凍傷気味のみかん箱   作:凍傷(ぜろくろ)

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 本日三話目。
 いきなりここへと辿り着いたのなら引き返すのじゃ……! 今ならまだ間に合う……!
 ……え? べつに間に合わなくてもいい? そ、そう……?


たとえばそんなエネルギーの集まる先3

 話はトントン拍子に進んだ。

 なんで? ってくらい、トントンと。

 なんなら翌日目が覚めたら蛇腔総合病院がブッ潰れてましたってくらい、トントンと。

 トップヒーローたちが一気に潜入、霊安室へ特攻を仕掛け、奥の奥にあった研究施設を破壊。

 ハイエンドにまで届きつつあった研究の全てを破壊し、首謀者殻木球大はショックのあまり気絶。そのまま逮捕。

 それはニュースにもなって、あの殻木先生が……と驚く人がたくさん居たそう。

 個性の複製品と呼べるものもたくさんあったらしく、それら全ては13号先生のブラックホールで確実に破棄されたそう。

 

「でも、なんだってそんなに張り切って? 正直、突入には時間がかかる~とか言われるかと思ってました」

「なんでってそりゃあ、なんでかエンデヴァーがやけに張り切っててね。『自分以外にも居たのなら』って、そりゃあもう有無も言わさぬ勢いだったよ」

「自分以外にも……?」

「居たのならだァ……?」

「知ってるよね? エンデヴァー。No.2ヒーローで、すっごい家族思いのスーパーヒーローさ! 彼の子供の溺愛っぷりはすごいぞぉ!? 特に長男の燈矢くんといったかな? 彼の写真を筆頭に、家族の写真を常に数枚懐に持っていて、仕事が終われば真っ先に家に帰るんだ。鉢合わせるたびに息子自慢をされてね、あれにはまいったよ、HAHAHAHAHA!」

「……かっちゃん」

「……あァ」

 

 ……轟くん、大丈夫かなぁ……。

 まさかエンデヴァーも記憶を持ってるとは思わなかったけど、それがいい方向に繋がってくれた。

 詳しいことは分からない。けど、たぶん、轟くんはお母さんに煮え湯を浴びせられることはないんだと思う。

 轟くんがどんな轟くんに成長するか分からないけど、それでも……幸せだったらいいなと思う。

 

「あ、あの。オールマイト? エンデヴァーはその、No.1ヒーローに固執したり、とかは───」

「彼が? No.1ヒーローに? HAHAHA、キミともあろうものがらしくないぞぉ緑谷少年! 彼は家族に格好いい自分を魅せたくて頑張っていたら、No.2になっていただけさ! 十分に活躍して子供たちの目に焼けつけたならとっととこんな仕事はやめて、家族と一緒にいるんだとか言ってるくらいさ。……え? もしかして、前とやらとは違うのかい?」

「……その。No.1に固執するあまり、いろいろとやらかしてたお方でして……」

「……なるほど。では彼も、と考えるべきか。だが今はこちらの話さ。キミたちのお陰で個性や人の遺体を悪用していた悪を退治することが出来た! 先の未来にどれほどの貢献が出来たかは、先を知らない私が胸を張れるわけでもないが、それでもだ。ありがとう。これで救われる人は、確実に居る!」

「そ、そんなっ! 僕らは出来ることをしたいと思っただけで───」

「その想いが、熱量が救ってくれた今だ。なにかを以って報いたい。なんでも言ってネ! 出来ないことは無理だけど!」

「なんでも!? オ、オールマイトにそんなっ、あっ、でも───」

「『なんでも』……って、言ったよなァ……?」

「かっちゃん!?」

 

 わたわたしていたら、かっちゃんがニヤァ……と笑い、身を乗り出すようにしてから立ち上がった。

 その謎の迫力に、HAHAHAとアメリカンスマイルを見せていたオールマイトも、ピタリと停止。ごくりんこと喉を鳴らすと、「お、オテヤワラカニネ?」とこぼす始末。

 うん、かっちゃん、怖いから。

 そんなかっちゃんだけど、スマホを取り出すとそのカバーについているカードホルダーからシュピッとラミネート加工されたカードを一枚取り出し、ラミネートに丁寧に切れ目を入れるとこれまた丁寧に剥いでから、キラッキラの最高保存状態のオールマイトキラカードを差し出した。

 

「……その。サイン、くンねぇか」

「!!」

「!!」

 

 そう! サイン! 僕も今、でものあとに言おうと思ってた!

