あ、ちなみに止まった時の中では俺だけが動ける。

 

 もちろん都合のいい状況で選択肢が出た時に、目の前の女の子に向けてあげなことそげなことムヒョヒョヒョヒョなんてことは出来ないものの、動ける。その場からは動けないけど、まあ、足以外なら動かせるって程度。意味あんのかこれとは思ったものの、たとえば美織目掛けて野球の球が飛んできてる! コマンドどうする!? って時には、前傾姿勢になっておいて『全力で助ける!』を選択すると、選択肢が出る前の姿勢から一気にその前傾姿勢へと体が傾き、全力で助けに入れるわけだ。

 

 ……その際の体への負荷は、とんでもないものだと言っておく。

 

 肉離れを起こしたとかでもなく、ただただ激痛に襲われ、しかもその分類が絶対に筋肉痛になるというのだから、とりあえずそれを神に教えてもらってからはグルタミンとプロテインがお友達になりました。

 全然未熟なうちから新聞配達の仕事をさせてもらって、グルタミンとプロテイン買ってる奴なんて、ご近所じゃ俺以外居なかったよ。

 新聞も今じゃ取ってくれるところが少ないってんで、新聞配達もそんな給料上げられないっていうしね。

 

 けど続けたね。続けたんだよ俺は。

 小学から中学高校、高校に入ってからは新聞配達の仕事自体が無くなっちゃったけど、飲食業のバイトをしながら、出来る限り美織の傍で。

 産まれた時から歪だったらしい世界の中で、俺は美織と、美織は俺とともに居た。

 誰に言われるでもなく、俺が美織のことを大事な女の子だ、と思えたから。

 俺は好意を隠さなかったし、美織もそんな俺の好意を真っ直ぐに受け止めてくれた。

 それは嬉しかったんだけど、素直に心から喜べない理由もあったりした。

 めんどくせぇなぁとか思わないでほしい。その言葉は幼馴染の神にこそ言ってくれ。

 なにせこの神ときたら、

 

『まだまだ子供なあなたに長々と幼馴染について熱く語ってしまったお詫びに、とてもとても素晴らしい能力を授けましょう。ええ、ええ、知ってますよ? 転生転移を司る神や天使に対する人々の期待などの話も、当然この神は学んでいますとも。……あれでしょう? あなたがたはえーと……ニコポ? なでポ? という能力が好きなのでしょう?』

 

 当時本当にクソガキャアであった俺が、その意味を知るのは相当後のことであるが。

 この神、やべぇくらいに頭ン中が過去の神だった。

 今時ニコポってお前……撫でポってお前……。

 

『当然効果は幼馴染にのみです。わたしの直属の部下に能力付加を任せましたので、存分に幼馴染との絆を深めなさい。……ところでわたしを尊敬しているとか常々言っていたその部下に、なんかすっごい白い目で見られたんですけど、理由分かったりします?』

「よくわかんないけど。かみさまがだれかを……そんけー? したことないなら、そのぶかのひとがしてた“め”のこともよくわかんないんだろ? だったらその“め”もかみさまがしらないだけで、そんけーの“め”だったかもよ?」

『……! なるほど、これは一本取られました。確かに我々神は、誰かを尊敬する、ということはまずありません。崇められてナンボですからね。けれどこれでスッキリしました。お礼といってはなんですが、これから幼馴染道を歩むあなたにステキなプレゼントをしましょう』

 

 それで与えられたのが選択肢であった。好感度が上がったり下がったりします。

 ……ちなみに、部下に白い目で見られた、という部分で今だからこそ思う事といえばこの一言につきる。

 

  『いや、そりゃそうなるわ』

 

 お陰で今俺めっちゃ悩んでんだもん。

 幼馴染が俺に対して好意を隠さないのって、そのニコポと撫でポの所為なんじゃないかって、そりゃ思うでしょ。

 ええ、ええ、そりゃあ撫でてきましたよニコって笑んできましたよ幼馴染に対して。

 そのたびに「えへー♪」ってとろけた笑顔を向けてくる好きな女の子を、どうしてもう二度と見たくない、などと思えましょうか。

 ちなみに言うと、俺はその頃『ニコポ』の意味も『撫でポ』の意味もまったく知らんかったし、なんなら夢で神にそんな能力のことを言われたことなんて忘れていたんだよ。

 

 ……なんでって?

 選択肢のことで悩む時間のほうがよっぽど長かったんだよ……。

 

 かけっこの時に美織が転んでしまえば頭を撫でることだってあったし、いたいのいたいのとんでけーとかやったあとは、不安にさせないようにってニカッて笑うのだって自然としていた。

 それがいわゆるそのー……“ポ”に繋がるなんて思わないじゃないか。

 俺はただ美織が心配だから、泣いていてほしくないから自然と行動に出ていただけで、選択肢なんかなくたって不安や悲しみから守るのは当然だったし、頭も撫でるし微笑むことだってした。

 でもそれら全てが“幼馴染の神”のてのひらの中のことだったら、って思うとさ? ものすごーく虚しくなりませぬか?

 

 ニコポ撫でポという名と意味を知覚したのは親が見ていた相当前のWEB小説だったし、それを知った途端に「ア、アアーーーッ!」と無駄に肉チック*2に驚いたのも事実。

 知ってしまえば、大事な美織の感情を捻じ曲げる力、として心に重く圧し掛かったし、申し訳なくなってしまって距離を置きたくもなってしまって、そのくせ自分はやっぱり美織が好きで、大事で、自分が距離を取っているあいだに他の男子が美織に群がる様を見たら、キサマナニヤッテルカー! とか蹴散らしてやりたくもなった。しなかったけど。

 

 でもさ、そんなまごまごもやもやしてる時に、美織が男子どもの輪の間から俺を見て、「さとくんっ……!」って手を伸ばそうとしたんだよ。

 すぐに男子たちに「いいじゃんあいつなんか。最近蓼咲に冷たいしさー♪」なんて、子供特有の仲間外れにして輪から外しちまおう作戦によって埋もれちゃったんだけど。

 