 今回貰えてないんだサイン! 出遅れた所為でかつては入手できなかったオールマイトグッズは手に入れたけど、今回! そう今回! 前回はヘドロヴィランに襲われて気絶していた隙に書かれてたオールマイトサイン! あれ、貰えてない!

 

「いいとも……ああいいとも! あ、緑谷少年、サインペンとかあるかな? 今日私オフで来たからサインペン持ってなくて」

「持ってますどうぞ使ってください!」

「用意がいいネなんで持ってるの!? 私、どこかから持ってきてくれることを期待して言ったんだけど!?」

「いつ! ヒーローに会えるかわかりませんから!!」

「そ、そう……」

 

 戸惑いつつも、さらさら~と器用にカードにサインするオールマイト。

 けど、そこで待ったをかけるかっちゃん。

 

「待った。マークはいらねー。名前だけでいい」

「え? そうなのかい?」

「え!? そうなの!? ……あっ、そういえばキーホルダーについてたカードにもマークがなかったような……」

「オールマイトのマークはマッスルフォームのマークだろ。本当のアンタに貰うなら、マークは要らねぇ」

「………………なるほど。けど、いっつもマーク描いてるからなんかスッキリしないな。……そうだ! 裏に勝己くんへと書いていいかな!」

「……!」

「えぇえええっ!? 羨まへぶっ!?」

「だぁってろ出久……!」

「ええと、ばくごう、かつきくん、だったね。己に勝つ、って書く勝己でいいのかな?」

「………」

 

 こくりと、黙って頷くかっちゃん。

 それににっこり笑顔で頷いて、オールマイトはさらさらと文字を連ねた。

 そしてバーンと擬音が見えてきそうな勢いで「どうかな!」と見せ、かっちゃんにキラカードを渡した。

 表にはオールマイトのサイン。裏にはちゃんと、滑らかな書き方で『勝己くんへ!!』って書いてあってうわぁあああ羨ましいいぃいいっ!! 

 『ファンのみんな』じゃなくて、間違い無く『かっちゃんだけ』のために書かれたサイン! うわぁいいな! いいなぁ!!

 

「………………」

 

 それを受け取って、見下ろしたかっちゃんの笑顔ときたら。

 ……羨ましいッッ……!!

 

「あ、あの、僕も」

「サインだね! もちろんいいとも!」

「いいんですか!? あ、ま、待っててください! 僕もカードに!」

「いや。出久にはこのパチモンマイトに」

かっちゃん!?

 

 あぁあああそれお父さんが外国から僕へって送ってくれたパチモンマイト!

 やめて!? オールマイトすっごい困惑してるじゃない!

 パチモンだから部屋に置いておくのも、って居間に置いておいた───アアアアア!!

 僕だってお父さんがせっかく送ってくれたものだから、ってどう扱っていいか困ってるものなのに!

 それを渡されたオールマイトが、オゴォオオン……って絶望顔で口をあんぐり開けたまま、ギギギ……と僕を見てぁあああ違う! 違うんですオールマイトォオオ!!

 

「緑谷少年……こんな……あからさまなのに……」

「ちちち違うんですオールマイト! これ! 外国にいる僕の父が送ってくれたもので!」

「あっ! そっかー! 父君が! そ、そうだよね、こんな、あからさまなのに」

「で、でもお父さんの贈り物だからどうにもできなくて……」

「ああ……」

「はい……」

「………」

「………」

 

 そして空気が死んだ。

 どうすんの。どうすんのこの空気。かっちゃん!? ちょっとかっちゃん!?

 でもとりあえずカードへのサインはかっちゃんが嫌がってそうなので、苦労して手に入れたオールマイトブックにサインしてもらった。

 出久くんへ、って書いてもらいたかったけど、かっちゃんから殺気が溢れ出てきてて……!

 

「お前はオールマイトから特別なもん、もう貰っとるだろが!」

「!!」

 

 そっち!? そっちなの!?

 あ、でも……そっか。僕だってあんなにかっちゃんが羨ましいって思ったんだ。

 きっとかっちゃんも、ずっとこんな気持ちで……。

 羨ましい……! でも、今は飲み込もう! そう、だって、オールマイトはみんなのオールマイトだもの! ……そのオールマイトが、かっちゃんだけのためのサインを書いたことが羨ましいんだけれども!

 

「はは……こんなもので喜んでもらえるなら、どんとこいだよ。それに、殻木球大の連なりから、そういった研究、資金援助などの行動に関係する者達も逮捕することが出来た。このことから、随分と敵の勢力も削れたものと思う」

「……その。その中に、死柄木弔、という人物は居ましたか?」

「先日の話に出てきた、オール・フォー・ワンが育てたという少年だね? いや。どころか、志村転弧という少年のことも出てきていない。……詳しく言うなら、存在はしていた。ただ、彼が住んでいた家が崩壊したのに合わせ、その少年は行方不明になったそうだ」

「そんな……」

「聞けばお師匠の孫だという。私も調べてはみたのだが、見つけられていなくてね」

「……かっちゃん」

「探して一日でどーこーなるもんでもねーだろ。それよか出久」

「……うん」

「うん? なにかあるのかい?」

「その。殻木球大に、お孫さんが居た筈なんですが……」

「孫……」

 

 訊ねてみれば、オールマイトは目を閉じ、息を吐いた。

 

「言ってはなんだが。霊安室の奥の研究施設に、『生きた人間』は居なかったよ。皆、異形のものとなったか、個性を抜き取られた遺体があるだけだった。名前と個性を纏めた資料と、どの遺体をどう組み合わせれば個性の定着が安定するか、などといった吐き気を催すほどの最悪の研究資料があるだけだった」

「そんな……あ、じゃあっ! 翼が出る個性を持った人はっ!」

「出久。もうやめとけ」

「でもっ!」

「答えなら前の時点で出てんだろ。この目で見た脳無でも、弱ってたとはいえオールマイトと渡り合ってやがった。その上がハイエンドってんなら、それら作るのにどんだけの期間が必要だ? ツバサの野郎がそうなるまで、どんだけかかったと思う?」

「あ………」

「個性抜き取られただけかもしんねぇ。個性にゃ意識が残ることもあるって話じゃねぇか。ラグドールも個性抜かれても死んだわけじゃなかったんだ、てめぇを襲った翼の脳無も、意識に引っ張られただけかもしれねぇだろうが」

「………」

「………」

 

 たぶんかっちゃんも分かってる。

 オール・フォー・ワンに心酔するようなヤツが。遺体を実験材料に使うような奴が。

 傍にある人間をそういったものに利用せずにいるだろうか。

 

「~……っ!」

 

 ぱん、と両の頬を叩いて、今は忘れることにする。

 考えたって無事が確認できるわけじゃない。

 だったら、今はせめて……その個性を持つ脳無が人を襲うことがなかったことだけ、良かった、と思うことにしよう。

 

「すぅ……はぁ……───ん。すいません、オールマイト。話の続きを」

「ふむ? まだなにかあるのかい?」

「はい。今度の話はヴィランのことになります」

 

 そう、話ならある。

 殻木球大を押さえたなら、脳無のことはこれである程度止められる。

 完成してしまった脳無が居るかは分からないけれど。

 あとは……死穢八斎會と、リ・デストロのこと。

 僕自身のこととして、もう殻木球大に個性を調べられる心配がないことから、お母さんに個性があることを話してもいいと思う。

 前回は心配ばっかりかけたから、少しでも心配事やストレスを無くしてあげたいから。

 差し当たって、えーと……たゆまぬ努力をしていたら、ある日急に使えるようになった、とかどうだろう。

 オール・フォー・ワン関連で個性のことが知れ渡ることが無ければ、それで通せるとは思うんだけど。

 

……。

 

 翌日。死穢八斎會が壊滅していた。

 厳密に言えば消失弾方面の施設と、オーバーホール関連の組織が。

 早い……早いですオールマイト。

 

「で、この娘が保護した壊理ちゃん」

「話が早すぎる!!」

「デクさん!」

「って、えぇええっ!? なんで僕のことっ……えっ!? 壊理ちゃん!? もしかして記憶が!?」

「うん! 会わせてほしいって言ったら、連れてきてくれて!」

「わあ! 久しぶりだね! 元気───じゃないよねすぐに行けなくてごめんね!」

「あ、ううん、絶対に来てくれるって信じてたから! でも急にいろんなヒーローが雪崩れ込んできてびっくり!」

「オールマイト……どんな突撃したんですか」

「消失弾とやらに注意しながら迅速に! だネ!! 先手必勝で一瞬で仕留めてきたよ!」

 

 USJで、一瞬にしてチンピラヴィランを気絶させたあの頃を思い出した。

 うわぁ……オーバーホール使う暇もなかったんだろうなぁ……。

 

「デクさん! 私、これで自由になれたから、今からまた音楽、頑張りたい!」

「うん! 路上ライブ最高だった! 僕もまた聴きたいな!」

「うん!」

「うん!!」

 

 笑顔が弾けた。

 どんな方程式があるのかも、条件があるのかも分からないけれど、“前”を知る人は一定数居るようで。

 壊理ちゃんもその一人で、そして───

 

「あ、の。壊理ちゃん」

「うん、なに? デクさん」

「聞かなくてもいい、ちょっとした希望。言っていい?」

任せて!!