 もちろんその時に選択肢なんて出なかった。

 俺は俺の意思で、美織の傍に居て、彼女を守ると誓った。

 

 中学の多感な頃。

 手の早いやつは女子と距離を置く~なんて行動よりも女子の傍に居ることを選び、仲良くなろうと手を伸ばすやつもちらほら居る中、そんなやつらが目をつけた、手を伸ばしかけていた美織の手を確かに掴み、引っ張り、抱き締め、「はぁ!?」と一斉に目を剥く男子どもを、逆に睨みつけてやった。

 その上で、美織の頭を撫で、美織には微笑みかけて安心をさせて。

 ニコポ? 撫でポ? 上等だ、ンなもんただのきっかけにしかならないってことを証明してやる。

 それだけしてりゃあ幼馴染は幸せになれるか? んなわけがない。

 じゃあそれが答えだ。

 美織は俺が幸せにする。

 微笑んでこいつが守れるか? 撫でるだけでこいつが守れるか? 出来るかアホ。

 

「ごめん、美織。俺、ちょっと考えすぎてた。その所為で距離とっちゃってたけど、また傍に居させてくれるか?」

「~……う、うんっ! うんっ!」

「……ありがとう。あと、やっぱりごめん。今までのことはしっかり謝らせてくれ。……というわけで、仲直りしたのでここぞとばかりに美織に色目使うやつらは解散してくれ」

「は、はぁ!? お前っ……最近あからさまにキョドって距離取ってたくせに、なに今さらっ……!」

「や、だから。それは俺達の問題であってお前は関係ないから。仲直りしたから。そういった理由についてはちゃんと二人きりで話し合うから」

「蓼咲さん!? こいつに言われて仕方なく~とかだったら言っていいんだぜ!? 俺、蓼咲さんの味方だからさぁ! こいつが怖い~とかだったら───」

「え? あ、うん。仲直りできたから、べつになにもしなくていいよ?」

「え‟っ……!?」

「お前いいやつだなぁ。美織の味方なら、美織の言うこと頭ごなしに否定したりしないよな?」

「ゔッ……!」

 

 そして解決した。

 美織の味方宣言した手前、それを否定出来なくなった彼は何事かを呟いたのち、「ちくしょー! 末永く幸せになってみやがれバッキャロー!」と言いながら走り去って、チャイムの音とともに顔を赤くしながらしずしずと戻ってきた。

 そんな彼が未来じゃ一番の親友だってんだから、世の中分からない。

 

 というわけで、放課後には仲直りタイムである。

 俺は自宅へ、美織は迷うことなく当然の如く俺の部屋へとついてきて、これまでの距離、今までの近さで、距離を取ってしまった理由を話した。

 ……え? 距離ってどんなって?

 あー……足を軽く伸ばして座った俺の足の間に、こう……ちょこんと横座りして、体を預けてくる感じ?

 “胡坐をかく”まではいってない、崩した俺の左膝の上に、体育座りの姿勢の足を跨らせる感じで、体は俺に傾けて、俺を見つめてきている……って言えば分かりやすいですか?

 そんな美織の頭を右手で引き寄せるようにして撫で、左手は美織の手と恋人つなぎ。

 こんな体勢で説明しなされといふ。おおあなたひどいひと。

 いや、やるけどさ。

 

 そんなこんなで説明会という名の仲直りタイムは始まり、“幼馴染の神”の話が出て来たわけだ。

 美織はぽかんとした顔をしてたけど、それは神様のお話、って部分で呆れていたわけではなく、純粋に驚きからくるものだったらしい。

 最初に幼馴染の神の説明をした時、俺達~とか複数形で説明を開始したよな。よーするに、俺だけじゃなかったのだ、幼馴染の神と会ってたのは。

 俺達はお互いに、この気持ちは神に与えられたものじゃない! って否定したくて、それらを共有することをしなかった、というわけだ。

 けれど事ここに居たり、俺達はそれらを共有、どういったことがあってどういう能力があったか……などを言ってみれば、

 

「え? うーん……さとくんの笑顔を見るのは好きだし、頭を撫でられるととっても嬉しいけど……べつにそれでさとくんにポッてきたりはしないよ?」

 

 などとおっしゃる。

 で、美織の方はといえば、神に『傍に居れば安らげる』という能力を授けられたそうなんだけど、そんなのは授けられる前からだったし、その力は俺も安らげるようになるらしいんだけど、確かに俺もそんなものは授けられる前からだった。

 それが分かると俺達は顔を見合わせて、ばかみたい、と笑い合った。

 笑い合って笑い合って、見つめ合って、キスをして、抱き締め合った。

 

「好きだよ、美織」

「うん。わたしも、さとくんのこと大好き」

 

 幼馴染の神様には随分と振り回された。

 けど、なんの過程も困難も疑問もないままに好きになりすぎていたら、折れる時はあっけなかったんじゃないか、とも思った。

 努力はしてきた。でも、子供ながらに“やらなきゃいけない!”がなければ途中で挫折や手抜きをしていたかもしれない。

 好きを言葉にしてきた。でも、“選ぶ”という行動が無ければ、いつかは言葉にしなくても分かる、と横着していたかもしれない。

 だから全部が全部悪いものだったわけじゃあない筈だ。

 

 ニコポ撫でポについては、部下の人が間違えたかなんかしたんじゃないかなぁってことで流すとして。*3

 

 しかし……傍に居ると安らぐって、案外“そういう効果”もあったり……するんだろうなぁ。

 俺、美織の傍に居て、愛でたい、愛したいって欲求で抱き締めたり、抱き締めたまま頭や背中を撫でたり、キスをしたりはあるけど……ムラムラしたことは一度たりともないんだよな……。

 や、思い出して、一部にストレッチパワーが集まってしまったことはある。

 なんなら抱き締め、キスして、美織がお花を摘みに離れた時なんか、離れた途端にズキュウウンってストレッチパワーが溢れ出んとしたこともある。

 

 未だに一緒に寝て、体の柔らかさとかいい匂いとかで満たされながら、彼女を抱き締めたまま目を覚ます、なんてことも片手じゃ数えられんほどしてきたけど、朝にご起立なさっていたこととかないんだよなぁ……。

 だから朝のご起立なんてウソだろ、とか思ってたのに、実際はあるらしい。

 うそだろ……?

 しかしそんな安らぎによって抑え込まれてきた結果なのか、我がジュニアはやたらとデッ…………いやこんな情報誰が喜ぶんだよ。

 ていうか、美織と一緒に居るとみなぎらないなら、将来的にお子を育むこととか不可能なのでは……?

 

「……………」

 

 健全! まあそんなことはその時に悩めばいいことだ。

 まだまだ学生のうちからそんなことを考えているようでは、ただの性欲魔人とか思われるかもだし、それが理由で嫌われるのも嫌だし。

 

  …………あ、その日のうちに幼馴染の神様が夢枕に立ったけど。

 

  責任取れる頃合いになったら抑え込まれてた欲が解放されるから、今は恋に愛にを楽しみなさいだって。

 

  欲の解放の量?

 

  抑え込まれてた分が一気にだって。

 

  まあ大丈夫だよね! 男子高校生が、好きすぎる異性と抱き締め合って寝るとか、毎日5ぶっちゅ以上とかくらいでそんなそんな!*4

 

 そんなわけで今日も俺と美織は愛を育んでおります。

 育んでおりますが……そういえば女性の方の性欲とかってどうなんだろう。

 俺もこうして美織を抱き締めてキスをして、って日々が当たり前になって、当たり前だけど嬉しくて幸せで、けれど健全なるお付き合いを続けてるわけだけど。

 美織は関係を進展させたい~とかは思わないのかなぁ、と。たまぁに思うわけで。

 もしかしたら美織は俺の行動を待っていて、裏では『さとくんって男らしくない……』とか思ってるとか……!?

 

「………」

「……わぁ、さとくんだー……おふぁよぅ……」

 

 もちゅ……とキスをし、離れたベッドの上。

 もはや親公認で、お互いのベッドが自分のベッドと思えるくらいに一緒に寝ている俺達だけど……あれ? そういえばベッドって普通、重量制限とかなかったっけ。

 90kg以上はやべぇとか書かれてるのを、母さんが見てたカタログで見た記憶が……?

 そんな中で男女がギシギシしてたらベッドさんの寿命が危険なのではあーりませんか?

 なんて思うも、宅のベッドは超頑丈。というか収納スペース一体型なので、重量で歪むような仕様にはなっていないようだ。おお技術大国。

 幼馴染の神に欲望の解放の説明をいただいた翌日。

 目覚めのキッスをすると、美織は幸せそうなとろけた笑顔を見せてくれる。

 その可愛さにたまらなくなって抱き締めると、美織も「ん~~~……♪」と、寝起きで力の入らない手を回し、きゅ~っと抱き着いてくる。

 ……いい。女性の性欲とか、美織がどう思ってるのかとか、いい。

 こんな娘が自分の婚約者であることだけで幸せだ。

 絶対に幸せにする。俺がするべきことなんてこれだけで十分だろう。

 と思ってたら選択肢。

 

1:押し倒す(好感度+10 持続+10)

 

2:強く強く抱きしめる(好感度+5 持続2)

 

3:愛を囁く(好感度+2 持続8)

 

 …………1の効力がやばいんですが。

 え? 押し倒したほうがいいの? ていうかもうほぼ押し倒してるんですが?

 そりゃお互い寝たままの状態で抱き締めてるだけだから、押し倒す~とは違うんだけど。

 あの、責任云々注意したばっかですよね女神様? ねぇ? ちょっと? 幼馴染ゴッドさん!? ねぇ!?

 ……アッ、それともただ押し倒す、という選択がいいってだけ? その後の行動は俺に任せると?

 ……や、まあ、押し倒して熱熱なチューをする、って手も……うん。

 

「………」

 

 選ばない限りは動かない。

 そんな中で幸せそうに俺に抱き着いている美織を、そんな押し倒すなんて───まあするんですが。 

 1を選ぶと体が動き、俺は美織が仰向けになるように動き、その上から彼女を見下ろす。

 

「わ……えと、さと……くん?」

「………」

 

 そして、立てていた腕を肘を折ることで距離を縮め、近づいた分だけもちろん密着。

 わ、わ、と戸惑っている美織にキスを落とし、その首筋にちう、と吸い付く。

 ……なお、これは選択肢込みになっていた行動なので、俺の意思がどうこうとか関係ありません助けて。

 でもその行動に俺の頭の奥が痺れるような感覚に襲われて、あ、やばい、興奮と幸福が合わさってスパークしてる、なんて素直な感想が出てきたあたりで、ぼしゅうとそんな興奮が消えた。

 美織の幼馴染スキルが働いたのだろう。

 そこで俺の身体に自由が戻ったので、俺は───

 

「ひゃあんっ!?」

 

 首筋に吸い付いたのち、傍にあった耳をはむりと唇で挟み、反射的に暴れた美織の身体をぎゅうっと抱き締めることで封じた。

 フハハハハ馬鹿め! ラノベ主人公らならばここで焦って離れるだろうが、俺は普通に続行する!