「まずは聞いてね!? 判断そこからでいいから! むしろ断ってくれた方が、自分が情けないだけだって納得出来るから!」

任せて!!

「だから聞いて!?」

 

 言っても、壊理ちゃんは鼻息荒く、僕のお願いを聞きたくてうずうずしてるみたいだった。

 ……そうなれば、僕ももう安心して言える。

 断られたほうが心の痞えも取れるってものだから。

 だから、僕はオールマイトにもかっちゃんにも聞こえないよう、彼女の耳に囁いた。

 

任せて!!

「だから断っていいんだってば!」

 

 言ってみれば張り切り、ととっとオールマイトに近寄って、にっこり笑う。

 オールマイトもにっこり笑うと、「ヤー!」と抱き着いてきた壊理ちゃんをおっと、と受け止めて───『巻き戻された』。

 

「えっ……えぇえっ!? これはっ……」

「おい出久、これっ……」

「……うん。未練、っていうか。ワン・フォー・オールを僕に継承させてない今なら、って」

 

 壊理ちゃんがぱっと離れて、僕に向けて「ぱわー!」とポーズを取って、ハッと笑った。

 その後ろには、ガイコツ状態じゃない……すっきりとした、けれどしっかりと肉のついた男性が。

 

「緑谷少年……この娘の個性って……」

「巻き戻し。角に蓄えた力で、触れた対象を過去の状態に戻すんです。元はコントロールも出来なかったハズなんですけど……」

「へへー、もう大丈夫。小さくなったって使い方はもう完璧だから」

「───フンッ!」

「わっ!?」

 

 オールマイトがマッスルフォームになる。そして、腹部をぺたぺたと触るけど、その笑みが陰る瞬間なんて一瞬たりともない。

 

「違和感もまるでない……すごいな、こんな個性があるなんて……!」

「すごい! 教頭先生、変身なんて出来たの!?」

「教頭!? エッ……私、教頭になるの!? 教師なんて初めてで、ドキドキしてる私が!? ププ、プレッシャ……!!」

「その格好でガタガタ震えんなや! No.1だろォがアンタは!」

「ごめんネ! なんかゴメンね!」

「………」(正確には、自分が失敗したあとのグラントリノが怖いんだろうなぁ……というやさしい目)

 

 でも、ともあれ。

 これで雄英に入る前に、大体の大きな部分は潰せたんだと思う。

 死穢八斎會と、あとは異能解放軍。

 敵連合……死柄木弔たちがどう出るかは分からない。

 ステインに触発されたのがきっかけだった筈だから、UPされるであろうあの動画が無ければ、そもそもそこまで広がらなかったんだ。 

 その先にはスピナーと死柄木との仲もないのかもしれないけれど、それでも。

 

「あっ……Iアイランドのことも、那歩島のことも、……あっ、ロディのこととかダークマイトとか……! アッ!

「……出久」

「……う、うん……かっちゃん……」

「黙っとること、全部教えろや」

「…………ハイ」

 

 言うことになりました。

 こうなったらもう一蓮托生だ、僕らは。

 ムキムキになったオールマイトの片腕に乗っけられて、二人してHAHAHAHAHAと笑う壊理ちゃんを見ながら、僕は静かにとほーと溜め息を吐いた。

 あ、ちなみに……全盛期のオールマイトにかかれば、異能解放軍とかリ・デストロとかは普通のヴィランと変わらないようだった。

 やっぱり翌日には壊滅していて、それに関わった全てが逮捕されることとなった。

 ……マッハ10で移動出来ることを考えれば、それにぶつかっただけでも人身事故引き起こせる身体能力だもんなぁ、オールマイト。

 




 壊理ちゃんによるオールマイト復活劇。
 誰もが一度は考えたんじゃないかなぁとか。
 あと黒霧を巻き戻して白雲さんに戻すとか。
 ……戻したら死んでしまうのだろうか。
 なお、記憶を持ったまま戻った影響で、たまった個性の力が角の見た目の数倍は蓄積されておりました理論。
 というか。
 個性因子を巻き戻して個性のない状態にまでにするって、5年巻き戻すよりもよっぽど大変ですよね……と思った瞬間から書きたくなった内容。
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