 あ、でもマイサンは落ち着いたままなので、性的興奮っていうよりは愛が暴走してる感じです。

 まあね、名前も悟ですし? 悟ってらっしゃるんですよ、菩薩の心っていうか。

 いえまあ幼馴染の神の言うところには、ただの責任問題回避のためらしいけど。

 責任取れるようになったら解放って、どんな感じなんだろうね……。

 

「というわけで、押し倒してみました」

「むーぅー……。えいっ」

「おひゃあおっ!?」

 

 首に抱き着かれ、耳をはむりと唇で挟まれ返された。

 そうなればこんにゃろ~と、じゃれるように抱き締め合ってごろごろして、きゃーきゃーと賑やかに騒ぐのが、まあ毎度といえば毎度のこと。

 それが終わればお互い交互に着替えて、うがいをして顔を洗って食事を歯磨きをして。

 そうして二人連れ立って、いってきま~すと玄関で言って、学校へ。

 その道中、手を繋いだり腕を組んだり腕に抱き着いてきたり。

 てか撫でポのこととかあったけど、今じゃ夜にしかなでなでとか出来ない、というかしない。女性の髪はセットが大変なのだ。当然ぽやぽやさんな美織だって、髪の毛のお手入れには時間の重きを置く。

 いわく、「さとくんの婚約者さんがぼさぼさ髪だなんてわたしが嫌だからね」とのこと。俺の運動にも参加するし、筋トレにも付き合ってくれる。

 そのお陰か余分な脂肪はなく、そのくせお胸はおっきいのに垂れないご立派おっぱい。

 小学四年の時、「さとくんはおっぱいおっきい子の方が好き?」とか訊かれた時は時が止まった。てか実際止まってた。選択肢さんが現れたから。

 なお、俺は迷わず好きを選んだ。むしろおっきいからって垂れるのはもったいない、と素直に告白した。

 え? その時の選択肢の加算ポイント?

 

1:好き(好感度+4 持続+5)

 

2:嫌い(好感度-1 持続ー2)

 

3:美織の胸ならどうだろうと好き(好感度-10 持続-10)

 

 結論:質問には答えよう。

 質問されてるのに質問の答えになってないことを言うと、男女関係なく友好度は下がるもんです。

 んなこた訊いてねぇんだよって話。

 ちなみにこの時美織は、女の子は恋をしていると胸が大きくなるって話を聞いていたらしく、俺のことがこんなに好きなのに小さいままでなんてきっといられない、なんて思ったからこその質問だったんだとか。

 なので、1が最高。や、本能に従っただけだったんだけど。

 それから美織はかーさんと香織さんに相談して胸を育てる運動を始めた、というわけで。香織さんからは『罪な男ね~♪』と散々からかわれ、かーさんからは『あんたほんと美織ちゃんのこと大事にしなさいよ? 他の女にうつつなんぞぬかそうものなら、かーさんが直々に引導渡してくれるわよ?』などと言われた。子供ながらにおいなりさんがヒュッてなった。

 当時の俺にはその言葉の意味がよく分からず、ともかく俺はなにかの罪を背負った『罪な男』らしく、美織を大事にしないとかーさんに殺されると思って、美織の体作りを手伝い、自分も鍛えた。それが、今も続いてる感じ。

 

「あ、そういえば……なぁ美織」

「んん~……なぁにぃ? さとく~ん……」

「はいはいとろんとするな。美織は大学とかどうする? 俺はー……昔は喫茶店とか開いてみたいから経営の~……とか思ってたんだけどさ、今飲食業界地獄だっていうだろ? 特に喫茶店なんかは物価高騰のダメージがデカいとか聞いちゃってさぁ」

「あ、うん。わたしもそれ聞いた。むー……さとくんと喫茶店開くの、楽しみだったのに」

「え? 手伝ってくれる気だったのか?」

「え?」

「え?」

「…………さとくん。わたし、婚約者さんです。許嫁さんです。一蓮托生侍さんなのです」

「サムライは関係なくない?」

「それだけの覚悟があるってことですっ」

 

 むんっと胸を張られる。おっきな胸がゆさーり。うむ、ナイスおっぱい。

 

「わたし、さとくんとならどんな地獄だって……!」

「自ら地獄に飛び込むのは勇気じゃなく無謀です。ていうか喫茶店経営がただの地獄みたいに言うのやめなさい。儲けてるところはちゃんと儲けてるハズだから。きっと」

「うん、それは分かってるけど。あのね、さとくん。わたし、へたに豊かになって、さとくんと距離が出来ちゃうくらいなら、貧しくても一緒がいいよ?」

「へ? …………あー……忙しすぎて一緒に居られないとか、豊かになったからって無駄にデケェ家建てて、部屋が別々になってーとかか」

「うん。わたし、ああいうのやだなって思う。あっ、あとあと……その。子供が出来て、さ? 育児に仕事に~って忙しさを免罪符に、一緒に居られないのもやだな……って」

「ん~……まあ、子供は作った時点で親の敗北決まってるようなもんだしなぁ。正直それは俺達みたいな学生が悩むことじゃないし、だからこそそんな行為はするべきじゃないってのもあるよな」

「うんっ、さとくんが責任感いっぱいなのは、わたしがわたしの身をもってしょーめー出来てるしっ」

 

 いやお前あれらの行動全部わざとかーい。

 ……ああいやうん、こいつのことだから幼馴染の神にそそのかされただけだな。

 

「あのね、さとくん。幼馴染の神様がね? さとくんが責任を果たせるようになったら、わたしはどんなさとくんでも受け止められる包容力を発揮できるようになるんだって。なんのことだろーね?」

「───」

 

 神様………………今すぐあなたを、ぶちのめしたい。

 幼馴染の恋を応援するのはいいけど、肉体関係を他人にとやかく言われる筋合いって絶対にないと思うんですがねぇ!?

 ……よし、決めたぞ。

 欲望の解放だかなんだか知らないけど、ようは俺が理性をもって責任を取れればいいんだ。その時までの男の欲望の一挙解放? ははははは、ねじ伏せてくれるわー!

 大体今日までキスはしたいと思っても、一緒に寝ても大事にしたいって思いしか浮かばないような俺が、美織を大切に出来ないわけがない。

 他の男子が皆、欲望のままにそうしようとする時でだって、俺だけは『冗談じゃねぇ! 俺は別行動させてもらうぜ! こんな部屋に居られるかっ!』ってな具合に逸れてみせますさ!*5

 

「ブシドーとは、死ぬことと見つけたり……! つまり美織さんは、さとくんと一緒に居るためなら死ぬほど覚悟キマっちゃってますってことなのだよ……!」

 

 いやそこでドヤ顔されても。

 頭……は撫でたらせっかくセットした髪が乱れるので、抱き締めて背中を撫でた。

 えへー、と美織は上機嫌だった。上機嫌ついでに、俺の肩に顎を乗っけながら、言った。

 

「さとくん? わたしはね、さとくんになら、せっかくセットした髪でも、乱されたいって思ってるよ?」

「乱しません」

「んふふー、でも最初、頭に手が伸びそうになってたよね?」

「なってたけど乱しません」

「……………」

「……………」

「……撫でてよぅ」

「撫でてほしいんかい」

 

 髪の流れに沿って、やさしく撫でる。

 すると、えへへへへへ~とアウトドアがツマミな人みたいな笑みが、彼女の口から漏れた。

 けどそろそろガッコ行かなきゃ行かんので、抱擁も解いて歩き出す。

 美織は髪を片手でくしくししつつ、「ぐしゃぐしゃ~ってしてくれてもよかったのに」とか言いつつ、顔はとろけてらっしゃる。

 

「で、大学の話だけど」

「将来的にはお家で仕事して仕事以外ではイチャイチャ出来る仕事がいいっ」

「───」

 

 ぽやぽやさんなのに欲望には忠実である。

 ……まあ、俺も仕事に関しては同じ意見だけど。

 リモートとかいいよね、上司からの仕事の押し付け~とかなさそう。

 てかそんなブラックなら、そもそもリモートなんて仕事の仕方すら選ばせてくれないか。おんなじ人間でどうしてこうも考えが違うかなぁって人、結構居るよなー……。

 

「じゃあ、そういう仕事を選ぶためにも勉強は頑張らないとだよな」

「だねー。……そういえばさとくん」

「んー?」

「えっと、運動をいっぱい頑張って、金メダル~とか取ったり取れなかったりしたアスリートさん? たちってそれが終わったあとはなにやってるんだろ。就職活動?」

「あ、それは俺も考えたことはあったな。やっぱりその経験を活かして、トレーナーとかやったりするんじゃないか?」

「そっかー」

 

 実際、調べたりしたわけじゃないからどうにも分からないけど。

 格闘家とかボクサーとかは自分の道場とかジムを持つ~って、漫画とかならあるある設定だ。実際がどうかは知らないけど、スモトリがちゃんこ屋を持つのと……似たような感じ?

 などと話しつつ、ガッコに着くと靴を履き替えて教室へ。

 教室に向かいながら、将来はどんな職業に~を話し合っていると、すぐに教室だ。

 

「おうおはようさんお二人さんっ!」

「おはよう元伸」

「おはよう、星井くん」

 

 入るなり挨拶してくれたのは、星井元信(ほしいもとのぶ)

 中学時代に俺と美織の仲をつついて、言い負かされ、走って教室から出て行ったと思ったらチャイムによって引き戻された彼だ。

 姓名の頭を取って、ホモと呼ぶと大変怒る。誰だって怒る。

 だからってホシイモって呼ぶととても怒る。そりゃあ怒る。

 元、をゲンと読んで、ゲンさんって呼ぶとなんかちょっと照れくさそうに返事する。

 将来は建築業でねじり鉢巻きとか頭に巻くようなことしたいんだそうだ。

 大工のゲンさんか。

 

 しかし気質って言えばいいのか、言ったことの撤回はしねぇ! と躍起になった彼は、見事に『美織の味方』を実行。

 そうこうしている内に結構趣味だの好きなものだのが合うことが判明し、たまに遊びに行ったりして、気づけば親友です。

 まあ、一緒に遊びに行く、のくだりで俺と美織のラヴラヴっぷりを間近で見せられ続け、もういい加減に美織への淡い期待とかも滅んだらしいけど。

 いわく、「あんなもん間近で見せられ続けて好きで居続けるヤツは馬鹿だ、よっぽどの馬鹿だ、てか頭イカレてる……」らしい。

 「あ、ていうかそもそも勘違いだバッキャロー。親しくもなかったのに好きとかはねぇだろ。気になる異性で、お前がキョドって距離置いてたから、なら俺がって近づいただけだ。それだきゃあ勘違いすんなよ?」とのこと。

 ということは末永く~のくだりは本音で良いと? と訊けば、「学生結婚って将来の離婚率がヤバイらしいから、頑張れとは言いたい。てか、そー簡単に折れんなよ?」と言われた。

 

 そりゃなー、学生こそ『好き』って気持ちだけで互いの将来を背負っちまうんだから、無収入のコゾーがなに言ってんだって話だ。

 できちゃった婚とかまさにそれ。

 ええ、ええ、幼馴染の神、なんて超常の存在に触れた時点で、それっぽい話は漁りましたよ。

 ツッコミどころ満載の将来に対する漠然とした不安感に駆られ、美織とも話し合った。

 当然だけど、結婚はしても子作りなんて先の先の話だ。

 

  学生結婚の先には試練しかない。

 

 それらを『好き』だけで乗り越えなくちゃいけない。

 なにせずっと今まで他人だった人と過ごすことになり、自分の好きなタイミングで出来ていたことを相手のペースに合わせながら、時には、いや、ほぼ我慢して、下手をすれば二度と出来ない可能性だってある。……あ、ゲームとかの話ね? 趣味とか。

 今まで出来ていたことが出来なくなる、って言うのは学生にとってはストレスだ。

 しかも相手に合わせなきゃならない。窮屈に感じることだろう。

 ……でも俺からしたら、というか、俺と美織からしたら、なんで? だった。

 なんでも一緒にやってきたし、趣味も合うし、好きなものも一緒。

 食べさせ合いっこなんていつものことだし、抱き締めることだって、食べてるものを口移し~なんてのも茶飯事。

 お前らそれでセッ……してないとかマジかよ……とは元伸の言葉だ。

 

「やあやあお二人さんおはよう!」

「え、っと。愛束さん、だよな。おはよう」

「恋愛ちゃん、おはよう」

「ぬっく……! 恋愛ちゃんはダメージが大きい……! あ、あのー、蓼咲さん? 出来れば恋愛って言うか、苗字で……あ、それかレンちゃんとかで!」

「らぶらぶちゃん?」

「へきゃああーっ!?」

 

 わざわざ挨拶に来てくれた愛束さんがとっても賑やか。

 元伸も戸惑うくらいに。

 そういえば恋と愛ってなんでどっちもラブなんだろうな。

 そして、「やめれ……らぶらぶちゃんはやめれ……!」と顔を赤くしている愛束さんは、元伸に「いや……ていうかお前ら知り合いだったのか」なんて言われてた。

 あれ? なんか親し気?

 

「あー、うん。言ってなかったか。俺とこいつ、従妹同士」

「ホモくんがこのガッコに居てくれて、わたしゃ大変助かってます」

「おいてめぇホモいうな、ラブラブのくせに」

「とまあこんな感じで、ホモとラブで羞恥を押し付けあってます。お互いにこいつよりはマシだ……っ! って本気で思うことで」

「はー……なるほど、イトコ……」

「ていうか星井くんも、『ほ』が苗字の頭になければホモくんにならないなら、レンちゃんと結婚しちゃえば解決するよ?」

「「結婚とかそういう関係じゃないから!!」」

 

 息ぴったりさんだ。

 

「ていうかさ、二人なら分かるだろが! 妥協で結婚とかしたくないんだよ!」

「そう! 恋愛結婚とかしたーいの! 人の結婚は『好き』でしか繋げないのに、その好きさえない結婚なんて絶望モンですことよ!? 我が名が泣きます! すこぶる激しく!」

「うーん……たとえばどんな恋愛がしたいの?」

「らぶらぶですなって言われたら、分かるかねって返せるくらいに、ラブラブってあだ名が誇らしく思えるくらいラブラブしたい!」

「自分で自分が信じられないくらいに恋ってものに溺れてみてぇ! 斜に構える暇がないくらいにさぁ! カッコつける自分なんて霞んじまうくらい、誰かに夢中になってみてぇ!」

「それをお互いで補ってみるとか───」

「「こいつが下なら考えなくもない! お前が下だ!!」」

「ああうん、こりゃダメだ」

 

 よくこういうさ? 同じことを同じタイミングで言うヤツを『ほ~ら息ピッタリ❤』とかからかう奴居るけど、馬鹿めと言って差し上げます。

 俺と美織も通って来た道だ、そのからかいや野次がどれほど当人達の気持ちを逆撫でするのか、てんで分かっちゃいない。

 あれね、言われると本気の本気の本気の本気の本気で殺意沸くからね?

 なにせそれを言い出す奴って、基本こっちの話なんざ聞かないタコばっかりだから。

 

「なぁ元伸さ。それ、本気で好き合った相手にまでやるつもりか?」

「や、こんな自分さえ霞んじまうくらいの恋がしたいの。俺、自分で自分の性格の悪さくらい知ってるつもりだから。……好き好んで誰かを見下したいわけないだろ? こうして言い合っても、いっつも帰りにゃ謝り合ってるよ。馬鹿なんだ、俺達。ガキだって自覚してんのに直せねぇ」

「そうなの? レンちゃん」

「うわ、あんたがそれ他人に言うなんて。よっぽど戌守くん気に入ってんだね」

「お互い腹割って喧嘩した。恥ずかしいことも情けないことも言い合った。今さら自分の恥ィ晒すことに、こいつに対しちゃ躊躇なんてねーよ。……あ~、そこだけに関しちゃ、蓼咲さんより親密かもなぁ俺」

「───」

 

 あ。美織がぷくりと頬膨らませた。

 

「さとくん。どんな恥晒したの」

「男と男の話だから、こればっかりは美織でもダーメ」

「むー! じゃあいーもん! レンちゃん! 女子トークしよ! そしてさとくんに嫉妬してもらうの!」

「いやいやみおりんや? こんな本人の目の前で嫉妬させるんだーなんて言って、嫉妬するわけ───」

おのれこのラブ女ァア……!! 俺の美織とよくもよくもォオ……!!

「がっつり嫉妬してらっしゃる!? ってか誰がラヴ女だオラァ!?」

「まぁ、ぶっふ! 気にすんなっぶ! 気にすんなよラブおぶっふ! おん……ぶっふ!」

「あんたも笑うんなら素直に笑いなさいよ!」

「ふぶぶふふはははははぼはぁーっはっはっはっはっは!!」

「笑うなぁああーっ!!」

 

 まあ、うん。騒ぐ二人を前に、頬を膨らませていた美織もいつの間にかぽかーんとした顔になっていて、ちらりと俺を見上げると、にこーと笑ってきた。

 ご期待通りに嫉妬してくれたことが嬉しかったらしい。

 そして、こういう男女がわやわやしている時は、他人がどーこー野次を入れるもんじゃない。俺達二人はそれを、家族にいじくられ、つつかれ、学んだ。

 だからこそ俺達は二人、互いに見つめ合って、呆れるように笑うのだ。

 

「ね。いつか、繋がるかな」

「邪魔するヤツが居なければ、かな。当然じゃなくなってから気づくパターンかもしれないし、元から本当に俺達が思うような関係じゃないのかもしれない。勝手に予測して押し付けるのは、周りがするようなことじゃないよなぁ」

「あはは、だねー。厄介なのは、後押しされなきゃあと一歩が踏み出せない時、かなぁ」

「あー……その場合は大人しく泣いとけってENDになると思う」

「……さとくんはさ、後悔とかしてない? 赤ちゃんの時にさ? わたしと会って、お互いに『この人だ!』って思ったこと」

「これっぽっちも。幼馴染の神にあーだこーだ言われることになったのは、そりゃあ悩みの種だったけどな。もうそれも種ごと掘り返して、『ちからのたね』にして食っちまった。だから頑張れる。俺は、神様の力に頼ることになったって、『そうしたいから選んだこと』でお前を幸せにする」

「……わたしも選択肢、欲しかったなー。だってさ、わたしがどんなことで喜ぶか、さとくんにはお見通しになっちゃってるってことだよね?」

「いや、案外こうだろうなって思ってたこととは真逆だったりして、驚かされてばっかだぞ」

「えー? うそだー。わたしそんな、好みとかバラバラだったりしないよ?」

 

 いや、お前はけっこー気分屋さんだ。自覚なさい。

 そうしてイトコ同士の二人が言い合いをやめるまでを眺めている内に、教師が入って来てイトコ劇場は終了。

 今日も始まる授業の中で、好きな人のために頑張る自分を思い描きながらも、苦笑して力を抜いた。

 『こうならなきゃいけない』は敵だ。

 なりたいものになる努力はそりゃあ必要だけど、『眉間に皺寄せた好きな人』を見ていたいわけじゃあないんだ。

 

 届きたい未来はある。でも、それは互いが怯えるくらいに全力を込めてまで、到らなきゃ許されないような世界じゃない。

 ふたりで寄り添う未来が貧しくても、隣で生きて、笑い合えたらそれで。

 それすらが難しい世の中なら、その時は二人笑って抱き合って朽ちていこう。

 互いのどちらかを犠牲に生きる道なんて必要ない。

 信号無視のトラックが片方を襲うのなら、突き飛ばさずに抱き合って死んでやろうじゃないか。

 

 その日の帰り道、夕暮れ眩しい帰路にて言ってみれば、美織は笑って『わたしもきっとそうするよ』と言った。

 恋人が片方をかばって死ぬのは美談だろうか。

 俺達の場合は、残された方が地獄だ。

 いっそ転生先で会おうぜぃ! なんて親指立てたいくらい。

 ……異世界転生なんかしたら、美織は聖女とかになるんだろうな。

 俺? 俺は……聖女様の使い魔の猫で、種類はロシアンブルー。転生したからって人であるとは限らんし。

 

「大学とか行ったらさ、お酒とか飲まされるのかなぁ」

「俺はサークルの空気が死のうが酒は断固断るぞ」

「えへへー、わたしも。さとくんの前以外で前後不覚~とか嫌だもん」

「…………なんか、美織はどれだけ飲んでも平気な気がする」

「え? そうなのかな。わたし、お酒に強そうに見える?」

「なんとなくだけど」

 

 そして俺は弱そう。というかウィスキーボンボンで眼ぇ回して爆睡した記憶がある。

 その時の美織は美味しそうにウィスキーボンボンを食べまくり、母である香織さんに悟くんの分が無くなっちゃうでしょ、と言われ、自分の口の中にある溶けたチョコを、口移しで俺に分け与えた。

 何を隠そう、ファーストキスである。……嘘である。

 ファーストはもっと小さい時に済ませた。

 親が見ていたドラマの真似をして、だった。

 かーさんが、「あら~❤」とうるさかったのを覚えてる。

 こういう時って娘の親は『キッサマァァア!』とか怒るもんだろうけど、潤二さんはむしろ「フフ……悟。うちの娘のファーストは安かねーぞ……絶対に幸せにしろよ。お前ならいい。だから、強い男になれ!」なんて全力で応援してきた。

 父さんは「悟がマッチョになったらどーすんだ」とか、いやそっちかい! って感じのツッコミをしてた。

 

「でも、大学かー……どんな大人になるんだろうね、わたしたち」

「ドス黒い悪意にさらされて、廃村寸前の人が少ない村に引っ越して、自給自足の生活をしてみるってのもいいかも」

「……真っ先に病気とかで苦労しそうだね」

「すまん俺も言っててすぐそっちが心配になった」

「じゃあ……二人で医師免許でも取りに行っちゃう? ……忙しすぎてイチャイチャ出来ないから却下だね」

「いや返事くらいさせなさいよ」

「さとくんはいちゃいちゃしたくないの?」

「する」

「悩まないんだ!?」

 

 したいではない、するのだ。

 でも確かに忙しすぎてはイチャイチャの幸福度も半減しようというもの。

 それはよろしくない。

 

「好きな時に休めて好きな時に仕事が出来る職種……うーん……。動画配信者になる~とか言ってるヤツは大体現実見て絶望してるしなぁ」

「バズったって一時のものだろうしね。面白いことして登録者数を増やそうとして、知らない内に焦って失敗して胃に穴が空く~とかありそうだよねー」

「美織だったら配信者やるとしたら、どんな配信をしたい?」

「えっと。お互いにね? 料理を作り合って、食べてもらうの。お料理配信~とかどうかな」

「それはその、カップルチャンネルを作るってことか?」

「違います」

「…………婚約者さんチャンネルか」

「……!」

 

 当ててくれたのが嬉しかったのか、ぺかーと輝かんばかりの笑顔をくれた。かわいい。

 でも俺が知ってるカップルチャンネルって、ほぼ漏れなく破局してる気が……。や、そんなことないなら全然いいんだけど。

 

「カップルチャンネルはなんだか別れる人が多いからね、フィアンセチャンネルならきっと大丈夫!」

 

 茶化されまくって野次飛ばされまくって嫌気が差す未来しか見えない。

 や、美織にじゃなくて、チャンネル自体に。

 容赦ないからなぁ……人。

 安全圏からどんな凶器だって投げつけてきなさるから、最初は愛してた人でも、どんどん影響されて曲がっていってしまう。

 人の心って弱いから。大勢の人につつかれると、すぐになにかを投げ出したくなるんだ。

 で、厄介なのが、野次飛ばす人、つつく人にはそれが凶器だって自覚がない。

 自分が原因でひとつの『好き』が千切れたって、カップルの所為にして笑うだけだ。

 そんなチャンネルを作るからだ~なんて言う人は居る。けど、喧嘩するように、別れるようにつつくのは話が違うと思うのだ。

 こと恋愛事に関して、面白いからで首を突っ込むのは本当におすすめしない。

 首突っ込んだ所為で二人が破局したとして、どうせ責任なんて取れやしないんだから。このくらいで別れるなんて~なんてどの口が言うんだって話だ。

 育み中の『好き』を、そんなヤツの好奇心でぶっ潰されるなんて本当に冗談じゃない。貴様、うぬがへし折った『好き』が、大事に育てれば『家族』を支える『好き』であることを理解した上で首を突っ込んだのであろうな……!?

 

「さとくん? なんか怖い顔してるよ?」

「イメチェンだ」

「こんな道端で急に!?」

 

 言って、某遊びの王様の城之内くんのように、顎を尖らせボンバイエフェイス。

 ちなみにボンバイエの語源は『やっちまえ!』や『殺せ!』なので、結構物騒であることを知っておこう。

 ……知らずに、燃える闘魂さんに『殺れ! 殺っちまえ!』って声援飛ばしてたって考えると、過去のプロレスって怖いよね…………。

 

「っと、今日は美織の部屋か」

「うんっ、ほらほらこっちこっち!」

 

 そうして家まで到着すると、美織に手を引っ張られてお隣さん家へ。

 玄関の扉を開いて言う言葉は、家でもお隣でもすっかりと「ただいま~」である。

 というかそうじゃないと香織さんとか潤二さんとか怒るし。

 

「鍵を開けた、ってことは今日は二人とも帰りが遅い日か」

「うん。だから、腕に縒りをかけましょう」

「ははっ、そだな」

 

 腕をまくるポーズを取る美織に、俺も笑って腕まくりポーズ。

 その際、なんとなく舌を出して自分の唇をぺろり、みたいなことをしてみると、「漫画とかで見るやつ!」と美織は笑った。

 あの舌、なんなんだろうね?

 疑問もそこそこに、手洗いとうがいを済ませて、部屋へ行って着替えると(どっちの家にもお互いの衣服がある)、いざお台所へと立って料理を開始する。

 俺の家も美織の家も、家に先に居た者が料理を作る、というお約束を守っている。

 何故って、仕事だろうと学校だろうと、終わったあとに料理があると嬉しいからだ。

 そして、俺も美織もお互いやその両親のために料理を作るのが好きだから。

 いい家族してると思う、俺達。

 

「リクエストとか、あったか?」

「ううん? シェフのお任せコースでお願い、だって」

「それリクエストでは?」

「なんでもいいはリクエストには数えません」

「なるほど」

 

 そりゃ確かに、と頷いて、早速調理を開始した。

 ……開始前にもう一度手は洗った。

 洗った上で、いちゃいちゃしながら料理を作った。

 出汁の味見であーんしたり、二人羽織チックに美織の後ろから包丁を二人で握ってキャベツの千切りしたりとか、鍋のお湯を温めてる間、二人で鼻歌奏でてくすくす笑ったりとか。

 そんな二人の時間に夢中になりすぎて、香織さんや潤二さんの帰宅に気づかず、ツッコまれてビクーンとなるまでがワンセットである。

 そんな日常。

 料理は好評で、口の中の甘さが溶かされる~♪ とか、今でもつつかれる。

 でも、まあ。

 昔から変わらず甘い関係で居られる確認にもなってるから、これはこれでいいのかもしれない。

*1
 イヌタデ。花言葉は『あなたの役に立ちたい』、『忍耐と強さ』、おまけに『ただれる』。

 この二人の場合、皮膚がただれる~とかではなく、男女関係がただれそう。

 お互いの役に立ちたいし、周囲に何を言われようと互いを思える忍耐と強さがある。

 ただし関係は、幼い頃にやさしく触れ合うようなキスをして、

 その直後に濃厚な初ぶっちゅ(キスというかぶっちゅ)をして、

 現在においても一日5ディープをするくらいにはただれている。

 なお、休日前は普通にお泊りして、10ディープでは終わらないくらいぶっちゅしている。

 ……ところで、子供はなんでキスのことをぶっちゅって呼んだんだろうなぁ……。

*2
 漫画キン肉マン。

 驚く時は、昔は「ゲーーーッ!」や「ゲェーーーッ!!」だったが、

 新シリーズからは、というかⅡ世の頃からかな?

 大体が「ア、アアーーーッ!!」や「アア~~~ッ!」とかになった。

 唸る時は当然「グムー」や「グ、グムム~~~ッ」や「グ、グウウ~~~ッ!」である。

 なお、倫敦の若大将! にてドロップアウトしたロビンマスクが超人に戻った際、

 一番最初に発した言葉が「グウウ~~~ッ!」である。何故? もっと他に言うことあるでしょうに。

 でも好き。

*3
 純粋に好き合っているので、もう常時“ポ”をしているのと似たようなもんです。

 それでさらにポをしろと申されるか。

 そりゃあとろけた顔になりますわ。ポ以上ですわ。なるほど納得。

 なお、持続の選択肢を選びまくられたお陰で、ポにより増幅された幸福感情が蓄積されまくり、いっそ麻薬めいた中毒性を帯びてらっしゃる。

 若くて未熟だけど、未熟だからこそ強い好意と執着心が増幅され、ぽやぽやさんながらも心は大好きで満たされている。 え? 病み? ヤンデレ? NOォ……幼馴染ゴッドは安っぽいヤンデレやハイライトが消えた御目眼(おめめ)がどぅわぃっきらいなので、ヤンデレ化は有り得ない。

「大体世の中さぁ、安易に病ませすぎなのよ。好きが大きすぎるとす~ぐ病ませるんだから。それ以外の選択肢、ないの? 本当に? 病ませない大きな愛とか見せてみなさいっての」

 とはゴッドの御言葉。

*4
なお将来的に、安心して身を預けていた幼馴染を超絶絶倫モンスターと化して襲うことになるのだが、それはまた別のお話。

*5
映画などで真っ先に死ぬ男の行動




なお翌日、このことを友人であるラブラブさんとホモくんに話したら、「「甘すぎて砂糖吐くわ!」」と言われた模様。

そんなわけで、『蓼添う戌も好き好き ~ホモを添えて~』でした。
タイトル思いつかなくて適当です。
蓼は美織で戌は悟、好き好きは恋愛ちゃんで、ホモは元伸くんです。
そんな四人の賑やかな日常を……という感じで書きたかったお話。
時間かければまだまだ書けそうですけど、とりあえずUP。
……ていうか分割した方がいいかなぁこれ。
無駄に3万3千文字とかあるし……。
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